皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
人並由真さん |
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平均点: 6.33点 | 書評数: 2106件 |
No.1726 | 4点 | 明智卿死体検分- 小森収 | 2023/02/14 06:07 |
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(ネタバレなし)
ランドル・ギャレットの「ダーシー卿」シリーズの世界観を拝借し(ちゃんとダーシー卿当人の名前も、作中の実在人物として出て来る)、同シリーズの魔術法則を援用した「逆密室」という面白いことをやってるのはわかるのだが、文章が淡々としすぎ、外連味皆無で、提示される蠱惑的な(はずの)謎がまったく盛り上がらず、非常に退屈であった。 Twitterでは大方の人が本作を褒めていて、ただ一人「個人的にはただただ辛い読書だった」と言っているのが、ミステリレビュアーとしてよく名前を拝見する麻里邑圭人氏だけ。 評者としてはこの場で、二人目に「うん、王様は裸だ」と、言わせていただく。 あの「~傑作である」小森収の実作で、面白そうな趣向&設定だから、期待していたんだけどな。世の中、うまく行かないものである。 |
No.1725 | 5点 | 人面島- 中山七里 | 2023/02/13 07:29 |
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(ネタバレなし)
いわゆるヨコミゾものを、赤川次郎のルーティンワーク、レベルの作りで、仕上げた感じであった。 まさに「まぁ、楽しめた」なので、この評点で。 |
No.1724 | 8点 | やっと訪れた春に- 青山文平 | 2023/02/13 05:34 |
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(ネタバレなし)
19世紀の初め。橋倉藩は、本家の岩杉家と分家の田島岩杉家から交代で、代々の藩主を出してきた。それは分家出身の第四代目藩主、岩杉能登守重明による、英雄的な藩政改革の史実に始まる藩の伝統だった。だが現十一代当主で本家筋の昌綱、その後任藩主を田島岩杉家が辞退した。現在まで橋倉藩の近習目付(主君サイドからの目付役)は、藩がそのように藩主継承上での二系列体勢だったため、本家筋の長沢圭史と、分家筋の団藤匠が担当してきた。圭史と匠は盟友でともに67歳。藩主継承が一本化され、今後の藩の情勢もより良い方向に向かうだろうと期待を込めるが、そんななか、藩の要職にある人物が暗殺される。 Twitterとかで評判がいいので、ほほう? と思って読んでみたが、時代小説、フーダニット&ホワイダニットのパズラー、ハードボイルドミステリ、全部の面で良質な優秀作。 昨年2022年の国産ミステリの層の厚さというか、結構な豊作ぶりを、さらにまたこの一冊で、実感させられた。 評者は青山作品はまだ『遠縁の女』しか読んでないので、まさかこのヒトはこんなレベルのものを当たり前に書いてるのか!? といささかぶっとんだが、Amazonのレビューとかを覗くと、さすがにこれは著作の中でも、出来のいい方らしい。そうだろう、そうだろう。 正直、時代小説はやや苦手な方な評者だが、時代設定の中での必要な情報や知識は、送り手の方で饒舌にならない範囲で逐次、ちゃんと丁寧に説明してくれるので、スラスラ読める。なるほど、人気作家な訳だと改めて実感。 優秀作~傑作。 |
No.1723 | 8点 | 山狩- 笹本稜平 | 2023/02/12 09:17 |
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(ネタバレなし)
主人公たち(良い連中)VS悪党&汚職捜査官の構図があまりに図式的すぎるのはナンだが、タイトルの意味が(以下略)。 読み応えとしては、十分に面白かった。 ヒラリィ・ウォーみたいな「警察小説としての外連味」で語った、和製「シャーキーズ・マシーン」という感じ(実は、そっちの小説も映画もまだ未読で未視聴だが)。 お話の流れも、色んな意味で、スムーズに行きすぎちゃうようなとこもないではないが、それでもフツーに良作ではあると思う。 |
No.1722 | 7点 | 闇に堕ちる君をすくう僕の嘘- 斎藤千輪 | 2023/02/12 05:29 |
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(ネタバレなし)
東北出身の20歳の若者・鏡大輝は、世田谷のダリア専門店にバイトとして就職。その配達先の周辺で大輝は、謎めいた17歳の美少女、天原巫香に出会う。彼女は元、人気の子役俳優だったが、現在は周囲からなぜか「魔女」と呼ばれて、不登校の日々を送っていた。大輝と巫香の関係は、新たな展開を迎える。 2016年から活躍されていて、すでに著作も何冊かある(ミステリに限らないらしい)作者さんらしいが、本作は、まったくの一見で読んだ。2年前に同系列の青春ミステリ、同じ双葉文庫で「双葉文庫ルーキー賞」の大賞の2回目を受賞しており、それに続く作品(シリーズものではない)のようである。 じわじわと薄皮を少しずつ剥いでいくように、人間関係の綾を見せていく形質の作品。相当の筆力を感じさせる文章の効果もあって、3時間ほどで一気読みさせられた。 登場人物は多くない(モブキャラを数えても15人前後)が、ストーリー上の配置はかなり巧妙で、話作りのうまさを実感する(ひとりふたり、行動が極端なキャラクターがいるが、本作の場合、それが良い方の印象に転化するので、文句には当たらない)。 終盤、真実が判明してからの感慨は相応の手ごたえで、読後感は、まあ、とにかく、読んで良かった一冊、という感想が真っ先に来る。 広義のミステリで青春ミステリなのは確実だが、それと同時に、謎解きミステリの尺度でどーのこーの言わなくてもいいようなタイプの作品。 (悪口などではまったくなく、一時期の、文芸味の強いギャルゲーの、メインストリームのシナリオ、みたいな印象もある。) この作家には、今後もちょっと注目してみたい。 評点は8点に近い、この点数というところで。 |
No.1721 | 7点 | ブラックランド、ホワイトランド- H・C・ベイリー | 2023/02/11 07:17 |
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(ネタバレなし)
1930年代の英国。医学者でアマチュア名探偵のレジナルド(レジー)・フォーチュンはダーシャー州の友人で、アマチュア考古学者のデュドン将軍の屋敷を訪ねる。現地は肥沃な黒土と痩せた白い土地に二分される田舎で、かつて地球の太古に巨人族がいたという説を信奉する将軍は、近所の地層からその証拠となるという化石を発掘していた。だが医学者のフォーチュンは、そこにあるのが、およそ十年ほど前に死亡した、おそらく十代の男子の骨らしいと気がついた。 1937年の英国作品。 フォーチュン氏の長編、ようやっとの邦訳でバンザイである。 で、私事ながら、この二週間、クソ忙しくてほとんど何もミステリが読めなかったが、ようやく余裕ができたので、とびついてページをめくる。 会話の多い文章、そこまでサービスせんでも……と言いたくなるくらいに細かい、実に読みやすい章立て、矢継ぎ早にしかもかなりサプライズ感も豊かに続発する事件……と、リーダビリティは最強。 (名探偵のクライシス描写も、結構とんでもないネタで、ハラハラしつつ笑える。) いやー期待通りに、いや、ソレ以上にオモシロいね! とウハウハであったが、ラストというか終盤の解決、事件の決着部分でいささかズッコケた。 大山鳴動して鼠一匹とはこーゆーのを言うんだろうな、という印象で、しかも伏線などもあまり万全とは言えない。いい話っぽくまとめてある、小説的な仕上げはまあ悪くないが、5分の4までが頗る楽しめただけに、このクライマックスはガッカリ。 でもまあ、読んでるうちの大部分は楽しかったので、オマケしてこの評点で。 もう一、二冊くらい、本シリーズの長編作品は読んでみたいので、続けて発掘紹介は、ぜひよろしく。 (ところで、なんでAmazonのデータ登録が不順になるんだろ、これ? :2023年2月11日現在。) |
No.1720 | 7点 | アバドンの水晶- ドロシー・ボワーズ | 2023/01/31 09:32 |
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(ネタバレなし)
ふたたび世界大戦の影が迫りつつある1940年9月の英国。5年前に教師を辞めて今はアパート暮らし、そろそろ老人ホームに入ろうかと考えていた61歳の独身女性エマ・ベットニー(ベット)は、以前の自分の家庭教師時代の教え子で、年下の長年の友人であるグレイス・アラムから手紙をもらう。現在40歳のグレイスは教職生活を経て、地方で新興の学校を創設し、その校長となっており、エマを教師として迎えたいというものだった。何か訳ありと考えたエマは、迷った末にグレイスの学校に赴くが、その校舎兼寄宿舎は、以前は入院病棟だった施設だった。そして現在の学校には、施設が病院だった時代から現在に至るまで、住み慣れた場から転居したくないといって学校の宿舎に暮らし続ける二人の資産家の老女がいたが、エマはその片方が何者かから毒を呑まされているようだと聞かされる。 1941年の英国作品。バードウ(バルドー)警部シリーズの第四長編。 以前に読んだ『謎解きのスケッチ』はさほど面白いとは思えなかったが、これはなかなかイケる。 作者が明確に、執筆刊行当時での現代ゴシックロマンの線を狙っており、その辺のゾクゾク感が、これがいつどこでどのようにパズラーに転調するのだ? という期待のワクワク感とも相まって、かなりオモシロかった。 事件の真相はすこぶる大胆なもの。作中のリアルを考えるなら、犯罪としては結構リスキーだとは思うのだけれど、オハナシとしてのミステリ、謎解きフィクションとしてはギリギリ、アリだとも考える。 小説としてはとても、謎解きミステリとしてもなかなか、良作である。 この一冊で、ボワーズの評価がかなり格上げ。 同じ近い時代? の女流作家でいえば、評者が割と好きなエリザベス・デイリィくらいのクラスになったわ。 |
No.1719 | 7点 | 殲滅特区の静寂 警察庁怪獣捜査官- 大倉崇裕 | 2023/01/30 17:23 |
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(ネタバレなし)
1954年に日本に巨大怪獣が現れて以降、世界各地で人類をおびやかす怪獣の出現が繰り返される世界。怪獣対策を担当する日本の「怪獣省」、そのエリートで、初の女性の怪獣予報官(怪獣出現以降に、以前のデータや現在の状況などから、怪獣の進路や次の行動を予測する者)となって活躍する岩戸正美。彼女と同僚、関係行政官たちの怪獣との戦いは終わることがなかった。だがそんな中でも、怪獣の出現を機にあるいはその事実に関連し、人間の悪意は別のところで渦巻いていた。 巨大怪獣もの×新本格パズラーなどと本書の帯などで謳われ、評者のような怪獣ファンには垂涎ものの趣向で書かれた連作三本。作者は2005年の特撮テレビ『ウルトラマンマックス』の脚本を担当したこともある。なお怪獣ファンでなくとも「1954年」という文芸設定の意味のわかる人は多いと思うし、主人公の苗字が『ゴジラの逆襲』の二代目昭和ゴジラ、初代アンギラスの出現地、岩戸島にちなむのもニヤリ。 とはいえ内容がきっちり新本格パズラーによるのは全三話のうち、最初のものだけで、あとの二つは結構、方向が違う。個人的には大藪春彦の中編みたいな味わいだった第二話(表題作)が一番面白かった。 第三話は確実に初代ウルトラマンの某エピソードのリスペクト編であることが、評者のような怪獣ファンには登場人物のネーミングなどからもわかるが、どの話になるのかはネタバレになるので、ここでは言わない。 連作ミステリとしては6点。趣向でオマケして1点追加。 |
No.1718 | 6点 | グッドナイト- 折原一 | 2023/01/27 18:58 |
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(ネタバレなし)
60代の女性が管理人を務めている老朽アパート「メゾン・ソレイユ」。築50年ほどの3階建てのそのアパートには、人気ミステリ作家ながらめったに表に出ない「梅原優作」が、ひそかにどこかの部屋に住んでいるという風聞が流れていた。一方、入居者の中にはそれぞれの事情で不眠症の者も多く、そんな彼ら彼女らの悩みに、管理人はアパートの一角に住む、ある入居者を紹介する。 連載短編6本に書き下ろし1本を加えてまとめた全7話の連作集で、いつもながらの折原ワールド。 そういえば、今年(もう去年の新刊だが)もそろそろ折原作品を読みたいなぁとか、ふと思ってしまうようなファンになら、よろしいんじゃないかと。 7編の連作のうち、一定のお約束? を外しているものも出てくるのは、起伏をつけようと作者が思っているのか、あるいはその縛りが厳しかったのでゆるめたのか、その辺はよくわからない。 ともかく、おなじみの味の定食的には、それなりに楽しめました。 |
No.1717 | 5点 | ようこそウェストエンドの悲喜劇へ- パミラ・ブランチ | 2023/01/24 09:51 |
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(ネタバレなし)
1950年代のロンドンはウェスト・エンド。10年以上続いた総合雑誌「ユー」は販売部数がどんどん下落し、いまや廃刊の危機にあった。だがギリギリ現在の部数(実売部数5万部)を支えているのは、副編集長でコラムニスト、社内では「マダム」の綽名の中年夫人イーニッド・マーリーが担当する、人生相談コーナーの一定した人気だった。しかしそんなマーリーは3人目の夫に若い愛人が出来て自分を捨てたイライラ、さらに服用薬の効果から、狂言自殺めいたことをして、周りの注目を集めてやろう程度の軽い気持ちで、投身自殺の真似事をしかける。はたして彼女は実際に、弾みで? 会社の窓から転落。九死に一生を得たマーリーだが、背後に誰かの気配があったことから、ふたたび強い承認欲求が頭をもたげ、自分はどうも何者かに殺されかけたらしいのだと周囲に匂わせる。一方で、「ユー」編集部の編集長サミュエル(サム)・イーガンほかの主筆や編集の面々も、編集部内に人殺し(未遂)がいるらしいというスキャンダルが湧いた方が、物見遊山で「ユー」が売れるだろうという欲目から、マーリーの転落を殺人未遂事件に仕立てて、世間を沸かせようとする。 1958年の英国作品。 うーん……。こないだ読んだ同じ作者の『死体狂躁曲』同様、笑えるハズなんだけど笑えない。 でも前作より前半はまだマシで、特に、マーリーの人生相談コーナーの常連投稿者たちの一部が「あんたの人生相談の回答に従ったらうまくいかなかった」または「妙な回答やアドバイスをしやがって」と、逆恨み的に全国からワラワラ集まってくるとこなんか、それなりに楽しい。 とはいえ、仕事の関係でイッキ読みできず、あと100ページほど残したところで、いったん中断。翌日にまた読み始めたら、前日にはそこそこ感じていた楽しいテンションは、結局最後まで戻らなかった。まあ結局は、その程度の作品なのであろう。 なんというか、冷めた今の目で全体を俯瞰するなら、作者がやりたいことを盛り込み過ぎて、ギャグユーモアミステリでもっときちんと演出されるべきの筋運びの緩急が無さすぎる。 悪い意味で小さい山場が続き過ぎ、かえって全体が平板になってしまうのは『死体~』とやはり同様。 翻訳は意訳もそれなりにあり、あえて原文内の叙述の不整合も訳出時に整理してあるそうだが、とにかく本当に読みやすく文体のテンポも心地よい。 深町真理子の初期の翻訳書に出会った頃の、懐かしい種類の快感を感じた。 翻訳がこの人でなければ、たぶん全体の印象はもうちょっと悪くなっていたろう。 設定とキャラクター、趣向だけ言えば、絶対に楽しめる、好みの作品のハズなんだけどな。とどのつまりは、作者との相性が悪いのかもしれない。 三冊目の翻訳が出ても、たぶん次は二の足を踏むかも。 |
No.1716 | 8点 | 一瞬の敵- ロス・マクドナルド | 2023/01/22 08:52 |
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(ネタバレなし)
銀行のPR業務担当者キース・セバスチャンが、「私」こと私立探偵リュウ・アーチャーを呼び出し、仕事を依頼した。彼女の娘で17歳のサンディ(アレクサンドリア)が、行方不明らしい。サンディは、そのBFで前科がある19歳の若者デイヴィ・スパナーと一緒で、しかも父親セバスチャンの銃器を持ち出したようだ。サンディの部屋、そして訪ねたデイヴィのアパートの私室を調べたアーチャーは、若者たちが大それた事件を起こすかもしれない兆候を認め、その阻止に動くが。 1968年のアメリカ作品。アーチャーシリーズの長編第14作目。 大昔の少年時代に初訳の世界ミステリ全集版で一度読んでいる作品なのだが、内容については、読みごたえがあった、なんとなく面白かった、こと以外、その後、全く忘れていた。 今回は、数か月前にブックオフの100円棚で入手したHM文庫版(嬉しい事に、パンフや書店用のスリップまで残っている完本だった・笑)で、数十年ぶりに再読した。 アーチャーが、デイヴィの部屋で、十か条のタブーを見る場面だけは初読のときから覚えていたが、記憶に間違いなければ、世界ミステリ全集版からポケミスからこの文庫になるまでに、どこかの段階でさらに訳文は推敲されているようである(全集版では、タイトルの表意「一瞬の敵」についての叙述が、文庫版と違うように覚えている)。 小鷹信光のお別れ会で拝見したが、故人は自分の著作や訳書に刊行後によく赤字を入れ、再版や改版の際に逐次文章をデティルアップしていたので、これもそういう例の一つだったのであろう。 しかし本作の登場人物の人間関係のややこしさは、アーチャーシリーズの中でも屈指のハズで? たぶんジョン・L・ブリーンがパロディミステリ短編集『巨匠を笑え』の中で茶化したロスマク風というのは、正に本作のようなものを前提に揶揄したものだったのだろう。 (こんな複雑な内容、時間が経つにつれて細部やそれ以上、忘れてしまうのは、仕方がないよな?) ただしそれでツマらないとか、訳がわからない、ということは、この作品の場合、ほとんど無く、例によって自分の手で登場人物一覧を作り、さらに人物相関図を作成しながら読み進めていくと、その人物関係の入り組み具合そのものが、ホントーに、最高に、面白い! 正に円熟の境地。 その上でちょっと不満だったのは、アーチャーのこれまでのプロ探偵の経歴からすれば、事件の渦中にいて、自ずと想像できそうなポイントになかなか行き着かない部分があったりするコト。いや、あんた、前に似たよ……(以下略)。 とはいえ、舐めてかかると最後にかなりの大技、サプライズが用意されており、しかもそれはある程度は、読者の読みを(以下略)。 いや、ややこしさが破綻しないギリギリのところで寸止めし、その分、読み手をストーリーテリングの妙で良い意味で引き回す、これは確かに晩期の優秀作だ。さすがは本サイトで、現時点(このレビューが投稿される寸前の時点)で、平均点1位のロスマク作品だけのことはある。 ただまあ、(リフレインになるが)先に書いた、わかってもよさそうなハズのアーチャーの思考が意外に緩慢なこと、あと、メインゲストヒロインとアーチャーとの描写が今回の場合はいささか、なんだかなあ、なのがちょっとキズ(アーチャーと女性との異性関係って、出版社との契約かなんかで、必ずノルマとして入れなきゃならなかったのかね?)。 それでもお話そのものとミステリ的な興味では、再読ながらほぼ初読の気分で、十二分に面白かった。シリーズベストワンとするにはちょっと気が引けるが、五指には絶対に入る出来ではあろう。 ちなみに13章、文庫版で139ページのアーチャーの、あの思わせぶりなセリフ(別の人物への返答)。あれって、あの事件のことなんだよね? |
No.1715 | 8点 | 密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック - 鴨崎暖炉 | 2023/01/21 07:57 |
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(ネタバレなし)
まだ二十代前半ながら、日本有数の大企業の二代目社長として、一兆円近い資産を誇る女性・大富ヶ原蒼大依(おおとみがはら あおい)。大のミステリマニアである彼女は、かつてクイーン、カー、クリスティーと並ぶ黄金時代のミステリ作家が所有していた神奈川県周辺の島、満月島(今の呼称は「金網島」)の現オーナーであり、そこに各界の「探偵」を集めて数日間にわたる「密室トリックゲーム」を開催した。被害者の役はぬいぐるみの人形のはずだったが、そこで現実の密室殺人事件が続発する。 早くも登場のシリーズ第二弾。 惜しげもなく連発される密室トリックのうち、第●番目は、どこかで見たような気もしないでもないが、ちゃんと本作独自にアレンジがしてある。 乱歩の言う通り、改変もひとつの創意だというなら、題名の通りに七つのオリジナルトリックが登場。その中のいくつかには、爆笑しながら快哉を上げた。 そして……(中略)。 いや、前回もとても居心地の良い長編ミステリではあったが、今回はその心地よさに加えて、最後の最後で唸らされた。 持ち前のミステリ愛を良い意味での戯作(あくまで、これはホメ言葉)へと変換できるという意味で、この人はかなり傑出したセンスの主だと思う。 こんなレベルのものを、どこまでいつまで書けるかなあ、という思いだが、今のところ、しばらく期待しながら見守っていきたい。 |
No.1714 | 7点 | プレイボーイ・スパイ2- ハドリー・チェイス | 2023/01/20 16:06 |
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(ネタバレなし)
パリの市街で、若いブロンドの、そして記憶を失った美人が見つかる。女性のヒップには漢字らしい三文字の入墨があり、その情報にパリのCIAと駐留している米軍は騒然となる。というのもCIAは、新兵器を開発してるらしい中国のミサイル学者、豊厚公(フェン・ホー・クン)を監視していたが、同人には所有物には鍋でもヤカンでも愛馬でも、とにかく自分の名前を書き込む性癖があった。そして彼の元からは、スウェーデン人の美人の愛人が最近いなくなった、との情報が入っていたのだ。記憶喪失の美人が、豊の愛妾のエリカ・オルセンだと認定したパリCIAのジョン・ドーレイ支局長は、自分と不仲だが女の扱いに長けたフリーのスパイ、マーク・ガーランドを呼び、記憶のないエリカの前で、僕が君の夫だよ、と称して情報を聞き出す作戦を立案した。だがそんななか、エリカの身柄の価値を認めたソ連のスパイたち、そして彼女の口封じにかかる中国の暗殺チームも動き出していた。 1966年の英国作品。マーク・ガーランドシリーズの2冊目。 よくもまあ、これだけクダラナイ設定を考えられるものだと大いにホメたくなる作品。女の体に自分の所有サインを刻むヘンタイって、小林まことの『それいけ岩清水』(『1・2の三四郎』の外伝)か! お約束の展開、予期せぬヒネリ、ツッコミどころ、それらが全部満載で、それぞれの側面で楽しめる。007もので言えば、前作が原作初期だったのに対し、こっちは昭和後半の映画版のノリだ。とにかく全編の各所が、好調なときのチェイスらしい、サービス精神に満ちている。 大ネタはもちろん察しがつくが、その上でサプライズには独特の観念のソースがかかっており、終盤の見せ場までワクワク、とそのあとの余韻にもシミジミ。 60年代スパイもの黄金期の中で、オレならこんなものを書くぞという作者の意気込み? と、ほくそ笑みが、覗けるような佳作~秀作。 だからツッコミどころもまた、本作の場合お楽しみポイントだよ。 評点は、0.3点くらいオマケ。 |
No.1713 | 9点 | 真珠湾の冬- ジェイムズ・ケストレル | 2023/01/18 10:19 |
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(ネタバレなし)
最強のリーダビリティで語られた、20世紀前半を時代設定にした最高のロマン。 脳が痺れるくらい、面白かった、良かった、泣けた。 7~8年前にキングの『11/22/63』を数日掛けて読み終えた時の達成感と充足感を、わずか4時間で得られようとは。 (……と書いてたら、実際にそのキング当人が絶賛してるのな。まあ、頗る納得ではある。) 話のうねり、今どきこんな話やるのかよ! と(いい意味で)何回か叫びたくなった、あえて王道のドラマを綴る送り手の胆力、そして主人公の魅力に加えて、サブキャラクターたちの運用の鮮やかさ。 読んでる最中、一回か二回は、このサイトに参加してついに二冊目の、10点をつけたい作品に出合えたか! と思ったほどである。 現状で、昨年2022年の海外ミステリの、ダントツ・マイベストワン。 |
No.1712 | 6点 | 思い出列車が駆けぬけてゆく- 辻真先 | 2023/01/17 18:06 |
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(ネタバレなし)
大の旅行好きで鉄道マニアの作者の、これまで本になってなかった(または他の作家と組ませたアンソロジーにのみ収録だった?)鉄道や駅、路線からみの新旧の短編を12作集めた、とても嬉しい一冊。 こういうのが文庫で出ると、なんか得したような気分になる。 正直、ホビーとしての鉄道というジャンルには関心も知見も浅く薄い評者だが、それでも職人作家が幅広い裾野の受け手を相手にわかりやすくそして熱く語っているので、刹那的な感覚とはいえ、ほうほう……とそんな鉄道の話題や作品そのものに、それなり以上に引き込まれていく。 良かったのは、ホックの短編パズラーみたいな『お座敷列車殺人号』。 ある意味で、辻先生の一面をちょっと見直させていただいた『東京鐵道ホテル24号室』。 まさかの連城作品みたいな(特定の作品と似ているとかではなく、作風の話)『轢かれる』 の3本。 ほかの大方の作品も悪くない~それなりに楽しめた。 鉄道テーマに限らなければ、本になってない辻短編はまだ数冊分あるはずだそうで、その辺も書籍化してほしいが、まあ今回の本書の場合は、こういうワンテーマの上で、さらにバラエティに富んだ一冊だから楽しめた面もあるんだろうな、とは思う。 |
No.1711 | 7点 | ロンドン・アイの謎- シヴォーン・ダウド | 2023/01/17 17:21 |
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(ネタバレなし)
過分に生臭い叙述や煽情的な描写がないという意味で、確かにジュブナイルではあろうが、ほとんど普通の成人向け作品だとも思う。英国のこの種の作品の、進化というか、ある種の成熟めいたものを感じた。 伏線の回収を含めて全体的に丁寧な作りでホメるにやぶさかではないが、一方でそのあまりのソツの無さにどこか悪い意味で、実に優等生的な一冊、という感慨が生じてしまった。 十分に佳作以上、いやたぶん秀作認定してよいのだろうが、素直に賞賛しきれない、こんな自分にいささか(以下略)。 |
No.1710 | 6点 | 予感(ある日、どこかのだれかから電話が)- 清水杜氏彦 | 2023/01/14 16:02 |
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(ネタバレなし)
帯に書いてあるように、読者は ①ホテル勤めのハイティーンの読書少年ノアと、後輩の美人従業員ララ ②ある連絡を受け取った作家シイナ ③ある犯罪に関わった女性ジュン ……をそれぞれメインにした、3つの流れのストーリーに付き合うことになる。 大き目の級数の書体で、一段組で本文230ページ前後と、作品全体のボリュームは少ない。たぶん一冊の長編ミステリとして刊行できる最低クラスの短さだろう。 とはいえ、相応にテクニカルな作品ではある。 (一方でHORNETさんが先におっしゃるように、それなりのもの、さほど新奇なものではない、という面もあるが。) なんというか、ジジイの古参ミステリファンの正直な、少しややこしい気分で感想を言うなら、60年代後半のミステリマガジンに、編集部オススメでいきなり一挙掲載された原稿用紙換算200枚くらいの中編(今回の本作はもうちょっと長いが)で、未知の作家の未知の作品で、けっこう技巧的なものを読まされた感じ。その上で、それなりに面白かった、楽しかった、とは思う。 作品トータルの仕掛けもまあ悪くはないが、登場人物の名前をどのラインもカタカナ表記にしたことで、全体にある種の無国籍感が発生。 こういう作中作の場合、都筑の『三重露出』のように、ストーリーの片方あるいはどれかはコントラストで、きわめて地味で堅実な書き方、もう一方を派手にマンガチックに、という仕上げにしそうな感じだが、本作の場合は三つのストーリーの叙述が適度に差別化、適度にトータライズされているようで、その辺の演出がちょっと面白い効果を感じさせたりした。 小品の上、という歯応えの作品で、そんなに高得点はあげられないが、ちょっとミステリらしい楽しさは感じさせてくれた佳作~佳作の上。 |
No.1709 | 6点 | 寒い夏の殺人- 南川周三 | 2023/01/13 07:54 |
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(ネタバレなし)
その年の夏のある夜、一組の男女が密談を交わした。それから間もなく、500人以上の上流階級の人間や社会的な名士が集う社交クラブ「東京ソシアル・クラブ」の一員で、複数のマンション経営者の火野清三郎が、ホテルの一室で殺された。やがて第二、第三の、殺人事件の犠牲者がクラブの会員内から発生。警察の捜査陣は、毎回の犯行現場に謎の犯人が残したと思しき「M」の文字に注目するが、その意味はなおも未詳なままだった。そして更に連続殺人は継続していく。 半年ほど前のヤフオクで、全然知らない作家のまったく知らないミステリがそれなりの落札価格になっていた。 調べてみると作者は詩人、美術評論家として活躍した、東京家政大学の名誉教授だった御仁らしい(2007年にすでに他界)。 まったくフリの立場ながら、なんか興味がわいて、近所の図書館(うまい具合に蔵書があった)から借りてきて、読んでみる。 ちなみにこの人のほかの十数冊の著作は、学術系の評論、研究書ばっかりで、ミステリどころか小説はこれ一冊だけだったようだ。 目次にはいきなり「第一の殺人」から「第六の殺人」までの見出しが並び、これは退屈する暇はないと期待したが、正にその通り。260ページ二段組という紙幅のなかで、ハイペースに被害者が次々と殺されていく。 登場人物に、ザコキャラまで無駄にネーミングしてあるのはいかにもアマチュア作家っぽいが、文章そのものは平明で良い意味でさっぱり系。笹沢佐保の初期作品から水気を少し抜いた感じで、とても読みやすい。 殺人の被害者がみな同じ高級社交クラブの会員とはいえ、なぜ500人ものメンバーの中から選抜されるのか? 連続殺人の構造が何らかの法則性にあるのを期待させてミッシング・リンクものとしてなかなか面白い。 全体の5分の4くらいまでは、これは埋もれていた佳作~秀作か? 拾いものか?と、かなり期待させたが、最後の最後でズッコける。 ミッシング・リンクのネタそのものは、子供の思い付きレベルの延長でそこそこ面白いが、要はそれをやりたかった、受け手に読んでほしかっただけで、犯人の動機もその背後事情も、あまりにもベタすぎる。事件の真相が推理ではなく、関係者の告白でわかるってのもナンだし。あと、ちょっと、ある種の情報を出さないところもアンフェア気味かも。 トータルとしては佳作の手前くらいの出来だが、まあ途中までは、予期していた以上にゾクゾクさせてくれたのも事実。評点はこの位はあげておきましょう。 もし作者がもともとのミステリファンで、生涯に一冊くらい実作を書いてみたくなって、その上でこのレベルなら、確かにこの作品だけでやめておいたのは適切だったとは思う。いや、良い意味で、ではある。 |
No.1708 | 7点 | 白い闇の獣- 伊岡瞬 | 2023/01/12 06:40 |
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(ネタバレなし)
西暦2000年三月のその夜。昨日、若葉南小学校の卒業式を終えたばかりの少女、滝沢朋美が、父の俊彦を迎えに行ったまま姿を消した。やがて少女は無残な死体で見つかり、加害者の15歳の少年トリオは、少年法の厚い壁で、遺族の憤怒からも法の裁きからも免れる。そして4年後、19歳になったかつての加害者の若者たちが、一人ずつ死亡していく。 文庫オリジナルだが、作者あとがきでの述懐によると、以前に書き上げて仕舞っていた長編を、思う所があって陽の目を見させたらしい。先に同じく文春文庫から文庫オリジナルで出た伊岡作品『赤い砂』と、同じ経緯のようである(評者はまだ、その『赤い砂』は未読)。 題名の「ケダモノ」とは善性の欠片もない非行少年たちのこと。 少年法の陰の部分や矛盾によって悲しみや怒りに封をされる凶悪犯罪の被害者や遺族の無念は本作の大きなテーマのひとつである。 が、よくも悪くも伊岡作品の大半には<度外れた人間の心の闇>が主題として扱われているので、正直、今回はそういう題材(サイコパス非行少年の獣性)を語ったか、というような、冷めた部分も、評者のような受け手側にはあったりもる。 (もちろん、作中のリアルで凶行の犠牲になる少女の描写も、悲しみと怒りに精神を灼かれる遺族や関係者の叙述も読んでいて辛いものだが。) ミステリとしては後半~終盤で明らかになる「意外な犯人」の文芸設定にいささかブッとんだ。ここら辺は、テーマの社会性とかどうのこうのを全く別に、正にフィクション、オハナシという感じでハジけている。 あと、被害者の少女・朋美の元担任で主人公ヒロインの香織が気づく伏線の張り方にもちょっとニヤリとさせられた。 まとめるなら(秘蔵原稿の蔵出しとはいえ)、今回もいつもながらの「外道悪」を主題にした、おなじみの伊岡作品。その上でテーマがテーマだけに社会派度も高いが、一方でエンターテインメントのミステリにすることもちゃんと忘れていない、職人作家のお仕事。 なおご本人は、これはある意味で、これまでの作家生活の集大成的な作品とかおっしゃっているようだが、ファンの末席の一人からすれば、いや、ちょっとソレは違うでしょう、とも思う(汗・笑)。作者の著作の中では、中の中か上くらいでないの? |
No.1707 | 6点 | エキゾティック- カーター・ブラウン | 2023/01/11 16:37 |
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(ネタバレなし)
その夜、「おれ」ことパイン・シティ保安官事務所勤務のアル・ウィーラー警部は、自宅のアパートに雑誌の定期購読セールスに来たブロンドの若い娘といちゃつきかけていた。そこに上司のレズニック保安官から電話があり、射殺された男の死体がタクシーで保安官宅に届けられたと告げる。ウィーラーはレズニックからこれはお前の悪質な悪戯か? と疑われかかるが、身に覚えのないことで、そのまま、その殺人事件を捜査することになった。被害者の素性は、3年前に10万ドルを横領した嫌疑で逮捕、投獄され、いまは仮釈放になったばかりの中年男ダン・ランバート。奪われたままの10万ドルの行方は今も不明だが、ランバートは最後まで無実で冤罪だと主張していた。ウィーラーは捜査を開始するが、彼の前にはまたも美女と死体が続々と現れる。 1961年のクレジット作品。アル・ウィーラー警部の第20長編。 小林信彦の「地獄の読書録」やAmazonのレビューなどでは、割と好評のウィーラーものの一編。 被害者ランバートの娘コリーヌがすでに成人した美女で、女性用衣料品店を経営。おなじみのヒロイン、保安官秘書のアナベル・ジャクスンが「ブーティック」というのよ、と教えてくれる。邦訳が出た1967年当時としては、まだブティックというカタカナ言葉は確かに新鮮だったのだろう。翻訳は田中小実昌。 被害者ランバートは逮捕前は投資相談所を経営しており、そのパートナーだった男が、今はパーティ用のジョーク・グッズを輸入販売しているハミルトン・ハミルトンなる男。ネーミングは「87分署」のマイヤー・マイヤーのパロディか? ハミルトンの妻ゲイルの実家が資産家で、夫の元・共同経営者ランバートが横領したとされる金は彼女が立て替えて、横領の被害者に返したことになっている。 ハミルトンの冗談グッズというか大型アイテムで、スカートの女性がその上に乗ると強風が吹き出てパンティが丸見えになる装置が登場。リック・ホルマンものの『宇宙から来た女』でもあったネタだ。 あと、ウィーラーが出向いた私立探偵の事務所で、IBMの電子計算機が登場。ミステリの作中で、民間にこの装置が置かれていた描写としてはかなり早いのでは? と思う。 ミステリとしては、細かい伏線を回収。動機の方もちょっとクリスティーの諸作を思わせる印象で(こう書いてもネタバレにはならないと思うが)、なかなか面白い。 この作者の著作のなかでも丁寧で手堅い分、いつものはっちゃけた味とは微妙に違う感触もあるが、まあそれはそれで。 そーいえば、ウィーラーが悪漢に殴られて失神する場面があり、基本は一匹狼の遊軍捜査官としてハードボイルド私立探偵っぽい挙動の彼ながら、こういう描写は意外に珍しいハズ。 なおタイトル「エキゾティック(異国の情緒・味わいを持つさま。異国風)」は原題そのままだが、メインゲストヒロインのひとりコリーヌの洋品店の屋外の、店名を標記した文字の書体がそれっぽいということから。決して、出て来るお女性の容姿がどーのこーのの、タイトリングではない。 |