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HORNETさん
平均点: 6.34点 書評数: 1244件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1244 7点 怖い客- 矢樹純 2026/07/30 22:58
洋菓子店で、長時間居座った挙句毎回"1点だけ"お菓子を買っていく女性。妹の葬儀に冷淡な態度で葬儀社のスタッフを戸惑わせる女性。保険会社のコールセンターに執拗にクレーム電話をかけてくる男性。施術中の写真をSNSにアップされたと脱毛サロンに訴えてきた女性。一人の書店店員だけにいろいろ訪ねて毎回時間を取らせる高齢女性。カスタマーハラスメントをテーマにした、珠玉の5編を収録した短編集。

 ここ最近ホラー作品が続き、そちら方面で活躍している作者で、タイトルや文庫本の表紙もホラーテイストだったが、一編一編ちゃんとした謎解きのミステリ。どれも、日常離れした不可解な行為に隠されていた真実を、その対象となった店員・社員が解き明かしていくというストーリー。
 不可解であったり奇異であったりする客の行為行動だからこそ、「それはどんな意味があるのか」という謎への好奇心は高まる。各編50ページほどのコンパクトな作品ながら、ホワイダニットやフーダニットを巧みに編みこんでいる。
 奇異な行動の真相という面白さでは「一点さん」、散りばめられた謎の回収の面白さでは「サトリ夫人」
 あっという間に読めてしまう短編集だが、粒ぞろいの良質な一冊だった。

No.1243 7点 ファイア・ドーム- 辻村深月 2026/07/29 23:39
 1994年、L県蒔戸市でデパートの受付嬢の誘拐殺人事件が起きた。犯人は逮捕され事件は終結したが、全国的に注目された事件の熱にあてられた地元民たちは、同時期に蒔戸市で起きた小学生の事故死と誘拐事件を結びつけ、「被害女性が小学生を轢いたのではないか」などという事実無根のありえない"噂"に沸き立ち、それに乗じたマスコミ報道も過熱した。
 それから25年、誘拐殺害事件の被害者家族の小学生の息子が、またもや行方不明に。「なぜ、うちばかりが―」被害者家族の苦しみをよそに、再燃する憶測と噂。だが、この事件がやがて過去のすべてを暴き出す―

 今、どの書店に行っても作者渾身の一作ということで平積みされている本作。
 上下巻計900ページの厚みだが、動的な展開が続く高いリーダビリティで、数日でイッキ読みできる。


<ネタバレ>
 25年前の事件で娘(受付嬢)を殺された戌井家の孫息子・光汰朗の行方不明を皮切りに、さまざまな事象が絡み合って展開していく前半、そのことが端緒となって25年前の真相に迫っていく後半と、幾重にも重ねられた構成の面白さは見事で、「一粒で何度もおいしい」展開にはなっている。
 光汰朗が発見された際の「勘違い」と、その真犯人の意外性はなかなかで、そからさらに蒔戸市の物語が深化していく筋書きは素晴らしかった。
 登場人物の衝撃や怒り、痛切な思いを描く心情描写が連発され、さまざまな言い回しを駆使しているところはさすがだが、あまりに頻度が高いためだんだん重みが薄れてくる(慣れてきてしまう、食傷気味になってしまう)感じはあったが、最後まで力のあるストーリーだったことは間違いない。
 “無責任で暴力的な噂”という本作のメインテーマに、大人の噂や風評に惑わされず友情を育んでいく小学生たちの物語や、新聞記者や刑事の矜持の物語などさまざまな物語が付加されることで、非常に厚みのある一作となっていた。

 ただ、「デビュー22周年記念」って… 笑

No.1242 8点 ハウスメイド3 最後の秘密- フリーダ・マクファデン 2026/07/26 21:05
 元ハウスメイドのミリーは、今ではソーシャルワーカーに職を変え、結婚して2人の子どもをもつ。夫のエンツォと郊外に念願の一軒家を購入し、新しい生活に胸を膨らませていた。だが、向かいの家にはいつもこちらの様子を見張っている詮索好きのシングルマザー、隣家の夫婦の妻・スゼットは、夫のエンツォに周りを憚らずに色目を使う。人の好いエンツォが、スゼットのアプローチに悪気なく応じる様にやきもきする日々を送っていた中、事件は起きる―


 1作目で"反転"により読者の意表を突き、2作目では1作目で明らかになった設定を生かしながらも仕掛け、さて3作目は…と思って読んだが、これまたまったく違った作りで面白かった。
 そもそも今回はミリーは"ハウスメイド"でもない。結婚したミリーの、転居にまつわる"ご近所トラブル"から始まる話はそれ自体なかなかに面白いが、どこに向かっていくのだろう?というさらなる期待が膨らむ。
 結果、1、2作目にも通ずる"部屋"の話や、やはりハウスメイドが絡んでくるという巧みな構成にうならされた。
 相変わらず登場人物も少なく、リーダビリティも高い。これでシリーズは完結してしまうということなので残念な気もするが、作者の次のステップに期待したい。

No.1241 5点 怪物を捕らえる者は- ネレ・ノイハウス 2026/07/26 20:38
 雪の下から16歳の少女の遺体が発見された。遺体や服から移民の青年のDNAが見つかるが、刑事オリヴァーとピアが事情聴取をする前に彼は失踪してしまう。数日後の夜には、田舎道である男が車にはねられて死亡。男は裸足で、体には動物に咬まれた傷や拷問の痕が。一体どこから逃げてきたのか──。
 無関係に見えたふたつの事件がやがてつながり、ドイツ警察を揺るがす最悪の真相に──




<ネタバレ>
 本作の一番の爆弾は、長年本シリーズで同僚として登場してきた人物の信じられない“裏切り”だろう。シリーズを愛読している読者には慣れ親しんだ登場人物を切って捨ててしまう潔さは日本の作品にはあまりないような気がする。
 物語中盤のそのあたりが一番のヤマ場で、冒頭の「少女殺人事件」の真相は、あれだけ捜査を組織的に進めていたのに?というような単純なものだった(それが落とし穴で意外といってしまえばそれまでだが…)
 巻頭の登場人物に49人(!)も名前が挙げられていて、多くの木に埋もれた中から「この人だった」と種明かしをしているだけのような感じ。
 だいたい、被害者遺族も含めて事件関係者にはすべてアリバイを確認するものなのではないの・・・?
 作品を経るごとに厚みが増していっている本シリーズだが、ここまで長くする必要があるかな…とちょっと思い始めてる。

No.1240 5点 滅茶苦茶- 染井為人 2026/07/20 22:06
 仕事は順調、東京でシングルライフを謳歌する30代女性が始めた不穏な恋愛。下校中、不良に堕ちた元級友に再会した、とある北関東の高校生。老朽化したラブホテルを継ぐが、コロナ給付金が職種ではじかれ社会不満が募る中年男。
 コロナ禍の中、三者三様の“転落”が向かう先は…



<ネタバレ>
 三つの物語はそれぞれに面白く、十分にリーダビリティは高い。その三つがどう交わるのか…と思って読んでいたが…

 完全に奥田英朗の「〇〇」と同じでは…?トレースしているって言っていいぐらい。
 うーん。これってアリなのか?

No.1239 7点 家族- 葉真中顕 2026/07/20 21:56
 東京・八王子の分譲マンション最上階、1フロアを独占するペントハウスには、血縁に関わらず集まった人たちが自らを「家族」と称して住んでいた。その家長は、夜部瑠璃子という女性。いつもどぎついピンクの服を着ている肥ったその女性は、陰で”ピンクババア”と呼ばれ、警察も忌避している存在だった。だが、あるときその家から逃れ、助けを求めてきた女性から、その「家族」の恐ろしい実態が明らかにされていく―

 時折ニュースになる、"洗脳”による支配から起きる犯罪。一般人には、「なんでそんなこと起きるの?警察に駆け込めばいいのに…」と思ってしまうのだが。本作はそんな洗脳支配を題材にした作品。
 犯罪集団は捕まり、警察による取り調べが進む件は割と早くくるため、さらに奥があることがわかる。
 物語終盤に、その結末を匂わせる場面があるのだが、果たして…真相はいかに、という終わり方。
 何にせよ相変わらずの筆力で、ぐいぐい読ませる力がある作品。

No.1238 7点 素敵な圧迫- 呉勝浩 2026/07/20 21:40
 趣向もタイプもそれぞれの、乱歩賞作家・呉勝浩のバラエティ短編集といったところ。
 やはり地力がある作家さんなので、どの作品も面白い。シリーズ短編集じゃないぶん、「次の話はどんなカンジ…?」とかえって楽しめる。
 三億円事件をモチーフにした「ミリオンダラー・レイン」、パラレルワールドを題材にした「パノラマ・マシン」のラストが印象的だった。
 長編を読む合間に肩の力を抜いてミステリを楽しみたい…というときにオススメ。

No.1237 8点 777 トリプルセブン- 伊坂幸太郎 2026/07/12 20:54
 日常的に不運に見舞われる"体質"の殺し屋・七尾、通称「天道虫」。今回も、「ホテルにプレゼントを届けに行くだけの簡単な任務」と言われていたのに…ホテル内で起きている、裏稼業(殺し屋)の業務とその標的の戦いに巻き込まれることに。一つのホテルで起きている、数々の殺し、殺されの戦い。混沌としながらも、息を吞むようなバトルの行きつく先は―

 「AX」以来の、久しぶりの「殺し屋」シリーズ。前作は一人の殺し屋の「足抜け」を主軸にした、人間ドラマ的な側面も色濃い名作だったが、今回はシリーズ本来の「殺し屋活劇」の雰囲気が戻った感じ。
 何もかもが裏目に出る、絶対的な不運の持ち主"天道虫"のキャラクターを生かしながら、渋滞状態と言ってもよいホテル内の殺しバトルは、章転換のタイミングも絶妙でページを繰る手を止めさせない。作者のよさが存分に出ている。
 真の敵と対決するラストに明かされる真相はなかなかの想定外で、その仕掛けにも素直に楽しまされた。殺し屋の話でありながら、ダークなトーンに仕切らない結末もさすがで、とてもよかった。
 にしても、結局"天道虫"は強いなぁ…

No.1236 8点 倫敦スコーンの謎- 米澤穂信 2026/07/12 20:29
 謎解きで洞察力をひけらかす自身の”悪癖”を封じ、小市民として生きていくことを決意した高校生、小鳩常悟朗。同じ志向の小佐内ゆきと”互恵関係”を約束し過ごす毎日だったが、そんな本人たちの決意をよそに謎は向こうからやってくる。今回は、高校のOBで、いまや世界的な賞を受賞するまでになった美術家の、高校時代の作品が校内に残されていたことから始まった―(桑港クッキーの謎)

 四編の短編が収められた、小市民シリーズの短編集。
 表題作「倫敦スコーンの謎」が、一番原点回帰的な本シリーズの王道なカンジがするが、一編目「桑港クッキーの謎」四編目「維納ザッハトルテの謎」の、船戸高校OBの美術家でつながっている二作が秀逸。美術部顧問・甲村先生の、一編目で蒔かれた疑惑が、四編目で美しく着地しているのはよかった。
 本格ミステリにも存分に力を発揮されている作者だが、やはり真骨頂はこっちか…などと感じさせるほど、学生を舞台にした"日常の謎"モノでの作者の腕に改めて感じ入った。
 

No.1235 5点 こうふくろう- 薬丸岳 2026/07/12 19:59
 2020年、コロナ禍で孤独を抱えていた大学生・芹沢涼風は、池袋の公園で同じように繋がりを求める若者たちに出会う。彼らは「戸籍上のつながりや血縁がなくても、自分を幸福にしてくれる存在こそが本物の家族である」という理念のもと、公園のふくろう像にちなんで互助団体「こうふくろう」を結成した。
 しかし、コミュニティが想像を超えて巨大化していくにつれ、生きるための糧を稼ぐという名目で、日常的に犯罪行為が繰り返されるようになっていく。
 令和の孤独な若者亊事情、社会状況を取り上げて編まれた一作。

 池袋に集う孤独な若者たちの閉鎖的なコミュニティを描くストーリーそのものはまぁ読み易く面白かったが、それが犯罪集団に変貌していく過程はある意味オーソドックスで、目新しさは感じなかった。
 後半に行くにつれ、読み切ることが目的になってしまったのが正直なところ。

No.1234 7点 妻はりんごを食べない- 瀧羽麻子 2026/06/28 23:23
 40代に入った小川暁生は、妻と二人の生活を気に入っている。ところがある日、妻が実家に行ったきり、戻ってこない。京都にある彼女の実家を皮切りに、彼女に縁のある場所を探る暁生だったが、どこへ行っても、彼女は気配だけ残し、姿は無い。見知らぬこの地で彼女は何をし、どんな顔を見せていたのか?遠く離れた土地と土地を結ぶ“線”には、どんな秘密があるのか?
 そもそも彼女は無事なのか?穏やかすぎる夫婦に突然訪れた、愛のゆらぎの物語。(Amazon書籍紹介より)

 お互い何の不満もなく、周りも認めるほど仲睦まじく結婚生活を送っていたはずの夫婦。そう思っていたのは自分だけだったのか―?妻・玖美の行方を追う中で、暁生は妻のことを何も知らなかったことを思い知らされる。順に明らかになっていく「知らなかった妻のこと」が、読み手をどんどん作品に引き込んでいき、一方で失踪(連絡はつくので正確には違うが…)の真意についての謎はどんどんふくらんでいく。
 「このミス」2026年版で「ジャンル外の注目作品」として紹介されており、興味を惹かれて読んだが、十分にミステリである。

No.1233 5点 濱地健三郎の奇かる事件簿- 有栖川有栖 2026/06/28 23:10
前日に自殺したはずの女性を旅先の電車で見かけ、恋に落ちた男性。ホテルのある部屋に現れる少女の幽霊。死んだはずの常連客が露天風呂に現れる老舗旅館。直前に殺されたはずのミュージシャンを、事件後に目撃したという女子高生。説明できない怪異の謎を、「心霊探偵」濱地健三郎と助手の志摩ユリエが解き明かす、七編の短編集。

 いたってありがちな心霊話を描いた小噺みたいなものもあり、毛色や質もさまざま。なかには心霊現象でもなく、濱地が解くこともなく終わる話もあり、小粒な作品を集めた短編集という感じ。だから読み易いと言えば読み易い。
 ストーリー的には「ある崩壊」、ミステリ色でいえば「目撃証言」、ホラーテイストでいえば「怪奇にして危険な状態」がそれぞれよかった。

No.1232 7点 ビブリア古書堂の事件手帖V ~扉子と謎めく夏~- 三上延 2026/06/17 22:39
 その夏、不在中の両親に代わり、ビブリア古書堂を任された少女。美しい女店主とよく似た顔立ちで、本への好奇心と洞察力も母親譲り。だが異なるのは表情豊かで物怖じしないその性格。特殊な依頼に首を突っ込まぬよう少女の監視役を任された少年は、持ち込まれた古書に秘められた謎を、少女が鮮やかに解き明かしていく姿を目の当たりにする。戦時中ある男を救った『シャーロック・ホームズの饋還』と、残されたいたずら書き。
 真夏の鎌倉を駆ける「探偵と助手」の物語が始まる――。
(KADOKAWA書籍紹介より)

 作者の「あとがき」に書かれていたが、本シリーズも第1巻が刊行されて15年。時のたつのは(歳を取るのは)早いものだ…
 シリーズ開始当初、世間で話題になった本作だが、その熱も過ぎ去り、今も続いていることを知る人のほうが少ないかも、という現在。だがそんな世間の人気の起伏に全く惑わされることなく、粛々と書き続ける作者の姿勢(勝手な推測だが)がよい。変に「前作を越えなければ」とか「もう一度世間を振り向かせたい」とかいった気負いがない(勝手な推測だが)カンジが、安定のクオリティを保ち続けている気がする。


 今回は3話のエピソード(事件)。込み入ってはいたがミステリ的にかなりよかったのは2話目「森山大道 『写真よさようなら』」かな。(どれが本物でどれが復刻版なのか、ややこしいきらいはあったものの…)3話目も、疑われていた娘の見方が反転する件は面白かった。
 まだまだシリーズは続くとのこと。楽しみだ。

No.1231 8点 沈黙と爆弾- 吉良信吾 2026/06/08 00:07
 熊本県警警務部監察課の阿玉清治は、家族の不祥事がもとで出世の道を断たれ、首席監察官からの指示を無難にこなす"お掃除ロボット”と揶揄されて過ごす日々だった。ある日、所轄の刑事が民間人に暴行を働いたという事案の調査を命じられる。警察の威信に傷がつかないよう落としどころを探るという、いつもの"汚れ仕事”だったが、時を同じくして、熊本地震をきっかけに失声症を患っている小学生の息子に、動物殺しの容疑がかけられる。息子の無実を信じながら、与えられた事案の調査を進める阿玉だったが――。

 物語は、警察内部の非違事案の調査と、阿玉の息子にかけられた動物殺しの嫌疑との2本のストーリーが軸になっているが、どちらも熱く面白い。
 「動物殺し」の真相のほうがミステリらしい魅力があり、なかなかの意外な犯人だった。さらにそちらには阿玉の「家族の物語」もあり、心を打つものがあった。
 非違事案調査のストーリーは、組織を守ろうとする警察VS主人公の矜持という、警察小説では非常によくある構造ではあるが、主人公・阿玉の人物的な魅力もあり、力のある物語だった。
 

No.1230 6点 シスター・レイ- 長浦京 2026/06/07 22:00
 予備校の英語講師・能條玲は、東京墨田区の外国人たちの相談役的存在で、「シスター」と慕われている。地域柄、暴力団や外国人半グレ集団も関わって来るトラブルの解決に乗り出す彼女には、元フランス特殊部隊のエースという経歴があった。ある時、フィリピン出身の友人女性からの頼みで彼女の息子を探すことになった玲は、そこから相次ぐトラブルに次々に巻き込まれていく。やがてそれは、中国やベトナムの犯罪組織が絡んだ、国際的な陰謀の渦中につながっていく―

 卓越した武闘能力をもつ元傭兵の女性が、警察や国際的犯罪組織を相手に体を張って闘うというバイオレンス。屈強な男たちをなぎ倒す主人公の活劇シーンも多く、エンタメとして楽しめる作品。
 外国人界隈で起きている不穏な動きを、裏で操っている”Um Mundo”の正体が物語のキーになっているが、作品の中盤くらいで容易に想像がついたし、その通りだった。
 さまざまな組織が入り組んで関わってくるので、その図式を理解するのにやや苦心するが、映画のような分かりやすい(ベタかもしれないが)ヒロイン像を素直に楽しむことができた。

No.1229 4点 夜と霧の誘拐- 笠井潔 2026/05/25 23:32
 矢吹駆とナディアがダッソー家での晩餐会に招待されたその夜、運転手の娘・サラがダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐される。犯人からの連絡で、身代金の運搬役に指名されたのはナディアだった。ナディアが身代金の受け渡しに奔走する同じ夜、カトリック系私立校の聖ジュヌヴィエーヴ学院で女性学院長の射殺体が発見される。その殺害された女性学院長の夫は、なんと誘拐犯だったことが分かり、二つの事件の関連が疑われることになる―

 特に”二重誘拐” の手口には感心させられたし、学院長殺害の不可思議状況も興趣が高まるものだったが、いかんせん(不必要に)長い。特に駆と女性教授の、ナチスや第二次世界大戦後のフランスに関する議論は本筋には全く絡んでこないのにも関わらず結構紙幅を割いていて、読むのが面倒だったので飛ばした。
 おそらく本シリーズの愛読者とそうでないのとで評価が分かれるのではないか(自分は後者)。


<ネタバレ>
 正直、誘拐事件の結末を見たときにうっすらと「真犯人では…」と思っていた。さらに、真相が1分を争う綱渡りのような道筋で、不可思議状況を作るために無理筋を通しているような感じもする。
 ここまでが高評価で恐縮だが、自分の正直な感想。

No.1228 7点 普通の底- 月村了衛 2026/05/25 22:59
 ある青年から届いた手紙。そこには幼少期から「普通」を願って生きてきた半生が綴られていた。教育熱心な母親、少し距離のある父親、一般的な友達付き合い。多少の挫折はあっても、彼は「普通」の軌道に乗り続けているはずだったのに―。高校時代の同級生からの、ひょんな誘いをきっかけにその歯車が狂っていき、行きついた先は―僕が悪いのでしょうか?ただ「普通に」生きたかっただけなのに…

 主人公の「手記」ともいえる手紙で、少しずつ歯車が狂い始めていく半生を描く物語は、取り立てて特異なものではないかもしれないが、昨今の世情も反映した内容で読ませるものがある。特に主人公の転機となった高校3年時のエピソードは、「波風立たせずにうまく乗り切ろう」とした悪意のない処世術が、のちのち自分の首を絞めていく結果になり、同情を覚えてしまうところもある。
 要所要所で確固たる自分の意思を示せなかった主人公にも罪はあるかもしれないが、積極的に悪に加担しようとしていないはずなのに引き返せないところまで行ってしまう、その構図を巧みに描いていて、非常に興味を惹かれる一作だった。

No.1227 6点 白魔の檻- 山口未桜 2026/05/25 22:09
 研修医の春田は実習のため北海道へ行くことになり、過疎地医療協力で派遣される城崎と、温泉湖の近くにある山奥の病院へと向かう。ところが二人が辿り着いた直後、病院一帯は濃霧に覆われて誰も出入りができない状況になってしまう。そんな中、院内で病院スタッフが変死体となって発見される。さらに翌朝に発生した大地震の影響で、病院の周囲には硫化水素ガスが流れ込んでしまう。そして、霧とガスにより孤立した病院で不可能犯罪が発生して──(Amazon紹介文より)

 硫黄ガスが徐々に溜まっていき、生存のタイムリミットが迫って来る極限状況で起きる不可解な殺人、という設定・雰囲気は好み。病院の隠された黒歴史、そこにすべての因果があるだろうと推察されるものの、誰が?何のために?はなかなか見えてこないという展開もまずまずだったが、建物の構造や、人物の行動の時系列といった物理的なロジックが入り組んでくると、だんだん追うのが億劫になってしまうというのも正直あった。
 だから結局、城崎医師が真犯人にたどり着いたロジックは正確には理解できていない。”まぁ、その辺はいいから真相を早く教えて”みたいなカンジになってしまった。

No.1226 6点 殺める女神の島- 秋吉理香子 2026/04/30 22:19
 リゾートアイランドに集められた、外見と内面の美を競い合うコンテストの最終候補者。メンバーは女子高生モデル、経営者、小説家、医師、シェフ、インフルエンサー、大学院生の七人。これから二週間、互いを知りながら、高め合いながら、助け合いながら、最終選考の準備を行う。その日々を見守ってグランプリを決めるはずだった主催者が、二日目の朝、瀕死で見つかった。次々と殺人が起きるなか、巧妙に隠された参加者たちの「嘘」も明らかになっていく――。この中で、一番嘘つきの殺人鬼は誰?(JPROより)

 いわゆる「絶海の孤島モノ」だが設定がなかなか面白い。連続する事件の途中までは「これも審査の一つなのだろう」などと勘違いしていたある候補者の姿など、展開の中にも面白さがある。
 ただ真相はちょっと飛躍しすぎて、もう少し現実的な路線で意外性を期待していたところがあった。
 女性同士の本性がぶつかる作風は、十分に作者らしかった。

No.1225 5点 あいつらの末路- 真梨幸子 2026/04/30 22:07
 熟年結婚をした朝美のところに、友人のフリーライターの景子から「助けて」というメールが送られてきた。婚活サイトで出会った夫と、郊外のニュータウン「ハワースの丘」で幸せに暮らしているはずだった彼女の身に一体何が? 朝美は、馴染みの雑誌編集者・睦代と共に、景子を訪れることにする。ところが景子には会えず、そこで出会った「ハワースの丘」に住む女子高生とともに、おかしな事態に巻き込まれていく―

 熟年世代御用達の婚活サイト、捨てきれないセレブ生活へのあこがれ、女性同士の見栄の張り合い、ロマンス詐欺…いかにも作者らしい題材の、作者らしい展開の物語。
 思慮深さと安っぽさを併せもった女性の心理描写は、浅薄で俗っぽいけど逆にそれがリアルかも。しかし展開がぴょんぴょん飛んで薄っぺらく、心理描写も安っぽい感じなのは否めない。
 その分あっという間に読めて、エンタメとして面白く読むのには差し支えない。

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HORNETさん
ひとこと
好きな作家
有栖川有栖,中山七里,今野敏,エラリイ・クイーン
採点傾向
平均点: 6.34点   採点数: 1244件
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