皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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HORNETさん |
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| 平均点: 6.34点 | 書評数: 1256件 |
| No.1256 | 7点 | 熟柿- 佐藤正午 | 2026/09/07 21:23 |
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| 雨の夜、親戚の葬儀の帰り道に、警察官である夫を乗せた車で かおりは老婆を撥ね、轢き逃げの罪人となった。当時身ごもっていたかおりは服役中に息子・拓を出産するが、その息子は元夫に引き取られて生き別れに。出所後、息子に会いたいがあまり園児連れ去り事件を起こした彼女は、息子との接見を禁じられ、追われるように西へ西へと各地を流れてゆく。いつか息子に会える日は来るのか―心の中で毎日のように息子に呼びかけながら、かおりは孤独な生活を続ける―
もちろん救護を行わずに逃げ、結果人を死なせたかおりの罪は重い。だが、その罪を背負ったまま、過去を隠しながら息子との再会を希望に生きる彼女の人生はあまりに切ない。読み手としては、そんなかおりと縁を切り、新しい妻を迎えて拓と暮らしている元夫が自分本位に感じて腹が立つが、かおりは「自分が悪かったのだ」という意識で、ただ耐えて暮らしている。孤独な人生を送るかおりに胸が苦しくなってくるが…最後に訪れる転機に、いくらか救われた。 ひたむきに描かれる17年という長い歳月に読み手も没入する。読み応えのある一作。 |
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| No.1255 | 6点 | 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン | 2026/09/07 20:52 |
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| 倒産した発電会社の社長、ソリー・スペイスが殺害された。ソリーは殺される前、共同経営者のリース・ジャーディンを欺いて自分だけ財を蓄えておく狡猾な男だった。だがソリーが死んだことにより、莫大な財産は若い恋人のウィニーのものに。父ソリーと反目していた息子のウォルター、ウォルターと恋仲でリースの娘であるヴァレリー、さまざまな人間模様が複雑に絡み合う中、エラリーが事件の解明に一役買うことに―
殺人事件一件の解明に費やされる長編だが、飽きの来させない展開だった。状況的に真っ先に容疑者となる共同経営者のリースが、自分が不利になることを承知で娘の恋人・ウォルターをかばい続けるのだが、当のウォルターもそれに乗っかって隠し事をしているところや、その間に立ってわめいているヴァレリーにいらいらさせられるところもあったが、物語が進むにつれて謎が深まっていく面白さがあった。 <ネタバレ> 最後の真相解明は急展開で、文字通り飛び道具だった。リースの趣味やそのコーチである男など、確かに伏線は仕込まれていたものの、手がかりが最後に「追加」されて、それで一気呵成にいった感じもする。 その点はちょっと…と思うところもあるが、全体として面白かった。 |
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| No.1254 | 7点 | 男と女とチェーンソー──現代ホラー映画におけるジェンダー- 評論・エッセイ | 2026/08/31 21:38 |
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| 1980年代は、「ホラー映画」の全盛期だった。いわゆる“ゾンビもの”をはじめ多くの作品が乱立したが、その中でも「ハロウィン」「13日の金曜日」「エルム街の悪夢」など、殺人鬼が凶器で無残に人を殺害する残虐なシーンを描く作品群は「スラッシャー映画」と呼ばれ、シリーズ化され長期にわたって続編が作られ続けた人気作だった。かくいう私も、(今にも通ずる)好みで愛好していた一人である。
<ファイナル・ガール>―こうしたスラッシャー映画で、次々と殺されていく登場人物の中で最後の一人として生き残り、殺人鬼と戦う女性のことをこう呼ぶらしい。本書は、そんなふうに「パターン化」されたホラー映画の形態から、ジェンダーを読み解くという非常に興味深い映画評論である。 確かに、当時のホラー映画は完全にパターン化されていた。本書でも、ある映画監督が「基本的に続編とは、前作と同じ映画だ。」と堂々と言いきっていた(笑!)。ホラー映画における男性キャラクターについて「せいぜい女の子たちのボーイフレンドか学校のクラスメイトといったところで、たいていは脇に追いやられた描写の浅いキャラクターである。さらに言えば、登場してわりとすぐに死ぬ。」「救援に駆け付けた男が…あっけなく殺される場面も少なくない。そうして結局、少女は自らの手で闘うことになる。」などと述べられているくだりは、当時観ていた作品を思い返すと「そう!そう!」とあまりにも的を射ていて笑ってしまう。 とはいえ、あくまで大真面目にホラー映画(スラッシャー映画)の系譜とそこから読み解けるアメリカの価値観を論じている著作である。 |
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| No.1253 | 6点 | ミステリの女王の冒険- エラリイ・クイーン | 2026/08/31 21:30 |
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| テレビドラマのシナリオということで、ラジオドラマシナリオの「死せる案山子の冒険」「ナポレオンの剃刀の冒険」以上にはじめはちょっと読みづらかったが、すぐに慣れ、気が付けば一気読み。
一話完結の分かりやすいフーダニットで、さすが一般視聴者向けというか私でも十分推理をできる余地があり、楽しめた。 そういう楽しみでいえば「十二階特急の冒険」が一番、短編ながら本格黄金期っぽい雰囲気が楽しめるのは表題作「ミステリの女王の冒険」。 |
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| No.1252 | 7点 | 満潮に乗って- アガサ・クリスティー | 2026/08/31 21:19 |
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| 億万長者のゴードンが亡くなり、若くして妻となっていたロザリーンに遺産のすべてが行く。ありがちすぎる設定ではあるものの、ロザリーンに強欲さが感じられず、本来の相続者であるゴードンの親族との関係も悪くはない、という微妙な感じが物語を面白くしている。ロザリーンの兄、ハンターだけは敵愾心むき出しだが。
殺人事件が起きるタイミングも遅く、そう思うとゆったりした展開ではあるが、人間模様が面白くて飽きさせない。そのうえでたどり着く真相はなかなかで、純粋な本格ミステリとして十分厚みのある作品だった。 何よりも面白くないカップルができそうだった展開から、結局は”元サヤ”に収まるエンディングは心地よかった(笑) |
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| No.1251 | 7点 | BUTTER- 柚木麻子 | 2026/08/17 21:50 |
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| 週刊誌"週刊秀明"の記者・町田里佳は、男性たちに結婚を仄めかして貢がせたうえ、死に至らしめた「婚活連続殺人事件」の容疑者・梶井真奈子の拘置所での取材に挑んでいた。マスコミに全く応じようとしない梶井真奈子だったが、彼女へ「男性に振る舞った料理のレシピを教えてほしい」という手紙を送ったところ、初めて興味を示し、面会に応じてくれることに。何とか彼女に食い込んで取材にこぎつけようとする里佳は、いつの間にか彼女の話、価値観に飲み込まれていくことに―
2017年に刊行されてから7年後、2024に英訳されてから海外で大ヒット。イギリスでは文学賞で"4冠"を獲得し、その功績から2025年に野間出版文化賞を受賞し、今、大きく再評価されている一作。 梶井の心に食い込もうと、里佳が梶井の薦めるままに今で言う「背徳メシ」のようなメニューを食し、次第に梶井の価値観に傾倒していくくだりでは、里佳の世界観を変えるような衝撃を「食レポ」顔負けの描写で描いている。物語の要所要所でそのような「食の描写」が出てきて、物語の本筋とは別に本作品の大きな魅力になっている。 一度梶井真奈子に吞み込まれそうになった里佳が、親友・伶子のかかわりを通しながら持ち直し、後半は梶井の表の顔に隠された本性を露わにしていく「攻め」のターンに転じる。物語の本筋は、梶井が疑いをかけれられている「男性たちの不審死の真相解明」ではない。フェミニズムが謳われて久しいながら、いつまでたっても「女性のありよう」が決めつけられがちな日本社会において、梶井はどう生きようとしたのか、里佳はどう生きていきたいのか、が明らかになっていくのが本筋である。 それが、里佳の親友・伶子、里佳の彼氏の誠、会社の上役・篠井ら職場の仲間たち、それぞれとの関係の中で絶妙に描かれている。作者の手腕の高さを否応にも感じる。 上に書いたように、梶井真奈子の事件の真相解明が主眼ではなく、そういう意味では事件を核にしたミステリとしての色は薄いかもしれない。だが、梶井の真意、"本当の姿"を探っていくとのはそれはそれでミステリでもあり、また(やや思想的理屈がうるさいきらいもあるものの)ジェンダー論ともまた違う、女性の生き様をテーマとした一つの物語としても、非常に楽しんで読んだ。 |
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| No.1250 | 8点 | ローズマリーの赤ちゃん- アイラ・レヴィン | 2026/08/13 23:17 |
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| 予備知識なしで読むと、前半は映画スターの卵とその妻の微笑ましいただの新婚物語にしか見えない。新居を構えたことによる、ご近所さんとのつきあいや、なかなか芽が出ずにいらだつ夫を支えようとする新妻のエピソードなどが続き、妖しさや不穏さはほとんどないまま物語は進んでいく。
が、妊娠が分かってから、主治医の変更、お腹の子のためと飲み物を差し入れる隣家の妻…といった「ちょっと変だな」と思う展開が少しずつ積み重ねられ、じわじわと不穏感が増してくる。そして、夫婦が懇意にしていた友人の突然の悲報を皮切りに、読者の不審は決定的な疑いに変わっていく。 段々と浮かび上がっていくその”おかしさ”を、主人公・ローズマリーの視点から描き出していく展開は非常によく、どんどん読み進めたくなる欲を喚起し続けた。 疑いは妄想なのか?本当なのか?主人公のその不安感やいらだちに読者も没入し、楽しむことができる作品。 |
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| No.1249 | 7点 | 石の微笑- ルース・レンデル | 2026/08/13 22:51 |
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| 普通に過ごしているように見える人に内在する”狂気”をじっくりと描くレンデルらしいサスペンス。
母親の恋愛、主人公フィリップ自身の恋愛、恋人となったゼンダの奇矯な言動、妹・チェリルの不審な行動。さまざまな要素を同時進行で描きながら、ゼンダの告白は本物なのか?虚言なのか?という中心的な謎に読者も翻弄され、そこにキーとなるアイテム「石の彫像・フローラ」が絶妙に機能する。 ラストに、彫像・フローラを契機にストーリーが大きく動く畳みかけは見事。ゆっくり進む物語の中で、巧みに仕組まれていた作者の仕掛けに心地よく撃たれる。 ―結局、そっちだったか!でも確かにそうでなければ…何の話だったんだ?ともなるしなぁ。 本格ミステリのような、名探偵が真相を喝破する、というキレのいい結末ではないいかにもサスペンス。だが、長編ながら読んだ甲斐があると満足できる一作。 |
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| No.1248 | 8点 | 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー | 2026/08/11 21:35 |
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| 男を翻弄する美魔女、アリーナ・マーシャルが夫と旧家に訪れていたリゾート地で殺害された。ホテルに滞在し交流のあった宿泊客たちに嫌疑がかかるのだが、その中にはバカンスを楽しみに来ていたポアロも。アリーナをめぐる愛憎劇が交錯する中、真相はどこにあるのか?
殺されたアリーナが、同じホテルに宿泊している他の夫婦の旦那を誘惑し、公然といい仲になっていたという状況で、ある意味分かりやすすぎる容疑者がいる。が、当然事件はそんなに単純じゃない。実際の人間関係を紐解いていくポアロらしい捜査過程は地道ながらも面白く、そこで「?」と感じる小粒な(独特の)違和感が積み重ねられ、最後に見事に回収される。 夏のリゾート地、島で起きた事件という(ベタな?)舞台設定も魅力的。無駄のない描写ながら情趣を感じさせるクリスティの筆力で、自分もその地にいるような没入感で読み進めてしまう。 そんなリゾートバカンスの描写に、ぽつぽつと巧みに伏線を落としていき、すべてが真相につながっていくストーリーはさすが。一つの殺人(後半に複数になるが)の解明でこれだけの紙幅を割いても飽きず、一気に読めてしまう時代を超えたリーダビリティは本当にスゴイ。 この時期(真夏)に読むことをオススメする。 |
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| No.1247 | 7点 | 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー | 2026/08/11 21:16 |
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| パーティの最中、事件が起こる直前にマリーナ・グレッグが見せた「不可解な表情」を謎の軸に据えて組み立てられたストーリーは、それで物語の魅力が持続するクリスティの筆力あってこそだとつくづく思えた。
後半、マープルがこだわる事件当時のやり取りなどから、真相は看破できた。であっても、真相の推理だけない、人間ドラマとしての魅力も兼ね備えるクリスティらしい作風は十分に堪能できる。 とても楽しめた。 |
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| No.1246 | 4点 | 私、死体と結婚します- 桜井美奈 | 2026/08/11 21:07 |
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| 結婚を間近に控えた婚約者が突然死んだというのに、即時順応して、「このまま結婚する」という主人公。死体と結婚するというより、その順応の速さに違和感を感じるはじまりだったが…まぁ、最後まで読めば。
真相まで読み通すと、翻って前半の反応や言動に逆に違和感が。工夫ある物語だとは思うが、紙幅の関係か展開が一足飛びな気がして、間断なく出し物を見せ続けられているような感覚だった。 |
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| No.1245 | 8点 | 『石球城』殺人事件- 北山猛邦 | 2026/08/04 21:11 |
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| 大規模な気候変動により、地球は冬の時代となった。太陽の見えない生活の中、ルーサは「最果ての地に楽園がある」という話を信じて仲間と旅に出るが、仲間割れの末、氷河のクレバスに落ちて意識を失う。気が付くとロメリアという少年に助けられていて、見たことのない地にいた。
そこは、13の灯台と壁に囲われ、完全に外界と遮断された世界―「石球城」だった。いったいどうやってここに来たのか…ルーサの戸惑いをよそに、13人の灯台の巫女たちが、次々と殺されていく… <ネタバレ> 作者の作品は「オルゴーリェンヌ」しか読んでおらず、それがあまり肌に合わなかったため手を伸ばさずにいたが、本サイトの評価が非常に高いため手に取った。 13の密室殺人に13のトリック、加えてラストにプラスα。怒涛のような密室トリック解明劇は確かにスゴイ。令和のこの時代に、海外古典のような物理的密室トリックのオンパレードもこれはこれでよい。何よりも、一つ一つがそれ単体で作品にできそうなくらいのものもあるのに、一作で13トリック放出した作者の度量に感嘆する。 ただ一方で、13の密室を一掃する一発がくることも心の中で期待していた。各現場で残されていた要素がすべてひとつながりになっていくような…。一つ一つを「それぞれ」順に解き明かしていく展開は、怒涛ともいえるが、ある意味地味に感じるところもあった。 また、石球に宿された「磁力」を利用したトリックはあまり現実感がなく、「物理トリック」と素直に受け止められないところもあった。「死の灯台」「雨の灯台」「大地の灯台」「「闇の灯台」のトリックなんかは特に。一方、「世界の灯台」の浸水によるトリック、「梟の灯台」のビリヤード的なトリックは非常に面白かった。(ところで、「初めの灯台」のトリックは結局何だったのか?) 一番は、「石球城」そのものの構造を明かしたラスト。文字通りの“驚天動地″。ルーサの謎も論理的に説明され、唸らされた。 年末のランキングに入りそうな一作だぁ・・・ |
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| No.1244 | 7点 | 怖い客- 矢樹純 | 2026/07/30 22:58 |
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| 洋菓子店で、長時間居座った挙句毎回"1点だけ"お菓子を買っていく女性。妹の葬儀に冷淡な態度で葬儀社のスタッフを戸惑わせる女性。保険会社のコールセンターに執拗にクレーム電話をかけてくる男性。施術中の写真をSNSにアップされたと脱毛サロンに訴えてきた女性。一人の書店店員だけにいろいろ訪ねて毎回時間を取らせる高齢女性。カスタマーハラスメントをテーマにした、珠玉の5編を収録した短編集。
ここ最近ホラー作品が続き、そちら方面で活躍している作者で、タイトルや文庫本の表紙もホラーテイストだったが、一編一編ちゃんとした謎解きのミステリ。どれも、日常離れした不可解な行為に隠されていた真実を、その対象となった店員・社員が解き明かしていくというストーリー。 不可解であったり奇異であったりする客の行為行動だからこそ、「それはどんな意味があるのか」という謎への好奇心は高まる。各編50ページほどのコンパクトな作品ながら、ホワイダニットやフーダニットを巧みに編みこんでいる。 奇異な行動の真相という面白さでは「一点さん」、散りばめられた謎の回収の面白さでは「サトリ夫人」 あっという間に読めてしまう短編集だが、粒ぞろいの良質な一冊だった。 |
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| No.1243 | 7点 | ファイア・ドーム- 辻村深月 | 2026/07/29 23:39 |
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| 1994年、L県蒔戸市でデパートの受付嬢の誘拐殺人事件が起きた。犯人は逮捕され事件は終結したが、全国的に注目された事件の熱にあてられた地元民たちは、同時期に蒔戸市で起きた小学生の事故死と誘拐事件を結びつけ、「被害女性が小学生を轢いたのではないか」などという事実無根のありえない"噂"に沸き立ち、それに乗じたマスコミ報道も過熱した。
それから25年、誘拐殺害事件の被害者家族の小学生の息子が、またもや行方不明に。「なぜ、うちばかりが―」被害者家族の苦しみをよそに、再燃する憶測と噂。だが、この事件がやがて過去のすべてを暴き出す― 今、どの書店に行っても作者渾身の一作ということで平積みされている本作。 上下巻計900ページの厚みだが、動的な展開が続く高いリーダビリティで、数日でイッキ読みできる。 <ネタバレ> 25年前の事件で娘(受付嬢)を殺された戌井家の孫息子・光汰朗の行方不明を皮切りに、さまざまな事象が絡み合って展開していく前半、そのことが端緒となって25年前の真相に迫っていく後半と、幾重にも重ねられた構成の面白さは見事で、「一粒で何度もおいしい」展開にはなっている。 光汰朗が発見された際の「勘違い」と、その真犯人の意外性はなかなかで、そからさらに蒔戸市の物語が深化していく筋書きは素晴らしかった。 登場人物の衝撃や怒り、痛切な思いを描く心情描写が連発され、さまざまな言い回しを駆使しているところはさすがだが、あまりに頻度が高いためだんだん重みが薄れてくる(慣れてきてしまう、食傷気味になってしまう)感じはあったが、最後まで力のあるストーリーだったことは間違いない。 “無責任で暴力的な噂”という本作のメインテーマに、大人の噂や風評に惑わされず友情を育んでいく小学生たちの物語や、新聞記者や刑事の矜持の物語などさまざまな物語が付加されることで、非常に厚みのある一作となっていた。 ただ、「デビュー22周年記念」って… 笑 |
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| No.1242 | 8点 | ハウスメイド3 最後の秘密- フリーダ・マクファデン | 2026/07/26 21:05 |
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| 元ハウスメイドのミリーは、今ではソーシャルワーカーに職を変え、結婚して2人の子どもをもつ。夫のエンツォと郊外に念願の一軒家を購入し、新しい生活に胸を膨らませていた。だが、向かいの家にはいつもこちらの様子を見張っている詮索好きのシングルマザー、隣家の夫婦の妻・スゼットは、夫のエンツォに周りを憚らずに色目を使う。人の好いエンツォが、スゼットのアプローチに悪気なく応じる様にやきもきする日々を送っていた中、事件は起きる―
1作目で"反転"により読者の意表を突き、2作目では1作目で明らかになった設定を生かしながらも仕掛け、さて3作目は…と思って読んだが、これまたまったく違った作りで面白かった。 そもそも今回はミリーは"ハウスメイド"でもない。結婚したミリーの、転居にまつわる"ご近所トラブル"から始まる話はそれ自体なかなかに面白いが、どこに向かっていくのだろう?というさらなる期待が膨らむ。 結果、1、2作目にも通ずる"部屋"の話や、やはりハウスメイドが絡んでくるという巧みな構成にうならされた。 相変わらず登場人物も少なく、リーダビリティも高い。これでシリーズは完結してしまうということなので残念な気もするが、作者の次のステップに期待したい。 |
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| No.1241 | 5点 | 怪物を捕らえる者は- ネレ・ノイハウス | 2026/07/26 20:38 |
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| 雪の下から16歳の少女の遺体が発見された。遺体や服から移民の青年のDNAが見つかるが、刑事オリヴァーとピアが事情聴取をする前に彼は失踪してしまう。数日後の夜には、田舎道である男が車にはねられて死亡。男は裸足で、体には動物に咬まれた傷や拷問の痕が。一体どこから逃げてきたのか──。
無関係に見えたふたつの事件がやがてつながり、ドイツ警察を揺るがす最悪の真相に── <ネタバレ> 本作の一番の爆弾は、長年本シリーズで同僚として登場してきた人物の信じられない“裏切り”だろう。シリーズを愛読している読者には慣れ親しんだ登場人物を切って捨ててしまう潔さは日本の作品にはあまりないような気がする。 物語中盤のそのあたりが一番のヤマ場で、冒頭の「少女殺人事件」の真相は、あれだけ捜査を組織的に進めていたのに?というような単純なものだった(それが落とし穴で意外といってしまえばそれまでだが…) 巻頭の登場人物に49人(!)も名前が挙げられていて、多くの木に埋もれた中から「この人だった」と種明かしをしているだけのような感じ。 だいたい、被害者遺族も含めて事件関係者にはすべてアリバイを確認するものなのではないの・・・? 作品を経るごとに厚みが増していっている本シリーズだが、ここまで長くする必要があるかな…とちょっと思い始めてる。 |
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| No.1240 | 5点 | 滅茶苦茶- 染井為人 | 2026/07/20 22:06 |
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| 仕事は順調、東京でシングルライフを謳歌する30代女性が始めた不穏な恋愛。下校中、不良に堕ちた元級友に再会した、とある北関東の高校生。老朽化したラブホテルを継ぐが、コロナ給付金が職種ではじかれ社会不満が募る中年男。
コロナ禍の中、三者三様の“転落”が向かう先は… <ネタバレ> 三つの物語はそれぞれに面白く、十分にリーダビリティは高い。その三つがどう交わるのか…と思って読んでいたが… 完全に奥田英朗の「〇〇」と同じでは…?トレースしているって言っていいぐらい。 うーん。これってアリなのか? |
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| No.1239 | 7点 | 家族- 葉真中顕 | 2026/07/20 21:56 |
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| 東京・八王子の分譲マンション最上階、1フロアを独占するペントハウスには、血縁に関わらず集まった人たちが自らを「家族」と称して住んでいた。その家長は、夜部瑠璃子という女性。いつもどぎついピンクの服を着ている肥ったその女性は、陰で”ピンクババア”と呼ばれ、警察も忌避している存在だった。だが、あるときその家から逃れ、助けを求めてきた女性から、その「家族」の恐ろしい実態が明らかにされていく―
時折ニュースになる、"洗脳”による支配から起きる犯罪。一般人には、「なんでそんなこと起きるの?警察に駆け込めばいいのに…」と思ってしまうのだが。本作はそんな洗脳支配を題材にした作品。 犯罪集団は捕まり、警察による取り調べが進む件は割と早くくるため、さらに奥があることがわかる。 物語終盤に、その結末を匂わせる場面があるのだが、果たして…真相はいかに、という終わり方。 何にせよ相変わらずの筆力で、ぐいぐい読ませる力がある作品。 |
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| No.1238 | 7点 | 素敵な圧迫- 呉勝浩 | 2026/07/20 21:40 |
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| 趣向もタイプもそれぞれの、乱歩賞作家・呉勝浩のバラエティ短編集といったところ。
やはり地力がある作家さんなので、どの作品も面白い。シリーズ短編集じゃないぶん、「次の話はどんなカンジ…?」とかえって楽しめる。 三億円事件をモチーフにした「ミリオンダラー・レイン」、パラレルワールドを題材にした「パノラマ・マシン」のラストが印象的だった。 長編を読む合間に肩の力を抜いてミステリを楽しみたい…というときにオススメ。 |
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| No.1237 | 8点 | 777 トリプルセブン- 伊坂幸太郎 | 2026/07/12 20:54 |
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| 日常的に不運に見舞われる"体質"の殺し屋・七尾、通称「天道虫」。今回も、「ホテルにプレゼントを届けに行くだけの簡単な任務」と言われていたのに…ホテル内で起きている、裏稼業(殺し屋)の業務とその標的の戦いに巻き込まれることに。一つのホテルで起きている、数々の殺し、殺されの戦い。混沌としながらも、息を吞むようなバトルの行きつく先は―
「AX」以来の、久しぶりの「殺し屋」シリーズ。前作は一人の殺し屋の「足抜け」を主軸にした、人間ドラマ的な側面も色濃い名作だったが、今回はシリーズ本来の「殺し屋活劇」の雰囲気が戻った感じ。 何もかもが裏目に出る、絶対的な不運の持ち主"天道虫"のキャラクターを生かしながら、渋滞状態と言ってもよいホテル内の殺しバトルは、章転換のタイミングも絶妙でページを繰る手を止めさせない。作者のよさが存分に出ている。 真の敵と対決するラストに明かされる真相はなかなかの想定外で、その仕掛けにも素直に楽しまされた。殺し屋の話でありながら、ダークなトーンに仕切らない結末もさすがで、とてもよかった。 にしても、結局"天道虫"は強いなぁ… |
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