虫暮部さん |
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平均点: 6.23点 | 書評数: 1474件 |
プロフィール | 高評価と近い人 | 書評 | おすすめ
No.44 | 6点 | 魔術の殺人- アガサ・クリスティー | 2023/05/19 13:07 |
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事件発生前から現場に滞在しているミス・マープルも当事者の一人であって、彼女の心が揺れ動いている感じが興味深い。いつもは “途中から首を突っ込んでくる部外者” じゃない? 彼女が来た途端に事件が発生したようにも見えるので、視点が違えば容疑者の一人かも。
しかし事件の真相を踏まえて顧みると、何だか不条理な設定である。“妹の様子が心配” と言うのは、物語開始の時点では未だ為されていない偽装工作だよね。 それに事前に言及している姉が実は共犯者で、ミス・マープルを送り込んだのは現場を攪乱する側面的な支援だったのかも(笑)。存在しない毒殺計画を暴いてしまったミス・マープルは無自覚なまま工作の手助けしているわけだから、あとで自分のマッチポンプに気付いて頭を抱えたんじゃないだろうか。この間違え方が面白い。 「どうして、先生は島に呼ばれたのでしょう?」 「メタな話はやめなさい」 (森博嗣「ゲームの国」) |
No.43 | 8点 | 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー | 2023/03/24 12:41 |
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はっきりと伏線が示されていたのに何故気付かなかったのだろう。
それぞれ方向性の違う子供達のキャラクター、その更に異分子である車椅子のフィリップの存在感も良い。心情描写が交錯して、こんなに書いちゃって矛盾しない真相に着地出来るのか? と心配になったが、この視点の変遷が面白く、シリーズ探偵を起用しなかったのは正解。 以下ネタバレ。 クリスティー文庫版解説で指摘されている、“犯人は真相を暴露して自分の罪状を軽くしようとするのではないか” と言う件について。 これは状況が或る種のチキン・レースになっているんだね。 暴露してしまうと、罪状は軽くなっても、家族の中の元のポジションに戻って遺産を受け取ることはまぁ出来ない。一方、アリバイ自体は本物なのだから、自分が頑張っているうちに証人が出頭すれば晴れて無罪放免でポジション復帰が出来る。何故か未だ証人は見付からないが、それは明日かもしれない……。 なかなか難しい判断だろう。六ヶ月程度では思い切れなかったのも不自然ではない、と私は思う。 但し、あくまで故人の心情なので、作者としてはこの苦悩を描く視点を確保出来なかったのかもしれない。 |
No.42 | 7点 | 動く指- アガサ・クリスティー | 2022/12/08 13:06 |
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静かな田舎の村、にしては情緒不安定な人が沢山住んでいるな(妹だって随分だ)。台詞の端々に危うさが感じられるのだが、語り手はシレッと流し、それがまた可笑しみを増幅する。事件の謎よりも、その語り口で大いに楽しめた。メタ・ユーモア・ミステリ? まぁ曲解は読者の権利である。ラストは冒険し過ぎで、ジェリーの憤りも当然だろう。 |
No.41 | 5点 | 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー | 2022/09/21 12:31 |
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メインのトリックは面白いし、アレに誰一人気付かないこともあり得ると思う。しかし犯人の心理や行動が今一つ不自然で、作者は相応しい状況を設定し切れていないのではないか。
トリックを使ったせいで → ポアロが召喚され → 真相が暴かれた。皮肉な因果関係が本作は特に際立っている。 |
No.40 | 6点 | マギンティ夫人は死んだ- アガサ・クリスティー | 2022/09/08 13:52 |
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ちょっと入り組んでいるが、真相は面白いと思った。“そんな程度で殺すか?” と言う動機に対して、“犯人にとっては【そんな程度】じゃ済まないんだ” と外堀を埋めてあるところが良い。
ポアロとベントリイ容疑者の一度目の会見が省略されている。書き忘れ? マギンティ夫人の、写真の件に対するスタンスが曖昧。秘密にしてちょっとした恩恵に与ろうとしたのか、ゴシップのスピーカーなのか、ポアロが矛盾した説明をしている。 使用人が何人も登場するのにほぼ “背景” 扱いで、事件の捜査対象は雇う側の人ばかり。ACの保守的な階級意識はいつものことだが、被害者が使用人だと目立つな。 |
No.39 | 5点 | パーカー・パイン登場- アガサ・クリスティー | 2022/08/09 12:24 |
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前半、お悩み相談編。ヴァリエーションに乏しい。これから色々搦め手を考えるんでしょ、ってところで投げ出しちゃったか。
後半、トラベル・ミステリ編。使い回しのプロットでも、探偵役を変えれば趣向も変わる。良くも悪くも。 差別化を考えるなら、前半をもっと発展させるべきだったか。後半の探偵譚で、パーカー・パインをどっちつかずのキャラクターにしてまでこのシリーズに組み込む必然性のある話は、辛うじて最終話くらい。 固有名詞の片仮名表記の基準には意見が多々あるだろう。「困りはてた婦人の事件」。ダンサーの名前 Juanita は “ジュアニータ” でなく “ファニータ” が良いのでは。スペイン系。翻訳は不便。 「ナイル河の殺人」。Death on the Nile だから、実はあの長編と同題だ。翻訳は便利。 |
No.38 | 5点 | 予告殺人- アガサ・クリスティー | 2022/07/26 16:54 |
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ACの割とよくあるパターン、しかも私があまり好きじゃないタイプ。
こんな広告がシレッと掲載されちゃう。00年代日本の某作では、公序良俗に反する広告の為に社員を抱きこみ、彼が馘首される前提でその後の生活費として大金を投じていたものだが。 三人目が殺される場面で、被害者はこの人が怪しいと気付いていたのに何の警戒もしていない。この場面は不要では。 パトリック・シモンズといえばザ・ドゥービー・ブラザーズのギタリストと同姓同名。作者には何の責任も無いが、違和感ありまくり。 |
No.37 | 7点 | 満潮に乗って- アガサ・クリスティー | 2022/07/16 11:59 |
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基本設定が面白いし、状況の変化に応じた各人の対応も説得力がある。確かに題名通りの潮汐の流れ。もう少しロザリーン寄りで描いて欲しかったところ。お金の氾濫に飲み込まれても、人生に求めるものは人それぞれ。でもラスト、あの男でいいのかな~?
第二篇の6章。“医学的検証というのが~まちがいだらけなんです”――謎解き用のデータとして、検死結果にミスは無いのが御約束なんだから、ミステリでソレを言うのは危険だよアガサさん。 |
No.36 | 5点 | 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー | 2022/07/02 15:36 |
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もっと変な話を期待していたんだけどなぁ。
その意味で “死者への歎願文” は素敵なガジェット。なのにその後の展開には絡まず勿体無い。 使い慣れた駒に目新しい背景を切り貼りしたところ、ギャップが悪目立ちしてしまった。違和感は最後まで消えず、不器用だなぁと思った(褒めてない)。 |
No.35 | 5点 | ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー | 2022/06/04 13:45 |
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殺人以前は流れに乗り切れなかった。この手の作品は、そこでキャラクターを把握しておかないと、後半の機微も読み取れないんだよね……。
要するに、犯人としてはしっかり考えたつもりでも、実際は隙のある計画だったと。そういう設定は作者の匙加減でどうにでもなり、私は好きではない。しかし本作、キャラクター的にソレをやりかねない犯人だと言う気はする。 原題は The Hollow だから“うつろな人々”。うむ、確かにそういう話だ。“わたしたちはみんな、ジョンに比べれば影なんです”。 5章(クリスティー文庫版81ページ)。“二叉路”とあるのは誤訳、と言うより日本語のミス。 6章。“小さな田舎の駅だが、前もって車掌に言っておけば急行を停めてくれる”。牧歌的で素敵なシステム! |
No.34 | 7点 | ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー | 2022/04/26 13:19 |
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レディ・トレシリアンなる古い考え方の石頭キャラが、ACの手に掛かるとそこそこの好感度と共に読めてしまうのが不思議。
3章の8。トマス・ロイドがバトル警視に仄めかす “考えられる唯一の人物には、あの殺人を実行するのは不可能だった” って誰のこと? そしてその後、警視がテッド・ラティマーについて語るが、いつ彼のことをそんな風に知った? 計画の概要とか偽の手掛かりとかEQみたい。 |
No.33 | 7点 | NかMか- アガサ・クリスティー | 2022/04/23 12:48 |
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誘拐事件の真相が判ってみれば、知らなかったとはいえ残酷な成り行きに皆で手を貸してしまったんだな~、と言う点が最大のインパクト。
主にタペンスのせいでふわふわした漫画的なイメージ(悪い意味ではない)。背景の政治的設定とかよく判らないがどうでもいい。登場人物は多いけど意外に混乱せず読めた。 |
No.32 | 6点 | 五匹の子豚- アガサ・クリスティー | 2022/03/16 12:06 |
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ミスリードには引っ掛かってたので最後の最後で驚いた。
しかし「藪の中」な構成のせいで話がくどい。手記があるなら対話はいらないな~。 曖昧な記述ながら “被害者の遺産を自動的に妻と子供が相続” とあるが、妻は欠格では。英国の法律では違うの? 十五歳にしては彼女が幼稚だと思うのは偏見だろうか? 飲食物絡みの悪戯は洒落にならない度合いが高い、と言うことは弁える年齢だと思うのだが。真相に関わる要素だから、作者の都合で変なキャラクターにされちゃったような印象も……。 |
No.31 | 4点 | 書斎の死体- アガサ・クリスティー | 2022/02/22 13:45 |
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このトリックは苦しいな~。
あんな嘘が通用するのだろうか? 葬儀の時とか……。 死亡推定時刻がどのくらいの幅で出るかは予測不能だから、朝までアリバイ工作すべきでは? “時間を延ばせないか?”“ノー”と言うやりとりがあったが、医師がもう少し無能だったら容疑者の筆頭だよ(しかも間違った推理で)。 あっ違う、夜更けに帰宅してあっちの彼が死体を発見・通報する想定だったのか。だとしても予測不能なのは同じだし、通報が早過ぎてもアウト。まぁ犯罪に賭けの要素が混ざるのは止むを得ないか。 アリバイの為に一人殺す鬼畜っぷりは高ポイント。 |
No.30 | 5点 | 火曜クラブ- アガサ・クリスティー | 2022/02/09 15:07 |
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ミステリとしてはたいしたことないが会話劇としての良さでまぁ読めた。
「バンガロー事件」と似たケースがアイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』シリーズにあるのは意図的な模倣? と言うか “真相がアレなら相応の手掛かりを示す必要があるでしょう”と指導したかったのかも。ミス・マープルは何故気付けたのか。 「溺死」もミス・マープルの推理の道筋が書かれていないのが残念。野菜売り云々は “もっともらしい(けれど意味が無い)ことを言って煙に巻く” と言うジョークだと思うんだよね。 |
No.29 | 3点 | 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー | 2021/12/29 12:15 |
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何か変だ。
ネタバレするけれども、加害者には被害者の行動をコントロール出来ない。芝居が終わるまで、見ざる聞かざるで隠れていてくれる保証など無い(被害者にしてみれば、様子を窺っていないと邪魔者が去っても判らないし)。 であるなら、被害者が計画を知った上で敢えて殺されたと考えるしかない。惚れた弱みで知らぬフリして殺されてあげよう……しかし、そもそもこんな不自然な計画を立てるか? 被害者が協力しないと成立しないことは、事前に見当が付くのでは? 従って、被害者加害者結託しての、“アリバイ確保の為にこういうトリックで殺されてくれ” “承知したわ” と言う命懸けの殺人劇だった、となる。いや、それなら本人が死体役をやればいいのであって(ポアロは “危険が多すぎる” としてこれを否定しているが、何が危険なのだろう?)、3人目の彼女はいらない。 つまり、その彼女が発案・主導し、一方で共犯者側としては尻尾切りされない保険として彼女にも口だけでなく手を汚させる為にこの面倒なトリックを組み込んだ、と言うことだ。それはそれで驚きの真相ではないか。 |
No.28 | 7点 | 愛国殺人- アガサ・クリスティー | 2021/12/23 12:54 |
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加害者と被害者が同じ歯科医を選んだのは都合の良い偶然?
あと、加害者側にとって、入れ替わりの必然性はさほど高くないよね。どうせ某も殺すんだから(→データのすり替えは簡単なのだから)、と行き掛けの駄賃みたいなもの? 計画が凝り過ぎな気もするが、妻と秘密の生活を “楽しんで” いた加害者の人物像には合っているかも。この連続殺人も楽しかったんだろうな。結末でのポアロとのやりとりも、そう言っているように私には思えた。 |
No.27 | 7点 | 杉の柩- アガサ・クリスティー | 2021/12/02 11:13 |
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第一部の終わりで、真相は読めた、と思った。
だがそれは全くの間違いだった。 私の迷推理を開陳します。 ――M嬢の父が、アレは自分の娘ではない、と言っていた。実はM嬢とR氏は兄妹で、急激に惹かれたのも無意識のうちにそれに気付いていたせい。本人達も知らなかった事実にE嬢が気付き(“数々の手紙”に手掛かりが隠れており、看護婦からE嬢にそれが伝わった)、近親相姦を犯させない為に殺害。その内容ゆえに、動機については沈黙を守っている……。 あと、薔薇の種類が何であれ、トリックの成否とは関係無いし、推理に必須の手掛かりでもない。アレは作者の余計なサーヴィスだと思うな。 |
No.26 | 5点 | おしどり探偵- アガサ・クリスティー | 2021/10/12 10:11 |
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コメディとしてはまぁ面白い。
ミステリとしての他愛のなさが、時々“ミステリそのものに対する茶目っ気のある批評”に思えなくもない。 探偵の真似をするだけで探偵が出来てしまうなら“本物”とは何ぞや? 作者のこんな声が聴こえる――“皆さん、先進的なら偉いってもんじゃありませんよ” “探偵事務所の内幕なんてこんな程度かもしれないでしょう?” このノリで殺人まで起こってびびる。しかしそれもまた或る種の批評なのである。 クリスティー文庫版59ページ。“口をつむいでいた” → “つぐむ” と “つむぐ” を混同して活用までするアクロバティックなミス? |
No.25 | 6点 | 殺人は容易だ- アガサ・クリスティー | 2021/07/18 13:18 |
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ラスト4分の1くらいで表面化する、某氏の異様な自己認識(『 DEATH NOTE 』みたい)について、もっと読みたかった。
因みに私は、真犯人は秘かに某氏を愛していて、某氏の視線から“この者を殺せ”とのメッセージを(勝手に)読み取って実行しているのかな、ディープなラヴ・ストーリーだな、と推理したのだが……。 |
虫暮部さん
- ひとこと
- 好きな作家
- 泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
- 採点傾向
- 平均点: 6.23点 採点数: 1474件
- 採点の多い作家(TOP10)