皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
バードさん |
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平均点: 6.17点 | 書評数: 332件 |
No.192 | 6点 | 宝島- 真藤順丈 | 2020/02/19 07:23 |
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1952~1972年(沖縄返還)の沖縄島を舞台にした話で、2019年の直木賞受賞作。
舞台が舞台だけに反戦物かと思いきや、そういった主張を押し付けてくる作品ではなく、戦争直後特有の理不尽な世界に身を置く主人公三人の感情の機微を丁寧に描いた作品である。ただし、終始暗い雰囲気の中で進行するので、描かれる感情は負の感情(喜怒哀楽の怒と哀)の割合が多く、そういう意味で主人公らの感情の起伏が小さい。それに引きずられる形で作品としてもややメリハリに欠けていると思う。 まあ、ほぼ怒と哀に関するイベントだけで一本書き上げた点が評価されたのかもしれないが。 点数の内訳は5(物語) + 1(雰囲気・オリジナリティ) = 6。 本作独自の雰囲気(沖縄訛りの語り口や語り部の正体など)は結構好き。また、少し長いなぁ、とは思ったが減点するほどではないかな。 (共通点はタイトルだけですが、新旧「宝島」対決は旧に軍配です。) |
No.191 | 8点 | 宝島- ロバート・ルイス・スティーヴンソン | 2020/02/19 07:21 |
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本作は宝の地図を手に入れた一団が財宝の隠された島に乗り込み海賊達と宝を奪い合う冒険ものであり、主人公であるジム少年の予期せぬ行動が味方陣営、海賊陣営双方をかき回す。
古い作品であるが、現代視点でも高く評価できる設定とストーリー展開であった。不満な点は少ないが、あえて挙げると、古い本ゆえに意味が分かりにくい古風な言い回しが散見される点である。 ・設定 宝の地図や海賊といった少年心をくすぐるタームが散りばめられており、まるで自分も冒険しているかのようにワクワクさせられる。また、生き残るために最善を尽くし、かつ余計な心理描写がなくさっぱりとしたキャラクター描写も好印象。特に海賊のまとめ役ジョン・シルヴァーのキャラ付けが良い。 ・ストーリー展開 その場その場での各人物の思惑が有機的に絡み合い、流動的な人物関係を形成している。テンポよく敵が味方化、味方が敵化し、先の読めない良質な物語となっている。(この様な面白さは『ドラゴンボール』のナメック星編に通じていると思いました。) 一例としては、ジムとハンズが一時休戦して船を制御した直後に、再び敵対し主導権を取り合う場面が好き。 (共通点はタイトルだけですが、新旧「宝島」対決は旧に軍配です。) |
No.190 | 6点 | 水鏡推理- 松岡圭祐 | 2020/01/31 22:06 |
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文科省のタスクフォースに配属された主人公とヒロインが研究不正を暴き、詐欺師まがいの研究者や役人をとっちめる勧善懲悪物。読んでて冷める程ではないが、実在の組織(文科省や理研など)を舞台にした話にしてはご都合主義すぎる展開と思った。リアリティに重きを置く読者にとっては、嘘くせーと、放り投げたくなる展開かな。
私のように上記の欠点をそれほど気にしないタイプなら、爽やかなキャラ描写と中々に凝った手品の小ネタで十分楽しめるだろう。また、話の構成が基本に忠実で、しっかりと読者の裏をかくよう練ってあり、個人的な加点ポイント。 |
No.189 | 3点 | 僕と先輩のマジカル・ライフ- はやみねかおる | 2020/01/16 19:26 |
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本作の分類はミステリ要素のあるラノベ(と思う)。ラノベの肝は一にも二にもキャラクターだろう。本作のキャラは、流され気質な主人公とぐいぐい来る不思議系ヒロインと突飛な行動ばかりする先輩、というもの。解説の恩田さんによると、当時のすれた読者にはこの配役が新鮮だったそうだ。しかし、言葉は悪いがこの程度では今のすれた読者は見向きもしない。多くの作品が生み出された結果、本作のキャラは使い古されたテンプレとなってしまったからである。つまるところ本作は時の流れに勝てなかった作品である。
ただ、現代視点では低評価だが、15年以上も前にこういったキャラ物を世に出した点は素晴らしい。時代が本作に追いつき、そして追い越したのである。 (個々の話へのコメント) 第一話、第二話は2点。第三話は5点。第四話は4点。 開幕から日常会話が続く一話、二話は非常に退屈で何度かギブアップしそうになった。一方序盤から謎が登場する三話、四話はストーリーで引っ張ってもらえたので、それなり。ENDINGについては、四話の良い話風の締めからコメディ要素を絡めて綺麗に落としており、上手いと思った。 |
No.188 | 4点 | 青の炎- 貴志祐介 | 2020/01/14 17:21 |
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ぐいぐい読ませる貴志さんの筆力は流石だったが、『さまよう刃』や『春にして君を離れ』の書評にも書いたように、やはり読んでて楽しくない小説は苦手よ。本書は最後まで秀一への救いが無く、きつかった。ただ、作者の狙い通り(?)秀一に同情的になっていることを踏まえると、きっといい作品なのだろう。(倒叙物は読みなれていないので、正しく評価できてないかもですが。)
本作で一番好きなシーンは秀一がブリッツ用に電気工作をしてる場面である。自分でモノを作ってるイメージをしながら読んだ。あとがきによると、本作の殺人法は確実に失敗するらしいのだが、何が問題なのだろう?200Vもかかれば普通人間は死にますがね。そこが一番興味深い。ちなみに100V位は案外大丈夫でした(実体験)。ただ、『ミステリーを科学したら』の中で由良さんも嘆いていたが、殺人法を実験するわけにもいかんしな~(笑)。 |
No.187 | 8点 | グリーン家殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2020/01/12 18:49 |
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古き良きミステリで面白かった。個人的にこのプロットで共犯に逃げていない点は高評価。(結果的に杞憂だったが、第三の事件でおいおい共犯か?と眉をひそめました(笑)。)
本作は途中で真犯人が何となく分かった。犯人って何かしら自分の都合の良いように物語を動かそうとするから不自然な言動や行動が増えがちよね。今回の犯人もレックスの証言に後からのっかった件しかり、夫人の脚の件しかりと、各所で墓穴を掘ってるし。 解決編の前にほぼ全ての謎の見当は付けられたが、凶器の消失に雪が絡んでいたのは思い至らなかった。雪は単に足跡ギミック用と思っていたので・・・。 |
No.186 | 6点 | シャーロック・ホームズの帰還- アーサー・コナン・ドイル | 2020/01/12 18:38 |
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がちがちのロジックを期待して読んだ結果、『冒険』では肩透かしをくらったので、本作は初めからホームズのキャラクター小説として読んだ。そのおかげか『冒険』よりも楽しめた。『帰還』>『冒険』という趣味嗜好は本サイトの平均点(2020/1/12時点)とは逆ですが、個人の嗜好なのであしからず。
延原謙さんの解説には『六つのナポレオン』と『金縁の鼻眼鏡』の二編が人気とあるが、これには私も同感である。(自分にはホームズ物を読むセンスがないと思われるので、この一致には一安心。)また、上記の二作品以外だと『踊る人形』と『第二の汚点』が面白かった。 各短編の平均は5.5点だが、出来のよい二作品が後半にあり、飽きを感じにくい良い構成と思ったので短編集としては6点。 各話の書評 ・空家の冒険(5点) 事件そのものよりも、ホームズの復活が重要な話。復活の仕方は今の作家がやったらぶっ叩かれそうな後出し方式で、作者の苦闘を感じさせる。こんな無理やりな復活劇を書かされた作者にゃ同情の念も沸くので1点おまけ。 ・踊る人形(6点) ホームズと暗号ものは相性いいのかもと思った。 暗号を解くにあたっては膨大なデータベースとひらめきが重要と思うが、ホームズはこの二つを備えているので瞬時に暗号を解いても違和感がないからである。そういったシナジーもあり、この話は面白かった。 (延原謙さんの解説によると人形の暗号にはドイルの転記ミスがあるようだが、自分は暗号ものを真面目に考えずに読むので、言われるまで気が付かなかった。) ・美しき自転車乗り(5点) ・プライオリ学校(5点) ・黒ピーター(5点) これら3つはコメント無し。良いとも悪いとも思わなかった。 ・犯人は二人(4点) なんの工夫も無く単に忍び込んだだけ。つまらなかった。 ・六つのナポレオン(7点) 犯人が何かを探しているという話の腰が『冒険』の『青いガーネット』に似ている。明るい所で像の破壊を行った理由は納得できたし、犯人が探し物をしていることの伏線としてもシンプルで上手いと思う。 ・金縁の鼻眼鏡(8点) 実行犯が教授の部屋から現れるというサプライズを決めつつ、唐突感がですぎないよう伏線が張ってある。眼鏡を失ったら細い草の上を歩けないという推理には非常に説得力があるし、ホームズの捜査も意図が明快で読んでてストレスが無かった。非常に出来が良いと思った。 ・アベ農園(4点) 犯人が真相を語った後で、ホームズが犯人特定にいたった材料(船員特有の紐の結び方など)を開示するので後出し感が強い。伏線を事前に張っていた『金縁の鼻眼鏡』に比べると書き方が下手かと。話の内容は嫌いじゃないですが。 ・第二の汚点(6点) 法律を超えた自分の正義を持っているホームズのキャラが好き。 事件の解決を含めストーリーが面白かったので6点。 |
No.185 | 9点 | 赤い指- 東野圭吾 | 2020/01/05 09:58 |
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メインの仕掛けは同作者の『容疑者x』に似ている。
本書と『x』とを比べると互いに勝っている点(以下参照)があり、総合的な出来は互角と感じた。本書の人間ドラマに心を打たれたので、私個人は本書の方が好き。ということで、『x』よりも一点高い、9点とする。 ・本書が勝っている点 1 : 殺人事件そのものを強引にすり替えた『x』に対し、本書では犯人だけを置き換えるので、ほぼ無理がない。仕掛けはシンプルなほど良いというのが、私の信条なので、本書の仕掛けの方がhighレベルと思いました。 2 : 家庭内の憎愛がテーマなので、万人が感情移入しやすい。一方、『x』の犯人の愛は共感できない人も多そう。 ・『容疑者x』が勝っている点 1 : 『x』は、仕掛けの種を最後まで隠す構造なので、真相解明で大きな衝撃を読者に残せる。本書の展開ではそういう効果は期待できない。 2 : 物理トリックでごり押しする作風のガリレオシリーズで、毛色の違うトリックを披露した点。一方加賀シリーズでは、本書の発売当時、既に『悪意』などが世に出ており、本書ぐらいの仕掛けに対しては耐性のある読者も多かっただろう。 |
No.184 | 7点 | 夏と花火と私の死体- 乙一 | 2020/01/01 11:14 |
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・表題作 はっきり言って読んでる途中はあまり面白くなかった。私の基準でいうと4点くらい。その理由は、自己中なアホガキ(弥生)と狡い悪ガキ(健)の死体隠蔽をだらだら読まされたからである。この子らにもう少し魅力があれば、死体が発見されるかどうかのハラハラ感を共有でき、面白かったのだろう。しかし、私はさっさと彼らに天誅が下れとしか思えなかったので、イマイチと感じたのである。 ところが、最後まで読みきった所で本作の評価はひっくり返った。 本書の良さは、健君の悲惨な未来を想像させるホラーオチなのだが、ホラーオチにもかかわらず読後感が悪くない。それどころか、寧ろすっきりさすら感じた。 この締めの綺麗さは、弥生と健のキャラクター性を好感度が低くなるように書いていたことによる。 つまり、途中イマイチと感じた子供らの描写がオチで一転し、効果的な描写に変貌したのである。本書はいわゆる叙述トリックでは無いのですが、文章構成を利用したより高次の意味での叙述トリックと勝手に命名したい気分です(笑)。 ----------------------------------------------- ・優子 こちらはそれほどですね~。 乱歩さんや横溝さんが昔に書いた話、と言われたらそんな気がする程度には新しさが無く、現代の作家さんがわざわざ書く話でないと思った。 ----------------------------------------------- 私にとっては、二冊目の乙一さん本なのだが、本書を受け一筋縄では評価できない作家さんだなと思った。特に表題作の構成力は私がこれまで読んできた小説の中でトップレベルです。 |
No.183 | 7点 | ミステリーを科学したら- 評論・エッセイ | 2020/01/01 11:06 |
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正直、胡散くせータイトルだなーと思いながら手にとったが、予想をはるかに上回るしっかりとした随筆で読み応えがあった。
本書の構成は 1章 : ミステリ全般についての筆者の持論 2章 : ミステリ内でよく使われる小ネタについてのエッセイ である。 1章はほとんど当たり障りのない内容で微妙。筆者の研究者時代の経験がふんだんに活かされている2章が本書の真骨頂と私は思う。 本書の欠点は、引用の多さゆえの他作品のネタバレかな。致命的なバレは無かったと思うが・・・。 30年近く前の本なので古いネタもあるが、現代のミステリ読者にとってもためになる記述も非常に多かったという印象。筆者の専門に近い生物・化学系の考察が特に充実していた。 (以下面白かったネタ) ///人体について/// ・心臓を一突きで殺す描写について(p.127) 実験室では、固定した動物の心臓に注射器を刺して血をとることがあるそうだが、大学院生の多くは何度も失敗するようである。固定された相手でこれなのだから、 「短刀の一突きで心臓に致命傷というのはちょっと無理」 だそうです。 ・海外小説に多い失禁の描写について(p.165-166) 和製小説に比べると海外の小説には失禁の描写が多いが、それは日本人と外国人の膀胱の解剖学的な違いによるらしい。アメリカの医学書によると、膀胱に尿が五百cc溜まっても普通は尿意がこないほどに膀胱が大きいのだと。つまり普段から沢山の尿を蓄えているので、急にそれが収縮すると押さえが利かなくなるのだろう、という考察です。 ///毒薬について/// ・毒薬の味について(p.154-155) 殺すための毒薬を吐き出されては話にならないので、作家は毒薬の味が気になるそうです。しかし、当然毒薬の味について書かれた書物はほとんどないから困るのだと。 由良さん自身は 「モルヒネの微量を舌先で味わったことがある。~その臭さには参った。」 と語っております。 ・青酸カリの知識が一般に普及した時期(p.156-158) 有名な毒物である青酸カリは1935年の小学校校長殺害事件を境に世間に広く認知されたようです。 例えば、小栗虫太郎の『完全犯罪』(昭和八年(1933年)発表)の中では青酸カリと書かずに青酸ガス発生装置と表現しているのに対し、昭和十一年(1936年)に書かれた永井荷風の『濹東綺譚』の中では、玉の井の女郎と客のやり取りの中に「青酸カリか。命が惜しいや」とある。 海外でもほぼ同時期に認知度が上がったようで、昭和九年(1934年)発表のクロフツの『クロイドン発12時30分』では、犯人は法医学やその他医学薬物関係の書物を熟読した結果、青酸カリという毒薬を知ったそうです。そのすぐ後から青酸カリを使ったトリックが流行り始めたみたいです。 ・青酸カリの活かし方(p.171-172) 青酸カリを酸性場に放りこむと青酸ガスが生成し、人間はそれを吸って死に至る。つまり、酸性条件化に置かないと毒物として効果が無い。そして胃以外に酸性を示す箇所が人体にはあまり無い。アルカリ性である血液が体中のいたるところを巡っているからである。 ちなみに胃以外だと膣が酸性で、ph4前後らしいです。(空腹時の胃はph1くらい。) ///狂犬病について/// ・狂犬病の検査にかかる期間(p.247) 「狂犬病かおよそ見当を付けるのに一日、はっきりと結論を出すのには四週間くらい掛かります。」 とありますが、(一財)生物科学安全研究所のHPによると今は検査受領から一~二週間程度で結果が出るそうです。 ・人間-人間経路の感染例(p.248) 「狂犬病の犬や猫に噛まれて感染する人はいますが、人間の患者が噛んで病気をうつしたという例は、今までにまだ一例もない。」 厚生労働省のHPによると現在もこの例は無いようです。 ・人間-人間経路で感染しない理由(p.248) 「犬の場合には、脳で狂犬病ウイルスが増えると、同時に唾液腺にも現われる。だから、そんな犬に噛まれると、濃厚なウイルスを注射されたのと同じことになる。人間の患者では、唾液腺にウイルスが出てくる前に麻痺が起こるので、実際には他の人を噛んで伝染させるところまではいかない。」 だそうです。話がドリフトしますが、本文中にあった「現われる。」は送り仮名のミスかと思ったのですが、調べてみると昭和34年から昭和48年の14年間は、教科書や新聞で上記の送り仮名が使われていたそうです。現在もこれは許容らしいです。(つまり間違いではない。) ///大学・研究所関係のエピソード/// ・当時の若者の文学情勢について(p.152-153) その頃の一高(現在の東大教養学部)の寮では誰もかれもが西田幾太郎らの哲学書や、文学書では漱石、鴎外、龍之介、直哉、ゲーテ、ヘッセ、ロマン、ローラン、モーパッサン、トルストイなどの作品を読みふけっており、『江戸川乱歩』や『新青年』が好きとは周りに言えない空気だったそうです。そのせいで、ルームメイトだった高木彬光氏とは、お互いに、相手が推理小説に興味を持っていると全然知らなかったそうです。勿体ない! ・教授会のエピソード(p.280) 大学の教授会にて 「では、どうしたら小委員会の数を減らせるか、ということを研究する小委員会を作ろう」 という発言があったらしい。こんな落語のオチみたいなこと実際に言うか?と思いつつ、私の恩師を思い浮かべると似たようなことを言いそうだなとも・・・。 ・実験データの管理方法(p.282) 筆者は 「私は在職中、一つの実験が済むたびに、そのサマリーを三部作り、別々の箇所に置く習慣だった。」 と言っている。これはぜひ実践すべきと思います。今は電子データで良いので、Back upも場所をとらずにすみますね。 ///その他/// ・推理小説の収束の統計(p.71-74) 法廷で犯人を間違いなく有罪に持っていけそうなミステリ小説は、21/150とのこと。150冊を十分な標本と言って良いかはわかりませんが、数値化はありがたかったです。 ・テンジクネズミの意味(p.177) 「テンジクネズミはモルモットのこと。」 知りませんでした(汗)。 ・検視と検死の違い(p.219-223) 「検察官または警察官が死体を観察して死亡時刻を推定したり事故死か殺人かを見分けるようなプロセスを検視、医師が解剖を行ってその所見のもとに同様の判断を下すのを検死または検屍と言う。」 昭和三十三年(1958年)に検視規則というのができた。これは警察官が検察の代わりに検視をする場合、必ず医師の立ち合いを求めなければならない、というルールだそうです。 ただ、この規則の発足当時は全国で臨床医のいない県が多かったから、「医師の立ち合い」を「医師の監督」と読み替え、警察では法医学の知識のある検視官なる専門担当官を用意し、医師の代わりにすえたらしい。 ちなみに検視官というのは組織上の名称であり、こういった資格が存在するわけではないです。 |
No.182 | 5点 | さらわれたい女- 歌野晶午 | 2019/12/21 13:57 |
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一番面白い作品がデビュー作という人は多いが、歌野さんはデビュー作の『長い家の殺人』から、『葉桜』にかけて明らかに実力を伸ばした作家と思っている。
本作であるが、話の筋は悪くないと思うし、メインの人物誤認ネタは素朴だがgood。 ただ、多くの箇所で表現や人物描写がこなれてなく、今一つ物語にのめりこめないまま読み終わった。作家として跳ねる前の助走作品だなという出来。 あと、本作の仕掛けはシンプルで良いのだが長編のメイントリックとしては少し弱い気もする。100~150ページの中編向けのトリックと思った。 さっと読め、楽しめはしたが、他人に歌野作品を勧める場合にわざわざ本作を選ばないかな。同時期の歌野作品同士で比べても『死体を買う男』の方が好きです。 |
No.181 | 7点 | 半落ち- 横山秀夫 | 2019/12/18 14:28 |
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『64(ロクヨン)』, 『クライマーズ・ハイ』ときて3冊目の横山作品。
上記の2冊で感じたくどさがなく、これまで読んだ3冊の中では、本作が一番好み。 一つの事件を根幹にすえたことで、各話の役割や、話間の繋がりが明確となり群像劇としてのドラマ性を高めている。(最近読んだ群像劇物である『ラッシュライフ』と比べても、話の筋が明確な本作の方が好き。) 章毎に主人公を変える構成にしたことで、各章で話を畳む必要がなくなり、その結果、全体が締まった物語となったのだと思う。 また、流石に人間ドラマが売りの作家さんだけあって、描写や人物の造形は全体的にお見事。各話主役が抱いた、立場と本音の狭間での葛藤をひしひしと感じとることができた。 |
No.180 | 7点 | アクロイド殺し- アガサ・クリスティー | 2019/12/15 10:40 |
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(ネタバレあり)
-------------------------------------------------------------------------- 「普段読むジャンルからは外れるので、クリスティはあまり読んでない。 せいぜい有名作(『そして誰もいなくなった』など)と数冊だけ。 そんな自分が言うと生意気で、角が立つかもだけど、『アクロイド』のストーリーは、事件が起き、探偵が地道に手掛かり集めて、最後に容疑者たちの前で推理するという、こてこてものすぎる。 探偵小説に慣れてる人にとっては、退屈なんじゃないかな。 どうせ当たらないだろうし、犯人が誰かは、そんなに考えずに読んだ。直感では少佐が犯人かと思った。(理由は、他の登場人物よりはまだ意外性があるかな~と思ったから。ひどい推量とは、自分でも思う(笑)。) でも、『そして誰もいなくなった』みたいに途中で死んだ人もいないし、誰が犯人でもそこまで意外性がないような、とか心配してたら・・・、最後にやられたよ。物語を語ってた、わたしが犯人!?こんなのあり!? 完全に意識外だったから、びっくりした後、色んな箇所を見直しちゃったよ。 意表を突くという、なぞなぞの本質を、小説形式でここまで表現できるんだな~と感心したね。 : : : : : というわけで、『アクロイド』凄く面白かったわ。 やっぱクリスティって凄い作家なんだね。」 私「うん、そーだね。でも、まだそれ読んでない・・・。」 友人「(゚∇゚ ;)エッ!?」 私「」 友人「」 -------------------------------------------------------------------------- 悲しい事件でした。 友人はSF、私はミステリと棲み分けていたので、まさか私がこれほどの有名作を読んでないとは思わなかったのでしょう。 本作は完全ネタバレをくらった作品の一つです。ネットでのネタバレは今も昔も自衛していますが、リアルで不意を突かれるとどうしようもない(笑)。 以上が、「『アクロイド』殺し」の顛末です。 (以下書評) 友人の意見と同じで、現代のファンからするとストーリーが退屈な気はする。また、仕掛けの性質上やむを得ないのだが、全体的にあっさりとした書きっぷりで、人間ドラマもそこまで盛り上がらず。結局、件のトリックが楽しめるか否かが、本作の評価を決めるのだろう。 よって、ネタバレ済み、再読時はそんなに・・・という本かと。種が割れていると、犯人が紡ぐあからさまな描写を探して、にやにやしながら読むくらいしかできないので。(まぁ、答え合わせのようなもので、それも楽しいっちゃ楽しいですが。) ただ、この手の作品の中では本書は圧倒的にフェアだと思うので、個人的には技巧を称えて加点したいっす。 笠井潔さんの解説(早川書房2003年版)の通り、本作の文章は犯人が手掛けた文章なのだから、極端なことを言えば、本文中に嘘があってもフェアなんですよね。 その中で、事件に関する嘘の記述は無く、かつ犯人特定パートの前に作中作であることのネタばらしまでするので親切すぎるくらい。 残念ながら、ネタバレ済みで読んだ私には評価不可なので、本音は「点無し」ですが、ネタバレせずに読んだらおそらく9点という気がするので、ストーリーの5点との間をとって7点としておきます。 |
No.179 | 4点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2019/12/11 11:32 |
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一章はプロローグの役割で、二章から物語の本筋が始まる。五章だてで、文庫版だと総計400p.くらい。
私には音楽関係の描写が難しかったが、込められたメッセージは嫌いじゃない。ストーリーにもう少しオリジナリティを持たせるべきとは思うが、そこそこ楽しめた。 しかし、細かいところは抜きにねー、本作のメインの仕掛けねー、残念ながら最序盤(二章が開始して40p.くらい)でわかっちまったんだよねー。仕掛け自体がダメなのではなく、多分書き方の問題で、隠し方が不自然だったのだろう。 メインの仕掛けで感心できたら、面白かったのだろうけど、ネタバレ済みの手品を延々と見てる感じだった。騙されたかったなー、早々に種が割れた手品に高評価はつけられん。 |
No.178 | 6点 | ラッシュライフ- 伊坂幸太郎 | 2019/12/07 19:22 |
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時系列を無視した順番で話を提示することで、中盤まで物語の構造を隠匿している。最後の方で時系列が明確になるため、読者は最後まで読んでようやく、物語の全容を把握できる小説。
んで、この時系列シャッフルだが、私はそんなに良いと思えない。シャッフル自体に何か意味があれば別だが、そうでないなら+の効果がなく、単に途中をわざと-に書いて、最後で-から0に戻して、後半が面白かったと錯覚させるだけの小細工のように感じる。 物語間のつながりが分かりにくく、ややフラストレーションを感じながら読んでいた。(『ゴールデンスランバー』も最後に全容がわかるタイプだったかもしれないが、昔の記憶を引きずりだすと、そちらはストレス感じずに読めた気がする。違いは何だろう?) と、ここまで結構辛く書いたが、実際にはそこそこ楽しめた(笑)。各物語の続きが気になった上、伊坂さん流の軽快な掛け合いに乗って、各話単位ではスラスラと読めた。 最後におまけですが、過去に6点をつけた伊坂作品、『重力ピエロ』、『オーデュボンの祈り』と本作の好みを比べると、 『重力ピエロ』<『ラッシュライフ』 『ラッシュライフ』<『オーデュボンの祈り』 『オーデュボンの祈り』<『重力ピエロ』 です。どの作品が好きかと聞かれたら騙し絵のごとく1周します。 |
No.177 | 6点 | 黒後家蜘蛛の会1- アイザック・アシモフ | 2019/12/04 18:38 |
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設定は好みで、読みやすかった。
全体を通してアシモフの博学ぶりが発揮されているが、その結果こっちの知識が足りずよーわからんという話があり、その点はちと残念。特に書籍や歌などの知識が謎の解明に必要となる暗号系の話は厳しかった。そういった蘊蓄を下らんと吐き捨てるトランブルが私に一番近い感性の登場人物でした(笑)。 総合的にはまずまずなものの、雰囲気が好きなので続きも読みたいと思った。 収録作毎の書評 ・会心の笑い(7点) 好調な出だし。盗んだもの云々の謎よりも犯人とヘンリーが結びつく瞬間が面白い。 ・贋物(Phony)のPh(7点) 本作を気に入るかどうかは、カンニングの肝が学生でなく教員側にあるという意外性が楽しめるかどうかである。 (この本の書評じゃないが、「スケットダンス」という漫画でこの意外性を用いた話がある。「蜘蛛の会」というタイトルの話も別にあるので、作者は本短編集を読んでるっぽい。) ・実を言えば(7点) 言葉を論理的に扱うのは結構難しいという話。 (真面目な文章を書いているとこのことをいつも痛感します。論理を語る上で、日本語には冠詞が無いのが辛いです。) ・行け、小さき書物よ(6点) 小道具を活かした佳作。この話で一番センスを感じたのはタイトルっすね。 ・日曜の朝早く(8点) シンプルな仕掛けが光るアリバイ工作もの。このしかけは好きですね~。 ・明白な要素(7点) 乱歩さんの「赤い部屋」のオチといい本作のオチといい、短編集に一本くらいは有りと思う。長編でやられたら怒ると思いますが・・・。 ・指し示す指(5点) しかけはアホ程シンプルだが、「シェイクスピア」に関する語りがすごい。私は「シェイクスピア」をろくに知らないので退屈でしたが。 ・何国代表?(5点) 今度は「聖書」について語る。私は「聖書」もろくに知らないので退屈でしたが。 ・ブロードウェイの子守歌(5点) 大工音の正体を探る話。なんとなくパッとしない。 ・ヤンキー・ドゥードゥル都へ行く(5点) 歌がわからんとどうしようもないので、この話も好きではない。 ・不思議な省略(5点) これも「鏡の国のアリス」ありきの解決でイマイチ。 ・死角(5点) 謎の解決に特別な知識を必要としないという点は他の5点をつけた話より良いと思います。ただし、容疑者を全員リストアップする際にその場にいたウェイターを数え落としますかね?「ブラウン神父の童心」の「見えない男」の書評にも似た内容を書いたが、人が徹底的に現場にいた人物を調べるとなったらそうそう見落とさないでしょ。意識外の人物は、目撃者が問題に対し真剣でない場合のみ有効だと思います。 |
No.176 | 7点 | 風の海 迷宮の岸- 小野不由美 | 2019/11/27 19:17 |
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2冊目の十二国記シリーズ。「月の影 影の海」から4ケ月半も空いてしまった。(こんなに空けるつもりはなかったんざんすけどねぇ。)
今回は北東の国 戴 の麒麟が主人公。幼少期を蓬莱で育ったゆえに麒麟として未熟な泰麒の心情がストーリーの肝なのだが、少年の心の葛藤を覗く話としては良くも悪くも当たり障りがない物語という印象。ただし、物語終盤の王を選ぶシーンのこの後どうなってしまうんだ感と最終的な顛末は、十二国記らしさが出ていて良い。 綺麗な起承転結もので、この読みやすさは流石小野さん、という作品。インパクトの大きさは「月の影 影の海」の方が上なのに対し、本作の方が万人受けしやすいストーリーと思う。 |
No.175 | 9点 | 八つ墓村- 横溝正史 | 2019/11/23 11:39 |
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4冊目の横溝さん作品なのだが、今のところ毎回期待以上の満足度があり作者の力量に感服いたす。
本作は「本陣」(9点)、「犬神家」(8点)、「獄門島」(6点)を抑え横溝作品暫定一位に躍り出ました。(()内は過去の書評でつけた点数) 読みやすく、一気に最後までいけた。謎の撒き方が素晴らしく、主人公の味わうドキドキ感を共有しながら物語を楽しめる。殺人が多いせいか一つ一つの殺人事件は薄口なのが少しもったいなかったが、全体では久野おじ、濃茶の尼の役割がいい感じに謎を混沌とさせていて良かったと思う。 現場にいながら相変わらず連続殺人を実行される金田一はどうかと思うが。(初めて「獄門島」を読んだ頃は名探偵と言われてる割にまぬけで多少いらついてましたが、今はそういうもんだと割り切っています。) |
No.174 | 6点 | オペラ座の怪人- ガストン・ルルー | 2019/11/18 06:29 |
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初ルルー(「黄色い部屋」は未読なので。)
恥ずかしながらこの本を読み始める前は有名な「オペラ座の怪人」の原作がルルーだというのを知らなかったです。周りも意外と知らない人が多かったけども。 実在するガルニエ宮が舞台の本作、途中オペラ座の外観がどうも掴めずwikiで少し調べてようやく建物の構造をある程度理解。本作で重要な役割をはたす隠し通路と地下の湖はオペラ座の外観が頭にないとイメージし辛いかも。これから読む方で、文章から建物がイメージできない場合は迷わず写真を見ながら読み進めるべきっすね。 本作は非常に謎の提示の仕方が上手い。特に前半は幽霊が各所(舞台役者、支配人達、クリスチーヌ相手)で暗躍しており、とにかく謎の全貌がわからず、この先どうなるんだろうと純粋に読み進められた。個人的なピークは13章「アポロの堅琴」です。クリスチーヌがエリックの素顔を暴くシーン周辺でゾクリとした。夜中に一人で読んでたので背筋が凍りましたよ・・・。 逆に言うと14章以降にもう一山ほしかったなあ。後半は前半のドキドキ感を維持できず失速。ラストのエリックとペルシア人の会話は好きだが、拷問部屋のあたりはわりと退屈だった。(本当はそこが山場なんだろうけど。) |
No.173 | 4点 | スナーク狩り- 宮部みゆき | 2019/11/07 19:25 |
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本作を読んで一つ自分の嗜好に気が付いた。どうやら私は
映像・音声娯楽(テレビ、ラジオ):LIVE感、スピード感 書籍娯楽(小説、漫画):じっくりと味わい深い感じ を求めているようだ。(もちろん傾向なだけでこれが絶対ではない。) 本書は非常に事件の展開が早く作中で流れる時間は半日程。この目まぐるしさは映像で見た方が面白そうだなあと読んでる途中で思った。これまで読んだ宮部さんの作品は概ね好きで本書も決して嫌いではないのだが、キャラクターがなじむ前に物語が終わってしまったようなもったいなさがあり、総合的には物足りなかった。(別に「模倣犯」のようにページを増やせという意味ではないです。) |