皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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HORNETさん |
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| 平均点: 6.34点 | 書評数: 1264件 |
| No.1264 | 7点 | 幕が上がれば誰かが誰かに殺される- ベンジャミン・スティーヴンソン | 2026/09/27 21:53 |
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| アーネスト・カニンガムに離婚した元妻から助けを求めるメールが元妻から届いた。駆けつけると、彼女は恋人をめった刺しにして殺した容疑で逮捕されていた。アーネストは真実を解き明かすため、殺された恋人が経営していた劇場で行われるマジックショーに赴く。だが、そのマジックショーの舞台上、観客の目の前で、主演マジシャンが仕掛けのギロチンで首を撥ねられるという凄惨な事件が起きてしまう……。
<ネタバレ> 「信頼できる語り手」を自認し、すべての手がかりを読者に示すフェアプレイの精神で話を進める探偵・アーネスト。本格黄金時代のような直球本格ミステリはやはりよいものだ。 真相から照らして伏線を振り返ると、その手際には確かに感心させられる。アドベントカレンダーという演出も面白く、アイデアと構成力は本当にすごい。 そんなふうに緻密に編まれた謎解きだからこそ、手がかりはすべて明示されているとはいえ、真相を推理するのは逆にほぼ無理っぽい。ダイイングメッセージのからくりや、殺されたライルの障害のことなど… エリンの手が血まみれになっていたことの真相はゾッとする。しかしいくらなんでも気づくのでは?(匂いとか、泡立ちがないこととか…) |
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| No.1263 | 8点 | 死体はどうなる- ケン・ジャヴォロウスキー | 2026/09/27 21:29 |
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| 世間を騒がしている行方不明の女性の死体を「庭に埋めた」と一人息子に告白されたシングルマザー。亡き母との約束を果たすため、墓地へ母の眠る棺を取り出しに向かう発達障害の青年。借金を返済するためのトラブルによって恋人が死んでしまうが、そこからの起死回生を図る歌手志望の女性。
犯罪行為やその隠ぺいに奔走する三者三様の危機が、寂れた田舎町で交錯する。 同時進行する3つのストーリーがそれぞれに面白く、途切れることない動的な展開で飽きさせない。カーラ親子の犯罪工作はいくつものアクシデントに遭い、はらはらさせられっぱなしだし、発達障害の青年・リードのストーリーは、ものごとにこだわりの強いリードの性質と、それに対する狭い田舎町の反応がうまく描かれている。歌手志望のリズの話は、くだらない男との痴話がどう転んでいくのか見もの。よくできている。 物語後半に三者は交錯するものの、あくまでミアミスの形で一つになることはなく、それぞれのストーリーはそれぞれに結末を迎える。その形も無理がなくてよいし、さらに着地の仕方もそれぞれで、含みが残るカーラの結末も味があった。 リーダビリティの高さもあわせて、かなりよい一作だった。 |
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| No.1262 | 6点 | 本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件- 白井智之 | 2026/09/23 20:27 |
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| SNSを利用している小学生のもとに、地球防衛軍情報戦略部の司令官なる者からメッセージが届いた。いわく、地球に宇宙人エージェントが潜り込んでおり、その監視に協力してほしいという。指令を受けた小学生は、毎日向かいのビルに住む住人を監視していたところ、ある日、その住人の殺害現場を目撃してしまう。実はその被害者は、「速読術」で一世を風靡した人物が立ち上げた会社の代表者だった―
<ネタバレ> 相変わらずぶっとんだ登場人物と物語設定ながら、きちんとした(?)謎解きミステリに仕上がっているのはさすが。 まぁ作者の長編作品に比べると完全に「小ネタ」だが、昨今書籍界に台頭しだしたミニサイズ本への皮肉も多分にあったのだろうと推測。 核となるトリックの解明のあと、ラストに入れ込んだ件が秀逸。 そういうことだったのね、と感心もしてしまう面白い一作。 |
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| No.1261 | 8点 | 命取りのエピソード- アンソニー・ホロヴィッツ | 2026/09/23 20:15 |
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| ホロヴィッツ作「メインテーマは殺人」が映画化されることになった。話を持ち掛けてきた興行会社は映画製作の実績も少なく、キャスティングも不安がある中ではあったが、いつものように人の好いホロヴィッツは押し切られて撮影スタート。だが、その撮影現場で主役のホーソーン役を演じる俳優が殺害された。当然撮影は中止、疑惑はキャストやスタッフらのチームメンバーに向けられる。自身の役柄を演じる俳優が殺されるという特異な状況の中、ホーソーンはホロヴィッツとともにその捜査に乗り出すことに―
物語後半には「第2部」として、ホーソーンが過去に手掛けた事件の話が入って来る。本筋である俳優殺害事件に絡んで派生したストーリーだったが、その絡め方がまた秀逸。ホントに物語づくりがうまい作者だなと感心する。 最後、本筋の事件に戻って解決編が展開されるのだが、作中にうまく散りばめられた伏線から見事に真相を紡ぎ出しており、純粋なフーダニット作品として非常に楽しめた。 面白かった! |
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| No.1260 | 6点 | ブラッディダイスの殺人- M・W・クレイヴン | 2026/09/22 21:00 |
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| 英国を恐怖に陥れる、不詳のスナイパーによる連続射殺事件。被害者たちに関連性は見つからず、犯人の目的は一切不明のままだった。政府は事件解決の切り札に、閑職に追いやったポーたち重大犯罪分析課の元メンバーを再び招集する。武骨で無頼な刑事ワシントン・ポー、数学・ITの超天才ティリー、無軌道な2人を導くフリン。個性の塊の3人が、常軌を逸した捜査で真犯人に迫る―
<ネタバレ> 前作が、「行くところまで行った」感じがあったが、本作で「一旦平常化した」感があり、良くも悪くもオーソドックスな犯罪捜査だった。 シリーズの主要人物の狙撃は、その瞬間は「まさか!」と一瞬ショックだったが、よく考えれば「そんなわけない」とわかってしまって、その推測からポーたちの仕掛けも(真相も)まぁわかった。その通りだったし。 狙撃犯が、そこまでで登場している誰かだった…みたいなのがこうした展開の定番のような気がするのだがそんなこともなく、そういう点ではミステリとしての驚きはそこまでではないかもしれない。 こうなると、次作がどんなものになるのか逆に(?)楽しみ。 銃による狙撃…というまぁ欧米らしい犯罪だが、シリーズ的にはもっと”猟奇的な”内容を期待しているところもある。そういう色がなかったので、デビュー作のような世界を取り戻してくれると嬉しい。 |
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| No.1259 | 6点 | 能面検事の挫折- 中山七里 | 2026/09/22 20:41 |
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| 能面検事こと不破俊太郎が、あの御子柴礼司弁護士と対峙する物語。そもそも、不破が「能面」になったいきさつが御子柴との対決にあったことが分かり、七里作品愛読者にはたまらない一作と言える。
どちらも中山七里作品の人気キャラクターということもあって、一方に軍配を上げる結末は作者もやりづらかったとみえる。そう考えると絶妙な落としどころかも。最終的に両者の利害は一致したということか。よく考えたものだと思う。 中山七里ファンというバイアスをなんとか排しても、万人に面白い一作だと思う。 |
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| No.1258 | 7点 | 暗殺の交響曲- 中山七里 | 2026/09/14 21:26 |
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| 大阪梅田で街頭演説をしていた野党民生党の溝呂木久邦党首が刺殺された。犯人・入山和奏はその場で逮捕され、彼女は、就職氷河期を生んだ溝呂木政権時代の怨恨が動機と供述した。犯人がその場で確保された白昼の犯行、事件は解決に向かうと思われたが、和奏が自分の弁護士に指名したのは悪徳弁護士として知られる御子柴礼司。さらに対する地検は「能面検事」こと不破俊太郎がこの事件を担当することになった。中山七里作品のシリーズ主人公が激突―!!
御子柴VS不破検事、という時点で中山七里ファンなら合格点をあげてしまう。 ただこう書くと七里ファンだけが楽しめるような聞こえになってしまうが、そんなことは全くないと思う。本作品が初読でも(御子柴礼司が少年時代に世間を震撼させる殺人犯だったという異例の経歴を持つ弁護士という知識だけは必要かもしれないが)十分に楽しめると思う。 ある意味”似たもの同士”の2人のキャラクターはすぐにわかると思うし、数年前に日本で実際にあった、元首相殺害事件を下敷きにしたと明らかにわかる物語設定は入りやすく、没入しやすいのではないか。 <ネタバレ> どんでん返しが売り物とはいえ、そんなことを警察が見逃すかなぁ…(見逃さないだろう)と思う仕掛けではあった。しかもこのシリーズを読んでいれば、「氷河期時代を生んだ失政への恨み」が真の動機ではなくその裏に何かがあること、しかもそれが何であるかも読んでいくうちに見通せてしまう(実際、だいたいわかった)。 そういう意味ではミステリとしての「謎解き」自体はそこまでレヴェルは高くないが、御子柴&不破のキャラもあってその真相に迫っていく過程自体が面白い。そして作者のアイデアそのものに改めて感嘆する。 どうやらこれより先に刊行された「能面検事の挫折」が実は初対決らしい。順序が逆になってしまったが、さっそく読みたい。 |
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| No.1257 | 5点 | 囁く逆婿 怪民研に於ける記録と推理- 三津田信三 | 2026/09/14 20:42 |
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| 瞳星愛は、大学の先輩に、後輩である百古里民惠の頼みを聞いてほしいとお願いされる。そのお願いとは、民惠の実家の婚礼儀式に民惠の代理として出席してほしいというもの。ただでさえ面識のない同級生の代理なんて―と思う上に、その婚礼の儀式の内容を聞いてさらに驚愕する。それは、死んだ異母姉の婚礼という”霊婚”の儀式だった―
<ネタバレ> 瞳星愛が到着した儀式の場で、出席者全員が死んでおり、花婿役の真之輔に至っては生き人形の首に挿げ替えられた生首死体となっていた…まるで正史の「犬神家」を彷彿とさせる絵面にはそそられるものがあったが、真相は正直小粒な印象。いつものように、繰り出しては自ら否定、が繰り返される天弓馬人の推理。今回は「これも否定されて、さて次こそ…」と思っていたところでそれが真相だった。 ”動機の異常さ”が核だったのかもしれないが、こうした舞台設定の中ではそれが際立って異質にも見えず。 冷静に考えればこの長さで十分に面白いのだが、…三津田作品は購入した途端に表紙を眺め、ワクワクして…とかなり高い期待をため込んで読みに入ってしまうので。 |
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| No.1256 | 7点 | 熟柿- 佐藤正午 | 2026/09/07 21:23 |
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| 雨の夜、親戚の葬儀の帰り道に、警察官である夫を乗せた車で かおりは老婆を撥ね、轢き逃げの罪人となった。当時身ごもっていたかおりは服役中に息子・拓を出産するが、その息子は元夫に引き取られて生き別れに。出所後、息子に会いたいがあまり園児連れ去り事件を起こした彼女は、息子との接見を禁じられ、追われるように西へ西へと各地を流れてゆく。いつか息子に会える日は来るのか―心の中で毎日のように息子に呼びかけながら、かおりは孤独な生活を続ける―
もちろん救護を行わずに逃げ、結果人を死なせたかおりの罪は重い。だが、その罪を背負ったまま、過去を隠しながら息子との再会を希望に生きる彼女の人生はあまりに切ない。読み手としては、そんなかおりと縁を切り、新しい妻を迎えて拓と暮らしている元夫が自分本位に感じて腹が立つが、かおりは「自分が悪かったのだ」という意識で、ただ耐えて暮らしている。孤独な人生を送るかおりに胸が苦しくなってくるが…最後に訪れる転機に、いくらか救われた。 ひたむきに描かれる17年という長い歳月に読み手も没入する。読み応えのある一作。 |
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| No.1255 | 6点 | 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン | 2026/09/07 20:52 |
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| 倒産した発電会社の社長、ソリー・スペイスが殺害された。ソリーは殺される前、共同経営者のリース・ジャーディンを欺いて自分だけ財を蓄えておく狡猾な男だった。だがソリーが死んだことにより、莫大な財産は若い恋人のウィニーのものに。父ソリーと反目していた息子のウォルター、ウォルターと恋仲でリースの娘であるヴァレリー、さまざまな人間模様が複雑に絡み合う中、エラリーが事件の解明に一役買うことに―
殺人事件一件の解明に費やされる長編だが、飽きの来させない展開だった。状況的に真っ先に容疑者となる共同経営者のリースが、自分が不利になることを承知で娘の恋人・ウォルターをかばい続けるのだが、当のウォルターもそれに乗っかって隠し事をしているところや、その間に立ってわめいているヴァレリーにいらいらさせられるところもあったが、物語が進むにつれて謎が深まっていく面白さがあった。 <ネタバレ> 最後の真相解明は急展開で、文字通り飛び道具だった。リースの趣味やそのコーチである男など、確かに伏線は仕込まれていたものの、手がかりが最後に「追加」されて、それで一気呵成にいった感じもする。 その点はちょっと…と思うところもあるが、全体として面白かった。 |
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| No.1254 | 7点 | 男と女とチェーンソー──現代ホラー映画におけるジェンダー- 評論・エッセイ | 2026/08/31 21:38 |
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| 1980年代は、「ホラー映画」の全盛期だった。いわゆる“ゾンビもの”をはじめ多くの作品が乱立したが、その中でも「ハロウィン」「13日の金曜日」「エルム街の悪夢」など、殺人鬼が凶器で無残に人を殺害する残虐なシーンを描く作品群は「スラッシャー映画」と呼ばれ、シリーズ化され長期にわたって続編が作られ続けた人気作だった。かくいう私も、(今にも通ずる)好みで愛好していた一人である。
<ファイナル・ガール>―こうしたスラッシャー映画で、次々と殺されていく登場人物の中で最後の一人として生き残り、殺人鬼と戦う女性のことをこう呼ぶらしい。本書は、そんなふうに「パターン化」されたホラー映画の形態から、ジェンダーを読み解くという非常に興味深い映画評論である。 確かに、当時のホラー映画は完全にパターン化されていた。本書でも、ある映画監督が「基本的に続編とは、前作と同じ映画だ。」と堂々と言いきっていた(笑!)。ホラー映画における男性キャラクターについて「せいぜい女の子たちのボーイフレンドか学校のクラスメイトといったところで、たいていは脇に追いやられた描写の浅いキャラクターである。さらに言えば、登場してわりとすぐに死ぬ。」「救援に駆け付けた男が…あっけなく殺される場面も少なくない。そうして結局、少女は自らの手で闘うことになる。」などと述べられているくだりは、当時観ていた作品を思い返すと「そう!そう!」とあまりにも的を射ていて笑ってしまう。 とはいえ、あくまで大真面目にホラー映画(スラッシャー映画)の系譜とそこから読み解けるアメリカの価値観を論じている著作である。 |
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| No.1253 | 6点 | ミステリの女王の冒険- エラリイ・クイーン | 2026/08/31 21:30 |
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| テレビドラマのシナリオということで、ラジオドラマシナリオの「死せる案山子の冒険」「ナポレオンの剃刀の冒険」以上にはじめはちょっと読みづらかったが、すぐに慣れ、気が付けば一気読み。
一話完結の分かりやすいフーダニットで、さすが一般視聴者向けというか私でも十分推理をできる余地があり、楽しめた。 そういう楽しみでいえば「十二階特急の冒険」が一番、短編ながら本格黄金期っぽい雰囲気が楽しめるのは表題作「ミステリの女王の冒険」。 |
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| No.1252 | 7点 | 満潮に乗って- アガサ・クリスティー | 2026/08/31 21:19 |
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| 億万長者のゴードンが亡くなり、若くして妻となっていたロザリーンに遺産のすべてが行く。ありがちすぎる設定ではあるものの、ロザリーンに強欲さが感じられず、本来の相続者であるゴードンの親族との関係も悪くはない、という微妙な感じが物語を面白くしている。ロザリーンの兄、ハンターだけは敵愾心むき出しだが。
殺人事件が起きるタイミングも遅く、そう思うとゆったりした展開ではあるが、人間模様が面白くて飽きさせない。そのうえでたどり着く真相はなかなかで、純粋な本格ミステリとして十分厚みのある作品だった。 何よりも面白くないカップルができそうだった展開から、結局は”元サヤ”に収まるエンディングは心地よかった(笑) |
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| No.1251 | 7点 | BUTTER- 柚木麻子 | 2026/08/17 21:50 |
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| 週刊誌"週刊秀明"の記者・町田里佳は、男性たちに結婚を仄めかして貢がせたうえ、死に至らしめた「婚活連続殺人事件」の容疑者・梶井真奈子の拘置所での取材に挑んでいた。マスコミに全く応じようとしない梶井真奈子だったが、彼女へ「男性に振る舞った料理のレシピを教えてほしい」という手紙を送ったところ、初めて興味を示し、面会に応じてくれることに。何とか彼女に食い込んで取材にこぎつけようとする里佳は、いつの間にか彼女の話、価値観に飲み込まれていくことに―
2017年に刊行されてから7年後、2024に英訳されてから海外で大ヒット。イギリスでは文学賞で"4冠"を獲得し、その功績から2025年に野間出版文化賞を受賞し、今、大きく再評価されている一作。 梶井の心に食い込もうと、里佳が梶井の薦めるままに今で言う「背徳メシ」のようなメニューを食し、次第に梶井の価値観に傾倒していくくだりでは、里佳の世界観を変えるような衝撃を「食レポ」顔負けの描写で描いている。物語の要所要所でそのような「食の描写」が出てきて、物語の本筋とは別に本作品の大きな魅力になっている。 一度梶井真奈子に吞み込まれそうになった里佳が、親友・伶子のかかわりを通しながら持ち直し、後半は梶井の表の顔に隠された本性を露わにしていく「攻め」のターンに転じる。物語の本筋は、梶井が疑いをかけれられている「男性たちの不審死の真相解明」ではない。フェミニズムが謳われて久しいながら、いつまでたっても「女性のありよう」が決めつけられがちな日本社会において、梶井はどう生きようとしたのか、里佳はどう生きていきたいのか、が明らかになっていくのが本筋である。 それが、里佳の親友・伶子、里佳の彼氏の誠、会社の上役・篠井ら職場の仲間たち、それぞれとの関係の中で絶妙に描かれている。作者の手腕の高さを否応にも感じる。 上に書いたように、梶井真奈子の事件の真相解明が主眼ではなく、そういう意味では事件を核にしたミステリとしての色は薄いかもしれない。だが、梶井の真意、"本当の姿"を探っていくとのはそれはそれでミステリでもあり、また(やや思想的理屈がうるさいきらいもあるものの)ジェンダー論ともまた違う、女性の生き様をテーマとした一つの物語としても、非常に楽しんで読んだ。 |
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| No.1250 | 8点 | ローズマリーの赤ちゃん- アイラ・レヴィン | 2026/08/13 23:17 |
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| 予備知識なしで読むと、前半は映画スターの卵とその妻の微笑ましいただの新婚物語にしか見えない。新居を構えたことによる、ご近所さんとのつきあいや、なかなか芽が出ずにいらだつ夫を支えようとする新妻のエピソードなどが続き、妖しさや不穏さはほとんどないまま物語は進んでいく。
が、妊娠が分かってから、主治医の変更、お腹の子のためと飲み物を差し入れる隣家の妻…といった「ちょっと変だな」と思う展開が少しずつ積み重ねられ、じわじわと不穏感が増してくる。そして、夫婦が懇意にしていた友人の突然の悲報を皮切りに、読者の不審は決定的な疑いに変わっていく。 段々と浮かび上がっていくその”おかしさ”を、主人公・ローズマリーの視点から描き出していく展開は非常によく、どんどん読み進めたくなる欲を喚起し続けた。 疑いは妄想なのか?本当なのか?主人公のその不安感やいらだちに読者も没入し、楽しむことができる作品。 |
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| No.1249 | 7点 | 石の微笑- ルース・レンデル | 2026/08/13 22:51 |
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| 普通に過ごしているように見える人に内在する”狂気”をじっくりと描くレンデルらしいサスペンス。
母親の恋愛、主人公フィリップ自身の恋愛、恋人となったゼンダの奇矯な言動、妹・チェリルの不審な行動。さまざまな要素を同時進行で描きながら、ゼンダの告白は本物なのか?虚言なのか?という中心的な謎に読者も翻弄され、そこにキーとなるアイテム「石の彫像・フローラ」が絶妙に機能する。 ラストに、彫像・フローラを契機にストーリーが大きく動く畳みかけは見事。ゆっくり進む物語の中で、巧みに仕組まれていた作者の仕掛けに心地よく撃たれる。 ―結局、そっちだったか!でも確かにそうでなければ…何の話だったんだ?ともなるしなぁ。 本格ミステリのような、名探偵が真相を喝破する、というキレのいい結末ではないいかにもサスペンス。だが、長編ながら読んだ甲斐があると満足できる一作。 |
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| No.1248 | 8点 | 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー | 2026/08/11 21:35 |
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| 男を翻弄する美魔女、アリーナ・マーシャルが夫と旧家に訪れていたリゾート地で殺害された。ホテルに滞在し交流のあった宿泊客たちに嫌疑がかかるのだが、その中にはバカンスを楽しみに来ていたポアロも。アリーナをめぐる愛憎劇が交錯する中、真相はどこにあるのか?
殺されたアリーナが、同じホテルに宿泊している他の夫婦の旦那を誘惑し、公然といい仲になっていたという状況で、ある意味分かりやすすぎる容疑者がいる。が、当然事件はそんなに単純じゃない。実際の人間関係を紐解いていくポアロらしい捜査過程は地道ながらも面白く、そこで「?」と感じる小粒な(独特の)違和感が積み重ねられ、最後に見事に回収される。 夏のリゾート地、島で起きた事件という(ベタな?)舞台設定も魅力的。無駄のない描写ながら情趣を感じさせるクリスティの筆力で、自分もその地にいるような没入感で読み進めてしまう。 そんなリゾートバカンスの描写に、ぽつぽつと巧みに伏線を落としていき、すべてが真相につながっていくストーリーはさすが。一つの殺人(後半に複数になるが)の解明でこれだけの紙幅を割いても飽きず、一気に読めてしまう時代を超えたリーダビリティは本当にスゴイ。 この時期(真夏)に読むことをオススメする。 |
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| No.1247 | 7点 | 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー | 2026/08/11 21:16 |
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| パーティの最中、事件が起こる直前にマリーナ・グレッグが見せた「不可解な表情」を謎の軸に据えて組み立てられたストーリーは、それで物語の魅力が持続するクリスティの筆力あってこそだとつくづく思えた。
後半、マープルがこだわる事件当時のやり取りなどから、真相は看破できた。であっても、真相の推理だけない、人間ドラマとしての魅力も兼ね備えるクリスティらしい作風は十分に堪能できる。 とても楽しめた。 |
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| No.1246 | 4点 | 私、死体と結婚します- 桜井美奈 | 2026/08/11 21:07 |
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| 結婚を間近に控えた婚約者が突然死んだというのに、即時順応して、「このまま結婚する」という主人公。死体と結婚するというより、その順応の速さに違和感を感じるはじまりだったが…まぁ、最後まで読めば。
真相まで読み通すと、翻って前半の反応や言動に逆に違和感が。工夫ある物語だとは思うが、紙幅の関係か展開が一足飛びな気がして、間断なく出し物を見せ続けられているような感覚だった。 |
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| No.1245 | 8点 | 『石球城』殺人事件- 北山猛邦 | 2026/08/04 21:11 |
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| 大規模な気候変動により、地球は冬の時代となった。太陽の見えない生活の中、ルーサは「最果ての地に楽園がある」という話を信じて仲間と旅に出るが、仲間割れの末、氷河のクレバスに落ちて意識を失う。気が付くとロメリアという少年に助けられていて、見たことのない地にいた。
そこは、13の灯台と壁に囲われ、完全に外界と遮断された世界―「石球城」だった。いったいどうやってここに来たのか…ルーサの戸惑いをよそに、13人の灯台の巫女たちが、次々と殺されていく… <ネタバレ> 作者の作品は「オルゴーリェンヌ」しか読んでおらず、それがあまり肌に合わなかったため手を伸ばさずにいたが、本サイトの評価が非常に高いため手に取った。 13の密室殺人に13のトリック、加えてラストにプラスα。怒涛のような密室トリック解明劇は確かにスゴイ。令和のこの時代に、海外古典のような物理的密室トリックのオンパレードもこれはこれでよい。何よりも、一つ一つがそれ単体で作品にできそうなくらいのものもあるのに、一作で13トリック放出した作者の度量に感嘆する。 ただ一方で、13の密室を一掃する一発がくることも心の中で期待していた。各現場で残されていた要素がすべてひとつながりになっていくような…。一つ一つを「それぞれ」順に解き明かしていく展開は、怒涛ともいえるが、ある意味地味に感じるところもあった。 また、石球に宿された「磁力」を利用したトリックはあまり現実感がなく、「物理トリック」と素直に受け止められないところもあった。「死の灯台」「雨の灯台」「大地の灯台」「「闇の灯台」のトリックなんかは特に。一方、「世界の灯台」の浸水によるトリック、「梟の灯台」のビリヤード的なトリックは非常に面白かった。(ところで、「初めの灯台」のトリックは結局何だったのか?) 一番は、「石球城」そのものの構造を明かしたラスト。文字通りの“驚天動地″。ルーサの謎も論理的に説明され、唸らされた。 年末のランキングに入りそうな一作だぁ・・・ |
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