皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
|
---|---|
平均点: 6.22点 | 書評数: 1953件 |
No.1153 | 5点 | 神獣聖戦 Perfect Edition- 山田正紀 | 2022/03/16 12:05 |
---|---|---|---|
動的な物語を或る種の背景に引っ込めてまで、本来は背景の役割であるところの “世界のありさま” を主役に引っ張り出している。上巻まるまる使って設定紹介をしているようなもので、正直そこは読みづらかった。記述を繰り返し重複させる悪癖もきつい。作者のアクロバットに付いて行けなかった気分で悔しい。
後半ようやく登場人物(人に限らず)が前面に出て来て面白くなるが意外とあっさり終結。説明にここまで紙幅を割いておいて、具体的なアクションはこれだけ? いや、ページ数としては充分長い筈なんだけど、壮大な設定を延々読まされたせいでスケール感が狂っちゃったんだね。 「テイク・オン・ミー」の歌詞が、厳密に言えばちょっと違う。“密室殺人” は有名なバカミス系トリックの応用? |
No.1152 | 5点 | 卵の中の刺殺体 世界最小の密室- 門前典之 | 2022/03/16 12:04 |
---|---|---|---|
ん? 何か登場人物が生き生きしてないかい? 今までの棒人間みたいな書き方に比べて随分と表情が見えて来た。いいねいいね。一人相変わらずの蜘蛛手が相対的に沈んで見える程だ。
ところが真相にはがっかりだ。問題編の良さをぶち壊して余りあるつまらなさ。諸々の必然性が希薄で、キャラクターが人形に戻ってしまった。これならいっそ “カリスマ教祖に操られていた” とかの方が良かった。あと、物理トリックで引っ張るならメタネタは混ぜない方がいい。 |
No.1151 | 8点 | となり町戦争- 三崎亜記 | 2022/03/10 11:32 |
---|---|---|---|
最後にきちんと辻褄を合わせる類の話ではないけれど、“通り魔殺人” が浮いているのが気になった。但し全体としてはその “書き過ぎない” 手捌きが効いている。
その上で、ファジィな不安感のようなものをシンプルに “戦争” と言い切った作者の強心臓の勝ちだ。“カジュアルな安部公房” なんて思ったが、これは私の読み手としての引き出しが乏しいせいであるな。 |
No.1150 | 4点 | 化身- 愛川晶 | 2022/03/10 11:31 |
---|---|---|---|
過去の経緯は面白い。両親に対する疑惑を覆せるとは思わなかったので感服。
一方、現在の怪しい出来事について。あまりに上手く運び過ぎで、まるで操の動向や心情を犯人が読者視点で見ているような印象を覚えた。 そして、坂崎先輩が “最大のヒント” として示した “宗教画の三枚目” はおかしい。犯人は操に誤解をさせたいのだから二枚目まででいい。三枚目を送ると真実を暗示してしまう。 ミスがもう一つ。第二章、保育園にて。“そのなも、いだいなカメハメハ”。違う、その歌は「南の島のハメハメハ大王」。 |
No.1149 | 8点 | 慟哭- 貫井徳郎 | 2022/03/10 11:31 |
---|---|---|---|
冷静な記述を連ねて苦悩する心情を炙り出す書きっぷりに引き付けられた。
その誠実な書き方の裏にあんなトリックを仕込むのもびっくり。自分の筆力を前提として飛び道具に使ったなら天晴れだし、自覚無しでやったならそれはそれで凄い。 ところで物語ラスト近く、彼の愛人の言動がどういう気持からなのか判らなかった。あの痴話喧嘩が最大の瑕疵。 |
No.1148 | 8点 | 大いなる幻影- 戸川昌子 | 2022/03/10 11:30 |
---|---|---|---|
階段しかない5階建てアパートで一人暮らしなんて無理っす。でも読み始めたらこれが止まらない。リレーされるスポットライトの中の様々な振る舞いが見事に絡まり、更にポンと手を打ったら今まで人間だと思っていたものが実は人形だった、みたいな変換が!
面白味のある癖を湛えた文章は独り善がりな部分もあるが、一筋縄では行かない物語を上手く支えている。“或る種の小説は文章によって成立している”、まさにそれ。 最後の最後、復縁だけでなく○○も求めるとは、彼女はとても懐が深いのか。ここは気になった。 “老嬢” とは “オールド・ミス” の意で、必ずしも “高齢者” を指すわけではなく “嬢(=未婚の女)” に比重を置いた語なんだ? 事前に教えて欲しかった。必要以上に年寄りのイメージで読んでしまったなぁ。 |
No.1147 | 4点 | 招かれざる客- 笹沢左保 | 2022/03/10 11:28 |
---|---|---|---|
第一の事件。非常階段にあった死体の発見、犯行時間の特定、いずれも偶然なのである。発見は犯行の2日後。もっと遅れて死亡推定時刻に1日単位の幅が出たら、犯人のアリバイ工作は無意味になってしまう。かと言って早過ぎてトリック完了前に呼び出されても困る。適切なタイミングで発見させる工夫も必要だったのでは。
第二の事件。ガレージの二階。犯人の行動は非常にやる気のあるトリックと言うか、自分が容疑者になる前提で一芝居打っているわけで、とても積極的。私の印象として犯人は “深く傷付き疲弊した人” なんだけど(そして第一の事件では “あいつを殺してやる!” と言うこと自体が気力の支えになったと思うんだけど)、それがこの段階で、この動機の殺人で、こんなことするかなぁ? と違和感あり。 それとも、ボロボロになった故にこそ、“自分に対して冷たい世界と密かに敵対する” ことを楽しんでいたのだろうか。警部補とのやりとりには確かにそんな突っ張ったニュアンスが無くもない。 そもそもの発端となった労組スパイ事件。そんな処分通告をしたらスパイ行為がバレて当然じゃないか、阿呆か、と思った。 壮年夫妻が妊娠中の20代女性を養女として迎える際、生まれて来る赤ん坊も夫妻の子として入籍するのがいちばんいい――このくだりの意味がよく判らない。もしかして、戸籍上だけでも両親揃っている方が良い、と言うこと? |
No.1146 | 9点 | 三体Ⅲ 死神永生- 劉慈欣 | 2022/03/01 12:42 |
---|---|---|---|
前2巻が主人公の強烈なキャラクターを大きな推進力としていたのに対し、今回の程心は比較的控え目な普通の女性で、おまえ何やっとんじゃあと頭を抱えたくなることもあったが、代わりにSF的アイデアの乱れ撃ちが物語を引っ張り思えば遠くへ来たもんだ。
便乗してくっついて来たようなAAの存在が、しかし意外にいい味出してる。暗号解読も楽しい。最後まで容赦無く追い込みつつ、着地点はまぁ納得。波乱万丈時空の旅で私の脳細胞も活性化したような気分。 おかげで気付いてしまった。“智子遮蔽技術”は変だ。三体世界の協力が無いと、きちんと機能している確証は得られないが、その協力に嘘が無い保証も無い。 |
No.1145 | 8点 | 恐怖の谷- アーサー・コナン・ドイル | 2022/03/01 12:41 |
---|---|---|---|
悪漢小説になる第二部が面白い。リスク管理の重要さを説く、含蓄に満ちたエンタテインメントである。
コナン・ドイルは、書きたいもの・上手く書けるもの・書くよう期待されているもの、の齟齬に苦労したんだろうな。そのへんがあからさまになる長編のホームズは罪作り。 |
No.1144 | 7点 | タイタンのゲーム・プレーヤー- フィリップ・K・ディック | 2022/03/01 12:41 |
---|---|---|---|
人口激減の未来社会で異星人あり超能力あり不可解なシステム多数あり。殺人事件が発生し、刑事や弁護士も登場。
しかし特殊設定ミステリならその設定を確定すべきなのに、そこがどうもあやふやで後出し連発。例えば殺人の位置付けにしても、異星人に支配された社会ゆえどうでもいい事なのか、逆に物凄い大罪なのか、よく判らない。 その、よく判らないまま進行する話を読まされる感じが妙にふわふわと心をくすぐる(話そのものではなく)。そこキチンとしてよと言う突っ込みをものともせず進む作者と私の間の空気感。それはまさに日常に潜む幻覚でありフィリップ・K・ディックそのもの。作者が多分意図しないまま、特殊設定ミステリが曲がりなりにも成立し(かけ)てしまったのだ。 |
No.1143 | 8点 | 伯林-一八八八年- 海渡英祐 | 2022/02/22 13:52 |
---|---|---|---|
本作には、作者の熱意と素材選びの良さが化学反応を起こして、実力以上の作品が生まれてしまったようなサムシングを感じる。根拠は無いが。
ミステリとしての緻密さには欠けるものの、それが却って歴史小説としての重さを支えているかも。存在ではなく“不在” が最後の決定的な証拠になるのは上手い。別れ際の対話で語られるのは “自らの罪が罰されないことの哀しみ” である(その点で、犯人の表に出ないキャラクターがちゃんと作られていると私は思った)。 |
No.1142 | 6点 | 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 櫻花の葬送- 太田紫織 | 2022/02/22 13:47 |
---|---|---|---|
曲がりなりにもミステリなのに前半は承前のストーリー。かなり忘れていたので前巻再読の上で臨んだ。この2冊は上下巻扱いにするのが親切では。
シリーズ中しばしば仄めかしていた不穏な未来の予告に十全に応えるものではない。ぶっちゃけ櫻子さんは最終巻で死ぬと予測していた(“期待” とは言うまい)。 きっちり収めるのではなく雰囲気重視っぽいが、そこそこ妥当な終幕ではある。しかし見方によっては、相手方の “悪意” をこれ以上書き続けられなかった作者の敗北、にも思える。ヘクターに最も時の流れを感じた。 |
No.1141 | 4点 | 書斎の死体- アガサ・クリスティー | 2022/02/22 13:45 |
---|---|---|---|
このトリックは苦しいな~。
あんな嘘が通用するのだろうか? 葬儀の時とか……。 死亡推定時刻がどのくらいの幅で出るかは予測不能だから、朝までアリバイ工作すべきでは? “時間を延ばせないか?” “ノー” と言うやりとりがあったが、医師がもう少し無能だったら容疑者の筆頭だよ(しかも間違った推理で)。 あっ違う、夜更けに帰宅してあっちの彼が死体を発見・通報する想定だったのか。だとしても予測不能なのは同じだし、通報が早過ぎてもアウト。まぁ犯罪に賭けの要素が混ざるのは止むを得ないか。 アリバイの為に一人殺す鬼畜っぷりは高ポイント。 |
No.1140 | 8点 | ブードゥー・チャイルド- 歌野晶午 | 2022/02/16 13:46 |
---|---|---|---|
“前世” の謎は見事で、その解明に奔走する過程も読み易く面白く書かれていると思う。但し――
基本的に悪意は何処にも無いのに過去のものも含めて殺人2件、意識不明1件。暴力に対するハードルが低い。 “英語が通じない” と言うだけで一気にコミュニケーション不全に陥っているようで極端。 牧師の対応は何か韜晦しているみたいだなぁ。 4章。“奥さんは、あなたとは無関係の来客がある場合でも、あなたに伝えるような人でしたか?” とは変な質問だ。伝えなかったら “伝えていない” ことも判らないじゃないか。ネタじゃないよね? |
No.1139 | 5点 | シャーロック・ホームズ最後の挨拶- アーサー・コナン・ドイル | 2022/02/16 13:45 |
---|---|---|---|
「ウィスタリア荘」、“粘土に牛乳をぶっかけたような色なんです” とは、悪夢を見そうな素晴らしい表現だ。「ブル-ス=パーティントンの設計書」、マイクロフトは事態収束の手段が非合法になりかねないと予測して弟に押し付けたんだな。「悪魔の足」、ミステリと言うよりホラーだけど好き。「瀕死の探偵」「最後の挨拶」は事件の終幕だけを描く新機軸が工夫なんだか手抜きなんだか。 |
No.1138 | 4点 | 高層の死角- 森村誠一 | 2022/02/16 13:44 |
---|---|---|---|
第二の殺人(美人秘書殺し)について。犯人は何故こんなトリックを弄したのか?
アリバイ工作とは基本的に、自分が疑われる前提で行うものである。しかし、犯人は被害者との関係を厳重に秘匿していた。トイレの一枚の紙切れから捜査線上に名前が挙がったのは想定外、かなり運が付いていなかった。 つまりは “無駄に終わる可能性は高いが、念の為に” と言う工作なのである。それにしては随分と手間暇も金もかけていて、当日はハード・スケジュールをこなして、これで疑われなかったら勿体無いくらいだ。 そして結果として、暴かれてしまうと数々の不自然な行動について言い逃れ出来ないだろうから、却って仇になったのではないか。そのへんの皮肉さに全く言及されていないのだから、作者は気付いていなかったのだろう。 要するに、アリバイものを書くなら、端から疑われるポジションに犯人を設定しておいた方が、こうしたイチャモンを付けられずに済むと言うことである。 |
No.1137 | 5点 | 火曜クラブ- アガサ・クリスティー | 2022/02/09 15:07 |
---|---|---|---|
ミステリとしてはたいしたことないが会話劇としての良さでまぁ読めた。
「バンガロー事件」と似たケースがアイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』シリーズにあるのは意図的な模倣? と言うか “真相がアレなら相応の手掛かりを示す必要があるでしょう”と指導したかったのかも。ミス・マープルは何故気付けたのか。 「溺死」もミス・マープルの推理の道筋が書かれていないのが残念。野菜売り云々は “もっともらしい(けれど意味が無い)ことを言って煙に巻く” と言うジョークだと思うんだよね。 |
No.1136 | 5点 | 繭の夏- 佐々木俊介 | 2022/02/09 15:06 |
---|---|---|---|
スリーピング・マーダーものとしてオーソドックスかつ無難な流れのあとで “えっ、そんな動機で殺したの?” と来るところがナイス。正気と狂気が混ざった感じで。
一方、自殺の動機はフィクションとして物足りない。相手を殺すならともかく。 と、書いて気付いたが、二つの死に直接的な関連性は無いんだね。タイミングのせいで連続的に見えただけ。その点もフィクションの構成として如何なものか。 部室の “外からしか施錠/開錠出来ないドア” って何? 上の階だと閉じ込められたら窓からも出られなくて危険。 |
No.1135 | 6点 | 嘘と正典- 小川哲 | 2022/02/05 10:41 |
---|---|---|---|
表題作と「魔術師」は、一つのネタを鏡写しにしたようなペアで、単独で読む分には問題無いのに、わざわざ一冊の本に併録するのは戦略ミスじゃないだろうか。「ムジカ・ムンダーナ」、柴田勝家のような文化人類学SF。結末があっけなさ過ぎる。「時の扉」、投票についての問い(推理クイズ?)が面白い。
良心的だが小品(必ずしも悪い意味ではない)との印象が残る短編集で、直木賞にノミネートまでされたのは、SFをよく知らない人が選んだのだろうとしか思えない。 |
No.1134 | 6点 | らんちう- 赤松利市 | 2022/02/04 10:07 |
---|---|---|---|
本文中の表記はあくまで “ランチュウ”。もしやこのタイトルは
♪魚で一番かなしい金魚 金魚で一番かなしいらんちう~(たま「らんちう」) なのだろうか。だからどうってことではないが。自己啓発セミナーでさだまさしの曲が使われていたのには苦笑(あの人の歌詞の “正論” は確かに使いようによっては危うい)。 いやぁ気持悪い話だ。前半は前川裕、後半は深木章子って感じ。 |