皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1121件 |
No.301 | 5点 | ○○○○○○○○殺人事件- 早坂吝 | 2014/12/20 15:55 |
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これはバカミスの部類に入るのではないか。タイトルあてという試みや、トリックには確かに斬新なものを感じたが、各ランキングや書評でそこまで高評価になるのはいささか面食らう。一日であっさり読める、軽~い、ユーモアと一読に値するアイデアありの作品、といったところ。
館、クローズドサークル、仮面、といった本格ミステリアイテムをちりばめながら、あくまでユーモアと下品を入り混ぜた姿勢で書き上げた面白さはある。上に書いたように簡単に読めるので、広い読者に受け入れられそうな作品ではある。 |
No.300 | 6点 | 悪魔パズル- パトリック・クェンティン | 2014/12/20 15:48 |
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クェンティン作品は初読なのだが、ここまでの書評を見る限り、代表作「パズルシリーズ」とはいえその中でも特殊なものを最初に読んでしまったようだ。まぁ、ピーター・ダルースがピーター・ダルースでない状態ですべてが進む体なので、読んでいてそういう感じがしたが。
記憶喪失になり、ゴーディという人物にさせられたピーター・ダルースが、その背景は何なのか、自分の味方は誰なのかを探っていく中で恐ろしい企みが暴かれていく。登場人物がそう多くなく、物語の舞台もお屋敷だけなので、シンプルで読みやすく混乱はない。よって推理もしやすい話で、古き良きミステリという感じがした。 |
No.299 | 6点 | シャドウ・ストーカー- ジェフリー・ディーヴァー | 2014/12/20 15:40 |
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物語の後半に、どんでん返しが繰り返されるのは本シリーズの(ディーヴァーの?)常套手段。こっちもそれがわかっているから、厭らしい話残りのページ数などを見ながら「まだ違うでしょ」と思って読んでいる。それは同時に「これがさらにどうひっくり返されるのか?」という期待でもあるのだけど、そういう点ではこの作品は物足りなさもあった。
一度犯人とされる人物のミスリードがちょっと分かりやすすぎたかな。まぁ私ははじめそれが真犯人だと思っていたのだが、そうなった時点での展開がまだ後半の初頭だったので違うと察した。周り廻ってこういう結末ですか…なるほど。 このシリーズは全部ではないが、だいたい読んでいるのだが、その「だいたい」がいつの間にかキャサリン・ダンスの方ばかりになってきた。ライムよりこっちの方が人間的に好感もてるし。もうこちらを主流にしてくれていいなぁ。 |
No.298 | 8点 | 生存者ゼロ- 安生正 | 2014/12/20 15:27 |
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陸上自衛官・廻田三等陸佐は、連絡が途絶えたという北海道根室半島沖の石油プラットフォームに向かわされる。そこで目にしたのは、全身血まみれになり、皮膚も全て爛れたようになった無残な全員の死体だった。新種の感染症によるパンデミックか?戦慄に肌が粟立つ自衛官らだったが、しばらく大きな進展を見せない事態に、政府及び感染研は安穏としていた――が、それから三か月が過ぎたころ、突如北海道中標津で同様の事態が発生し、何と生存者は「ゼロ」。パニックに陥る無能な政府、責任逃れの感染研…そんな中、事態収拾の命を受けた廻田は、政略により中央を追われ、今やマッド・サイエンティストに成り下がった天才感染症学者・富樫らに協力を請いながら、真相究明と解決に命がけで乗り出す――。
驚愕の仕掛け、ダイナミックな舞台、物語の疾走感、どれをとっても一級。下級自衛官と新進気鋭の昆虫学者、使命感に満ちた医師らと、自らの保身しか頭にない無能な政府閣僚らとのぶつかりあいも魅力の一つ。直接対決の場面は、溜飲が下がる思いだった。 事態の真相が明らかになってから後半に行くにつれて、ハリウッド映画さながらの劇場的な場面になってくるが、その描写から考えると「なぜ初期の映像でこれがわからなかった?」など、細かい点で難はあるかもしれないが、それを気にさせない物語全体の魅力がある。高野和明「ジェノサイド」に似た高揚感を感じながら読み進めてしまう一冊だ。 |
No.297 | 7点 | ゼロの焦点- 松本清張 | 2014/12/20 15:15 |
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一時期隆盛を極めた2時間サスペンスドラマを絵に描いたような(文に書いた?というか本当はこっちが先なのだが 笑)内容と展開。言い換えれば「社会派ミステリ」の教科書のよう。時代を感じさせるところはもちろんあるが、今読んでも色あせない、さすが清張の有名作品の一つである。
戦後の混乱期の社会背景が色濃く関係してくるが、今読んでも十分に理解できる。真相への結び付け方も不自然さ、あざとさがなく、後半徐々にわかってくるところはあるが、逆にそれがうまいと感じる。飛び道具のない現実的な展開だからこそ推理に説得力があり、ミステリとして「しっかりしている」と思う。 各オールタイムベストで必ず名が挙がるだけのことはある。 |
No.296 | 6点 | 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 | 2014/12/20 15:07 |
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新米女探偵・高徳愛香が、行く先々で事件に出くわし、さらにまた貴族探偵にもそのたびに出くわし、推理合戦にことごとく敗れるというユーモア?本格?ミステリの連作。
使用人にすべてを推理させ、肝心の探偵本人は何もしないという歯がゆさや、しかし主人公の女探偵がそれに毎度敗れるというもどかしさが味となり、ユーモアも交えたテンポの良い展開に乗せられて楽々読み進められる。そうした軽めの雰囲気でありながらミステリ度は大切にされていて、その点でもきちんと楽しめる内容。 同じような展開で各編が進められていったうえで、ラストの話だけ一味自我う見事な着地。考えられた編構成にも楽しませてもらった。 |
No.295 | 9点 | 闇に香る嘘- 下村敦史 | 2014/11/09 10:38 |
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69歳の全盲の視覚障碍者が、中国残留孤児であった兄に孫の腎臓移植の適正検査を頼んだところ、それを拒んだことから「兄は偽者ではないか?」と疑い、独自に調べていくストーリー。「私こそが本物の兄だ」と名乗る中国籍の男も現れ、「どちらが本物なのか?」という意識で読み進めてしまう中、最後の着地点は見事。主人公が調べていく中で要所にちりばめられる伏線も、納得のいく回収の仕方で全て真相につながっており、その手腕には感服する。
全盲になったことから娘との絆が壊れてしまった主人公が、孫娘の腎臓移植に道筋をつけることで何とか娘との絆を取り戻そうとする複線も、物語にヒューマンドラマ要素を付加していて非常に効果的。最後の結末は、誰もが心を温かくして終えることができ、読後感も◎。 江戸川乱歩賞受賞作家の今後の活躍に期待したい。 |
No.294 | 7点 | 龍臥亭事件- 島田荘司 | 2014/11/09 10:13 |
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御手洗潔シリーズでありながら、探偵役は石岡がやり、御手洗はほとんど登場しない、というスタイルはファンとして面白いものだった。(京極夏彦「百鬼夜行シリーズ」で関口が探偵役になるような感じ?)
「津山三十人殺し」を題材に扱った作品では横溝正史の「八つ墓村」が有名だが、あちらよりもこっちの方が事件そのものに色濃く関わってきている印象。読んでいくほどに不気味で陰惨な雰囲気が高まっていき、長い話だったが飽くことなく読み進められた。 (ネタバレ要素含む) トリック、真相についてはアクロバット的な印象だが、「斜め屋敷」でもそうだったので、こうした大胆な構えはミステリの世界ならではだと思い、私は嫌いではない。次々と人が死んでいき、長い話の中でどんどん謎が積み上げられていってしまうのだが、事もなく平坦に過ぎる部分はほとんどないという意味で楽しかった。石岡からの手紙だけで真相を看破する御手洗は、いくらなんでも天才すぎると思ったが。 |
No.293 | 5点 | 凶鳥の如き忌むもの - 三津田信三 | 2014/11/09 09:49 |
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他の刀城言耶シリーズを読み、シリーズとしては初期のこの作品を後に読むことになった。目が慣れてきたせいかもしれないが、初期の作品の割には読みやすく、読み進めるのが難解という印象はあまりなかった。
戦後10年ほど(?)の時代の、瀬戸内海にある孤島を舞台とした「人間消失」を題材とした作品だが、格式と曰くのある神社、儀式を扱うところなど、氏の作風が色濃く表れていてその点では期待通り。 また、物語の要所にちりばめられている伏線が、結末において見事に回収され、真相に一役買っているのもさすがといいたい。 (ここからネタバレあり) ただ、メイントリックに関しては、そこまできれいに痕跡を残さないものなのか?ある意味「大味」な真相という感じがして、少々肩透かしを食らうものだった。また、後半の人間消失は、事前準備はあったものの突発的なものだったわけだが、多少の偶然性も重なってうまくいってしまうのもちょっとご都合主義な感じがした。 |
No.292 | 6点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2014/09/14 14:14 |
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物語冒頭の、真相に関わる登場人物の出し方がちょっと露骨で、分かりやすすぎるきらいがあり、ミステリとしてはやや大味な印象は否めない。が、クラシック音楽の世界を織り込んだ物語の雰囲気作りがそれを補っているかなと思う。ピアノ演奏に関する描写は正直読み飛ばしていたが、苦になったのではなく、「雰囲気」として楽しんだということ。
どうやらこのピアニストを主人公としたシリーズになっているようなので、機会があればそれも読んでみたい。 |
No.291 | 3点 | ブラックライダー- 東山彰良 | 2014/09/14 13:44 |
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大きな事変だか天変地異だかが起こって、一度壊滅状態に陥った(?)のちの、架空の近未来を舞台にした話。ブーツをはいて馬を駆り、牛馬を食らって生活する、西部劇のような舞台設定の中で、保安官、ギャング団らがドンパチやる。読んでいる間、なんだか砂埃をずっと感じているような感覚だった。
常に話が動き続け、確かに退屈はしないのだが、結局この話の何がミステリーなのかさっぱりわからなかった。私の理解力が足りないだけなのか?読むのに時間がかかった割には、見合うだけの満足感は得られず、辛口の評価となった。 |
No.290 | 6点 | ビブリア古書堂の事件手帖5- 三上延 | 2014/09/14 13:34 |
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ミステリ以外はそんなに本を読まないので、今回の話でも知っているのは「ブラック・ジャック」ぐらいだが、そういう自分の知らない本の薀蓄は普通に面白い。栞子さんの母親・家族の謎や、五浦君との恋の行方にどんどん傾倒していくのかと思っていたが、作者の言葉で「いよいよ後半」というぐらいだからゆっくり進んでいくようだ。そういうこともあって、最初のようなリドルストーリー集の色が戻った感じがした。
一冊の構成の仕方も非常に上手い。作者の力量の高さを感じる。 |
No.289 | 7点 | 満願- 米澤穂信 | 2014/09/14 13:17 |
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近年めきめき頭角を表してきている著者だが、短編を書いても一流、と思える質の高さ。ハウダニット、ホワイダニットが主体の作品が揃っているが、どれも読者の感心を得るような仕掛けが巧みになされている。
「夜警」は警察短編の名手・横山秀夫を彷彿とさせるような筆致で警察社会ならではの謎が描かれている。「柘榴」は正直大体の予想はついていたが、「やはり」と思っても怖さは半減しなかった。表題作「満願」は既読だったが、再読しても面白かった。 |
No.288 | 7点 | アリス殺し- 小林泰三 | 2014/09/14 09:52 |
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限られた何人もの人が共通の夢を見て、その夢に従って人が殺され死んでいくという、ある種のパラレル・ワールドもの。夢の中では「不思議の国のアリス」の世界で各人役が与えられ、現実世界とリンクしている。その夢と現実のそれぞれの認識の部分にトリックがあるわけだが、「へぇ、そういことだったのか。なるうほどね」とニヤリとしてしまう面白さがあった。
残虐さをコミカルに描いてしまうダークな作風は好みが分かれるところかもしれない。私は嫌いじゃない。 |
No.287 | 7点 | ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ- R・オースティン・フリーマン | 2014/09/14 09:20 |
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「ホームズのライヴァルたち」の一人、名探偵ソーンダイク博士の事件譚。倒叙推理小説の先駆者として名が知られるフリーマンだが、決してそれがメインではないことがこれを読むとよく分かる。かといって純粋なフーダニットでもなく、物語当初から登場する人物が最後に犯人として指摘されるというような形はまずない。メインは、(当時の)科学的な見識を駆使しながら、博士が「事件の在りよう」を解明していく過程にあるといってよい。そして、それが面白い。
また、博士の人情味のある采配というか、作品として嫌な終わり方がなく、ハッピーエンド的な終末を迎えるスタイルも氏の作品の特徴のように感じる。よって総じて読後感がよい。 さすが一時代を築いた作家という感じ。事件簿Ⅱも是非読みたい。 |
No.286 | 6点 | 2012 The Best Mysteries- アンソロジー(出版社編) | 2014/09/14 08:24 |
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湊かなえ「望郷、海の星」、石持浅海「三階に止まる」、大門剛明「言うな地蔵」、三上延「足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』」、両角長彦「この手500万」、詠坂雄二「残響ばよえーん」近藤史恵「ダークルーム」、長岡弘樹「オンブタイ」、長江俊和「原罪SHOW」、高井忍「新陰流“月影"」、杉井光「超越数トッカータ」、深水黎一郎「現場の見取り図 大べし見警部の事件簿」、米澤穂信「死人宿」。
今を時めく人気作家、気鋭の作家らの名が並んでいるだけあって、どれも短い話の中にうまく仕掛けがされている。クオリティの高いアンソロジー。 |
No.285 | 6点 | 2011 The Best Mysteries- アンソロジー(出版社編) | 2014/09/14 08:08 |
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年ごとに優れたミステリ短編を集めて出版されているアンソロジー。深水黎一郎「人間の尊厳と八00メートル」、鳥飼否宇「天の狗」、辻村深月「原始人ランナウェイ」が面白かったが、全体的にクオリティーの高いアンソロジーだと思う。
普段からミステリを読んでいる人には既読作品もあるかと思うが、短編のため再読しても苦にならず、空いた時間に読書を進めるにはこういう一冊はいい。 |
No.284 | 4点 | ケルベロスの肖像- 海堂尊 | 2014/05/06 13:56 |
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前作「アリアドネ」が久々にミステリ路線の色濃い作品で、自分としても非常に良かったので期待して読んだが、完全にエンタメ小説に戻ってしまった。
これまで登場したキャラの立った登場人物を一挙に登場させ、最後をお祭り的に飾ろうという匂いを強く感じた。読んでいての一番の感想は、「めんどくさい」。劇場的なラストも予想の範疇。むしろこれのためにここまでを描いてきているのがよく分かる構成。 完結と謳いながら、絶対また続きが出る気がするのだが…… |
No.283 | 9点 | ポッターマック氏の失策- R・オースティン・フリーマン | 2014/05/06 13:46 |
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アントニイ・ヴァウチャーが、クイーンの「(なんとかかんとか)重要な10の作品」に物申した際に、自分が10作品に入れるならと本作品を推した論評を目にして、興味がわいて手に取った。
いや、これはすごくいいですよ!!どうやらフリーマンは倒叙型の作品を確立した功績が大きいとされているようだが、本作はその代表作。犯人が犯行を犯す様が先に描かれ、その後捜査の手が次第に及んでくるのを回避しようとする様子がリアルに描かれている、典型的な形ではあるが、展開がシンプルであるがゆえに無駄がなく、非常に読みやすい。かといって底が浅いわけはなく、主人公ポッターマック氏にかかわる伏線的な謎がうまく組み込まれ、それが物語の魅力をさらに高めている。 フーダニットの海外古典は、フーダニットであるがゆえに容疑者を少なくすることができず、覚えにくい登場人物名にアレルギー反応を示してしまう人もいると思うが、このような倒叙型の小説はそもそも犯人がはじめから明らかになっているのだからその心配はなく、そういう点でも読みやすいと感じるだろう。 なんといっても、人情的な最後のソーンダイク博士の采配には多くの読者が「ほっと」するのではないだろうか。それほど犯人であるポッターマック氏に、読者は感情移入してしまう。捜査を間違った方向へ導くために、周囲の目を気にしながら危険な画策をする物語途中のくだりは、こちらも氏と一緒になってドキドキハラハラしてしまう。うまくやりおおせた時には一緒になって「ほっ」とする。 今読んでもまったく色褪せない、文字通り「不朽」の名作ではないか。はずかしながらフリーマンは初読なので、まずはソーンダイク博士の事件簿から読んでいきたい。 |
No.282 | 4点 | 料理長が多すぎる- レックス・スタウト | 2014/05/06 13:15 |
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話は面白かった。真犯人も、出所があまりフェアな感じはしないが、まぁ意外な犯人という線ではよくできていると思う。しかし、最後のネロの采配が気に入らない。よって読後感がいまひとつ。
ただ、ああいうスタンスをとること自体がネロのキャラクターともいえることはわかるのだが。 海外の高級料理になどまったく縁がないので、料理の話はちんぷんかんぷんだったが、なんだがすごそうで面白さはある。芦原すなおの「ミミズクとオリーブ」シリーズでも似たようなことを感じた。美食家探偵、面白い設定だ。 |