海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1163 5点 多重人格探偵サイコ 西園伸二の憂鬱- 大塚英志 2022/03/29 13:46
 あれっ、こんなもん? ハッタリは効いてるけど、内実が想定を上回る程ではない。分冊したのが失敗では……?

No.1162 5点 多重人格探偵サイコ 小林洋介の最後の事件- 大塚英志 2022/03/29 13:46
 あれっ、こんなもん? ハッタリは効いてるけど、内実が想定を上回る程ではない。分冊したのが失敗では……?

No.1161 8点 追憶の烏- 阿部智里 2022/03/24 12:21
 容赦無いなぁ。
 作者のペンが書き換える世界に、口をぽかんと開けて流されるしかなかった。筋は通っているから(いつから伏線を考えていたのか?)抗えない。
 私としては “外界での八咫烏や天狗の稼業とは?” と言うあたりが気になってたんだけど、そんな牧歌的な方へは進んでくれそうにない。

No.1160 8点 朝と夕の犯罪- 降田天 2022/03/24 12:19
 この人達はなかなか器用に引き出しを使い分け、しかもそれが表層的な借り物には見えない筆力を具えているのではないか。
 3分の2まで読んで、“もう大きな謎は残ってないじゃん。あとは後日談?” と思ったら、思いがけぬところから風呂敷を何枚も引っ張り出して来て感心した。しかしこれ、事実をどこまでどう明かすかは熟考を要するだろう。一度明かしたらチャラには出来ないから、警察官達のスタンスに私は賛同しかねるな。

No.1159 7点 ルピナス探偵団の当惑- 津原泰水 2022/03/24 12:18
 なんとも妙な読み味だ。ミステリとしての出来は決して悪くないのに、キャラクター小説としての巧みさに埋もれている部分があり相対的に目立たない。かと言って総体的に出来が悪いわけではなく、そういうスタイルであるとの確信に満ちた佇まいで、相応の読後感が得られた。
 ピザを食べた理由よりも、影の長さが導く手掛かりの方が面白い。

No.1158 5点 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー 2022/03/24 12:16
 ラスト3分の1、暗号解読以降は、私の中の少年探偵団魂がムクムクと甦って楽しかった。しかしそこに辿り着くまでが退屈。しかもこれが、リアリティや誠実さ故に地味なのではなく、出し惜しみって感じ。手記や回想シーンならいいんだけど、カギカッコの中で語られる怪奇趣味には距離を感じてしまいノレない。

 フェル博士の立場は “最初から事件に関わっている御近所さん” なわけで、本来なら容疑者の一人では? 初登場だから “シリーズ・キャラクターは犯人ではない” って御約束は通用しないでしょ。
 博士が住む “水松(いちい)荘”。この字は “みる”(海藻の一種)とも読むのでイメージがユラユラ揺らぐなぁ。
 5章。追いはぎや贋金使用で絞首刑。怖い! まぁ日本も似たようなものか。
 12章。“報道は九日とつづかなかった”。 a nine days' wonder (一時は評判になってもすぐに忘れられてしまう事件)に引っ掛けた洒落?

No.1157 4点 名探偵に甘美なる死を- 方丈貴恵 2022/03/24 12:16
 ごちゃごちゃし過ぎ。それも “読み解くのが楽しい複雑さ” とはちょっと違うんだよなぁ。
 VRだからこそ成立するトリック、と言うアイデアはまぁいい。
 復讐者側が何故こんな回りくどいやり方をしたのか、色々説明しているが結局よく判らなかった。特に、グレーゾーンには踏み込みつつも “嘘は吐いていない” とフェアプレイに固執する理由(更なる上位者が居てフェアプレイを強要されているのかな……なんて思ったんだけど)。

 第九章。ライトを使うトリックはダミーとはいえ酷い。穴の真下にライトがぶら下がるんだから物を落としようがないだろう。

No.1156 7点 楽園の烏- 阿部智里 2022/03/16 12:08
 これは驚き。
 八咫烏シリーズは、雅やかな朝廷絵巻として幕を開け、キャラクター達の絡み合う “情” を軸に軍事やら信仰やらのネタも取り込み拡大して来た。しかしそれは所詮 “持てる者” の傲慢に過ぎなかった、と断罪するかの如き視点の転換!
 私の記憶が確かなら、作者はインタヴューで “読者がどんな展開を期待しているかは判るが、それを書いては駄目なのだと思う” と言う旨の発言をしていた。成程、こういうことか。この人は想像以上に肝が据わっていると思う。

No.1155 6点 五匹の子豚- アガサ・クリスティー 2022/03/16 12:06
 ミスリードには引っ掛かってたので最後の最後で驚いた。
 しかし「藪の中」な構成のせいで話がくどい。手記があるなら対話はいらないな~。

 曖昧な記述ながら “被害者の遺産を自動的に妻と子供が相続” とあるが、妻は欠格では。英国の法律では違うの?
 十五歳にしては彼女が幼稚だと思うのは偏見だろうか? 飲食物絡みの悪戯は洒落にならない度合いが高い、と言うことは弁える年齢だと思うのだが。真相に関わる要素だから、作者の都合で変なキャラクターにされちゃったような印象も……。

No.1154 5点 神獣聖戦 Perfect Edition- 山田正紀 2022/03/16 12:05
 動的な物語を或る種の背景に引っ込めてまで、本来は背景の役割であるところの “世界のありさま” を主役に引っ張り出している。上巻まるまる使って設定紹介をしているようなもので、正直そこは読みづらかった。記述を繰り返し重複させる悪癖もきつい。作者のアクロバットに付いて行けなかった気分で悔しい。
 後半ようやく登場人物(人に限らず)が前面に出て来て面白くなるが意外とあっさり終結。説明にここまで紙幅を割いておいて、具体的なアクションはこれだけ? いや、ページ数としては充分長い筈なんだけど、壮大な設定を延々読まされたせいでスケール感が狂っちゃったんだね。

 「テイク・オン・ミー」の歌詞が、厳密に言えばちょっと違う。“密室殺人” は有名なバカミス系トリックの応用?

No.1153 5点 卵の中の刺殺体 世界最小の密室- 門前典之 2022/03/16 12:04
 ん? 何か登場人物が生き生きしてないかい? 今までの棒人間みたいな書き方に比べて随分と表情が見えて来た。いいねいいね。一人相変わらずの蜘蛛手が相対的に沈んで見える程だ。
 ところが真相にはがっかりだ。問題編の良さをぶち壊して余りあるつまらなさ。諸々の必然性が希薄で、キャラクターが人形に戻ってしまった。これならいっそ “カリスマ教祖に操られていた” とかの方が良かった。あと、物理トリックで引っ張るならメタネタは混ぜない方がいい。

No.1152 8点 となり町戦争- 三崎亜記 2022/03/10 11:32
 最後にきちんと辻褄を合わせる類の話ではないけれど、“通り魔殺人” が浮いているのが気になった。但し全体としてはその “書き過ぎない” 手捌きが効いている。
 その上で、ファジィな不安感のようなものをシンプルに “戦争” と言い切った作者の強心臓の勝ちだ。“カジュアルな安部公房” なんて思ったが、これは私の読み手としての引き出しが乏しいせいであるな。

No.1151 4点 化身- 愛川晶 2022/03/10 11:31
 過去の経緯は面白い。両親に対する疑惑を覆せるとは思わなかったので感服。
 一方、現在の怪しい出来事について。あまりに上手く運び過ぎで、まるで操の動向や心情を犯人が読者視点で見ているような印象を覚えた。
 そして、坂崎先輩が “最大のヒント” として示した “宗教画の三枚目” はおかしい。犯人は操に誤解をさせたいのだから二枚目まででいい。三枚目を送ると真実を暗示してしまう。

 ミスがもう一つ。第二章、保育園にて。“そのなも、いだいなカメハメハ”。違う、その歌は「南の島のハメハメハ大王」。

No.1150 8点 慟哭- 貫井徳郎 2022/03/10 11:31
 冷静な記述を連ねて苦悩する心情を炙り出す書きっぷりに引き付けられた。
 その誠実な書き方の裏にあんなトリックを仕込むのもびっくり。自分の筆力を前提として飛び道具に使ったなら天晴れだし、自覚無しでやったならそれはそれで凄い。
 ところで物語ラスト近く、彼の愛人の言動がどういう気持からなのか判らなかった。あの痴話喧嘩が最大の瑕疵。

No.1149 8点 大いなる幻影- 戸川昌子 2022/03/10 11:30
 階段しかない5階建てアパートで一人暮らしなんて無理っす。でも読み始めたらこれが止まらない。リレーされるスポットライトの中の様々な振る舞いが見事に絡まり、更にポンと手を打ったら今まで人間だと思っていたものが実は人形だった、みたいな変換が!
 面白味のある癖を湛えた文章は独り善がりな部分もあるが、一筋縄では行かない物語を上手く支えている。“或る種の小説は文章によって成立している”、まさにそれ。
 最後の最後、復縁だけでなく○○も求めるとは、彼女はとても懐が深いのか。ここは気になった。

 “老嬢” とは “オールド・ミス” の意で、必ずしも “高齢者” を指すわけではなく “嬢(=未婚の女)” に比重を置いた語なんだ? 事前に教えて欲しかった。必要以上に年寄りのイメージで読んでしまったなぁ。

No.1148 4点 招かれざる客- 笹沢左保 2022/03/10 11:28
 第一の事件。非常階段にあった死体の発見、犯行時間の特定、いずれも偶然なのである。発見は犯行の2日後。もっと遅れて死亡推定時刻に1日単位の幅が出たら、犯人のアリバイ工作は無意味になってしまう。かと言って早過ぎてトリック完了前に呼び出されても困る。適切なタイミングで発見させる工夫も必要だったのでは。

 第二の事件。ガレージの二階。犯人の行動は非常にやる気のあるトリックと言うか、自分が容疑者になる前提で一芝居打っているわけで、とても積極的。私の印象として犯人は “深く傷付き疲弊した人” なんだけど(そして第一の事件では “あいつを殺してやる!” と言うこと自体が気力の支えになったと思うんだけど)、それがこの段階で、この動機の殺人で、こんなことするかなぁ? と違和感あり。
 それとも、ボロボロになった故にこそ、“自分に対して冷たい世界と密かに敵対する” ことを楽しんでいたのだろうか。警部補とのやりとりには確かにそんな突っ張ったニュアンスが無くもない。

 そもそもの発端となった労組スパイ事件。そんな処分通告をしたらスパイ行為がバレて当然じゃないか、阿呆か、と思った。

 壮年夫妻が妊娠中の20代女性を養女として迎える際、生まれて来る赤ん坊も夫妻の子として入籍するのがいちばんいい――このくだりの意味がよく判らない。もしかして、戸籍上だけでも両親揃っている方が良い、と言うこと?

No.1147 9点 三体Ⅲ 死神永生- 劉慈欣 2022/03/01 12:42
 前2巻が主人公の強烈なキャラクターを大きな推進力としていたのに対し、今回の程心は比較的控え目な普通の女性で、おまえ何やっとんじゃあと頭を抱えたくなることもあったが、代わりにSF的アイデアの乱れ撃ちが物語を引っ張り思えば遠くへ来たもんだ。
 便乗してくっついて来たようなAAの存在が、しかし意外にいい味出してる。暗号解読も楽しい。最後まで容赦無く追い込みつつ、着地点はまぁ納得。波乱万丈時空の旅で私の脳細胞も活性化したような気分。
 おかげで気付いてしまった。“智子遮蔽技術”は変だ。三体世界の協力が無いと、きちんと機能している確証は得られないが、その協力に嘘が無い保証も無い。

No.1146 8点 恐怖の谷- アーサー・コナン・ドイル 2022/03/01 12:41
 悪漢小説になる第二部が面白い。リスク管理の重要さを説く、含蓄に満ちたエンタテインメントである。
 コナン・ドイルは、書きたいもの・上手く書けるもの・書くよう期待されているもの、の齟齬に苦労したんだろうな。そのへんがあからさまになる長編のホームズは罪作り。

No.1145 7点 タイタンのゲーム・プレーヤー- フィリップ・K・ディック 2022/03/01 12:41
 人口激減の未来社会で異星人あり超能力あり不可解なシステム多数あり。殺人事件が発生し、刑事や弁護士も登場。
 しかし特殊設定ミステリならその設定を確定すべきなのに、そこがどうもあやふやで後出し連発。例えば殺人の位置付けにしても、異星人に支配された社会ゆえどうでもいい事なのか、逆に物凄い大罪なのか、よく判らない。
 その、よく判らないまま進行する話を読まされる感じが妙にふわふわと心をくすぐる(話そのものではなく)。そこキチンとしてよと言う突っ込みをものともせず進む作者と私の間の空気感。それはまさに日常に潜む幻覚でありフィリップ・K・ディックそのもの。作者が多分意図しないまま、特殊設定ミステリが曲がりなりにも成立し(かけ)てしまったのだ。

No.1144 8点 伯林-一八八八年- 海渡英祐 2022/02/22 13:52
 本作には、作者の熱意と素材選びの良さが化学反応を起こして、実力以上の作品が生まれてしまったようなサムシングを感じる。根拠は無いが。
 ミステリとしての緻密さには欠けるものの、それが却って歴史小説としての重さを支えているかも。存在ではなく“不在” が最後の決定的な証拠になるのは上手い。別れ際の対話で語られるのは “自らの罪が罰されないことの哀しみ” である(その点で、犯人の表に出ないキャラクターがちゃんと作られていると私は思った)。

キーワードから探す
虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1843件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(99)
西尾維新(72)
アガサ・クリスティー(68)
有栖川有栖(51)
森博嗣(49)
エラリイ・クイーン(47)
泡坂妻夫(39)
歌野晶午(29)
小林泰三(29)
島田荘司(24)