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虫暮部さん
平均点: 6.21点 書評数: 2040件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1960 7点 ロシアン・ルーレット- 山田正紀 2025/05/02 12:41
 どのエピソードも、やりきれなくて面白くはある。ただ、こういう構造の作品だと、つい全体を貫く大きな物語の方に気を取られて各短編の印象が薄くなりがち。その中では「ウォッシュマン」で描かれる心情にゾクリとした。
 物語同士のリンクの仕方がまちまちで総合的に見ると不定形になっているのが良い。刺さったバスに対する災害救助の部分は殆ど展開しないせいもあって、物凄く “投げ出したまま” な読後感。

No.1959 7点 ゴリラ裁判の日- 須藤古都離 2025/05/02 12:40
 不穏な冒頭を経て、前半の回想場面でローズの見ている世界は、いずれ壊れると予告されているだけに愛らしくも切ない。敗訴後の展開は意外だったけど、ジャンプの前には一回しゃがむ、みたいなものか。“言いたいことがある小説” の強みが良い形で出ているだろう。
 だからこそ思う――意思の疎通が出来なければ、暴れている者がホモ・サピエンスでも子供を守る為に殺す選択はあり得る。いわんやゴリラに於いてをや。内面は結果論から推測するしかないのだ。この判決は難しいぞ。

No.1958 7点 ずうのめ人形- 澤村伊智 2025/05/02 12:40
 ミステリであればそれは出来過ぎだろうと言う偶然でも、ホラーなら人知を超えた偶然に絡め取られること自体が寧ろ必然に感じられる。巻き添えの多さに頭を抱えた。
 眼球を抉り取られる怖さは、バラバラ死体とかより絶妙にイメージし易くて背筋がぞわっと来る。もともとうっかりポロッと落ちそうなパーツだからね。

No.1957 5点 新幹線殺人事件- 森村誠一 2025/05/02 12:39
 新幹線で人を殺すのは感心せんが、トリック、と言うかトリックそのものよりもトリックを破綻に導く鉄道豆知識に驚いた。よくあんなところまで目配りが行き届いたものだ。

 本作に限らず、芸能界を “欲望まみれの虚飾の世界” として描いた作品はままあるけれど、ストーリーとして面白く感じたものは思い出せない。一つには、それを薄っぺらく描くことは、“スターをありがたがる一般大衆は馬鹿だ” と言う偉そうな視点と表裏一体だからではないか。

No.1956 5点 ペトロフ事件- 鮎川哲也 2025/05/02 12:38
 この最後の対決場面はおかしくない? 鬼貫が得々と語った事柄は事実と違っており、物的証拠が挙がったわけでもない(よね?)。計画は全然破綻していないと思う。
 それどころか、三つの “真相候補” から一つを選ぶ決め手が欠けているのではないか。容疑者の証言を真に受けて良いのか。もし二人目三人目が一人目と同じ主張をしたら、起訴は難しい。グレー・ゾーンに留まりつつも疑わしきは罰せず、寧ろ大成功である。
 注意深く鬼貫の発言をチェックしたが、“本当の真相” を仄めかしているようには読めない。一体犯人は何に絶望してギヴ・アップしたのか。察しが良過ぎと言うか諦めが早過ぎ。

 とても丁寧に満洲の風土を記述していて詩情すら感じさせる。後年の加筆の賜物かも知れないが。
 この作者にそういう上手さはあまり感じたことが無いので意想外、ミステリ部分より心惹かれた。

No.1955 7点 無垢なる花たちのためのユートピア- 川野芽生 2025/04/25 12:44
 川野芽生は、たおやかな語り口で世界の糸を解きほぐす。
 表題作が他に比べて少々取っ付きにくく感じたのは、前者が少年達の物語であるのに対して、「白昼夢通信」は少女達、「最果ての実り」は男と少女、「卒業の終わり」は女達と男達の物語だからさ――なんて言ったら表層的で通俗的な消費の仕方だろうか。
 否、“性差” との苦闘はこの作者の根っこに位置する烙印だと思う。花は植物の生殖器なのである。気怠く甘い白昼夢も、一歩引いて見るとそれを見ていること自体が怖い。

No.1954 7点 世界でいちばん透きとおった物語2- 杉井光 2025/04/25 12:43
 まさか続編があろうとは。
 作中作をいじる話は好き。完結編のアイデアが上手いし、未完にした事情もしっかり設定されていて隙が無い。
 あと、コンビ作家のキャラクターが良い。(作家に限らず)共同作業者の関係性は、部外者がイメージするものとは多分かなり違うよね。と言う認識を踏まえての、吸引力の強いエピソードの数々。

 “エスプリ” なんて口に出す機会が無いから、イントネーションの参考にならないよ。ネタ?

No.1953 7点 ぼぎわんが、来る- 澤村伊智 2025/04/25 12:42
 私は割とホラーを読むと手も無く怖がってしまう方で、特に第二章末の新幹線での情景には噴き出しつつ戦慄。
 ミステリ的手法との掛け合わせも効果的だが、そのせいでクライマックスが早過ぎると言う副作用があるかも。現象の頂点は第二章にあって、その後に謎の解明をする流れなので、相対的に第三章が地味に思えた。

No.1952 6点 鬼神の檻- 西式豊 2025/04/25 12:42
 確かに楽しめたし、型に収めるのではなく枠を破って拡散して行くような作品の在り方にはワクワクしたんだけど、結果として盛り過ぎ。終盤、何処まで掘っても底が見えないのでイラッと来てしまった。
 第二部プラス・アルファ(鬼が実在するホラー、しかし連続殺人はロジカルに解決)の辺りでで止めといた方が良かったのではないだろうか。 

No.1951 5点 イノセンス After The Long Goodbye- 山田正紀 2025/04/25 12:41
 押井守のアニメ映画『イノセンス』の前日譚、と言う企画作品。物語だけ追えば、公安九課 vs テロリストのアクション・ストーリー。ただ妙に重い。それがキャラクターの鬱屈によるものなら良いんだけど、どうもサイバーパンク的要素の解説過多が主因に思われる。
 アニメなら見ているだけで判る(気になれる)事柄でも、小説では説明を省くと義体(サイボーグ)のキャラクターが人間離れした超人に見えてしまう。システム関連の設定も読者の楽しみのうちだし、元ネタ付きの作品なので気を遣って丁寧に書いたのかも知れない。
 その結果、アクションのスピード感を担保する記述のせいでスピード感が失われているような奇妙な状態になってしまった。

 エピローグにちょっとしたサプライズあり。しかし、作者はサプライズを意図したわけではない筈で、その件を事前にさりげなく教えてくれなかったのは寧ろ手落ちだと言える。と判断して書いちゃおう。“えっ、この人達は日本語で会話してたんだ!”

No.1950 5点 掟上今日子の保険証- 西尾維新 2025/04/18 13:21
 普通のミステリなんてありませんよ――と今日子さんに言われそうだが、比較的普通のミステリに近付いた結果、シリーズらしさが失われてしまった。のみならず、軽さによって濃度を生み出すような西尾維新のあの文章が希薄化しつつあるのも気掛かり。
 「不眠症」。盲点だったが、スジは通っている。
 「船酔い」。ダークな真相にああやっぱり西尾維新だと胸を撫で下ろす。
 「猫アレルギー」。この題を掲げておきながら、肝心の猫様が登場しないじゃないか。今日子さんがもふもふで窒息して身悶えるさまを期待させておいてこの仕打ち。強く抗議したい。

No.1949 5点 風水火那子の冒険- 山田正紀 2025/04/18 13:21
 それぞれ長さに応じた複数の謎を絡ませて、単なるアイデア・ストーリーでは終わらせまいとする気概は感じた。
 悪くはないがしかし、あまり深みが感じられず。世界も人間も少し壊れていて、やや肩透かしなニュアンスは狙いなんだろうけど、その脱力感がここではプラスに働いていない。風水火那子のさりげない異物感みたいな雰囲気も効き目が弱い。
 「極東メリー」の昔語りは切なくて良かった。

No.1948 7点 亜智一郎の恐慌- 泡坂妻夫 2025/04/18 13:20
 多少は時代物に慣れたのと知識が増えたのとで解像度が上がったか、味わい方が判って来た。サイコ・ホラー顔負けの “占い” は驚き。世にカルトの種は尽きまじ。
 なまじ謎を扱うからその真相が肩透かしなところは否めないが、話の流れの持って行き方は同氏の現代ミステリ作品よりも余裕があって技巧的に感じられたりもする。草双紙談義でねんごろになる流れなど何度でも読み返したくなる。

No.1947 7点 シュロック・ホームズの回想- ロバート・L・フィッシュ 2025/04/18 13:20
 基本的に前巻と同じノリであって、感想も同様。但し、パターン化しているように見えても、シュロックの言動には結構ヴァリエーションが感じられる。最後まで飽きずに読めた。
 諸々の言葉遊びについては、翻訳者の苦労が偲ばれるが、“わけのわからない言葉” を無理に日本語化するより原文をそのまま載せて欲しかった。

 今になって気付いたが、シャーロックと違ってこちらのホームズの綴りは Homes なんだね。
 つまり、文中に姓だけで記述されていても原文なら原典との区別がキチンと付いているわけで、訳文でこの点は如何ともしがたい。“姓をそのまま拝借して厚かましい” と思っていたけどそういうことか。

No.1946 6点 キリオン・スレイの復活と死- 都筑道夫 2025/04/18 13:19
 フーダニットよりも、事件の奇妙な様相に関するホワイが核心に据えられていて、
 「密室大安売り」=何故凶器が無かったのか。これは説得力があるし、密室の件ともまぁ繫がっていて上手い。
 「情事公開同盟」と「二二が四、二死が恥」は、明確な理屈ではなくやや曖昧な動機付けが、良いんだけど、もう少し深みが出る書き方なら更に良かった。

 一方で、「八階の次は一階」。自殺騒ぎは、操り犯にとっては(真の目的の為に)有意義だが、実は自殺志願者本人にとってはこれと言ったメリットが無い。殺人は自宅で発生したわけじゃないんだから、“夫が家出しました” で済む筈。つまり、彼女の混乱に乗じて操り犯が不合理な行動をさせているのである。それは作者が評論等で提唱する “論理的な謎解き小説” にはそぐわないのではないか。キリオンはどういう論理でこんな真相を推理出来たのか。

 フーダニット色が強いのは「なるほど犯人はおれだ」。端正なパズラー然としたダミー推理に対して、実際には犯人の中途半端な行動がその様相の原因だったと言う真相。それは作者が評論等で以下同文。

No.1945 8点 ナポレオンの剃刀の冒険- エラリイ・クイーン 2025/04/11 11:54
 350編から厳選したと言う本書の成立過程を考慮しても尚、非常に粒揃いで驚いた。EQの下手な小説より面白い。早川書房や東京創元社ではないからって外典扱いは勿体無い。中でも「殺された蛾の冒険」の手掛かりが見事。

 私はどうにか2問正解。間違った推理を開陳すると、
 「悪を呼ぶ少年の冒険」……カナリヤが毒を落とした。そのように訓練した? 事故?
 「ショート氏とロング氏の冒険」……ショート氏は家に戻った後に死亡。生きた人間には隠れられないどこかに遺体が隠してある。
 「呪われた洞窟の冒険」……何らかの手法(または自然現象?)により泥が硬くなった。凍った?

No.1944 7点 わすれて、わすれて- 清水杜氏彦 2025/04/11 11:54
 『DEATH NOTE』ばりのガジェットが出て来るから、もっと大きな騙しがあるかと思ったが、本当にあくまで小道具に留めていて意外(肩透かし、とまでは言うまい)。
 世の中舐めた美少女達が自業自得で足を掬われ、良い意味だけではない成長譚。でも、殺る時は殺らないと犠牲が増える、その意味でリリイが復讐現場でウダウダ言うのは覚悟が足りてない、と正直思った。勿論それは、前提として作品世界に引き込まれたからこそ反発もしたのであって、キャラクター設定が悪いと言うことではないよ。

No.1943 7点 貴方のために綴る18の物語- 岡崎琢磨 2025/04/11 11:51
 こ、これはズルいよ岡崎琢磨……それこそ作中人物の言う通り “おもしろいと言えばおもしろいし、たわいもないといえばたわいもない” と思いつつ読み進んだ先にあんな仕掛けがあったら泣いちゃうじゃないか。ツボを突かれた私の負けです。

 ただまぁ、一連の作中作に “ノウハウを駆使してノルマをこなしている” ような印象を抱いたのは否めない。作者の設定上、大傑作を含めるわけにはいかなかったのである(?)。
 充分及第点は付けられるが、“これが良い” と言う突出した作品は正直、見当たらなかった。“これがイヤ” なのは「いじめロボット」。理由は、メインの部分が登場人物の舌先三寸だから。

No.1942 6点 バスカヴィル館の殺人- 高野結史 2025/04/11 11:51
 まさか続編があるなんて。
 でも考えてみれば、“探偵遊戯” の設定のおかげで一般のミステリには無い方向軸の謎解きが成立するし、だからと言って他の作家があからさまにパクれるものではない。早い者勝ちの権利?
 基本設定がシンプルなので、その裏をかく展開も判り易い。これも利点。
 ただ本作、シリーズ確立の為の意義はともかく、単独作品として見ると決め手に欠ける。

 ところで、ネーミングの元ネタとは。事件の真相より気になる。数々家=ホームズ?

No.1941 5点 赤の女王の殺人- 麻根重次 2025/04/11 11:50
 ネタバレあり。
 地味な話だな~。とは言え、ダミー推理にはつい “成程!” と納得、その反論にまたもや “成程!!”。この流れは上手かった。
 アレッと思ったのが動機に関わる部分。Aと別れてBに行く心算が、想定外にAが死亡、だったらBも殺してしまおう、とはどういうことか。別離でも死亡でも “犯人が身軽になる” と言う結果は同じだろうに、何故その先のルートが分かれるのか。作中説明された “Bと結婚せずに金だけ得る” 方法は、Aの存在/不在とは無関係で実質的には別件の筈だが、“Aの死によってBの死も決まった” みたいな話になってない? 人死にが出たことで箍が外れちゃったのかな。
 いや、人の気持だから色々考えられるし不合理でもまぁ駄目とは言わないが、そこは犯人の口から説明して欲しかった。
 もう一点。Bは共犯者でもないのに犯人に言われるがままに身を隠した。不自然と言うか御都合主義的な動きだと思う。

 “増殖する焼骨” って三回続けて言えない。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.21点   採点数: 2040件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(111)
アガサ・クリスティー(80)
西尾維新(73)
有栖川有栖(52)
森博嗣(50)
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