皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1843件 |
No.1423 | 7点 | 腐葉土- 望月諒子 | 2023/04/01 14:20 |
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基本的にはとても面白かった。様々な正義が絡み合って依拠したり反発したりするさまが有機物っぽいニオイを発する力作。“長過ぎでは?” と思いつつ読んでいたら意外なところがミステリ要素につながったりして、濃度が高く必然的な長さであると納得。
ただ、最終章で真相①犯人は誰でその動機はこうだ、と言うところがミステリとしての頂点。ここでせっかく驚いたのに真相②実は主導者は別にいて本当の動機は云々、と畳み掛けるのはどうも戦略ミスに思える。①より②の方が衝撃度が低いんだもの。ソフトに引き戻してどうする。 私だったら、まず②で或る種の感動を誘った後に①が来て “結局、カネかッ?” と落とす方がいいな。 それに、②に関してはこれといった証拠が無い(よね?)。自供内容に頼るのみである。つまり情状酌量狙いの犯人が舌先三寸で切り抜けた、のかも。作者の意図はどうあれ、リドル・ストーリーとして成立してしまっている。 粗探しをもう一つ:やはり最終章。“睡眠薬の濃度を上げる為に酒の量を減らした” との説明には首を傾げてしまう。薬の量を増やせば済むじゃないか。酒が少ないと盗み飲みしづらい。 作者は、何らかの齟齬を生じさせておかないと手掛かりが少な過ぎる、と思ったんじゃないかな~。でもこれは悪手だな~。 |
No.1422 | 5点 | 栞と噓の季節- 米澤穂信 | 2023/04/01 14:19 |
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最低限の現実感を保持しようとして小さくまとまってしまった。それこそが狙いだと言われたらまぁ頷くしかない。リミッターを一つ二つ解除すれば小市民シリーズくらいにはなるだろうに。
小ネタは効いている。on the road は “ドサ回り” じゃ。 |
No.1421 | 4点 | ペニス- 津原泰水 | 2023/04/01 14:18 |
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語り手の頭の中だけで勝手にホラーが進行しているみたい。アメーバが仮足を広げるように連想が結び付いて現在地の意味を見失わせる。それが最後に反転して納得させてくれることは遂に無い。
但し、そのワカラナサに乗れなかったのは、エロスの指向が私の嗜好と合わないことが大きい。と言うか読者に嫌悪感を催させる目的でそれら性的な事象を書いたとしか思えない。つまり私のこういった感想は作者の思う壺なのではないだろうか。雑誌連載で細切れに読めばまだ呑み込み易かったのだろうか。初出は小説推理だぜ。 |
No.1420 | 8点 | 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー | 2023/03/24 12:41 |
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はっきりと伏線が示されていたのに何故気付かなかったのだろう。
それぞれ方向性の違う子供達のキャラクター、その更に異分子である車椅子のフィリップの存在感も良い。心情描写が交錯して、こんなに書いちゃって矛盾しない真相に着地出来るのか? と心配になったが、この視点の変遷が面白く、シリーズ探偵を起用しなかったのは正解。 以下ネタバレ。 クリスティー文庫版解説で指摘されている、“犯人は真相を暴露して自分の罪状を軽くしようとするのではないか” と言う件について。 これは状況が或る種のチキン・レースになっているんだね。 暴露してしまうと、罪状は軽くなっても、家族の中の元のポジションに戻って遺産を受け取ることはまぁ出来ない。一方、アリバイ自体は本物なのだから、自分が頑張っているうちに証人が出頭すれば晴れて無罪放免でポジション復帰が出来る。何故か未だ証人は見付からないが、それは明日かもしれない……。 なかなか難しい判断だろう。六ヶ月程度では思い切れなかったのも不自然ではない、と私は思う。獄死は結果論であって、当人にしてみれば命まで賭けていた心算はないのでは。 但し、あくまで故人の心情なので、作者としてはこの苦悩を描く視点を確保出来なかったのかもしれない。 |
No.1419 | 8点 | 密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック - 鴨崎暖炉 | 2023/03/24 12:40 |
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御見逸れしました。前作よりかなり良い。トリックは馬鹿馬鹿しいものも含めて皆合格点。異常者が揃ってキャラ立ちも充分。
しかし、こんな “アイデア大放出” みたいな書き方では遠からず消耗戦になってしまうと思うのだが大丈夫なのだろうか。作家として長生きする気はないのかもしれない。それともストックがまだごっそりあるのだろうか。 ところで初版、“クレッシェンド錠” と一貫して書かれているけど、正しくは……。 |
No.1418 | 7点 | リア王密室に死す- 梶龍雄 | 2023/03/24 12:39 |
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潔癖さと傲慢さを併せ持った蛮カラ青春記。山頂に集い議論! 写真一枚でリーベ! そんな経験など無いのにノスタルジーを誘われてしまう。
“蓮の実のはじける音なの”、くーっ。 それを、あんな真実に落とし込む作者の何と残酷なことよ。前半に比して、後半で描かれる諸々、事件の真相はともかく、卒業後の彼等の行く末が美しくない点が、がっかりだった。綺麗事で終わらせたっていいじゃないか……。 |
No.1417 | 6点 | 魔空の迷宮- 山田正紀 | 2023/03/24 12:38 |
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発表時点で作者は十年選手だが、本書は最初期の “神シリーズ” に回帰したような伝奇サスペンス。(いつものことだが)世渡り出来ない主人公。その周りに現れては消える人の連鎖。都市のもう一つの貌。
面白い歴史ネタを絡めたが、説明だけで終わってしまった、裏側に潜り切れなかった、との感が強い。黒幕との対決がもっとじっくりあっても良かった。 武藤に関しては、何故そこまで入れ込むのか、人物像の裏打ちが甘いのでは。途中で死ぬ奴ならそれでもいいけどさ……。 C-NOVELS 版の表紙イラストはイメージと違うな。サイズが明記されているわけではないが、あんな肉感的な “男が悦ぶ女” 的なキャラクターは出て来ないでしょ。みんなもっと棒みたいな身体だと思う。主題に関わる重要な問題なので厳しく指摘しておきたい。その反省を踏まえてか、文庫版の表紙はそれなりに嵌まっている。 |
No.1416 | 5点 | 中野のお父さんの快刀乱麻- 北村薫 | 2023/03/24 12:34 |
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歌の上手い人の、コールユーブンゲン(合唱教則本)での基礎練習を延々聴かされている気分である。上手いのは判っているから、もっと面白い歌を歌って欲しいのである。
娯楽小説の読者に、純文学の薫りを気軽に味わわせてくれるシリーズ? と言うか北村薫はそもそもデビュー時からそういう部分が存在意義のような作家であった。僻みも込めて言うとそれは “純文学の方が上” との不文律の下に成り立っているところがあり、変な劣等感を刺激する危うさも孕んでいた筈だ。しかしこの人は同時にミステリ愛もだだ漏れだったので、スノッブ扱いされず支持を得たのだと思う。 しかし本書。そういう、太宰治とEQを同列に語る或る種の力業が希薄になってしまうと、私なんぞは北村薫に対して僻みが沸々と再燃してしまう。その意味で、夫人問答で嵯峨島昭や南里征典の官能ミステリをスルーしたのは看過出来ないぞ。 |
No.1415 | 8点 | 幻象機械- 山田正紀 | 2023/03/17 12:23 |
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“日本人の正体” をスケールの大きなSFミステリの形で暴いている。全体を貫く薄暗い空気が、押入れに隠れた遠い日の記憶のようで心地良く怖い。思い切り曲解するなら、連城三紀彦『戻り川心中』をSFの鏡に映した反射像。虚実綯い交ぜ、だが引用されている不気味な歌は “実” だ、ってところが凄いね。真相も実だったらどうする? |
No.1414 | 7点 | ソマリアの海賊- 望月諒子 | 2023/03/17 12:21 |
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ハンドメイド感溢れる国際? 謀略? 冒険? 小説。与太話を読んでいる心算がいつの間にかえらいことに。
所謂発展途上国に対する “学問と秩序は無いが純朴” と言った型通りの先入観を利用して作者に上手く乗せられた気分。現地人のキャラクターが似通っており紛らわしい、と感じるのも私が先入観のせいでそう読んでしまうのかな。 それほど緻密ではないが全体のムードと相俟ってOK。多少の問題意識を笑い泣きのエンタテインメントで挿んで差し出す意図は達成されていると思う。 |
No.1413 | 7点 | 少女Aの殺人- 今邑彩 | 2023/03/17 12:19 |
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ミステリとしての出来は良いが、それを飛び越えてググッと迫る小説としての強さには欠ける。
“偽装工作として犯人がラジオに投稿したのでは?” との意見に対して “採用される保証が無い” と反論は誰もしていないが、そこを突き詰めればもっと早く解決出来たかもね。 “埋める” エピソードは使い回しが過ぎると思う(読むの三作目)。 チョイ役で “聖子” が登場するのは洒落? |
No.1412 | 6点 | 俺が公園でペリカンにした話- 平山夢明 | 2023/03/17 12:18 |
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食あたりしそうで1日2話が精一杯。頭痛発熱悪寒を堪えて2週間かかってなんとか読了。
ぐちょぐちょでべろべろなロード・ノヴェル短編集?“おれ” がみんな同一人物で実は連作長編? 嫌がらせのように下種なエピソードばかり20も並んでいるのは平山夢明だもの仕方がない。他のものを期待する方が悪い。 但しコレ、汚さ下品さを除けば、或る種の経典や神話のワケの判らなさに通じる気もするのである。 |
No.1411 | 4点 | 心霊探偵八雲1/赤い瞳は知っている- 神永学 | 2023/03/17 12:16 |
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見事に何も無いな~。この “特筆すべきポイントの無さ” が、読書習慣の無い層への入門編としては有効なのだ、とでも思うしかない。
ファイルⅢ。設定がやや曖昧だが、亡き兄の妻が死んだら、相続権は彼女の子・親・兄弟姉妹にある。弟には総取りどころか一銭も入らないだろ。 |
No.1410 | 6点 | 郵便配達は二度死ぬ- 山田正紀 | 2023/03/09 12:12 |
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“警察小説” とまでは行かずとも半分くらいは警察官の視点で描かれている、にもかかわらず雲を踏むようなふわふわした空気に包まれ、入り組んだ真相もリアリティ云々ではなくそんな空気込みで成立する様は、ミステリの型を借りて真夏の夜の夢を演じているよう。
しかしこの公演、大成功とは言い難い。原因はスターの不在? 群像劇が裏目に出て、はぐらかされたような読後感。それはそれで一つの表現コンセプトだと言えなくもない(か?)。 暗号はまぁ御愛嬌。読者の楽しめる暗号ってなかなか無いな~。 |
No.1409 | 6点 | 田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察- 望月諒子 | 2023/03/09 12:07 |
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今までの作品とは随分違う。森博嗣の水柿君シリーズみたい。謎や物語の本筋より、脱線(とも言い切れないか?)する部分の方が面白い。
それなりの年齢の作者の、若い世代に対する理解と疑問と羨望が反映されている、と見えるようにわざと書いている気がする。桜子のキャラクターも微妙に批評性が滲んでいるし。 犯人(と言っていいのかな?)の出番が少ないので、明らかになっても “誰?” な状態。花瓶を落としたことは認識したのに、片付けどころか状況確認すらせず帰っちゃうのは如何なものか。 |
No.1408 | 6点 | 特別料理- スタンリイ・エリン | 2023/03/09 12:07 |
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表題作。初読の筈だがオチを知っていた。何処で知らされてしまったのだろうか。
実物はなかなか控え目な、仄めかすだけの終わり方。予備知識無しだと意味が判らない読者もいるのでは? いや、そもそも共通の “正解” を見出すことが読書の目的では必ずしもないしね。これをいきなり読んで自分がどう感じるか知りたかった。 作品が優れている → 知名度が上がる → ネタバレする → 知名度が上がる前の素直な読み方が出来なくなる = “名作ゆえに名作としての良さを維持出来ない” パラドックスはどうすればいいのか。久々に悔しい。 基本的に “起承転結” ではなく “起 → 承 → 転結” と言う三部構成で、真ん中の “承” が退屈、が言い過ぎなら、長過ぎる。その長めの部分を楽しめる程の “語り口の妙” だとはそれほど感じなかったなぁ。 |
No.1407 | 6点 | 赤いべべ着せよ…- 今邑彩 | 2023/03/09 12:06 |
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良く出来てはいるが、型通り。ただ、この作者の場合、それが個性の一部みたいになっているかも。そら来た! 待ってました! と掛け声が出てしまう。歌舞伎の様式美の世界である。今邑屋ァ! |
No.1406 | 5点 | 8の殺人- 我孫子武丸 | 2023/03/09 12:05 |
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ユーモアの要素は、作品を戯画化し、細かなリアリティはどうでもいいと感じさせる効果がある。三きょうだいのキャラ立ちも、その世界の中でなら有効と認めていいだろう。
第一の事件。目撃の絶妙なタイミングを鑑みれば、共犯者が誰か容易に見当が付いてしまう。作中の探偵役は “犯人にあやつられた可能性” とか慎重な意見を述べたが、素直に考えれば明白である。共犯者本人は、自身のその危ういポジションに気付かなかったのか。普通あんな計画には乗らないだろ。 この点、一捻りを期待していたんだけど……。 第二の事件。磔が成立するには、被害者が扉を背に或る程度まっすぐ立つ必要があるけれど、あの状況でその姿勢はポーズを取るようで不自然。まるで狙ってくれと自ら的になっているようだ。具体的にイメージしてみると、凄くカクカクした動き。道を直角に曲がる人? 細かなリアリティはどうでもいい? あと解決編。“この犯人はダミーで、あっちが真犯人だ” とする論理的な根拠は無い(よね?)。本棚の中身で探偵役がショックを受ける展開は作者の苦肉の策に思える。 |
No.1405 | 8点 | 愚者の毒- 宇佐美まこと | 2023/03/02 12:44 |
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全体の構図の予測が付いても、エピソードの肉付けがしっかりしていて消化試合のような感じは無い。確かに解説に書かれている通り、犯人に同化してしまうな~。
強いて文句を言えばラスト。妻が何故か方言で呼びかけ、それが夫の心の糸を切った。この部分、どちらの気持もピンと来ない。 |
No.1404 | 7点 | 烏の緑羽- 阿部智里 | 2023/03/02 12:43 |
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感想をまとめにくい展開になって来た。群像劇の登場人物を一人一人丁寧に編み込んでいる。互いが互いの鏡として対立するキャラクターに説得力があるし、エピソードの作り方も巧みで、面白いことは間違いない。しかし、ピース集めに既に三巻を費やして、軸になる物語はあまり進んでいない。
このペースだと完結に何年かかるか。いや、ここまでで未だ10年しかかかっていないし、焦りは禁物。浜木綿はちょっとしか出番が無かったな~。 |