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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1953件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.413 6点 僕のアバターが斬殺(や)ったのか- 松本英哉 2017/11/22 11:08
仮想空間での殺人が現実化するという魅力的な謎。それに関するトリック(と言うかホワイダニット)のあまりのつまらなさ。こんなので良いのかとびっくりした。強引な物理トリックを持ち出すほうがまだましだ。
 前半はそれなりに面白かったし、謎解き部分の一行で目の前の景色がガラッと変わってああ成程、というところもあったけど。

No.412 5点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2017/11/21 11:48
 手掛かりの靴がわざとらしい。推理する前に関係者の足のサイズを調べないでいいのか。
 捜査が余りプロっぽくなくて、第一の事件ではエラリーが好き勝手に仕切っている印象だし、その反面第二の事件ではたいして調べないうちにあっさり意気消沈している。
 エラリーとジューナのシーンがBLみたい。

No.411 10点 乱れからくり- 泡坂妻夫 2017/11/21 11:47
 何度読んでも腑に落ちないことがある。ネタバレありで書いてしまうが、毒のカプセルのトリック。あれは犯人にとってどういうメリットがあるのか(薬の中に毒を一錠混ぜるのと何が違うのか)。出処を探られたら自分に直結する証拠品のカプセルが警察の手に渡るのはやはりリスキーでは。薬瓶の中身が掏り替えられたのは被害者が死ぬ前一日以内、と誤認させられるのでアリバイ工作になる、と言うこと?作中で明確な説明が欲しかった。
 という不満はあるが、とても大好きな作品。全編を貫く騙しの美意識がなんとも愛おしい。

No.410 5点 首なし男と踊る生首- 門前典之 2017/11/21 11:45
 “殺人計画書”の心理描写はまぁ楽しめた。密室トリックは漫画にすればまだ見映えがするかも。「だいたい人の顔って生首の状態では見ることはないだろう」という台詞には笑った。
 しかしそれ以外は、色々強引だし、文章も拙いし、あまり評価出来ない。島田荘司の失敗作、と言う感じ。ソレを言っちゃあオシマイよ?

No.409 5点 ウィズ・ユー- 保科昌彦 2017/11/21 11:44
 前半は面白かったが読み終わってみると期待外れ。ミステリとして精密な感じではない。仮想空間を扱った小説はよく見かける昨今、特に傑出しているとも言えない。それなりに筆力のある作家だとは思うが、今作ではあまり上手い形にまとまらなかったようだ。

No.408 8点 屍人荘の殺人- 今村昌弘 2017/11/13 09:53
 わははは。こんな手があったとは。
とても面白かった。諸要素が上手く噛み合って、“怪作”にとどまらない立派な本格ミステリに仕上がっている。
 気になった点は、犯人の動機に関わること。男女間のいざこざで自殺者まで出るとは随分な話だし、そんな不祥事を招いた合宿をしれっと再度敢行する面々の発想も不思議だ。ほとぼりが冷めるまで待つくらいOBだって考えるだろう。“去年の合宿で撮影中に集団レイプが発生して退学者、自殺者が出た。映像を公開すると脅されて告発出来ない。部長は加害者の一員だったのでOBに逆らえない”くらいの、各人の動きが取れなくなるような鬼畜な裏事情を想像していたんだけど、結構さらっと流しちゃってるね。

No.407 9点 時計館の殺人- 綾辻行人 2017/11/08 13:08
 館シリーズの中では一番好き。
 敢て挙げるなら、撲殺という手段が気になる。実際にやったことは無いのでなんとも言えないが、どのくらい殴れば相手が死ぬのかはなかなかイメージしづらい。腕力も必要だし。作中で一応の説明は施されているものの、それに関して他の選択肢が無いとは思えず強引である。加害者が“殴る”と言う肉体性の強い行為に宗教的な苦行の如き熱狂を覚えていたとか解釈するしかない。時計の針を刺したケースはあるが、最初からナイフを併用するくらいの設定の方が自然な気はする。

 ところで、谷山浩子のアルバム『歪んだ王国』に於て、綾辻行人が「時計館の殺人」「気づかれてはいけない」の2曲の作詞をしています。また「王国」では歌声を披露しています。ファン必聴、と言う程ではないけど……。

No.406 4点 アノニマス- 野崎六助 2017/11/06 10:16
 作者の引っ込みが付かなくなってどうとでも解釈出来そうなところへ不時着したような感触。面白い部分もあるが、長さに見合う読書体験だったとは言えない。虚構性を利用してミステリを解体した、と言う点は最近読んだ某長編と共通しているが印象はだいぶ違う。何でもありなものを面白く読ませるには相応のヴィジョンと手並みが必要なのだな~と2編を比較して思った。
 ネット上の文章のわざとらしい軽薄さは、意図的なものだと判ってはいても耐え難い(ということは作者の意図が成功しているわけか?)。
 ストーリー設定上しかたないとはいえ、何編ものホラー小説が結末やその解釈まで紹介されているのは好ましくない。
 (ところで、作品によってはジャンルを明記することがネタバレになっちゃいますね。)

No.405 7点 妖女のねむり- 泡坂妻夫 2017/11/06 10:15
 精緻に組み上げられた幻想的なロマンスとしての評価は出来る反面、愛読者の贔屓目で見ても偶然に頼り過ぎではある。これだけネタがあれば、私でもその気になるだろう。ところでラストがあれでは、死んだ彼女は何だったんだと淋しくなった。

No.404 5点 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン 2017/11/01 10:10
 ルナリアンは12進法。ルナリアンとガニメアンの指の数。両者の間を隔てる二千五百万年の時間。といったあからさまな伏線に全くノータッチなのは続編で回収する為の仕込みなのだろうか? 
 それはそうと物語中盤、チャーリーの手記とその矛盾が紹介された時点で、月に関する真相は即座に見当が付いてしまった。世界各地で議論が巻き起こりあらゆる種類の新説奇論が氾濫し、との設定にするには難易度が低いと思う。知識の乏しいアマチュアがポロッと思い付いてトンデモ本として出版されそうな説だ。

No.403 8点 完全なる首長竜の日- 乾緑郎 2017/11/01 10:09
 情感を程好く伝える的確な文章とどっちへ進むのか予測が付かないストーリーに乗せられているうちに世界が溶け出してしまった。なんでもアリなシチュエーションも、そのこと込みで面白ければアリだと私は思う。
 難点を挙げるなら、サリンジャーの短編について内容をかなりバラした上で自作品とリンクさせていること。あそこまでバラさないと成立しないレヴェルの引用は控えるべきだと考える。

No.402 4点 りら荘事件- 鮎川哲也 2017/10/30 12:39
 非常に強い既視感。勿論それは鮎川哲也の子供達の作品を沢山読んだせいであって、本作のほうが元ネタである(だからと言って、今読んでがっかりした気持が帳消しになるわけではない)。ミステリとは形式に縛られたスタイルであるとまざまざと感じた。“人間が描けていない”との評は本書にこそ贈られるべきではないか。ポンポン殺し過ぎだ。刑事があまりに牧歌的&無能である点はまぁ大目に見よう。

No.401 7点 一の悲劇- 法月綸太郎 2017/10/24 09:02
 新本格の作家が誘拐を主題にするなら、このくらい捻るのは当然だよねぇ。一人称の文章の自己批判的な部分は、意図的なものだとしても少々鼻に付いた。事件関係者が限られているので、ダミーの解決編の度に消去法で網が絞られて、真犯人に到達した時にはちっとも“意外な犯人”ではなくなってしまったのが勿体無い。

No.400 7点 美少年椅子- 西尾維新 2017/10/24 09:00
 遂に今回は明確な謎を伴う事象が姿を消し、前作と次作への橋渡しのためだけで一冊刊行するに至ってしまった。まぁ、謎解き要素の低いギャングものとか警察小説で、レギュラー登場人物の一日を描いて終わり、みたいなのもあるから、それをライトな学園ものに応用するのもアリでしょう。物凄く良い方に解釈するなら、もしかすると、“事件→捜査→解決編”といった定石を意図的に外して、シリーズの一冊ごとにパターンを変えていこうという、ミステリに対する批評を含んだ試みなのかもしれない。私は好きだ。

No.399 8点 オーバーロードの街- 神林長平 2017/10/24 08:56
 介護施設の入所者虐待からスタートして、行為の主体とは、意志のありかとは、とどんどん発展しスケールアップする。しかし延々とディベートで話を広げがちなこの作者にしては、何が進行しているかが明確で、良い意味で判り易いストーリー。最後の喧嘩のシーンはカタルシス満載だし、比較的きちんとまとめて終わっている感じも私には好ましかった。
 (どうでもいい感想)大麻良というネーミングでふと思ったのだけれど、英語圏でディックという名前は昨今どういう扱いなのだろうか。

No.398 7点 失われた過去と未来の犯罪- 小林泰三 2017/10/17 08:52
 全体的にそこまで“犯罪”という要素を前面に出した話ではないので、このタイトルはどうなのか。期待したほどミステリ寄りではない。
 双子の姉妹のエピソードは「双生児」(『完全・犯罪』収録)と同じ基盤を別方向に発展させたもの、だよねぇ。面白くはあるがこういう使い回しは感心しないなぁ。 
 と、引っ掛かる点はあるが、論理の積み重ねがいつの間にか歪でスラップスティックな情景を作り出す手法は粘着質な作者ならでは。“記憶”というテーマは小林泰三SFの特質に合っているのだろう。但し本作はグロ抜き。

No.397 8点 少女は夜を綴らない- 逸木裕 2017/10/16 12:58
 こういう、殺伐とした青少年の心象を描いたミステリは好き。その手の話ではどうしても定番になってしまうネタ、といったものはあるわけで既視感を覚えた部分もあるが、それでも尚、良く出来ていると思う。
 イヤな事柄を本当にイヤな感じで書くのが巧み。適度に意外でテンポの良い展開でページを繰らせ、なかなか説得力の有る落とし所に上手く着地している。難を言えば、ボー研の後輩のキャラクターが薄い(ので、後半いきなりしゃしゃり出て来た印象)。
 私は読みながら『オーダーメイド殺人クラブ』(辻村深月)を思い出していたが、本書の方をより高く評価する。

No.396 4点 ダマシ×ダマシ - 森博嗣 2017/10/12 13:17
 今に始まったことではないが、思い付きだけで場当たり的に書き進めて、色々綻びが出たけれど書き直すのは面倒なので、ひとの心の曖昧さを免罪符にして辻褄を合わせた、という感じ。本作では、わざわざ殺すほどの必然性が全く無い、という点が致命的。あの人が偶然あの人の顔を知っていてあっさり身元が割れるのも手抜きとしか思えない。他にも合点の行かない記述は多く、森博嗣の近作は不自然ポイントを探す為に読んでいるかのような私である。

No.395 6点 完全・犯罪- 小林泰三 2017/09/25 11:07
 「双生児」。それまでは強引であっても一応論理の積み重ねで転がして来た話に、最後の最後で唐突に不条理な異物(“終わりではなかったの”)が突っ込まれて終幕、というのはやっぱり話がおかしいと思う。しかし、そのひとが嘉穂であれば事の成り行きをペラペラ話す理由も無いんだよね。というか、“そうだ。一つ方法がある。”ってなんのこと?
 「隠れ鬼」「ドッキリチューブ」は前半を読めば後半の見当も付いてしまうが、それでもダレることなく一息に読まずにはいられない文章の気持悪さが素晴らしい。

No.394 6点 Y駅発深夜バス- 青木知己 2017/09/19 12:44
 「九人病」が一番良かったが、最終章の二重三重の仕掛けはいらなかったのでは。
 表題作。トリックは面白いが、第三者の行動に依存する側面が強いことと、その時間が数時間に亘る長さであることが難点。彼が途中で何か目立つことをすればアウトであって、私だったらこの計画には乗らないなぁ。
 「猫矢来」。加害者の行為の危険度を考えると、警告のしかたが幾らなんでも遠回し過ぎだと思う。
 全体として。ミステリに対する誠意は伝わって来るが、だからといって飛距離が物凄く長いわけではない。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1953件
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