皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1953件 |
No.1093 | 7点 | 透明人間は密室に潜む- 阿津川辰海 | 2021/11/30 12:42 |
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表題作に関する揚げ足取り。
探偵:被害者は明らかに死んでいる、ならベストな対処は“部屋に入らず封印して警察に通報”では。ガラス片は、犯人に転ばされたら自分達が大怪我をする。身の危険を顧みず何が何でも捕まえる義務は、まぁ無い。 犯人:あの隠れ方だと、隙が生じても咄嗟に動けない。“透明”のアドヴァンテージは大きいのだから、各個撃破を目指した方が逃走出来そう(事前に探偵側の人数を確認出来ないのがネックか)。 総合して考えると、事態が肉弾戦ではなく高度な知恵比べになる前提で両者とも行動している。そこに至る設定をもう少し詰めるべきだった。 更に。“現場にもう1人の透明人間=真犯人が潜んでいて、1人が捕まった隙を突いて逃げた”可能性を、客観的には否定出来ない(よね?)。裁判で有罪判決は出るか? |
No.1092 | 6点 | トマト・ゲーム- 皆川博子 | 2021/11/30 12:42 |
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最初期の作品集、にしては随分手馴れた書きっぷりではないか(この時点で四十代だが、私は年齢はあまり関係ないと思うので)。
時代風俗のせいもあり(頭脳警察がゲスト出演!)、あくまで“一世代前の物語”を遠くから眺める感覚だけれど、「アルカディアの夏」にはクラクラした。部屋の臭いまで感じられそう。 |
No.1091 | 5点 | 死刑囚最後の日- ヴィクトル・ユゴー | 2021/11/28 10:17 |
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娘と面会する場面とか、面白い断片はあるけれど、全体としては真摯な分だけ興趣を遠ざけてしまっている。
文学史上最初の“日記体小説”だそうな。この形のテキストだと、古典的な“結末で語り手が死ぬ話はどうやって書かれたのか?”問題が浮上する。これはブログで何でも晒す現代人に対する皮肉だね。死刑囚にブログが許可されたら、執行直前まで更新するんだろうか。彼は死んでもスマホを手放しませんでした。 「序文」で死刑制度廃止を訴えているが、こういう論は長くなると説得力を失うと思った。 |
No.1090 | 5点 | ソフトタッチ・オペレーション- 西澤保彦 | 2021/11/28 10:07 |
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「捕食」のストーリー部分、「変奏曲〈白い密室〉」の超能力とはあまり関係ない部分の謎解き、は面白かった。
しかしチョーモンインに“霊”は鬼門では。どこまでアリかと言う世界設定がぶれるでしょ。表題作、工夫は見られるが、こういう真相は嫌いだ。 |
No.1089 | 5点 | 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー | 2021/11/27 13:15 |
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“怪奇趣味”がまるで怖くない。ドタバタ騒いで回って、これはメタ的なユーモア小説? 率先して殺人現場を荒らすなよバンコラン。
殺された人は巻き添えを食っただけ。特に運転手は端から“主人の添え物”扱いで、彼個人に対する動機など考慮されない。失礼な。 ところで、本書には語られざる恐ろしいラスト・シーンがあることにお気付きだろうか? 甲は首を拘束されたまま転落、首が折れてだらりとぶら下がる。その足の下では泥酔した乙がテーブルに突っ伏していびきをかいていた。 縊死の場合、たいていは“漏らす”と言いますよね……。 |
No.1088 | 8点 | 八月のくず- 平山夢明 | 2021/11/27 13:06 |
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相変わらず、予め一線を越えちゃったような短編集。
揃いも揃って獣の王で比較しづらいが「箸魔」が最も高カロリーか。一方、蜘蛛の糸一本分だけは此岸とつながり理屈をギリギリ通すのがこの人のやり口であって、その点完全に不条理なところへ行ってしまう表題作はちょっと違和感があった。初出一覧(=各作品がどのへんから産み落とされたか)も興味深い。 |
No.1087 | 7点 | invert 城塚翡翠倒叙集- 相沢沙呼 | 2021/11/23 12:45 |
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個人的には、非待望の続編。
あんな大ネタのキャラクターをシリーズ化するのはなんだかなぁ。“ノンシリーズのオンリーワンの強さ”とでも言うべきものが確かにあって、シリーズ化はせっかくのインパクトを水で薄めてしまうような行為だと私は思う。探偵役が必要ならまた作ればいいじゃないか。『 medium 』の孤高の存在感は失われてしまった。勿体無い。とは言ってもまぁ読むんだけど。 しかし実は、私には倒叙ものの的確な評価が出来ない。 犯人達は上手くやっているし、ミスもわざとらしくはない。とりあえず指摘すべきアラは見付からなかった。犯人側の心理描写は読ませるし、倒叙スタイルから更に捻った某作は見事。 その上で、“良い倒叙もの”と“物凄く良い倒叙もの”との線の引き具合が判らない、と言うのが正直なところだ。この煮え切らない評価基準を超えて迫って来る傑作、とまでは行かなかった。 |
No.1086 | 6点 | 雷神- 道尾秀介 | 2021/11/23 12:44 |
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作者が仕掛けたトリックよりも、それを通じて描かれた“心の絆”みたいなものがキモなのだろう。しかしそう読むには“動機付けの軽さ”が仇になった。
つまり、本気で正体を隠すつもりなら、人目が無い場所でも偽名で呼び合うべき。語り手達がその点を全然配慮していないので、軽い好奇心から過去をほじくり返しているように見えてしまうのだ。安易な行動のせいで人死にまで出た話に思えてしまうのだ。 どうも最近は“昔のことはそっと葬ったままにしておきたい事件関係者”に共感しがちな私である。 |
No.1085 | 4点 | 生贄を抱く夜- 西澤保彦 | 2021/11/23 12:42 |
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これぞと言う名品が見当たらない短編集。パターンとは違うことをしてみようとの心意気は評価したいが、これではあまり意味が無い。 |
No.1084 | 8点 | 警視庁草紙- 山田風太郎 | 2021/11/21 12:43 |
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ミステリ的な捻りは乏しく、物凄く面白い話と言うわけではない。結構悲惨なエピソードも含む。
しかしそれでも尚、行間のそこここに“碌でもないことばかりでも、どうにかやって行くしかないのヨ”と嘯いているような、浮世に対する清濁併呑の肯定性が感じられて、それがとても良い。出しゃばり過ぎないユーモアも効いている。 個人的偏見だが、それは横溝正史『悪魔の手毬唄』で感じたムードに似ている。 ただ、俄に納得しがたい結末には暫し呆然……。 |
No.1083 | 5点 | N・Aの扉- 飛鳥部勝則 | 2021/11/18 10:30 |
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“言葉”とは要するに記号である。人間の頭から生じるが、外へ出た途端にその発信元からは切り離される。故に、コレは本心、コレは嘘、と他者が言葉の内容から判定することは、突き詰めれば、不可能と言うことになる。
本書は“どのように書けば、その言葉が筆者の本心のように感じられるか”の実験(練習?)のように思えた。まぁ少なくとも前半は。 |
No.1082 | 8点 | 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 | 2021/11/18 10:25 |
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再読なり。ストーリー、何となく覚えていた。トリック、それなりに覚えていた。欠点、はっきり覚えていた!
と言うわけで「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん」「 The Ripper with Edouard 」は飛ばして読んだ。エクセレント! これでいいのだ。個人的にこの密室トリックは五指に入る。 |
No.1081 | 5点 | 密会- 安部公房 | 2021/11/16 12:37 |
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突然やって来た救急車が妻を連れ去った……ミステリとして書かれたわけではないが、私には本作、江戸川乱歩のエロティックで奇妙な話(「人間椅子」「パノラマ島奇談」等)のアップデート版のように思えた。
そして幾つかの叙述上の企み。考えてみれば“作者が読者に言葉を使って仕掛けるトリック”と言うのは必ずしもミステリの専売特許じゃないわな。 |
No.1080 | 5点 | 神と野獣の日- 松本清張 | 2021/11/11 10:25 |
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評価に迷う。しっかり書かれた作品ではある。しかし主題がアレならこの内容はありきたりだ。
“みんなできるだけ生きていてくれ”と言う課長の叫びはストレートで印象的。刑務所に着目したのは上手い。或る意味最も残酷な結末で、その点は唸らされた。 (ラスト数行のアレは無しにして、そこからの“復興”を描くのはどうかな? と思った) |
No.1079 | 5点 | 人形幻戯- 西澤保彦 | 2021/11/10 12:01 |
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このシリーズに対して“ミステリと言うよりキャラクター小説だ”との感想は当然あっただろうが、だからと言ってキャラ味を減退させては意味が無いのである。作者が萎縮してシリーズ・キャラクターの活躍を手控えている感じ。
その上で色々工夫しているのは判るが、それがなんだかチマチマした印象につながってしまう。特に、ホワイダニットについて、物理トリック解明と同じような理詰めの文法で語ってしまうのはちょっと勿体無いのでは? |
No.1078 | 4点 | 月の落とし子- 穂波了 | 2021/11/06 10:17 |
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危険を承知で遺体を回収し、地球に持ち帰りたがる。なんと感傷的な。この事故は人災でしょう。
更に――志願して現場に出たのに感情的になり暴走。 タクシーの中で無防備にペラペラ話す。 特定の個人に固執して封鎖から出損ねる。 何が出来るわけでもないのに、フラフラ出歩き封鎖ラインを確認しに行く。 など、登場人物たちの愚かしさ、が言い過ぎなら心の弱さにイライラした。勿論それがドラマを生むわけだが、いちいち分かれ道で悪い方に進む感じがどうにも……。 結末はやけに甘く、アレは被害を拡大させただろう。大の虫を生かして小の虫を殺すしかない時は、そうするべきだと私は思う。霧島補佐官が一番共感出来た。 アガサ・クリスティー賞受賞作だが、あくまでパニック小説。極限状況の中でパズラーに展開するわけではない。 |
No.1077 | 6点 | 転・送・密・室- 西澤保彦 | 2021/11/04 13:04 |
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探偵側の新しいキャラクターや設定に目が行ってしまい、パズラーとしての印象が薄くなってしまうなぁ。犯人(に限らず、事件関係者)の心情にも、ストンと得心しがたい部分がチラホラ見受けられる。あ、でも表題作の殺人の動機には意表を突かれつつ説得力を感じた。 |
No.1076 | 7点 | メルカトル悪人狩り- 麻耶雄嵩 | 2021/11/03 15:25 |
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突出した傑作は見当たらないものの、シリーズに期待されているものをきちんと引き受けた作品集。それはつまり、奇想を“いい塩梅”でまとめずに、行くところまで行くぜ、と言うことだ。
伝聞の“~らしい”が頻出するのは気に障った。しかし、カギカッコの台詞なら嘘もあり得るが、地の文の“~らしい”は事実、ってことで情報の正確さを担保している? 「水曜日と金曜日が嫌い」は、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』で“四重奏団”があまり生かされていない、との私の不満に応えてくれたかのよう。で、アンソロジー本『7人の名探偵』での初出から“大鏡→大栗”と名前が変更されてるんだよね。元ネタがあまりにも通じなかったか。 “イケメン”と“ハンサム”はどう違う? “ドリカム編成”なんて今も言うのだろうか(伏線かと疑ってしまった→男1人は不祥事で脱退してるじゃないですか)。題名を使った駄洒落はいらないと思う。 |
No.1075 | 7点 | 開城賭博- 山田正紀 | 2021/11/03 15:24 |
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広義の“時代物”作品集。SF要素はありません。
表題作。“史実”と言うアドヴァンテージはあれど、短い描写で賭けの場に見事引きずり込まれた。「恋と、うどんの、本能寺」。もっと紙幅を割いて、うどんの真相を追求して欲しかった。「独立馬喰隊、西へ」。作者十八番のはぐれ異能集団もの。幾度も読んだパターンだけどグッと来ちゃうね。私には判らないけど、岡本喜八監督へのオマージュとの由。 |
No.1074 | 6点 | 時は乱れて- フィリップ・K・ディック | 2021/11/03 15:21 |
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サンリオSF文庫の表紙はやり過ぎ。そこまで壮大な宇宙ドラマではない。SFではあるが、なんだかパラノイアやアムネジアを扱ったアメリカのスリラーのような感触も強い。原版の出版社は本作をSFではなくサスペンス小説として買ったそうな。P・K・ディックにしてはきちんと“真相”が示されて、その内容はミステリでもこのパターン読んだことあるぞ、そしてその時も思ったことだが、1人の為にここまで大掛かりなことをする必要あるのか? いや、SFしかもディックだと思えば寧ろ受け入れ易いかも。 |