皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] あなたへの挑戦状 |
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阿津川辰海 × 斜線堂有紀 | 出版月: 2022年09月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 5件 |
講談社 2022年09月 |
No.5 | 6点 | 猫サーカス | 2024/10/15 18:20 |
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阿津川辰海の中編では、建物二階分の深さの水槽と防火シャッターで構成された密室状況で、泳ぐことの出来ない男が殺されたという謎に警官コンビが挑む。前口上を述べたり、図面が多用されたり、極めて意外な形で名探偵が活躍したりと楽しい。斜線堂有紀の中編は、人気者の妹を持った兄の心を殺人事件と絡めて描く。絵を描くことをやめてホテルで働く兄と、絵で人気者となり美大を受験する妹。兄に宿る嫉妬心と親愛の情を巧みにサプライズと結びつける腕前に感嘆した。そしてこの二編を読んだ後、袋綴じの「挑戦状」を開封することになる。そこに待ち受けるのは、また別の驚き。巻末の競作執筆日記やミニ対談を含め、ミステリの愉しみを多面的に味わえる。 |
No.4 | 7点 | HORNET | 2023/07/15 11:50 |
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巨大な水槽のある円柱型の建物「水槽城」で怪死事件が発生。犯行当時、水槽で現場は密室状態だった(阿津川辰海「水槽城の殺人」)。ホテルで起きた大学教授殺人事件。犯人は犯行後、死体の横で一晩眠っていた―(斜線堂有紀「ありふれた眠り」)
「紅蓮館の殺人」「透明人間は密室に潜む」の阿津川辰海と、「楽園とは探偵の不在なり」「廃遊園地の殺人」の斜線堂有紀が、互いに「あなたへの挑戦状」とお題を出して小説を書いて競い合う企画。 お互い舞台設定が先に与えられ、それをもとに物語を編み上げていくという過程になるのだが、特に阿津川の「水槽城の殺人」のほうはよく考えたなぁと思った。「ありふれた眠り」は、どちらかというと犯人が先に見えてしまっていて、兄妹関係のドラマ的要素の方が印象に残った。 何にせよ、今を時めく人気ミステリ作家による本格の競作。十分に堪能した。 |
No.3 | 6点 | 虫暮部 | 2022/11/24 12:24 |
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こんな企画を立てたら、こうやって読者にカードを開いて見せたりするのもまぁ当然の発想か。確かに興味深いが、創作の内幕を明かすのはあまり好きではない。これだけ作風の違う2編を抱き合わせるのは良し悪し。小説作品を、小説以外の要素で水増しした、との感も否めない。小説だけで充分楽しめる出来なんだけどね。 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | 2022/11/02 04:02 |
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(ネタバレなし)
神奈川県の大型ゲストハウス「アクエリウム」。そこは壁面に巨大な水槽を誇ることから、近隣の人々から「水槽城」と呼ばれる建築物だ。その中で、奇妙な? 殺人事件が発生する。 (『水槽城の殺人』) 「僕」こと24歳の青年・丹内一寿(かずひさ)は、芸大受験のために実家から出てきた19歳の妹・千百合を宿泊させる。そんな矢先、一寿の勤務先のビジネスホテル「エクスール」で、予期せぬ殺人事件が起きる。そしてその犯行現場には、不可解な謎が残されていた。 (『ありふれた眠り』) 阿津川辰海が執筆した中編パズラー『水槽城の殺人』と、斜線堂有紀の執筆による中編パズラー『ありふれた眠り』の二編を収録。ともに今年の「メフィスト」誌の同じ夏季号に掲載されたもので、書籍の巻末には二人の作者による特別書き下ろし原稿が追加されている。 ……評者が本書について言いたいことは、本サイトで先にレビューされたフェノーメノさんが実に丁寧に明快に語ってくださっているので、あまり付け足すことはない(汗・笑)。両方の作品の感想も、それぞれほぼ同様。 自分もミステリ小説としてのトータルの旨味で『ありふれた眠り』の方が面白かった。なんか昭和期の日本推理作家協会の、年間ベスト国産短編アンソロジーに収録されていそうな感じだけど。 『水槽城』の方は、阿津川センセ、狙いはわかりますが、それじゃもろもろの意味でウケは取れないです……という思いが。掛けた労力ほどの効果があがってないし、面白さにもつながっていないのでは。 でもって、もったいぶって巻頭に袋とじまでして、実のところ本書(この中編二本)のメイキング事情はソレ(その程度のありふれたこと)かい? というのが正直なところ(……)。 巻頭の袋とじは、古本屋で本書を買わせないための、単なる商売上の方策でしょう、たぶん。いや、出版不況の昨今、そういう仕掛けを絶対に悪いとは言わないけれど、あんまりこういうのを乱発すると読者(ミステリファン)が現在形の国産ミステリから離れていくのでは? といささか心配になる。 (あと、一応はネタバレ? を警戒して書くけど、先人として欧米のあの二人の作家の名前は両先生の念頭に上らなかったのかね? 少なくとも阿津川先生の方は、120%心得ていると思うが……。) どちらの中編も佳作以上にはなってるとは思うが、これは企画そのもの~書籍全体のハッタリ具合が、いささかハジケすぎた一冊では? |
No.1 | 5点 | フェノーメノ | 2022/10/08 14:31 |
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企画意図に触れます。
どういう企画でのどういう競作なのかよくわからずに読んでいたが、最後にわかった。お互いが相手に謎だけを提出して、その謎を基に小説を書く、という競作。なのだが、なぜそれを最後に明かすのかわからない。競作意図を伏せて、それ自体を読者へ向けての謎にしよう、という作りだと思うが、余計というか編集の独りよがり感がある。これは編集の問題でしょう。作家に責はない。 最初に企画意図を知らせ方が、読者としてはすんなり作品に入っていけると思う。水槽城の殺人を読んで、阿津川辰海、こんなもんか、と思ってしまった。こういう企画だと知って読めばまた違った読後感になったはず。 それと初版限定の袋綴じだが、別に袋綴じを開けずとも、内容自体は丸々本の最後に載っている。違うのはサインが手書きかどうかだけ。袋綴じを開ける必要は全くない。初版限定短編小説みたいなのを最近よく見るが、あれはまだ特別感があるからわかる。ただこれはなんのための特典かわからない。この内容だと知ってたら、袋綴じ開けなかったのに。まあ開ける前から嫌な予感はしたが。 「水槽城の殺人 阿津川辰海」 奇妙な建物に物理トリック。それ自体は好みだが、ただ悪い意味で本格ミステリっぽい。被害者の心理なり行動なりが全く納得いかない。 「ありふれた眠り 斜線堂有紀」 犯人は殺人を犯した後になぜその部屋で眠ったのか、というのが提出された謎。ミステリとしては薄めだが、謎自体をうまくストーリーに絡めていて好印象。こちらの方が面白かった。 以下ネタバレ。 水槽城の殺人、被害者がナイフ奪い取ったとかあるけど、それでなんで反撃しないの?自殺志願者だったのか? |