皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
人並由真さん |
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平均点: 6.35点 | 書評数: 2244件 |
No.4 | 6点 | カクテルパーティー- エリザベス・フェラーズ | 2016/05/23 17:09 |
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(ネタバレなし)ミス・マープル不在のセント・メアリー・ミードみたいな地方の村で、毒物による変死事件が発生。その現場にいた関係者、さらにはそれ以外の村の人々によって、事件の真実を巡る仮説が取り交わされるが…。
登場人物を絞り込みながらもきっちりと明快に配置し、地味ながら緩やかに楽しめる英国ミステリ…と思いきや、終盤で物語が劇的にドライブ! 良い意味で予想を裏切られた。 解説の横井司氏も書いている通り、××を随所に巧妙に組み込ませたプロットは良くできている。真相の大ネタは存外シンプルなものだがなかなか意表を突くものではあり、一読後、ある登場人物の行動についての叙述を改めて読み直すとニヤリ。 ホームランではないけれど、ファンの記憶に残る絶妙な二塁打か三塁打という感じの一冊ですな。 |
No.3 | 6点 | 二人のウィリング- ヘレン・マクロイ | 2016/05/22 11:01 |
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(ネタバレなし)ケレン味に富む導入部から始めていきなり毒殺事件が勃発。そのままニューヨーク市周辺の上流(一部中流?)家庭の面々の描き分けに進んでいく筆の流れは、実にうまい。リーダビリティは格別で、読書メモを取りながらも一晩で読み終えた。
最後に判明する事件の真相(犯人の正体とその動機)はバカミス…とまでは言わないにしても、大ファールすれすれという印象もある。が、例によってマクロイらしい丹念な、終盤での伏線の回収ぶりが全体の評価を上げている。厚みも手ごろで読みやすい一冊だが、人によっては怒るミステリファンもいるかもしれない。 ちなみにDr.渕上の翻訳はとても流麗だが、ひとつ気になったのは主要キャラのひとり、ツィンマー医師に対して、その肉親グレタを妹と訳して(日本訳の作中でそう設定して)あること。141ページ目でグレタは50過ぎ、192ページ目でツィンマーは46歳と記述があるんだから、グレタはツィンマーの姉だよね? 訳者もちくまの編集さんも気がつかなかったのかな。 |
No.2 | 5点 | ミステリ・ウィークエンド- パーシヴァル・ワイルド | 2016/05/21 14:31 |
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(ネタバレなし) 表題の長編は、舞台設定、事件の不可思議な推移、登場人物の巧妙な配置など、作者のミステリ分野への愛情は実感する。ただし犯人あての謎解きミステリとしては、伏線となる描写が丁寧(悪く言えばシンプル)な分、すぐ真相の見当がつく。あとタイトルになっている宿泊施設「サリー・イン」での趣向「ミステリ・ウィークエンド」が具体的にどんなイベントなのか未詳なのはどうかなぁ。そこらへんも含めて、いかにも習作という印象も強い。
併録の短編&ショートショート3本はいかにもおまけという感じだが『自由へ至る道』の、どことなくデイモン・ラニアンを思わせる内容は悪くなかった。 |
No.1 | 6点 | 奥の手の殺人- E・S・ガードナー | 2016/05/20 17:30 |
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(ネタバレなし)ガードナーが1937年に書いた長編で、全2冊のみに登場する冒険家青年テリイ・クレインのデビュー作です。
最近ペリイ・メイスンの旧作TVシリーズがDVDボックス化される動きがあり、これに触発されて、久々にガードナーを読んでみようかなと思い、蔵書の中から手に取った一冊でした(素直にメイスンものに手を出さないのはナンですが~笑~)。 7年ぶりに中国での冒険行から帰国したクレインが、古巣のサンフランシスコで殺人事件に遭遇。知己の人々や馴染みの中国人社会と関わりながら、殺人容疑をかけられたガールフレンドの窮地を救う、というのが大筋。 殺人の特色は、中国人が用いる特殊な武器「竹鉄砲」(腕に装着する竹筒の中から、強力なバネ仕掛けで矢を撃ち出す)が凶器に使われたこと。ポケミスの裏表紙でもこの点を特に強調しており、凶器の謎そのものがポイントの作品かという印象もありますが、実際にはそれほど重きが置かれません(重要な小道具にはなりますが)。 むしろ、クレインのガールフレンドである女流画家のレントン姉妹が描いた肖像画にからむアリバイの見せ方や、段々と判明してくる被害者周辺の悪人像などの方がミステリとして面白い。クレインとライバル的な関係になるベテラン刑事・マロイ警部の粘り強さも物語のテンションを随所で高め、全体のストーリーをテンポよく語っていくあたりはさすがガードナー、職人作家という感じです。 犯人当ての謎解きミステリとしてはそれなり以上の面白さですが、本書の狙いはガードナー自身が序文で書いているとおり、中国人とその文化の深遠さと好ましさを語ることにもあり、その点は確かに印象的です(クレインのもうひとりのガールフレレンドである中国人娘スー・ハーの終盤の行動など)。 D・B・ヒューズのガードナー伝を改めて読めば、当時のガードナーの中国への思いの丈なども理解が進むかもしれません。 |