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パメルさん
平均点: 6.11点 書評数: 722件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.15 5点 ソロモンの犬- 道尾秀介 2025/11/28 17:15
大学生の秋内静は、椎崎教授の息子である陽介が、愛犬に引っ張られ車道に飛び出し、車に轢かれて死亡する事故を目撃する。愛犬・オービーはなぜ、急に車道に走り出したのか。事故現場に居合わせた友江京也、巻坂ひろ子、羽住智佳の不可解な言動に疑問を抱いた秋内は真相を探るため、動物生態学に詳しい間宮未知夫助教授に相談を持ち掛ける。
本作は単なる謎解き小説ではなく、青春小説の要素が色濃く出ている。秋内の智佳への未熟で純粋な恋心や、友人たちとの関係に右往左往する様は、青春時代の切なさや輝きを鮮やかに描いている。そんな日々を悲劇が襲うというコントラストも作品に深みを与えている。
物語の発端となった犬のオービーの不可解な行動には、動物の習性と人間の事情が複雑に絡み合っている。この謎が解き明かされる過程は、納得させるものとなっている。作者の作品によくみられる「人の弱さ」がテーマとして描かれている。その登場人物たちの過去や弱さは、決して否定されるものではなく、時に滑稽でしかしそれ故に愛おしいものとして描かれ、考えさせられるものがある。

No.14 6点 きこえる- 道尾秀介 2025/09/08 19:10
音声と文章から真相が浮かび上がる聴覚を用いて楽しむ5編からなる体験型ミステリ。各編の重要な場面でQRコードが登場し、それを読み取ると音声を聞くことが出来る。それにより文字だけでは表現しきれないニュアンスが出るように臨場感や不気味さを演出している。
「聞こえる」ライブハウス経営者の関ケ原良美と同居し、音楽活動をしていた夕紀乃は、何者かに殺されてしまう。幽霊の声が録音されたデモテープをめぐるミステリ。最後のメッセージが不気味に響きゾッとさせられた。
「にんげん玉」怪しげな資産運用ゼミナールに参加した主人公が講師の正体に気付き、一発逆転の賭けに出る。巧妙なミスリードが仕掛けられていて、体験型ミステリの醍醐味が詰まっている。
「セミ」富岡少年と「セミ」と呼ばれる同級生の友情を、カセットテープを軸に描いた勘違いが招く悲劇。世界の見え方がガラリと変わる真相と、子供の痛切な想いが胸に刺さる。
「ハリガネムシ」塾講師の主人公が、ある方法で生徒に迫る危機を察知するという緊迫感ある物語。最後の音声で急に声が大きくなることで真相が明らかになる。
「死者の耳」夫婦が奇妙な死を遂げたマンションで何が起こったのかを、ICレコーダーに記録された音声から推理する。音声だけでは分からない真相があり、読者を裏切る仕掛けが印象的。
「小説を読む」という行為に「音声を聞く」という要素を加えたこの作品集は、まさに現代ならではの実験的作品である。音声を聞き情報を読み解き、真相に辿り着く興奮を味わえる。

No.13 7点 光媒の花- 道尾秀介 2024/05/22 19:30
第33回山本周五郎賞受賞作の6編からなる連作短編集。
「隠れ鬼」印章店を営む主人公は、認知症を患った母親と二人で暮らしている。ある日、母親が画用紙に絵を描いている。笹の花の絵に思えた。まさか母親が描いているのは、あの光景なのか。このオチには驚かされた。
「虫送り」主人公の少年は、妹と川辺で虫を取る習慣があった。二人が川辺にいると、いつも川向うで懐中電灯の光を見かけた。今日も光が見えたのだが、すぐに消えてしまった。しばらくすると、おじさんが声をかけてきた。意表を突く展開が素晴らしい。
「冬の蝶」かつて昆虫学者になろうと夢見ていた男は、少年時代のことを回想していた。ある日、川辺でサチというクラスメイトと話すことになり、毎日サチに会いに行くため川辺に向かった。ふとした偶然が重なりサチの家に行くことになったのだが。偶然、覗き見してしまった好きな女性の生々しくも悲しい物語。
「春の蝶」隣の部屋に警察がやってきていた。その時は、「何か物音を聞きませんでしたか」と警察に聞かれただけだったが、後で聞くと大金を盗まれたとのことだった。隣に住んでいる女の子を見かけ、声をかけたが反応がなかった。どうやら心理的な理由で耳が聞こえなくなってしまったらしい。心温まるラストに感動。
「風蝶花」トラックの運転手をしている主人公は、入院することになった姉を見舞うべく病院へ向かった。そこで母親の姿を見かけ、咄嗟に姿を隠してしまう。父親の癌の症状に回復の見込みがないと知るや、性格まで一変したかのような母親の態度が許せなかったのだ。姉の策略でハッピーエンド。微笑ましい話。
「遠い光」小学四年生のクラス担任である主人公は、再婚によって名字が変わるクラスメイトを気にかけていた。その女の子がテレビで紹介された猫に石を投げて殺そうとしたらしいので現場に向かってくれと教頭から連絡が入る。ラストの大団円の意味が分からない。
連作短編集だが、作品同士の繋がりはそれほどない。ただ、前の物語の脇役だった人物が、次の物語では主人公になっているという構成になっている。
主人公たちは、それぞれ狭い世界の中で、大小あれど失望している。その一瞬一瞬の心情の変化の描写力が緻密で素晴らしい。それぞれの「狭い世界」。しかしそれが主人公にとっては世界の全て。外の世界の価値判断からすれば異常な物事を、狭い世界を濃密に描くことで「正しい」という価値観に転化させているような印象。主人公たちは、それぞれ悩み、苦しみながら生きている。そんな哀しい物語ではあるが、心に傷を抱えながらも生きる希望の光を与えるような描き方が抜群に上手い。

No.12 7点 背の眼- 道尾秀介 2024/02/27 19:12
福島県の白峠村にある民宿に作家の道尾は泊まりに来た。道尾はその村で、幽霊のものとしか思えない不気味な声を耳にする。道尾は、大学の友人で霊現象探究所を経営している真備の元を訪れる。そこで道尾は、背中に眼が移り込んだ四枚の心霊写真を目にすることになる。奇妙なのは、その四人全員がその写真が撮影されて数日後以内に自殺しているということだ。しかもその写真は、道尾が聞いた幽霊の声と関わっているようなのだ。
本書は神隠しや心霊写真、田舎の陰惨な連続殺人といった要素があり、ホラーにも横溝正史風な探偵小説のようにもとれる。しかしそのバランスを巧くとり、絶妙に仕上げている。
ミステリとしての解明のロジックの中にホラーとしての要素が、ふんだんに盛り込まれており、幻想ミステリの結構としての理想というべき作品と言えるだろう。作者はあくまでもホラーミステリとして書いたと思われるが、ホラーとしての要素の使い方に特殊ルールを前提とした謎解きを行うSFミステリの影が見える。本筋の話以外にも、ところどころ小さなエピソードを盛り込み、そこに張った伏線を回収していくので厚みを感じる。更に、合理的な結末に収まらないラストも実に巧い。デビュー作とは思えない出来栄えに満足した。

No.11 6点 片眼の猿- 道尾秀介 2023/11/22 06:53
ヨーロッパの民話に「片眼の猿」という話があるらしい。その昔、その猿は皆左眼だけしかない猿であった。ところがある日、両眼をもって生まれた猿が現れた。左眼しか持たない猿の集団の中で、いたたまれなくなり、ついには右眼を潰してしまったという話。
私立探偵の三梨は、盗聴専門という変わり種の探偵であった。彼の元に産業スパイを捜し出す依頼が舞い込む。三梨は着実に調査を進めていたが、そんなある日、知っている人に似た女性を見かけてスカウトする。相棒として調査を進めるが、そんな中殺人が起き、相棒が容疑者として挙がってしまう。
作者の作風は、どちらかといえばダークなサスペンスもの、またはホラー寄りのミステリというイメージがあるが、この作品は底抜けに明るい。プロットそのもの自体は、暗いものが流れているのだが。事件そのものは単純なものであるものの、思いも寄らないところへ転がっていくところに意外性がある。盗聴専門の私立探偵というのは面白い着眼点だ。音に着目し、そこに何かを仕掛けるというのは予想がつくが、小説ならではの仕掛けが仕込まれている。
外見ではなく、何を意識すべきなのか。人間の本質はどこにあるのか。人間にとって本当に大切なものは何か。その答えに三梨は持論を語る。仕掛けの一部は、容易に見当がつくだろうが全てを見破るのは困難だろう。その仕掛けが明かされるプロセスは「シャドウ」に近いテイストがある。

No.10 5点 N- 道尾秀介 2023/08/21 06:47
六つの章を自由な順序で読むことが出来る作りになっている。各章の間では、登場人物や時系列が緩やかに繋がっている。AからBの順に読めば特に意外でもない出来事も、BからAの順に読めば驚きをもたらす。さらにCを読むとAとBに登場した人物の過去が明かされるといいう形で、読む順序によって何に驚くか、どこに衝撃を受けるかが変化する。装丁も一編ずつ逆さになっているという凝りようだ。
複数の短編が、人物や事件でリンクしているだけなら珍しくはない。本書の特色は「どんな順序に読まれるか」を考慮した上で、それぞれの章で何を語り、何を語らないかを入念に選んでいるところにある。
「名のない毒液と花」魔法の鼻を持つ犬とともに教え子の秘密を探る理科教師。
「笑わない少女の死」定年を迎えた英語教師だけが知る、少女を殺害した真犯人。
「落ちない魔球と鳥」鳥が喋った「死んでくれない?」という言葉の謎を解く高校生。
「消えない硝子の星」ターミナルケアを通じて、生まれて初めて奇跡を見た看護士。
「飛べない雄蜂の嘘」殺した恋人の遺体を消し去ってくれた正体不明の侵入者。
「眠らない刑事と犬」殺人事件の真実を掴むべく、ペット探偵を尾行する女性刑事。
読み味が720通りあるというのが、この作品のひとつの売りとなっている。とはいえ、おすすめしたい読み方はある。ミステリとしての驚きを存分に味わいたければ、「笑わない少女の死」を最後に読むのは避けたほうがいいだろう。この章は作中の時系列では一番最後に相当するが、ミステリらしい驚きを味わいたければ最後には向かない。異なる順序に読めば、また異なる感興が生じる作りだが、720通り読んでみようと思う奇特な人はいないだろう。個人的には2通り読めば十分かなと感じた。

No.9 6点 カササギたちの四季- 道尾秀介 2022/07/26 08:36
「リサイクルショップ・カササギ」は、赤字続きの小さな店。店長の華沙々木は推理マニアで、事件があると商売そっちのけで首を突っ込みたがる。副店長で修復担当の日暮は、売り物にならないガラクタばかり買い入れてくる。中学生の菜美は名探偵華沙々木のファンで、いつも店に入り浸っている。
彼らの周囲で起きるのは、店の倉庫に誰かが忍び込んで鳥のブロンズ像を燃やそうとした放火未遂事件とか、山奥の木工所で原木が傷つけられた器物損壊事件といった軽微なものばかり。血なまぐさい事件は一つも出てこない。
華沙々木がホームズ、日暮がワトソンという役割になっているが、このホームズは実は自称だけの名探偵。菜美を落胆させないために、日暮が秘かに現場を修復してホームズの手柄に作り替えるところが、アンチ・ミステリとしての読みどころになっている。
ミステリとしては弱いが、軽妙でしかもイメージ喚起力のある文章、魅力的な登場人物、捻りの効いたプロットなど、さすがと思わせる面もある。

No.8 4点 月と蟹- 道尾秀介 2022/06/23 08:09
舞台は鎌倉市に近い海辺の田舎町。父親の会社の倒産がきっかけで、2年前にこの町に転居してきた小学5年生の慎一は、その後癌で逝った父の親である祖父と、寡婦となった母親との3人暮らし。慎一の親友の春也は無口な少年で、父親からの暴力をひた隠しにしている。ある日彼らは2人だけの秘密の場所で、ある儀式を始める。ヤドカリをヤドカミ様と呼んで、貝から抜け出たヤドカリを焼きながら祈りを捧げると、願いが叶うというのだ。それは思い付きで始めた他愛のない暇つぶしだったはずなのに、クラスメイトの少女、鳴海がその儀式に加わったことから少しずつ暗い様相を見せてゆく。
誰もが心の奥に隠し持っている弱さの連鎖が因果となって、悲劇的な出来事を引き起こす。だが同時に、決して捨て去ることのできない弱さ、打ち勝つことなど到底不可能に思える弱さと、どう向き合って生きてゆけばよいのか、という難問についてこの作品は語っている。
寓話めいた筋立てを用いつつ、運命に翻弄されながらも何とか押し流されないと懸命に喘ぐ少年の姿を繊細に活写している点は作者らしい。しかし、直木賞受賞作ということで読んではみたものの、その良さは伝わってこなかった。

No.7 8点 向日葵の咲かない夏- 道尾秀介 2022/04/23 08:14
夏休みに入る直前の終業式の日。学校に来ていないS君に返却された提出物を持っていくため、彼の家に行った。ミチオはそこでS君が首を吊った姿を目撃する。驚いて学校へ戻り、先生へ伝えると先生は警察と共にS君の家へ向かった。しかしS君の死体は消えていた。S君はあるものに姿を変え、「僕は殺されたんだ」と訴える。ミチオは妹のミカと真相を探ることに。
全体的にホラーの雰囲気が漂っており、何か不気味なものが背後に潜んでいるのを感じながらも違和感を覚えることになる。占いが得意なお婆さん、小説を出版したことがある国語の先生、百葉箱を毎日見に来るおじさん、そしてパパ、ママ、S君のママ。協力者なのかS君を殺した犯人なのか、それぞれ皆秘密を抱えていて、物語が進むにつれ事情が分かってくると、登場人物全員が怪しく思えてくる。
帯には「僕と妹・ミカが巻き込まれた、ひと夏の冒険。分類不能、説明不可、ネタバレ厳禁!超絶・不条理ミステリ。(でも、ロジカル)」まさにその通りの作品で、作品全体のありとあらゆる部分に伏線、ギミック、トリックの類が満載に仕掛けられている。そしてあらゆることが、残り十数ページで一気に解明し、一種のどんでん返しに驚かされる。ロジカル的にも上手くまとめ上げた感じ。
以前から気になっていた作品だが、あまりにも否定的な意見が多かったので読むのを躊躇っていた。確かにあり得ない特殊設定や、全体的に漂う陰鬱な雰囲気、動物虐待などの気持ち悪い描写、イヤミス特有の読後感など、好き嫌いが大きく分かれるのも納得の一冊。

No.6 5点 球体の蛇- 道尾秀介 2021/09/26 08:11
幼なじみ・サヨの死の秘密を抱えた17歳の私は、ある女性に夢中だった。白い服に身を包み自転車に乗った彼女は、どこかサヨに似ていた。想いが抑えきれなくなった私は、彼女が過ごす家の床下に夜な夜な潜り込むという悪癖を繰り返すようになったが、ある夜、運命を決定的に変える事件が起こってしまう。
タイトルの「球体の蛇」とは、サン=テグジュペリの「星の王子さま」に出てくる、象を飲み込んだウワバミのこと。絵に描くとシルクハットにしか見えなくて、主人公の男の子が「これ怖いでしょ?」ってみんなに言うと「全然怖くないよ。なんで帽子の絵が怖いのか」「いや、これはウワバミが象を飲み込んで、消火しようとしている恐ろしい絵なんです」と。
そういうふうに、見かけと中身が違っているのがこの小説のテーマ。冒頭に出てくるスノードームがキーアイテムになって、物語の要所要所に再登場するのだが、内側と外側、閉ざされた平和な世界と、その世界の外側にある過酷な現実、みたいなことの象徴になっている。
それから主人公は、シロアリ駆除のアルバイトをしている。床下の世界とその上の日常みたいな対比もあって。つまり、本当に起きたことと、外から見える現実との二重性を引きずりながら、青春小説が語られていく。作者自身は「ミステリじゃない」と言っているが、事件もあるし、謎もあるし、どんでん返しもある。一種の青春ミステリといってよいでしょう。

No.5 7点 龍神の雨- 道尾秀介 2021/05/12 08:31
肉親と死に別れた二組の兄弟が登場する犯罪小説風のサスペンス。十九歳になる添木田蓮は実母の急死後、暴力を振るう継父を疎ましく思い始め、やがて殺意へと変わっていく。一方中学生の辰也と小学生の圭介の兄弟は実母の死後に再婚した父親を病気で失い、継母と暮らしていた。辰也は継母の存在を認めず非行に走り、圭介は二年前に実母が死んだ原因が自分にあると密かに悩み続けていた。
台風による大雨の日、蓮は継父を事故死に見せかけて殺す仕掛けをして外出する。帰宅した蓮は、継父の死体を発見するが、妹の楓から自分が継父を殺したと告白される。
ストーリーも人間のありようも、一面からでは判断できない。二組の兄弟の視点人物である蓮と圭介。彼らが見た息詰まるような現実を追っていくうち、作者が仕掛けた周到な罠にはまっていく。苦い味わいの青春小説であり、叙述トリックを超えた仕掛けが楽しめるミステリでもある。

No.4 7点 ラットマン- 道尾秀介 2020/12/10 09:24
「ラットマン」と呼ばれる素朴な線描画がある。動物たちの絵の中に置かれていると、それはラット(ねずみ)に見える。人物画の中に置かれていると男の顔に見える。同じ絵なのに、なぜか全く別のものに見えてしまう。見る、聞くといった人間の知覚は、その前後に受けた刺激によって左右される。これを心理学などで「文脈効果」というらしい。本書は、この文脈効果を最大限に利用した作品といえる。
結成14年のアマチュアロックバンドが、貸しスタジオで練習中に不可解な事件に遭遇する。メンバーの一人が、密室状態の倉庫でアンプの下敷きになって死んでいた。
現場の状況から、容疑者は当時スタジオにいた四人のメンバーに限られる。四人は互いに疑心にかられ、同じ絵にそれぞれ別のイメージをふくらませる。そして、それはまた新しい「ラットマン」現象を作り出していく。
容疑者の一人である姫川と23年前に姫川家の事件を扱った古参刑事が、全く別の方向から、この絵を読み解こうとするのだが、推理の行方は三転四転し、容易に予断を許さない。後半の途中まで、ただの胸糞悪いミステリ要素の少ない小説だなと思っていたが、最後の最後で評価が変わった。騙された快感が味わえる作品。

No.3 6点 シャドウ- 道尾秀介 2020/07/20 10:12
ふたつの家族を巡る心理的な葛藤の物語。人物関係は、一見単純で分かり易いが、底流にすさまじいものがある。物語は、それぞれの人物の視点から語り進められて行く。リアルな人物造形、奇をてらわないストーリー展開など、万人向けの作品に仕上がっている。特に派手な事件が起きるわけではないが、日常の中に正体不明の異物が紛れ込んできたような、何とも形容しがたい気味の悪い緊迫感が心地良い。
サイコ・サスペンスの体裁をとりながら、それらが結末への伏線となり全体像が一気に浮かび上がる。二転三転するプロット、無駄のない構成と文章に強く惹きつけられた。子供があまりにも悲惨な目に合うのが辛いが、主人公の成長とラストに随分と救われた。
ただ、仕掛けに前例があり、先が読めてしまった点とこじんまりとまとまりすぎている点が不満。

No.2 6点 鬼の跫音- 道尾秀介 2020/01/06 19:39
六つの収録作は、いずれも単に怖がらせるためだけのホラーや驚かせるためだけのミステリにとどまっていない。
冒頭の「鈴虫」は、十一年前の友人S殺害事件ののち、恋人を奪って妻にした男の物語。谷底に落ちたSを穴に埋めたとき、近くで鈴虫が鳴いていた。いま自分を取り調べている刑事の肩口にも鈴虫が這い上がっており、私を見ていた・・・。
どの短篇も、忌まわしく暗い犯罪が扱われていながら、虫、けもの、鬼といった、いわば人外魔境の視点が持ち込まれているのに加え、誰もがみな持っている負の一面が書き込まれているため、歪んだ現実が迫ってくるようだ。白昼に見る夢のような、まどろみと周到に仕組まれた騙しの快楽がひとつになる時、グイっと別の次元へ引っ張り込まれたかのごとき浮遊感を覚えさえせられる。
作者ならではの、驚異の世界が凝縮した一冊。

No.1 5点 カラスの親指- 道尾秀介 2016/02/10 14:16
小さな謎と伏線を提示し徐々に違和感を感じさせ
予想を裏切る形で謎を解決
そして次の謎へと謎と解決を繰り返しつつ
大どんでん返しも用意されている
ただご都合主義的な箇所もあるしある人の過去のエピソードが
●●のための●●●というのはどうも納得できない
文体も好みから外れている

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パメルさん
ひとこと
7点以上をつけた作品は、ほとんど差はありません。再読すればガラリと順位が変わるかもしれません。
好きな作家
岡嶋二人 東野圭吾 
採点傾向
平均点: 6.11点   採点数: 722件
採点の多い作家(TOP10)
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