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HORNETさん
平均点: 6.30点 書評数: 1071件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.251 5点 鉄鼠の檻- 京極夏彦 2013/05/06 19:16
 禅の薀蓄はそれはそれで面白い。著者の博学、多方面に渡る造詣の深さに心から舌を巻く。事件の不可思議性も十分に魅力的なだけに、面白く読み進めたのだが・・・。
 あの長さを経て納得のいく結末とは言い難かった。過程の長さの楽しみはイコールそれを請け負うだけの結末への期待となる。今回でいえば、動機、そして見立て(?)殺人の意味というか必然。それがあまりにも簡単で短絡的であったのが残念。久遠寺翁など懐かしい人物の再登場などはうれしかったり、世に知られていない謎の巨刹という設定は面白かったりしたのだが、シリーズの中では評価の高いほうだけに読後は期待以上のものではなかったという感が強い。

No.250 8点 狂骨の夢- 京極夏彦 2013/05/06 19:06
 「魍魎の匣」の直後だからその反動なのか、このシリーズの中ではあまりパッとしない評価の本書だが、私はシリーズの中でも全く遜色ない作品だと感じた。うまくいえないが前2作があまりにも特異で奇異な世界であったのに対し(それが京極作品の魅力ではあるのだが)、本作はやや現実感も伴うというか、泥臭いというか、横溝作品のような土着的な匂いも感じるような・・・そんな感じで本格的要素を色濃く感じた。それが京極作品らしさを欠くと感じられたのかもしれないが。
 しかし「髑髏」をキーワードとした不可思議な現象の連続、現実と過去とが倒錯する不安定な磁場のような展開は「らしさ」を存分に発揮しており、ワールドは十分堪能できると感じる。トリック・結末も読者の範疇の度を越えているものではなく、そういう意味では本格ミステリとしても楽しめる作品だった。

No.249 6点 耳をふさいで夜を走る- 石持浅海 2013/05/06 18:47
「覚醒」という作品内で定義されている現象が重要な設定。それにのっかって読んでしまえば読みやすいし、スリリングで飽きさせないし、なかなかよかった。
 氏の作品は初めて読んだ。ブ○○クオ○で格安で文芸書として買えたので買ってみたが、損はなかった。

No.248 4点 生ける屍の死- 山口雅也 2013/03/24 17:22
 「死者の蘇り」がアリと設定された特殊舞台での本格ミステリ。その状況だからこその動機やトリックがあり、世間的評価が高いのも確かにうなずける。米澤穂信の「折れた竜骨」なども同じようなことが言え、そう考えるとこうしたスタイルの先駆的な役目を果たしたといえる。仕掛けも、解明過程もよくできたミステリだと思うのだが・・・・
 なぜか読後感は「疲れた」が正直なところ。まず第一に宗教や葬送に関する薀蓄が多い。これはまだ本筋に関わる所だからよいとしても、アメリカの国民気質とか、建築様式や生活様式とかの薀蓄は少々読むのが面倒臭かった。第二に、「死者の蘇り」に関してのルールというか、条件というか、そういったものが曖昧で、最後のほうは何となく「何でもアリ」感が漂ってしまった・・・かな?
 優れた発想と巧みな展開だと頭では分かるのだが・・・何となくしっくりこなかった作品。

No.247 8点 魍魎の匣- 京極夏彦 2013/03/24 17:04
 百鬼夜行シリーズ長編第2弾。作品世界・雰囲気の魅力が強かった第1作に比べて、本作はミステリとしても申し分ない魅力が加算され、さらに一段上がった傑作となっている。
 女子高生のホーム転落事件、首都圏に起こる少女連続バラバラ殺人、「魍魎を祓う」といっては私財を巻き上げる新興宗教・・・各複線でおなじみの四人がそれぞれ個性を発揮し、最後には見事なまでに一つに収斂されていく。多少の行き過ぎた偶然、ご都合主義はあるかもしれないが、そこは目を瞑り、それぞれのピースが順に全体像に嵌っていく圧巻の過程を楽しみたい。氏の卓越したプロット、構成力が真に発揮された作品といえるのではないかと思う。

<余談>映画のほうも観たが、小説を読んでいない人が果たして内容を理解できるのだろうか・・・?と思うような追いつけない、忙しい展開だった。設定や内容もガラリと変えてあるし(榎木津のキャラとか、小説では結構重要な場面がごっそりカットとか)。1000p超の内容を2時間そこそこの映像にまとめるのにはやはり無理がある?どちらかというと、ホラーテイストを描くことに目的があるような感じで、小説との根本的な趣旨の違いを感じた・・・・

No.246 5点 姑獲鳥の夏- 京極夏彦 2013/03/24 16:16
 妖怪が絡んでくる印象が強い氏の作品は、ロジック重視、現実的な純然たる謎解き重視の本格ミステリファンには敬遠されがち(?)。このサイトの書評にも「読まず嫌い」という言葉が散見される。本格黄金期の海外古典や、国内新本格作品が好みの私もこれまで手を出さずに来たが、前々から興味はあり、今回思い切って手を出した。
 結果・・・面白いじゃないですか!何といっても京極堂、関口、榎木津、木場の四者四様のキャラクターと、作品特有の雰囲気にやられた。京極堂の薀蓄も、全く苦にならないどころかむしろそれ単体で面白い。はっきり言ってファイロ・ヴァンスやドルリイ・レーンのペダントリーは読み飛ばすが、こっちは全然読める。結局西洋の薀蓄は煩わしいが、東洋だと面白く思えるということか・・・いや、ちょっと違うかな。やたら広範囲にわたる知識をひけらかすのでなく、妖怪や人間心理といったことに関してのみの考察が展開されるから面白く読めるのかも。
 ただミステリとしての評価となると、「そりゃないっしょ」という感じも強い、特に本作品は。だから最初に書いたようなこと「だけ」を期待する人にはハズレと感じるかも。だから点数はこんな感じでとどめておいた。京極夏彦が、好みが別れる作家(というか百鬼夜行シリーズが)だということはよく分かった。私はとても好きになった!

No.245 6点 パラダイス・ロスト- 柳広司 2013/03/24 15:55
 D機関の工作員達のあまりに卓越した、人間離れした能力・技量は小説という虚構ならでは。それだからこそ面白い。読んでいる間、現実から離れた別世界を堪能できる。短編で無駄なくまとまっているのもよい。虚飾のない武骨な筆致が作品世界に合っていて心地よい。
 シリーズを通して読んでいるので、作品を重ねるごとにこちらが慣れてきてしまっている感はあるが、質的には変わらず高いものを保っていると思う。

No.244 4点 今出川ルヴォワール- 円居挽 2013/02/16 13:37
 前2作の「双龍会」から今回は舞台を変え、「権々会」というギャンブルの大会(?)が物語のメイン舞台に。作者としては趣向を変えてシリーズの幅を広げたのであろうが、正直複雑で分かりにくく、今までのほうがよかった。
 龍師達の独特の世界や背景、御堂達也の来歴や家族関係も、シリーズを重ねるごとに複雑になっていき、正直整理して理解するのが面倒になってくる。ある意味精緻なプロットなのかもしれないが、最後のほうは惰性で読んでいた。
 こういうのが好きな人にとっては、逆に高評価になるかもしれない。好みが分かれるのではないかと思う。

No.243 7点 犬神家の一族- 横溝正史 2013/02/16 13:29
 新版「東西ミステりーベスト100」に触発されて再読。
 遺産相続にまつわる親族同士の泥仕合が、見立て殺人、顔に大やけどを負ったデスマスクの青年、という映像的インパクトの強い描写によって彩られている作品。そうしたインパクトがあまりに強いのと、角川が版元として初めて映画製作に乗り出した、いわゆる最初の「角川映画」であることとで、世ではもっとも有名な横溝作品とも言える。
 トリックでは、ちょっと無理なのではないか、偶然がすぎやしないか・・・と思えるような離れ業・ご都合主義もあったり、真犯人もさほどインパクトを感じなかったり、といった感もある。が、この作品の魅力はその雰囲気であり、それでいいと思えた。
 しかし、どう考えても「もめごとを引き起こすため」としか思えない、佐兵衛翁の遺言状は・・・・。

No.242 5点 赤い指- 東野圭吾 2013/02/16 13:08
 切迫した妻の電話で家に帰ると、見知らぬ幼女の死体が。中3の長男に幼女趣味があり、殺してしまったらしい、と物語が始まる、いわば倒叙法で描かれた作品だが―やられた。
 設定、構成、仕掛けどれも秀逸。であることは間違いない。が、あまりにも気分が悪い。言葉は悪いが、胸糞悪い。救われない話だった。 

No.241 8点 獄門島- 横溝正史 2013/02/16 12:56
 新版の「東西ミステりーベスト100」に触発されて再読。
 伝統的であるがゆえに閉鎖的な田舎の村、身分や階級が根強く残るやはり閉鎖的な人間関係、そこで起こる不可解な見立て連続殺人・・・と、氏の代名詞的な魅力が凝縮され、横溝作品の中でも最高傑作と名高いのもうなずける。
 連続殺人のトリックや真相につながる伏線が、人物の言動や鬼頭家の背景を描く中に巧みに描かれている。視覚的なインパクトやおどろおどろしい雰囲気が前面にある作品だが、ミステリとしての精緻さ、巧みさが織り込まれており、真相にたどり着いたときにはただただ感心した。「見立て殺人」の必然性は確かに弱い(というかない)が、この場合はそもそも殺人動機とそれが一体なわけで、自分はあまり気にならなかった。
 それにしても結末は悲しすぎる。どこまでも救われないこうした結末も、横溝作品の多くに見られる特徴ではないか。

No.240 9点 ソロモンの偽証- 宮部みゆき 2013/02/16 12:27
 クリスマス・イヴの晩に学校の屋上から転落死した柏木卓也という少年。彼は11月に同校の不良グループ、大出俊次らと衝突を起こしてから不登校になっていたが、それ以前から周りの人を寄せ付けない超然とした雰囲気をもった子であった。事件は警察により自殺と一旦は解決されるが、「大出俊次ら不良グループによる殺人だ」という告発状が学校、刑事の父親を持つ藤野涼子、柏木の担任である森内先生のもとに届く。それが報道されたことにより、大混乱する学校。真相を知るために、藤野は遺体の第一発見者である野田健一らとともに、自分達生徒の手による「学校内裁判」を行うことを決めた―。
 藤野涼子、野田健一、学校関係者、告発状を出した生徒など、視点人物が章毎に入れ替わり、それぞれの立場から事の顛末が描かれていく中で、転落事件にかかわる人々や学校の内情が明らかにされていく。「学校」という社会の中で、思春期の子達が何を考え、どのように自分の立ち位置を得ようと生きているか、というリアルな内面の描写は、自分の学生時代を思い起こさせ、共感しながら読んでしまう。また、マスコミに取りざたされるような事件が起きた学校の苦慮、煩悶と格闘の様も非常に巧みに描かれている。
 真相を完全に看破することは難しいが、大体の筋は読んでいるうちに見えてくる。作者も、それを隠さずむしろ分かるように書いており、「読者に一杯食わせよう」というスタイルのミステリではない。よってこの作品の魅力は、そういった謎解きそのものよりも、その過程にある上記のような人間模様というか、それぞれの立場で自分の安定を得ようと必死に生きる人たちの内面描写にあるように感じた。
 1部700p超の3部構成で、かなり厚みのある作品だが、読んでいる時間が本当に楽しく、読了したときには満足感より、「楽しい時間がこれで終わってしまった」という寂しさのほうが大きかった。久しぶりにそんな作品に出会えた。

No.239 8点 ABC殺人事件- アガサ・クリスティー 2013/02/16 12:04
 中学時代に読んでいたが、今回再読してみた。今や「ABCパターン」とまでいわれる有名トリックであり、現代においては新鮮味は確かにない。が、なにせ読んだのが中学時代だったので、その真相にいたく感銘した。クリスティは多くのトリックや設定で同じことがいえるが、「はじめにそれをやった人」つまり先駆者である点はやはり評価すべきだと思う。
 こう書くとそういう点でのみの評価のように感じさせてしまうが、物語性、リーダビリティ共に今読んでも十分耐えうるものである。多くの複線が絡み合うような複雑さもないので、分かりやすくもある。懐かしさと純粋な面白さで、十分楽しめた。

No.238 5点 川に死体のある風景- アンソロジー(出版社編) 2013/02/16 10:44
「水底の連鎖」が、ありえないと思うが発想が秀逸。「捜索者」は山岳が舞台となり、「川」がテーマになった作品という色があまり感じられないが、謎解きとしては一番面白かった。「悪霊憑き」は綾辻行人らしい短編。「この世で一番珍しい水死人」佳多山大地、「桜川のオフィーリア」有栖川有栖は別の短編集に収録されていたので既読だった。

No.237 10点 64(ロクヨン)- 横山秀夫 2013/01/04 19:57
 待ちに待った横山秀夫の新作。相変わらずの力強い筆致、読ませる文章。刑事部畑でやってきた自負をもちながら、広報官という職務にあたる主人公の葛藤、行方不明の娘を抱える夫婦の苦悩、刑事部と警務部の水面下での綱引き、そして表題でもある昭和64年に起きた未解決誘拐殺人事件「64」の真相・・・多くのストーリーが複線的に進行しながら、それらが見事につながっていく大仕掛けは「さすが」としかいいようがない。警察ドラマのように物語は進行していきながら、全てが謎解きへと向かっている。それがわかったときの背筋の震え、読後の満足感は太鼓判。やっぱり横山秀夫はすごいとただただ感嘆する作品。

No.236 6点 江神二郎の洞察- 有栖川有栖 2013/01/04 19:35
 学生アリスシリーズが好きだから、それだけで自分の中で評価はよい。他の方が書いているように、「4分間では・・・」は面白かった。「蕩尽に関する一考察」もよくできた作品だと感じた。あとは、学生アリスシリーズを呼んでいるだけに、「月光ゲーム」からマリアが入部するまでの過程が見られるのはうれしい。やっぱり部長・江神二郎はかっこいい。

No.235 3点 幽女の如き怨むもの- 三津田信三 2013/01/04 19:30
 これまでの「~の如き~もの」シリーズから期待して読むと外すと思う。三津田氏の本シリーズの、何を魅力としているかによると思うが。私は、超常現象的にみえる不可解な出来事が、現実的に解釈される推理に胸のすく思いを感じるタイプ。もちろん、横溝正史を彷彿とさせるホラー要素も大きな魅力だが、それが最後には明快に読み解かれるからこそおもしろいと感じている。そういう観点からしてこの作品は非常に消化不良。次作は今までどおりのパターンを期待したい。

No.234 9点 東西ミステリーベスト100(死ぬまで使えるブックガイド)- 事典・ガイド 2012/12/23 19:47
 自分の評価と重なり共感したり、相容れずに物申したくなったりと、そういうこと自体が面白い。また未読作品もまだまだあり、特に作家自体未読の場合は参考になる。
 諸々の要素を含めて、ミステリファンなら手にしていて損はない一冊。
 宮部みゆき某作品の、映画化されたものについての酷評が笑えた。ランクインしている以上、基本的に肯定的に推す感の書評が多い中、異色だった(もちろん書評自体はマル、私も大好き)。

No.233 4点 アルカトラズ幻想- 島田荘司 2012/12/23 19:14
 猟奇的な事件から始まり、冒頭の章はかなり引き込まれたが、それは裏を返せばこの事件に関しての真相解明を期待してのこと。2章、3章と物語がまったく別の方向に行くことに、不安とわずかな期待をこめて読み進めたが・・・という感じ。
 確かに、本編とは直接関係がないけれども第2章の論文は普通に面白かった。しかし、「写楽」ではそれが謎解きの核心にかかわるものであったのに対し、本作品ではそれはただの薀蓄だった。もっといえば、題名から見ても3章、4章&エピローグだけで十分一物語として成立する。逆に言えば、1・2章は不要。というより、1章を読んで読み進める以上、まるで関係ない方向に話が展開している3章・4章も、最後はそこ(1章)に立ち戻るという期待を込めて読んでしまう。それが見事に裏切られた。3・4章だけであったらそれなりに満足ができたかもしれないが、1章から読んでいると非常に消化不良な読後感であった。

No.232 7点 キングを探せ- 法月綸太郎 2012/12/23 19:03
(ネタバレ気味)
 読者の先入観からの序盤のミスリードは秀逸。ニックネームを使いながら倒叙法と謎解きの両面からうまく構成された作品だと思う。長編の割には会話文を主体としておりテンポよく読め、ものの一日で読めてしまうのも好ましい。
 メインである謎解き・推理も、叙述的なトリックも併せて上手く仕組まれている。物語的に肉付けをすればもっと長い話になっていたかもしれないが、自分にとってはそれは余分で、こうした展開の方がむしろ分かりやすくて好ましかった。

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ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.30点   採点数: 1071件
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