皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
|
---|---|
平均点: 6.22点 | 書評数: 1843件 |
No.1143 | 6点 | 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 櫻花の葬送- 太田紫織 | 2022/02/22 13:47 |
---|---|---|---|
曲がりなりにもミステリなのに前半は承前のストーリー。かなり忘れていたので前巻再読の上で臨んだ。この2冊は上下巻扱いにするのが親切では。
シリーズ中しばしば仄めかしていた不穏な未来の予告に十全に応えるものではない。ぶっちゃけ櫻子さんは最終巻で死ぬと予測していた(“期待” とは言うまい)。 きっちり収めるのではなく雰囲気重視っぽいが、そこそこ妥当な終幕ではある。しかし見方によっては、相手方の “悪意” をこれ以上書き続けられなかった作者の敗北、にも思える。ヘクターに最も時の流れを感じた。 |
No.1142 | 4点 | 書斎の死体- アガサ・クリスティー | 2022/02/22 13:45 |
---|---|---|---|
このトリックは苦しいな~。
あんな嘘が通用するのだろうか? 葬儀の時とか……。 死亡推定時刻がどのくらいの幅で出るかは予測不能だから、朝までアリバイ工作すべきでは? “時間を延ばせないか?”“ノー”と言うやりとりがあったが、医師がもう少し無能だったら容疑者の筆頭だよ(しかも間違った推理で)。 あっ違う、夜更けに帰宅してあっちの彼が死体を発見・通報する想定だったのか。だとしても予測不能なのは同じだし、通報が早過ぎてもアウト。まぁ犯罪に賭けの要素が混ざるのは止むを得ないか。 アリバイの為に一人殺す鬼畜っぷりは高ポイント。 |
No.1141 | 8点 | ブードゥー・チャイルド- 歌野晶午 | 2022/02/16 13:46 |
---|---|---|---|
“前世” の謎は見事で、その解明に奔走する過程も読み易く面白く書かれていると思う。但し――
基本的に悪意は何処にも無いのに過去のものも含めて殺人2件、意識不明1件。暴力に対するハードルが低い。 “英語が通じない” と言うだけで一気にコミュニケーション不全に陥っているようで極端。 牧師の対応は何か韜晦しているみたいだなぁ。 4章。“奥さんは、あなたとは無関係の来客がある場合でも、あなたに伝えるような人でしたか?” とは変な質問だ。伝えなかったら “伝えていない” ことも判らないじゃないか。ネタじゃないよね? |
No.1140 | 5点 | シャーロック・ホームズ最後の挨拶- アーサー・コナン・ドイル | 2022/02/16 13:45 |
---|---|---|---|
「ウィスタリア荘」、“粘土に牛乳をぶっかけたような色なんです” とは、悪夢を見そうな素晴らしい表現だ。「ブル-ス=パーティントンの設計書」、マイクロフトは事態収束の手段が非合法になりかねないと予測して弟に押し付けたんだな。「悪魔の足」、ミステリと言うよりホラーだけど好き。「瀕死の探偵」「最後の挨拶」は事件の終幕だけを描く新機軸が工夫なんだか手抜きなんだか。 |
No.1139 | 4点 | 高層の死角- 森村誠一 | 2022/02/16 13:44 |
---|---|---|---|
第二の殺人(美人秘書殺し)について。犯人は何故こんなトリックを弄したのか?
アリバイ工作とは基本的に、自分が疑われる前提で行うものである。しかし、犯人は被害者との関係を厳重に秘匿していた。トイレの一枚の紙切れから捜査線上に名前が挙がったのは想定外、かなり運が付いていなかった。 つまりは “無駄に終わる可能性は高いが、念の為に” と言う工作なのである。それにしては随分と手間暇も金もかけていて、当日はハード・スケジュールをこなして、これで疑われなかったら勿体無いくらいだ。 そして結果として、暴かれてしまうと数々の不自然な行動について言い逃れ出来ないだろうから、却って仇になったのではないか。そのへんの皮肉さに全く言及されていないのだから、作者は気付いていなかったのだろう。 要するに、アリバイものを書くなら、端から疑われるポジションに犯人を設定しておいた方が、こうしたイチャモンを付けられずに済むと言うことである。 |
No.1138 | 5点 | 火曜クラブ- アガサ・クリスティー | 2022/02/09 15:07 |
---|---|---|---|
ミステリとしてはたいしたことないが会話劇としての良さでまぁ読めた。
「バンガロー事件」と似たケースがアイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』シリーズにあるのは意図的な模倣? と言うか “真相がアレなら相応の手掛かりを示す必要があるでしょう”と指導したかったのかも。ミス・マープルは何故気付けたのか。 「溺死」もミス・マープルの推理の道筋が書かれていないのが残念。野菜売り云々は “もっともらしい(けれど意味が無い)ことを言って煙に巻く” と言うジョークだと思うんだよね。 |
No.1137 | 5点 | 繭の夏- 佐々木俊介 | 2022/02/09 15:06 |
---|---|---|---|
スリーピング・マーダーものとしてオーソドックスかつ無難な流れのあとで “えっ、そんな動機で殺したの?” と来るところがナイス。正気と狂気が混ざった感じで。
一方、自殺の動機はフィクションとして物足りない。相手を殺すならともかく。 と、書いて気付いたが、二つの死に直接的な関連性は無いんだね。タイミングのせいで連続的に見えただけ。その点もフィクションの構成として如何なものか。 部室の “外からしか施錠/開錠出来ないドア” って何? 上の階だと閉じ込められたら窓からも出られなくて危険。 |
No.1136 | 6点 | 嘘と正典- 小川哲 | 2022/02/05 10:41 |
---|---|---|---|
表題作と「魔術師」は、一つのネタを鏡写しにしたようなペアで、単独で読む分には問題無いのに、わざわざ一冊の本に併録するのは戦略ミスじゃないだろうか。「ムジカ・ムンダーナ」、柴田勝家のような文化人類学SF。結末があっけなさ過ぎる。「時の扉」、投票についての問い(推理クイズ?)が面白い。
良心的だが小品(必ずしも悪い意味ではない)との印象が残る短編集で、直木賞にノミネートまでされたのは、SFをよく知らない人が選んだのだろうとしか思えない。 |
No.1135 | 6点 | らんちう- 赤松利市 | 2022/02/04 10:07 |
---|---|---|---|
本文中の表記はあくまで “ランチュウ”。もしやこのタイトルは
♪魚で一番かなしい金魚 金魚で一番かなしいらんちう~(たま「らんちう」) なのだろうか。だからどうってことではないが。自己啓発セミナーでさだまさしの曲が使われていたのには苦笑(あの人の歌詞の “正論” は確かに使いようによっては危うい)。 いやぁ気持悪い話だ。前半は前川裕、後半は深木章子って感じ。 |
No.1134 | 8点 | 痾- 麻耶雄嵩 | 2022/02/03 13:45 |
---|---|---|---|
謎の為に世界を作っては壊す傲慢さが清々しい。 |
No.1133 | 5点 | 誰も死なないミステリーを君に 眠り姫と五人の容疑者- 井上悠宇 | 2022/02/03 13:44 |
---|---|---|---|
登場人物が他人の事情にグイグイ突っ込み過ぎではと思うが、これは設定ってことでいいか。記述者が独白で自己陶酔気味、これもまぁ設定ってことで。
物語として水面下に留めた部分が多過ぎて、面白さを殺いでしまった感じ。行儀良過ぎ。もう少し、腹を開いて内臓がでろ~ん、みたいな部分があってもいい。 |
No.1132 | 5点 | 犯罪は二人で- 天藤真 | 2022/02/03 13:43 |
---|---|---|---|
オチは読めたが面白かった「採点委員」。オチ以外は面白かった「隠すよりなお顕れる」「純情な蠍」。登場人物が回りくどい芝居をして “最初から全て罠でした” みたいな設定は好きではない。
全体的に、ユーモアが作品を生ぬるくしている感がある。しかしそれを削ったら天藤真の意味が無いしねぇ。 |
No.1131 | 6点 | 砂漠の薔薇- 飛鳥部勝則 | 2022/02/01 13:45 |
---|---|---|---|
この人は “作風” が強烈過ぎて、作品同士の差別化を無効化しちゃうところがある。だから、自らの作風に対抗出来るだけの核が一作ごとに欲しいところ。
さて本作、或る種の空虚さはなかなか上手く表されていると思う。ダミーのトリックもナイス。しかし全体としては、作風にやや流され気味。 |
No.1130 | 8点 | 魔境物語- 山田正紀 | 2022/01/30 12:08 |
---|---|---|---|
光風社版、天野喜孝の美麗表紙が素敵。
山田正紀のこの時期の冒険小説系作品は “はみだし者達の即席チーム、無謀な道行” ばかりなのだが、「まぼろしの門」はその中でも最高位に置くべき逸品。孝平がいるからこそ嘉兵衛のキャラクターが生きる構造に仏教を上手く絡めて、ラストシーンではもう泣きそう。 「アマゾンの怪物」も、パターン通りではあるが作品の水準として劣るものではない。全員に裏がある省エネ設定? ただ、中編2編収録と言うなんとも中途半端なパッケージが、山田正紀作品リストの中で本書の存在感を妙に薄くしているように思える。せめてもう1編あれば……もしかして “魔境” テーマでシリーズ化するつもりが頓挫したのだろうか。 |
No.1129 | 7点 | 宇宙の戦士- ロバート・A・ハインライン | 2022/01/30 12:07 |
---|---|---|---|
ハインラインは本作を書いたら右翼と言われた。さもありなん。
(小説で得た知識によれば)“部外者には共感しがたい価値観を基準にした縦社会” と言う点で、軍隊・警察・暴力団・宗教団体・体育会系は似ていて、書き方が上手ならそういった“異界”を泳ぐのは面白い。戦争モノはあまり好まないが、SFが混ざるとサラッと読めるな。 ミリタリーSFとしてのテクノロジー設定が、近年の作品(例えば林譲治『星系出雲の兵站』)と並べてもさほど遜色が無いのでびっくり。新訳の語彙のおかげ? いや、コレは逆で、昔も今も戦争は或る程度泥臭く描いたほうが受ける、と言うことか? 最後の方にちょっとだけ登場する “特殊能力者” は余計だと思う。世界設定が揺らぐ。 |
No.1128 | 5点 | 錬金術師の密室- 紺野天龍 | 2022/01/30 12:04 |
---|---|---|---|
この真相、某メフィスト賞作品そっくり。
但しこれは、作者ゆえに自作品を上手く客観視出来なかっただけで、ネタをこっそりかっぱらって使いまわそうと言うズルではなかったと思う。軽いオマージュくらいのつもりが、実際にはがっつり換骨奪胎になってしまったぞ、と言ったところでは。スチームパンク要素の匙加減がいい感じで、そんな風に好意的に捉えたくなる。 |
No.1127 | 5点 | 新ナポレオン奇譚- G・K・チェスタトン | 2022/01/27 11:48 |
---|---|---|---|
こういう、広義の戦争状態を風刺的に描く小説と言うのは、まぁ或る程度一つのパターンとして存在するわけで、その系譜の中で見ると、本書は戯画化のセンスがあまり宜しくない(特に一番最後の会話は蛇足)。私は “時代的な制約” とか考慮しないので、例えば筒井康隆あたりと比べるとかなり物足りなかった。
一方で、文章に関してはブラウン神父シリーズより気が利いていると言うか、もともとこうして良い塩梅でスタートしたのに、やりすぎてあの読みにくさになっちゃったんだな~。 |
No.1126 | 5点 | 闇の左手- アーシュラ・K・ル・グィン | 2022/01/27 11:47 |
---|---|---|---|
えっ、これシリーズ物なの、しかも後半の方の一冊? 先に言ってよ。読み終えて解説を読むまで知らなかった。
“異文化” はSFに限らず文学の大きなテーマだが、その中で物凄く優れた一冊とは言えない。後続作品の良い踏み台にはなったかもしれない。それ故、相対的に物足りなさが感じられる。 論文小説とでも言うべきか、一人称なのに妙に間接的な雰囲気が漂い、しかしそれがあまり効果的ではない。性別に関する件は、作品の真ん中に据えたいのか、背景として溶け込ませたいのか、扱いが曖昧な気がする。 ゲンリーが捕えられ更生施設へ送られるくだりが最も印象的だったが、その後の氷原行は情景を上手くイメージ出来ず。挿入される幾つかの神話みたいなものが適度に支離滅裂でナイス。 |
No.1125 | 7点 | 歌の終わりは海- 森博嗣 | 2022/01/22 12:45 |
---|---|---|---|
タイトルでテーマをはっきり宣言している割に、それについてさほどの深みや捻りが示されているわけではない。既にある言説をなぞったとの印象しかないが、しかしこれは斬新な意見を求める類のネタじゃないからねぇ。
ストーリー上にマッチポンプめいた装飾を加えなかった為、流れはスッキリしている。逆説的だが、余計な工夫をしていないおかげで好感の持てる佳作に仕上がった。 |
No.1124 | 7点 | 化石の城- 山田正紀 | 2022/01/16 12:01 |
---|---|---|---|
これは作者初の “明確なSF要素を含まない長編” だ。
ところが山田青年はあとがきにこう綴っている。 “ぼくはSF作家を志す者だ。なぜ他の小説をではなく、SFを選んだのかという理由のひとつに、諸先輩の誰もが口にされることだが、その間口の広さがある。(中略)ぼくの独断にすぎないかもしれないが、すでに日本においては、SFを小説の一ジャンルと考えるのは正確でないような気がする。頭のなかで繰り返したあるシミュレーションを、小説にとりいれるテクニック、あるいはそれに伴う「思想」のような気がするのだ。 ――というわけで、この『化石の城』は現代史をテーマにしたSFである。” これは、山田正紀を読み解く上で、なかなか重要かつ親切な告白ではないか。 デビュー作で星雲賞を受賞し、立て続けに傑作SF長編を発表、一躍SF界の寵児となるかと思ったらアクション小説へも手を伸ばした。それはそれで面白いのだが、“初期作品のようなSFを(初期のうちに)もっと書いて欲しかった” 私にしてみれば “何故そっちへ行った!?” との疑問を拭い去ることが出来ずにいた。てっきり出版社主導の “売る為の路線” として書いたのかな~と邪推していたのだが、しかし本人としてはそこまでの区別は無かったと言うことだろうか。 超自然現象の有無とかにこだわらず、本作から『宿命の女』や『人喰いの時代』を経て『ミステリ・オペラ』あたりに辿り着くものが “現代史SFと言う思想” だとすれば、山田正紀のミステリが何故いつもミステリとして何か欠けているように感じられるのかの説明になるような気がする。 |