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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1848件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.508 7点 グラスバードは還らない- 市川憂人 2018/10/22 11:18
 魅力的な謎、に対して真相はやや物足りない、がしかし全体的なミステリの志向性は好感度高し。単行本の粗筋は、内容を明かし過ぎだしアンフェアっぽい文言も含まれるので読まないほうが吉。
揚げ足取り:傍点付きのそこそこ重要な会話文で、them は人・動物・物すべてに適用される単語なので、英語でその言い回しを使うと日本文として書かれているようなニュアンスにはならない、というところがあった。舞台がアメリカだとは書かれていないし、今何語で話してるの? と言うツッコミは野暮だけども。

No.507 8点 掟上今日子の乗車券- 西尾維新 2018/10/19 12:19
 旅先で次々事件に遭遇する連作短編集。個々のネタはシンプルな思考実験だが、キャラクターと文章力があればそんな素材もこれだけ面白くなるのだと肯定的に読めるのが西尾維新である。長編にしてディテールを加えると破綻しそうな話を短編の型に合わせることで上手く料理していると思う。逆説的なロジックは亜愛一郎シリーズ(泡坂妻夫)に通じるとの連想は強引か。

No.506 7点 ψの悲劇- 森博嗣 2018/10/17 13:10
 なかなか面白い、と言うか森博嗣にはこのくらいを作品の最低ラインとしてキープして欲しい。
 ただ、全体的に“たいしたことじゃない”という視点で静かに書かれているため、ネタの割に印象が地味。こういう着地点が作者の持ち味ではあるが、今作では勿体無いかも。演出過多な書き方をすればもっとエンタテイン出来たと思う。

No.505 4点 日曜は憧れの国- 円居挽 2018/10/03 11:21
 “青春ミステリとしての狙い”は判らなくもないが、設定もキャラクターもありがちな感じだし、それに輝きを与える文章力があるわけでもないし、致命的なのは遭遇する事件がどれもたいして面白くないこと。成長譚としても取って付けたようで残念。歴史講座の内容が(日本史に疎い私にとっては)面白かったけれど、そんなところを評価してもねぇ。 
 ところで、カレーのレシピ。野菜を煮込む前にルーを入れたら生煮えになってしまうのでは。

No.504 5点 聖女の毒杯- 井上真偽 2018/10/01 11:05
 ここまでやられるとごちゃごちゃして疲れる。ダミーとして使うには勿体無いようなトリックもあるのだから、謎解きに対する奇矯なスタンスを看板にせずに、仮説を2~3個だけピックアップしてもっとスッキリした話に仕立てたほうが、題材を生かせたような気もする。とはいえ、色々と盛ってある設定やキャラクターが面白いのも確かで悩ましいところ。

No.503 6点 碆霊の如き祀るもの- 三津田信三 2018/09/25 11:55
 餓死の現場に於いて、排泄物に関する言及が無い。食べなくても出るんですよ。少なくとも絶食一日目には前日の分が腹の中にある。然るべき描写が為されていれば、被害者の状態ひいてはトリックを推測する手掛かりになったはず。私は、排泄の痕跡が無いのだから被害者は別の場所で死んで発見現場に運び込まれたのでは、とずっと考えていた。尾籠な話なので割愛、では済まないアンフェアな描写(の無さ)である。人間が排泄をしないパラレル・ワールドが舞台、と割り切って読むが吉?

No.502 6点 やぶにらみの時計- 都筑道夫 2018/09/14 12:51
 9割までは面白かったが、種明かしでがっかり。
 ネタバレしつつ書いてしまうが、どの道だまして最終目的を伏せたまま死地へ赴かせるなら、複数人のエキストラで芝居をするより、本人に直接“詳しい事情は言えないがしばらく誰それのふりをしてこのように行動してくれ”と頼む方が簡単かつ確実ではないのか。首謀者が妙に凝った手を使う心理的な裏打ちに欠けると思う。
 と書いていて気付いたが、その問題点を解消した“複数人が結託して、或る人に自分は他の誰かだと信じ込ませ、その上で自発的に過激な行動に走らせる”という話は、S氏のアレではないか。

No.501 7点 中途の家- エラリイ・クイーン 2018/09/10 11:08
 良い意味で読み易くて面白かった。
 しかし有罪判決が出るほど彼女は疑わしかっただろうか? ストーリー展開を優先した作者が検事や陪審員を少々馬鹿に設定した、と言う印象。また、厳しく見るなら、現場に遺留品を残すのはやはり無用心であって、“それを回収出来なかった理由”が欲しかった。

 因みに、カーター・ディクスン『プレーグ・コートの殺人』には、語り手の婚約者がアレを嗜むとの設定がある。

No.500 7点 さようなら、お母さん- 北里紗月 2018/09/05 09:52
 島田荘司選 第9回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作。
 主人公があまり好きになれなかった。但しそれは、相応の筆力できちんと確立されたキャラクターが結果として好きなタイプではない、と言うことであって、寧ろ作品に対する高評価の一部なのである。
 厳しく見るなら手頃なネタを幾つか上手に組み合わせただけ、だが、単なる手捌きの巧みさだけではなく、確固とした核の存在が感じられるので心強い。しかし変人学者キャラってどうしても似たような造形になっちゃうのかねぇ(嫌いではない)。

No.499 5点 λに歯がない- 森博嗣 2018/09/03 11:24
 何を以て復讐の成就と見做すか、は当事者の胸先三寸と言う側面があるわけで、犯人に奇矯な行動を取らせがちな森博嗣作品とは親和性が高いと言える。って勿論皮肉だよ。
 第2章の“そんな駄洒落を言うために、普通四人も殺さないでしょう?”という台詞は大胆な伏線!途中で出て来たコンクリートミキサ云々は結局ダミー?

No.498 5点 猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち- 大山淳子 2018/09/03 11:22
 適度な緩さを孕んだ筆致のぽわーんとした世界観であるから、偶然の出逢いが都合良く繰り返される点は大目に見る。T氏の代表作との類似も、パクり云々と言うものではないと思う。百瀬が天才とはとても思えないけれどまぁ良い(というか、弁護士というフィールドに於ける“天才”とはどういうものか?)。
 しかし、偏見であることは承知の上だが、80%の力で及第点は取れるからそれで充分でしょう?みたいな、書ける人が書けるものを書いた“だけ”との雰囲気が全体的に感じられて、それは別に悪いことではないのだけれど、私はいまひとつ乗れなかった。

No.497 6点 猫の舌に釘をうて- 都筑道夫 2018/08/31 10:56
 昭和30年代の時代風俗を活写しつつ、動物愛護団体VS洋菓子職人VS宮大工という三つ巴の争いにラング・ド・シャ誕生秘話を絡ませた壮大な展開には驚愕させられた。コーヒーの温度を伏線にした密室トリックも見事。
 更に題名が絶妙で、猫の舌に釘を打つとあれがああなって大団円なんて物語は未だかつて読んだことがない。

No.496 7点 ブルーローズは眠らない- 市川憂人 2018/08/29 10:10
 何を以て復讐の成就と見做すか、は当事者の胸三寸次第と言う側面があるわけで、ひとおもいに殺しては復讐にならないと言われればハイそうですかと受け入れるしかないけれど、本書の犯人の行動はあまりにも迂遠に感じる。そのへんの設定をもう少し詰めて欲しかった。

No.495 5点 能面殺人事件- 高木彬光 2018/08/28 11:12
 全体的に大雑把で乱暴な小説、との印象。アイデアや見せ場になる美味しいシーンをドカンドカンと重ねているものの、その間を埋める肉付けが貧弱に感じた。文句は複数あるが、特に納得出来ないのは、某女性の裸体写真をそのまま放置した、という件。犯人の動機を考えるとソレはないだろう。
 ただ、解決編は(意外にも)各々の心情吐露に読み応えがあり楽しめた。

No.494 6点 あなたの人生の物語- テッド・チャン 2018/08/23 12:19
 小林泰三の描く異世界の如き「バビロンの塔」。森博嗣の登場人物のカリカチュアみたいで面白い「理解」。表題作を叙述トリックの亜種だと主張するのは強引だろうか?
 寡作な米SF作家の第一作品集。収録作品全般的に、9割までは文句無しに面白いんだけどラスト1割での着地点がなんだか曖昧で肩透かしに感じる。“天才”とも謳われるが、そうまでは思わなかったなぁ。

No.493 8点 紅のアンデッド- 川瀬七緒 2018/08/23 12:15
 これは大躍進の一冊ではないだろうか。前作までちょいと感じられた砂上の楼閣めいたニュアンスが消えて、どっしりと地に足の着いた力強さを獲得している。ミステリ的には多少のアラも見られるが、それを補って余りあるダイナミズムとカタルシス。毎度宿命的にフィーチュアされるキュートな虫さんネタも絶好調、知らなくてもいい雑学付き。

No.492 8点 ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 2018/08/21 12:33
 この動機はいいね。ミステリには時々、表層的な関係性の種類を基準に心情の動きを決め付けるような描写が見られる。親子や恋人なら復讐をして当然だがただの同僚がそこまでするのは変、とか。しかし心の距離はケース・バイ・ケースであってそんな単純に測れるものではない。本作は短いインタールードで当該人物が行動に至るに充分な説得力を示しているし、それが事件の全体像に関する目隠しとしても機能していてグッジョブ。

No.491 5点 パラレルワールド- 小林泰三 2018/08/14 12:59
 混乱した心理をスラップスティックに描写する冴えた筆致と、特殊なルール設定のもとでの攻防戦、というこの作者の得意なパターンで、そりゃあ面白いに決まっているけど、得意技を投入していること自体がお約束で少々物足りないなぁと読者は贅沢にも思うのである。ラスト前の痛い場面は筒井康隆への挑戦、それとも『無限の住人』か?

No.490 5点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2018/08/10 10:09
 バーナビー・ロスは本書を読んで、13~14章、架空の殺人計画(戯曲)が他者の手に渡って云々のくだりを、拡大解釈して、換骨奪胎して、あの作品を書いた、のかもしれない。

No.489 5点 ハイパープラジア 脳内寄生者- 望月諒子 2018/08/02 11:45
 タイトルそのままの話。厳しく言うなら前半は想定内の内容を丁寧に説明しただけ。
 思考が混乱して行く様を本人の一人称で書く試みについて、健闘してはいるが踏み込み不足なところも。“忘れた”と記述している時点で忘れていないよね……。
 全体的に、“品の良さ”という枠組みの中に押し込めてしまった感じで、そこが物足りない。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1848件
採点の多い作家(TOP10)
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