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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.448 6点 エピローグ- 円城塔 2018/03/19 09:35
 またぞろ韜晦と嘲弄に満ちた脱力的舌先三寸で何だか良く判らんという失望と共に読了する期待の下に手に取った本書は豈図らんや意外な程に“物語”している。殺人事件が先か探偵小説が先か。あなたたちの創造性は、出典を忘れる能力です。もはや、人類に理解される必要を見いだせない。神林長平『戦闘妖精・雪風』を彷彿とさせる、という比較は文庫版解説で書かれちゃったが、筒井康隆の物語破壊を経由して夢野久作『ドグラ・マグラ』につながる気もする物語の物語。まぁやっぱり“判る”とは言いがたいんだけど。

No.447 5点 ディレイ・エフェクト- 宮内悠介 2018/03/04 11:28
 SFともミステリとも謳ってはいないが、それっぽい短編が3編。「阿呆神社」は筒井康隆のようなペーソスを感じさせるドタバタで面白かった。残りふたつは、悪い意味で純文学的な、カタルシスを排除した書き方で勿体無い。これはこれで“キャッチーに盛り上げればいいってもんじゃないだろ!”という実験かもしれないが、結果として私には物足りなかった。

No.446 7点 ガニメデの優しい巨人- ジェイムズ・P・ホーガン 2018/02/27 08:49
 『星を継ぐもの』の続編。前作で残された謎の解明と言う側面もあるが、なによりも生身で現れる巨人達の愛すべきキャラクターが良い。

No.445 8点 他に好きな人がいるから- 白河三兎 2018/02/26 10:18
 鬱屈した高校生と不可解な出来事が交錯して世界の残酷さを学びつつ微妙な成長譚を織り成す青春ミステリ、と説明してしまうと、あぁそのパターンね、で片付けがちだけれど本書は素直に読めた。ベタなテーマを巧みに作品化出来るひとが結局は生き残る、と言う意見もあるし。峰さんなんか冷静に見ればあざとい設定だけど読んでいる時はときめけた。後半ちょっと人物の気持ちの流れがよく判らない部分は私の読み方が下手なのか?
 どこがどう違うと上手く説明出来ないが、私は辻村深月あたりよりこの作者の方が好き。冷たい水にそっと手を入れるような気持で読む。

No.444 6点 分かったで済むなら、名探偵はいらない- 林泰広 2018/02/20 10:14
 通例なら“先行作品をこんなに引用するのは如何なものか”と苦言を呈するところだが、本書でことあるごとに俎上に乗せられる元ネタはシェイクスピアの、知名度は高いが実際にきちんと読むひとは意外に少なそうな代表作であって、流石にこのレヴェルのタイトルに対してネタバレ云々は野暮だろうか。
 西澤保彦(の方向性のひとつ)や蒼井上鷹あたりを私は連想したけれど、基本のアイデアもそのアイデアを具現化するためのアイデアも面白いし、連作集として一冊分の数を揃えるのは大変だったろうと思うが、説明的(安楽椅子探偵だから)でライトな文章と相俟っていまひとつインパクトに欠ける。でもまぁ、軽く読めちゃうのは必ずしも悪いことではないしね。
 表題は内容と合っていないと思う。謎を解いた後に事態を鎮静させるための名探偵の外連味の有効性、みたいな話ではない。

No.443 5点 天帝のみはるかす桜火 - 古野まほろ 2018/02/19 09:48
 こんなにあっさり読める『天帝』なんて意義があるのだろうか。エネルギーを削られつつ、“なんじゃそりゃ”と失笑と突っ込みを限り無く繰り返しつつ、息も絶え絶えに終幕へ辿り着く諦念と歓喜の倒錯した合わせ技こそが『天帝』の醍醐味ではないのか。反語的にあの分厚いシリーズ本編への思慕を再確認させられた箸休め作品集。
 「修野子爵令嬢襲撃事件」、まりが最後の瞬間まで『木馬』を把握出来なかったのは、能力の設定と矛盾するのでは。出来たはずのことをうっかり見落としたという意味で“ケアレスミス”と言うことだろうか。

No.442 8点 迷路館の殺人- 綾辻行人 2018/02/16 10:36
 鼻血の確認の為に自らの鼻腔を覗かせる医師、の場面があまりにも印象的。というか、四半世紀ぶりに再読したところ、このワン・シーン以外は何も覚えていなかった私である。

No.441 6点 皇帝と拳銃と- 倉知淳 2018/02/13 09:45
 最後の話には見事に騙された。
 しかし、ネタバレしつつ書くが、他に関しては本当に言い逃れ出来ないのだろうか。考えてみた。
 「皇帝と拳銃と」――実は私は最近、射撃を始めたのですよ。それでつい、この執務室が防音なのをいいことに、こっそり運んで来たあの本を的にして発砲してしまったのです。スリルを求めて、他愛ない悪戯のつもりでした。どうぞ私を銃刀法違反で逮捕して下さい。但し、発砲したからといってそれが威嚇射撃だったとは限らないし、威嚇射撃をしたからといってそれが転落死の原因になったとも限りませんよね。
 「恋人たちの汀」――実は、真の第一発見者は俺なんです。あの日、呼び出されてこの部屋に来ると死体がありました。そこで俺はこれ幸いと、自分の借金の借用証を盗んだんです。通報したら窃盗はともかく殺人の疑いまでかけられると思って、黙って逃げました。机の上のチラシはその時に念の為処分したんです。偽のアリバイ工作についてもその時に念の為指示したんです。偽証罪と窃盗罪、でも確か親族間の窃盗は親告罪ですよね。
 「運命の銀輪」――5桁の数字なら、10万分の1の確率で偶然に一致しますよね。

No.440 8点 亜愛一郎の逃亡- 泡坂妻夫 2018/02/13 09:44
 「赤島砂上」で某メフィスト賞受賞作を思い出したり、「球形の楽園」で赤川次郎の某長編を思い出したり。
 「火事酒屋」だけは納得出来ないなぁ。犯人はあんなトリックを弄さずに犯行後さっさと逃げれば良いじゃないか。救助者が2人来る保証もないし。

No.439 9点 亜愛一郎の転倒- 泡坂妻夫 2018/02/05 10:29
  論理の飛躍が楽しい名短編揃い。「砂蛾家の消失」が一番好き。
 「藁の猫」で不満なのは、“開かない扉”“重力を無視する水”等の創意工夫された間違いと比べて、“藁の猫”がよそから持ち込んだだけの単なる異物だ、と言う点。‟藁の猫”である必然性が無い。キャラクターの一貫性を損なっている気がする。ああいう人は凝り性だと思うんだよね。題名にしちゃったものだから尚更それが目立つ。

No.438 9点 亜愛一郎の狼狽- 泡坂妻夫 2018/02/01 11:15
 亜愛一郎シリーズの瑕疵は、まさにその“シリーズである”点だと思うのだ。作者が如何に手を変え品を変え亜の抜け作っぷりや怪しげな行動を描写しても、読者は“このひとが探偵役”という先入観からついつい別枠扱いしてしまう。まっさらな状態で読めたらギャップが更に映えてどんなに面白いことか。
 しかし一方、シリーズゆえにこの愛すべきキャラクターがじっくり育まれたのもまた確かなわけで、痛し痒しなのである。

No.437 7点 漆黒の象- 海野碧 2018/01/30 12:06
 複数の案件を重ね合わせた構成はあまり効果的ではない。ばらして3つの中編にしたほうが良かったと思う。
 プロバビリティの殺人について。自分も標的になりかねないからリスクが大きい、と思う反面、そういう賭けに出るメンタリティもアリかと思わなくもない。掘り下げ不足で得心するにはちょっと足りない。
 この作者の武器は一に文体(細かく言えば文体とストーリーの絶妙な齟齬)、二に人物造形。デビュー作からここまで6冊、厳しく言えばストーリーはどれも同じなのである。私はとにかく文体がツボに嵌ったのでそれも大目に見るけれど、そろそろ次の一手を考える頃合では。

No.436 8点 掟上今日子の色見本- 西尾維新 2018/01/30 12:04
 これはシリーズ近作中では出色の出来か。どこがどうと言うより単純に面白かった。忘却探偵のキャラクターを発揮するには進行形の事件のほうが有利?今日子さんが誘拐されます!欲を言えば、動機に関してもう一捻りを期待していたんだけど。

No.435 8点 破滅の王- 上田早夕里 2018/01/26 10:31
 1930~40年代、戦火に翻弄される科学者達の物語。SFというフィールドを離れても(架空の細菌は登場するが)、群像劇を通じて社会の変遷を描く手腕は磐石。それほどぶっ飛んだ話ではないし、こういった戦時下の諸々を虚実織り交ぜて描く作品はもしかすると珍しくはないのかもしれないが、その中でも存在感のある一冊になるのではないか。主人公が地味、と言う気はするが決定的な難点ではない。
 それにしても中国が舞台の作品は地名人名の読みが面倒臭い。

No.434 6点 クリーピー- 前川裕 2018/01/22 09:11
 材料をとりあえず全部載せしたあと、大雑把にふるいにかけたような感じ。話がどっちへ向かっているのかイマイチ判らないまま進んで行く気持悪さが面白い。それほどかっちりした話ではないので、多少のアラがあってもさほど気にならないのはズルイな。
 それでも気になったことを書くと、某映画を結末まで明かして引用するのは感心しない。
 Yが狙いを付けたNの隣に住むTが、Yの弟の高校時代の同窓生だった、という偶然は許容範囲内か?こういうのをアリにしちゃうと、“AとBの共犯では?”“いや、あのふたりに面識は無い”といった理屈がどうでも良くなってしまう。ミステリで使うのは控えた方が良いと思う。

No.433 5点 篝火草- 海野碧 2018/01/09 09:45
 各々のキャラクターはそれなりに立っているが、動きが直線的で話にうねりを生み出せていないと思う。特に後半はかなり強引で、語り口の良さを以て相殺、とは行かなかった。一例を挙げると、今回の主人公には事案の概要が摑めた時点で警察に駆け込まない理由が見当たらない、とか。自作品が雰囲気モノではないという自覚のもとにもう少し練って欲しかった。

No.432 8点 人形館の殺人- 綾辻行人 2018/01/05 11:06
 旧版解説の太田忠司に上手く言われてしまったが“どこでもない完全な空白の中に置き去りにされ”た不安定な読後感の気持悪さが心地良かった。
 殺人の手段として放火を選んだのは腑に落ちない。“規模のコントロールが難しい”、“標的が死ぬ確実性にやや乏しい”と言う点で、使い勝手が悪いと思うのだが。
 ところで“飛竜頭(ひりょうず)”って御存知ですか。ガンモドキの別称なんです。それで文中に“飛龍”という姓が出て来る度におかしくて……話と関係無いところで受けちゃってごめんなさい。

No.431 4点 華を殺す- 三沢陽一 2018/01/04 10:34
 “連城三紀彦氏に捧ぐ”との献辞で始まる恋情ミステリ集、であるが、その一行が矢鱈とハードルを上げちゃってる気がする。柔らかな語彙を丁寧に並べた美文“っぽい”文章も、のっけからそんなこと言われるとどうにも作り物めいて響く。そうなるともう駄目でせっかくの心の機微や鮮やかな情景もストーリーにまとわり付くダラダラした埋め草に堕ちてしまうのだ。作品そのものは決して悪くない筈なので、余計な先入観無しで読めば“連城三紀彦みたいだね、良い意味で”と思えたかもしれないのに。
 収録の4編の中では「椿の舟」が一番良かった、と言うか文体が読者に対するミスディレクションとして機能して古典的なトリックでも驚けた。
 (但し、私は連城三紀彦の愛読者ではないので、ファンなら判る何かを見落としているかもしれない)

No.430 7点 アンダードッグ- 海野碧 2018/01/04 10:33
 海野碧の4作目、ノン・シリーズ長編。ここに大きな問題がある。文体が同じでしかも一人称なので、本作の主人公が1~3作目の語り手であった大道寺勉にしか思えない!キャラクター的にも、他者に無関心な覇気の無い中年男、その割りにたいした理由も無く厄介事に首を突っ込む、但しそれは降りかかる火の粉なら振り払える腕っ節に裏打ちされている、といった共通点があってぶっちゃけ“経歴は違うけど中身は同じひと”と言う感じ。
 しがないアンダードッグ達の行く末来し方を坦々と並べつつ不思議と読ませる文章力は健在。今回はちょっとミステリっぽいトリックが登場するけれど、“そんなに上手く行くものかなぁ”と思ってしまうこなれていない感じが却ってこの作者っぽい(か?)。東南アジア旅情ミステリ風の側面もあったりなかったり。

No.429 3点 矢の家- A・E・W・メイスン 2017/12/28 16:38
 私は、作品が書かれた時期その他を考慮した読み方は出来ない。で、これはどこを楽しめば良いのか判らなかったなぁ。紹介文で謳われる“名探偵と真犯人との見えざる闘い”は本当に全然見えない。事件の真相もがっかり。
 文章についてだが、ジム・フロビッシャーを視点人物に据えた三人称を基本にしつつ、ところどころ他の人物の心理にも(軽く)分け入った記述が混ざっていて、反則とは言えないまでも違和感を覚えた。

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虫暮部さん
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