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幽玄F
佐藤究 出版月: 2023年10月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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河出書房新社
2023年10月

No.2 6点 虫暮部 2024/01/05 13:34
 航空機の名称が具体的なイメージにつながらないので、マニアックな趣味の話を意味不明なまま雰囲気だけ聴いているような気分。舞台がタイに移って以降、人も動き始めて気持が乗って来た。でもちょっと美化し過ぎ、詩的に書き過ぎじゃない? 森博嗣のあのシリーズにも通じるところがあるけど、題材が題材だからこういう風になっちゃうのかなぁ。薀蓄小説として色々盛り沢山なあたりは実にミステリ的だ(皮肉ではない)。

No.1 8点 人並由真 2023/11/30 02:59
(ネタバレなし)
 2008年。東京の四谷。8歳の少年・易永透は、高空を飛ぶ飛行機に憧れていた。そして操縦士になる人生の目標に憑りつかれた透は高校で、同じく空と飛行機に強い思い入れを抱く級友・溝口聡と出会う。それを機にまた、透の運命は大きく変わっていった。

 ポリティカルフィクションや航空冒険小説の要素も部分的にはあるが、主題は空に憑りつかれ、その憧憬の念の強さゆえにとんがった人生を送る主人公の結晶化されたドラマーー。
 狭義どころか広義のミステリとさえ言いにくいような作品だが、前述のようなある種の冒険小説的な後半の作劇も踏まえて非常に面白かった。
 というより、地の文のほぼ大半が「~だった」「~た」で終わる叙述や、人物描写の絶妙な積み重ねで織りなされていく、独特の個性を感じさせる小説としての味わいが素晴らしい。

 評者は作者の長編はこれで三冊目(『テスカトリポカ』のみ未読)だが、一作一作個々の興趣があり、その上でたぶん今回が一番、書きたいことの結晶感が高い。
 二重の意味で余韻のあるクロージングも心に染みた。
 
 特化した主題(航空もの)の作品ではあるが敷居はかなり低く、良い意味で口当たりは良い。
 作者が標榜する三島由紀夫作品への傾斜も、読者に三島文学の素養がないと楽しめないなどということもない(現に三島作品なんてまだ数冊しか読んでない自分も、何ら問題なく最後まですらすら読めた)。まあ三島世界に通じている読者の方が、本作のより深い読解ができるとかといったことはあるかもしれないが。

 今年の収穫といえる一冊、なのは間違いないであろう。


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佐藤究
2023年10月
幽玄F
平均:7.00 / 書評数:2
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