皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
バードさん |
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平均点: 6.14点 | 書評数: 324件 |
No.184 | 7点 | 夏と花火と私の死体- 乙一 | 2020/01/01 11:14 |
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・表題作 はっきり言って読んでる途中はあまり面白くなかった。私の基準でいうと4点くらい。その理由は、自己中なアホガキ(弥生)と狡い悪ガキ(健)の死体隠蔽をだらだら読まされたからである。この子らにもう少し魅力があれば、死体が発見されるかどうかのハラハラ感を共有でき、面白かったのだろう。しかし、私はさっさと彼らに天誅が下れとしか思えなかったので、イマイチと感じたのである。 ところが、最後まで読みきった所で本作の評価はひっくり返った。 本書の良さは、健君の悲惨な未来を想像させるホラーオチなのだが、ホラーオチにもかかわらず読後感が悪くない。それどころか、寧ろすっきりさすら感じた。 この締めの綺麗さは、弥生と健のキャラクター性を好感度が低くなるように書いていたことによる。 つまり、途中イマイチと感じた子供らの描写がオチで一転し、効果的な描写に変貌したのである。本書はいわゆる叙述トリックでは無いのですが、文章構成を利用したより高次の意味での叙述トリックと勝手に命名したい気分です(笑)。 ----------------------------------------------- ・優子 こちらはそれほどですね~。 乱歩さんや横溝さんが昔に書いた話、と言われたらそんな気がする程度には新しさが無く、現代の作家さんがわざわざ書く話でないと思った。 ----------------------------------------------- 私にとっては、二冊目の乙一さん本なのだが、本書を受け一筋縄では評価できない作家さんだなと思った。特に表題作の構成力は私がこれまで読んできた小説の中でトップレベルです。 |
No.183 | 7点 | ミステリーを科学したら- 評論・エッセイ | 2020/01/01 11:06 |
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正直、胡散くせータイトルだなーと思いながら手にとったが、予想をはるかに上回るしっかりとした随筆で読み応えがあった。
本書の構成は 1章 : ミステリ全般についての筆者の持論 2章 : ミステリ内でよく使われる小ネタについてのエッセイ である。 1章はほとんど当たり障りのない内容で微妙。筆者の研究者時代の経験がふんだんに活かされている2章が本書の真骨頂と私は思う。 本書の欠点は、引用の多さゆえの他作品のネタバレかな。致命的なバレは無かったと思うが・・・。 30年近く前の本なので古いネタもあるが、現代のミステリ読者にとってもためになる記述も非常に多かったという印象。筆者の専門に近い生物・化学系の考察が特に充実していた。 (以下面白かったネタ) ///人体について/// ・心臓を一突きで殺す描写について(p.127) 実験室では、固定した動物の心臓に注射器を刺して血をとることがあるそうだが、大学院生の多くは何度も失敗するようである。固定された相手でこれなのだから、 「短刀の一突きで心臓に致命傷というのはちょっと無理」 だそうです。 ・海外小説に多い失禁の描写について(p.165-166) 和製小説に比べると海外の小説には失禁の描写が多いが、それは日本人と外国人の膀胱の解剖学的な違いによるらしい。アメリカの医学書によると、膀胱に尿が五百cc溜まっても普通は尿意がこないほどに膀胱が大きいのだと。つまり普段から沢山の尿を蓄えているので、急にそれが収縮すると押さえが利かなくなるのだろう、という考察です。 ///毒薬について/// ・毒薬の味について(p.154-155) 殺すための毒薬を吐き出されては話にならないので、作家は毒薬の味が気になるそうです。しかし、当然毒薬の味について書かれた書物はほとんどないから困るのだと。 由良さん自身は 「モルヒネの微量を舌先で味わったことがある。~その臭さには参った。」 と語っております。 ・青酸カリの知識が一般に普及した時期(p.156-158) 有名な毒物である青酸カリは1935年の小学校校長殺害事件を境に世間に広く認知されたようです。 例えば、小栗虫太郎の『完全犯罪』(昭和八年(1933年)発表)の中では青酸カリと書かずに青酸ガス発生装置と表現しているのに対し、昭和十一年(1936年)に書かれた永井荷風の『濹東綺譚』の中では、玉の井の女郎と客のやり取りの中に「青酸カリか。命が惜しいや」とある。 海外でもほぼ同時期に認知度が上がったようで、昭和九年(1934年)発表のクロフツの『クロイドン発12時30分』では、犯人は法医学やその他医学薬物関係の書物を熟読した結果、青酸カリという毒薬を知ったそうです。そのすぐ後から青酸カリを使ったトリックが流行り始めたみたいです。 ・青酸カリの活かし方(p.171-172) 青酸カリを酸性場に放りこむと青酸ガスが生成し、人間はそれを吸って死に至る。つまり、酸性条件化に置かないと毒物として効果が無い。そして胃以外に酸性を示す箇所が人体にはあまり無い。アルカリ性である血液が体中のいたるところを巡っているからである。 ちなみに胃以外だと膣が酸性で、ph4前後らしいです。(空腹時の胃はph1くらい。) ///狂犬病について/// ・狂犬病の検査にかかる期間(p.247) 「狂犬病かおよそ見当を付けるのに一日、はっきりと結論を出すのには四週間くらい掛かります。」 とありますが、(一財)生物科学安全研究所のHPによると今は検査受領から一~二週間程度で結果が出るそうです。 ・人間-人間経路の感染例(p.248) 「狂犬病の犬や猫に噛まれて感染する人はいますが、人間の患者が噛んで病気をうつしたという例は、今までにまだ一例もない。」 厚生労働省のHPによると現在もこの例は無いようです。 ・人間-人間経路で感染しない理由(p.248) 「犬の場合には、脳で狂犬病ウイルスが増えると、同時に唾液腺にも現われる。だから、そんな犬に噛まれると、濃厚なウイルスを注射されたのと同じことになる。人間の患者では、唾液腺にウイルスが出てくる前に麻痺が起こるので、実際には他の人を噛んで伝染させるところまではいかない。」 だそうです。話がドリフトしますが、本文中にあった「現われる。」は送り仮名のミスかと思ったのですが、調べてみると昭和34年から昭和48年の14年間は、教科書や新聞で上記の送り仮名が使われていたそうです。現在もこれは許容らしいです。(つまり間違いではない。) ///大学・研究所関係のエピソード/// ・当時の若者の文学情勢について(p.152-153) その頃の一高(現在の東大教養学部)の寮では誰もかれもが西田幾太郎らの哲学書や、文学書では漱石、鴎外、龍之介、直哉、ゲーテ、ヘッセ、ロマン、ローラン、モーパッサン、トルストイなどの作品を読みふけっており、『江戸川乱歩』や『新青年』が好きとは周りに言えない空気だったそうです。そのせいで、ルームメイトだった高木彬光氏とは、お互いに、相手が推理小説に興味を持っていると全然知らなかったそうです。勿体ない! ・教授会のエピソード(p.280) 大学の教授会にて 「では、どうしたら小委員会の数を減らせるか、ということを研究する小委員会を作ろう」 という発言があったらしい。こんな落語のオチみたいなこと実際に言うか?と思いつつ、私の恩師を思い浮かべると似たようなことを言いそうだなとも・・・。 ・実験データの管理方法(p.282) 筆者は 「私は在職中、一つの実験が済むたびに、そのサマリーを三部作り、別々の箇所に置く習慣だった。」 と言っている。これはぜひ実践すべきと思います。今は電子データで良いので、Back upも場所をとらずにすみますね。 ///その他/// ・推理小説の収束の統計(p.71-74) 法廷で犯人を間違いなく有罪に持っていけそうなミステリ小説は、21/150とのこと。150冊を十分な標本と言って良いかはわかりませんが、数値化はありがたかったです。 ・テンジクネズミの意味(p.177) 「テンジクネズミはモルモットのこと。」 知りませんでした(汗)。 ・検視と検死の違い(p.219-223) 「検察官または警察官が死体を観察して死亡時刻を推定したり事故死か殺人かを見分けるようなプロセスを検視、医師が解剖を行ってその所見のもとに同様の判断を下すのを検死または検屍と言う。」 昭和三十三年(1958年)に検視規則というのができた。これは警察官が検察の代わりに検視をする場合、必ず医師の立ち合いを求めなければならない、というルールだそうです。 ただ、この規則の発足当時は全国で臨床医のいない県が多かったから、「医師の立ち合い」を「医師の監督」と読み替え、警察では法医学の知識のある検視官なる専門担当官を用意し、医師の代わりにすえたらしい。 ちなみに検視官というのは組織上の名称であり、こういった資格が存在するわけではないです。 |
No.182 | 5点 | さらわれたい女- 歌野晶午 | 2019/12/21 13:57 |
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一番面白い作品がデビュー作という人は多いが、歌野さんはデビュー作の『長い家の殺人』から、『葉桜』にかけて明らかに実力を伸ばした作家と思っている。
本作であるが、話の筋は悪くないと思うし、メインの人物誤認ネタは素朴だがgood。 ただ、多くの箇所で表現や人物描写がこなれてなく、今一つ物語にのめりこめないまま読み終わった。作家として跳ねる前の助走作品だなという出来。 あと、本作の仕掛けはシンプルで良いのだが長編のメイントリックとしては少し弱い気もする。100~150ページの中編向けのトリックと思った。 さっと読め、楽しめはしたが、他人に歌野作品を勧める場合にわざわざ本作を選ばないかな。同時期の歌野作品同士で比べても『死体を買う男』の方が好きです。 |
No.181 | 7点 | 半落ち- 横山秀夫 | 2019/12/18 14:28 |
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『64(ロクヨン)』, 『クライマーズ・ハイ』ときて3冊目の横山作品。
上記の2冊で感じたくどさがなく、これまで読んだ3冊の中では、本作が一番好み。 一つの事件を根幹にすえたことで、各話の役割や、話間の繋がりが明確となり群像劇としてのドラマ性を高めている。(最近読んだ群像劇物である『ラッシュライフ』と比べても、話の筋が明確な本作の方が好き。) 章毎に主人公を変える構成にしたことで、各章で話を畳む必要がなくなり、その結果、全体が締まった物語となったのだと思う。 また、流石に人間ドラマが売りの作家さんだけあって、描写や人物の造形は全体的にお見事。各話主役が抱いた、立場と本音の狭間での葛藤をひしひしと感じとることができた。 |
No.180 | 7点 | アクロイド殺し- アガサ・クリスティー | 2019/12/15 10:40 |
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(ネタバレあり)
-------------------------------------------------------------------------- 「普段読むジャンルからは外れるので、クリスティはあまり読んでない。 せいぜい有名作(『そして誰もいなくなった』など)と数冊だけ。 そんな自分が言うと生意気で、角が立つかもだけど、『アクロイド』のストーリーは、事件が起き、探偵が地道に手掛かり集めて、最後に容疑者たちの前で推理するという、こてこてものすぎる。 探偵小説に慣れてる人にとっては、退屈なんじゃないかな。 どうせ当たらないだろうし、犯人が誰かは、そんなに考えずに読んだ。直感では少佐が犯人かと思った。(理由は、他の登場人物よりはまだ意外性があるかな~と思ったから。ひどい推量とは、自分でも思う(笑)。) でも、『そして誰もいなくなった』みたいに途中で死んだ人もいないし、誰が犯人でもそこまで意外性がないような、とか心配してたら・・・、最後にやられたよ。物語を語ってた、わたしが犯人!?こんなのあり!? 完全に意識外だったから、びっくりした後、色んな箇所を見直しちゃったよ。 意表を突くという、なぞなぞの本質を、小説形式でここまで表現できるんだな~と感心したね。 : : : : : というわけで、『アクロイド』凄く面白かったわ。 やっぱクリスティって凄い作家なんだね。」 私「うん、そーだね。でも、まだそれ読んでない・・・。」 友人「(゚∇゚ ;)エッ!?」 私「」 友人「」 -------------------------------------------------------------------------- 悲しい事件でした。 友人はSF、私はミステリと棲み分けていたので、まさか私がこれほどの有名作を読んでないとは思わなかったのでしょう。 本作は完全ネタバレをくらった作品の一つです。ネットでのネタバレは今も昔も自衛していますが、リアルで不意を突かれるとどうしようもない(笑)。 以上が、「『アクロイド』殺し」の顛末です。 (以下書評) 友人の意見と同じで、現代のファンからするとストーリーが退屈な気はする。また、仕掛けの性質上やむを得ないのだが、全体的にあっさりとした書きっぷりで、人間ドラマもそこまで盛り上がらず。結局、件のトリックが楽しめるか否かが、本作の評価を決めるのだろう。 よって、ネタバレ済み、再読時はそんなに・・・という本かと。種が割れていると、犯人が紡ぐあからさまな描写を探して、にやにやしながら読むくらいしかできないので。(まぁ、答え合わせのようなもので、それも楽しいっちゃ楽しいですが。) ただ、この手の作品の中では本書は圧倒的にフェアだと思うので、個人的には技巧を称えて加点したいっす。 笠井潔さんの解説(早川書房2003年版)の通り、本作の文章は犯人が手掛けた文章なのだから、極端なことを言えば、本文中に嘘があってもフェアなんですよね。 その中で、事件に関する嘘の記述は無く、かつ犯人特定パートの前に作中作であることのネタばらしまでするので親切すぎるくらい。 残念ながら、ネタバレ済みで読んだ私には評価不可なので、本音は「点無し」ですが、ネタバレせずに読んだらおそらく9点という気がするので、ストーリーの5点との間をとって7点としておきます。 |
No.179 | 4点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2019/12/11 11:32 |
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一章はプロローグの役割で、二章から物語の本筋が始まる。五章だてで、文庫版だと総計400p.くらい。
私には音楽関係の描写が難しかったが、込められたメッセージは嫌いじゃない。ストーリーにもう少しオリジナリティを持たせるべきとは思うが、そこそこ楽しめた。 しかし、細かいところは抜きにねー、本作のメインの仕掛けねー、残念ながら最序盤(二章が開始して40p.くらい)でわかっちまったんだよねー。仕掛け自体がダメなのではなく、多分書き方の問題で、隠し方が不自然だったのだろう。 メインの仕掛けで感心できたら、面白かったのだろうけど、ネタバレ済みの手品を延々と見てる感じだった。騙されたかったなー、早々に種が割れた手品に高評価はつけられん。 |
No.178 | 6点 | ラッシュライフ- 伊坂幸太郎 | 2019/12/07 19:22 |
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時系列を無視した順番で話を提示することで、中盤まで物語の構造を隠匿している。最後の方で時系列が明確になるため、読者は最後まで読んでようやく、物語の全容を把握できる小説。
んで、この時系列シャッフルだが、私はそんなに良いと思えない。シャッフル自体に何か意味があれば別だが、そうでないなら+の効果がなく、単に途中をわざと-に書いて、最後で-から0に戻して、後半が面白かったと錯覚させるだけの小細工のように感じる。 物語間のつながりが分かりにくく、ややフラストレーションを感じながら読んでいた。(『ゴールデンスランバー』も最後に全容がわかるタイプだったかもしれないが、昔の記憶を引きずりだすと、そちらはストレス感じずに読めた気がする。違いは何だろう?) と、ここまで結構辛く書いたが、実際にはそこそこ楽しめた(笑)。各物語の続きが気になった上、伊坂さん流の軽快な掛け合いに乗って、各話単位ではスラスラと読めた。 最後におまけですが、過去に6点をつけた伊坂作品、『重力ピエロ』、『オーデュボンの祈り』と本作の好みを比べると、 『重力ピエロ』<『ラッシュライフ』 『ラッシュライフ』<『オーデュボンの祈り』 『オーデュボンの祈り』<『重力ピエロ』 です。どの作品が好きかと聞かれたら騙し絵のごとく1周します。 |
No.177 | 6点 | 黒後家蜘蛛の会1- アイザック・アシモフ | 2019/12/04 18:38 |
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設定は好みで、読みやすかった。
全体を通してアシモフの博学ぶりが発揮されているが、その結果こっちの知識が足りずよーわからんという話があり、その点はちと残念。特に書籍や歌などの知識が謎の解明に必要となる暗号系の話は厳しかった。そういった蘊蓄を下らんと吐き捨てるトランブルが私に一番近い感性の登場人物でした(笑)。 総合的にはまずまずなものの、雰囲気が好きなので続きも読みたいと思った。 収録作毎の書評 ・会心の笑い(7点) 好調な出だし。盗んだもの云々の謎よりも犯人とヘンリーが結びつく瞬間が面白い。 ・贋物(Phony)のPh(7点) 本作を気に入るかどうかは、カンニングの肝が学生でなく教員側にあるという意外性が楽しめるかどうかである。 (この本の書評じゃないが、「スケットダンス」という漫画でこの意外性を用いた話がある。「蜘蛛の会」というタイトルの話も別にあるので、作者は本短編集を読んでるっぽい。) ・実を言えば(7点) 言葉を論理的に扱うのは結構難しいという話。 (真面目な文章を書いているとこのことをいつも痛感します。論理を語る上で、日本語には冠詞が無いのが辛いです。) ・行け、小さき書物よ(6点) 小道具を活かした佳作。この話で一番センスを感じたのはタイトルっすね。 ・日曜の朝早く(8点) シンプルな仕掛けが光るアリバイ工作もの。このしかけは好きですね~。 ・明白な要素(7点) 乱歩さんの「赤い部屋」のオチといい本作のオチといい、短編集に一本くらいは有りと思う。長編でやられたら怒ると思いますが・・・。 ・指し示す指(5点) しかけはアホ程シンプルだが、「シェイクスピア」に関する語りがすごい。私は「シェイクスピア」をろくに知らないので退屈でしたが。 ・何国代表?(5点) 今度は「聖書」について語る。私は「聖書」もろくに知らないので退屈でしたが。 ・ブロードウェイの子守歌(5点) 大工音の正体を探る話。なんとなくパッとしない。 ・ヤンキー・ドゥードゥル都へ行く(5点) 歌がわからんとどうしようもないので、この話も好きではない。 ・不思議な省略(5点) これも「鏡の国のアリス」ありきの解決でイマイチ。 ・死角(5点) 謎の解決に特別な知識を必要としないという点は他の5点をつけた話より良いと思います。ただし、容疑者を全員リストアップする際にその場にいたウェイターを数え落としますかね?「ブラウン神父の童心」の「見えない男」の書評にも似た内容を書いたが、人が徹底的に現場にいた人物を調べるとなったらそうそう見落とさないでしょ。意識外の人物は、目撃者が問題に対し真剣でない場合のみ有効だと思います。 |
No.176 | 7点 | 風の海 迷宮の岸- 小野不由美 | 2019/11/27 19:17 |
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2冊目の十二国記シリーズ。「月の影 影の海」から4ケ月半も空いてしまった。(こんなに空けるつもりはなかったんざんすけどねぇ。)
今回は北東の国 戴 の麒麟が主人公。幼少期を蓬莱で育ったゆえに麒麟として未熟な泰麒の心情がストーリーの肝なのだが、少年の心の葛藤を覗く話としては良くも悪くも当たり障りがない物語という印象。ただし、物語終盤の王を選ぶシーンのこの後どうなってしまうんだ感と最終的な顛末は、十二国記らしさが出ていて良い。 綺麗な起承転結もので、この読みやすさは流石小野さん、という作品。インパクトの大きさは「月の影 影の海」の方が上なのに対し、本作の方が万人受けしやすいストーリーと思う。 |
No.175 | 9点 | 八つ墓村- 横溝正史 | 2019/11/23 11:39 |
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4冊目の横溝さん作品なのだが、今のところ毎回期待以上の満足度があり作者の力量に感服いたす。
本作は「本陣」(9点)、「犬神家」(8点)、「獄門島」(6点)を抑え横溝作品暫定一位に躍り出ました。(()内は過去の書評でつけた点数) 読みやすく、一気に最後までいけた。謎の撒き方が素晴らしく、主人公の味わうドキドキ感を共有しながら物語を楽しめる。殺人が多いせいか一つ一つの殺人事件は薄口なのが少しもったいなかったが、全体では久野おじ、濃茶の尼の役割がいい感じに謎を混沌とさせていて良かったと思う。 現場にいながら相変わらず連続殺人を実行される金田一はどうかと思うが。(初めて「獄門島」を読んだ頃は名探偵と言われてる割にまぬけで多少いらついてましたが、今はそういうもんだと割り切っています。) |
No.174 | 6点 | オペラ座の怪人- ガストン・ルルー | 2019/11/18 06:29 |
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初ルルー(「黄色い部屋」は未読なので。)
恥ずかしながらこの本を読み始める前は有名な「オペラ座の怪人」の原作がルルーだというのを知らなかったです。周りも意外と知らない人が多かったけども。 実在するガルニエ宮が舞台の本作、途中オペラ座の外観がどうも掴めずwikiで少し調べてようやく建物の構造をある程度理解。本作で重要な役割をはたす隠し通路と地下の湖はオペラ座の外観が頭にないとイメージし辛いかも。これから読む方で、文章から建物がイメージできない場合は迷わず写真を見ながら読み進めるべきっすね。 本作は非常に謎の提示の仕方が上手い。特に前半は幽霊が各所(舞台役者、支配人達、クリスチーヌ相手)で暗躍しており、とにかく謎の全貌がわからず、この先どうなるんだろうと純粋に読み進められた。個人的なピークは13章「アポロの堅琴」です。クリスチーヌがエリックの素顔を暴くシーン周辺でゾクリとした。夜中に一人で読んでたので背筋が凍りましたよ・・・。 逆に言うと14章以降にもう一山ほしかったなあ。後半は前半のドキドキ感を維持できず失速。ラストのエリックとペルシア人の会話は好きだが、拷問部屋のあたりはわりと退屈だった。(本当はそこが山場なんだろうけど。) |
No.173 | 4点 | スナーク狩り- 宮部みゆき | 2019/11/07 19:25 |
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本作を読んで一つ自分の嗜好に気が付いた。どうやら私は
映像・音声娯楽(テレビ、ラジオ):LIVE感、スピード感 書籍娯楽(小説、漫画):じっくりと味わい深い感じ を求めているようだ。(もちろん傾向なだけでこれが絶対ではない。) 本書は非常に事件の展開が早く作中で流れる時間は半日程。この目まぐるしさは映像で見た方が面白そうだなあと読んでる途中で思った。これまで読んだ宮部さんの作品は概ね好きで本書も決して嫌いではないのだが、キャラクターがなじむ前に物語が終わってしまったようなもったいなさがあり、総合的には物足りなかった。(別に「模倣犯」のようにページを増やせという意味ではないです。) |
No.172 | 8点 | 空飛ぶ馬- 北村薫 | 2019/11/01 09:58 |
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この優しい雰囲気がいい。更にそれが読者にふつふつと伝わる文章力が見事。また、全体的に文章が上手いのか伏線が良い意味で物語に隠れており、推理パートで伏線が回収されると、そういう意味だったのか!となる。
デビュー作でこのクオリティって凄いわね。北村さんのファンになったかも。点数は各話の平均+1点(デビュー作補正)。 文学と落語の引用が多く、教養の無い私はそこでにやりと出来なかったのが悔しい。94年の創元文庫での安藤さんの解説にもあるようにぜひ時間をおいてから再読したい本です。 収録作毎の書評 ・織部の霊(7点) 切腹の伏線が重要。私は本のページを破っていたのかと思いました。 ・砂糖合戦(6点) 「私」が微妙に円紫さんに対抗意識を持っているのが微笑ましい。事件の動機は逆恨みだが、現代では逆恨みってのは馬鹿にできない犯罪の動機になりつつあるね。 ・胡桃の中の鳥(6点) 正ちゃんが良いキャラ。仮に事件が無くても女子大生と円紫さんの旅だけで間が持ちそうなのが凄い。 ・赤頭巾(6点) 本短編集の中では暗めの話でいわゆるふつーのミステリの空気に近いが、この作品群の中では逆にそれが個性になっている。話は6点だが以下の何気ないやり取りが本短編集の中で一番気に入っている。 円紫「和食にしますか、洋食にしますか、それとも中華?」 私 「和食が好きです」 円紫「そんな気がしました」 私も読んでてそんな気がしましたもん。 ・空飛ぶ馬(8点) これと「織部の霊」は読者も推理可能だったのかな、と思う。木馬を消した人物はヤマ勘でも分かるが、消した理由はきちんと途中のヒントを拾わないとわからない良作ミステリ。 |
No.171 | 5点 | 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 | 2019/10/28 13:37 |
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麻耶さん本2冊目。「貴族探偵」が良かったので期待していたが、残念ながら本作はあまり好きでない。読後のどんより感は道尾さんの「向日葵の咲かない夏」に似ている。
「オリエント急行」でも感じたことだけど、斬新さと称して突飛なことをすれば必ず面白いというわけではない。本作では神様が推理無用で事件の真相を明かすが、要は作者が言ったからこれが答えです、というような乱暴さがあり私にとってはイマイチでした。 基本点は4点で最後に意表を突かれたのでその分1点足す。(犯人は父親と予想してたので。) 余談だが、本作のようにお子さんを客層にするなら、このような変化球本でなく、もっと教科書的な探偵小説(クイーンのように犯人当てゲームができるような)の方がいいんじゃないかしら。ミステリのお約束に慣れていない読者がこの本を読んでも、いつの間にか事件が片付き、ぽかんとするだけだと思う。 |
No.170 | 5点 | アリバイのA- スー・グラフトン | 2019/10/25 10:06 |
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この本の一つ前に読んだ「双頭の悪魔」の中でアリス達が話題に出していたのでスー・グラフトンのデビュー作である本書を読んでみることに・・・、というわけではなく元々次はこれを読むつもりでした。偶々だが、触発されて読んだみたいな順番になったわね。
本書はこてこてのハードボイルド系。ハードボイルド嫌いな方は間違っても読まない方がいいかも。ただし本書はハードボイルドが売りのいわゆる広義のミステリに分類されるかと思いきや、物語の核である謎はフーダニットが中心、事件の裏に仕組まれた読者を驚かせる意外性など、従来の本格ファンもおいてけぼりにしない要素を多く内包していると思う。(訳者あとがきによると作者はクリスティを目標にしているようなので、その影響かも。) 全体としてそういう良さを感じた反面、個人的に惜しいと思う点が四つある。 1) 主人公が真実を解き明かす方法がヤマ勘のように見える。いわゆる論理が無いような気がするが・・・。(私の読み方が甘いのかな?) 2) 冒頭の1パラグラフは余計。主人公の行動を公式にネタバレしているのでクライマックス場面のハラハラ感が減少。 3) 中盤までの関係者を一人ずつ当たるパートが長すぎてだれる。丁寧に書く人数をもう少し減らした方が良かったのでは、と思う。 4) 人物同士の関係が分かりにくい。結構終盤まで登場人物一覧に戻りながら読みました。 1), 2)はミステリとしてイマイチだし、3),4)は世界観に入り込むのに障害となるので総合的に4点くらいの印象。その一方上記に書いたような本格読者向きの良さもあるし、本作でデビューした主人公キンジーの今後の活躍も気になるので1点おまけした。 |
No.169 | 8点 | 双頭の悪魔- 有栖川有栖 | 2019/10/19 17:33 |
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質のいい犯人当て小説を世に出している新本格作家は?と聞かれたら誰だろう?私的には「孤島パズル」を書いた有栖川さんは筆頭候補者の一人である。
本書は三回もの読者への挑戦状付きで非常に楽しませてもらった。(その分読むのに4週間くらいかかったが。) 豪勢な犯人当て×3をもってして基本点を10点とする。ただし犯人当てクイズを売りにするからにはその論理を多少厳しく評価してみる。 (以下ネタバレ) 挑戦状の事件ごとに評価 ・小野殺し(第一の挑戦状) 犯人が単独犯なら(これ重要)、江神のロジックで犯人を絞れる。私も推理が的中。感心した点も文句を言いたい点もないのでここ単体としては±0。 ・相原殺し(第二の挑戦状) 相原が自ら手紙を右後ろポケットにしまうのは不自然という点から、小学校で密会することを伝える手紙が一度犯人に渡ったという、望月の推理には感心したので+1。(相原が手紙を渡せていなかった場合を私は捨てきれませんでした。) アリスの推理は私も的中。しかしここは有栖川さん(作者)に一つ文句がある。犯人特定パートにてアリスが 「相原さんが手紙を書いたのが四時。僕たちについて宿を出たのが六時。その間、宿の外部の誰とも接触していません。書いた手紙をどうするつもりだったんでしょうか?」 (p.533 十三章 3(1999年 創元推理文庫))と言い、これを起点に相原が手紙を渡せた相手を限定していく。しかし挑戦状より前の情報で相原が四時~六時の間に宿に籠っていたという記述はない。 該当場面を見ると四時頃に相原が手紙を渡した場面から、飲み会の場面に移りその会話の中で六時頃に相原とアリス達が宿を出たという情報がでる。警察の事情聴取パートでもこの時間帯の相原の行動を明記している箇所はない。つまり読者は 「四時~六時の間に相原が直接犯人(例えば診療所にいる中尾や保坂)のもとに出向いて小学校で密会することを伝えようとするも、何らかの理由で直接会えなかったので、念のため用意した手紙を犯人宅のポストにいれた」 というストーリーも作れる。 これは挑戦状の前に必要な情報に不足ありと言えるだろう(-2)。 ・八木沢殺し(第三の挑戦状) これは別解があるように思える。どういう別解かというと犯人=千原由衣という解である。 「マリアがピアノの音を聞かなかったのはおかしい。(作中の江神の推理と同じ。)ゆえに犯人は八木沢がピアノを弾けない状態にあると知っていた。八木沢がピアノを弾けない状態とは眠っている状態、つまり音楽室に入る前に飲んでいたコーヒーに睡眠薬を仕込めた人物千原由衣が犯人である。」 という推理である。これが頭によぎったため犯人を千原由衣と真犯人の二択で絞れなかった。上記の推理のネックは小野殺しの事件の顛末を盗み聞きした人物Xと千原由衣がイコールでない点であるが、X=殺人犯は作中でも江神の推測で終わっているので否定材料にはならないと思う。 この別解は動機の点で苦しいが、可能性が否定されないうちは-1です。 あと犯人特定の決め手となった、死体とピアノに香水をふりかけたという行動に犯人のメリットがなく、全登場人物の行動の中で一番不自然な行動と思うので-1。 ・事件全体について 交換殺人が行われていたというのは相原殺人の犯人の家から小野の耳が出てきたあたりで想像できたので±0。しかしそれを直接二人がやっていたのではなく、仲介人がいた、というのは完全に意識外で二つの事件の結び付け方としては面白く、非常に驚きだった(+1)。 しかし一連の事件が複数人の共同犯罪とすると小野殺しの犯人に異議をさしはさむ余地がでてくるんだよね。例えば第一の犯人(小野殺し)と第二の犯人(相原殺し)の間で 第一の犯人「俺が香水をかけておくから、後から鍾乳洞に入り、においを頼りに小野のもとに行き、殺せ。」 第二の犯人「了解。」 というやりとりがあれば、第二の犯人を小野殺しの犯人とすることもできる。(第一の事件の段階で橋は落ちていない。)それに実は他にも別解を作れる。総合的にこれも-1。だから共犯ものは苦手なんよ。犯人達の自由度が上がって別解が増えすぎるから。 ・最後に勝手な思いつきで勝手に加点 第一の犯人が小野の死体を岩棚の上に担いだ理由は、もちろん共犯者と思っている第三の犯人(八木沢殺し)を容疑圏外に外すためだろうが、それ以上に愛するあの人を容疑圏外に外したかったのではないかと思う。これは作中で話題になっていないので真相は不明だが、なんとなくこの解釈は気に入っている(勝手に+1)。 以上で合計8点。真面目にロジックで勝負をしてきた作者にはこのくらい真面目に採点します。いつもより厳しめかもだが、これはこれでということで。 |
No.168 | 6点 | ミッキーマウスの憂鬱- 松岡圭祐 | 2019/10/12 15:26 |
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他の書籍で紹介されていたので手に取った本書。当初はミステリと認識しておらず本サイトで書評を書く気は無かったのだが、解説に痛快なミステリー小説とあったので書評を書くことに。
本書の特徴はディズニーランドのバックステージをほどほどにリアルに書いた点で、読んだ者は皆おそらく、この話どこまで事実なのかな?と思うだろう。しかしゲストに夢を提供するキャスト達の仕事ぶりを見るにその真偽を追求することは本書の楽しみ方と違うのだろう。読者はそういう細かい点は気にせず、キャスト(松岡さん)の魔法にかかって夢の国(本書)の物語を満喫すべきなのだろう。 肝心の物語であるが、夢を見ていた新人の主人公がディズニーランドの裏の現実を知り、当初は複雑な感情を抱くものの、だんだんと自らの仕事の意義を見出す話で、悪く言うとそれほど新規性や意外性がある話ではない。しかし始めは単なる世間知らずな雰囲気の主人公が最終的に仲間やゲストを思って行動する立派なキャストになる成長過程は単純に読後感がよくおすすめ。 東京ディズニーランドの経営会社と現場のキャスト達との戦いという点は組織対個人の要素があり、書き方こそ大分違うものの横山秀夫さんのストーリー展開に似ているかもしれない。 |
No.167 | 5点 | ミステリー傑作選・特別編6 自選ショート・ミステリー2- アンソロジー(出版社編) | 2019/10/08 12:05 |
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前作「自選ショート・ミステリー」の正統続編で、出来はいい意味でも悪い意味でも前作と変わらない。
全体的な評は「自選ショート・ミステリー」の書評と同じなので、以下特に気に入った個別作品の書評。 新保博久 「雨のち殺人」 本短編集で一番出来が良いと思った。女性を脱がして視聴率を稼ぐ天気予報という、今だと少し問題になりそうな番組設定で読者を導入し、奇抜な番組を利用したアリバイ工作がシンプルながら光る。そしてそんな工作が天気予報キャスターのまさかの行動で裏目にでるという展開。 物語のオチとしても十分かつ、周到なアリバイ工作も予期せぬ展開の前には無力ということを思い知らせる良い終わり方と思う。 斎藤肇 「足し算できない殺人事件」 短い話に二つの叙述トリックをねじ込んだせいか、非常に読みにくい。それに叙述のやり方が結構力技というか、美しさを感じないやり方なので特別優れたミステリとは思えない。しかし、雰囲気ホラーでお茶を濁す作品が多い中で何とかミステリとして爪痕を残そうとしてる感じがし、結果的には割と好きな話です。 依井貴裕 「奇跡」 結婚式の二次会で、客の手品師が披露した奇跡のネタが本短編の謎である。手品はネタが割れるとしらけるというのが定番だが、この手品のネタはそうでもなく、寧ろよくそんなリスキー(手品師とその友人の花婿にとって失敗した時のリスクが大きい)な手品をやったなあと感心させられるものである。読後感がすっきりしているのも本短編の魅力。 高井信 「不思議な能力」 不思議な能力として、あんなくだらん能力を紹介されたら主人公みたいに呆れるしかないでしょう(笑)。呆れかえった主人公が浴びせる最後の言葉が皮肉とユーモアの利いた返しで気に入った。 上記4つからは落ちるが、新津きよみさんの「ホーム・パーティ」、斎藤栄さんの「星の上の殺人」、篠田節子さんの「春の便り」あたりも気にいっている。 |
No.166 | 4点 | 超・殺人事件―推理作家の苦悩- 東野圭吾 | 2019/09/24 10:12 |
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本書はミステリの短編集よりも推理作家周りのブラックジョーク集である。(もちろんミステリ要素のある話もあるが。)
今回ブラックジョークの潜在的な難しさについて少し思うところがあったので少し書いてみる。ブラックジョークの基本は他人の不幸は蜜の味という奴で、人間の嫌な性質を利用している。 この「他人の不幸」が曲者で、決して「自分自身やその周辺の不幸」ではジョークとして成立しない。そしてこの他人か自身の周辺かの線引きは完全に個人の性質に依存するため、万人受けするブラックジョークなるものは原理的に存在しないのである。 なぜこんなことを思ったのかというと、このケースが本書で私自身に当てはまりまして。 問題は二番目の「超理系殺人事件」と四番目の「超高齢化社会殺人事件」で、まず「超理系殺人事件」の方は理学を学んでいる身としてどうにも「他人の不幸」と思えず、どにかく馬鹿にされているように感じた。同様に「超高齢化社会殺人事件」の方も周りに認知症の方がいるため、それを茶化した終わり方にもやもやを感じた。 もちろんジョークなんだからそうカリカリするなと言われればそれまでだが、本書はどうしてもこの二編に引きずられ全力で楽しめなかった気がする。(他の話は結構好きなのもあったけどね。) なのでこれまで読んだ東野さん作品の中では低めの点数とするが、あくまで個人の感想なので(悪徳セールスみたいな言い訳だけど)、これから読む方は私の感想などは気にせず是非「他人ごと」として本作のジョークを楽しんでほしい。 上記二編以外の感想 ・超税金対策殺人事件 これは単純に笑った。主人公の仕事がなくなるオチだが、そりゃあんなひどい仕事をしたらそうなるよね(笑)。 ・超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇) 本短編集の中でミステリ要素が一番強い話。叙述トリックに気が付くことを犯人あてに組み込むという技巧が光る良短編。オチもそりゃそうだ(笑)という感じでコメディ要素もいい。 ・超予告小説殺人事件 小説の展開通り殺人が起こるが、最後は作者自身が小説の展開通り死んでしまうというオチ。 昔ジャンプで連載していた「アウターゾーン」にありそうな話。結構好きです。 ・超長編小説殺人事件 上手さとかはなく、ひたすらページ増設によるごリ押しのパワーギャグですね。本短編集中で一番ブラック要素が薄いと思う。全体の中では微妙。 ・魔風館殺人事件(超最終回・ラスト五枚) 体をはった一発ギャグならぬ、小説をはった一発ギャグ。読む前に目次を見ないほうが良いと思います。 ・超読書機械殺人事件 東野版の「笑ゥせぇるすまん」。ミステリ要素はないが、本読みとして心にとめておきたい話ではあるかな? |
No.165 | 7点 | Zの悲劇- エラリイ・クイーン | 2019/09/22 14:25 |
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(再読シリーズ7)
ドルリー・レーンシリーズも折り返しの本書、出来や面白さは別に自分にとって思い入れのある一冊です。(そういえば書評を書いていなかったのに気が付いたので、今回読み直し書くことに。) というのも、実は解決編の手前まで読んで少し考えて放置、内容を忘れたのでまた最初から読む、というのを何度かやってしまった。(まるで電車で寝過ごして、戻るもまた寝過ごして目的の駅を通り過ぎるという感じ。) おかげで図らずとも問題編の内容をほとんど覚えることになった。これだけ時間をかけたのだからなんとか犯人当ててやる、と後半は意地にもなり、おかげで犯人当ては無事成功しました。しかし、作中の論理でまずいだろうと思う点があるので、下でつっこませていただく。 ・本書の論理の穴 私が当てられたように読者が「登場人物」の中から犯人を当てるのに必要なヒントは十分提示されていると思う、そこは流石のクイーンというところ。 しかし、クイーン作品だからあえて厳しめに評価するが、私は本書のロジックには穴があると思う。 解決編によると真犯人は監獄の関係者で夜勤担当でない、また水曜日に殺人ができない理由があったという。これについては穴などない。ただし水曜日に殺人ができない理由をスカルチの死刑があったからと決めつけるのは強引じゃなかろうか? もちろん普通に本書を読めば水曜の死刑に立ち会ったのだろうと推測できる。しかし犯人はスカルチの死刑とは無関係な用事で殺人を行えなかった可能性を本書では否定していない(と思う)。 私は登場人物紹介の中以外に犯人がいるはずないというメタ要素から、容疑者をマグナスに絞れた。しかし登場人物紹介を見られない作中のキャラクターは他の監獄関係者も網羅的に調べ、そのうえで水曜日に殺人ができない理由はスカルチの死刑があったためだ、と論理的に導かないといけないと思う。 |