皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 2075件 |
No.1215 | 7点 | 不可視の網- 林譲治 | 2022/06/14 12:06 |
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流石は組織論SFの第一人者。デジタル時代を背景に警察組織や貧困層の群像劇を判り易く読ませてくれる。
“あたしのために……殺ってくれたの! ありがとう” なんて台詞で情をほだされちゃって、私もちょろいな~。 ただ、それなりのキャリアに見合わず、文章が雑。あっ、近未来の架空のシステムが物語の基盤にあるってことは、厳密にはSF? |
No.1214 | 6点 | 掟上今日子の忍法帖- 西尾維新 | 2022/06/09 14:24 |
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忘却探偵ニューヨーク編。それ何語で喋ってるの? って突っ込みは野暮だが、会話のメタネタが際立つ。
手裏剣のトリックは馬鹿みたいだが感心した、と言うかテクノロジー的には充分可能だよね。つまり “バカミスに見えてもOK!” な書き方の勝利? |
No.1213 | 7点 | ハッピーエンドにさよならを- 歌野晶午 | 2022/06/09 14:20 |
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「玉川上死」が傑作。後半は少々不自然だが、犯行自体がパーフェクトなので、どうやって種明かしをするか作者も困ったのではないか。加害者の捨て身っぷりに私はグッと来た。それを高く評価するのは、法月綸太郎の最高傑作を「身投げ女のブルース」だとする気持と共通のものかも。
「 In the lap of the mother 」と言う題はクイーン(エラリーじゃないよ)の曲名「 In the lap of the gods 」に由来する。旧作にも幾つか同バンドのネタを使っているし間違いない。 掌編も含め、粒は揃っていると思う。“殺人の時効成立” は過去の話になっちゃったねぇ。 |
No.1212 | 7点 | たまさか人形堂物語- 津原泰水 | 2022/06/04 13:52 |
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ミステリと呼ぶには謎の輪郭が曖昧だし、きちんと着地もしていない。しかしそういう、ジャンル的に割り切れないところこそ、この作家の持ち味なのだと判って来た。人と人との間の湿り気が上手く文章化されていて、かと言ってべた付かないその程好さが良い。創元推理文庫版は書き下ろし短編を追加収録。 |
No.1211 | 6点 | かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖- 宮内悠介 | 2022/06/04 13:51 |
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登場する明治の文人達については知識が乏しく、また特に最初の2話の謎が妙に観念的なせいもあって、どうも無理に背伸びしながら読んでいるような居心地の悪さを感じた。
作者もそれを感じたのか3話目からは即物的なミステリに変化し、やはりこっちの方が良い。核がしっかりあれば文芸趣味も美味いスパイスなのである。でも作者の意図は逆(ミステリがスパイス)かな? 北原白秋は清家雪子『月に吠えらんねえ』の白さんのイメージそのままだ。 |
No.1210 | 6点 | 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 | 2022/06/04 13:47 |
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ネタバレするけれども、「白きを見れば」 の殺人のきっかけになった行動は何故その状況で行われたのか? 容疑者は限定されるし、動機は周囲に知られている。
それに “伝承に倣って死体を井戸に投げ込もうとした” のは何故? ロジカルに位置付け出来ていない。単にノリでやろうとしたとしか思えず、ちょっと説明不足だ。 揚げ足取り:「幣もとりあへず」の女将。“足音には敏感で、誰かが枕許まで来れば直ぐに気づく”。しかしコレは、気付かなかった場合、気付かなかったことを自覚出来ないから、証言を真に受けてはいけない。 玉村依子。真面目にポリアモリーに邁進する御嬢様。いいなぁこのキャラクター。 |
No.1209 | 5点 | ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー | 2022/06/04 13:45 |
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殺人以前は流れに乗り切れなかった。この手の作品は、そこでキャラクターを把握しておかないと、後半の機微も読み取れないんだよね……。
要するに、犯人としてはしっかり考えたつもりでも、実際は隙のある計画だったと。そういう設定は作者の匙加減でどうにでもなり、私は好きではない。しかし本作、キャラクター的にソレをやりかねない犯人だと言う気はする。 原題は The Hollow だから“うつろな人々”。うむ、確かにそういう話だ。“わたしたちはみんな、ジョンに比べれば影なんです”。 5章(クリスティー文庫版81ページ)。“二叉路”とあるのは誤訳、と言うより日本語のミス。 6章。“小さな田舎の駅だが、前もって車掌に言っておけば急行を停めてくれる”。牧歌的で素敵なシステム! |
No.1208 | 4点 | 呪縛の家- 高木彬光 | 2022/06/04 13:44 |
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あまりに型通りで困る。新興宗教ネタで期待してたんだけどそれもフツーだ。苦杯を舐める名探偵をサディスティックに眺めて楽しむ為の話、ってことでいいのかな。
しかし犯人の演説、そして最後の一撃はなかなか効いた。 |
No.1207 | 7点 | 自来也小町- 泡坂妻夫 | 2022/05/27 15:46 |
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前巻よりはミステリ度が上がったか。とはいえどれも小ネタで、現代ものなら短編に仕立てるのも苦しかろう。このシリーズは、そこを江戸情緒の演出で如何に包むかと言う挑戦なのだろう。人情話的な要素も上手く絡めて、収録作いずれも失望はしなかった(が、大傑作も無かったな)。 |
No.1206 | 7点 | 少年トレチア- 津原泰水 | 2022/05/27 15:45 |
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表題に掲げられた “少年トレチア” は幾つかある柱のうちの一つであって、中心を貫くのは “緋沼サテライト” と言う “場” だと思う。そこに山海の珍味を吟味せずぶち込んだごった煮のスープ。灰汁は取り切れず、美味ばかりではないが、思いがけず澄んだ一杯を掬えることもある。かき混ぜていたら丸のままの怪魚が浮かんできた。誰だこんなもん入れたの。あたったらどうする。 |
No.1205 | 5点 | 致死量の友だち- 田辺靑蛙 | 2022/05/20 14:57 |
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殺伐としたスクール・ライフが二転三転。残りページが少なくなって流石に落としどころを心配した途端にこの結末はどうなの?
意図的な逸脱ではなく、フィールドの外側から良く知らないものを手探りで書いたら、図らずも生まれた珍品、て感じ。正直この作者のこの路線には期待しないが、本作に限っては苦笑しつつ否定しきれない私がいる。 意識的にスマートフォンの類を排したのかな~と思っていたら、後半にインターネットがちょろっと出て来て、しかしさほどの必然性は感じられない。前半の設定を維持した方が良かった。 |
No.1204 | 6点 | 椿姫を見ませんか- 森雅裕 | 2022/05/20 14:55 |
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自意識過剰な芸術科の学生達のキャラクターは上手く描かれている。ミステリとしてはさほどでもないかと思いつつ読み進んだが、ラストの “椿姫” 本番の場面はスリリング。ここだけで評価三割増しだ。諸々の事件の要因について、“そんな物の為に何人も死んだのか!” と言う虚しさとか嘆きとかが作中にもう少しあっても良かったのでは。
再読。水墨画の場面は泡坂妻夫作品だと記憶違いしていた。 |
No.1203 | 5点 | 日曜の夜は出たくない- 倉知淳 | 2022/05/20 14:54 |
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♪日曜の夜は出たくない/日曜の夜は外に出たくない/死体になりたくない(「かなしいずぼん」たま)
と言うのが表題の元ネタ。 このシリーズも最初はなかなか鋭かったなぁと再認識。猫丸先輩のキャラクターが鼻に付かないし、ユーモアが意想外のところに潜んでいてちゃんと笑える。 但し「生首幽霊」は何か変だ。 ネタバレするけれど、バラバラ殺人を決行した主犯男と共犯女。この共犯女の役割は何か(“殺す際に手足を押さえる” 等の作中言及されていない事柄は考えないものとする)? ①被害者を部屋に引き止め、酔った被害者が騒がぬように、殺す頃合いまで監視する。これは “被害者と親しい同性” でないと難しい。②主犯男が死体切断をしている間に、切り取った部分を車に運ぶ。――これだけ。 ②は主犯男一人でも出来るよね。そして①→被害者を部屋に引き止めて殺したのは、犯行現場を警察に誤認させる為だ。犯行現場を誤認させたかったのは、共犯女のアリバイ工作の為だ。 すると、“アリバイ工作の為に共犯女を引き入れ、共犯女の為にアリバイ工作をする” と言うおかしな状況になって来る。共犯女って必要? 主犯男は自身のアリバイは確保していない。それは “被害者とのつながりは水面下のものだから、それを辿って自分に捜査の手が伸びることはない” と高をくくっていたから。ならばトリックを弄さずに通り魔的に殺して逃げるのが最も安全なのである。 作者のミスの仕方が寧ろ面白かったりして。 「空中散歩者の最期」について。アレは数値のミスであって、だから大目に見ると言うわけではないが、それを以てしてアイデア自体が不可と言う程でもないと私は思う。 |
No.1202 | 7点 | 凍える島- 近藤史恵 | 2022/05/15 11:55 |
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語り手の不安定な部分と物語の流れがリンクしているのは大きな強み。生活感の薄い人物ばかり集めたのも、駄目な大人達が駄目な大人達であるが故に起こってしまった事件と言う感じで、だからこそ動機が説得力を持ち、巧みな選択だと私は思う。 |
No.1201 | 7点 | 貴族探偵- 麻耶雄嵩 | 2022/05/15 11:54 |
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再読だが、内容をすっかり忘れていた。おかげで(特に「こうもり」を)丸々楽しめて嬉しかった。忘れっぽいのはステキなことです、そうじゃないですか。
「加速度円舞曲」で、或る手掛かりに関する情報が犯人の口からもたらされている。嘘を吐いてバレたらアウトだから仕方ない。真相を踏まえて読み返すと、自ら首を絞めざるを得ない皮肉さがポイントの一つなのに、作者はサラッと書いちゃってるな~。 |
No.1200 | 6点 | 陰獣- 江戸川乱歩 | 2022/05/15 11:53 |
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割と普通、だと思ったら最後にやられた。妄想癖に絡め取られて、剝いても剝いてもキリがない玉葱。
と言う筋立てはいいんだけど、人物描写はどうなんだろう。Aが実はBだったと言われて、“成程、確かにそんな感じだ” とは思えなかった。理詰めで可能性を示されただけって感じ。あの人の匂やかな言動から私がそこをもっと読み取るべきだったか。 水死人を突き刺した意外な凶器には驚いた。 |
No.1199 | 5点 | 腰ぬけ連盟- レックス・スタウト | 2022/05/15 11:52 |
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幾つか名場面は確かにあるのに、それらをつなぐ部分が文字通りツナギの役目しか果たしていない。作品の性格を考えれば、そこからもっとユーモアを汲み取れて然るべきだと思うが、私が鈍いのか。
ネロ・ウルフは依存症のようにビールを空ける。アーチーがミルクばかり飲むのは何らかのキャラクター付けなのか、当時の米国の普通の食習慣なのか(“何か飲みますか” “ではミルクを” って人、現代日本にはあまりいないと思う)。 訳文で気になったところ。原文に当たりました。 問題の作家の『悪魔は最後の人をさらう(Devil Take the Hindmost)』と言う書名。これは “早い者勝ち” みたいな意味の諺で、take が原型なのは命令文だからで、従って訳はちょっと間違い。 13章(HM文庫版192ページ)。“燕を掘ったあとの穴” とは? 原文を見ると turnip =蕪、を掘ったあとの穴。 18章(284ページ)。“栗鼠のシチュー” は squirrel stew で、間違いではなさそう。検索していたら “米大統領某氏の好物だった” なんて記事も。美食? そして原文では判らないこと。Chapin の発音はチャピンでいいのか? 洋楽リスナーならメアリー・チェイピン・カーペンターの名が浮かぶところ。まぁ固有名詞だからね……。 |
No.1198 | 5点 | 紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪- 歌田年 | 2022/05/15 11:51 |
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ミステリとしてはたいしたものではない。ただ全体的に妙な前向きさが感じられ、しかもそれがプラスに作用している。面白さとは別の部分でそれなりの好感度だ。薀蓄小説としての説明的な記述は下手ではなく、ソレを維持したままもう少し味わいを出せれば、と期待したい。移植についての説明には少々変なところがある。 |
No.1197 | 8点 | ヒッキーヒッキーシェイク- 津原泰水 | 2022/05/09 11:50 |
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読者を小器用に引っ張る手管が、“小手先” と言う感じではなく、小説としての好感度は悪くない。描かれるのは謎のプロジェクトに関わる思春期的な群像劇。
但し緻密さよりも個々のパーツの美味しさ重視。ラストでも収斂より発散を志向しており、こういう小説観では、〈ルピナス探偵団〉シリーズのような、形式としてのミステリには向かないよな~と変に納得。 |
No.1196 | 7点 | 捜査線上の夕映え- 有栖川有栖 | 2022/05/09 11:49 |
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地味な事件を味わい深く書いている。事件そのものより後半の旅行記の方が印象に残っていたりして。動機に関わる心情に説得力がある。
こういう “偶然の再会” は好きじゃないけど(もしかしてソレが無いと事件は解決出来なかった?)、そういうもの全部込みでの地道な捜査の物語でパズラーの枠組みを適度に壊すのは面白い。 |