皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.70点 | 書評数: 1303件 |
No.803 | 5点 | 密会の宿- 佐野洋 | 2018/04/27 00:45 |
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ご内聞に/乱れた末に/残念ながら/お手をどうぞ/知らぬが仏/論より証拠/虚栄の果て
(徳間文庫) 昭和の’TSUREKOMI’を舞台にした短篇シリーズ第一弾。日常の謎もどきからささやかな犯罪、警察沙汰の顛末まで、時には人も死ぬ(まあこの手の場所には付き物)。 主人公は宿のおかみ(ワトソン+α)と同居する男(ホームズ+少しジーヴズ)、決して個性が際立っちゃいない二人の造形はなかなか温かい。思わず膝を打つような瞠目の展開や真相は見当たらないが、意外な所で変化球を見せるなどして単調さを緩和。が、やはりファン向け、且つ読み捨て上等かな。それでいい。 |
No.802 | 8点 | 黒猫・アッシャー家の崩壊 -ポー短編集Ⅰ ゴシック編-- エドガー・アラン・ポー | 2018/04/25 18:22 |
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黒猫/赤き死の仮面/ライジーア/落とし穴と振り子/ウィリアム・ウィルソン/アッシャー家の崩壊
(新潮文庫) 普通に世界文学名作撰の様相だが、割と気安く読めます。 私はやはり、二つの数学的ファクターが(一つは鮮やかに、一つは地味に)抜群のサスペンスと結託した某作が一番ですかね。 しかしまあ、モルグ街等のミステリ系統作品でなくとも、ミステリとその近隣文学に圧倒的影響をもたらしているんだっちゃなあ、とつくづく思いますね~~ |
No.801 | 8点 | ウは宇宙船のウ- レイ・ブラッドベリ | 2018/04/23 12:30 |
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読み返せば幸せになる本。 著者みずから青少年枠で過去短篇集から編んだアンソロジーですが、大人が鼻白むようなジュヴナイル臭などありません。責任ある年長者の立場から子供目線~青年目線~大人目線を尊重し、家族の絆や支え合いを基調とする、著者の真骨頂たるユビキタスな詩情でキラキラした一冊。
「ウ」は宇宙船の略号さ/初期の終わり/霧笛/宇宙船/宇宙船乗組員/太陽の金色(こんじき)のりんご/雷のとどろくような声/長雨/亡命した人々/この地には虎数匹おれり/いちご色の窓/竜/おくりもの/霜と炎/タイム・マシン/駆けまわる夏の足音 空間中を満たす、父と息子、そして家族の哀感あふれる慈しみ合い。。やさしき致死量曲線が直線としか見えなくなる悪魔の時間。。時空を超える仲間たちへの進行形ノスタルジー。。 抒情や、時にしっとりした怖さを誘う宇宙系の物語も魅力だが、タイムトラベル系作品の放つクリスピィなユーモアはリズミカルな別の詩情を伴って現れる。 ハードSF風某作では寿命に関する特殊設定が切なさをキリキリさせる。実生活で切なさに襲われるのは確かに、特殊な前提に囲まれた時だ。エンディングは希望を伴う難解の心地良き。。 某作に登場する「カミナリ予知の音」、俺も好きだぜ。(音楽の中にこれと通じるヴァイブを感知したら最高にシビレるぜ) 待ってて、今ぼくもそこに行くからね! と大きく手を振りたくなる素敵なファンタジーの数々。 どこを切っても、とは言わずとも全体的に本当にキラキラしてる。逆松本清張と呼んでも過言ではない。 邦題ですが、これは結果論かも知れませんが「ロはロケットのロ(R Is for Rocket)」「ウは宇宙のウ(S Is for Space←後年の短篇集)」だったらそのまま過ぎて微妙に詩情が醸されませんよね。やっぱり「ウは宇宙船のウ」「スはスペース(宇宙)のス」がブラッドベリ的に正解でありましょう。 |
No.800 | 4点 | 失踪者- 折原一 | 2018/04/05 19:44 |
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優等生の叙述トリック。社会派サスペンスとして割とスリリングに読めたけど、最後その勘所は予想以上にひっくり返された。(生身の人間共が急に記号だらけに化けちゃって) 社会派上等のまま叙述マジックを完遂させてくれたら数段上の好みだった。でもいいさ。にしても「少年A」などというソーシャルイシュー感丸出しの呼称そのものが叙Tにゃうってつけの小道具なんだよな。「ユダ」だの何だの言う署名も然り。おまけに、少年犯罪が時代を越えて繰り返すという義憤直結構造まで。。
小説として確かに長過ぎる(まだまだまだ凝縮出来る)感はあるけれど、叙述欺瞞の心理的側面として必要なんでしょうね、この冗長さが。(でもスタスタ読み易い) 振り返れば、イマイチ。 |
No.799 | 8点 | 兄の殺人者- D・M・ディヴァイン | 2018/03/30 12:30 |
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真相究明ロジック披瀝、その丁寧な仕事の心意気に打たれ、犯人カンで当たっちゃった怨みもふっ飛びました。 真犯人意外性よりも真相の意外性、その全貌の思いのほかの深さ。 また一見大味な大小トリックと緻密なロジックとの連関も極めてクレバー且つ感動的。 道具立てを見りゃ時代物のアリバイ工作も、推理小説での使い方の勘所は古びてない。 大胆伏線の繊細な置き場所が、読み返せば初夏の海の様にキラキラ輝いています。 ラストシーン、ご都合っぽいけど素敵。
【ここより強いネタバレ】 原題(My Brother's Killer)、邦題ともなんだかダブルミーニング的微妙な表現な気がするんですが、これもミスディレクションなのかしら、無意識にどこかで「主人公=語り手=被害者の弟が真犯人では。。」と疑わせてかなり強力な目くらましに。 それと、紛れもなく重要な登場人物が中盤からやっと登場し、”十戒”厳守だったらこれは真犯人ではないなと感じつつ、いつの間にかそれ(途中出場の人物が犯人)も全然アリそうな展開に自然となっていたりとか。。 クリスティ技の伝統を処女作から強力に引き継いでいたわけですね。女史が絶賛したのも納得です。 |
No.798 | 6点 | 脱税者- 佐賀潜 | 2018/03/27 12:17 |
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昭和三十年代も終盤、戦前から因縁たっぷりの裏金融大物二人が政界巻き込み鎬(しのぎ)を削る物語。金融の専門用語使い熟(こな)しがまるで武器やクルマを語る言葉の如き魅力で飛び交う様は快し。
主人公紹介を兼ねたトリッキーな尾行シーンからスピーディーな序盤展開、中盤はメンタルな格闘シーンと呼びたい頭脳プレーの応酬に恋愛模様の機微が彩を成し、どうにも物語全体の違和感が噴出し始める頃にはもはや手の打ちようが無い断崖絶壁の最終コースへ。。。 ラストシーン、或る決意を内に固めての引きは刺激有りだが、、同じく往年の社会派推理人気作家でも在野に徹する清張とは異なり、体制側出身ならでは(?)の、清張なら迷わず抉るか衝くであろう奥まった部分は無暗に匂わせず無難に幕引く筆さばきをこそ見事と読むか、或いは物足りないとするか。 |
No.797 | 6点 | 御手洗潔のダンス- 島田荘司 | 2018/03/26 17:32 |
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山高帽のイカロス 祭典富農
これ、実に意識の高い、初期段階にして早のセルフパロディですよね?? 万が一そうでなかったら、バカ過ぎますよね??? いや~、セルフの域を踏み越えたパロディストの意気はまず間違い無く伝わります。パロディである動かぬ証拠は、最高に鮮烈な後日談を添えずにいられなかった事かも知れません。 ある騎士の物語 6点 おセンチな感情吐露とおバカな狼藉実行のぶん殴り合いやっぱり素敵! 最高に危険で最高に気持ち最高によいウィンタースポーツの最高中継を観るよう。。 冷静の神にやさしく抱かれた瞬時殺戮シーンも涙を搾る。そこでちょっと拗らせて、ストーリー後半ぐいっと仰け反らすやり方もあろうが、やらなくて良かったね。 舞踏病 6点 バカなようでゾ~ンヮリ人肌の苦い旨味を残す、これも俺の好きなしまそうの、やわらかな世間告発劇。 近況報告 7点 これが好きなオイラはやはり。。。。倖せモンだ。 が、全体通してそんなに高い点数は付けられないな。長篇作家の短篇がたまに読めると愉しい、ってとこ。 |
No.796 | 5点 | 六とん2- 蘇部健一 | 2018/03/23 17:40 |
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ところどころ、深いじゃんか。 詩情、時折あるじゃないか。 それはベースがスッチャカチャンチャンだからこそ感じるってだけかも知れないが。
「叶わぬ想い」の、ヒューマンドラマから考え落ちの底なし沼へ一気に墜落するアレは秀逸ですね! 途中までの感動を返してくれってより結末爆発力が勝っちまいやがりましたw で、結局宇宙は消滅したんか、ってのが気になる(笑) 「君がくれたメロディ」はなかなかのおセンチを誘いますが、そこにSFミステリ的SOWが在ったらなあ、、と惜しまなくもありません。 大ネタダイイングメッセージ(??)のヤツには大笑いさせていただきました~~ |
No.795 | 7点 | 幻惑の死と使途- 森博嗣 | 2018/03/23 12:27 |
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キメの粗い箴言頻出にゃあ窒息さ、だけどそれがいいんだ。 サブ章の途切れに残すイカした捨て台詞の残響も悪くないぜ。
「たぶん眼鏡をかけているのだろう」 ←スーパー伏線に今すぐでも通じそうな、この洞察のキラメキにはヤラれた。 物語の重要テーマがテーマだけに、とある叙述欺瞞がぎりぎりアンフェアになってない、というのがニクいね。 ところでもう一つの事件、の顕にされない併走の意図と展開は。。。 偶数章の虹の彼方の行方は?? 。。 前代未聞のキラメキ森マジックが落とし前でも付けるのか、と思ったら。。 アララそうですか、そちらは奇数章の無い別個の長篇でまた会い魔性という斬新な趣向でしたか。 参ったね! |
No.794 | 6点 | 5グラムの殺意- 吉川英梨 | 2018/03/15 13:04 |
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ほのぼのイヤミス with 胸いっぱいのリアリティ、時にその欠如、要所適時の軽さがラノベっぽさを演出するも、基本線は中年初期~前期の女性刑事達を中心に据えたハードな警察小説。
謎めいた毒殺実況らしきプロローグの後、六本木の違法変態クラブ、透明ガラスのフロアで踊るJCやJK(ガラスの下は変態客でいっぱい)の中のJC一人が、別のJCらしき人物(覆面等でちょっと怪しい)にフロア上でバットにより撲殺さ れる。事件は連続殺人らしきものに発展(ここでちょっとしたヒネリ有)。 育児に疲れ切った若い母親のあわや殺害未遂や、情緒にトラブルを抱える子供たちとその親のサークルでの小事件も並行して登場し、謎は何気に重なり合い行くが。。 終結少し前に明かされる「或ること」の大動機はおぞましさ爆裂モンだが、前述の微妙なラノベ要素のせいか、社会派まじやばいというよりむしろトンデモ方面の味わいになっちまって、結果、人畜無害、かも。。。。違うかも。。。 タイトル『5グラムの殺意』には予想外に残酷な重みがありましたね。。←この書き方ちょっとダブルミーニング この世に、キチガ●ほど悲憤慷慨を醸す存在が在りましょうか! |
No.793 | 7点 | 白銀ジャック- 東野圭吾 | 2018/03/07 17:41 |
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「逆意外な犯人」の目眩しで本命の逆意外な真犯を隠匿かよ。。 てか、要は逆意外なのかよ。。 かと、思いきや。。 浅はかな考えと行動の経緯こそがミステリの深みに達する、逆々意外な真相?? 逆実行犯、 逆なりすまし。。 まるで森ミステリの様な逆趣向ハンド・イン・ハンドの雪崩打ち。。。。。。 ウォームエンドに過ぎる要素もピンポイントで在ったが、拙者やはり雪の話に弱い。 |
No.792 | 8点 | 女王蜂- 横溝正史 | 2018/03/05 23:12 |
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十九年前に現在を手繰り寄せる、世にも悍ましい沈降動機への予感に違わぬ、その大いなる真相の全貌にはバッサリやられたぞえ。。。 クリスティばりの真犯隠匿魂にはコロっと騙されたぜ。。 ところが現在進行の事件に焦点を絞れば妙にチマチマした感が拭えず、そこのバランス悪さで大きく減点されつ尚8.3点。ラストシーンは実に美しい。我が親友の親友にも智子という美女がいた事をふと思い出す。 |
No.791 | 5点 | 怪盗紳士ルパン- モーリス・ルブラン | 2018/03/01 12:07 |
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シリーズ第一作のタイトルでいきなり「ルパンの逮捕」と来るのはRCサクセションの1stアルバム「初期のRCサクセション」を逆彷彿とさせますが、作者は当初雑誌への単発作を想定していた模様で、ところが編集者の強い薦めで続編を書きまくり、結局長い長いシリーズ物のスタートに題名意外性の花を添えるおまけが付いたのはちょっとした怪我の功名と言えましょうか。
控えめな連作趣向の織込められた短篇集。 個人的には一作だけとても好きな作品があります。それは螺旋と平面の交点集合推移の意味深さを噴霧させつつ素っ気ないエンディングの、まるで心情左翼のように温かな憶測を巡らせる余韻の味わい深さ。。。 女王の首飾り。 |
No.790 | 7点 | カンタン刑- 式貴士 | 2018/02/22 12:40 |
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時間ってやつをディーーープに扱ったハウダニットSFミステリ×おちゃらけ恐怖SFミステリ(×なんっちゃって社会派SF×グロ小説)の金字塔、それが表題作、これはヤバいよ。。 全作面白いですが、ミステリ興味ではまず表題作にとどめを刺すね。 が、変態的奇想押しにエロ(エロスって柄じゃない)と泣けるおセンチが絡み引き立てあうその豊かな作品世界はまるでイっちゃったサザンオールスターズの様で、ミステリ要素は濃い薄いまちまちではありますがミステリファンの皆さまにも是非ご一読を推奨させていただきたい、筒井康隆にも通じるがちょっと違う変態SF大盤振る舞いの、色んな意味で泣かせる一冊であります。
ポロロッカ/おてて、つないで/ドンデンの日/カンタン刑/バックシート・ドライバー/ルパンと竜馬とシラノと/日本が眠った日/不思議の国のマドンナ/Uターン病 (角川文庫) なお作者は「ミステリ百科事典」の間羊太郎氏と同一人物であります。 |
No.789 | 6点 | 恍惚の人- 有吉佐和子 | 2018/02/19 12:11 |
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老化と痴呆と死をテーマに据えた(単にボケ老人の話ではない)日常のユーモア・サスペンス。この’日常’をカッコ付きにするかしないかはあなたの○○次第、、 身もふたもないことをペラペラ喋る(書く)くせにギリギリの品を保ち、また絶妙のドキュメンタリー・フレイヴァを練り込んだサワコ・アリヨシならではの一品。 食事時には読まない方がいいシーンも頻出注意。 ‘70年代初期の大ヒット本。 ラスト・シーンは泣けます。 |
No.788 | 7点 | ラットマン- 道尾秀介 | 2018/02/13 12:16 |
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数学的に美し過ぎる物語経緯の構築が、完璧過ぎて却って上滑り(作り物めいて見えたのか)、その造形への感銘はひとかたならぬものがありながら、ミステリとして、及び小説としての感動はそれなりに損なわれた。。
とは言え、あるクルーシャルな台詞の反転返し(!)にはグッと来ましたね。しかも、その台詞が最初に放たれた時、もっと深い意味かと思ったら実は浅い方の意味で、だけど逆にそっちの方がよりズゥンとヤバい、という逆説的趣向が噛んでたもんで、その流れから更にまたノーマル反転に収まりゃしない反転返し(単に二度反転の意味ではない)を見せつけられたのには心底ドッキリ!でした。ところが、その更に上を行く、前述の、あまりに完璧すぎるマセマティカルな構造を見せ付けられると、どういうわけだか。。もはや小説ではない、もはや戦後ではない、って感じたのかしら。あるいは、作者があまりに「出来るだけハッピーエンド寄りの、少しでも救いのある、いい話で終わらせよう」と意識してるのが伝わって、さりげなく鼻についたのかも知れない。とかなんとか言って相当に面白く読ませていただきました! 折角エアロスミスをカヴァするならストーリーに密接な関係のある”WALK THIS WAY”だけでなく”BACK IN THE SADDLE”とか”RAG DOLL(入れ歯の爺ぃ)”とかも演って欲しかったなあ。掲示板で話題の”ヤりたい気持ち”はまあ、演(ヤ)らなくてもいいですけど。 |
No.787 | 3点 | 盲獣- 江戸川乱歩 | 2018/02/08 01:57 |
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亂步さん、何書いてんですか(笑)!! やり過ぎて滑っちゃったのか、、言うほどエロでもグロでもないですよ、むしろナンセンス小説ではないかと。 悪名高い『鎌倉ハム』(創元推理文庫全集版で復活)の一幕なんぞ、アナタねえ。。 残酷っつったってそりゃ即物的、ヴィジュアル上のモンであって、心理のエグい領域まで抉り込んでないでしょう。 「芋虫」や「踊る一寸法師」とは矢張り違いますよね。 と言ってブラックユーモアで突き抜けるのでもなく。 最後の独り善がり芸術論には辟易です!いい意味で!! んんー、概して詰まんなくはないんですけど、評価は低くしときたいぜ?w
“岩の割れ目に住んでいた一匹の蟹云々。。” ← このあたりの表現だけは良いな いま映画化するなら、主演は前野健太がいいね。 (ってこの流れで書くとマエケンを貶してるみたいですが、そうじゃないです) ところで前述の創元推理文庫に載ってる当時の雑誌挿絵で見ると、思い出せないんだけど誰だったかディープ・ソウル・シンガーかブルーズマンの顔でそっくりな人がいた気がするんです、盲獣。 だけど思い出せない。。フレディ・キングも微妙に違うし。。 あ、ジョー・テックスか ⁈ |
No.786 | 6点 | 死ぬほどの馬鹿- カトリーヌ・アルレー | 2018/02/02 00:42 |
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いかにも叙述●●ックめいた冒頭手記(?)の正体はかなり意外。しかしその謎は結末以前に明かされ、ミステリ的な驚きより物語の感動(社会派要素アリ)に寄与する部分が大きい。
パリ郊外(だったか?)中年夫婦のもとへ、昔馴染みの青年(そう若くもない)が戦争から帰還して来る。やがて彼は近所の若い女を見初め結婚し、ヒッピー気質の彼女は本物のヒッピー旅団と知り合い、そのリーダー格が夫婦と交流を始めかけたが。。ここからの激動展開は見もの。 次々と主人公が切り替わるが、その過程である種「そして誰も●●●●った」を思わす淋しさの加速が見られるのも魅力。かと思えば救いの手も。。 “微妙なニュアンスなどに縁がないだけに、物事の本質をふみ外すことがない。” やっぱりこの邦題、最高に抉って来るね。 それに較べりゃ中身はちょっと緩いけど、憎めない作品です。 |
No.785 | 8点 | 私という名の変奏曲- 連城三紀彦 | 2018/01/31 12:00 |
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「明日の朝、わたしがこんな◯◯◯◯◯◯◯◯。。。。」 俺はメロンを螺旋状に削ぎ屠って喰いたい。。。。。。 ムズムズ感を刺激する章立てからしておフランス以上におフランセーズな、如何にもお連城らしい、まるでミルフィーユのような作品。 最後の最後まで謎と違和感を詰め込み攻める心意気にはシビレる。 なんて分厚い盲点群。。。。奇数。。。複数。。(苦笑) 題名にきちんと素晴らしく具体的な意味があったのは良かった。 そしてこの、まさかの進行形エンディング。。 「いざとなれば、みんな殺せば。。。。」 「会ったことすらない。。。」 物理的に不可能、と言うより数学的にあり得ない不可能犯罪は如何に遂行されたか(或いは、本当にされたのか..?)を解き解(ときほぐ)す超絶技巧のきらめきを味わい尽くすために産み出された作品。 ただ連城短篇の場合と違いリアリティの堅牢な幻をドーンと現出させたまま終了とは行かないきらいはある(言葉選びの切れも微妙以上に甘いし)。。 が、そのあたりは長篇本格ミステリのお約束と混沌の混ぜこぜに割り切ってこそ吉でありましょう。 一抹二抹程度の嘘っぽさなら、その連城バランスィングの妙で見事に吹き飛ばしてくれます。 医者って、そういうことか。。 共犯者か。。 砂の城か。。 “真犯人さえ知らないカラクリが。。” 犯人とは何だ。 推理小説における犯人とは、、いったい。。。。 ゲームだよなぁ、とは思いつつ、こういう(ギリ)数学的ギミック乃至トリックを弄する作品は大いに好みです。(とは言え「なんとか術殺人なんとか」みたいなガチ数学トリックとは違い、数学的イメージを喚起しているだけかも知れませんが) 【以下、ネタバレ】 不治の病って、この話の枠組みじゃ、連城期待値なら尚の事、ご都合禁じ手じゃね? 著名作「容疑者なんとかのかんとか」を彷彿とさせなくもない重要ファクターがありましたね。そこちょっとアッサリ通り過ぎ過ぎじゃね? と思うところも共通。ただし本作の場合はそこが物議を醸しはしないんだよね。PCの微妙なところに触れるわけじゃないからか。。 家政婦? パスポート写真撮影? 工場の青年?? 火事? モデルにしては小柄 。。。?? ← ひょっとして大化けする伏線やら何やらかと思ったら、そうでもなかった諸要素。 特に最後のは、こりゃニオウぞと終始疑いつつ読んじゃってました。。もしやミスディレクションだったのか。。 |
No.784 | 7点 | 死者のあやまち- アガサ・クリスティー | 2018/01/30 02:52 |
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意外な被害者、そして、失踪。。 外国人。。。。 警察犬。。。?
失踪人の生死がいつまで経っても明らかにされない、妙にゆったりした進行の内に新たな死人は出るは(これが意外な人物!)、そうこうしていつの間にか終盤数ページに迫っちゃってるわ。。この心地よいズルズル感はいったい、何の企みに担保されているのかしら。。 そして最後は、深く長く静かな余韻。。。。(アガサ後期作ならではの味わいってやつでしょうか) 【以降ネタバレ含み】 クリスティらしい企画性(祭の殺人ゲームで被害者役が本当に殺される)が真相隠れ蓑のごく取っ掛かりでしかなかったり、物語のスターターであるオリヴァ婦人(ミステリ作家)が最後のほうはさして重要人物じゃなくなってたり、そのへんちょっとアンバランスだが。。結末の強さと素晴らしい余韻に絆されてそんなんどうでもよくなってしまいました。 靄のかかった薄ぼんやりした真犯人像(これがまた独特)よりも、真相の裏側を知っていた非犯人の方がやけにくっきりした人物造形、という人物配列の妙は面白いし、本作の場合は感動につながりますね。「入れ替わり」はありがちな方便だけど、それを取り巻く状況と心理の重なり合いが何とも切ない滋味を醸し出しており、好きな一篇であります。 |