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HORNETさん
平均点: 6.30点 書評数: 1069件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.229 8点 ロードサイド・クロス- ジェフリー・ディーヴァー 2012/12/23 17:35
(ネタバレ気味だがこの作者の作品読者なら折込済み)
キャサリン・ダンス主役の2作目(?)。ネットいじめにあった少年が犯人とされる殺人事件で、その少年の行方を追う中で明らかになってくる真相。「ネットいじめ」という世相を反映したテーマがまずよかった。国や人種が違っても、いきつく問題は同じなのだと思うと、結局人間の本質は同じなのだとつくづく感じた。氏お決まりの終盤のどんでん返しも、「お決まり」だけに予想もできたし、しかも指し示す犯人もそうだったが、作品の魅力がそこに終始しているわけではないのでOK。主人公ダンスの捜査・思考の過程と、母親との微妙な距離感の複線が作品の真骨頂。リンカーン・ライムシリーズ(と言うのかこれは?)の中でも自分は屈指の名作だと感じた。

No.228 4点 このミステリーがすごい!2013年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2012/12/10 20:19
 小学生のころ江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを読み漁っていたとはいえ、本格的にミステリにはまり出したのはここ数年。そのきっかけとなったのがこの年刊誌で、毎年出るのが非常に楽しみだった。が・・・。ここ最近、手に取ったときの高揚感が当時ほどではないのは、はまってきたから故なのか?
 ミステリにはまるほど、遡るように過去の名作を読みたい欲求に駆られるため、どうしても最新作、トレンドから遠ざかっていく(両方を追い求めていけるほどの読書家ではないから)。よって最近の本書の私にとっての意義は、ミステリの現在の潮流を知ったり、そこから新たなお気に入り作家を開拓していくことにある。といいながら、未知・未読の作家が並ぶと、それら全てに手を出すエネルギーも時間もないため、かえって撤退ムードにとらわれてしまう。
 そんな自分自身の変容があるためか、各作品解説から魅力を感じるものが少ない。「これは面白そうだ。絶対読む!」という意欲にまでいたるものが。趣旨はもちろんそうなのだろうが、ホントに単なるランキング本になってしまっている感じが年々強くなっている。
 自分のお気に入りは「読書のプロが選ぶ!私のベスト6」。それぞれの立場の人がそれぞれの嗜好で選んでいるのを見るのはなぜか面白い。
 いろいろ書いたが、なんだかんだできっと毎年買い続けてしまうような気がする・・・・・・

No.227 6点 本格ミステリの王国- 評論・エッセイ 2012/12/01 18:18
 有栖川有栖の各所でかかれたエッセイをまとめたもの。過去の偉大な推理作家について一考する文章や、ミステリについての薀蓄、著者の構えなどが書かれている。
 自分はファンだから面白い。氏が学生時代にミステリサークルで披露した、「学生アリスシリーズ」の原型などはうれしかった。綾辻行人、歌野昌午あたりの新本格ファンであれば皆それなりに楽しく読めるのではと思う。

No.226 5点 チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン 2012/12/01 18:11
 被害者の衣服の向きから部屋の家具の向きまで、すべてが反対にされた謎の「あべこべ殺人」。謎の魅力としては十分だったのだが・・・。その後の展開は、その謎から少なくとも私が期待した展開ではなかった。何がそう感じさせるのだろう・・・と考えた末行き着いた、本作品での一番のネックはおそらく「文化や感覚の相違」だと思う。
 まず、「全てがあべこべ」という状況が「中国を示唆している」というとらえ?論理?が全く分からない。これは私が同じアジア人だからか?とも思ったが、私たちが欧米を見たときに「全てがあべこべ」という感覚はない。まぁ、当時はノックスの十戒からも分かるように、東洋に対する理解がかなり偏っていたというか、歪んでいた感じもあるから、少なくとも向こうの読者はすんなり共感できたのかもしれないが・・・。
 もう一つは、「あべこべにした」動機にかかわる文化。これについてはそんなこと知らないから(私が浅学なだけなのだが)、「読者への挑戦」を受けていくらうなっても、真相を見たときに「そりゃ分からんわ」と思わざるを得ない。というか、真相を聞いても結局あまりイメージできない。あべこべにした理由ついての論理はわりと納得したが。
 トリックについては、文章の説明で理解するのが非常に難しかったというか、わずらわしかった。一応丁寧に読んだが、本当に理解しているか自分でも自信がない。しかも、分かったところで感嘆する気は起こらない。
 変な話、一番面白かったのは、「読者への挑戦」を挿入し忘れたという話だった。

No.225 7点 わが身世にふる、じじわかし- 芦原すなお 2012/12/01 17:42
 相変わらず主人公と警官河田の道を外れていくやり取りと、それをとりなす奥さんの姿が面白い。読んでいて一人でも笑いが漏れてしまう。
 1作目からだんだんと事件が殺人など本格的なものになっていき、物語の雰囲気にそぐわない感もあるが、逆にミステリとしての面白さが増している。
 一つ目の、「ト・アペイロン」、ほんわかした雰囲気が生かされた暗号解読ものの表題作「わが身世にふる、じじわかし
」がよかった。

No.224 5点 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー 2012/12/01 17:39
 読み進めている間は楽しめたが、読み終えて満足感というか納得した感じはあまり得られない。これが率直な感想。
 准男爵である良家の真の後継者を判定するという始まりは話に引き込まれる。その真贋が見極められる最中に起こる殺人。展開としては申し分ない。が、その後に付加されていく様々な要素、悪魔崇拝や機械人形など・・・確かに怪奇要素が盛り込まれることによって物語に面白みは増してくる(だからこそ「読み進めている間は楽しめた」)が、読了してみると結局それだけのものだった気がする。つまり、極端な言い方をすると不要、いやむしろ推理という点から言えば惑わせる要素になっていただけと感じる。
 誤解があるといけないので、私は別に物語性を廃した純粋なパズラー至高主義ではない(嫌いではないが)。無駄な恋愛要素を除いては、怪奇的な雰囲気、背筋が冷たくなるような恐怖感はむしろ好きである。ただ、本作の場合は、そうした要素を追求していく場面にかなり力点が置かれているにもかかわらず、真相とのつながりが希薄すぎた感が否めない(悪魔崇拝がやや関わっていたが、それもそうでなくともいけると思う)からだ。だから決して面白くなかったわけではないが、この評価とした。
 そう思うと、「三つの棺」こそが、両者が融合した傑作だと私は感じる。

No.223 6点 人形はライブハウスで推理する- 我孫子武丸 2012/12/01 17:09
 腹話術の人形を通した他人格が優れた推理力を発揮する腹話術師・朝永、幼稚園教諭の妹尾睦月の2人が活躍する人形シリーズ。好意を寄せ合いながらなかなか煮え切らない2人の関係も話の複線として楽しめる、ユーモア・ミステリ的な雰囲気も感じる作品。そうした雰囲気が生かされた意味で面白かったのは、園児が行方不明になる「人形は楽屋で推理する」。ミステリのトリックとしてよかったのは「腹話術師志願」。ラスト「夏の記憶」は一発ネタを情緒的な要素も絡めて上手く短くまとめてある。というように、後半3作品がよかった。

No.222 8点 ハサミ男- 殊能将之 2012/12/01 16:54
スリリングで退屈しない展開が真相解明に向かう結末でさらに畳み掛けるように加速し、しかも気持ちよく騙される。事件は猟奇的な内容でありながら、そうした色で引っ張るのではなく、視点人物を入れ替えながら非常にうまく事件の様相や背景を明らかにしていく構成に魅せられる。結末の衝撃度は◎で、しかも納得(内容や必然というよりはこれまでの伏線が回収されていくさまに)してしまう。
 氏の作品はこれしか読んでいないが、クオリティーの非常に高い作品だと感じた。

No.221 5点 アヒルと鴨のコインロッカー- 伊坂幸太郎 2012/10/14 22:23
 現在と2年前のストーリーが交互に章立てされ,物語の終末に向けて両者が結びついていくという仕立て。主人公の周りで現在起きている「河崎」という隣人がかかわるいろんな事象の意味が,2年前のストーリーが明らかにされるにつれ段々と分かってくる。じわじわと事の真相が明らかになっていくその過程は,読みやすさもあって楽しめた。
 なんといっても登場人物のキャラクターに魅せられる。氏の作品に共通して言える特徴だが,常識から見れば変人に近いふるまいをする各人物の小気味のいいやりとりは,カッコよく魅力的に映る。一見ニヒルに見える所作の裏に人としての熱さがある様子は,ベタでクサいかもしれないが,読んでいてやはり快い。
 ただ,この手の展開で行くならば,予想を裏切ってハッピーエンドであったほうがよかった。明らかになった過去は,予想される悲しさがそのままだったのが残念。 

No.220 7点 悪意- 東野圭吾 2012/10/14 22:05
 人気作家の殺人で幕を開ける本編は,典型的なフーダニットミステリの導入でありながら,そこからハウダニット,ホワイダニットへと転じていくその展開そのものに驚きと奥深さがあり,非常に面白かった。相変わらず無駄な展開や描写がなく,といって味気ないわけでもなく,登場人物の手記によって視点人物が変わる構成でありながら非常に読みやすい。些細な違和感を掘り下げて真相へと迫っていく加賀恭一郎の推理も変わらず見応えがある。

※以下ネタバレ
 登場人物の手記で始まる本編は,クリスティの某有名作品を知る読者なら,はじめから疑いはもつだろう。気付いてからはその記述にもはや信憑性はなく,加賀が視点人物として語る部分のみが客観的な材料となる。だが些細な不審を端緒に真相に迫ろうとする加賀の推理も,実は犯人によるミスリードであることさえ,物語が後半に至るにつれなんとなく分かってくる。が,分かってくるとなおさら真相解明の欲求が高まり,全てが分かったときに「やられた」感が大きくなるという仕組みである。
 犯人にも同情の余地あり,という前半のミスリードが,真相が分かったときの脱帽感と,ある意味反省にも似たような感情をもたらしてくれる。

No.219 5点 ちょっと探偵してみませんか- 岡嶋二人 2012/10/10 13:40
 何かの合い間合い間に気軽に楽しめるこういうのは大好き。ショート・ショート形式で、一話にほとんど時間がかからないのもいい。
 もう少し謎の難易度が高くてもよかったかな…とも思うけど。なんにしても楽しめたことには間違いない。

No.218 9点 霧越邸殺人事件- 綾辻行人 2012/10/10 13:34
※多少ネタバレ気味
 新本格の旗手としての「らしさ」が存分に発揮された、厚みのある作品。綾辻ファンの多くの人は、こういう作品こそ氏の真骨頂であると思っているであろうし、私もそうである。
 意匠の凝らされた豪奢な館、C.C、謎めいた館の人々、複雑な人間模様をなす若者たち、事件の鍵を握る白秋の童謡、それになぞらえた見立て殺人―そしてその犯人を探る純粋なフーダニット。しかも、今回は氏のミステリの多くを占める「叙述トリック」ではなく、ストレートなロジカル・ミステリであったことも好感を強くした。
 唯一、四つの連続殺人の犯人が、こういう結論になるのは、アンフェアとは言わないが、やや肩透かしの感もあったが…それを差し引いても文句なく綾辻氏の最高傑作の一つと言えるだろう。

No.217 7点 二流小説家- デイヴィッド・ゴードン 2012/10/10 13:19
 連続殺人鬼ダリアン・クレイの塀の中からの依頼を受け、自伝的小説を書くことになった主人公。ダリアンのもとにファンレターを送ってくる幾名かの女性を取材して回るが、彼女たちが猟奇的な殺され方で殺される。その事件及び、過去のダリアンが犯したとされる連続殺人の真相解明に主人公とその仲間たちが乗り出す。
 前半は主人公ハリー・ブロックの遍歴や現在の状況が描かれ、やや冗長気味。だが、SFやホラーまで様々なジャンルを書き分けるハリーの作品が断片的に挿入され、退屈はしない。取材に行ったダリアンファンの女性が殺害された所から物語は急展開。ラストはミステリ要素十分のスリリングで意外な謎解きが行われる。
 多様なジャンルに渡るハリーの作品、ハリーを取り囲む人々の人間模様、猟奇的で過激な描写と、楽しむ要素が満載で、ミステリとしてもクオリティーの高いものに仕上がっていると思う。

No.216 7点 嘘をもうひとつだけ- 東野圭吾 2012/10/09 22:15
 一つ一つの作品の水準が高い、良質な短編集。基本的には、犯人が概ね(はっきりとではない)明らかになっている上で話が進むいわゆる「ハウダニット」中心。短い各話の中にもきちんと材料が散りばめられ、刑事コロンボのように加賀恭一郎が謎を解き明かしていく。表題作と、「冷たい灼熱」「狂った計算」が面白かった。まぁ、多少強引さを感じる展開もあるが。

No.215 4点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2012/10/09 22:08
 私の好きなクイーンの国名シリーズだったが、他作品とは色が違う。この色の違いをよしとする人もあれば、そうでない人もいると思うが、私は後者である。要はクイーンに何を求めるか、だと思うが。
さらにきっとクイーン自身も新たな境地に挑む意欲作だったのではないかと推察するが。
 怪奇的な要素も盛り込まれ、いつも以上に特殊な状況下での展開は、確かにリーダビリティが高い。が、ダイイングメッセージの解釈の二転三転が中心となったこの話は、それにしては冗長すぎる。その埋め合わせとして、怪奇的な要素や、山火事の進行という要素を盛り込んだという感じがする。そう思うと、このタイトルもどうかと思う。
 唯一、「クイーン国名シリーズ」の特異性という点で印象に残った。

No.214 8点 折れた竜骨- 米澤穂信 2012/10/09 21:55
 読み慣れない設定と人物名に最初は戸惑ったが、中世ヨーロッパを舞台とし、魔術や伝説を「アリ」としてうえでのロジカルミステリという(少なくとも私は)今まで接したことのない世界に、非常に引き込まれて読んだ。青銅の巨人を意のままに操る魔術師が出てきたり、何度切り刻まれても生き返る人種が存在したりと、科学的にありえないのだが、作中ではそれが全て「アリ」とされ、その上で「走狗(ミニオン)」と呼ばれる事件の犯人をロジカルに追う。私自身それほど詳しくないのでかなりいいかげんな想像だが、甲冑や剣をまとった中世の剣士を頭に思い描きながら、楽しく読めた。登場人物それぞれに同情や反感を感じながらも、どれも憎めないキャラクターで、読後感もよかった。
 「春期限定…」などのライトミステリ、「インシテミル」などの本格物も手がける著者の、懐の深さというか幅の広さに本当に感心してしまう。

No.213 6点 フリークス- 綾辻行人 2012/10/09 21:39
ミステリとしての面白さ、つまり謎の解明やどんでん返しという点では前半2編、ホラー小説としては最後の表題作。相変わらずのこのテのトリックだが、本書ではよく考えられていて飽きない。そこに幻想・ホラー的な要素も加わってくるので、ある意味氏らしい作品といえる。タイプ・ジャンルとしては「眼球奇譚」と同じ?(違う?)
 あっという間に読めるし、そういう意味ではこの作家らしさを知る入門作品にしてもよいと思う。

No.212 8点 ビブリア古書堂の事件手帖3- 三上延 2012/08/13 02:50
 近年まれに見る,シリーズ作として巻を重ねても質の落ちない良作。前作までと作品としての評価はさほど変わらないが,そういう点で評価を高くした。
 篠川家の秘密に何らかの形で関わって来る話が増えてくるため,どうしても最後に不穏さや謎が残る話が多い中で,2話目の坂口夫妻の話が心がほっとする感じでよい。本シリーズの本来の魅力はこういう「古書を介して人がつながること」にあると思うので。
 だが,そうした要素を織り込みながら,シリーズを重ねていく中で少しずつ栞子,篠川家の秘密が明かされていく段取りは秀逸。本作品ではプロローグとエピローグの位置づけもうまく,作者の腕を感じる。
 次作にも期待。

No.211 4点 回廊亭の殺人- 東野圭吾 2012/08/13 02:42
 まったくアンフェアではないと感じる。むしろ,トリックとしては確かに意外だったが,「そこに何らかの仕掛けがある」というのはそれまでの描き方で薄々感じていたので意外ではなかった。だから「ミステりー三昧」さんが書かれているように,まさに「あぁそう」と言う感じ。
 面白い,考えられた仕掛けだと思うのでミステりーとしてそれほど不満はないが,ストーリーとして読後感が不快。報われない感じが強く,そういう意味で評価が下がった。

No.210 7点 仮面山荘殺人事件- 東野圭吾 2012/08/13 02:30
 多様な作風及びジャンルを書き分ける作者だが,やはり私はこういうミステリを主体とした本格的な東野作品が好き。
 ページ数も適度で,テンポよく読め,一晩で本格ミステリが楽しめるという点でも良質な作品だと思う。仕掛けは後半に気付いたが,それでも楽しみが半減することはなく,その部分を見届けたいと思い一気に読めた。結末の受け止め方は人それぞれかもしれないが,私としてはある意味後味のよい終わり方だった。
 このサイトのプロフィールで「人に薦めた作品」を書くが,今後はこれも入りそう。ミステリの魅力を初心者が味わうにはとてもよい作品だと思う。

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HORNETさん
ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.30点   採点数: 1069件
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