皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1153件 |
No.693 | 8点 | 狙った獣- マーガレット・ミラー | 2020/03/29 10:53 |
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遺産を受け継いだヘレン・クラーヴォーのもとに、「エヴリン」と名乗る女から謎めいた電話がかかってきた。身の危険を感じたヘレンは、亡き父の相談役だった投資コンサルタント、ブラックシアに助けを求める。依頼を受けて調査を進めるうち、クラーヴォー家の暗部が次第に明らかになっていく。
こういうオチだったのか、と純粋に驚かされた。出版された時代を鑑みると、非常に先駆的な仕掛けだったのではないかと想像させる。もちろん今読んでも十分に面白い。 仕掛けだけでなく、病んだ一家や主人公の様相を非常に巧みに描いている。ヘレンが病んだ女性になってしまった経緯、その原因を作った母親の姿、次第に壊れていった家庭。 時代を超えたサイコスリラーの傑作に出会えた。 |
No.692 | 4点 | 私が失敗した理由は- 真梨幸子 | 2020/03/29 10:34 |
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スーパーにパートで勤務する落合美緒は、ある晩コンビニで勤務先の同僚とばったり出会うが、翌々日出勤するとその同僚は、隣人一家四人を殺害したという容疑で連行されていた。 美緒はこのことを機に、人生の失敗の事例を集めた本を出版しようと考え、出版社に勤める元彼に働きかける。
伏線をそこかしこに仕込み、それらを最後に結び付けて回収するということのみに力を注いでいる印象で、非常に急ぎ足で安っぽい場面展開。牢屋に入ったり、選挙に出たり、ホームレスに転落したり、急に大金持ちになったり…と、近しい人が次々と簡単に人生を大転回する。そんなバカな。 緻密に仕組まれているというより、弾を乱射して煙に巻いているカンジ。 |
No.691 | 7点 | リボルバー・リリー- 長浦京 | 2020/03/21 22:50 |
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小曽根百合。実業家・水野寛蔵の下、幣原機関で訓練を受け、16歳で実地任務に投入。東アジアを中心に3年間で57人の殺害に関与し、各国から「最も排除すべき日本人」と呼ばれた美しき諜報員は、20歳で突然活動をやめ、今は東京の色街を仕切る姐さんとして暮らしていた。
ある日、恩人である男からある少年を匿い、守ることを頼まれた百合。陸軍を相手取った少年との命がけの逃避行が始まる。 ハリウッド映画さながらのドンパチと裏のかきあい。工作員としては天才の百合が、強大な陸軍組織を相手に奮闘する。陸軍と政府の権力争いという政治事情も絡まって、壮大なトーリーが展開される。 誰が本当の味方なのか?善意の民間人は敵なのか?といった要素が諸所に織り込まれているとはいえ、基本的にはバイオレンスなクライム小説。小曽根百合の天才的戦術と、ハラハラする臨場感が作品の魅力の幹である。 |
No.690 | 5点 | ブルーバード、ブルーバード- アッティカ・ロック | 2020/03/21 22:16 |
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アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞受賞作。
アメリカに根強く残る黒人に対する差別思想などの社会的な暗部をえぐったという点で評価が高いのだろうか。だとしたら、そうしたことに強く共感するような感覚はこちらにはないので、ミステリとしてそこまで卓越しているとは感じなかった。 そのうえ、(それこそ田舎の閉鎖的な人間関係なのか)血縁関係がややこしくて、子どもを「ジュニア」とか「リトル」とかを付けて同じ名前で表記したりするからややこしく、登場人物一覧を随時確かめながら読む煩わしさがあった。 謎や仕掛けといったミステリの要素からすると特段卓越した作品とは感じなかった。 |
No.689 | 6点 | 死刑台のエレベーター- ノエル・カレフ | 2020/03/21 21:56 |
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着想・発想が面白い。けど裏を返すと、その一点勝負、かな。
普通の倒叙物と思わせておいて、まったく意外な展開になっていくスリルはあり、ライブ感のある面白さだった。最後に冤罪として主人公に降りかかるもう一つの犯罪の方のカップルのバカさ加減も面白く、そういう意味では一粒で二度おいしい小説とも感じる。 冤罪と本当の罪との間でせめぎ合うところからをむしろ中心的に描いてくれるとさらに面白かったかもしれない。 |
No.688 | 5点 | 災厄の町- エラリイ・クイーン | 2020/03/21 21:49 |
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クイーン自身も自らの最高傑作と称し、国名シリーズ以降の後期代表作とされる本作。各所での評価も高いが・・・
私としては平均作の域を超えなかったというのが正直な感想。法廷を舞台としたエラリイの活躍は確かに新鮮味はあるが、正直、クイーン作品にはやはり純粋なパズラーとしてのロジカルな仕掛けを期待しているところがどこかにある。そういう意味では今のところ、やっぱり国名シリーズの方が好みかな・・・。 もちろん謎解きにも工夫は凝らされているのだが、これって構造的には「Yの悲劇」に似てない?犯人が意図的に「利用した」本作と、純粋無邪気な真似事という違いはあるけど・・・ もうすこしライツヴィルシリーズを読んでみたい。ただ、廃版ばかりで手に入りにくい。 |
No.687 | 4点 | 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン | 2020/02/29 16:51 |
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フーダニット形式で、一番好まない真相のパターン。
あと、私立探偵テリーが最後まで好きになれなかった。訳の時代(東京創元・1961年版)もあるからだろうけど、エヴァを「おねんねちゃん」と呼んだり、なんか鬱陶しかった…(原点は「Baby」とかなのかな?) 他にも、日本人女中キヌメのセリフが「・・・ある」と訳されているところにも時代を感じた。そっちは笑えた。 国名シリーズの方は新訳は出ないのかなぁ。 |
No.686 | 6点 | 九尾の猫- エラリイ・クイーン | 2020/02/29 16:26 |
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2015年新訳版。かなり読み易くなっているのか、厚みの割にはスラスラと読めた。
ニューヨークを震撼させている連続殺人事件。解決が見いだせない難事件に対して、市長はエラリイを特別捜査官に任命する。だがエラリイが依頼を受けて以降も連続する事件を止めることができず、手がかりもつかめない。エラリイは「被害者の共通点」が事件を解くカギと考えるが、それがなかなか見えてこない・・・ トリック中心のパズラーを脱皮し、作風の幅を広げていったとされるいわゆる後期クイーンの代表作。確かに、現場をじっくりと検分し捜査する前期の作品とずいぶん雰囲気が違い、特に本作は劇場的な色が強い。疾走感もあり読み易いのだが、ミステリとしては普通の出来ではないかと思う。解き明かされるミッシング・リンクも真犯人も、悪くはないが、スタンダードなレベル。 クイーン作品の中で特に高い評価にはならないが、標準程度に面白いと評価する。 |
No.685 | 9点 | ユダの窓- カーター・ディクスン | 2020/02/29 15:47 |
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密室のトリックは時代を感じさせる古めかしいものだったが、法廷を舞台としたHM卿の推理・弁論の展開が見ものだった。
矢羽根の切れ端に注目して、そこから糸をつむぐように真相を明らかにしていく過程が非常に読み応えがあったし、人を食ったようなHM卿の弁論ぶりがその興趣に拍車をかけている。裁判後半の、レジナンド大尉の虚偽証言をあしらう様などは痛快だった。ストーム法務長官は敵陣でありながら公正な人物として描かれており、そうした作風も好ましい。 さらに、法廷ではジェームズ・アンズウェルの無罪が評決された時点で決着がつくのだが、そこでは「真犯人」は明らかになっていない。エピローグ「本当に起こったこと」でHM卿が真犯人を名指しする。そうした構成の妙も本作を名作たらしめている大きな要素だと感じた。 読んだのは2015年の新訳版だったので、きっとずいぶん読み易くなっていたのだろうとも思う。 |
No.684 | 4点 | 初恋さがし- 真梨幸子 | 2020/02/24 19:53 |
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この方お得意の、連作短編形式で各話の人間関係が次第に複雑に絡み合っていくパターン。ただ今作はなんというか、会話や展開が非常にチープで短絡的な感じがした。短い展開の中でいろんなことがぴょんぴょんくっつきすぎていくというか・・・
マンガみたいなカンジだった。 |
No.683 | 8点 | 清明- 今野敏 | 2020/02/24 19:30 |
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大森署長として禊(?)を終え、神奈川県警刑事部長としてキャリア復帰した竜崎伸也の、シリーズ第8弾。
着任早々、発生した死体遺棄事件は、警視庁との合同捜査。おなじみの伊丹をはじめ、警視庁時代の馴染みの面々と共に事件解決に向かう竜崎。 そんな折、運転講習のために自動車学校に通っていた妻の冴子が講習中に事故を起こしたという一報が入る。警察署に2時間以上交流されているという状況を不審に思い、交流先に向かう竜崎。その自動車学校の所長は、キャリアに反感をもつ警察OBだった―― 事件の真相追及という本筋はもちろん、それにまつわる件の自動車学校所長とのやりとりや、公安とのやりとりが見もの。いかにも竜崎らしい処し方に「相変わらずだなぁ」とニンマリ。 シリーズで巻を重ねても、期待を裏切らない、変わらないクオリティ。 |
No.682 | 7点 | サイコセラピスト- アレックス・マイクリーディーズ | 2020/02/24 17:54 |
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著名な女性画家が写真家である夫を射殺した事件。事件後、女性画家は全く言葉を発しなくなった。心理療法士のセオは、彼女を収容する施設の求人広告を目にする。事件以降ずっと沈黙している彼女の口を開かせることができるのは、僕しかいない。そう考えたセオは施設の職員となり、願い通り女性の担当となってその口を開かせるべく診療に取り組む――
読み終わってみれば、二つのストーリーを交互に展開させながら最後に意外な結びつき方をするという、最近よく見るパターンだったが、生真面目な心理療法士かと思われていたセオが次第に昏い部分を露わにしていく過程はなかなか面白かった。 よく見るパターンとえらそうに言ったものの、結局は「そういうことか!」と見事に騙された(笑) |
No.681 | 7点 | 悪の五輪- 月村了衛 | 2020/02/24 17:27 |
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1963年、初のオリンピック開催を控える控える東京は、国威高揚に沸き立つ一方で社会情勢は混沌としていた。そんな中、映画好きヤクザの人見稀郎は、オリンピックの記録映画の監督に、中堅監督の錦田を後任にねじ込むよう親分に命じられる。政治家、財界関係者、土建業者や右翼、警察までもがオリンピック利権をめぐってうごめく中、人見は金や女、人脈を使った根回しなどに奔走し、巨大利権の獲得に東奔西走する。
前回の東京オリンピック時代の日本を舞台にした小説はいくつかあるが、戦後昭和の熱気や混沌が感じられて面白い。人見が裏の世界の大物に接触し、気に入られて引き立てられていく展開はちょっと「サラリーマン金太郎」みたいな都合のよさはあるが、特にこの時代に跋扈していたであろう裏社会権力の息遣いがリアルに感じられる。実在のタレント名や大物フィクサーが実名のまま登場しているのも興味深かった。 結末は現実に即した内容で、どうせフィクションなら・・・とは思ったが、熱い展開に惹きつけられて一気に読めてしまう魅力は感じた。 |
No.680 | 5点 | 殺す人形- ルース・レンデル | 2020/02/11 17:12 |
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「十六歳の誕生日を間近に控えた冬、パップは悪魔に魂を売った」-冒頭の一文は「ロウフィールド館」に劣らず魅力的だったが、今回はその後の展開がそれに耐え得なかった。
パップは中盤で常識的になり、狂気に走るメインは姉のドリー。ワイン(アルコール)への依存がどんどん深くなり、次第に壊れていく様はレンデルらしくよく描けていて楽しめたが、全体的に必要以上に冗長。 何よりも、伏線として描かれているニートのディアミットが、いつになったら本線に絡んでくるのかと思っていたが、結局最後偶然にぶつかっただけというのが消化不良だった。 |
No.679 | 5点 | DRY- 原田ひ香 | 2020/02/11 16:59 |
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北沢藍は上司との不倫が原因で夫と別れ、十年ぶりに実家に戻った。だが男にだらしない母と、がめつい祖母は相変わらずで、刃傷沙汰まで起こして事件になっていた。その沙汰を治めたのは、隣に住む藍の幼馴染、馬場美代子。彼女は祖父の介護に尽くす孝行娘として近所でも評判だった。ところが、十年ぶりに美代子との親交を深めていく藍は、彼女のおぞましい秘密を知り、愕然とするー
想像するとぞっとするような話だけど、昨今の驚愕するような事件を見ていると、あながち小説上の絵空事とは言い切れないかもしれない…と思ってしまった。 生活に困窮しながらも一応人並みの常識や倫理観をもっていた人間が、少しずつ麻痺していく様子が描かれているが、現実の犯罪者もこんな感じなのかもしれない。 |
No.678 | 6点 | マーダーズ- 長浦京 | 2020/02/11 16:39 |
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商社勤務の阿久津清春は、ある夜、ストーカーに襲われていた女を助ける。女は数か月前に合コンで一度会っただけの女性だったが、すぐに自分は尾行されていたのだと勘付く。「尾行していた理由をいえ。いわなきゃ――」と言う阿久津に女はかぶせた。「私も殺す?」――そう、阿久津は過去に、誰にも知られず人を殺していた――。
大切な人を奪われた復讐に、あるいは自分を守るために過去に殺人を犯しながらも、犯行は発覚せず普通に生活する者たち。そうした者たちに、玲美は十七年前に行方不明となった姉の行方を探すよう依頼する。「従わなければ、あなたたちの犯罪の証拠を公表する」と脅して。およそ現実的ではない劇場的設定だが、まぁ素直に面白い。もと放送作家らしい作風とも言える。 似たような死亡状況の事件を洗い出し、その関係者を洗い出すうちにつながりが見え、それらをあたっていくうちに真相に近づいていく――という展開もかなりご都合主義なところはあるが(一本の線がすべてアタリ、という流れが)、かといって進んで戻っての現実的な展開があっても冗長になるだけなのでこれはこれでいいのだろう。 かなりバイオレンスな場面も含め、とにかく映像化に向いているストーリーだと感じた。 |
No.677 | 7点 | 神とさざなみの密室- 市川憂人 | 2020/02/11 16:07 |
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時の政権に異を唱える若者団体「コスモス」で活動する凛は、気付くと薄暗い部屋に縛られ監禁されていた。状況が呑み込めずにいる中、なんと隣の部屋には「敵」ともいえる右翼的団体のメンバーが同じく閉じ込められている。しかも、直前の記憶がない2人の前には、横たわる男の死体が―
誰が、何のために、敵対する二人を密室に閉じ込めたのか?そして、この身元不明死体の正体は? ― いかにも現政権をモチーフにしている内容で、その点をどう感じるかは人それぞれだが、政権打倒を目指す市民団体VS右翼思想の一派という現代的な題材は興味深く、しかもその敵対する2人+男の死体という不可解状況は、謎の提示として非常に魅力的だった。 社会思想的な内容もふんだんに盛り込まれている本作だが、何を目的に誰が仕組んだことなのか、という謎解きも十分機能しており、両面で堪能できる作品だった。 監禁中にスマホでつながっていた「ちりめん」の存在とその正体が一番印象的。 |
No.676 | 6点 | メインテーマは殺人- アンソニー・ホロヴィッツ | 2020/02/11 15:48 |
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葬儀社に、自分の葬儀の依頼に来た老婦人が、その日の午後に殺された。偶然とは思えないこの事件の捜査に携わることになったホーソーンは、刑事をクビになりながらも請われて捜査に参加している男。そのホーソーンが、主人公のもとにやってきて言った。「この俺の捜査を本に書いて欲しい」―
インパクトのある物語のスタートから事件はさらに展開し、主人公とホーソーンは順次捜査を進めていく。登場からイヤな奴っぽかったホーソーンだが、その卓越した捜査能力と、時折主人公に見せる素の顔で少しずつ印象は変わっていく。とはいえあくまで中心に「謎解き」が据えられており、ミステリとして十分魅力もある。 「カササギ殺人事件」のような驚天動地の仕掛けはないが、その分読み易いとも言え、結論として平均的に面白いと思える出来だった。 |
No.675 | 8点 | AX- 伊坂幸太郎 | 2020/01/18 15:00 |
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家族をもつ殺し屋「兜」を主人公にした連作短編シリーズ。シリーズに通底するコミカルな作風は維持しつつも、ラストはぐっと切なくなるような終末が用意されており、そういう意味では雰囲気的には「死神の精度」に似ている。
次々と人の命を奪い、それを生業にしてきた兜だったが、妻をもち、子をもつうちにこの稼業から足を洗いたいと強く願うようになる。仕事の仲立ちをする「医師」に何度もその旨を伝えるのだが、「もう少し」と言ってはいつまでも聞き入れられない。ラスト前の章でついに辞める決意を医師に伝え、手を切ろうとする兜だったが、その結末は― 恐妻家の兜が、妻の思考を深読み・先読みしてトラブルを回避し続ける様は本当にユーモラスで楽しい。それでいて一方で組織の一員として「仕事」する中で、さまざまな修羅場を淡々と切り抜ける。いかにも本シリーズらしい(伊坂氏らしい)展開である。 こうしたユーモラスな展開と、ちょっと胸を打つラストに向けての構成はさすがである。殺し屋シリーズの中でも特に際立つ一作になったのではないかと思う。 |
No.674 | 6点 | 悲願花- 下村敦史 | 2020/01/18 14:50 |
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幸子は幼い頃、両親が行った一家心中で唯一生き残ってしまった。暗い過去を抱える中、両親の墓参りに行った折に出会った女性。それは、自分とは逆に、一家心中で生き残った「親」の立場の人間だった―。
後半、両親を追い込んだ金融業者と再会し、そこから一家心中の真相が明らかになる。「被害者」「加害者」とは何かをテーマにした作品後半は読み応えがあり、読後感もよかった。 ゼロシリーズとは違った作者の魅力を味わうことができた。 |