皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1148件 |
No.988 | 7点 | 審議官- 今野敏 | 2023/02/23 20:24 |
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大人気シリーズの登場人物を主人公としたスピンオフ第3弾。(法則を破って題名が「3文字」になってしまった 笑)
長編の本シリーズでは、ついに竜崎伸也が本庁に復帰し、大森署長を退任して異動したところ。本作では、竜崎の異動後に大森署に残った面々(斎藤警務課長、貝沼副署長、関本刑事課長、板橋捜査一課長など)を主人公にした「その後」や、竜崎の家族(妻、娘、息子)を主人公とした短編が収められており、非常にバラエティに富んでいる。 よって竜崎が直接登場して采配を振るう場面は皆無だが、竜崎の哲学に影響を受け、そして頼りにしているシリーズメンバーの日常が巧みに描かれておりとても面白い。 つぎはいよいよ隠蔽捜査「10」。待ち遠しい。 |
No.987 | 7点 | チェスナットマン- セーアン・スヴァイストロプ | 2023/02/12 16:24 |
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コペンハーゲンで若い母親を狙った凄惨な連続殺人事件が発生。被害者は身体の一部を生きたまま切断され、現場には栗で作った小さな人形“チェスナットマン"が残されていた。人形に付着していた指紋が1年前に誘拐、殺害された少女のものと知った重大犯罪課の刑事トゥリーンとヘスは、服役中の犯人と少女の母親である政治家の周辺を調べ始めるが、捜査が混迷を極めるなか新たな殺人が起き――。(「BOOK」データベースより)
700ページ近い厚みのある1作だが、途切れることのない動的な展開に引き込まれて苦なく読み進められる。1年前に起きた誘拐殺害事件はすでに犯人も捕らえられ、犯人自身が犯行を自供しているのに、なぜその被害少女の指紋が全く関係のない殺人現場から出てくるのか?1年前の事件を「解決済み」としているため、捜査を掘り返すことはご法度という警察上部、その捜査に疑念を挟む現場刑事、という構図はまぁよくある構図ではあるが、結局のところは面白い。真犯人の意外性もなかなかで、そちらから弾が跳んでくるとは正直思っていなかった。 読み応えのあるデンマークの警察小説だった。 |
No.986 | 6点 | 悲鳴だけ聞こえない- 織守きょうや | 2023/02/12 16:08 |
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パワハラ相談、遺言、自己破産など、弁護士事務所に持ち込まれる庶民的な相談を題材にしたミステリ短編集。
題材としての眼の付け所が面白く、純粋に話として面白い。特に後半は遺言・相続にまつわる話だが、依頼人の隠し事や、隠された家族関係を解き明かしていくさまはなかなか興味深いものがあった。 収録作品中では「無意味な遺言状」と「上代礼司は鈴の音を胸に抱く」が印象的だった。「上代…」は中盤でほぼ真相が看破できたが、それでも最後まで面白かった。 |
No.985 | 7点 | 録音された誘拐- 阿津川辰海 | 2023/02/12 16:02 |
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大野探偵事務所の所長・大野糺が誘拐された。驚異的な聴力をもつとされる助手・山口美々香は様々な手掛かりから、微妙な違和感を聞き逃さず真実に迫るが、その裏には15年前におこった大野家の隣人の誘拐致死事件の影があった。誘拐犯VS.探偵たちの息詰まる攻防、二転三転する真相の行方は……。
とらわれた大野糺と誘拐犯とのやり取りと、警察・美々香側の捜査が交互に描写され、両者の攻防が臨場的に描かれている。複線として美々香の家族にまつわるストーリーもあり、物語に広がりをもたせている。 終盤にはさまざまな事柄について裏の裏があり、ちょっと仕掛けに凝りすぎている感じもしないではないが、糺&美々香コンビに望田を加えた大野探偵事務所3人の温かな関係性は心地よく、よく作られた話だと思った。 |
No.984 | 6点 | 真夜中の密室- ジェフリー・ディーヴァー | 2023/01/29 20:52 |
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就寝中の女性の部屋に侵入し、いくつかの物に触ったうえ、「因果応報―ロックスミス」という謎の書置きを残していくという侵入事件が連続する。家宅は厳重な錠で守られ、破られた跡もなく犯行後も閉まっているのに、侵入者はどうやって出入りしたのか?目的は何なのか?被害者たちを心から震え上がらせる犯行の解明に、リンカーン・ライムが乗り出す―
久しぶりのライムシリーズ。意味深な声明を残した連続の犯行、という形は本シリーズのテンプレートでもあり、よくも悪くも安定している。今回は女性宅に侵入するも、危害は加えずに侵入の跡だけ残すという犯行で、殺人ではないが、「犯人の目的は何なのか?」という点では逆に興味をそそる。 本筋の「ロックスミス事件」と並行して、ライムが手掛ける他事件の進捗も描かれるが、それが何らかの伏線となることはこれまでのパターンからも予想はついた。が、それでも最後の真相はそれなりに驚かされ、あくまでも「どんでん返し」を仕込むその腕は相変わらず健在だと感じた。 シリーズ中では標準作と思うが、基本的な水準が安定しているので、今回も楽しめた。 |
No.983 | 5点 | クイーン検察局- エラリイ・クイーン | 2023/01/29 20:39 |
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アイデア一発のショートショート集。ちょっと紙幅のある「推理クイズ集」のような趣ともいえる。純粋な「謎解き」を主眼としているのでなかなかに面白い。
他作品を読んでいるということもあるだろうけど、内容的にも「ライツヴィルの盗賊」がよかった。 |
No.982 | 6点 | ミランダ殺し- マーガレット・ミラー | 2023/01/21 19:50 |
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作品のほとんどは、若さに固執する美熟女と、それを取り巻く人たちの通俗的な人間模様を描いた物語。ラスト近くにやっと事件が起こる。そういう意味では、ミステリを求める読者には退屈に感じるかもしれない。
私は、そんな前半も結構楽しめた。さまざまな思惑をもつ人たちの愛憎劇と、その調査を淡々と行う弁護士・アラゴンのキャラクターがよかった。 長さの割にはそれほどの仕掛けでなかった気はするが、作者らしさは十分に出ている作品ではないかと思う。 |
No.981 | 6点 | 濱地健三郎の幽たる事件簿- 有栖川有栖 | 2023/01/21 19:42 |
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霊視能力がある男が探偵役を担う、特殊設定のシリーズ。とはいえ、推理の入る余地があるため、本格ミステリ好きの有栖川ファンも楽しめる。
本短編集では、「姉は何処」「浴槽の花嫁」なんかがそんな感じで面白かった。「お家がだんだん遠くなる」はちょっと趣を異にしているけど、時間に追われる切迫感もあってよかった。 ラストの「それは叫ぶ」は、完全なるホラー、心霊話。悪くはないんだけど、前半の方の短編の方が好みかな。 |
No.980 | 8点 | ロンドン・アイの謎- シヴォーン・ダウド | 2023/01/14 19:56 |
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12歳のテッドは、気象学に偏執的な興味を示し、人付き合いの機微が分からない、高機能自閉症傾向の少年。彼の叔母が、息子のサリムを連れて家にやってくることになった。サリムはテッドの特性を「かっこいい」と言ってくれた。だがそんなサリムが、ロンドン名所の観覧車「ロンドン・アイ」に乗った後、消えてしまった。サリムはどこに行ったのか?特性をもちながらも、天才的な頭脳を持つテッドが真相解明に乗り出す。
本格ミステリとしての論理的な謎解き、障害的な特性をもつ少年とそれを取り巻く家族や周りの目の物語、そして思春期の姉弟の物語…さまざまな魅力を見事に編み込んだ名作。ヤングアダルト向けの作品かもしれないが、十分に魅力的な作品だった。 特にサリムが消えた謎の解明後、終盤の「サリムはどこにいるのか?」の謎解きとそこに結びつけられていた物語の伏線には脱帽した。 とても楽しめた! |
No.979 | 7点 | カーテンが降りて- ルース・レンデル | 2023/01/14 19:41 |
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特別な舞台でもない、一般人の日常に潜む邪悪さや弱さ、あるいは他人の悪意を邪推した勘違いを、短編で端的に描き出している作品集。
特に本短編集は、「悪い心臓」「要人の過ぎた女」「はえとり草」などの、他人の悪意を邪推した勘違いの悲劇が面白かった。主人公が、ある人物相手にさまざまに悪意を想像して怯えるのだが、その筋のサスペンスかと思って読んでいるとそれが「一方的な勘違い」で、却って悲劇を生んでしまうというパターン。ちょっとそれを予想しつつ読んでいても、結局面白い。 その他、夫殺しを画策した妻の悲劇「コインの落ちる時」、殺し屋の意外な主義嗜好により展開に至る「人間に近いもの」など、短い展開でレンデルの魅力を堪能出来る粒ぞろいの作品集。 面白かった。 |
No.978 | 8点 | 緑の檻- ルース・レンデル | 2023/01/14 19:25 |
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グレイ・ランストンは資産家の夫をもつドルシラと不倫関係にあったが、「夫を殺そう」というドルシラのそら恐ろしい持ちかけに応じることはできず、別れた。しかし、そんなことさえなければグレイは、ドルシラと関係を続けていたかった。ドルシラを思い悶々と過ごす日々の中、少しずつ事態は動いていく。
女性に恋をし、別れたことがあれば誰しも経験するであろう男の未練、妄執を巧みに描いた、非常にレンデルらしい作品。別れた女性との過去を断ち切り、生活を送ろうとする男の日常が淡々と描かれているようで、物語は後半に一気に加速する。 レンデルのノンシリーズをいくらか読んでいるので、ある程度行く先は予想ができたが、それを踏まえても面白い。 普通の人間が誰しも抱えうる暗部を巧みにえぐり描き出す、著者の「らしさ」が出ている快作。 |
No.977 | 8点 | 救国ゲーム- 結城真一郎 | 2023/01/08 12:08 |
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過疎集落に単身移住し、集落を見事復活させたことで一躍時の人となった美男子・神楽零士。しかし時を同じくしてYoutubeでは、能面を被った《パトリシア》なる人物が「国家存続のために、過疎地域は切り捨てて都市圏に集住するべし」との主張をし、神楽と論争に。ある時《パトリシア》は、「60日以内に政府は全ての過疎対策を撤廃せよ。さもないと次なる行動に出る」と言い残して姿を消す。何事もなく60日が過ぎた後、神楽零士が惨殺死体となって発見される―
能面を被った不気味な人物によるYoutubeでの予言、過疎化した集落を舞台に行われた不可能殺人、人口減少の一途をたどる日本のあるべき未来を問うという題材など、非常に魅力的な物語設定。 さらに、切断された首の謎、運搬方法の謎など、仕掛けも十重二十重に施され、謎解き主眼の本格ミステリとしての魅力も十分である。 地理的要素や時間軸の問題、さらにはドローンや自動運転技術など、謎解きに関わる要素が多くあり、ちょっと複雑に感じるところもあったが、一つ一つ丁寧に解きほぐして真相に迫っていく過程は読み応えがあった。 物語の前半で探偵役によって早々に真犯人が名指しされるため、ハウダニットの色合いが強かったが、読み進めるにつれ「そもそもなぜ、こんな犯行を?」という興味(ホワイダニット)も高まる。すべてが解き明かされるラストでは、作者の綿密な仕掛けに唸らされた。 |
No.976 | 7点 | 警官の道- アンソロジー(出版社編) | 2023/01/06 14:58 |
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「孤狼の血」の柚月裕子、「爆弾」呉勝浩、「コープス・ハント」下村敦史、御子柴シリーズの中山七里ほか、今を時めく豪華執筆陣による警察小説アンソロジー。
・葉真中顕「上級国民」…葬式で出会う遺族という先入観を上手く逆手に取ったラストの仕掛けはなかなか〇 ・中山七里「許されざる者」…実際にあった東京オリンピック前のドタバタをネタにした、作者らしい作品。犬養隼人シリーズ新作。 ・呉 勝浩「Ⅴに捧げる行進」…本短編集の中では一番イロモノだったかな。 ・深町秋生「クローゼット」…タイトルからてっきり殺人現場の実際のクローゼットの話かと思ったら…LGBTの話。なかなか読ませた。 ・下村敦史「見えない刃」…「性犯罪のセカンドレイプ」というテーマ重視で、真犯人探しというミステリとしての興趣はどちらかというとそっちのけ。 ・長浦 京「シスター・レイ」…まさかのハードバイオレンス。現実離れしてるけどかっこいい。 ・柚月裕子「聖」…「男」の正体ははじめから感づいていた。ラストもうすうす予感できたが…それでもまぁいい話。 実力ある作家陣の、アラカルト的な警察小説集、堪能できた。「はじめに」も編集後記的な「あとがき」もまったくない、作品のみの質実剛健(?)な一冊。 |
No.975 | 4点 | 盤面の敵- エラリイ・クイーン | 2023/01/06 14:56 |
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先々代の遺産を受け継ぎ、「ヨーク・スクエア」と呼ばれる特異な城郭式の家屋に住む4人の親族。そこで働く下男・ウォルトのもとに、奇妙な手紙が届けられる。「わたしはきみを知っている。きみに大きな仕事をゆだねる」―手紙の指示に従順に従うウォルトの手によって、奇妙なカードで予告された連続殺人事件が幕を開ける―
うーん… 読み進める分には苦はなかったのだが、最後がアレでは…。本作は、実行犯は始めから明らかなので、その実行犯ウォルトを操る「手紙の主・Yは誰か?」が必然的に作品の謎の中心になってくるのだが…この時代には衝撃的真相だったのかな?時代によって色あせてしまったともいえるが、やはり根本的にちゃんと別の人物がいることを期待していたので、かなり肩透かしを食った気持ち。 メッセージカードのJHWHの意味云々も、ピンとこない。欧米のキリスト教徒の人たちなら膝を打つ仕掛けなのかな。そもそも、建物の形にしたカードを送ること自体に最終的に意味を見出せない。(動機から考えると自己顕示欲ということになるのかもしれないが。) 実際はクイーンの作ではないとされる本作。エラリイのキャラクターにはブレがない感じがして気にせず読めたが、最終的にはイマイチだった。 |
No.974 | 6点 | 悪の起源- エラリイ・クイーン | 2023/01/06 14:23 |
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宝石商を共同経営している2人の男のもとに、意味不明のメッセージが届けられる。共同経営者の一人、リアンダー・ヒルは、最初のメッセージを受け取った後に心労がたたって死んでしまった。残るもう一人・ロージャープライアムのもとには、次々怪メッセージが送り届けられる。致死量未満の砒素、大量のカエルの死骸、鰐皮の札入れ…果たして犯人は誰なのか?送り届けられるものにはどんな意味があるのか?
傲慢な態度で警察の介入を拒みながらも、何かを隠しているロージャー。成熟した女性の魅力でエラリイを翻弄する、ロージャーの妻、デリア。殺人は起こらないものの、謎めいた状況が刻々と進行していく展開には魅せるものがあった。 ただ、送られた各メッセージに隠されたミッシングリンクは、いまいちピンとこなかったなぁ。込められたメッセージも。 最後の最後にあるどんでん返しは面白いとは思ったが、「意外」ではなかった。で、このあとエラリイはこの男をどう処したのだろう。含みをもたせる終わり方だが、坐りの悪さとなって残ってしまった。 |
No.973 | 6点 | ドグラ・マグラ- 夢野久作 | 2023/01/02 22:03 |
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これは「寄書」の名を冠するにふさわしい一作。
精神病棟から一時的に出された男と、男を研究対象としているという精神医学者の九州大教授・正木博士とのやりとりで本編のほとんどが形成された、上下巻計700ページ弱。仰々しい言動の描写などで冗長なところはあるが、決して読みづらくはない。強いて言うなら下巻の、文語体で書かれている「W氏の意見摘要」と寺に残されていた「青黛山如月寺縁起」のくだりぐらいかと思うが、一行一行を精緻に理解していこうとしなければ(大体の意味は分かるので)大丈夫かと思われる。 何が「謎」の中心なのか、読んでいるとほとんど分からなくなる(小生の読解力のなさによるのだろうが)のだが、その混迷具合もひっくるめてまぁ本作なのだろう。結末も、結局誰が、何を目的として何をしたのか、時系列も含めて正確なところに理解が及んでいるのか自信がない。 よって誰かに「どんな話だったのか」と聞かれても曖昧模糊とした印象しか語れないような読後感。 取り立てて「これはすごい」という感銘もないが、「理解できない」と断ずる気持ちもない、これが正直な感想かな。 |
No.972 | 7点 | 爆弾- 呉勝浩 | 2022/12/31 18:05 |
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酔った勢いでの些細な傷害事件で、野方署に連行されてきた冴えない中年男「スズキタゴサク」。ところがその取り調べ中、スズキは「10時に秋葉原で爆発がある」と言い出し、直後、秋葉原の廃ビルが爆発。続けて男は「ここから三度、次は一時間後に爆発します」と言う。市民の命を人質に、とぼけた男と警察との頭脳戦が始まる―
自己顕示欲の強い劇場型の犯罪者ではなく、「自分は社会のクズ」と自称しながらつかみどころのない爆弾魔を、取調室で警察と対決させるという舞台設定はまずます。取り調べ中のとりとめもない「雑談」の中に爆弾設置のヒントが隠されているという「クイズ形式」の知恵比べは、興味はそそるものの展開としてはやや安っぽいとも感じる。ただ正道の正義を標榜する刑事・清宮から、変人刑事・類家へとスズキの相手が交替していく取り調べの経緯や、すべてへの諦観が漂うダメ刑事・等々力の捜査への絡みなど、リーダビリティを保ち続けるには十分の魅力ある展開ではあった。 「最後の爆弾」に行きつく推理はやや一足飛びで、面白い落としどころではあるが「そうか!」という納得感とは少し違った。 |
No.971 | 8点 | ダミー・プロット- 山沢晴雄 | 2022/12/31 17:41 |
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商社マンの風山秀樹の友人・小島逸夫の愛人が何者かに殺害された。無実を訴える小島に頼まれ、風山はアリバイの偽証工作を引き受ける。一方同じ夜、会社員の柴田初子は、有名デザイナーの岸浜涼子に、涼子の「替え玉」を務めてほしいという奇妙な依頼を受ける。面白半分に請け負った初子だったが、しばらくして、涼子の周辺で猟奇的な殺人事件が巻き起こる―
錯綜する人間関係と複数の殺人事件。一見無関係に見えるそれぞれの事柄が、どんな真相に結びついていくのか― 冒頭は場面や舞台が転々とする中複数の物事や事件が進行し、「いったいこれがどう絡まり合っていくのか?」という読者の期待を高める。ただの「いたずら」という動機で「替え玉遊び」を提案する岸浜涼子と、それを受け入れる初子の行動は現実離れしているとは思うが、ただそのことが事件の真相トリックにどう結びつくのかが簡単には分からないので陳腐な感じはしない。同様に、トリック重視で現実性を欠いている面はあると思うが、ある意味本格志向の作者の作風であると思うし、最終的にパズラーとして楽しめるので私としてはとても好きなタイプの作品。 |
No.970 | 5点 | 馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ- 辻真先 | 2022/12/31 17:29 |
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昭和三六年、中央放送協会(CHK)でプロデューサーとなった大杉日出夫の計らいで、ミュージカル仕立てのミステリドラマの脚本を手がけることになった駆け出しミステリ作家・風早勝利。四苦八苦しながら脚本を完成させ、ようやく迎えた本番。アクシデントを乗り切り、さあフィナーレという最中に主演女優が殺害された。現場は衆人環視下の生放送中のスタジオ。風早と那珂一兵が、不可能殺人の謎解きに挑む!戦前の名古屋を活写した『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』、年末ミステリランキングを席巻した『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』に続く、“昭和ミステリ”シリーズ第三弾。ミステリ作家デビュー作『仮題・中学殺人事件』から五〇周年&卒寿記念出版。(「BOOK」データベースより)
昭和中期、テレビメディアの創成期を舞台としたミステリ。実在の芸能人の名前も数多く登場し、作者自身のノスタルジーを多分に反映した作品と思われる。当時のテレビドラマならではの「生放送」という特徴を取り上げ、その放送中に起きた不可能殺人という設定はまずます。ミステリ、謎解きとしてはまぁ普通作という印象で、トリックや仕掛けにそれほど目を見張るものはないという感想。 |
No.969 | 6点 | 雨と短銃- 伊吹亜門 | 2022/12/18 23:43 |
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幕末の京都。薩長協約をめざして奔走する坂本龍馬は、ようやく西郷吉之介を説き伏せた。しかしその大事な時に、一緒に京に来た長州藩士・小此木鶴羽が斬られ、下手人は逃げ場のない場所から煙のように消え失せる。竜馬は尾張藩公用人の鹿野師光に、下手人と思われる薩摩藩士の捜索を依頼する。依頼を受けた師光だったが、事件の裏に、薩長両藩のきな臭い思惑が見え隠れして―
犯人が脱出不可能と思われる犯行現場から消え失せるといういわば消失トリックなのだが、その「トリック解明」はまぁ二の次(真相もそんなんじゃないし)。消失のトリックよりも、結局犯人と目されてている人物はきっと真犯人じゃないんだろうというフーダニット路線に傾いていく。し、最終的に明かされる真犯人はミステリ通なら多くは予想の範疇かも。ミステリという点では、前作「刀と傘」のほうがキレがあった印象。長尺よりも短編のほうが向いているかな。 とはいえ「刀と傘」に連なる歴史ドラマ自体が面白い。世間的には圧倒的に好感をもって受け止められている坂本龍馬が、ちょっと違った色で描かれているのも興味深かった。 |