皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
バードさん |
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平均点: 6.14点 | 書評数: 318件 |
No.178 | 6点 | ラッシュライフ- 伊坂幸太郎 | 2019/12/07 19:22 |
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時系列を無視した順番で話を提示することで、中盤まで物語の構造を隠匿している。最後の方で時系列が明確になるため、読者は最後まで読んでようやく、物語の全容を把握できる小説。
んで、この時系列シャッフルだが、私はそんなに良いと思えない。シャッフル自体に何か意味があれば別だが、そうでないなら+の効果がなく、単に途中をわざと-に書いて、最後で-から0に戻して、後半が面白かったと錯覚させるだけの小細工のように感じる。 物語間のつながりが分かりにくく、ややフラストレーションを感じながら読んでいた。(『ゴールデンスランバー』も最後に全容がわかるタイプだったかもしれないが、昔の記憶を引きずりだすと、そちらはストレス感じずに読めた気がする。違いは何だろう?) と、ここまで結構辛く書いたが、実際にはそこそこ楽しめた(笑)。各物語の続きが気になった上、伊坂さん流の軽快な掛け合いに乗って、各話単位ではスラスラと読めた。 最後におまけですが、過去に6点をつけた伊坂作品、『重力ピエロ』、『オーデュボンの祈り』と本作の好みを比べると、 『重力ピエロ』<『ラッシュライフ』 『ラッシュライフ』<『オーデュボンの祈り』 『オーデュボンの祈り』<『重力ピエロ』 です。どの作品が好きかと聞かれたら騙し絵のごとく1周します。 |
No.177 | 6点 | 黒後家蜘蛛の会1- アイザック・アシモフ | 2019/12/04 18:38 |
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設定は好みで、読みやすかった。
全体を通してアシモフの博学ぶりが発揮されているが、その結果こっちの知識が足りずよーわからんという話があり、その点はちと残念。特に書籍や歌などの知識が謎の解明に必要となる暗号系の話は厳しかった。そういった蘊蓄を下らんと吐き捨てるトランブルが私に一番近い感性の登場人物でした(笑)。 総合的にはまずまずなものの、雰囲気が好きなので続きも読みたいと思った。 収録作毎の書評 ・会心の笑い(7点) 好調な出だし。盗んだもの云々の謎よりも犯人とヘンリーが結びつく瞬間が面白い。 ・贋物(Phony)のPh(7点) 本作を気に入るかどうかは、カンニングの肝が学生でなく教員側にあるという意外性が楽しめるかどうかである。 (この本の書評じゃないが、「スケットダンス」という漫画でこの意外性を用いた話がある。「蜘蛛の会」というタイトルの話も別にあるので、作者は本短編集を読んでるっぽい。) ・実を言えば(7点) 言葉を論理的に扱うのは結構難しいという話。 (真面目な文章を書いているとこのことをいつも痛感します。論理を語る上で、日本語には冠詞が無いのが辛いです。) ・行け、小さき書物よ(6点) 小道具を活かした佳作。この話で一番センスを感じたのはタイトルっすね。 ・日曜の朝早く(8点) シンプルな仕掛けが光るアリバイ工作もの。このしかけは好きですね~。 ・明白な要素(7点) 乱歩さんの「赤い部屋」のオチといい本作のオチといい、短編集に一本くらいは有りと思う。長編でやられたら怒ると思いますが・・・。 ・指し示す指(5点) しかけはアホ程シンプルだが、「シェイクスピア」に関する語りがすごい。私は「シェイクスピア」をろくに知らないので退屈でしたが。 ・何国代表?(5点) 今度は「聖書」について語る。私は「聖書」もろくに知らないので退屈でしたが。 ・ブロードウェイの子守歌(5点) 大工音の正体を探る話。なんとなくパッとしない。 ・ヤンキー・ドゥードゥル都へ行く(5点) 歌がわからんとどうしようもないので、この話も好きではない。 ・不思議な省略(5点) これも「鏡の国のアリス」ありきの解決でイマイチ。 ・死角(5点) 謎の解決に特別な知識を必要としないという点は他の5点をつけた話より良いと思います。ただし、容疑者を全員リストアップする際にその場にいたウェイターを数え落としますかね?「ブラウン神父の童心」の「見えない男」の書評にも似た内容を書いたが、人が徹底的に現場にいた人物を調べるとなったらそうそう見落とさないでしょ。意識外の人物は、目撃者が問題に対し真剣でない場合のみ有効だと思います。 |
No.176 | 7点 | 風の海 迷宮の岸- 小野不由美 | 2019/11/27 19:17 |
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2冊目の十二国記シリーズ。「月の影 影の海」から4ケ月半も空いてしまった。(こんなに空けるつもりはなかったんざんすけどねぇ。)
今回は北東の国 戴 の麒麟が主人公。幼少期を蓬莱で育ったゆえに麒麟として未熟な泰麒の心情がストーリーの肝なのだが、少年の心の葛藤を覗く話としては良くも悪くも当たり障りがない物語という印象。ただし、物語終盤の王を選ぶシーンのこの後どうなってしまうんだ感と最終的な顛末は、十二国記らしさが出ていて良い。 綺麗な起承転結もので、この読みやすさは流石小野さん、という作品。インパクトの大きさは「月の影 影の海」の方が上なのに対し、本作の方が万人受けしやすいストーリーと思う。 |
No.175 | 9点 | 八つ墓村- 横溝正史 | 2019/11/23 11:39 |
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4冊目の横溝さん作品なのだが、今のところ毎回期待以上の満足度があり作者の力量に感服いたす。
本作は「本陣」(9点)、「犬神家」(8点)、「獄門島」(6点)を抑え横溝作品暫定一位に躍り出ました。(()内は過去の書評でつけた点数) 読みやすく、一気に最後までいけた。謎の撒き方が素晴らしく、主人公の味わうドキドキ感を共有しながら物語を楽しめる。殺人が多いせいか一つ一つの殺人事件は薄口なのが少しもったいなかったが、全体では久野おじ、濃茶の尼の役割がいい感じに謎を混沌とさせていて良かったと思う。 現場にいながら相変わらず連続殺人を実行される金田一はどうかと思うが。(初めて「獄門島」を読んだ頃は名探偵と言われてる割にまぬけで多少いらついてましたが、今はそういうもんだと割り切っています。) |
No.174 | 6点 | オペラ座の怪人- ガストン・ルルー | 2019/11/18 06:29 |
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初ルルー(「黄色い部屋」は未読なので。)
恥ずかしながらこの本を読み始める前は有名な「オペラ座の怪人」の原作がルルーだというのを知らなかったです。周りも意外と知らない人が多かったけども。 実在するガルニエ宮が舞台の本作、途中オペラ座の外観がどうも掴めずwikiで少し調べてようやく建物の構造をある程度理解。本作で重要な役割をはたす隠し通路と地下の湖はオペラ座の外観が頭にないとイメージし辛いかも。これから読む方で、文章から建物がイメージできない場合は迷わず写真を見ながら読み進めるべきっすね。 本作は非常に謎の提示の仕方が上手い。特に前半は幽霊が各所(舞台役者、支配人達、クリスチーヌ相手)で暗躍しており、とにかく謎の全貌がわからず、この先どうなるんだろうと純粋に読み進められた。個人的なピークは13章「アポロの堅琴」です。クリスチーヌがエリックの素顔を暴くシーン周辺でゾクリとした。夜中に一人で読んでたので背筋が凍りましたよ・・・。 逆に言うと14章以降にもう一山ほしかったなあ。後半は前半のドキドキ感を維持できず失速。ラストのエリックとペルシア人の会話は好きだが、拷問部屋のあたりはわりと退屈だった。(本当はそこが山場なんだろうけど。) |
No.173 | 4点 | スナーク狩り- 宮部みゆき | 2019/11/07 19:25 |
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本作を読んで一つ自分の嗜好に気が付いた。どうやら私は
映像・音声娯楽(テレビ、ラジオ):LIVE感、スピード感 書籍娯楽(小説、漫画):じっくりと味わい深い感じ を求めているようだ。(もちろん傾向なだけでこれが絶対ではない。) 本書は非常に事件の展開が早く作中で流れる時間は半日程。この目まぐるしさは映像で見た方が面白そうだなあと読んでる途中で思った。これまで読んだ宮部さんの作品は概ね好きで本書も決して嫌いではないのだが、キャラクターがなじむ前に物語が終わってしまったようなもったいなさがあり、総合的には物足りなかった。(別に「模倣犯」のようにページを増やせという意味ではないです。) |
No.172 | 8点 | 空飛ぶ馬- 北村薫 | 2019/11/01 09:58 |
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この優しい雰囲気がいい。更にそれが読者にふつふつと伝わる文章力が見事。また、全体的に文章が上手いのか伏線が良い意味で物語に隠れており、推理パートで伏線が回収されると、そういう意味だったのか!となる。
デビュー作でこのクオリティって凄いわね。北村さんのファンになったかも。点数は各話の平均+1点(デビュー作補正)。 文学と落語の引用が多く、教養の無い私はそこでにやりと出来なかったのが悔しい。94年の創元文庫での安藤さんの解説にもあるようにぜひ時間をおいてから再読したい本です。 収録作毎の書評 ・織部の霊(7点) 切腹の伏線が重要。私は本のページを破っていたのかと思いました。 ・砂糖合戦(6点) 「私」が微妙に円紫さんに対抗意識を持っているのが微笑ましい。事件の動機は逆恨みだが、現代では逆恨みってのは馬鹿にできない犯罪の動機になりつつあるね。 ・胡桃の中の鳥(6点) 正ちゃんが良いキャラ。仮に事件が無くても女子大生と円紫さんの旅だけで間が持ちそうなのが凄い。 ・赤頭巾(6点) 本短編集の中では暗めの話でいわゆるふつーのミステリの空気に近いが、この作品群の中では逆にそれが個性になっている。話は6点だが以下の何気ないやり取りが本短編集の中で一番気に入っている。 円紫「和食にしますか、洋食にしますか、それとも中華?」 私 「和食が好きです」 円紫「そんな気がしました」 私も読んでてそんな気がしましたもん。 ・空飛ぶ馬(8点) これと「織部の霊」は読者も推理可能だったのかな、と思う。木馬を消した人物はヤマ勘でも分かるが、消した理由はきちんと途中のヒントを拾わないとわからない良作ミステリ。 |
No.171 | 5点 | 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 | 2019/10/28 13:37 |
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麻耶さん本2冊目。「貴族探偵」が良かったので期待していたが、残念ながら本作はあまり好きでない。読後のどんより感は道尾さんの「向日葵の咲かない夏」に似ている。
「オリエント急行」でも感じたことだけど、斬新さと称して突飛なことをすれば必ず面白いというわけではない。本作では神様が推理無用で事件の真相を明かすが、要は作者が言ったからこれが答えです、というような乱暴さがあり私にとってはイマイチでした。 基本点は4点で最後に意表を突かれたのでその分1点足す。(犯人は父親と予想してたので。) 余談だが、本作のようにお子さんを客層にするなら、このような変化球本でなく、もっと教科書的な探偵小説(クイーンのように犯人当てゲームができるような)の方がいいんじゃないかしら。ミステリのお約束に慣れていない読者がこの本を読んでも、いつの間にか事件が片付き、ぽかんとするだけだと思う。 |
No.170 | 5点 | アリバイのA- スー・グラフトン | 2019/10/25 10:06 |
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この本の一つ前に読んだ「双頭の悪魔」の中でアリス達が話題に出していたのでスー・グラフトンのデビュー作である本書を読んでみることに・・・、というわけではなく元々次はこれを読むつもりでした。偶々だが、触発されて読んだみたいな順番になったわね。
本書はこてこてのハードボイルド系。ハードボイルド嫌いな方は間違っても読まない方がいいかも。ただし本書はハードボイルドが売りのいわゆる広義のミステリに分類されるかと思いきや、物語の核である謎はフーダニットが中心、事件の裏に仕組まれた読者を驚かせる意外性など、従来の本格ファンもおいてけぼりにしない要素を多く内包していると思う。(訳者あとがきによると作者はクリスティを目標にしているようなので、その影響かも。) 全体としてそういう良さを感じた反面、個人的に惜しいと思う点が四つある。 1) 主人公が真実を解き明かす方法がヤマ勘のように見える。いわゆる論理が無いような気がするが・・・。(私の読み方が甘いのかな?) 2) 冒頭の1パラグラフは余計。主人公の行動を公式にネタバレしているのでクライマックス場面のハラハラ感が減少。 3) 中盤までの関係者を一人ずつ当たるパートが長すぎてだれる。丁寧に書く人数をもう少し減らした方が良かったのでは、と思う。 4) 人物同士の関係が分かりにくい。結構終盤まで登場人物一覧に戻りながら読みました。 1), 2)はミステリとしてイマイチだし、3),4)は世界観に入り込むのに障害となるので総合的に4点くらいの印象。その一方上記に書いたような本格読者向きの良さもあるし、本作でデビューした主人公キンジーの今後の活躍も気になるので1点おまけした。 |
No.169 | 8点 | 双頭の悪魔- 有栖川有栖 | 2019/10/19 17:33 |
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質のいい犯人当て小説を世に出している新本格作家は?と聞かれたら誰だろう?私的には「孤島パズル」を書いた有栖川さんは筆頭候補者の一人である。
本書は三回もの読者への挑戦状付きで非常に楽しませてもらった。(その分読むのに4週間くらいかかったが。) 豪勢な犯人当て×3をもってして基本点を10点とする。ただし犯人当てクイズを売りにするからにはその論理を多少厳しく評価してみる。 (以下ネタバレ) 挑戦状の事件ごとに評価 ・小野殺し(第一の挑戦状) 犯人が単独犯なら(これ重要)、江神のロジックで犯人を絞れる。私も推理が的中。感心した点も文句を言いたい点もないのでここ単体としては±0。 ・相原殺し(第二の挑戦状) 相原が自ら手紙を右後ろポケットにしまうのは不自然という点から、小学校で密会することを伝える手紙が一度犯人に渡ったという、望月の推理には感心したので+1。(相原が手紙を渡せていなかった場合を私は捨てきれませんでした。) アリスの推理は私も的中。しかしここは有栖川さん(作者)に一つ文句がある。犯人特定パートにてアリスが 「相原さんが手紙を書いたのが四時。僕たちについて宿を出たのが六時。その間、宿の外部の誰とも接触していません。書いた手紙をどうするつもりだったんでしょうか?」 (p.533 十三章 3(1999年 創元推理文庫))と言い、これを起点に相原が手紙を渡せた相手を限定していく。しかし挑戦状より前の情報で相原が四時~六時の間に宿に籠っていたという記述はない。 該当場面を見ると四時頃に相原が手紙を渡した場面から、飲み会の場面に移りその会話の中で六時頃に相原とアリス達が宿を出たという情報がでる。警察の事情聴取パートでもこの時間帯の相原の行動を明記している箇所はない。つまり読者は 「四時~六時の間に相原が直接犯人(例えば診療所にいる中尾や保坂)のもとに出向いて小学校で密会することを伝えようとするも、何らかの理由で直接会えなかったので、念のため用意した手紙を犯人宅のポストにいれた」 というストーリーも作れる。 これは挑戦状の前に必要な情報に不足ありと言えるだろう(-2)。 ・八木沢殺し(第三の挑戦状) これは別解があるように思える。どういう別解かというと犯人=千原由衣という解である。 「マリアがピアノの音を聞かなかったのはおかしい。(作中の江神の推理と同じ。)ゆえに犯人は八木沢がピアノを弾けない状態にあると知っていた。八木沢がピアノを弾けない状態とは眠っている状態、つまり音楽室に入る前に飲んでいたコーヒーに睡眠薬を仕込めた人物千原由衣が犯人である。」 という推理である。これが頭によぎったため犯人を千原由衣と真犯人の二択で絞れなかった。上記の推理のネックは小野殺しの事件の顛末を盗み聞きした人物Xと千原由衣がイコールでない点であるが、X=殺人犯は作中でも江神の推測で終わっているので否定材料にはならないと思う。 この別解は動機の点で苦しいが、可能性が否定されないうちは-1です。 あと犯人特定の決め手となった、死体とピアノに香水をふりかけたという行動に犯人のメリットがなく、全登場人物の行動の中で一番不自然な行動と思うので-1。 ・事件全体について 交換殺人が行われていたというのは相原殺人の犯人の家から小野の耳が出てきたあたりで想像できたので±0。しかしそれを直接二人がやっていたのではなく、仲介人がいた、というのは完全に意識外で二つの事件の結び付け方としては面白く、非常に驚きだった(+1)。 しかし一連の事件が複数人の共同犯罪とすると小野殺しの犯人に異議をさしはさむ余地がでてくるんだよね。例えば第一の犯人(小野殺し)と第二の犯人(相原殺し)の間で 第一の犯人「俺が香水をかけておくから、後から鍾乳洞に入り、においを頼りに小野のもとに行き、殺せ。」 第二の犯人「了解。」 というやりとりがあれば、第二の犯人を小野殺しの犯人とすることもできる。(第一の事件の段階で橋は落ちていない。)それに実は他にも別解を作れる。総合的にこれも-1。だから共犯ものは苦手なんよ。犯人達の自由度が上がって別解が増えすぎるから。 ・最後に勝手な思いつきで勝手に加点 第一の犯人が小野の死体を岩棚の上に担いだ理由は、もちろん共犯者と思っている第三の犯人(八木沢殺し)を容疑圏外に外すためだろうが、それ以上に愛するあの人を容疑圏外に外したかったのではないかと思う。これは作中で話題になっていないので真相は不明だが、なんとなくこの解釈は気に入っている(勝手に+1)。 以上で合計8点。真面目にロジックで勝負をしてきた作者にはこのくらい真面目に採点します。いつもより厳しめかもだが、これはこれでということで。 |
No.168 | 6点 | ミッキーマウスの憂鬱- 松岡圭祐 | 2019/10/12 15:26 |
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他の書籍で紹介されていたので手に取った本書。当初はミステリと認識しておらず本サイトで書評を書く気は無かったのだが、解説に痛快なミステリー小説とあったので書評を書くことに。
本書の特徴はディズニーランドのバックステージをほどほどにリアルに書いた点で、読んだ者は皆おそらく、この話どこまで事実なのかな?と思うだろう。しかしゲストに夢を提供するキャスト達の仕事ぶりを見るにその真偽を追求することは本書の楽しみ方と違うのだろう。読者はそういう細かい点は気にせず、キャスト(松岡さん)の魔法にかかって夢の国(本書)の物語を満喫すべきなのだろう。 肝心の物語であるが、夢を見ていた新人の主人公がディズニーランドの裏の現実を知り、当初は複雑な感情を抱くものの、だんだんと自らの仕事の意義を見出す話で、悪く言うとそれほど新規性や意外性がある話ではない。しかし始めは単なる世間知らずな雰囲気の主人公が最終的に仲間やゲストを思って行動する立派なキャストになる成長過程は単純に読後感がよくおすすめ。 東京ディズニーランドの経営会社と現場のキャスト達との戦いという点は組織対個人の要素があり、書き方こそ大分違うものの横山秀夫さんのストーリー展開に似ているかもしれない。 |
No.167 | 5点 | ミステリー傑作選・特別編6 自選ショート・ミステリー2- アンソロジー(出版社編) | 2019/10/08 12:05 |
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前作「自選ショート・ミステリー」の正統続編で、出来はいい意味でも悪い意味でも前作と変わらない。
全体的な評は「自選ショート・ミステリー」の書評と同じなので、以下特に気に入った個別作品の書評。 新保博久 「雨のち殺人」 本短編集で一番出来が良いと思った。女性を脱がして視聴率を稼ぐ天気予報という、今だと少し問題になりそうな番組設定で読者を導入し、奇抜な番組を利用したアリバイ工作がシンプルながら光る。そしてそんな工作が天気予報キャスターのまさかの行動で裏目にでるという展開。 物語のオチとしても十分かつ、周到なアリバイ工作も予期せぬ展開の前には無力ということを思い知らせる良い終わり方と思う。 斎藤肇 「足し算できない殺人事件」 短い話に二つの叙述トリックをねじ込んだせいか、非常に読みにくい。それに叙述のやり方が結構力技というか、美しさを感じないやり方なので特別優れたミステリとは思えない。しかし、雰囲気ホラーでお茶を濁す作品が多い中で何とかミステリとして爪痕を残そうとしてる感じがし、結果的には割と好きな話です。 依井貴裕 「奇跡」 結婚式の二次会で、客の手品師が披露した奇跡のネタが本短編の謎である。手品はネタが割れるとしらけるというのが定番だが、この手品のネタはそうでもなく、寧ろよくそんなリスキー(手品師とその友人の花婿にとって失敗した時のリスクが大きい)な手品をやったなあと感心させられるものである。読後感がすっきりしているのも本短編の魅力。 高井信 「不思議な能力」 不思議な能力として、あんなくだらん能力を紹介されたら主人公みたいに呆れるしかないでしょう(笑)。呆れかえった主人公が浴びせる最後の言葉が皮肉とユーモアの利いた返しで気に入った。 上記4つからは落ちるが、新津きよみさんの「ホーム・パーティ」、斎藤栄さんの「星の上の殺人」、篠田節子さんの「春の便り」あたりも気にいっている。 |
No.166 | 4点 | 超・殺人事件―推理作家の苦悩- 東野圭吾 | 2019/09/24 10:12 |
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本書はミステリの短編集よりも推理作家周りのブラックジョーク集である。(もちろんミステリ要素のある話もあるが。)
今回ブラックジョークの潜在的な難しさについて少し思うところがあったので少し書いてみる。ブラックジョークの基本は他人の不幸は蜜の味という奴で、人間の嫌な性質を利用している。 この「他人の不幸」が曲者で、決して「自分自身やその周辺の不幸」ではジョークとして成立しない。そしてこの他人か自身の周辺かの線引きは完全に個人の性質に依存するため、万人受けするブラックジョークなるものは原理的に存在しないのである。 なぜこんなことを思ったのかというと、このケースが本書で私自身に当てはまりまして。 問題は二番目の「超理系殺人事件」と四番目の「超高齢化社会殺人事件」で、まず「超理系殺人事件」の方は理学を学んでいる身としてどうにも「他人の不幸」と思えず、どにかく馬鹿にされているように感じた。同様に「超高齢化社会殺人事件」の方も周りに認知症の方がいるため、それを茶化した終わり方にもやもやを感じた。 もちろんジョークなんだからそうカリカリするなと言われればそれまでだが、本書はどうしてもこの二編に引きずられ全力で楽しめなかった気がする。(他の話は結構好きなのもあったけどね。) なのでこれまで読んだ東野さん作品の中では低めの点数とするが、あくまで個人の感想なので(悪徳セールスみたいな言い訳だけど)、これから読む方は私の感想などは気にせず是非「他人ごと」として本作のジョークを楽しんでほしい。 上記二編以外の感想 ・超税金対策殺人事件 これは単純に笑った。主人公の仕事がなくなるオチだが、そりゃあんなひどい仕事をしたらそうなるよね(笑)。 ・超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇) 本短編集の中でミステリ要素が一番強い話。叙述トリックに気が付くことを犯人あてに組み込むという技巧が光る良短編。オチもそりゃそうだ(笑)という感じでコメディ要素もいい。 ・超予告小説殺人事件 小説の展開通り殺人が起こるが、最後は作者自身が小説の展開通り死んでしまうというオチ。 昔ジャンプで連載していた「アウターゾーン」にありそうな話。結構好きです。 ・超長編小説殺人事件 上手さとかはなく、ひたすらページ増設によるごリ押しのパワーギャグですね。本短編集中で一番ブラック要素が薄いと思う。全体の中では微妙。 ・魔風館殺人事件(超最終回・ラスト五枚) 体をはった一発ギャグならぬ、小説をはった一発ギャグ。読む前に目次を見ないほうが良いと思います。 ・超読書機械殺人事件 東野版の「笑ゥせぇるすまん」。ミステリ要素はないが、本読みとして心にとめておきたい話ではあるかな? |
No.165 | 7点 | Zの悲劇- エラリイ・クイーン | 2019/09/22 14:25 |
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(再読シリーズ7)
ドルリー・レーンシリーズも折り返しの本書、出来や面白さは別に自分にとって思い入れのある一冊です。(そういえば書評を書いていなかったのに気が付いたので、今回読み直し書くことに。) というのも、実は解決編の手前まで読んで少し考えて放置、内容を忘れたのでまた最初から読む、というのを何度かやってしまった。(まるで電車で寝過ごして、戻るもまた寝過ごして目的の駅を通り過ぎるという感じ。) おかげで図らずとも問題編の内容をほとんど覚えることになった。これだけ時間をかけたのだからなんとか犯人当ててやる、と後半は意地にもなり、おかげで犯人当ては無事成功しました。しかし、作中の論理でまずいだろうと思う点があるので、下でつっこませていただく。 ・本書の論理の穴 私が当てられたように読者が「登場人物」の中から犯人を当てるのに必要なヒントは十分提示されていると思う、そこは流石のクイーンというところ。 しかし、クイーン作品だからあえて厳しめに評価するが、私は本書のロジックには穴があると思う。 解決編によると真犯人は監獄の関係者で夜勤担当でない、また水曜日に殺人ができない理由があったという。これについては穴などない。ただし水曜日に殺人ができない理由をスカルチの死刑があったからと決めつけるのは強引じゃなかろうか? もちろん普通に本書を読めば水曜の死刑に立ち会ったのだろうと推測できる。しかし犯人はスカルチの死刑とは無関係な用事で殺人を行えなかった可能性を本書では否定していない(と思う)。 私は登場人物紹介の中以外に犯人がいるはずないというメタ要素から、容疑者をマグナスに絞れた。しかし登場人物紹介を見られない作中のキャラクターは他の監獄関係者も網羅的に調べ、そのうえで水曜日に殺人ができない理由はスカルチの死刑があったためだ、と論理的に導かないといけないと思う。 |
No.164 | 7点 | DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件- 西尾維新 | 2019/09/14 20:12 |
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(再読シリーズ6)
部屋の片づけをしていたら昔読んだ本書がでてきた。掃除そっちのけで読んでしまったが(おい!)、「DEATH NOTE」のスピンオフとしては満点に近い出来ではないか。あくまで他人の褌なので7点としてるが「DEATH NOTE」ファンなら是非一読を。 本書の犯人であるビヨンド・バースデイは死神の目を持っているという設定だが、デスノート無しの事件で死神の目の設定をこれだけ活かすとはお見事である。またLというキャラクターを漫画で知っているからこそ引っかかる例の仕掛けが面白い。 スピンオフとして気になる点は、南空ナオミの性格が原作から想像されるものより若干ユーモラスな風になっている点かな。ナオミが主人公として物語を引っ張る以上少し盛られるのはしょうがないか。(まぁ原作での出番が少ないし本書のキャラ付けも好きだけどね。) 密室を作った理由や、藁人形の役目などミステリとしてもいいと思う。ただ西尾さんらしい言葉遊びは少し過剰かなとは思ったわね。 |
No.163 | 6点 | 生首に聞いてみろ- 法月綸太郎 | 2019/09/07 20:40 |
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法月作品はそれほどたくさんは読んでいないが、これまで読んだ作品のアベレージを踏まえある程度期待値を上げて臨んだ本作。
ストーリーの展開は長さを感じさせない動きのある話で面白かった。 また、律子と結子の入れ替わりは予想してなかった(堂本と同じく結子が母親と考えていた)ので、そこは上手く裏をかかれたかな。ただそれ以外、特に石膏像の首の真相はかなり早い段階で予想でき、ミステリとして少し先が読めすぎたきらいがあった。(これは私と同じように予想する人が多そう。) あと私は気にならなかったけど、最大の謎の一つである首を切った理由に不満がある人も多そうと感じた。行き当たりばったりの中で、見立てのためにそこまでやるのは結構な労力だろうしね。 細かい点を見ると上手なんだけど、ミステリとして派手さに欠ける作品という印象。(作中の事件は相当派手なんだけどね。) |
No.162 | 2点 | きみのために青く光る- 似鳥鶏 | 2019/09/03 07:37 |
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初の似鳥さん作品だが、本作の文章とかキャラクターの感じはどーーにも好きじゃない。
悪い意味で現代作品の雰囲気(二番煎じというか上辺な感じというか・・・)を感じてしまった。青藍に光るってだけで病気のコンセプトも無いし、ストーリーは簡素な感動もので大していいと思えず。好きな方もいると思いますが、すみません。 |
No.161 | 6点 | 2分間ミステリ- ドナルド・J・ソボル | 2019/09/01 21:17 |
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軽い推理クイズ本として中々面白い。こういう本好きなんだよね~。私は合間合間に解いて4ケ月くらいで解き終わりました。
知識と頭の柔らかさの両立が必要なので、どんなに勘のいい人でも正解率7~8割が限界かな。(全問正解はかなり厳しい。) ネタバレすると一気に読む価値無くなっちゃうんで、問題内容には触れずに私の正解・不正解だけ記録しておきます。(例外的に和訳が苦しかったと思われる問題だけ印をつけておく。)皆さんぜひ私の正答率を超えるよう頑張ってください。 〇33 ×29 △9 勝率0.53 以下は次に解くときに比較する用の記録です。書評でないですがすみません。 01 ○ 02 ○ 03 △ 04 × 05 ○ 06 ○ 07 △ 08 × 09 △ 10 × 11 ○ 12 ○ 13 × 14 × 15 ○ 16 △ 17 △ 18 △ 19 × 20 ○ 21 ○ 22 × 23 ○ 24 × 25 × 26 ×(和訳で良さが激減) 27 ○ 28 ○(和訳で良さが激減) 29 ○ 30 ○ 31 ○ 32 × 33 △ 34 ○ 35 ○ 36 ○ 37 × 38 × 39 × 40 × 41 × 42 ○ 43 × 44 ○ 45 ○ 46 ○ 47 × 48 ○ 49 ○ 50 ○ 51 × 52 × 53 ○ 54 × 55 × 56 ○ 57 × 58 ○ 59 ○ 60 ○ 61 × 62 △ 63 × 64 ○ 65 △ 66 ○ 67 × 68 ○ 69 × 70 × 71 × |
No.160 | 9点 | ハンニバル- トマス・ハリス | 2019/09/01 20:59 |
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あのハンニバル・レクター博士の名前を冠した本作、胸糞悪い展開も多いし、グロ描写も容赦がないが、とても楽しめた。
本作の素晴らしさは二つあり、一つ目はメインキャラのキャラクター性の濃さ。二つ目は実在の舞台を活字から感じさせる情景描写だ。 特にキャラクターに惹かれたのでそこを中心に書評を書く。 レクター博士、クラリス、メイスンあたりのキャラクターは特に特徴があり、他に類をみない個性を感じた。 レクター博士は間違いなく極悪人なのだけど、嫌いになれない。というかあれだけの悪人なのに本書を読むと好感を抱くという絶妙な書かれ方で、作者の上手さが光る。 クラリスは一貫して誇り高いFBI捜査官なのだが心の奥底にレクター博士に共鳴するなにかを潜ませている。最終盤のクレンドラー殺害を見るに彼女の最後のストッパーは抜けてしまったのだろうか・・・。 メイスンはまず見た目を想像したらダメだった(笑)。悪趣味な悪役は世にたくさんいるが、ここまで本人の力がない悪役は珍しいだろう。よくもまああんな恐ろしい復讐思いつくわ。レクター博士への復讐方法はともかく、恨みはもっともだが。 自分なりにキャラクターを読み解いたつもりだが、おそらく本書で彼らの情報をいくら知っても、共感はできないのだろう。 最後の方の博士の 「自分がどんなにこの女に関する知識を深め、その内面に食い込もうとも、この女の気持ちを完全に読み取ったり、この女をわがものにしたりすることは到底不可能だろう」 という独白が本書の全てを表すのだと思う。 上記書評のように濃いキャラが織りなす緩急のきいた物語に大満足なのだが、本書にはミステリ要素が全くないので、このサイトで満点をつけるわけにはいかないだろう。ということで9点。 |
No.159 | 8点 | 愚者のエンドロール- 米澤穂信 | 2019/08/21 12:13 |
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本格ミステリでは殺人事件を扱うものが多く、それは事件の深刻さを使って読者を物語にのめりこませる策の一つである。古典部シリーズはそういった殺伐さが無いため、あっさり目の印象を受ける人が多いだろう。しかし、あっさり読めるがガチガチの伏線と謎解きが本書にはある。
・お見事ポイントその1 奉太郎の推理 2年F組の途中までのビデオから導きだされる犯人は奉太郎の推理どおりカメラに写っていない7人目しかありえないだろう。これはビデオ視聴者から見れば叙述トリックになるわけだが、他の5人に犯行が不可能な以上アンフェアではない。読んでる私も同じ推理にいたった。 ・お見事ポイントその2 出題者(本郷)のミステリレベル ビデオを見ての推理は奉太郎の解答で間違いない。しかし、本郷が叙述トリックを使うことはありえない。つまり奉太郎の解答は間違いということになる。これは現代の新本格になれたミステリファンの性質を逆手にとった素晴らしい仕掛けだと思う。(このしかけで+1点。)出題者が常にミステリ玄人とは限らないのだ。 ・お見事ポイントその3 では、なぜビデオを見ると奉太郎の結論になっちまうのか? これも学生のいい加減さが発端になっており無理のない理由である。シャーロック・ホームズ短編集とアンケートの伏線から、ビデオが本郷の意図していない仕上がりになっている所まで読みきれる真の"探偵"はどのくらいいるのだろうか?(私は奉太郎の推理が限界でした。) 米澤さんの作品は「氷菓」、「インシテミル」に続いて3冊目だが、圧倒的に本書の出来が良いと思います。 |