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猫サーカスさん
平均点: 6.19点 書評数: 419件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.259 8点 卵をめぐる祖父の戦争- デイヴィッド・ベニオフ 2021/03/16 19:02
舞台は、ナチスドイツに包囲され、すさまじい飢えと寒さに苦しむレニングラード。17歳のレフは死んだ敵兵から盗みを働いた罰として、1ダースの卵を調達するように命じられた。相棒は青年兵コーリャ。2人は文学について女について、とめどもなくしゃべりながら、命がけで任務を遂行しようとする。彼らのユーモアとペーソス漂う饒舌な会話が素晴らしい。緊迫した時世に卵探しというのは滑稽だが、人肉売買、敵軍の将校の慰み者になっている少女たちなど、エピソードには戦争の悲惨さが生々しく投影されている。だが2人の丁々発止の会話のおかげで、作品のトーンは暗くない。忘れがたい冒険青春小説。

No.258 5点 聖なる怪物たち- 河原れん 2021/03/16 19:02
人々の黒い思惑が複雑に絡み合って出来上がった事件をめぐる医療サスペンス。赤字経営、急患対応、医療ミスなど現代の病院におけるさまざまな問題を背景にしながら、作者はあまりにおぞましい事件を驚愕のミステリとして仕上げた。ここに描かれているのは、単に医療の現場だけの問題にとどまらない。誰もが自分かわいさのあまり過ちを犯すばかりか、巧妙に隠蔽し、その連鎖がさらに最悪の事態を招きよせてしまう。心理の負の一面の題材にした、極めて不気味で身につまされる物語。怪物とは私たち自身かもしれない。

No.257 5点 サロメ後継- 早瀬乱 2021/03/02 18:48
人から人へと伝わっていく欲望と人間の弱さから生まれる自傷行為にまつわる奇妙で恐ろしいミステリ。東京多摩地区の、とある産業会館の講習室で手首が発見された。小さな箱に入った指のない左手だった。捜査を担当した刑事は、部屋を使用していた「約束の地」という服飾雑貨会社を訪ねた。やがて、事件に関わった人たちが次々に謎の死を遂げて行ったり失踪したりしていく。事件の背後には、リストカットを繰り返す女性たちがおり、さらにはオスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」を演じる団体と心に病を抱えた人たちの存在が浮かび上がってくる。弱さゆえに欲望から逃れられず、いつまでも自分自身を傷つけてしまう者たち...。探偵小説としての展開もさることながら、全体に異様な感覚が漂っている。予断を許さないミステリアスな話で、しかもホラーなのだ。切断された手首の捜査をしていた井出川刑事が主人公かと思えば、その刑事は第一章で消えてしまう。第二章以降に登場するのは、井出川刑事の息子や娘。だが彼らもやがて物語の舞台から消えていく。一体どこへ着地するのか、その興味で最後まで読ませる。

No.256 4点 月と陽炎- 三咲光郎 2021/03/02 18:48
13歳の康平はある時、中年の男と8歳の少女を殺し死体をバラバラにして処分した。それから十数年は、最新の更生プログラムのもと、康平はある町のコンビニで働くようになる。そのころ町では女性の失踪が多発していた...。この作品、前半は康平の今を取材しようとする女性記者が登場するなど、ごく普通の犯罪ミステリに思えるが、後半になり一転する。破綻と言っていいほど破天荒なストーリーが進行していくのだ。なんと町がテロリストにより破壊され、それに国際的な民間警備組織が立ち向かう、一種の軍事アクション小説へと変貌する。当たり前のように虐殺が起こり、国家レベルの異常な計画や個人的な陰謀が明らかになってくる。しかし妙な面白さを生み出しているのは、そんな現実離れした展開あればこそ。特異な問題作といえるサスペンス。

No.255 6点 闇に濁る淵から- レニー・エアース 2021/02/15 18:01
イギリス南東部ののどかな美しい村で、少女がレイプされ死体となって発見された。第一発見者のマッデンは、かつてロンドン警視庁の敏腕警部補だったが、女医ヘレンと再婚したのをきっかけに職を辞し、現在は農業主をしていた。マッデンを優秀な捜査官たらしめているのは「自分たちが拝命している職業はただの手間仕事ではない、気遣い、思いやることなのだ」という信念だった。マッデンは警察の捜査の傍らから見守り、緻密な推理を展開し有益な助言をする。やがて浮かび上がってきたのは意外な容疑者だった。スリリングな犯人との攻防も読ませるが、何よりも人間として奥行きのあるマッデンをはじめ、脇役にいたるまで魅力的な登場人物の造形が素晴らしい。とりわけマッデン夫妻の強い絆と愛情は胸を打つ。豊かな自然を舞台に、人間ドラマを堪能できた。

No.254 6点 市民ヴィンス- ジェス・ウォルター 2021/02/15 18:01
一人の男の再生の物語。小さな田舎町でドーナツ屋の店長をするヴィンスには、封印された暗い過去があった。ある犯罪事件に絡み捜査当局との取引に応じ、全く知らない町で別人として過去と対峙する決意をする。過去に何があろうとも、全てを捨てて違う名前で新しい人生をやり直すことが出来るのか。その問いが、ヴィンスの胸には常に渦巻いている。それが彼の煩悩の源であると同時に、ただ漫然と生きるのではなく、いかに自分らしく人生を送るか。そんなことを考えさせられる深い作品であった。

No.253 6点 あんじゅう 三島屋変調百物語事続- 宮部みゆき 2021/02/01 18:02
袋物を商う三島屋夫婦の姪「おちか」が、怖い話や不思議な話を聞く「三島屋変調百物語」の第二弾。といっても前作とのつながりはないので、本書から読み始めても楽しめる。ほぼすべての見聞きに南伸坊のかわいいイラストが掲載されていて、物語と挿絵をセットにしていた時代小説の伝統を復活させた趣向も嬉しい。自分を忘れた村人を恨む土地神「お早さん」にとりつかれた少年を救う方法を考える「逃げ水」や、男が怨念を込めた仏像が、桃源郷のような隠れ里を恐怖に包む「吼える仏」は、自然や霊魂を崇拝する素朴な信仰が、いつしか狂言へと転じる恐怖を活写しているので、カルトが生まれる原因や、宗教戦争がなくならない理由といった現代社会の闇ともリンクしているように思えた。また双子の孫を嫌う祖母の妄念が、その死後も平穏な家庭に暗い影を落とす「藪から千本」は、逃げ場のない家庭で、人間ならだれもが持っている負の感情が奇妙な現象を引き起こすので、恐怖がリアルに感じられるのではないだろうか。ただ因縁なる屋敷に住む人外のモノ「くろすけ」と老夫婦の交流を描く表題作「暗獣」や、脇役として物語のあちこちに顔を出す明るく無邪気な少年たちの活躍、そしてエピローグに用意された心温まる結末は、人と人とが信頼の絆で結ばれれば闇に打ち勝つことが出来るという強いメッセージとなっており、読後感は心地よい。

No.252 5点 汝、隣人を愛せよ- 福澤徹三 2021/02/01 18:02
半年前に購入した中古マンションの8階で妻と暮らす真壁昌平は、クリスマスイブの夜、「静かにしてください」とプリントされた手紙を受け取った。騒音クレームなのだろうが、宛名は無かった。だがその後、陰湿で悪質な嫌がらせが頻発していく。騒音問題、ゴミの不法投棄、凶悪なクレーマー、管理組合の紛糾。おそらくマンションの住人の多くが経験している隣人トラブルが、これでもかと登場する。それに伴い主人公自身も仕事と私生活で不運に見舞われてしまう。さらに、自殺者の幽霊らしき足音までが屋上から響く。現代人の恐怖を丸ごと盛り込んだ「他人事ではない」ホラーサスペンス。

No.251 6点 密やかな結晶- 小川洋子 2021/01/19 18:08
舞台は閉ざされた島。リボン、鈴、エメラルド、切手、香水、鳥...。何かが一種類ずつ消えていく。実体としてなくなるのではなく、人々の記憶から消滅するのだ。もしそれが手元にあれば、捨てたり燃やしたりしなければならない。消えたもののことを覚えている人たちがいる。彼らは秘密警察による「記憶狩り」で捕らえられ、連れ去られる。かくまう組織もあるが、秘密警察の力は圧倒的で、逃げ延びるのは難しい。島は不穏な空気に満ちている。父母を亡くし、一人で暮らす小説家の「わたし」は、フェリーの整備士だった旧知のおじいさんと助け合い、励まし合って生活をしている。担当編集者のR氏も記憶を失わない人だとわかる。「わたし」はおじいさんと力を合わせ、R氏を自宅の隠し部屋にかくまう。「わたし」とR氏の交流は密かに続く。やがて「小説」が消滅する日が来る。本が焼かれるが、それでも「わたし」は物語をつむごうとする。それは、声を失ったタイプライターの話だった。この作品は寓話的な小説である。そしてアンネ・フランクの「アンネの日記」も想起させる。ナチスの理不尽な迫害を逃れ、隠れ家で書き続けた日記は、記憶をつなぎとめ、時空をこえて未来へつながる営為だった。秘密警察に引きずられてゆく女性が叫ぶ。「物語の記憶は、誰にも消せないわ」。原稿用紙の束を前にしてR氏が言う。「ますめの一つ一つに言葉が存在しています。そして書いたのは君だ」結末を破滅と捉えるか、解放とみなすかは読者に委ねられる。そして記憶とは何か、物語は誰のために存在するのかという問いもまた、読者に残される。

No.250 6点 蜂の巣にキス- ジョナサン・キャロル 2021/01/19 18:08
主人公のベストセラー作家サムは、ひどいスランプに悩んでいたが、少年時代に美少女ポーリンの死体を発見したことを思い出す。そこで、その事件を題材にノンフィクションを書くことにした。だが取材を進めるにつれ、ポーリンの奔放な生き方、それに翻弄されていた男たちの姿が浮かび上がってきた。さらに今になって、事件の関係者の一人が殺され、獄中で自殺したポーリン殺しの犯人の父親にメッセージが届く。三度も結婚に失敗しているサム、サムと恋仲になるヴェロニカという謎めいた女性、息子の無実を信じている犯人の父親、亡くなったポーリン、全員が手に入らないものを必死に求め、一時はそれに成功したと錯覚する。だが残酷な真実に気づいた時、そこに待っているのは深い絶望。人間の切ない願いと愛と希望、そして、それが打ち砕かれた時の悲嘆と諦念を哀切に描き切っている。

No.249 5点 殺人図像学- マルコス・M・ビジャトーロ 2021/01/05 20:08
女性刑事ロミリアが活躍するシリーズ二作目。七年前、ロミリアの姉ケイティを惨殺した「ウィスパー」がまた現れた。凄惨な犯行現場には奇妙なメッセージが残され、犯人は警察を挑発し続ける。姉の敵を取るために警官になったロミリアは、復讐に燃え、猛然と捜査に取り組む。解説にも書かれているようにロミリアは火の玉のように熱い。激情に駆られ容疑者を殴りつけたり拳銃を向けたりする暴走も、なるほどと思わせる。しかし、全ては正義のため、殺された姉のため。さらに夫を亡くして一人で育てている幼い息子への愛のため。読者として胸がすく思いがした。また、奇妙な形でロミリアを助ける麻薬王テクン・ウマンが実に魅力的。彼とロミリアとの間には不思議な共感が存在し、追う者と追われる者のあいだの緊張がゆるむ瞬間が印象的。犯人が仕掛けた知的な罠を、ロミリアはガルシア・マルケスやダンテなどの文学的素養によって解き明かしていく。その謎解きの過程は大いに楽しめた。

No.248 4点 浅草色つき不良少年団- 祐光正 2021/01/05 20:08
大正から昭和のはじめごろまでの浅草を舞台にした五編が収録された連作集。戦前の浅草には、色の名前を付けた不良少年団が三つあり、その中の黄色団を率いていたのが、似顔絵ジョージこと神名火譲二。東京一の歓楽街・浅草をはじめ、東京各地で起きた怪事件を譲二少年が仲間ととともに解決していく。それぞれの短編で、占い師と双子、瓶詰少女など、怪奇や猟奇に満ちた事件が登場する。全体に説明過剰でやや物語が硬く読みづらいのが難だが、この時代や乱歩の世界が好きな方なら、興味深く読めるでしょう。

No.247 6点 ストーンサークルの殺人- M・W・クレイヴン 2020/12/20 12:14
イングランド北西部に位置するカンプリア州は湖水など豊かな自然に恵まれ、ストーンサークルが多く点在する。そのストーンサークルを舞台に同年齢層の男性を標的とした残虐な焼殺事件が次々に発生し、犯人は「イモレーション・マン」と呼ばれる。3番目の被害者の損壊した遺体に、不祥事で停職中の国家犯罪対策庁重大犯罪分析課の警官ワシントン・ポーの名前と「5」と思しき字が刻まれていることが判明した結果、ポーは処分を解かれ捜査に加わることになる。被害者の共通事項は一体何なのか、犯人の動機は何か、謎は簡単に解明されない。が、事件の背後に潜む果てしない闇は、地道な捜査により徐々に明らかになっていく。世間一般の常識を超えて、正義を求める欲求が強いポーは、上層部との摩擦が絶えない。そのため、時として窮地に陥るが、機転を利かせて状況を打開する。警察内部では敬遠される存在だが、物語の主人公としては魅力的。物語はほぼ一貫してポーの三人称現在進行形で書かれていることから、視点が固定し捜査の進行も頭に入りやすい。捜査手法は理に適っており、推論の過程にも無理がない。

No.246 7点 デッドライン- 建倉圭介 2020/12/20 12:14
これまで第二次世界大戦秘話を扱った歴史冒険小説はいくつも書かれている。特にケン・フォレット「針の目」や佐々木譲「エトロフ発緊急電」など、期日までに使命を果たさねばならない、いわゆるタイムリミットサスペンス型の長編に傑作が少なくない。この作品もまた同様の趣向による、壮大なスケールの冒険活劇といえる。一九四五年、日系二世のミノル・タガワは、大学で巨大な計算装置の開発計画に加わることになった。だが、やがて原子爆弾の完成が間近で、日本へ投下されるということを知る。そんな時、ミノルにスパイ容疑が持ち上がったばかりか、殺人犯として追われる立場になってしまう。ミノルは逃亡先でエリイという女性とともに日本への密航を企てる...。戦時下ゆえ、ありえない話かもしれないが、二人に迫る機器が臨場感たっぷりに描写され、生死すれすれの状態による道中が随所で展開されているため、フィクションであることを忘れて、ページを捲らずにいられなくなる。本作は、日系移民をはじめ理不尽な立場に置かれた人々が登場するなど、戦争冒険活劇にとどまらない内容を持った作品に仕上がっている。

No.245 6点 指差す標識の事例- イーアン・ペアーズ 2020/11/27 17:50
17世紀にイングランドといえば、多くの方にとってはイメージの湧きづらい舞台かも知れない。だが、そのなじみの薄さを、補って余りある読み応えを提供してくれている。革命から王政復古に至る動乱の時代を経たイングランド。ヴェネツィアからの来訪者コーラは、オックスフォードで大学講師が殺される事件に遭遇する。一見すると単純な殺人事件。だがその裏側には。物語は、書き手の異なる4編の手記で構成されている。コーラによる手記が終わると、それを読んだ別の人物による第2の手記が始まる。同じ事件が、異なる視点から、コーラの記さなかったことも含めて語られる。4人の語りに生じる矛盾、隠された秘密、それらが絡み合って思わぬ真相を浮かび上がらせる。それぞれに思惑を抱えた手記の筆者たちは、いわば「信用できない語り手」。たくらみに満ちた語りが紡ぎ出す、驚きに満ちた物語。現代の我々にとっては異世界と言ってもいい、17世紀イングランドの描写も読ませる。

No.244 5点 水上のパッサカリア- 海野碧 2020/11/13 18:11
大道寺勉は、高原の湖畔で三年ほど一緒に過ごした菜津を半年前に交通事故で失い、今は飼い犬とともに暮らしていた。ところがある日、勉の前に昔の仲間が現れた。しかも菜津の死は、単なる事故ではないというのだ。自動車整備士の主人公には、何か訳ありの過去があるらしい。そんな秘密がいくつも隠されたまま、話は進行していく。始末屋グループの登場やその背景など、いささか乱暴な設定を盛り込んだり、謎と意外性のための構成をとったりしながらも、それが陳腐な形に終わっていない。興奮するような活劇や劇的なサスペンスにやや乏しいうらみはあるが、湖畔の生活や女性と犬についての回想などが実に精緻に描かれているため、知らず知らずのうちに物語に引き込まれてしまう。

No.243 4点 警官倶楽部- 大倉崇裕 2020/11/13 18:01
警察オタクをめぐる犯罪エンターテインメント。全くの素人連中でありながら、主人公たちは制服警官の格好をしたり、警察に関する専門的な知識を生かしたりして、カルト教団の現金運搬車を襲撃し、借金の取り立てやと戦い、謎めいた誘拐騒動に立ち向かっていく。問答無用で次から次へと奇妙な事件が展開するばかりか、制服や警察手帳はもちろんのこと、盗聴、尾行、逮捕術などのテクニックから、果ては改造パトカーまで「超」のつく警察マニアならではのアイテムや特技が持ち出されていく。話はかなり乱暴に進行していくし、主人公をはじめとするキャラクターの個性や魅力がやや乏しく感じられるものの、何よりもその粗っぽさを凌駕する警察オタクぶりが読みどころ。細かいことを抜きにして、一気に読んで楽しむべき娯楽作品である。

No.242 6点 あの日、君は何をした- まさきとしか 2020/10/30 18:03
いびつな家族のありようが殺人事件の捜査の中で浮かび上がる。2004年、世間を騒がせた宇都宮女性連続殺人事件の容疑者が警察署のトイレから脱走し、3日後の未明、不審人物として警察の職務質問から逃れた男がトラックに衝突して死亡する。死んだのは容疑者と無関係の中学生水野大樹。この事件により母親のいづみの人生は一変する。それから15年後、若い女性が殺害され、重要参考人である不倫相手の百井辰彦が失踪する。捜査に当たる刑事の三ツ矢は二つの事件の関連性を見いだそうとする。二つの関連がわかるのは終盤になってからだが、パズルがかみあうと伏せられていたカードが一気にひっくり返されて、驚きの連続となる。刑事の三ツ矢をはじめ、主要人物がみな家族問題を抱えており、母親の狂気・妄執に焦点があわさって、物語は一段とねじれ、切実な響きを増すことになる。少年少女らの真の姿を見せつけるラストシーンも鋭く強烈。

No.241 5点 五年後に- 咲沢くれは 2020/10/30 18:02
第40回小説推理新人賞を受賞した表題作をタイトルにした作品集。教師の夫が女生徒の犯罪に巻き込まれる「五年後に」、帰宅しない息子を待つ老婦人と対話する「渡船場で」、末期がんの母親との思い出をたどる「眠るひと」、いじめ問題を見据える「教室の匂いのなかで」の4編が収録されている。いずれも異なる中学校教師を主人公にして、学校と生徒と教師自身の家族の問題を丁寧に解き明かしている。「小説は人の傷口を素手で触る仕事なんだと、改めて思った」(桜木紫乃選考委員)と評されたひそやかな悪意のせめぎ合いを捉える表題作もいいけれど、それ以上に優れているのが次の2作。複雑な家族関係に悩む生徒と自身の問題を温かくみつめる「渡船場で」と母親の思いがけない人生を目の当たりにして生きることの悲しみと喜びを切々と描き切った「眠るひと」。身近にいる家族の思いを救い上げて静かな感動を呼ぶ。ひときわ印象深い。

No.240 6点 当確への布石- 高山聖史 2020/10/14 18:12
大原奈津子は、女性学を専門とする准教授であると同時に、犯罪被害者を支援する活動家として世間に顔を知られていた。ある時、東京6区の衆院議員が辞職したため、その補選が行われることになり、奈津子は立候補を決意した。だが、すぐさま何者かの妨害工作を思える事件が起こった。奈津子は、さっそく元刑事の男に調査を依頼したのだが...。清廉で生真面目なヒロインが選挙にのぞむ実態を本作ではうまくフィクションに仕立てている。ここまで具体的なエピソードが盛り込まれた作品も久しぶりだ。選挙戦の一部始終が現実さながらに描かれているのである。そして勝敗の行方ばかりか、裏側の薄汚い陰謀やヒロイン自身の過去が絡むなどして、物語は重層的に展開していく。選挙戦をめぐる迫真のサスペンスとしてお薦め。

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