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斎藤警部さん
平均点: 6.69点 書評数: 1357件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.637 7点 ロウフィールド館の惨劇- ルース・レンデル 2016/11/11 18:13
読前の憶測をバサッと裏切る、悲喜劇ならぬ喜悲劇サスペンス! 心理的にはかなりのドタバタ! こりゃつまるところゲームの構造か、ってかなり早い段階で思っちゃいましたが。。主人公の文盲を補填する他の感覚の水際立った鋭敏さもまた、そのゲーム特有のルールみたいでね。 カタストロフィの予感はいっぱい、至るところにありましたよ。しかしながら。。
最後の最後に、見たことも無いよな逆アリバイ(?)趣向。それは或る「稚拙さ」が有ったが故の。。このラストスパートは萌えますよ。東野「天使の耳」を思い出す時間計算のナニもありました。
そして、そのラストスパートとはまた別の、二重底の、まさかの熱いクライマックス。。。
ユーニスは知らなかった。。。 

No.636 9点 永遠の仔- 天童荒太 2016/11/11 12:06
地上の空中楼閣に化ける前の武蔵小杉やら、地下の鼠小屋に押し込まれる前のオープンエアー東横渋谷ホームやら'ミレニアム'前後のノスタルジックな舞台が嬉しい、心を病んだ女子一人と男子二人が「落とし前」の落とし場所を捜す物語。 こう言っちゃ不謹慎かも知れんが、摑んで放さぬ圧倒的な面白さ。始まりから 大いなる中盤を経て 終わりまで。

かまびすしい狂気。おとなしい狂気。
ある知見の有る無しを峻別する、最低限の、本来無色透明の一言。まるでイニシエーションなんとかのラストを彷彿(おモわセ)るその冷静で温かい台詞が中盤ど真ん中に。これは効いた!

自分騙しも自分騙せずも本当に複雑明快で、単純混濁で。
新旧時代のガッツリした事件がある所で一気に交わるから、たまらんのですよ。沈黙させられちまったぜ。。

これ言ったらネタバレだけど、、   物語が最後にまさかの「意外な犯人」暴露で締まったのはグッと来た。広義だろうと狭義だろと一級品のミステリ長篇。素晴らしい。

No.635 7点 マリー・ロジェの謎- エドガー・アラン・ポー 2016/11/02 00:27
わたしのロジック偏軽(偏重の逆)はミステリの原初にまで遡るのだな。。としみじみ思います。「モルグ」に較べて遥かに興味は落ちます。それでも美しく格調ある文章には惹かれる。いや文章の事しか記憶に残っておらぬ。

No.634 10点 モルグ街の殺人- エドガー・アラン・ポー 2016/11/01 23:48
黒光りの宝石ですよね。 

ネタなど知ってるつもりで読んだら、ブッ飛ばされましたよ。

No.633 8点 災厄の紳士- D・M・ディヴァイン 2016/10/29 00:18
共犯者って誰だよ? 家族ぐるみの絶交騒動??
騙すべき側、騙されるべき側それぞれの内面描写の奇妙に大きな齟齬。と思えばそのバランスにも予想外の追い上げ逆転レース。かと思えば。。ん、まさか? 頭が弱ってる人の配置も、流石だよな。。
前半ラブコメ調犯罪小説、後半イーイミでガチガーチの本格ミステーリ。

感情の反動って。。 指紋、バカだな。。(あの犯人特定ロジックは確かにエジ十を思わせた!) しかし参った、この犯人設定は! そしてその目くらましの大胆な手法! この人、クリスティの後継者って呼ばれてないんですか?  
これ言うだけで本格神経過敏な人には一種のネタバレになるかも知れないですけど、、 これぞ構成の妙だよねえ。。。。

ガーネットさんの仰る「もうちょっと大げさに容疑者をふるいにかけても」「最後のセンテンス」どちらも同感です。

No.632 8点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2016/10/27 11:21
ご多聞に漏れず「神の灯」の鮮やかさで遠き日の記憶は真っ白に塗りつぶされておりますが。。。。 いやどうして、他の短篇諸作も一つ残らずミステリ興味に強く訴える、佳き一冊でした。これは読まないと!

「神の灯」「宝捜しの冒険」「がらんどう竜の冒険」「暗黒の家の冒険」「血をふく肖像画の冒険」「人間が犬をかむ」「大穴」「正気にかえる」「トロイヤの馬」
(創元推理文庫)

No.631 7点 宿敵- 明野照葉 2016/10/26 00:05
なんとも女臭い、犯罪と日常のサスペンス集。陰鬱なストーリー展開の筈が、何処かで希望の光が覗く作品が多い。 男子受けは良くないかも。

「月を撃つ」 ※サスペンス
土屋隆夫が書くオチ話みたい。水商売を営む年増と、彼女に拾われた若い女と、そいつを追い掛け回す男。人間ドラマとしてはともかく、ミステリとしては浅い浅い。

「NOBODY」 ※日常の社会派サスペンス
日常の謎はミステリだが、日常のサスペンスはミステリ枠に入ったり入らなかったり。これは入らない。でもミステリ好きに受ける。遠縁の老女を最期まで看取らされた経験を活かし、或る商売を始めた女。とにかく面白い。

「在星邦女 ワイヴス・イン・シンガポール」 ※サスペンス
奇襲の連城POSSEっぷりにヤラれた。日本での或る過去から逃れようと、近々シンガポールに駐在する男をわざわざ選んで結婚した女。それを追う或る男。 エンデンィグには「女だぜ。。」と苦笑いだが、二部構成の企みは「女だな。。」と唸らせる。本書でいちばんの高評価。これは本サイトの皆様に薦めたい。

「満願の月」 ※日常のサスペンス
前出の「NOBODY」と異なり、ミステリ枠に入る日常のサスペンス。妹や何やに鬱屈した思いを抱く、そろそろ若くもない女の日常。やはり前出の「在星邦女」同様、盲点の方向から襲い掛かるまさかの反転が見事だが、それが更に希望の方向へ突き抜ける構造なのが印象的。なのに、何処かしら緩い。

「宿敵」 ※日常のサスペンス
表題作は、、冒頭近くで明かされる「或る事」が最後の直前まで伏せられていたらミステリ枠に入ってたね。でもそんなあざといやり方は取らずともきっちり愉しませてくれました。本作だけはあらすじに触れません。

以上です。

No.630 7点 チョールフォント荘の恐怖- F・W・クロフツ 2016/10/25 01:06
嗚呼愉しいクロフツ。湧き上がる。。。フレンチの着実な部下指導ぶり、若い部下の優しい切れ者ぶりも善き哉!
さてクロフツの犯人当てだ。推理より捜査過程を愉しむ類。勘で攻めたいオイラにはむしろそっちが歓迎。おいおい本作、実はアリバイ崩し超絶応用編だったりする(交通機関は絡みませんが)。。? おっと超絶は言いすぎか。別にいいけどキャリー・アンダーウッドっていうおばさんが出て来たよ。 最後まで面白いお話だ! 鮎川ファンに薦めたい!

No.629 8点 悪魔はここに- 鮎川哲也 2016/10/20 23:33
重厚なる傑作撰、星影龍三篇。特別ゲストに鮎川哲也氏。まぁ損はせんよ。

道化師の檻/薔薇荘殺人事件/悪魔はここに/砂とくらげと
(光文社文庫)

「薔薇荘殺人事件」は花森安治の解答篇付き! 

No.628 4点 謎の殺人図鑑(マニュアル)- 斎藤栄 2016/10/19 23:13
ねこと殺人 /ハマナスと殺人 /カマキリと殺人 /イノコズチと殺人
(ケイブンシャ文庫)

身近な動植物に因んだ、知識頼みの推理クイズもどき集。ミステリ精神は薄いが、それなりに興味は引く。たとえば病院の待合室の薄い医療雑誌にこういう話が載ってるのを徒然に読んだら面白かろう。

No.627 5点 死体が二つ- 佐野洋 2016/10/18 02:40
夫と妻、被告と証人、作家と編集者 等、何らかの対となる二人の関係(と言い難いものもある)をタイトルとし、必ず二人の死人が出るという企画連作。   果たして表題の二人がヤられるのか、殺し殺されるのか、  或いは表題の二人と如何なる関係のどの二人が被害者になってしまうのか、、物語興味を引く。  ミステリの深みを求め過ぎさえしなければ決して悪くない読み捨て本。

夫と妻/教師と学生/投手と捕手/夫と夫/父と娘/被告と証人/父親と愛人/作家と編集者
(角川文庫)

No.626 6点 隠された牙- 佐野洋 2016/10/18 02:30
佐野洋マンネリ期のスナック菓子と思いきや案外と謎の彫りが深いブツもいくつか混じる短篇集。
それでも余計な風格は漂わせないのが洋チャンの良い所。

隠された牙/死の入選作/なぜか誰かが・・・/親しすぎる姉弟/通話中/鉄の串/乱反射/戸籍の散歩/仮面の女
(角川文庫)

No.625 5点 拝啓 名探偵殿- 藤原宰太郎 2016/10/16 10:18
その昔カッパノベルスで読んだもの。著者の弁に依れば「掌編推理小説」40篇。ネタは陳腐だがちょっとヒネってある。意外と文章がいい。氏に数多いアリもの寄せ集め推理クイズ集とは一味違う。二味は違わない。

No.624 7点 儚い羊たちの祝宴- 米澤穂信 2016/10/13 01:15
ブラックなオチ話を必死の文章抵抗で一端の暗黒ミステリ短篇に飾り上げようとするが素養ないし人生経験が追い付かず。。といった感触、だいたいどれもこれも。特に「チャンチャン終わりの典型」にしか見えない一作めは小学生の作り話的出自を小説構成や言葉遣いの工夫で隠し切れなかった舞台裏が透け過ぎ。

それでも奇妙なことに、かなりの深さでそれぞれの物語に浸ることは出来た。ひとつ読み終えてからしばらく冷却ないし解凍の間を置きたくなったのは一作毎にそれなりの重みがあった証。不思議なものです。それなりの高得点になってしまいますね。

雰囲気づくりの骨格アイディアはしっかりしていそうだから、文章の襞の粗さがどうにか優しくこなれて、もっと業の深さを覗かせる作品を書いてくれるようになれば(既にあるのかも知れませんが)ちょっと期待出来そうな作家さん、今回初体験でした。

No.623 8点 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー 2016/10/12 06:01
離れ島の邸宅に住む、血の繋がらない子供達(みな養子)だらけの大家族。家長である「お母さん」が殺害されたのは一年前。子供達の中でも一番の問題児が犯人として挙げられ、やがて獄中で病死。。。 そこへ「犯人は実は●●では無かったんです。」とアリバイ証言を手土産にやって来た、一人の著名な探検家。ところが、大家族を喜ばせる筈のこの無実の証言が彼等を苛(さいな)み始める。「では、いったい家族の中の誰が真犯人だったのか」と。。。。

こんな舞台背景で、苟(いやしく)もクリスティなら、犯人の設定に一定以上の切なさと幻惑のダイアモンドダストを期待するはずだ。まして本作の様な如何にもモノありげな書きっぷりの長篇なら尚更。その上、誰が(どちらが)探偵役か直ぐには分からない状況、まして探偵役候補の片方(探検家)はひょっとすると真犯人かも知れない、とかなりの深さまで疑えそうな物語の雰囲気だ。

ある時点での恋愛感情云々、そして動機と機会云々、そいつらが絶妙のタイミングと角度でクロスし反射する。これがアガサクオリティ、と膝を叩くこと六、七回。
メアリーがポリーと呼ばれるあたりではキンクスの「ポリー」が頭を流れた。 ♪ポリーはお母さんの言うこと聞かない~(和訳)
しかし終盤もいい辺りから「お父さん」の台詞が大沢悠里の声で聴こえて来るのには参ったな。

「夢の中では、どんなふうに殺しました?」 「ときどきはピストルで撃った。」

で、犯人設定はどうだったかと言うと、、 ムフフ、言えませんよ。 流石ですね! としか言えません。

No.622 9点 黒地の絵- 松本清張 2016/10/07 23:23
同集では現代小説篇の第一巻「或る『小倉日記』伝」以上にミステリ要素の濃厚な現代小説篇第二巻。題名だけ眺めてもその雰囲気は伝わると思います。それはそれとしても胆力が尋常でない、読む者を片っ端から吹っ飛ばさずにいない様な、内なる何かを振り切ってしまった小説の群れ。表題作の激烈さは世に知れた通り。

二階/拐帯行/黒地の絵/装飾評伝/真贋の森/紙の牙/空白の意匠/草笛/確証
(新潮文庫)

氏の他書評でも似たようなこと書いてますが「二階」なんて当たり前過ぎる漢字二文字単語で胸が苦しくなるほど素早い暗黒予感の奔走を強いるこの表題オーラの眼力、これが怖いんですよ。

No.621 8点 重力ピエロ- 伊坂幸太郎 2016/10/06 00:37
ミステリの遠近法で振り返れば緩々の構造なんだが何しろ面白くて困った。やはり拙者こういう広義のミステリが好きだねえ。病床の父、想い出の母の描写がどちらも温かく動きがあって美しい。矛盾を抱え混乱した才気ある弟、その弟が頼りに縋る平凡な兄。魅力的な黒澤探偵。哀れな大小悪党。何人かの女たち。強面の管理人さん。。ラストシーンの「行け、行け!」は泣けたねえ。

「人生はあまり長くないんだから、あまり深いことまで考えないほうがいいよ。」
だとよ。参った。

No.620 7点 殺人ダイヤルを捜せ- 島田荘司 2016/10/05 00:38
「確率2/2の死」が痛快B級サスペンスなら、「殺人ダイヤルを捜せ」は力作A級サスペンスと言ったところ。しまそうの資質じゃB級よりA級が面白い。主人公女性の造形に時々リアリティを野暮に逸するアンバランスな所は感じるけど、悪人側の意図に怖さを損なう底の浅さは見えたけれど、そんなことお構いなしに中盤のサスペンスは十分! 都会の怖さがどうしたとかはあまり感じませんが。。捩(ねじ)れた性的要素をモチーフに扱ったあたり、もしも佐野洋が洒脱の代わりに拗(こじ)らせの味わいで魅せたら、なんて喩えを言ってみたくなる。んであの電話トリックはね、まぁいいじゃないの他の諸々との噛み合わせでもあるんだし。
さて最後の台詞はちょっと、ブラックユーモアなんでしょうが、ゾッとさせるよりプッと噴き出しちゃいそな唐突のエイティーズ・コメディ・タッチ。ナウいぜ。。。。

No.619 6点 大いなる手がかり- エド・マクベイン 2016/10/04 00:39
バス停に置き去られたエアライン・バッグの中から発見されたのは、手首から切断された人間の大きな右手。文字通りの「大いなる手がかり」。。。原題も「GIVE THE BOYS A GREAT BIG HAND(ボーイズ(刑事達)に大いなる拍手を)」と若干悪趣味ながらも洒落ている。まずは上手に訳した所か。。。えぇっ、犯人その人でいいんですか!? 確かに、本格ともハードボイルドとも違う警察小説ならではの角度からの意外性攻めだけれど、それにしてもそんな伏線あったっけ。。他ならぬ(?)その人物が犯人ならもう少し濃ゆぅい伏線を用意しても良いのでは? なんて結末では思いましたけどね、やはり文章は読ませますよ。心の大きな年配家政婦の件だとか、「大都会は女である」の大演説だとか、それ以外にも心に残るパッセージがいっぱいです。マーロウの台詞のように洒落ちゃいないんだけど、一篇の小説と見ればバランス崩しの領域にも走ってるんだけど、そこが味。量産家ならではの特権かも。えぇっ、左手も見つかったって。。。

No.618 5点 フレンチ警部とチェインの謎- F・W・クロフツ 2016/09/30 00:25
軽い冒険ミステリ。ヴィジュアル的に魅力ある暗号の図が記憶に鮮やか。それくらいかな。

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.69点   採点数: 1357件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(59)
松本清張(54)
鮎川哲也(51)
佐野洋(39)
島田荘司(37)
アガサ・クリスティー(36)
西村京太郎(35)
島田一男(27)
エラリイ・クイーン(26)
F・W・クロフツ(24)