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いいちこさん
平均点: 5.69点 書評数: 527件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.67 7点 カラスの親指- 道尾秀介 2012/04/29 22:38
圭角の取れた平易な語り口でご都合主義が目に付く展開。
作者らしからぬエンタテイメントに徹したコン・ゲーム小説と思わせておいて、それさえも伏線にする2度のどんでん返しが待っている。
ありがちなメイントリックだが、考え抜かれたプロット。
加えて作中に再三描かれる見事なメタファーをはじめ、技巧的すぎるストーリーテリングが光る。
あまりにも鮮やかすぎてややあざとさを感じないでもないが、完成度は極めて高く8点に近い7点

No.66 6点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2012/04/26 20:23
ハウダニットを捨ててフーダニットとホワイダニットで攻める。
横溝正史の王道を行くサスペンス寄りの作品だろう。
明かされた真相とメイントリックの衝撃度と必然性はさすが。
しかし人間関係が複雑で地理要件が肝にも関わらず読者へのサポートは0。
その点が大きな減点。

No.65 5点 白夜行- 東野圭吾 2012/04/12 22:01
東野圭吾の数ある作品の中でも1、2を争う評価の高い作品だが、私にとっては残念なデキと言わざるを得ない。
敢えて主人公の内面描写をせずに周囲のエピソードから迫っていくというプロットはわかる。
しかしいくらなんでも説明不足が過ぎる。
主人公がなぜあれほどまでに献身的に振る舞わなければならなかったのかが本作の主題である。
しかし、その核心に迫るものが何もない。
複数解釈を許す柔軟構造との反論もあるかもしれないが、それにしても圧倒的に説明不足すぎるだろう。
従って、あっけなさ過ぎるラストも単に置いてけぼりを喰らっただけで終わってしまった。
私の読解力不足かもしれない。
読む人によっては言い知れぬ余韻が残るのかもしれない。
だとしたら、これほどのボリュームが必要だったのかは大いに疑問。
広げるだけ広げた風呂敷が一気に畳まれるカタルシスが一向に感じられないまま、徒労感と消化不良を感じる読後感だった

No.64 6点 そして名探偵は生まれた- 歌野晶午 2012/03/20 16:48
3つの中編と1つの短編による構成。
作品のデキに大きなバラツキがあるものの、上位2作は一読の価値あり。
書評は高評価順。

②「生存者、一名」
全般に平易すぎる印象なのは中編だけにやむを得ないところか?
語り尽くされた感のある絶海の孤島モノを秀逸な着想で切り抜けた点は高く評価。
③「館という名の楽園で」
実現可能性にはやや疑問符がつくもののオリジナリティのあるメイントリックを評価。
イングランドの昔話2編と有機的に連携させたプロットも見事。
④「夏の雪、冬のサンバ」
細かなミスディレクションに上手さは感じるが、メイントリックが雑で無理がある印象。
①「そして名探偵は生まれた」
ミステリとしては評価すべき点がなく、本格ミステリに対するパロディとして書いた作品と見るべきだろう。
それにしても不徹底で中途半端な印象が拭えず、作者の意図を掴みかねる。

No.63 7点 星降り山荘の殺人- 倉知淳 2012/03/18 11:29
シンプルだが斬新なメイントリックに賭けた作品。
ステレオタイプなキャラクター造形、シンプルで一本道のプロット、軽妙な語り口等で、エンタテインメントに徹しリーダビリティを高めたことも奏功した。
作者の狙いは成功していると評価できる。
ただロジック、特にアリバイ・心因的要素・警報装置等の取扱に違和感が残り、本格パズラーとしての脆弱性が否定できない点からギリギリの7点に止まった

No.62 5点 倒錯のロンド- 折原一 2012/03/14 20:20
折原作品で手記が登場するとなれば叙述トリックと宣言しているも同然。
それでも読ませるだけのプロットの面白さ、巧妙なストーリーテリングが光る。
しかし明かされた登場人物のほとんどが●●という真相は、ご都合主義そのものであり、背景・人物造形の観点からも合理的な説明が付けられたとは言えない。
テクニックは認めてもこの評価

No.61 5点 - 麻耶雄嵩 2012/03/12 21:09
大きな2つのメイントリックが見所。
1つめのトリックはある有名なトリックを極めて大胆に使用している点で作者ならではの奇想。
ただここまで突拍子もない設定とするからには、合理的に説明し得る、少なくとも蓋然性を予感させる程度の背景は必要で、それが皆無である点でファンタジーの域を脱しない。
もう1つのトリックも無理を感じるレベルで正直あまり感心できるデキとは言い難い。
本来ならもっと低い評価が妥当だが、最初に示される真相の完成度が高くこの評価とした。
ネタバレしないように書評するのが難しいが、一言で言って好き嫌いが分かれるとしか言い様がない。

No.60 4点 天使のナイフ- 薬丸岳 2012/03/06 20:02
世評の高い作品だが基本的には少年法という注目度の高いテーマをミステリに仕立てたアイデアの勝利だろう。
性急に結論を求めるのではなく、双方の主張を丁寧に汲み取るようなストーリーテリングにも好感が持てる。
問題はプロットだが評価に値しない。
奇怪・非現実的な状況をどのようにして合理的に説明し、読者に納得してもらえるかがミステリの要諦である。
だから作者は舞台設定・人物造形をはじめプロットを練りに練らなければならない。
ところが本作は真相の恐るべき偶然に対して、何らの合理的説明、共感を得られるような舞台設定もしておらず、結果としてすべてが偶然で片付けられている。
ミステリとしては努力不足と言わざるを得ず、この評価

No.59 6点 99%の誘拐- 岡嶋二人 2012/02/29 20:02
ミステリというよりサスペンスと呼ぶべき作品だが、相変わらずプロットは抜群。
起伏の少ない一本道のストーリーだが、平易かつ簡明な語り口で一気に読ませる魅力がある。
ただ事件の全体像があまりにも早い段階で明らかになってしまう点、盛り上がりに欠けるラストでやや減点

No.58 6点 生首に聞いてみろ- 法月綸太郎 2012/02/28 19:26
首切りの理由、殺人の真相はよく考えられており、ロジックとしては斬新。
しかしロジックにこだわり過ぎるあまり、ストーリーテリングが平板かつ地味で盛りあがりに欠ける印象。
加えて主要キャラクター間の人間関係とそこに起こる事件、終盤の叙述トリック的な仕掛けに強くご都合主義を感じて減点。

No.57 3点 暗闇坂の人喰いの木- 島田荘司 2012/02/24 19:31
御手洗シリーズを書きたいと思いながらも、社会派トラベルミステリ全盛の時代ゆえに心ならずも吉敷シリーズを書かざるを得なかった作者が、約9年ぶりに書き下ろした御手洗長編と聞いていた。
それがこれだとしたらファンとしてあまりにも残念。
島荘の作品だからハードルを上げた訳ではなく、公正に評価してこの点数であり、正直言ってスコットランド編以外は評価に値しなかった。
島荘中期作品の世評を残念な意味で裏付ける作品。
未読の方は「占星術」「斜め屋敷」「異邦」の後は「北の夕鶴」に向かうべきだろう。
(以下ネタバレを含みます)
プロットとボリュームだけを膨らませた「北の夕鶴」の劣化版と断ぜざるを得ない。
メイントリックは完全に同作からの借用。
しかも同作で物理的に不可能との指摘を受けたからか、実現可能性を高めるためにトリックを複雑化させたことで衝撃は希薄化し大きく劣化した。
2つの殺人の奇怪な状況をすべて●●で片付け、地下室との奇妙な一致についても何ら説明しないなど、論理的解決を放棄している。
さらに第2の殺人における犯人の犯行経緯・状況(特に死体運搬と遺書)は全く説明がつかないもので荒唐無稽と言わざるを得ない

No.56 6点 シャドウ- 道尾秀介 2012/02/20 20:43
本格ミステリというよりサイコ・サスペンス風の作品。
真相が見えそうで見えないように計算された多視点の論述構成。
随所に散りばめられた伏線がダブルミーニングをはじめ多種多彩でミスディレクションの嵐。
見事なテクニックは相変わらず。
それだけに犯人に待ち受けるラストには引っかかるものがある。
主題の処理の仕方もやや安易な感は否めず、パッケージ全体としては軽量級の印象。

No.55 6点 マジックミラー- 有栖川有栖 2012/02/19 17:07
第一のトリックは実行困難と思われる点もあるが、チケットに秘められた巧妙な仕掛けがさすが。
第二のトリックはH氏の人気作の先例とも言うべき非常に独創的なもので鮮やかな出来映え。
いま一つ盛り上がりに欠けるストーリーテリング、最終盤の真相解明にあたっての探偵の動きなど不満な点もあるが、単なるアリバイ崩しに終わらない本格魂は感じた

No.54 8点 リピート- 乾くるみ 2012/02/18 13:18
リピートするまでの前半部にかなりの紙数が割かれ、やや冗長な感は残るものの設定としては秀逸。
登場人物の言動が微妙に現実を変えていく様と、カオス理論のバタフライ効果を重ね合わせたような主題が見事。
何より彼らに秘められたミッシング・リンクの謎がシンプルかつ抜群のキレ味で、恐るべき悪意と人生の無常さを思わせる。
ラストはあっけなさが残るがベストの選択だと思う。
イニ・ラブには及ばないまでも、必読の作と評価

No.53 4点 インシテミル- 米澤穂信 2012/02/15 17:52
本格ミステリのコード進行を意図的に乱すような稚気あふれる試みは好感。
骨格とロジックは本格だしストーリーテリングも悪くない。
ただプロットが十分に練られていないため、後半から激しく失速しラストは尻すぼみ。
個性的な舞台設定を全く活かし切れていない。
加えて主催者・犯人の動機をはじめ圧倒的に説明不足。
結局何が書きたかったのか消化不良の感が否めない

No.52 4点 すべてがFになる- 森博嗣 2012/02/12 14:49
これまでで最も世評との乖離を実感した作品。
メフィスト賞受賞作と決定的に相性が悪い。
本作も1個の読物としてはともかくミステリとしては評価すべき点がない。
随所に散りばめたコンピュータ用語と処世訓で装飾しているが、ミステリの本質としては欠陥が多く空想的。
(以下ネタバレを含みます)
そもそも殺人の動機が十分に説明されておらず、想像しようにも非常に無理があり、それを登場人物の個性として片付けるのはアンフェア。
「すべてがFになる」というメイントリック自体が陳腐。
これだけのメイントリックを仕掛けられる犯人なら、こんな迂遠かつリスキーな手段に訴えずとも、目的を達成できるはず。
主人公が他殺体の身元を断定した根拠が不明であり、かつ警察の解剖でも見抜けなかったというのはあまりに無理がある。
第二の殺人の真相がいくら何でも無理筋。
衆人環視の状況の中、犯人があんなに簡単に脱出できるはずがない

No.51 9点 首無の如き祟るもの- 三津田信三 2012/02/11 09:41
ある主要キャラクターに隠されたトリックがわかれば、連続殺人の様々な謎が芋づる式に解ける点で極めて端正で完成度の高いパズラー。
そのトリックが仕掛けられた背景もホラー部分と有機的に連動しており説得力抜群。
加えてメイントリックはご都合主義の恩恵は若干受けているものの、恐るべき企みと言え、切れ味が極めて素晴らしい。
プロットとトリックだけなら10点の評価にも値する。
それだけに前半の冗長なストーリーテリングでスピード感とリーダビリティに欠けた点が惜しまれる。
最終盤のメタミス的展開も明らかに余計で、メイントリックの衝撃を希薄化させた。
荒削りさは感じさせるものの世評どおりの傑作に間違いない。

No.50 8点 悪意- 東野圭吾 2012/02/05 16:13
世評の高い作品だが冒頭が手記である時点でこちらも身構えている。
真犯人は容易に想像がつくので後はミスディレクションを探すだけ。
案の定、犯人はすぐに逮捕され悲しい背景と恐るべき悪意が見えてくると思ったら一転・・・
殺人自体が真の目的ではないという斬新なプロットを評価。
救いがなさすぎる真相だが共感を感じる部分もある。
まとまりが良すぎてややパンチ力不足の感もあるが、類稀なテクニックと完成度の高さを評価

No.49 7点 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 2012/02/04 18:07
本格ミステリとしては瑕疵が多く脆弱な印象。
第一の殺人を密室とする必然性の乏しさ、真相に辿り着くプロセスがロジカルに説明されていない、「あざ」の遺伝、帝銀事件に範を取った冒頭の事件がご都合主義に過ぎる・・・
ただ、イントネーションの相違からの推理や、タイトルと同名の曲に秘められた謎はさすがのキレ味。
明かされた陰惨な真相も極めて衝撃的で、多くの伏線を回収し犯行動機を納得させるに十分なもの。
それでいて若干の希望が垣間見えるラストの読後感もよく、読み物としての完成度の高さを評価

No.48 6点 黒い家- 貴志祐介 2012/02/02 18:34
ミステリ要素は少なく純然たるサスペンス。
生命保険のモラルリスクの生々しい描写を通じて、社会保障制度の根幹を揺るがすフリーライダーを想起させる主題はいい。
しかし肝心のサスペンスは想定を下回るレベル。
読了順が逆だったためか後の著者の飛躍ぶりを実感させる結果となった。
リーダビリティの高さを評価に加えてもギリギリの6点

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いいちこさん
ひとこと
評価にあたっては真相とトリックの意外性・納得性を最重視しつつ、プロットの構想力・完成度、犯行のフィージビリティ・合理性に重点を置いています。
採点結果が平均6.0点前後となるよう意識して採点するととも...
好きな作家
東野圭吾、麻耶雄嵩、京極夏彦、倉知淳、奥田英朗。次点として島田荘司、有栖川有栖、法...
採点傾向
平均点: 5.69点   採点数: 527件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(30)
麻耶雄嵩(20)
島田荘司(20)
宮部みゆき(15)
倉知淳(15)
奥田英朗(15)
京極夏彦(14)
有栖川有栖(13)
アガサ・クリスティー(13)
貴志祐介(11)