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斎藤警部さん
平均点: 6.68点 書評数: 1245件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.10 8点 憎悪の化石- 鮎川哲也 2015/09/28 20:42
「湯田真壁」なんて被害者(ガイシャ)の名前が絶妙だね。
鮎哲にしてはちょっと冷たい、硬い暗さを感じる。新境地でも意識したのか。
ところが小説の中身はね、全く悪くないんですよ、これが。

No.9 10点 下り”はつかり”―鮎川哲也短編傑作集〈2〉- 鮎川哲也 2015/08/20 16:44
地虫/赤い密室/碑文谷事件/達也が嗤う/絵のない絵本/誰の屍体か/他殺にしてくれ/金魚の寝言/暗い河/下り”はつかり”/死が二人を別つまで。。 題名を羅列しただけで溜め息が出る珠玉のアンソロジー。第二弾も全く緩み無し。(創元推理文庫)

同じく創元の鮎川初期短編精髄集でも、「宝石」に掲載された本格推理のみで構成された第一巻「五つの時計」に較べると多少のバラエティ感有り。 しかし全体通しての感触は、どちらも質実剛健ながら遊び心充分、トボケた味適量という、程近いもの。

そういや鬼貫も星影も出て来ないノンシリーズ物が多いんだな、第二弾のこっちは。 代表中の代表作「達也」「赤密」(星影)も爆発してますが最後の「死が..」の、意外で異様な真相には唸(うな)らされます、魘(うな)されます。 「碑文谷」の佇まいも素晴らしいね。 他にも哀しきファンタジー、怖い童話、ハードボイルドもどき(?)、言うまでも無くアリバイ粉砕劇数々と、体幹のしっかりした名作群が押し合い圧(へ)し合いしながらミステリ・ファン達の来訪を待っています。

巻末には再び有栖川有栖氏/北村薫氏/山口雅也氏の鼎談。相変わらず熱い!

No.8 7点 人それを情死と呼ぶ- 鮎川哲也 2015/08/10 19:01
(ちょぃとネタバレ)

物語の半ば頃、犯人がどの方向にいる人物かふと勘付き、目の前の光景がグイーンと90度ずれる様なシビレる感覚を得ました。(180度の感覚じゃない所がニクい)

露骨に社会派ミステリへの果し状の様な結末の反転ぶりですが、松本清張の短篇にもこの様な騙しの一篇が有った様な、無かった様な。。

多くの方が言及される通り、ラストシーンが美しく印象的ですね。
私には二冊目の鮎川長篇でした。この辺から氏がだんだん特別な存在になりつつありました。

No.7 7点 朱の絶筆- 鮎川哲也 2015/07/21 21:00
「りら荘」と異なり、ハクい女(スケ)がいっぱい出て来ます(笑)。

(以下ネタバレ有り)

「片腕」がそこで活きるとは。。 「原稿」を焼いた理由がそれとは。。(ちょっぴり綾さんの殺人方程式思い出す) オルゴールがメロディのどこで止まったかまで気にしてなかったよ。。

犯人は瞬殺で分かった(いや、実は途中まで候補は二人いた)。 作者もそれは承知の上。 何故連続殺人を展開したか、それを星影はどこで見破ったか、そしてあの(どの?)アリバイトリック。。 このへん諸々を当てないと正解とは認められないわけです、「読者への挑戦」付きの本作。

まあでも、業界事情があったとは言え、どうせ改編するなら短篇のままで、より引き締まった筋肉で武装した入魂の一作に仕立て直して欲しかった。「達也」等に並ぶ鮎川屈指の名短篇になれたのではないか?
或いは、せっかく長篇化でけっこう長い第一部(各容疑者の事件前経緯を思わせぶりに描写)を新たに継ぎ足したのなら、事件の展開する第二部、名探偵登場の第三部にもう少し深い人間ドラマ(本格の流儀でもちろん結構)を刻み込んで欲しかったね。

「下着の紐」の件は、短篇オリジナルのサラッとオチで流した方がバランス良くて粋だと思う。
だけど長篇オリジナルのエンディング、「コーヒーを飲む様子を見られていた理由」に思いを馳せるシーンはちょっと優しくていい。長く印象に残る。

ふと思うのですが第一殺人のアリバイトリック、これの原稿の動きを「黒いトランク」並みに複雑にしてみたら、どうなりましょうかね。

No.6 8点 沈黙の函- 鮎川哲也 2015/07/14 11:51
ははん、こりゃ鮎さんが古いレコードや歌曲の薀蓄を世に向け語りたくて書いたな、と思って読んだものです。たまたま私もその方面は興味がありましたし、ロシア語を習った事があり文字の読み方は知っておりまして、ましてそこに殺人事件が絡むとなればこれはもう面白くない筈がありません。いや、鮎さんの文章と小粋なトリック等々あってこそですけどね。 小ぶりな作品ですが、悪くありません。 個人的に高得点です。

No.5 10点 黒いトランク- 鮎川哲也 2015/06/23 23:40
この作品を読み始めた時、まだ鮎川さんは自分にとって特別中の特別な作家さんではありませんでした。 読了後、その様な存在になっている事を知りました。私にとって四冊目の鮎本だった。

抑制の効いた渋い雰囲気と、穿った登場人物名の取り合わせにまず目を白黒。そのうち少しずつ、鮎川さんだけの、堅苦しさを装った不思議なユーモアと厳しい本格推理求道ぶりの絶妙なブレンドに魅了されて行くのでした。

正直、トリックの詳細は忘れておりますし、読んでいる最中ですら「何だか複雑でよく分からないけど、何だか凄い事になってるぞ!」ってなもんで雰囲気を玩味するだけでもうお腹いっぱいでございましたが、その、何と言いますか仮に雰囲気だけでも言い訳なしで凄いと思わせる、間近で精査して緻密なだけでなく俯瞰しても知的興味を引く面白い複雑系大トリックを駆使した兎にも角にも面白本なんですよ、という事をですね、声を大にして言いたくなっちゃうわけでしてね。

あとね、鬼貫警部の初恋の人ってのが重要人物として登場するにも関わらず、そっちの方はさっぱり物語が展開しない、という無駄にハードボイルドな感じがね、泣けますよ(冗談です)。

No.4 8点 ペトロフ事件- 鮎川哲也 2015/06/01 15:05
(ネタバレ的なもの含む) 著者は本作をポンスン事件(クロフツ)を下敷きに書いたと公言していますが、題名付けはともかく、登場人物の家族関係、容疑者を絞り込む過程など、本家とは似てまた異なる趣向で勝負しています。その最たるものが、結末の、アリバイ興味で引っ張っておきながらのどんでん返し。クロフツがそう来るなら鮎川(中川?)はこう行くぜという負けん気が浮かび上がる。

No.3 10点 五つの時計―鮎川哲也短編傑作集〈1〉- 鮎川哲也 2015/05/28 13:05
五つの時計/白い密室/早春に死す/愛に朽ちなん/道化師の檻/薔薇荘殺人事件/二ノ宮心中/悪魔はここに/不完全犯罪/急行出雲 。。。題名を羅列しただけで溜め息が出る珠玉の本格推理アンソロジー。(創元推理文庫)

鮎川さんとは因縁の雑誌「宝石」に掲載された初期短編群を北村薫師匠が編纂(全二巻の第一巻)。 乱歩先生の筆になるRubric(添書き)も泣かせます。
巻末には有栖川有栖氏/北村薫氏/山口雅也氏による鼎談あり。これもまた愉しい。

思いも寄らぬ角度から一撃も二撃も喰らわす心理的アリバイトリックのお話が中心。
どの作品も完璧過ぎて、逆に勇気が沸いて来ます。 地球に生まれて良かった。。

No.2 9点 死のある風景- 鮎川哲也 2015/05/25 18:51
第一の現場が阿蘇山頂という出だしの勢いも手伝い、えも言われぬ雄大な謎の雰囲気が魅力的な力作。
事件は三つ。容疑者二人。いくつもの手掛かり、複数のトリックが鮮やかに噛み合う風景を俯瞰する結末は圧巻だ。

No.1 8点 準急ながら- 鮎川哲也 2015/05/20 12:34
「ああ俺ってアユ好きだよなあ。。」と既に分かっている上で読んだ初めての作。鮎哲では既に五冊目でした。はじめて鮎川哲也を読んでから二十数年経っていた。好みも変わった事だろう。地味目に展開する話ですが一瞬たりとも退屈しなかった。徐々に徐々に、着実に解決に向かう捜査の描写が好きだ。古式ゆかしいアリバイトリックそのものより、アユさん独特のトリックを破る試行錯誤の雰囲気が好きなんだろうな、私は。 巧んでか巧まざるしてか、何ともトボケた味をチョィチョイ出して来るのもアユ師匠の大事な個性。本作のエンディングあたりは相当トボケてるなあ。 やはり、私には肌が合うんだと思います。
昭和40年前頃(’60年代中盤)の風俗がよく描かれているのも相当に素敵。

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.68点   採点数: 1245件
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