皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
HORNETさん |
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平均点: 6.32点 | 書評数: 1121件 |
No.741 | 5点 | 首の鎖- 宮西真冬 | 2020/08/30 20:54 |
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題材も内容もそこそこ読ませるのだが、いかんせん主人公・瞳子のうじうじした煮え切らなさ、お相手の顕の主体性のなさ、不倫相手でもと担任・神田の助平さにいらいらしっぱなし。ストレスたまった。
瞳子の不遇の元凶である両親には結局何の鉄槌も下されず、その意味でもモヤモヤ感が残ったままのラストとなった。 同氏の他作もダークな側面はあるが、ラストには救いがある感じだったので、ダーク一辺倒の本作はちょっと不満だった。 |
No.740 | 8点 | 復讐はお好き?- カール・ハイアセン | 2020/08/29 14:16 |
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ジョーイ・ペローネは、結婚記念として行った豪華客船の旅の中で、夫・チャズに海に突き落とされた。夫・チャズは「くず」だった。
奇跡的に一命をとりとめたジョーイは、助かったことを隠したまま、屑のチャズに復讐を誓う。 ジョーイが海に落下するシーンで物語が始まり、その後もテンポの良い展開がずっと続き、550ページの間ずっと飽きさせない。ジョーイのきっぷのよさや俗っぽい物言いも好感がもて、一方でダメ男・チャズのくずっぷりも笑えてしまう。 チャズを精神的に追い詰めるためのあの手この手のジョーイたちの作戦と、下手な推理で状況を読み誤り、勝手に自滅していくチャズとのズレ感が絶妙で、よく仕組まれていて面白いと感じた。 |
No.739 | 5点 | 修羅の家- 我孫子武丸 | 2020/08/29 14:02 |
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借金やらなんやらで何人もの人間の弱みを握り、それらの人たちを「家族」と呼んで一つ屋根の下に暮らさせ、その上に女帝のように君臨して支配する異常な女、逃れられない奴隷たち。
いくら弱みを握られているとはいえ、日中普通に外に出されるような状態で、このような拘束を維持できるだろうか…。一人の青年が、「家族」として隷属させられている同級生の女性を救おうとするところから展開に光が見えてくるが、最後の終わり方はなんだか尻切れトンボの感がした。 |
No.738 | 7点 | 教室が、ひとりになるまで- 浅倉秋成 | 2020/08/29 13:49 |
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私立北楓高校で、1カ月の間に2年生の生徒3人が続けて自殺した。不幸な偶然かと思いきや、3人の遺書には「私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります。」という同じ言葉が書かれていたという。学校に不穏な空気が流れる中、2年生の垣内友弘のもとに一通の手紙が。そこには「北楓高校には代々、4つの特殊能力が受け継がれており、その一つ『嘘を見抜く能力』を今回、友弘に引き継ぐことにした」との内容が。信じられない内容だったが、翌日それが本当であることを体感する。では、他の3つの能力を受け継いだのは誰なのか?連続自殺はその能力を使った「殺人」なのか?同級生に探りを入れながら、事件の真相に迫ろうとする―
友弘以外の3つの能力がどんな能力なのか、そして誰がもっているのか、さらには3人を自殺に追い込んだのは誰か、と、謎が幾重にも重なっており、それを一つずつ解きほぐしていくストーリーは展開に退屈さがなく、非常に面白かった。 特殊能力の内容も、主人公の「嘘を見抜く力」のように、強大過ぎない加減で、それが謎解きによく作用していたと思う。 |
No.737 | 6点 | 友達未遂- 宮西真冬 | 2020/08/16 16:12 |
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星華高校は女子は女子らしくという教えで規律に厳しい、全寮制の女子校。一之瀬茜は親に逃げられ、預けられた祖父母にも疎んじられて半ば追い出される形で入学させられた。星華高校には同室の3年生が新入生の面倒見役としてペアになる伝統があり、茜の面倒見役「マザー」は、学校で誰もが一目置くマドンナ、緑川桜子だった―
暗い家庭事情を抱える茜だったが、桜子をはじめとする同室の女子3人もそれぞれに親との確執、郷里への蔑み、学校への恨みなどそれぞれに闇を抱えていた。その中で互いに疑心を抱えたり、手を取り合ったりしながら、それぞれの道を見出していく青春群像劇。物語の展開に沿ってキャラクターが変わりすぎるきらいはあったが、最終的によいまとまりかたでもあったので、読後感は良。 |
No.736 | 5点 | 誰かが見ている- 宮西真冬 | 2020/08/16 15:48 |
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幼稚園児の我が子を愛せず、ブログで理想の親子像を騙ることで鬱憤を晴らしている主婦、年下の夫が結婚したとたん求めてこないことに寂しさと不安を募らせるキャリアウーマン、嫌な上司の理不尽な振る舞いに不満を溜め、結婚退職を日々夢見る保育士―さまざまな心の闇を抱えた女性たちの行為が交錯していく。
最近よく見るようになった「常に他者との優越ばかり気にし、鬱々と不満を積もらせている女性」もの。読み進めている間は真梨幸子のイヤミスを彷彿とさせた。 ただ本作はダークに振り切って救いのない終わりになることはなく、最後はハッピーエンド。そこに作者のスタンスが表れていた。 一般市民の日常を舞台として、その中に潜む邪気を描くこうした作品はサクサク読めるし、前述のように読後感もよいのでまぁよかった。 |
No.735 | 7点 | まるで天使のような- マーガレット・ミラー | 2020/08/16 09:40 |
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サスペンスというより私立探偵もの。
とあるきっかけから小さな町で5年前に起きた事件の真相を探ることになった私立探偵クイン。そこでは、パトリック・オゴーマンという男の失踪と、地味な女性による銀行での横領事件という2つの事件が立て続けに起こっていた。クインは調べを進めるうちに、2件の事件は関連しているのではないかと推察をはじめる。 新興宗教団体の修道士やシスターたちの名前が仰々しくて少し煩わしいが、クインが奔走して少しずつ様相が解き明かされていく過程は退屈せず、読み応えがあった。 幸い自分は、「最後の〇〇」というような本作の宣伝文句を見ずに読んでいたので、ラストは純粋に驚くことができた(笑) |
No.734 | 6点 | 嘘をつく器 死の曜変天目- 一色さゆり | 2020/08/16 09:18 |
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早瀬町子は一大決心をし、会社勤めを辞めて陶芸家・西村世外の窯元に弟子入りした。人間国宝の候補と目される世外だったが、同じく陶芸の道に進んだ次男・久作を後継にすることには迷いがあるようだった。そんなある日、世外は何者かに殺されてしまう。町子は美大の先輩で保存科学の専門家・馬酔木を頼り、世外とともに葬られた真相を追う。
美術・芸術を題材としたミステリを得意とする作者、今回の舞台は陶芸界。幻の名器「曜変天目」をキーパーツとしながら、背景に新興宗教や陶芸界のライバル、後継ぎ問題などを絡ませ、一本筋ではない展開になっている。 本筋は世外殺しの真犯人を追うフーダニット形式で、ミステリとしてもしっかりした作りになっていた。 |
No.733 | 5点 | がん消滅の罠 完全寛解の謎- 岩木一麻 | 2020/08/10 19:27 |
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診断で間違いなく転移していたがん患者が、きれいさっぱり寛解するという謎。医療ミステリとしてこの上ない不可能状況で、大賞選者たちが絶賛するトリックに期待して読み進めた。
読んでいく中で医療的な説明もされているので、がんについての知識が深まりその点は興味深かった。が、明かされる真相がそうした医療的なことを超越していること(つまり、素人でもわかるような単純さで足元を掬われること)を期待していたので、結局医療的な内容のトリックだったことで「ふーん…」というようなリアクションにとどまってしまった。面白くはあったけど。 蛇足だが、本サイトでもこの作品しか上がっていないのだが、この作者はこのあとも執筆・作品発表を続けているのだろうか? |
No.732 | 5点 | カウントダウン- 真梨幸子 | 2020/08/10 18:57 |
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海老名亜希子は「お掃除コンシェルジュ」として各所で活躍し、今や年収7千万円を超える売れっ子。しかし本人は、実の妹に旦那を寝取られたり、会社勤め時代の気に入らない女が海外でセレブとして活躍していたりという境遇にストレスばかりがたまる日々。そんな彼女が、がんで余命半年という宣告を受けた。頼りにしている百貨店外商の薬王寺涼子とともに、半年の終活に向かおうとする亜希子だったが…
一人語りで暴走していく女性を主人公に、周りがシッチャカメッチャカになっていくという典型的な真梨幸子作品。人の嫉妬心や見苦しさを赤裸々にかつコミカルに描いているところで面白く読み進められるが、いかんせんあまりにも展開がマンガ的大技(近しい人間が簡単に、次々に世の中の認知を得る成功を得るなど…)。 ラストにそれなりに毒を仕込んではいるが、作品の形自体がテンプレート化されてきてしまっている感がある。 |
No.731 | 5点 | ふたたび嗤う淑女- 中山七里 | 2020/08/10 09:58 |
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前作の蒲生美智留に変わり、今回は美智留そっくりに整形した野々宮恭子が暗躍する連作短編。FX、出版詐欺、地面師などさまざまな手段で標的を陥れる様が描かれ、ラストには氏らしいどんでん返しも用意されている。
一つ一つの話はそれなりに面白いのだが、全体的には前作同様のパターンをなぞっている感じで新鮮さはなかったし、やや小粒になった感もあった。 ラストのどんでん返しは、これも物語当初から往々にして予想できるもので、「ああ、やっぱり」と感じた時点で私にはどんでん返しにはならなかった。 なんか、各短編のつなぎ方とか、全体的な展開の仕方が真梨幸子のイヤミスに雰囲気が似ていたなぁ。 |
No.730 | 5点 | 眠りの神- 犬塚理人 | 2020/08/10 09:40 |
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安楽死を望む患者への自殺幇助が認められているスイス。絵里香・シュタイナーは、ボランティアの自殺幇助団体で活動するハーフ。ある時、日本で自殺幇助が疑われる事件が連続して起き、その陰に、以前絵里香の団体に所属していた日本人医師の姿が見え隠れする。真相を確かめるため日本へ渡航した絵里香は、事件を調べるうちにますます日本人医師への疑いを濃くする。
設定も展開もよく考えられれているとは思うのだが、何となく平板でパンチのない話に感じた。これまでも各所で取り上げたり作品化されたりしている安楽死問題の域を特に超えておらず、「これまで同様」という印象に落ち着いた。真犯人も意外性をねらっているのだが、要所要所に挿入されている日記の文体の変化で予想ができてしまい、分かったときには「やっぱり」という思いだった。 |
No.729 | 4点 | 街への鍵- ルース・レンデル | 2020/08/07 20:48 |
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うーん…訳者の問題かもしれないけど…
主人公・メアリの他に、ヤク中のホブ、犬の散歩屋のビーン、そして訳ありホームレスのローマン、という計4人の物語がそれぞれに描かれていくうちに、やがてそれぞれがつながりだして結末でスパーク…という手法はレンデルのある意味王道パターンであり、いつもの調子で前半は非常に面白く読めていたのだが… 描写にこだわるあまりか、それとも描写を冗長にして真相の手がかりを紛れ込ませることが目的か、とにかくいろんなことがあいまいなままで進む中盤が長くて、正直次第に読むのに疲れてきた。その上、最後まで婉曲的な描写に終始して「明言」をしないため(これが訳者の問題かもしれないといった要因)、結局真相がわかりにくい!ホームレス連続殺人の真犯人は結局誰だったのか?ビーン殺害を指示した犯人は誰だったのか?私なりに理解はしているつもりだが、自信がないほどだ。 「わが目の悪魔」からレンデルのサスペンスに魅せられて、好んで読み出したが、もっとストレートで分かりやすい方がよいかな。 |
No.728 | 5点 | マークスの山- 高村薫 | 2020/08/03 20:00 |
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著者の代表作であり、壮大な構成は素晴らしいとは思うが、ミステリとしては平均的な内容だと思う。それは平均的な水準で面白かったというよい意味でもある。
ミステリとしては…としたのは、上下二冊を読んだラストに待っていた真相が、冒頭の事件の起こりを読んだ時点で予想した内容のとおりだったこと。経験ある登山者ならばとるはずのないルートで下山した最初の被害者、とるはずのルートで発見された白骨死体、とくれば大体予想はできてしまう。 ただそれはそれとして、大学の山岳会OBを順に辿っていきながらの刑事捜査の過程自体は力があり、読み物として十分読み応えがあった。 ラストはちょっとドラマ仕立てな感じがしてしまい、個人的にはあまり好きになれない終わり方だった。 |
No.727 | 8点 | ヒポクラテスの試練- 中山七里 | 2020/08/03 19:52 |
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浦和医大法医学教室に、光崎とは旧知でありながら憎まれ口をたたき合う仲の城都大附属病院・南条がやって来た。南条は、前日に搬送され肝臓がんで急死とされた前都議会議員・権藤の死に疑問があるという。というのも、9カ月前の検診で何の以上もなかった権藤が急死というのは、肝臓がんの進行度合いからは考えられないからだ。例のごとく埼玉県警の古手川が捜査に駆り出される中、明らかになってきたのははなんと「エキノコックスの突然変異」。これが事実なら、日本に未曽有のパンデミックが起こる可能性が。しかし、感染が疑われる都議たちは、何故か感染経路と目されるアメリカ視察について固く口を閉ざしている。自分の命と引き換えにしても守らなくてもならない秘密とは何なのか―!?
久しぶりに出た、「ヒポクラテス」シリーズ。今回は、始めの章は短編として一応結びつつ、そこから話が続いての長編となっている。キャシーと真琴がアメリカに飛ぶことになり、物語のスケールが広がっていく中、各節目に謎が仕掛けられており、読者を飽きさせない展開はさすが。大筋をしっかり保ちながら、各所で小さなどんでん返しを散りばめている全体の仕組みに嘆息し、十分に楽しませてもらった。 |
No.726 | 6点 | 最悪の館- ローリー・レーダー=デイ | 2020/08/03 19:32 |
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イーデンは、不慮の事故で夫を亡くしたうえ、そこで夫の不実を知ることになった。そんなイーデンが、生前の夫が旅行を予約していた星空の保護区、ダークスカイ・パークを訪れる。ところが到着早々、別のグループと予約が重なっていたことが分かり、やむなく同宿することに。その夜、グループの中心人物と目された男性マロイ何者かに殺された…。無関係なグループの悲劇に巻き込まれていくイーデン。アンソニー賞受賞作。
若者グループたちにとっては邪魔者だったはずのイーデンが、一人一人と関係を深め、彼らの人間関係を解きほぐしていくキーマンとなっていく様はなかなか面白い。「誰も信じるな」というのが謳い文句になっているが、フーダニットというのはそもそもそういうものだと思っているから、とりたてて本作品が目を見開くような展開というわけでもない。日常を離れた行楽地での悲劇というのもオーソドックスな設定だが、それをオーソドックスに楽しめたというのが素直な感想。 |
No.725 | 6点 | 流れは、いつか海へと- ウォルター・モズリイ | 2020/08/03 19:22 |
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身に覚えのない罪を着せられてニューヨーク市警を追われたジョー・オリヴァー。十数年後、私立探偵となった彼は、警察官を射殺した罪で死刑を宣告された黒人ジャーナリストの無実を証明してほしいと依頼される。時を同じくして、彼自身の冤罪について、真相を告白する手紙が届いた。ふたつの事件を調べはじめたオリヴァーは、奇矯な元凶悪犯メルカルトを相棒としてニューヨークの暗部へとわけいっていくが。心身ともに傷を負った彼は、正義をもって闘いつづける―。(「BOOK」データベースより)
ふたつの事件を追う上に、その背後関係がやや複雑で、読み進めるのに多少苦労した。最後は、過去の犯罪を返上することはあきらめた主人公が「復讐」に近い手段を選ぶのだが、物語を通してジョーの側につく「悪人」たちがカッコいい。悪人たちを主人公にしたハリウッド映画さながらの様相だった。ただ、ラストはちょっと尻切れトンボ気味な感じ。 |
No.724 | 7点 | 刑罰- フェルディナント・フォン・シーラッハ | 2020/07/18 20:33 |
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黒いダイバースーツを身につけたまま、浴室で死んでいた男。誤って赤ん坊を死なせてしまったという夫を信じて罪を肩代わりし、刑務所に入った母親。人身売買で起訴された犯罪組織のボスを弁護することになった新人弁護士。薬物依存症を抱えながら、高級ホテルの部屋に住むエリート男性。──実際の事件に材を得て、異様な罪を犯した人々の素顔や、刑罰を科されぬまま世界からこぼれ落ちた罪の真相を、切なくも鮮やかに描きだす。(カバー紹介)
第三者目線の淡々とした事実描写が非常に読み易い。時に”とび”を感じてつながりが分かりにくいところもないことはないが、余分な描写を排したテンポの良い筆致が却って不気味さを助長している。 どこまでがノンフィクションでどこからがフィクションなのかはっきりは分からないが、事実は小説よりも…という常套句が実感される。 |
No.723 | 8点 | 黒い家- 貴志祐介 | 2020/07/18 20:16 |
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事件の黒幕についてはかなり前の段階で想像がついていた。しかし、それがじわじわと明らかになっていく様を丁寧な筆致で描き進めている展開はスリルがあり、真犯人の迫りくる異常性を描くホラー作品として非常に秀逸だった。
生命保険会社に勤務する主人公の生活や業務の描写もしっかりしていて、日常に根を下ろした舞台で恐怖を描いているところもよかった。 各場面の描写が、視覚、聴覚だけでなく嗅覚に訴えてくるところが非常に強く、作者の基底にある筆力が作品を支えていると感じた。 |
No.722 | 8点 | 傲慢と善良- 辻村深月 | 2020/07/12 17:19 |
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西澤架(かける)は、婚活で知り合った真実と婚約、結婚式を数か月後に控えていた。が、真実はある日突然姿を消す。思い起こせば2カ月前、真実はストーカーに付きまとわれて架に助けを求めて来たのだった。ストーカーが真実を連れ去ったのか?警察に「事件性は低い」と判断されたことから、架は自身の手で真実の捜索に乗り出す。
「婚活」に励む30~40代の男女事情を描きながら、社会的立場の優劣やステイタスを気にする狭く固定的な価値観に翻弄される人間模様を面白く描いている。真実の行方と失踪の事情を追うリドルストーリーを主軸としながら、親の庇護のもと自立しきれなかった真実の半生が炙り出されていく展開は読み応えがあった。 ラストはどうなることかと思ったが、読後感の良い終わり方でよかった。 |