皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 2075件 |
No.415 | 7点 | 濱地健三郎の霊なる事件簿- 有栖川有栖 | 2017/11/30 12:28 |
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特殊な設定のシリーズ短編集、ではあるが、いつもの有栖川作品とさほどテイストは変わらないように思う。これは良くも悪くも、であって、もう少し斬新な新機軸という感じがあっても良かった気がする。
敢て突っ込むならば、「霧氷館の亡霊」の事後処理について。“ロシアン・ルーレットの当たり”がひとつだけである保証はないわけで、万全を期すなら全て処分するしかないのでは。 |
No.414 | 8点 | 水上のパッサカリア- 海野碧 | 2017/11/28 14:02 |
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的確な読点で矢鱈と長いセンテンスを妙にリズミカルに読ませる非エンタテインメントな文体は個人的にとてもツボ。それが語り手のキャラクターやストーリーと合致して、良い意味での違和感を生み出した。ハードボイルドのパスティーシュのつもりが、レヴェルがあまりに高いので本家の高みに届いちゃった、と言う感じ。
但し、ネタバレになるが、いくら狐と狸の化かし合い的な世界でも、某作戦が丸ごと虚偽という内幕は、私は好きではない。そこまで仕込んでも割に合わないんじゃないの?そこが惜しい。 |
No.413 | 7点 | 帝王死す- エラリイ・クイーン | 2017/11/28 13:58 |
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特殊かつ限定的な状況を作る為の工夫が面白い。不可能犯罪の魅力的な様相に比して真相はたいしたことないし、帝王一族以外のサブ・キャラクターがあまり生かされていないきらいはあるが、話としては結構好き。 |
No.412 | 7点 | 死屍累々の夜- 前川裕 | 2017/11/28 13:57 |
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犯罪恐怖小説との謳い文句の通り、ミステリ度は高くないが、ひとの不安定な心をジワジワ侵食するさまが気持悪い。って褒め言葉です。
問題の人物が最後まで矛盾を抱えた謎のままだし、その割にカリスマ性めいたものはあまり感じ取れない。ラストに大きなどんでん返しがあるわけではない。と言った物足りなさはあるが、一方でその計算され切っていない感じが妙なリアリティにつながってもいる。 |
No.411 | 7点 | 少女ノイズ- 三雲岳斗 | 2017/11/28 13:56 |
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色々とあざといなぁ、と思ったけれど、そういう事柄は有効性が高いから多用された結果としてあざといものに成り下がってしまうのである。キャラクターものとして読むなら悪くない。出番は少ないけど皆瀬准教授が好き。
ミステリ的にはいまひとつで納得し切れない部分がある(事後従犯に何故その人物を選んだのか?自販機の罠は目的にそぐわないのでは?)。 |
No.410 | 6点 | 僕のアバターが斬殺(や)ったのか- 松本英哉 | 2017/11/22 11:08 |
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仮想空間での殺人が現実化するという魅力的な謎。それに関するトリック(と言うかホワイダニット)のあまりのつまらなさ。こんなので良いのかとびっくりした。強引な物理トリックを持ち出すほうがまだましだ。
前半はそれなりに面白かったし、謎解き部分の一行で目の前の景色がガラッと変わってああ成程、というところもあったけど。 |
No.409 | 5点 | オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン | 2017/11/21 11:48 |
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手掛かりの靴がわざとらしい。推理する前に関係者の足のサイズを調べないでいいのか。
捜査が余りプロっぽくなくて、第一の事件ではエラリーが好き勝手に仕切っている印象だし、その反面第二の事件ではたいして調べないうちにあっさり意気消沈している。 エラリーとジューナのシーンがBLみたい。 |
No.408 | 10点 | 乱れからくり- 泡坂妻夫 | 2017/11/21 11:47 |
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何度読んでも腑に落ちないことがある。ネタバレありで書いてしまうが、毒のカプセルのトリック。あれは犯人にとってどういうメリットがあるのか(薬の中に毒を一錠混ぜるのと何が違うのか)。出処を探られたら自分に直結する証拠品のカプセルが警察の手に渡るのはやはりリスキーでは。薬瓶の中身が掏り替えられたのは被害者が死ぬ前一日以内、と誤認させられるのでアリバイ工作になる、と言うこと?作中で明確な説明が欲しかった。
という不満はあるが、とても大好きな作品。全編を貫く騙しの美意識がなんとも愛おしい。 |
No.407 | 5点 | 首なし男と踊る生首- 門前典之 | 2017/11/21 11:45 |
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“殺人計画書”の心理描写はまぁ楽しめた。密室トリックは漫画にすればまだ見映えがするかも。「だいたい人の顔って生首の状態では見ることはないだろう」という台詞には笑った。
しかしそれ以外は、色々強引だし、文章も拙いし、あまり評価出来ない。島田荘司の失敗作、と言う感じ。ソレを言っちゃあオシマイよ? |
No.406 | 5点 | ウィズ・ユー- 保科昌彦 | 2017/11/21 11:44 |
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前半は面白かったが読み終わってみると期待外れ。ミステリとして精密な感じではない。仮想空間を扱った小説はよく見かける昨今、特に傑出しているとも言えない。それなりに筆力のある作家だとは思うが、今作ではあまり上手い形にまとまらなかったようだ。 |
No.405 | 8点 | 屍人荘の殺人- 今村昌弘 | 2017/11/13 09:53 |
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わははは。こんな手があったとは。
とても面白かった。諸要素が上手く噛み合って、“怪作”にとどまらない立派な本格ミステリに仕上がっている。 気になった点は、犯人の動機に関わること。男女間のいざこざで自殺者まで出るとは随分な話だし、そんな不祥事を招いた合宿をしれっと再度敢行する面々の発想も不思議だ。ほとぼりが冷めるまで待つくらいOBだって考えるだろう。“去年の合宿で撮影中に集団レイプが発生して退学者、自殺者が出た。映像を公開すると脅されて告発出来ない。部長は加害者の一員だったのでOBに逆らえない”くらいの、各人の動きが取れなくなるような鬼畜な裏事情を想像していたんだけど、結構さらっと流しちゃってるね。 |
No.404 | 9点 | 時計館の殺人- 綾辻行人 | 2017/11/08 13:08 |
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館シリーズの中では一番好き。
敢て挙げるなら、撲殺という手段が気になる。実際にやったことは無いのでなんとも言えないが、どのくらい殴れば相手が死ぬのかはなかなかイメージしづらい。腕力も必要だし。作中で一応の説明は施されているものの、それに関して他の選択肢が無いとは思えず強引である。加害者が“殴る”と言う肉体性の強い行為に宗教的な苦行の如き熱狂を覚えていたとか解釈するしかない。時計の針を刺したケースはあるが、最初からナイフを併用するくらいの設定の方が自然な気はする。 ところで、谷山浩子のアルバム『歪んだ王国』に於て、綾辻行人が「時計館の殺人」「気づかれてはいけない」の2曲の作詞をしています。また「王国」では歌声を披露しています。ファン必聴、と言う程ではないけど……。 |
No.403 | 4点 | アノニマス- 野崎六助 | 2017/11/06 10:16 |
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作者の引っ込みが付かなくなってどうとでも解釈出来そうなところへ不時着したような感触。面白い部分もあるが、長さに見合う読書体験だったとは言えない。虚構性を利用してミステリを解体した、と言う点は最近読んだ某長編と共通しているが印象はだいぶ違う。何でもありなものを面白く読ませるには相応のヴィジョンと手並みが必要なのだな~と2編を比較して思った。
ネット上の文章のわざとらしい軽薄さは、意図的なものだと判ってはいても耐え難い(ということは作者の意図が成功しているわけか?)。 ストーリー設定上しかたないとはいえ、何編ものホラー小説が結末やその解釈まで紹介されているのは好ましくない。 (ところで、作品によってはジャンルを明記することがネタバレになっちゃいますね。) |
No.402 | 7点 | 妖女のねむり- 泡坂妻夫 | 2017/11/06 10:15 |
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精緻に組み上げられた幻想的なロマンスとしての評価は出来る反面、愛読者の贔屓目で見ても偶然に頼り過ぎではある。これだけネタがあれば、私でもその気になるだろう。ところでラストがあれでは、死んだ彼女は何だったんだと淋しくなった。 |
No.401 | 5点 | 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン | 2017/11/01 10:10 |
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ルナリアンは12進法。ルナリアンとガニメアンの指の数。両者の間を隔てる二千五百万年の時間。といったあからさまな伏線に全くノータッチなのは続編で回収する為の仕込みなのだろうか?
それはそうと物語中盤、チャーリーの手記とその矛盾が紹介された時点で、月に関する真相は即座に見当が付いてしまった。世界各地で議論が巻き起こりあらゆる種類の新説奇論が氾濫し、との設定にするには難易度が低いと思う。知識の乏しいアマチュアがポロッと思い付いてトンデモ本として出版されそうな説だ。 |
No.400 | 8点 | 完全なる首長竜の日- 乾緑郎 | 2017/11/01 10:09 |
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情感を程好く伝える的確な文章とどっちへ進むのか予測が付かないストーリーに乗せられているうちに世界が溶け出してしまった。なんでもアリなシチュエーションも、そのこと込みで面白ければアリだと私は思う。
難点を挙げるなら、サリンジャーの短編について内容をかなりバラした上で自作品とリンクさせていること。あそこまでバラさないと成立しないレヴェルの引用は控えるべきだと考える。 |
No.399 | 4点 | りら荘事件- 鮎川哲也 | 2017/10/30 12:39 |
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非常に強い既視感。勿論それは鮎川哲也の子供達の作品を沢山読んだせいであって、本作のほうが元ネタである(だからと言って、今読んでがっかりした気持が帳消しになるわけではない)。ミステリとは形式に縛られたスタイルであるとまざまざと感じた。“人間が描けていない”との評は本書にこそ贈られるべきではないか。ポンポン殺し過ぎだ。刑事があまりに牧歌的&無能である点はまぁ大目に見よう。 |
No.398 | 7点 | 一の悲劇- 法月綸太郎 | 2017/10/24 09:02 |
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新本格の作家が誘拐を主題にするなら、このくらい捻るのは当然だよねぇ。一人称の文章の自己批判的な部分は、意図的なものだとしても少々鼻に付いた。事件関係者が限られているので、ダミーの解決編の度に消去法で網が絞られて、真犯人に到達した時にはちっとも“意外な犯人”ではなくなってしまったのが勿体無い。 |
No.397 | 7点 | 美少年椅子- 西尾維新 | 2017/10/24 09:00 |
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遂に今回は明確な謎を伴う事象が姿を消し、前作と次作への橋渡しのためだけで一冊刊行するに至ってしまった。まぁ、謎解き要素の低いギャングものとか警察小説で、レギュラー登場人物の一日を描いて終わり、みたいなのもあるから、それをライトな学園ものに応用するのもアリでしょう。物凄く良い方に解釈するなら、もしかすると、“事件→捜査→解決編”といった定石を意図的に外して、シリーズの一冊ごとにパターンを変えていこうという、ミステリに対する批評を含んだ試みなのかもしれない。私は好きだ。 |
No.396 | 8点 | オーバーロードの街- 神林長平 | 2017/10/24 08:56 |
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介護施設の入所者虐待からスタートして、行為の主体とは、意志のありかとは、とどんどん発展しスケールアップする。しかし延々とディベートで話を広げがちなこの作者にしては、何が進行しているかが明確で、良い意味で判り易いストーリー。最後の喧嘩のシーンはカタルシス満載だし、比較的きちんとまとめて終わっている感じも私には好ましかった。
(どうでもいい感想)大麻良というネーミングでふと思ったのだけれど、英語圏でディックという名前は昨今どういう扱いなのだろうか。 |