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HORNETさん
平均点: 6.32点 書評数: 1121件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.281 8点 白い僧院の殺人- カーター・ディクスン 2014/05/06 13:02
<ネタバレの要素もあり?>
「雪の密室」で歴史的に有名な作品。本作品の様に偶然が多分に絡んだトリックは、精緻で巧妙に計画された密室トリックが好きな人には賛否両論かも。ちなみに私は賛の方。
 偶然要素がご都合主義のように感じる人はいるかもしれないが、私は逆に現実的な感じというか、要は「別に犯人も密室などつくるつもりはなかったが、結果的に密室状況になった」のを、推理する側が勝手に「巧妙に、知恵を巡らして密室をつくった」と考えて右往左往するのは図式としてはありそうな感じがするからだ。
 もちろんカーはこの密室「トリック」を知恵を絞って考案したのだろうが、作品中で「一部の隙も無く組み立てられたトリック」になっているわけではなく、あくまで作者のカーの精緻さで描かれているところがむしろ好ましい。
 さすが不可能犯罪の巨匠、である。

No.280 7点 星籠の海- 島田荘司 2014/04/27 07:38
 御手洗潔シリーズがちゃんと新しく刊行されることにまず感激。ただ、これが最後のなのか…?
 初めの登場から30年(?)を経過し、御手洗も次第に時代に順応し、「変人」感が和らいできているような印象を受ける。が、常人には理解できない、一足飛びに結論にたどり着く推理は健在で、往年のファンにとっては「待ってました」という感じだろう。
 瀬戸内海の小島に次々と漂着する全裸死体の謎から、カルト宗教団体の陰謀に迫るというストーリーだが、複線的な物語が最後に一つに結び付いていく展開の妙はさすが。歴史ミステリも絡めながら、壮大な構想をここまで形にできることも、やはりさすが。
 事件に関わる謎が最後に解き明かされるという形ではないので、ミステリとしての魅力よりも、複雑に絡み合う諸要素が一つの筋につながっていく面白さの方が強い。上下に分かれた厚みのある作品だが、リーダビリティは高く、飽くことなく一気に読み進めることができる。

No.279 6点 ノックス・マシン- 法月綸太郎 2014/04/27 07:17
 本格黄金期の作家や、作品に出てくる人物が多く登場し、ミステリとしての楽しみよりも、ミステリファンとして面白さを感じられるSF作品。特に海外古典ミステリについての知識があるかどうかで、面白さを感じるかどうかが分かれてくるので、万人受けする作品ではなく、むしろ内輪ネタのような感じ。
 アーサー・ヘイスティングズ大尉ら、往年の名探偵の助手として名を馳せた面々が登場する「引き立て役倶楽部」は面白かった。「バベルの牢獄」は仕掛けのみにこだわった短編で、書かれているSF的論理を理解しようなどとは思わず読み流していかないと苦痛なだけ。それは「ノックス・マシン」「論理蒸発」にも同じことが言えて、とにかくよく分からない架空の科学の話は読み飛ばしていくことが作品を楽しむコツ。

No.278 4点 闇の喇叭- 有栖川有栖 2014/02/16 18:01
 探偵行為が罪になるという仮想設定のために、日本が北海道と分裂するという政治的な設定は必要か……?とも思うが……
 主人公=探偵役が女子高生ということで、学生アリスシリーズよりぐっと青春ミステリ的な雰囲気が強いと感じる。「氏らしい」という評価もここでの書評で多く見られるが、私としては新境地の開拓という印象の方が強い。で、結果として…今までの作風の方が好き。
 もともとあまりミステリに青臭い青春要素は求めない。それでも謎解きの方が濃ければまぁ気にしないのだが、肝心のそちらがこの作品ではちょっと消化不良。というか、面白いんだけど、このぐらいのトリックは短編向きではないか。
 「論理爆弾」を先に読んでいて、そっちの方が面白かった。

No.277 7点 暗黒女子- 秋吉理香子 2014/02/16 17:50
 聖母女子高等学院のカリスマ女子高生、白石いつみの主宰する文学サークルは、お眼鏡にかかって彼女に声をかけられた子のみが所属する、女生徒たちの憧れのサークル。その白石いつみが謎の死を遂げる。
 物語は、その文学サークルの定例会、「闇鍋」で幕を開ける。残されたメンバーが自作の小説を一人一人暗闇の中朗読していくのだが、その内容は全て、それぞれがサークルメンバーをいつみ殺しの犯人として名指しする内容。会は「告発」の場となり、メンバー=容疑者たちの知られざる姿が次々暴かれていく。
 いわゆるダーク系女子のお話。これがなかなか面白い。まぁ物語ならではの非現実的なお話なわけだが、それはそれで。文学サークルメンバーの各キャラ立てがしっかりしていて、一つ一つの章=物語による告発がそれぞれ読ませる内容。最後に暴かれる真相も予想を上回っており、結構どんでん返しな感じがした。ライトなタッチで読みやすく、ミステリとしてもなかなかのもので、オススメ。

No.276 5点 厭な小説- 京極夏彦 2014/02/16 17:30
 読みやすいホラー系(かな?)の連作短編集。「死ねばいいのに」と同じような感じだね。読ませる筆力はさすが。
 最初の「厭な子供」と、最後の「厭な小説」が自分としてはよかった。すぐに読めるし、ちゃんと楽しめる。
 それっぽい装丁も味があっていい。

No.275 6点 五匹の赤い鰊- ドロシー・L・セイヤーズ 2014/02/16 17:25
レッド・へリングというんですか、こういうの。ある容疑者がさも怪しいように描かれながら、真相は別のところにあるという。完全に推理・謎解き主体で物語が進むので、好みではある。が、「5匹」は多いかな・・・。
 結局、それぞれが「均等に」怪しく描かれなければレッド・へリングにならないから、複数の容疑者それぞれについてそれらしい推理が組み立てられる分、物語が冗長になる。その上、本作品ではその推理に「アリバイ」が深く関わってきて、さらにその解明に電車の時刻や地理的な要素などが関係してくるので、非常に複雑だった。それぞれの関係性が一目でわかるよう表にまとめられているページとかがあるとよかったのだが……
 「ナイン・テイラーズ」で教会の鳴鐘術の知識が下敷きになるのと同様、この作品でも絵画美術に関する知識が真相に関わってくる部分があるが、それについてはそれほど苦にならずに受け入れられた。お酒を嗜みながら、気ままにキャンバスに絵を描き、日がな一日釣り糸を垂らすなんていう悠々とした雰囲気、ミステリ的な部分以外のそういう楽しさが、セイヤーズ作品にはあると思った。

No.274 5点 レーン最後の事件- エラリイ・クイーン 2014/01/04 01:08
うーーーーーーーん……ビミョーな読後感……。
 まず、リーダビリティは高い。この四部作、作が進むごとに読みやすくなっている気がする。これは一気に読めた。他の翻訳物に比べて、登場人物が多くないのが要因として大きい。あと、一本の筋を追い続けるシンプルな展開なのもその理由かな。
 ただ、読み終えて全てが分かると、推理が足踏みしている部分が不要に長い。まぁ事件も進行しているわけだから時制的には適当なのかもしれないけど……引っ張った結果、後出しの(今さら)〇子とか(しかも推理や捜査からでなく、サム警視の指示による当局捜査の結果)、失踪していた警備員がただ発見されただけとか、その長さに応え得るような伏線の回収には感じられなかった。
(ここからは勘のいい方にはネタバレになります)
 そして肝心の犯人ははっきり言って全く意外でなかった。むしろ予想通りでしかも嫌。ペイシェンスが目覚まし時計のおかしさに気づいたのに、周囲にそれを明かさず胸にしまった時点で何となく分かってきたし、彼女が不安定になって失踪したことでほぼ確信に変わった。だいたい、本の帯に「前3作はこのために書かれた」なんて謳っているのもよくないよ。この無責任な宣伝文句、四部作の中で一つだけテイストが違う題名、「意外な犯人」というキーワードで予測できてしまうし。
 そしてその終わり方が、「嫌」。読み進めるのは面白かったし、四部作としてよく構成されたと思うけど、結末が悲しいというより「嫌」だった。

No.273 8点 ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン 2014/01/01 13:02
前評判や序文から、「若かりし日のエラリイの失敗談」ということはわかって読んでいたが、にしても面白かった。廃案になる第一の推理にしてもそれ単体でよく仕組まれていて面白いし、二転三転する以降はさらにクオリティが増す感じ。長編とはいえ、そういった意味では何本ものストーリーが味わえているようで、なんか得した気分だった。
 タイプライターの論理はさすがに我々には分からないし、空さん、miniさんご指摘のように色盲の論理は根本的に間違っているなど、気になる点もあるが、その筋書きというか組み立てが精緻で「さすが」。クイーンが最も脂ののっていた時期の力作というのを実感する。
 これを読むまでは「エジプト十字架」が一番好きだったが、大きくそれを越えた感じがした。

No.272 6点 宰領- 今野敏 2013/12/28 12:21
 竜崎らしさ全開のシリーズ第5作。縦社会の警察機構で、処世術に奔走する周囲に惑わされず、原理原則を貫く竜崎の生き方が作品の魅力。だからミステリ要素は二の次、三の次かな。
 今回は国会議員の誘拐。政治的要素が絡むとますます対応がややこしくなる警察機構で、その中をうまく立ち回ろうとする同期で幼馴染の伊丹、神奈川県警の幹部たち。そうした姿勢を「理解できない」とする竜崎はある意味「天然」ですらあると感じるが、結局そんな竜崎の姿勢に周りも感化されていくというお決まりのパターン。が、お決まりと分かっていても読んでいて胸がすく。勧善懲悪の時代劇に近いものがあるかな。
 とにかく読みやすい、面白いは間違いない。このシリーズは今後も必ず読みたい。

No.271 8点 読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100 - 事典・ガイド 2013/12/28 12:05
 書評家・杉江松恋が、一九〇〇年代から現代までの海外ミステリおいて必読の一〇〇冊を挙げ、「あらすじ」「鑑賞術」「さらに興味をもった読者へ」といった項目で一冊ずつ紹介していくガイド本。
 必読といってもそこはさすが書評家、「この人と言えばこの作品」というような、スタンダードな作品の羅列ではない、玄人らしい作品の選出である。
 一言でいえば、「玄人好みの作品を、初心者向けに紹介した本」といえるだろうか。
 だから、例えば海外古典に興味をもち始め、クリスティでいえば「そして誰も…」や「アクロイド」、ヴァン・ダインなら「僧正…」「グリーン」、クイーンなら国名シリーズなど、一般的に有名な作品(いわゆるベタなところ)から手を付けはじめた人で、「次はどんなものを…」と思う人には非常に有用なものになるのではないかと思う。
 巻末30ページほどにまとめられている第二部「さらに楽しい読書のすすめ」も、その趣旨は百冊に取り上げなかった名作の紹介だが、ポーから始まるミステリの系譜が簡単におさらいできて、そういう意味でも上記のような人に向いていると思う(まぁ自分がそうなのだが)。
 カバンか何かに携帯していて、時間のある時にチョイチョイ読んでは楽しめる、お買い得な文庫本。
 

No.270 5点 このミステリーがすごい!2014年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2013/12/28 11:41
法月綸太郎は好きだし、この作品もまぁ面白いのだが、これが1位になるというのは、今年は不作だったか…というのが正直な感想。「私のベスト6」のコーナーが結構好きで、特にミステリ作家を輩出している京大ミス研のランキングがいつも気になるのだが、以前は一般のランキングと全く違う独特の選出だったのに、その毛色がなくなってきて面白くなくなってきた。
 巻末の海堂尊の特別抄録は面白いが、最新作の切り売り(?)なのか、おいしい気もするしとって付けたような感じもする。
 まぁでもワンコインで買えることを考えると買って損はないかな。

No.269 8点 代官山コールドケース- 佐々木譲 2013/11/11 20:13
 17年前に起きた代官山アパート女性殺害事件。当時被害者の恋人であった男が水死体で発見され、被疑者死亡で解決されたことになっていた。しかし、時を経て起きた強姦殺人で、この代官山事件の被害者の部屋に残っていたDNAと同じDNAが検出された。17年前の捜査は誤りだったのか?解決したとして処理されているこの事件を公的に再捜査することはできず、極秘指令として捜査を命ぜられる水戸部。当時の関係者に聞き込みを進めていくうちに、被害者の新たな人間関係が見えてくる―。
 関係者を順に聞き込み、そこから探り出した人間関係をしらみつぶしにあたっていく。新たに明らかになる事実と、再検証する証拠を照らし合わせて組み立てられていく推理。主人公水戸部と組むことになった女性捜査官朝香、親友の科捜研中島らの有能ぶりにも快哉。派手さはないが、地に足の着いた推理が進んでいく様子は、十分に読みごたえがあり、非常に佐々木譲らしい作品である。

No.268 6点 水族館の殺人- 青崎有吾 2013/11/11 19:58
 キャラ立てされた登場人物によるコミカルな展開の中に、しっかりとしたロジックが組み込まれている内容は健在。殺人のシーンは非常に残酷・劇場的で、一時の海外古典のような事件の幕開けもよかった。
 ただ精緻なロジックが氏の真骨頂なのは間違いないが、個人的にはここまでなくてもいい。現場の状況や些細な違和感を一つ一つ解決していく、裏染天馬の推理の克明な描写が軸となっているのだが、その長さの割には真相に意外性がない。一つの事件を解決するプロセスなら、もうすこし精選して短編、中編ぐらいでもいいと思う。このシリーズの短編とか出てほしい。

No.267 5点 堕天使拷問刑- 飛鳥部勝則 2013/11/11 19:39
 衝撃的・劇場的な冒頭で惹きつけられ、矢継ぎ早に繰り出される謎でずっと引っ張られる。そんな感じだった。オカルトな要素が、「まさか『Another』みたいな感じ?」と疑わせたが、そうではなかったのでまぁよかった。現実と虚構が入り混じったような不思議な雰囲気だったが、たまにはこういうのも悪くはないかな。ただ、トリックはちょっと無理がありすぎという感想。

No.266 5点 教場- 長岡弘樹 2013/11/11 19:26
 数年前に読んだ「傍聞き」がとても印象に残っていたので期待して読んだ。警察学校を舞台としたシリーズ短編。さまざまな思惑が交錯する警察学校生同士の関わり、駆け引き。その中で一喜一憂し、生き残りのために格闘する学校生たちだが、最後にそのすべてを見透かしていた風間教官に気づかされる―。
 こうした設定やシリーズ短編集という形が、柳広司の「ジョーカーゲーム」とイメージが重なる。だから知らず知らずのうちに比較してしまう。たぶん人間としてはこっちの風間教官のほうが好き。でも、突き抜けた超人ぶりや、舌を巻く仕掛けという点ではもう少しという印象だった。

No.265 8点 ある閉ざされた雪の山荘で- 東野圭吾 2013/11/11 19:12
 個人的にはこのころの東野作品は大好き。ヒューマンドラマの要素も色濃く入ってくる最近の作風もそれはそれで好きだが、ミステリ的な挑戦色の濃いこうした作品は本格ミステリファンの嗜好にぴったりだと思う。
 タイトルからしてそそりますね。そしてその期待通り。中途半端に現実的になるより、思い切った虚構でミステリの面白さを追求しているところがいい。またこういう作品書いてくれないかなぁ。

No.264 8点 死神の浮力- 伊坂幸太郎 2013/11/11 18:13
(ネタバレというか結果示唆的要素アリ)
 伊坂作品の中でも人に一番勧めたのが「死神の精度」。その続編、しかも長編が出るとは・・・
 人間の死にクールな態度で接する死神・千葉。のはずなのだが、結果的にとっても温かい処置を施しているという前作からのスタイルは健在。「グラスホッパー」「マリアビートル」のように、基本勧善懲悪のスタンスの小気味よさ、痛快さにもその千葉のキャラが大いに寄与している。
 娘を殺した憎き犯人に復讐を企てる夫婦に関与する千葉。人情のかけらもない、サイコパスともいえる犯人の、狡猾で余裕たっぷりの態度にイラつくストレスを、最後に完膚なきまでにすっきりさせてくれる。
 シリーズとして続けてくれることを望む。

No.263 6点 論理爆弾- 有栖川有栖 2013/11/11 18:05
 ミステリというよりはサスペンスの要素が強いという各方面の書評通り。もともとロジカルなフーダニットに作者の魅力を感じてファンになったので、新境地の開拓よりももともとの路線を望んでしまう。
 ただ、基本平易な文体なのでリーダビリティは高く、楽しく読めるのは確か。犯人が明らかになった時には少し背筋がゾクッとした(予想はできていたが)。まぁ、基本ファンなのでなんだかんだいってもいい。

No.262 4点 セカンド・ラブ- 乾くるみ 2013/08/30 20:50
 一作目は「ただの恋愛小説としか思えない展開」の中で、ラストで「実は仕掛けが施されていたこと」自体が衝撃で、その仕掛けの内容や巧みさは二次的なものだったと思うので、2作目にあたる本作では、もう読み手として「そういうことが起こる」ことを予想してしまっている以上、どれだけその仕掛けを手の込んだものにしても前作は越えられないと思う。そして、やはりその通りだった。
 けど、もしこのシリーズ(?)っぽい3作目が出たとしたら、たぶんやっぱり何かを期待して読んでしまうと思う(笑)

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ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
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