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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.188 8点 桃ノ木坂互助会- 川瀬七緒 2014/08/05 20:23
 三人称で、作者側からの自分ツッコミを排して読者に突っ込ませる構成が、自覚無しにエスカレートしてゆく登場人物を巧みに浮き彫りにしていると思う。沙月にあっさりほだされた自分は甘いだろうか。

No.187 8点 追憶の夜想曲- 中山七里 2014/08/05 20:21
 被告人が自分の人生を懸けてまで秘密を隠し通そうとするのは納得出来るし、そこまでのものを裁判では冷たく暴かねばならないのかと思う。しかし秘密のままでは他者にその重さは判らないしねえ。犯人の精神的なケアも出来ない。自殺しないか心配だ。

 ネタバレするが、ひとつ気になった点。死体をブルーシートに載せて浴室を掃除していたとき、亜季子は裸だったのか服を着ていたのか。明確に書かれていない気がするんだけど、私の見落とし? でもこれ重要でしょう?
 “真相”として説明されたように、殺人現場を発見して慌てて片付けを図ったなら、着衣のままでも心情的におかしくはない。
 しかし“検察側の主張?”のように、返り血対策に裸になってから被害者を刺したのに、掃除の時にはわざわざ服を着た(150ページ)というのは、ありえないとは言い切れないが、行動としてやや矛盾している。
 つまり、読み終えた後で思い返すと、“裸か着衣か”は事件前後の亜季子の心の動きを読み解く上で重要なように感じるのだが(勿論決定的な証拠になるようなものではないが)、その点を登場人物の誰も指摘しなかったのは作者の恣意的な省略のように感じるのだ。

No.186 4点 三人目の幽霊- 大倉崇裕 2014/07/30 11:11
「不機嫌なソムリエ」は変だね。すり替えが成功すればコトは露見しないのだからアリバイは必要無い。アリバイ工作のせいですり替え作業に時間制限が生じたのでは本末転倒である。

No.185 7点 冬空トランス- 長沢樹 2014/07/28 20:12
 要するに学園ハーレム小説を書きたいだけかっ? と一喝したくもなるが、それはそれでアリだな。脱ぎ魔の小和ちゃんをもっと乞う。
 この作者はどうも必要以上に描写が判りづらく、読者としてはどっち方向を向いて読めばよいか迷うところがある。叙述トリック的な要素もあるだろうが、“問題編”というか、具体的にどういう謎が提示されて、どの部分がポイントになっているか、をもう少し判り易く整理してくれると良いのだけど。
 例えば“水をどうにか処理しないと機材全滅”ということをもっと早く明言しておいたほうが、読者はより長い間、その謎を踏まえて読み進められるのだ。私の読解力の問題?

No.184 5点 偽恋愛小説家- 森晶麿 2014/07/24 18:22
 これは自分にはちょっと合わなかったかな。皮肉が効いてて面白い部分もあったけど。

 第一話のハイヒールは再現VTRの中のものなので、手掛かりとしての信憑性が保証されてはいない。

 第二話。“異母兄妹”のところをさらっと流し過ぎ。妹が実父の身許を知っているということは、彼女は承知の上で兄と結婚しようとしたってことになる? 財産目当てなら、実父の娘だと名乗り出れば済むことでは。

 私は、“ひとは個人差があるだけで男女に本質的な差は無い”という意見なので、“女は誰も××××なものだ”といった類の文言には共感出来ない。恋愛絡みの文章に良く出て来るけど、本書にもちらほらと。

No.183 9点 満願- 米澤穂信 2014/07/22 11:02
非常に粒揃いの短編集。そしてどの作品も後味が悪い、というところが素晴らしい。
 “漢字表記の名詞ひとつ”という形で統一されたタイトルが、ネタを真ん中にドンと出してこれでどうだ! という感じで効果的。収録にあたって改題したものがあるから、この漢字だけの目次は意図されたものだろう。 

 敢て突っ込むなら、「関守」のラストで発生する人違いに根拠というか伏線が欠けているのでは。あそこだけ唐突に感じた。

No.182 6点 ドラゴンフライ- 河合莞爾 2014/07/17 14:21
色々工夫しているのは判るが、どうも不自然な感じが拭えない。事件の全体像も、その露見の仕方も。警察の捜査体制にしてもえらく自由にそして偏って動いているなと。
 ただし、自分が幾つものレッド・へリングにひっかかって振り回されたことは申告しておきます。

 それはともかく、時の流れを実感したな~。自分の場合、“時効が成立した殺人”といえば、戦後の混乱期とか高度成長期とかに発生した事件、という印象だが、本作では(というか現実では)'90年代初頭、携帯電話も普及し始めた頃の事件がもう時効。ポケベルについてもいちいち説明が必要なんだね……。

No.181 6点 人魚姫- 北山猛邦 2014/07/16 20:17
ファンタジーの要素が混ざることで、ベタな成長物語も正面から描いてOKになるものだなあ。感動した自分に驚いた。でも思い切った物理トリックには笑ってしまった。

No.180 6点 屍の園- 篠田真由美 2014/07/16 20:17
面白かったことは確かだが、桜井京介シリーズである必然性が希薄、と感じた。あの大きなシリーズを背景に持つことで幾らかの厚みが加わるプラスは確かにあるが、愛読者としては一度きちんときれいに完結したシリーズを引っぱり出すことに対する心情的なマイナスというのもあり、合わせるとマイナスのほうが若干強いかなと。
 せっかくの新作に古いラベルを貼るのはもういいよ、というのが正直な気持。

No.179 6点 上石神井さよならレボリューション- 長沢樹 2014/07/07 12:08
あまりにあざといキャラクター群、ではあるが、これが楽しめないようなつまらない大人にはなりたくない。

No.178 8点 そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー 2014/07/02 20:13
 20年ぶりくらいに再読。おおまかな流れは覚えていたけれど、しっかり楽しめた。
 気になったのは、彼等の“罪状”である。私見を述べると、少なくともミス・ブレント(使用人を解雇しただけでしょう?)、マッカーサー将軍(私情を挿んだのは褒められたことではないが、戦争中であり誰かが死を覚悟で危険な任務に就かねばならなかったのでは)、マーストン(彼の事例はあくまで事故。道徳心に乏しいという理由で罰を上乗せするのが公正だとは言いがたい)を死刑に値すると見做すのは厳し過ぎる、と思う。他の者もそんな極悪人揃いというわけではないし。

No.177 7点 萩原重化学工業連続殺人事件- 浦賀和宏 2014/06/30 10:43
本作の中核をなす大ネタのひとつ(祥子の運用法)には、実は複数の先行例がある。私は少なくとも4つ知っている。パクりだということではないよ。ただ、本作を最初に読んだなら、その衝撃はいかほどのものだったか、と思うと残念。まあ、そこ以外にもポイントならいくつもあって、分厚いのは決して虚仮威しではない。しかしやはり張り込み中にキスはいかんね。

No.176 5点 希望(ゆめ)のまちの殺し屋たち- 加藤眞男 2014/06/26 20:02
警察の動きが非常に恣意的で嘘っぽいな~。ミステリというよりは、魔法の出て来ない日常のファンタジーみたいなもの。軽く読み流す分には良いが、それ以上の過大評価は避けたい。

No.175 6点 弔い花 長い腕Ⅲ- 川崎草志 2014/06/24 11:12
“問題編”に該当する部分の盛り上がりがないまま、いつの間にかクライマックスになだれ込んでいた印象。複数の時系列をめまぐるしく交差させすぎ。あと源田があっさり引いたのが意外。
 屋敷の構造が住人に与える長期的影響、と言ったあまり明確ではない因果関係をこういう風に扱うミステリはアリだと思う。似ていると言う意味ではないが、ちょっと京極夏彦を連想したり。

No.174 4点 点と線- 松本清張 2014/06/24 11:11
 これのどこが “リアル” で “社会派” な “秀作” なのか良く判らないなあ。トリックに明らかなミスが含まれるわけで、これを “代表作” 扱いするのは、売れたと言う “現象” を反映した部外者の意見ではないのか。登場人物も将棋の駒みたいな動きだし。やけにのんびりした捜査に思えて、昭和30年代の風俗小説としてはちょっと面白かった。

No.173 6点 シンクロニシティ- 川瀬七緒 2014/06/16 12:32
謎解きの為の手掛かりがしっかり示されている類のパズラーではないが、“虫の知らせ”で事実が明らかになってゆく様にはカタルシスを感じた。しかし、法医昆虫学によって謎が解かれるストーリーにしようとするあまり、設定が不自然になっているとも思う。

 ネタバレありで書くけれど、死体を移動させた理由は強引。
 更に、加害者の結び付きについて。笛野が待ち順の操作を行わなければ、竹田の娘が殺されることはなかった。従って、瑞希が他のふたりに行く筈の心臓を横取りしたというわけではない。ふたりのドナーが現われなかったのはそれとは別件であって、この加害者の組み合わせが成立する心情は(冷静に考えるなら)八つ当たりのようなものではないか。

No.172 5点 呪い唄 長い腕Ⅱ- 川崎草志 2014/06/12 17:58
えーと、具体的にどういう事件の話だっけ? と思い返しても上手くまとめられない。なんだか不定形な印象のストーリー。平行して語られる江戸時代の話のほうが面白かった。けれどそれはマイナス評価の意味ではなくて、問題編・捜査編・解決編みたいなパターンに則るのではなくじわじわといつの間にか浸透する違和感は寧ろ新鮮なミステリ体験。

No.171 5点 ムカシ×ムカシ- 森博嗣 2014/06/10 19:30
この作品、ホワイダニット部分を軸にして別の書き方をすればもっと面白くなったのではないかという気がする。事件に対して変なポジションから中途半端に関わっているキャラクターの様子がメインで、殺人事件のほうがサイド・ストーリーになっているのは、作者が斜に構え過ぎ。なんだか勿体無いな~。

 樋口一葉とは実質何も関係ないわけで、だったら“一葉”というネーミングを持ってくる必然は無かったのでは。何か知っている人には通じるようなネタがある?

 ところで、夫婦がほぼ同時に、しかし詳細の判らない状況で死んだ場合、相続はどうなるのか? 死んだ順番で相続の内容は変わる。そのあたりに作中で言及していないのは手落ちだと思う。(後日追記:「同時死亡の推定」適用で相続は行われない、でいいのかな?)

 あと、leaves の発音はリーブ「ズ」なので名前の暗号は成立していない。

No.170 5点 ドS刑事 三つ子の魂百まで殺人事件- 七尾与史 2014/06/10 19:29
例えば被害者に関する説明が殆ど無い等、所詮レッド・へリングに過ぎないお約束的要素をダラダラ並べても退屈だ、とでも言いたげにここまでざっくりと割り切った書き方というのは、それはそれで形式化したミステリに対するひとつの批評になっているのだろうか……?

No.169 6点 147ヘルツの警鐘- 川瀬七緒 2014/06/10 19:27
薀蓄として面白いし、ストーリーもなかなか読ませる巧みな筆致である。赤堀のキャラクターは“エキセントリックな専門家”としてパターン通りだし、諸々の事柄が少々都合良くつながりすぎではという思いは否めないが、まあ許容範囲内。しかし本書の法医昆虫学関連のネタはどの程度リアリティがあるのだろうか。実際にこんな手法がアリだったら、今後の警察(が登場するミステリ)小説は大幅な刷新を求められるのでは。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1848件
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