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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1083 8点 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 2021/11/18 10:25
 再読なり。ストーリー、何となく覚えていた。トリック、それなりに覚えていた。欠点、はっきり覚えていた!
 と言うわけで「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん」「 The Ripper with Edouard 」は飛ばして読んだ。エクセレント! これでいいのだ。個人的にこの密室トリックは五指に入る。

No.1082 5点 密会- 安部公房 2021/11/16 12:37
 突然やって来た救急車が妻を連れ去った……ミステリとして書かれたわけではないが、私には本作、江戸川乱歩のエロティックで奇妙な話(「人間椅子」「パノラマ島奇談」等)のアップデート版のように思えた。
 そして幾つかの叙述上の企み。考えてみれば“作者が読者に言葉を使って仕掛けるトリック”と言うのは必ずしもミステリの専売特許じゃないわな。

No.1081 5点 神と野獣の日- 松本清張 2021/11/11 10:25
 評価に迷う。しっかり書かれた作品ではある。しかし主題がアレならこの内容はありきたりだ。
 “みんなできるだけ生きていてくれ”と言う課長の叫びはストレートで印象的。刑務所に着目したのは上手い。或る意味最も残酷な結末で、その点は唸らされた。
 (ラスト数行のアレは無しにして、そこからの“復興”を描くのはどうかな? と思った)

No.1080 5点 人形幻戯- 西澤保彦 2021/11/10 12:01
 このシリーズに対して“ミステリと言うよりキャラクター小説だ”との感想は当然あっただろうが、だからと言ってキャラ味を減退させては意味が無いのである。作者が萎縮してシリーズ・キャラクターの活躍を手控えている感じ。
 その上で色々工夫しているのは判るが、それがなんだかチマチマした印象につながってしまう。特に、ホワイダニットについて、物理トリック解明と同じような理詰めの文法で語ってしまうのはちょっと勿体無いのでは?

No.1079 4点 月の落とし子- 穂波了 2021/11/06 10:17
 危険を承知で遺体を回収し、地球に持ち帰りたがる。なんと感傷的な。この事故は人災でしょう。
 更に――志願して現場に出たのに感情的になり暴走。
 タクシーの中で無防備にペラペラ話す。
 特定の個人に固執して封鎖から出損ねる。
 何が出来るわけでもないのに、フラフラ出歩き封鎖ラインを確認しに行く。
 など、登場人物たちの愚かしさ、が言い過ぎなら心の弱さにイライラした。勿論それがドラマを生むわけだが、いちいち分かれ道で悪い方に進む感じがどうにも……。
 結末はやけに甘く、アレは被害を拡大させただろう。大の虫を生かして小の虫を殺すしかない時は、そうするべきだと私は思う。霧島補佐官が一番共感出来た。

 アガサ・クリスティー賞受賞作だが、あくまでパニック小説。極限状況の中でパズラーに展開するわけではない。

No.1078 6点 転・送・密・室- 西澤保彦 2021/11/04 13:04
 探偵側の新しいキャラクターや設定に目が行ってしまい、パズラーとしての印象が薄くなってしまうなぁ。犯人(に限らず、事件関係者)の心情にも、ストンと得心しがたい部分がチラホラ見受けられる。あ、でも表題作の殺人の動機には意表を突かれつつ説得力を感じた。

No.1077 7点 メルカトル悪人狩り- 麻耶雄嵩 2021/11/03 15:25
 突出した傑作は見当たらないものの、シリーズに期待されているものをきちんと引き受けた作品集。それはつまり、奇想を“いい塩梅”でまとめずに、行くところまで行くぜ、と言うことだ。
 
 伝聞の“~らしい”が頻出するのは気に障った。しかし、カギカッコの台詞なら嘘もあり得るが、地の文の“~らしい”は事実、ってことで情報の正確さを担保している?
「水曜日と金曜日が嫌い」は、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』で“四重奏団”があまり生かされていない、との私の不満に応えてくれたかのよう。で、アンソロジー本『7人の名探偵』での初出から“大鏡→大栗”と名前が変更されてるんだよね。元ネタがあまりにも通じなかったか。
 “イケメン”と“ハンサム”はどう違う? “ドリカム編成”なんて今も言うのだろうか(伏線かと疑ってしまった→男1人は不祥事で脱退してるじゃないですか)。題名を使った駄洒落はいらないと思う。

No.1076 7点 開城賭博- 山田正紀 2021/11/03 15:24
 広義の“時代物”作品集。SF要素はありません。
 表題作。“史実”と言うアドヴァンテージはあれど、短い描写で賭けの場に見事引きずり込まれた。「恋と、うどんの、本能寺」。もっと紙幅を割いて、うどんの真相を追求して欲しかった。「独立馬喰隊、西へ」。作者十八番のはぐれ異能集団もの。幾度も読んだパターンだけどグッと来ちゃうね。私には判らないけど、岡本喜八監督へのオマージュとの由。

No.1075 6点 時は乱れて- フィリップ・K・ディック 2021/11/03 15:21
 サンリオSF文庫の表紙はやり過ぎ。そこまで壮大な宇宙ドラマではない。SFではあるが、なんだかパラノイアやアムネジアを扱ったアメリカのスリラーのような感触も強い。原版の出版社は本作をSFではなくサスペンス小説として買ったそうな。P・K・ディックにしてはきちんと“真相”が示されて、その内容はミステリでもこのパターン読んだことあるぞ、そしてその時も思ったことだが、1人の為にここまで大掛かりなことをする必要あるのか? いや、SFしかもディックだと思えば寧ろ受け入れ易いかも。

No.1074 8点 兇人邸の殺人- 今村昌弘 2021/10/31 13:46
 特殊設定サヴァイヴァルが面白過ぎてフーダニット部分が埋もれちゃったなぁ。
 “あの子”の実体がアレなら、“生け贄”は無意味だったかもしれない?
 雑賀の来歴は一応提示されたが、女性のほうのソレは不明のままで気になる。

No.1073 6点 黒牢城- 米澤穂信 2021/10/28 14:44
 歴史小説にも時代劇にもあまり縁が無い私にとって、天正年間に関する最も身近な資料は重野なおき『信長の忍び』なのである。しかも本書を読んだ時にちょうど雑誌連載が荒木村重の謀叛の真っ最中。種々の予習になったのは良くもあり悪くもあり(史実なのでネタバレは如何ともしがたい)。折に触れてぎゃぐまんがのきゃらくたぁが頭に浮かび参ったでござる。
 歴史小説としての重厚なりありてぃは、みすてり的にあまり凝れないと言う弱点でもあって、第三章までは物足りなくあったが、くらいまっくすのかたるしすは流石と申すほかなく感嘆致し候。

No.1072 8点 - 麻耶雄嵩 2021/10/26 13:10
 魅力的な世界設定(変な宗教大好き)。“珂允”を始めとする突飛な命名が効いている。結末のぶん投げ方もまさに麻耶雄嵩。
 ただ、その“世界”の有様の描写にフーダニットが埋もれてしまった感はある。犯人の意外性とかロジックでも驚ければ最強だったのに。

No.1071 6点 解体諸因- 西澤保彦 2021/10/26 13:03
 この頃はまだ登場人物の名前が普通だ。なんだか西澤保彦を読んでいる気がしないなぁ。
 おかしなコンセプトは評価するが、テーマが共通だから出来のバラツキが目立つのかも。「解体昇降」のエレベーターの真相には驚いた。

No.1070 7点 廃遊園地の殺人- 斜線堂有紀 2021/10/24 17:11
 クローズド・サークルだけどあまりサスペンスは感じられない。それこそ台詞にあるように“遊園地は広過ぎる”からだろうか。明らかになる裏事情には目を瞠ったし、そこに至る諸々も上手く示されていたと思う。

 ただ、これは単なるイチャモンになるが、ちょっと上手過ぎて“今時の優れた本格ミステリ作品はこうだ!”と言う枠に綺麗に嵌まり過ぎな感はある。悪役も含めてみんな“いい子”でスッキリ読み終えてしまった。

No.1069 6点 黄色い部屋の謎- ガストン・ルルー 2021/10/24 17:11
 最初の事件は、犯人の認識とは違う様相で表面化している。密室の謎は、犯人にとっても等しく謎だったわけだ。
 ではその後の行動は、犯人ゆえに事情を知っている特権で真相に逸早く気付き、罪を他者になすり付ける為のものだったのか。それとも自分以外にも悪意の持ち主が存在すると考えて、本気でそれを暴こうとしていたのか?

 私は、あの真相自体はアリだと思う。が、それに推理で辿り着けるのかなぁ? “被害者本人の意識的な芝居”と言う可能性を排除した理由は示されておらず、ぶっちゃけ山勘だよね。“そんな演出をしても犯人を庇う役には立たないだろう”って理屈だろうか? 推定無罪の温情推理?

No.1068 6点 罪と罰- フョードル・ドストエフスキー 2021/10/20 11:10
 事前の印象と随分違うな。
 貧しい大学生が信念に基づき人を殺したが、純真なソーニャに出会い悔い改めて自首する。
 と言った感じの、一般に流布しているこの作品の要約は適切なのだろうか。こういう風にまとめるといかにも高尚な世界文学っぽくなる。しかしそれは、読者にベストとは限らない読み方を方向付けてしまう、と言う意味で作品にとって不幸なことかも。

 ラスコーリニコフの心の軌跡を軸に読もうとするなら、本書は寄り道ばかりだ。金貸し殺しとは無関係に何人も死ぬし、関連の薄い複数の事柄が支離滅裂に並列される。
 要約文による先入観につい引っ張られて、彼の気持の断片をつなぎ合わせるような読み方で進んでしまったが、それで取りこぼしたものも多そうだ。結構興味深い脇役は多く、つまりは、とある階層の社会のスケッチ集みたいなものに思えた。

 ラスコーリニコフはもっと傲慢な選民意識の持ち主かと思っていたら、とんでもない、情緒不安定で殆どひきこもり予備軍。なんだその金の使い方は。自首だって自殺しない為の最後の方便のようなものだ。
 ソーニャは影が薄く、“娼婦”との設定にもこれと言った効果は見られない(貧しさの象徴?)。御仕事の場面も無いし。エピローグでいきなり存在感を増すのは作者の計算不足か。
 登場人物達の行動は面白いが、台詞は総じてくだくだしく冗長(博打のせいで素寒貧の作者が稿料稼ぎに引き伸ばしたのだろう)。焦点を定めず、もっと広い視座で読むほうが楽しめそうだけど、確認の為に再読するのはしんどいかな~。

No.1067 7点 恋のメッセンジャー- 山田正紀 2021/10/16 10:46
 愛読者にしてみれば「眠れる美女」は定番ネタで、処理の仕方もパターン通りかも。「かまどの火」は『宝石泥棒』の一場面を移植したよう(良い意味で)。上司からのこんな通信方法は嫌だ。
 他に生物学SFミステリ(とは言い過ぎ)、飛行機乗り達の切ない話、切り裂きジャックの話。アイデアを引っ張り過ぎない短編らしい短編が集まっている。植物が視点人物を務める「西部戦線」の語り口が面白い。

No.1066 5点 おしどり探偵- アガサ・クリスティー 2021/10/12 10:11
 コメディとしてはまぁ面白い。
 ミステリとしての他愛のなさが、時々“ミステリそのものに対する茶目っ気のある批評”に思えなくもない。
 探偵の真似をするだけで探偵が出来てしまうなら“本物”とは何ぞや?
 作者のこんな声が聴こえる――“皆さん、先進的なら偉いってもんじゃありませんよ”
 “探偵事務所の内幕なんてこんな程度かもしれないでしょう?”
 このノリで殺人まで起こってびびる。しかしそれもまた或る種の批評なのである。

 クリスティー文庫版59ページ。“口をつむいでいた” → “つぐむ” と “つむぐ” を混同して活用までするアクロバティックなミス?

No.1065 7点 箱男- 安部公房 2021/10/09 13:14
 “箱男”なる或る種冗談のような存在が、いつの間にか錯綜した叙述トリックへ。但しミステリ的な整合性は一時だけで瓦解し、無関係なエピソード(落書?)の“D”や“ショパン”が挿入されるあたりはイライラしたな~。
 ミステリ側の視点で言えば、安部公房みたいな作家が変格ものを目指した(ように見える)のは妥当な展開だと思うが、いたずらに判りづらくし過ぎ。やはり後半3分の1はもう少し読者に歩み寄って書いて欲しかったところ。

No.1064 6点 放浪探偵と七つの殺人- 歌野晶午 2021/10/09 13:06
 「水難の夜」の鮮やかな反転は見事。「阿闍梨天空死譚」トリック自体は結構判り易かったが、飾り付けが面白い。
 「烏勧請」わざわざゴミ屋敷を作るほうが大変では? ブツを動かせない確固たる理由が欲しかった。「有罪としての不在」あんなメタネタはいらん。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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