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[ 本格/新本格 ] ヴァルプルギスの火祭 薔薇十字叢書/原作・京極夏彦 |
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三門鉄狼 | 出版月: 2015年10月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
講談社 2015年10月 |
No.2 | 6点 | メルカトル | 2017/12/07 22:00 |
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「面白ければ何でもアリなんです」とは本書に寄せた京極夏彦氏自身の言です。確かに面白いし、中禅寺秋彦、榎木津礼二郎、関口巽の孫たちが活躍するという時点で単なるパスティーシュから逸脱しているのも興味深いです。更に木場修斗という木場修太郎とは関係ないらしい刑事や青木刑事(多分名前だけ同じ)まで登場しますので、かつての『百鬼夜行シリーズ』のファンの方も納得だと思います。
本作の肝は『陰摩羅鬼の瑕』を土台にし、それを踏襲したうえでの「殺人事件」と本家からヒントを得た独創性のあるトリック、全篇を覆う由良家の異常性などです。 読んでいて何となく違和感を覚えるのは、そうした一連の流れの故です。 無論、榎木津玲菓は祖父ばりの特殊能力を発揮しますし、中禅寺秋穂は例の着流し姿で憑き物落としをおこないますし、関口辰哉はやや情緒不安定なところを垣間見せます。ちなみに高校生と中学生の彼と彼女らの口調は祖父にそっくりそのままと言っても差し支えありません。私は何度も本家の祖父たちが言葉を発しているような錯覚を覚えました。それほど似ているのです、つまり、作者の並々ならぬ『百鬼夜行シリーズ』への傾倒ぶりが伺えるという訳です。 何作か『薔薇十字叢書』を読みましたが、作品の出来、プロット、トリックなどは本作が最も優れていると思いました。京極堂(秋穂)の博識ぶりや立て板に水の如き論理も堂に入っており、シリーズ屈指の本家取りと言っても良い気がします。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2016/10/28 07:13 |
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(ネタバレなし)
成り行きから個性的な作風でデビューしたものの処女作がまったく売れず、さらに次作が書けないでいる高校生ラノベ作家の関口辰哉。彼は中野の古本屋の孫で「京極堂」の綽名をもつ読書家の美少女・中善寺秋穂や、大企業・榎木津グループの愛らしい令嬢ながらぶっとんだ言動の探偵「エノ」こと榎木津玲菓と、それぞれ<祖父が友人同士という縁>で知り合った同年代の幼馴染みだった。そんな高校生三人組は、榎木津グループと縁がある実業家で華族の末裔でもある由良渡月に招かれ、その年の四月三十日、ある孤島の館に向かう。孤島に一軒だけ建つその古く広い館はかつての当主が魔女を主題に建造したものであり、そこで一同やほかの客を迎えた館の若く美麗な当主・由良薫は「魔女はいますよ」と告げた。やがてその館の周辺では…。 京極作品「百鬼夜行」(京極堂/妖怪)シリーズをベースにした世界観で語られる、新鋭作家によるシェアワールド路線「薔薇十字叢書」の一冊。どんなんかなと思って、一冊読んでみた。 ほかの「薔薇十字叢書」は原典の主人公たちの<語られざる事件もの>が主体のようだが、本書はこの企画枠の中でも特に異色の一冊で、血筋キャラによる<ニュージェネレーションもの>。男子ひとり女子二人の微妙に三角関係ラブコメも匂わせた(笑)すばらしいキャラシフトの主人公トリオで事件に臨み、三人のキャラクターもそれぞれ祖父のものに倣う形で描かれる(ただしエノ=榎木津の特殊能力は、一瞬でも一度見たものなら絶対に忘れない超人的な記憶力として発露)。さらに木場の系譜をつぐキャラも、また別の形で出てくる。 事件の方は固有名詞と物語舞台の設定で自明なとおり『陰摩羅鬼』ベースだが、魔女を主題に、やがて磔刑風の焼死をふくむ<不思議な殺人事件>に至る展開は、変格の公認パスティーシュとしても、「百鬼夜行」シリーズの世界観に沿った超論理の新本格ミステリとしても、なかなかよく出来ている。 中盤で登場する<不思議な事態>(151ページ以降)はそれ自体が本書のサプライズでありキモとなるのでここでは詳述はしないが、これもかなりミステリとして魅力的な骨太の謎であり(微妙に、大昔にどっかで読んだような気もする趣向のものではあるものの)、そこで提示された事件の主題が「百鬼夜行」シリーズらしい独特のロジックで解体されていく後半も期待以上にゾクゾクさせられた。 もうひとつの『陰摩羅鬼』とまで言うとほめ過ぎかもしれないが(筆者は『陰摩羅鬼』をそれなり以上に称賛派)、あえて原典シリーズの諸作の中から同作をベースに選んだ書き手の狙いも、この内容ならしっかり果たされているだろう。 評点は、クセ玉かと思いきや、意外に剛球だった作品そのものの意外性も踏まえて、本当にちょっとだけおまけして7点。 なお「ラノベの叢書(講談社ラノベ文庫)からの発刊で、パスティーシュにしてはなかなか…」という、読者の予め割り引いた目線からの反応までも、もともと織り込み済みという気がしないでもない。でももし実際にそうだとするのなら、そんな送り手側のある種のしたたかさも、その意味で頼もしくもある。 あと全然別の話題だけど、「薔薇十字叢書」をこの作品から読んでしまった自分のセレクトは適切だったのかな。それは他の書き手の他の作品もふくめていつか「薔薇十字叢書」の二冊目以降を読んでみなければわからんね(笑)。 |