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斎藤警部さん
平均点: 6.69点 書評数: 1357件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.997 5点 英国庭園の謎- 有栖川有栖 2020/10/29 18:12
何と言っても「ジャパウォッキー」、この惜しさ、残念さは筆舌に尽くし難きこと       の如し! サドゥンエンドの曖昧放り投げさえ無ければ…それでも余韻は叫び続ける。これが象徴することに尽きる。つまり、他の作品も含め、ちょいとイカシタ思いつきを抹殺して立ち去る愚行を避ける行為の存在価値がやたら光る短篇集。 退屈はさせない。

「雨天決行」 アイディア煮詰めの工程が透けて見えるようで。。 イタリアっぽいスペイン人の名前を探したんだろうなあ。。とか。 足跡の機微を最後まで引っ張らない展開は妙に目を引いた。代わりに持ち物の手掛かりで最後まで持たせ、状況のロジックで一気に、センチメンタルに犯人を落とす。
「竜胆紅一の疑惑」 広がらないなー、犯人も光り過ぎてすぐピンときちゃうし。 でも読ませるんだな。 これ、サザエさん近所の話じゃないですよね?
「三つの日付」 画像ググる時は注意ってやつですね。 コンパクトに良くまとまってます。
「完璧な遺書」 スリルはあった。 犯人に全く同情出来ず(評価とは無関係)。 むかし悪友のPCにいたずらしたなあ。。(今思うと何たるやり過ぎ!) これいちばん鮎哲っぽいかな。
「ジャバウォッキー」 グルーヴとスピードがあった。 犯人と探偵両方に同調しちゃう(評価とは無関係)。 しまそう『糸ノコとジグザグ』の線を狙ったって、さもありなん! しかしこんだけの物語ポテンシャルを、大化けさせずおしまいか。。
「英国庭園の謎」 エンディングシーンは良かった! 暗号そのものは何の驚きも無いけれど、その立ち位置がなかなか。。 蛇蠍キャラの被害者だけど、極悪人てより悪乗りし過ぎる人なんだろうなあ、自分も気を付けます。

鮎川哲也の、神憑ってない時の短篇を集めたみたいな本だが、悪くないです。 それとない爽やかさに会話の愉しさもグーよ。 (6点とまでは行かんけど、5.4かな。)

No.996 8点 ジャンピング・ジェニイ- アントニイ・バークリー 2020/10/27 16:46
“すべて承知していることを気取られてはならないし、なおかつ危険を見くびらせてもいけないのだ。”

名サドゥンエンド(それだけで1点上げ!)が光る、新本格の雄バークリーが大昔に放った会心の一撃。 ミステリ思考実験をよくぞここまで大胆にこねくり回したものです。 最高の英国式ユーモアも絶妙に馴染んでいます。

「ぼくならもうすこしはっきり言うね。殺人であることは明白だ、と」 “事実を途方もない仮説として議論するというアイロニーを、ロジャーは楽しんでいた。かわいそうに、コリンにはこのアイロニーはわかるまい。”

これ言うと一気にネタバレくさくなりますが、一風かわった登場人物一覧に、よく見ると真犯人の大ヒントがあるじゃないか。。。

“いずれにせよ、ロジャー・シェリンガムが殺人事件の容疑者となるという考えは、ロジャーを面白がらせずにはおかなかったのである。”

※弾十六さんがEVH追悼なら、私のは津野米咲追悼みたいなタイミングになっちゃったかな。。不謹慎な物言いですが。

No.995 6点 探偵映画- 我孫子武丸 2020/10/22 13:00
ストーリーがもうちょっと暴れてくれたら良かったかな、折角のトリッキーでギミッキーなメタミステリ(?)なんだから。必然性ある「告白合戦」の位置付けは興味深い。「叙述トリック」が完全に映画の枠内に押し込まれてる構造なもんで、そこで驚天動地とも行かない歯がゆさは仕方ないか。(「メイキング」の方を一皮剥けさせて大爆発、とは行かないものか..) でも発想は面白いですね。 ま、ユーモラスで明るいのはいいけど、せめてもう少しの分厚さが欲しかったね、お話に。んでも、あの映画枠内の真相とその隠し方&バラし方は小味なれどなかなかピリっとしてますよ。映画枠外のトリックもまずまず。悪くないです。6.2点あげちゃいます。

No.994 7点 そして扉が閉ざされた- 岡嶋二人 2020/10/19 19:16
甘い話だな~~ とフンフン読んでたら最後、やられました! 数頁で一気に発熱しましたね。 そのくせあっさりしたエンドも好きです。

友人関係にある若い男女2x2=4人の容疑者たち。。うち少なくとも1人は犯人のはず。。もう1人の友人女子「三ヶ月前の死」の真相を明らかにすれば、監禁されてしまった「核シェルター」から外に出られるかも知れない、、保証は無い、、死んだ女子は、幌をオープンにしたアルファロメオで断崖から飛び降り自殺を図ったと警察には目されているが、殺人の疑いを棄てきれない彼女の母親が(武器製造会社社長であるその夫は娘の死のショックが引き金となり病死)自らの別荘地下に作った核シェルターの中へ、催眠剤で眠らせた4人を閉じ込めた、と思われる状況。。 「身動き取れない現在」と「自由に動けた過去(回想)」のカットバックで話は進行します。

真相を探り当てようとする男女4人の証言と推理の持ち寄り合いが微妙にして明瞭な齟齬を来たす様は、割と有名な 「四つのピースで出来た直角三角形、ピースを並べ替えるとあら不思議、何故か1マス余ってしまう。。」 の錯覚パズルを彷彿とさせてくれなかなか興味津々。
これで脱出劇サスペンスと恋愛スクランブル、そして社長を失った「会社」の動静をガッツリ書いてくれてたら、、それでこの結末だったら、、ちょっとヤバいくらいの出来だかったも知れませんね。。やっぱ「人間を描く」ってのは大事。。とか言いつつ本作はやはり必読書オーラぶんぶん漂う、昭和末期を飾った力作と言えましょう。 当時はカロリーメイトのプレーン味って無かったんですよね。 (あとアレか、やっぱ4人がシェルター内に運ばれたシーンを最後にはっきり晒して欲しかったな..)


【犯人の名指しはしませんが、ここからネタバレと思います】

わたしゃてっきり、咲子の母親、少なくともそのミステリ的バリエーション、が真犯人じゃないかというありがちな疑いが頭を離れず、おかげでアノ真相の可能性なんて頭の隅を過ぎりもしませんでした。。。。 アホや。。。

No.993 7点 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー 2020/10/16 19:55
「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」 なる台詞の味わい深さよ。。。これに尽きるんじゃなかろうか! んん~そうねえ、レドヘリと言えば聞こえも良かろうが、ちゎっと無駄が多過ぎひんかのう、アレの。。とは思うんですけどね。。 でも死にネタがこんだけ豊富だからこその、真相隠匿にはなってるわけで。。 芸術ってのは、罪深いもんなんですねえ。。。。 いっけん地味な物語ではありますが、後からじわじわと迫り来るものがありますよ、特にその、犯罪動機の強さとリスクのやばさとのバランスだかアンバランスだか。。 登場人物一覧には入ってなかったけど、老獪な私立探偵ゴビィ氏の造形は実に味わい深かった。 いっやー、いかにもアガサクらしい、人を騙すニクい作品!  んで最後に、この家系図、アンフェアやろ!(笑) なんちゃって。。。。

No.992 8点 狂骨の夢- 京極夏彦 2020/10/08 18:30
「本当に前世の記憶だった訳だよ」

うっかりすると読者の記憶からこぼれてしまいそうな、こぼれ寿司の如くふんだんに盛られた内容を味わい尽くせばこりゃあ面白い一冊。
シリーズ先行二作に較べると、トリックや真相はきっちり枠の中で纏まっている一方で、物語背景の遠大過ぎる奇想ぶりにはフラフラします。バカミスにも通じる大胆爆走の力点置き所を一旦チェンジしたのですかね。
前半分強は作者らしい親切な冗長に溢れていたものの、全体として感じればこれは、長大なサイズに関わらず密度厳しくビシリと詰まった、えも言われずリッチな犯罪ファンタジー小説です。 もはや、叙述トリックではない。。。。

“ありとあらゆる幻想が次次と現実に姿を変えて行く。それがどう云う意味を持つのか、そんなことは全然解らなかったが、兎に角おお、と云いたかった。”

いくつもある反転の中で、ひとつ際立ってブライトなやつ(道尾秀介みたい..)が出て来たのはちょっと笑っちゃったが、大きな救いになりました。 秘密の通路はルール違反とか、楽屋落ち的メタな物言いもポロポロあって可笑しかったなあ。
歌が、記憶ときほぐしの鍵を握っていたなんて、素敵な話です。。。。 と思っていたら!!。。 このへんは登場人物も作者も、余裕でさばいてる風ですな。

そしてこの、バッサリ来る、名エンディング。

No.991 8点 白光- 連城三紀彦 2020/09/30 11:35
何故連城長篇は緩むのか、その神髄が見えたぞ! と思って少し寂しくなった数十秒後にはもう、その予断は蹂躙されていた!! 絶句。 ここまで重く哀しい真犯人●●●●は、ちょっと無いぜ。。。。 これぞ和のフレンチ。表題も完璧。

二組の夫婦、妻が姉妹どうし、双方に一人娘。 妹のほうの娘が或る日、絞殺屍体で発見される。 場所は姉の家、一緒にいたのは老いたる舅。。。この舅の朦朧とした独白で幕を開ける、「私という名の変奏曲」の変奏曲のようでもある多重告白構成のサスペンス。 戦争の深い影も沁みた、酷い話。 警察での供述が妙に中途半端に文学的だったりで、ちょっと笑っちゃうとこもありました。 ある人物のいちいち「~~では屈指の男だ」と述べたがるクセの強い独白はヘンにユーモラスでした。 そして、終わってみれば◯◯要素などどこにもない。。という薄ら寒さよ。 (いや少しだけ、あまりに淡いのがあったか)

「君を抱きたいんだよ。そのためにここへ君を呼んだ・・・・・君に電話をかけた時からもう誘惑は始まっていたんだが、気づかなかったのかね」 ← 記憶に残る台詞

蟷螂の斧さん仰る
> 最終章の独白がその前の章と前後していたら、もっと強い衝撃となったと思います。
これは、アレのことですよね。 もしそうなっていたら、あまりに怖ろしい。。。。 9点行ってたかも。。

【【 以下、犯人名指しこそしていないものの、極めて強いネタバレ 】】

殺人犯人、言ってみれば上流から下流まで全工程で計3人(!!!)もいるのに、誰一人として(少なくとも終盤に差し掛かるまでは、標準的読者の?)嫌疑内に置かれそうもない、意外極まる人物たち。。。この空怖ろしい技巧には心底参りましたよ。

No.990 8点 渚にて- ネビル・シュート 2020/09/25 19:56
9月になれば、すべてが終わる。。。。。。。。。 絶望を希望がやさしく受け入れる僅かな時間に、平和が訪れた。希望光放つ所に、争い鎮まるいとま無し。 コバルト爆弾飛び交う第三次世界大戦なる蛮行の果て、救世主ジギー・スターダスト光臨の奇蹟もなく、ザ・ビートルズがアメリカで大ブレイクを果たして間もなく、人類とほとんどの生物の命が地上から絶えてしまう(音楽業界はチャンスを逃した)。 北半球は爆撃で全滅。激甚な放射線は赤道を越えて南半球を侵食し始め、今や残るはオーストラリア南部の更に南部だけ(大都市ではメルボルンのみ)。

“写真の縁の中から、シャロンが、よくわかっている、そうだと言わんばかりに、モイラを眺めていた。”

放射性物質や放射能に関する考証の危うさはともかく、これは心をつかんで揺さぶり感情を呼び起こす、ニール・ヤングの同名曲ほどうらぶれていない、強く静かな物語でございます。 99.99%無人の筈の北半球から送られてくるモールス信号の謎には、ちょっとしたミステリ的興味と冒険が絡みます。 小説そのものも、登場人物たちの人生も、避けられない終わりがすぐそこまで訪れているのに、どこかしら特別感を帯びながらも通常運転の生活が慌ただしく過ぎて行く。 しかし、諸々そうきれいに行くのかな。。 行かせたいものだ。 本作はきれいに行かせた人々を主役級に据えている。 そうは行かなかった人々も、暗示的に描写される。 
終末ならではお約束のユーモアは、ブラック過ぎて切ない。だがすぐ爽やかな位相に転じる。更に一周回って大笑い。最後やっぱり切なさと爽やかさへの二重収束。 そこへ来てドワイト艦長不器用ゆえのホワイトユーモアも頻発して、、素敵です。

「しかし、この土曜日は、多くの人たちにとっては、健康で過ごせる最後の週末になるかも知れません」 「あなたも、いまにりっぱな腕前のタイピストになれるわけですね」 「犬がどうなるか、ひどく気に病んでいるのです」 「しかし、わたしは、最後までまちがったことをしたくないのです。命令があれば、それに従います。わたしは、そのように教育されてきたので、いまさら、それを変えようとは思いません。」

落ち着いたストーリー展開の中に突如、悪魔の宴の如く炎を衝き立てる、犠牲者が異様に多いカーレースのシーン、そんな死の愉楽に興じる者たち。主役級の一人もその中にいるが、普段は冷静な科学者で、彼の下す状況への冷徹な専門家判断は、仏のようにありがたい諦観を恵んでくれる。 最後ほんの数十ページには号泣の機会が群発。 個人的にはオズボーンの母の死が最も心に残ります。 それよりずっと前の頁だが、ラルフとの別れのシーンもたまらんな。。 ホームズの食欲増進とか、妙にユーモラスなエピソードのアタックも密かに泣かせます。 それにしても、きっかけは1960年代前半のアルバニアか。。現代で言うと、どこの国だってんですか。。。

「どういたしまして。世界の終わりなんかじゃありません。ただ、われわれの終わりです。世界は相変わらずつづいているでしょう。ただ、われわれが、そこにいないだけです。われわれがいなくても、世界はけっこうやっていきますよ」

舞台は南半球オーストラリアですから、9月と言っても冬が終わり春が始まる時節。 ユーミンの「最後の春休み」と「9月には帰らない」が、いつも以上の切実さで頭をよぎります。 冒頭エリオットの詩も最高に効いているな。。 ある意味ソフトスカトロ的なシーンも最後のほう、ありますw。 だけどこれがまた、刺さるのよ。(色んな意味で、とかふざけちゃいかん)

“いっそう賢明な居住者が、不当な遅滞なく、また住めるようにするためには、その前に人類を一掃して、世界を清潔にしなくてはならなかったのだ。さよう、こんどの出来事は、おそらくは、そこに意味があるのかもしれない。”

これで最後かも、と思うこと、歳を取ると増えますね。 あれが最後だった、と思うこと、歳を本当に取ると増えるのでしょう。
ラストシーンは ”ウォールスィング・マティルダ” を、主役級以外含めた数人で歌いながらフレームアウトかと思ったら、、違った。。。。

「わたしは、あなたが、わたしにとって、つらい時期となったかもしれないものを、楽しい時間にかえてくだすったことを話します。また、あなたは、そもそものはじめから、なにひとつ、あなたのためにはならないことを知っていて。そうされたことを話します。わたしが、いままでどおりのわたしで、飲んだくれのやくざものにならないで、シャロンのもとに帰れたのは、あなたのおかげだということを話します。あなたはわたしが、シャロンにたいして忠実であることを容易にしてくだすったこと、そのために、あなたが、どれだけの犠牲を払われたか、そのことを話します」

終盤は、まるで本当に残された命を惜しむように、じっくり読まずにはいられませんでした。 まだ生きていてよかった。

No.989 7点 濡れた心- 多岐川恭 2020/09/18 17:17
本家のフレンチもいいが日本のフレンチも素敵よ。文章も独特にまず流麗。成人男子の書く少女趣味が妖異に花開いちゃってますが、日本人のフレンチ趣味全開に通じる所があるかも。日記をリレーする数多の重要人物がどれも個性はっきりでミステリ的に魅力的。人数多いもんだから、そのバトンタッチの組み合わせの妙がまた旨味あるのよね。何しろ怪しい奴が多すぎて、かなりトリッキィな真犯隠匿してそうな気配も濃厚で、先が気になること気になること。解決篇では、心理に軸足のロジック展開が冴えてますね。それは核心を衝く弾丸の数のロジックにまで波及。(弾丸そのものの件はご愛敬でしょうか)バッジの件もご愛敬だけど、質の良い、スパンの長い後出し証拠で嫌いじゃありません。 恋愛、友情、同性、異性、未来ある年少者へのまなざし。。。貧富の格差。身分の差。社会派とは違うけど社会側面もミステリの不可欠要素として描かれている。 意外な真犯人というより、意外な犯行動機というか、いや違うな、意外な人間関係こそ、まるでクリスティを思わす巧みさで隠匿された、やられたーって感慨の深いものでした。 ただ、途中、妙に本格調で野暮な取り調べ描写がブレーキ掛けるとこは少しあくび出たな。。そこんとこもう少し巧みにトランジションしてくれたらもっと良かった。 銃刀法施行直前の物語、発表は施行直後(昭和33年)。 ところで、本作のテレビドラマ版、問題教師役が岸田森なんですね、あまりにイメージぴったりで笑ってしまいました。

No.988 6点 ダイヤを抱いて地獄へ行け- ハドリー・チェイス 2020/09/15 21:48
馬鹿げた不品行で航空会社を解雇されたハリーは、正直者の貧乏生活に嫌気が差し、、、自らが機長としてサンフランシスコから東京まで運ぶ筈だった巨額の工業用ダイヤモンドを飛行機ごと強奪するという豪快悪事を企てる。ハリーの今カノ、グローリイの元彼デレーニイがギャングの大物に収まっているのを幸い、奪ったブツをこの男に売り付けて換金する計画を立てるのだが。。。。  へっ、こいつぁ安いな。でも面白えや。主役と重要登場人物群との関わり合いが意外と浅くて、、 【こっからパラグラフ内はストーリーネタバレ的になります。気にならない人は読んでもいいでしょう。】 流石に交渉上手の大物ギャングも、ダイヤを盗まれた日本人老練実業家タカモリ(天皇陛下への謁見を夢見る)もそこで関係終わりか!? スリルの発生源だったマネーゲームの規模も呆気なくしゅう〜と萎んじまうし。。前半の、攻め込み逃げ喰い付き追われのクライム痛快進行は素晴らしいんだけどさ、後半の展開には思わぬ人間関係の陰影もあったけどさ、、魅力的な殺し屋ボーグ(デレーニイの右腕)には痺れたけど、彼やハマーストック部長刑事だけでなく デレーニイ、タカモリ、出来たらグレイナー父からも追われる激アツの展開が欲しかったが、そんなん受け止められるほどのタマじゃないか、主役のハリーは。 飛行機パイロットなんてやってたとはとても思えないくらいバカでペラくて魅力に乏しい、なんなんだこの、男が絶対に惚れない主人公は(笑)!! 貧乏からの脱出だとか一攫千金とか男一匹勝負がどうしたのテーマ感もさっぱりだし、グレイナー娘(ジョーン)とのロマンスは結局行きずりのワンショットもいいとこだし、まあジョーンが上流育ちのまともな人間としてハリーに語る強い言葉や突き付ける態度はちょっと良くて、所謂ハードボイルド的ヒーローに近い、マーロウファンなんかに好かれそうなのは主人公ハリーではなく、かと言って知恵出し世話女房グローリイでもなく、おしまい近くに現れてさっと消えるこの美しき令嬢ジョーンではなかろうか。それ以上にイイのが”人狩り大好き”敵役ボーグである事は言うまでもありませんが。 とにかく読み捨てには最高の一冊、まるで主人公の人生の様。 (妙に記憶に残るのも共通)

それにしても古の創元推理文庫ハドリー・チェイスと言えば名邦題の宝庫なわけですが、この「ダイヤを抱いて地獄へ行け」もスコブル快調ですね! 頭韻を踏んだ語呂もキマってるし、かと言って「ダイヤを抱いて第八地獄でお・し・ま・い・DIE」までやり過ぎなかったクールな都会的さじ加減には脱帽です。 ただまあ、これを言うとネタバレなわけですが、誰もダイヤを抱いて地獄に行ってないし、これから行きそうな奴もいないんだけど(笑)。

No.987 7点 ゆきなだれ- 泡坂妻夫 2020/09/11 11:56
「宵待草夜情」(連城)をあまりに優しくしてしまったような短篇集。 一篇一篇が温かく終わるのか冷たく終わるのか分からないスリルもあるが、どれも終わってみればじんわり、次作に移るまでしばらく冷却期間を強いられる。 最初の3/4は美しい文芸世界に浸り、最後の1/4からの急展開に手に汗握る、そんな心憎い構成の作品群。

ゆきなだれ
昔の同僚(後輩で年上)女性と遭遇。 タイトルの意味が解かれた時、その重さに涙。 医学的ポイントがミステリ性を突き上げた。 仄かな叙述ミスリードも効いた。 ショッキングだが救いのある最後の台詞、「a、b、c」の並び順がもし「c、b、a」だったら、怖い、、  
8点

厚化粧
恋愛下手の男(ノンケ)が、昔の隣人男性を偲ぶ。 掃除で出て来た、自分宛の手紙一通と、隣人宛ての未開封の手紙二通。 タイトルにまさかの意外性。 沁みる。 
7点

迷路の出口
謎の女性と年一の逢瀬。 キーワード「都市写真」がそこで効いて来るとは。。 そんな事情で、そんな儀式って! 
7点

雛の弔い
昔の師匠の謎めいた死。 死に方に秘められた経緯と人情もさることながら、破門のホヮイダニットが熱過ぎる。。。 
8点

闘柑
何これ、プロバビリティの解決過ぎひん? 考えオチ期待し過ぎ!? ユーモア過多?! 妻の旧友が昔の悲恋を語るのだが。。 
6点

アトリエの情事
昔の寄食先の奥さんと、展覧会広告の裸体画として再会。 (あからさまなヒントが晒してあるとは言え、) この反転の異様な熱さは。。。 ある種の密室(脱出)トリックも、余分感なくすっきり。 真相は強烈にじんわり来ます。。。。ジンストレートのよう。 
8点 

同行者
大学時代の女友達(ただの芝居仲間)と再会。 ビジネスシーンで活躍する彼女は、仕事で海外に飛ぶと言うが。。 色んな意味でなかなか意地の悪いお話。 
7点

鳴神
少年の頃、疎開先で世話になった年上女性と遭遇。 壮麗たる刺青を纏い山水画を嗜む彼女は、本場中国へ旅に出る途上だと言う。 日本に帰ったら久しぶりに刺青を見せてあげる、と約束してくれたが。。 この狂気に触れる真相はちょっとやばい。
8点

No.986 7点 黄色い犬- ジョルジュ・シムノン 2020/09/08 11:32
本格の薄皮を上手く被った人情サスペンス。 心に残る景観は、陰鬱な天候なのにとても鮮やか。 連続傷害及び殺人事件そして未遂。。。。 本作には面白い二重逆説趣向がある(これのせいで本格っぽいのかも、最後の容疑者集合との合わせ技で)。 惨めで哀れな人でありながら、ちっとも同情を誘わない真犯人像の趣深さ。 あと、これは微かにネタバレ掠るかも知れないが、、 犬の成長がちょっとしたポイントになってるのがニクい、並びに感動的。 そして本作のこの、情景豊かな名オープニング。。

No.985 7点 凍った太陽- 高城高 2020/09/06 13:39
X橋付近/火焔/冷たい雨/廃坑/淋しい草原に/ラ・クカラチャ/黒いエース/賭ける/凍った太陽/父と子/異郷にて 遠き日々 *以下エッセイ われらの時代に/親不孝の弁/Martini. Veddy, veddy dry.  (創元推理文庫)

エッセイ篇で告白されている通り文体、表現へのこだわりが結集し、書かずしてシーンを描く力、焼き付ける技が半端でない。ラストシーンの進む方向に開きを持たせて、且つ曖昧な詰めの甘さは感じさせない。文章は達者だし、すっとぼけは上手いし、北国の都市に田舎を舞台にリアリティというか本物っぽさが充満。 オッと思う独特な表現が、しつこくない絶妙の頻度で現れる。 被殺者、被害者の意外性、そのショックの強さを特筆すべき作品も目を引く。 時系列のうまいシャッフルも自然で、それこそリアリティを盤石にする役割まで果たす。 ただ、本格ミステリ色を備える一部作品では、様々な美点が終盤で急に損なわれてしまう傾向が感知される。

昭和30年代(主に前半)の殺伐感でムンムンの一冊ですが、その感覚を剥き出しの粗さで提示したデビュー作「X橋付近」、研磨を重ねて鋭さと丸みを兼ね備えた名作感ある「ラ・クカラチャ」の二作がその極致で息苦しいほど。 「火焔」「廃坑」の二つは、舞台は全く違うが”その後どうなっちゃうの?”って他人事でなく危惧してしまうサドゥンエンドに引き擦られるのが共通。映画化も納得の「淋しい草原に」はノスタルジックなS30年代を味わうのに最適。ユーモア溢れてちょっと異色の「冷たい雨」も映画っぽい。本格ミステリ性がいちばん強い「黒いエース」は、ハードボイルド展開部の本物感は素晴らしいが、前述した様に謎解きの所で急に作り物くさくなるのは、まあ愛嬌だ。

大学のフェンシング部を舞台とした硬質の物語「賭ける」以降の四作には’志賀由利’なる女性が登場するが、著者はシリーズ物とは考えていなかったとの事。よりハードに引き締まり謎解きも渋く決まった「凍った太陽」は流石の表題作、アクションも見せ場たっぷりでやはり映画の匂いがする。他の作品では翳の深いミステリアスな存在だった由利さんが、ユーモア強く狂言の様な「父と子」では峰不二子みたいな立ち回り(笑)。 最後の「異郷にて 遠き日々」だけは何と平成19年に発表された、全く衰えの見えない涙のカムバック作。。。。’志賀由利’四篇を敢えて連作と捉えれば、、連作だとするとかなり独特で意外性あるその構成も手伝い、また大いなるブランクが熟成の味と芳薫を放ちまくった恩恵も相まって、単に血沸き肉躍るとも、深い溜息をつかされるだけとも違う、複雑に心を揺さぶられてぼうっとしちゃううれしさを堪能できます。

エッセイも小説同様、昭和30年代と平成19年のものを並列。 小説同様、ヘミングウェイがキーワードになる所が多いです。 著者のハードボイルド文体論には頷ける所が多いが “動詞も力強い四段活用のものが適当だ” って・・・古文かと(笑)。 五段活用の事なんでしょうが、これはなかなか目から鱗が落ちました。

No.984 8点 腐った太陽- 黒岩重吾 2020/09/01 11:30
“加津子は青い空を見上げた。競輪場の方から微かなどよめきが流れて来た、大穴でも出たに違いなかった。”

昭和30年代中盤の大阪。 敗戦の打撃で転落し、コールガールで暮らしていた佐伯(加津子)は、客の一人だった工業機械メーカー社長宮内の愛人となり、社長秘書として入社する。脚の悪い宮内は戦後混乱期の罪深い過去を佐伯に告白するが。。。。ある夜水死体で発見された。佐伯は復讐を誓い、真犯人を追い詰める仕事に着手する。折しも会社の極秘情報がライバル社へ漏れ大打撃を受けている時期。ライバル社のキーマンと密会を目撃される営業部長の泉。その右腕、課長の行枝。生真面目な取締役技術部長の加藤。次期社長候補筆頭だが人望の無い常務の井岡。佐伯に居場所を追われた形の元社長秘書鈴木は失踪する。夫と同じく脚の悪い、宮内の妻安江は夫の死後不審な様子を見せる。調べが進むに従い宮内の過去にも一気に暗雲の疑惑が。。。

この意外な真犯人は、分からなかった! 見事な目眩ましはまるでクリスティの技だ!! 結末に至るまで、最高にスリリングな良作ミステリとして余裕の7点を想定してたけど、最後の真相爆発で8点の壁を正面突破しちまった。。

特許、乗っ取り、消えた株式。。。 いい意味で会社派だな、そうさ会社派で悪いわけがない、会社ってミステリにとって最高に魅力的な舞台じゃないか、、なんて澄ましてたら、実はひっくり返ってガッツリ社会派恩讐の滲む真相だったか。。。!! おまけにある種の「人間の証明」がそこに隠れていたとはな!! 

最低のカス野郎のクセして妙に魅力あるコールガールブローカー北野。 翳はあるが光をもたらす純朴青年杉野も忘れ難い。 大胆な拷問シーンはちょっとコミカルな味もあった。 だからこそ、このエンドは。。。。。。。

No.983 7点 未亡人- ミシェル・ルブラン 2020/08/30 18:12
行け、コーラ、やるんだ! 。。。。 妻には愛人がいる。夫は社長で妻に暴力を振るう。秘書は妻に恋慕する。妻は夫を殺そうと、車で出掛ける夫のコーヒーポットに睡眠薬を入れた。夫の消息が途絶えた。心配した秘書は或る「社長からの手紙」を持って妻の所へやって来る。妻と愛人は手探りの作戦を練り始める。ところが、夫。。おっと、これ以上のあらすじは書くと殺されます! 結末だけでなく話全体がどんでん返しの連続でギンギンのイカしたローラーコースターサスペンス、最後まで緩む事なくビッチリ充実、こりゃー凄い!! そしてこの激しく皮肉たっぷりのエンドに、エピローグ的ラストパラグラフの寂しい味わいよ。。

“ラジオから流れるありふれた歌謡曲” ってのが気になりまして、ためしに当時(1958年夏~秋)の仏国ヒットチャートを軽く調べてみたら…3月中旬から9月頭までベルギーのコメディ女優Annie Cordyさんの"Hello le soleil brille"なる歌が一位を独走しています(実はこれ、誰もが知ってる超有名曲!)。 9月上旬から翌年1月上旬まで首位を独走したのは米国の双子デュオ Kalin Twinsによる "When"という楽しい指パッチンソング。 遡って2月~3月に掛けて一位に居座ったのは本国フランス(但しイタリア系)のシャンソン歌手、アラン・ドロンとのデュエット(但しドロンは甘い囁きだけ)で有名なDalidaさん"Gondolier"(名曲!ゴールドフィンガーと読まないように)。 尚3月にユーロヴィジョン1958を獲ったのはAndré Claveauさん歌う "Dors, mon amour" なる甘ったるい3拍子バラード。 ほんとはもっと詳しく調べたい所ですが、弾十六さんを気取るのは私には荷が重い。。 ※YouTubeで検索すれば当時の雰囲気味わえるチャンネル色々あります。

ところで、ジュークボックスで流れてた「ザ・ビートルズ」の曲って。。。。1958年といえばTHE BEATLESレコードデビュー(‘62)はおろか、そのバンド名での活動開始(‘60)よりも前、前身のTHE QUARRYMENが初の自主制作レコーディングをした年なんだが。。著者が後に改訂したのか、同名のバンドが先にフランスにいたのか(?)、或いは何らかの誤訳か。。。 で、その「ザ・ビートルズ」の曲の歌詞ってのがまた、そんな歌あったっけ?? って感じなんだけど。。 謎が深過ぎます。

さて、創元推理文庫の登場人物一覧、ちょっとネタバレ入ってないでしょうか(笑)。 それと、この作品に於けるトゥッサン警部(シリーズ探偵)の存在って。。。。鮎川哲也「白の恐怖」における星影龍三のそれすら軽く超えているじゃないか。。。。

No.982 4点 影のない男- 島田一男 2020/08/28 15:40
南京香水の女/香港岬の妖精/白檀国の女王/桑港(シスコ)の女神像  (徳間文庫)

日本の夏、昭和の夏と言えば島田一男の短篇だが、このシマイチはチョイとイマイチだね。 ミステリも文章も旨味に欠けて、ピリっとしねえや。 お色気で押してるとこも、何だかなあ。 ただ「白檀国」だけはちょっとばかり深い真相だったね(警視庁の斎藤警部も大活躍!)。その勢いで期待を持たせた「シスコ」がまさか、そんな優しい、毒の無い裏の無い結末だとは。。(ネタバレくさいけど、一男さん途中まであの女を犯人にする気だったんじゃ。。大使館のシーンとか、大いにニオったよ。)

FBIのGメンである日系アメリカ人、表の顔は韓国系通信社のキャメラマン、サクラ・ドーモンが業界仲間(通信社のほう)のスペイン人アントニオ・アルカセル・ド・アフォンソ君や警視庁公安二課の斎藤警部と付かず離れずで国際事件をバッサバッサと解決する痛快お色気アクション!… と言いたいところだが、痛快とは行かんな。 映画だったらいいかも知らん。

「一杯飲みたいんだ」
「うしろのシートの下に、スコッチでもブランデーでも入ってるわ」
「音楽を聞きながら飲みたいんだ」
「ラジオのスイッチを入れればいいわ」
「飲んだら、ひと踊りしたいんだ」
「×××××なら、その前を右に入るのよ。でも、右折禁止だわ」
「歩こうぜ」

  ↑ この会話は好きだ

No.981 6点 凶鳥の如き忌むもの - 三津田信三 2020/08/26 19:21
「密室」 からの人間消失かと思いきや。。 そこに巨大な盲点というか盲面というか、広大な盲空間があったわけだ。。。。

夏の瀬戸内海の事件話はエエなあ。 シリーズ第一作に比べると格段に読みやすく、映像もよく浮かび、ストレス無くサクサク行けた。とても昭和三十年代初頭に思えない、あまりに頑固な平成の空気感はもう仕方無いか。誰の台詞か分かりづらくなる癖はかなり改善されてた(所々あったが)。 コージー過ぎラノベ感強過ぎでホラーな手触りは無かったけど、読んでてなんとも愉しかったス。だがその果てに見せつけられた結末は、むしろ第一作のほうがガツンと来たな。。。。 それでもこの、狂気のトリックと真相! ここに行き着く迄ののんびり旅行で見せつけられる大枠のリアリティ無さはお約束で一向に気にならんけど、だからと言って、、細かい所の一々のアンリアルさはちょっとスリルを殺ぐなあ。。 おかしな落差に一々カックン来た(それでも愉しい!)。 それと、文学的意味じゃなく、本格ミステリの演出として人間がどうも書けていない。特に真犯人(!?)。これでは折角意図した結末衝撃も、詰めの甘い人間描写に吸収されてふゎっとしちゃうよ。 おかしな大きな落差。。 だが、この狂気のトリックと真相だ!

“(それにしても登っているというのに、まるで真っ暗な奈落の底に降りていくような、この妙な気分は何だろう・・・・・・)”

伏線もいっぱいありましたな、だけど意外性が一々低いよなあ。その伏線でそっち行くか?!って驚きの急転回は無かった。(あの狂気のトリック周りを除いて!) 人間消失講義に連なるダミー解決披瀝でのせこい物理トリックシャバダバは辟易したけど、やっぱあの狂気のトリックと真相には参った。 だから、もっと強烈な文章で書いててくれれば。。。。 だが読む価値はある!

No.980 5点 邪魔な役者は消えていく- サイモン・ブレット 2020/08/21 17:14
コロナ禍を少し連想させる’70年代”オイルショック”下の英国で繰り広げられる、演劇興行界大物の死を巡る物語。。。憎めないけど、もう一つピリっとしない作品、まるで主人公(探偵役)のように。それでいい。
売れない俳優兼脚本家の主人公が過去に演じた○○という劇への××誌による批評「□□□□・・・!」みたいなのがここぞという所でチョイチョイ引用されるのは面白い。俳優だけにメイクや衣装や声色で変装(時には警察に!)して容疑者や関係者と渡り合うのも面白い。んーまあ、生前贈与と遺産相続のメカニズムを押さえたナニも興味無くはないけど、、軽いユ-モア頼みでいつの間にかサラッと終わっちゃう。こういう本はそれぞれの同時代の人が読んでくれりゃ用は足りるてな風情。(あるいはその時代の風俗に興味ある奇特な後世の人が読みゃあいい的な) だけどこの、直接心理描写バッサリ斬ったラストシークエンスはなかなかいいなあ、沁みますよ。
miniさんおっしゃる通り、オネエっぽい演劇研究家の二人(同居!)のプレゼンスがやたら高いですね。ちょっとしか出て来ないのに、キャラコスパ高。(だがそういうアンバランスはB級っぽさの一因かも)

No.979 8点 奇想小説集- 山田風太郎 2020/08/18 10:40
陰茎人/蝋人/満員島/自動射精機/ハカリン/万太郎の耳/紋次郎の職業/万人坑(ワンインカン)/黄色い下宿人
(講談社大衆文学館)

爛熟の「蝋人」、爆発の「満員島」、戦慄の「万人坑」、巧緻の「黄色い下宿人」が放つ閃光で少しは霞む他の作品群も全て、根本奇想と、時に統制され時に統制を突き破る豪快で多彩なストーリー延展術を誇示し、気づくと読者はあごをなでたり穴を掘ったり空を飛んだりしている。 物語質感ウェット⇔ドライのスペクトル幅広具合も凄い。 素広平太博士の名前は何度見ても笑ってしまいます。

No.978 7点 マリアビートル- 伊坂幸太郎 2020/08/16 19:03
「でもね、いつもだったらわたしも、手加減してあげて、ってこの人を宥めるんだけど、さすがに今回ばかりは、止められないわね」

始発から終着駅まで風をまくって快走、攻めのユーモアが邪魔せず加勢する、タイムリミット応用型クライムサスペンス。 霞の中に忍ぶフーダニット、フーズホワットの睨み。 伏線シャバダバもそう煩くなく、ジャストフィットの意外性! 目覚まし時計と催眠剤がまさか同じ目的で、とはな。。。 

“一瞬のことではあるが、激しい音を立てて、後方へと走り抜けて行く。穏やかに疾駆することは許さないぞ、刺激があってこその人生だ、とお互いを揺らし合うようだった” 

乱歩の話に出て来そうな王子にいちばん直接甚振られるのが王子の次に最低な(?)木村であるおかげで、嫌感が無意識に緩和されるのがミソかも(おいらだけか?)。 ああああーー 鈴木って! 忘れてた!!笑 イニシエーションなんとかの(違う)!!  

最終コース近く、意外な方面からの意外な参戦にはしびれます。 終盤に近づくにつれ、もっとも気になるのは「あの人物」と「あの人物」がそれぞれどうなるのかだが。。 最後は、読者の黯い復讐嗜虐性に火を付けて悪い作者は立ち去ります。

XTCのアルバムを思い出すあの二人組が脳内映画でずっとEXITの二人でした。背格好がそっくりで双子に間違われるってんだから違うけどね。  コロナ禍の下、帰省往路の代わりに読ませていただきました。

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
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採点傾向
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