皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1848件 |
No.39 | 6点 | 蔭桔梗- 泡坂妻夫 | 2024/08/01 13:33 |
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泡坂妻夫の職人もの/恋愛小説はどれも、構造と言うかストーリーのリズム感のようなものがワン・パターンだと感じる。ミステリならそもそもパターンに則った文芸形式であるから気にならない部分なのに、ミステリ度が薄まるにつれて鼻に付くようになってしまうのかも。そのへんに関して、こちらから一歩、意識的に作品世界に歩み寄らねば読めなかった。
とはいえ、直木賞受賞作にしては意外に楽しめた。 |
No.38 | 6点 | 折鶴- 泡坂妻夫 | 2024/02/09 13:20 |
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いにしえの和の世界が、今の自分とも地続きの筈なのに異国の話のよう。単純に “時代の流れに乗り損ねた者の恨み節” とも言い切れない自己言及的な展開を孕み、重層的な興趣が柔らかな言の葉で編まれている。
ただ、ミステリ部分が “諸要素の一つ” として紛れがちでどっちつかず。だったら刑事事件になるような展開は省いて人情話に徹した方が良かったかも。 |
No.37 | 5点 | 飛奴- 泡坂妻夫 | 2023/06/16 12:32 |
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表題作。それは “いかさま” なのだろうか。情報収集の為に工夫を凝らしただけに思えるが。当時の基準ではインサイダー取引みたいなもの? 許容範囲のことしか認めないさまは、反語的な文明批評である。
「仙台花押」の花火見物が涼しげで楽しそう。「向い天狗」は亜愛一郎ものの再利用だけど、そこそこ上手く処理している。「夢裡庵の逃走」は唐突だ。先生のあんなキャラクターについての伏線は殆ど感じられなかったけどなぁ。 |
No.36 | 5点 | からくり富- 泡坂妻夫 | 2023/05/09 12:43 |
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トリッキーな演出はネタ切れなのか、事件の裏に潜む人情の機微みたいなものに焦点を移して来たが、それにしては「手相拝見」の真相、身内の情人にスケコマシを頼むってことは、身内が泣く前提で浮気を唆しているわけで、釈然としない。 |
No.35 | 7点 | びいどろの筆- 泡坂妻夫 | 2023/05/02 13:18 |
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“宝引きの辰” と比べるとかなりミステリ度が高く、イメージだけで偏見を持って読まずにいたのは損だったと反省。
表題作はおかしい。絵馬を持って逃げれば済む話である。また、事後工作が却って絵馬に注目を集め、その結果身許が割れているのだから本末転倒だ。しなくていいトリックを使わせてしまう作者の欠点もちゃんと出ているんだな~。 「南蛮うどん」の “蠟燭” に拍手。実在の秘伝書に載っているネタなのだろうか。私にも作れる? 現代物の登場人物の御先祖様らしき名前がチラホラ。芥子之助なんて『喜劇悲奇劇』とまるで同一人物で、と言うことは実は時間テーマのSFなのであった。 |
No.34 | 5点 | 織姫かえる- 泡坂妻夫 | 2022/09/21 12:30 |
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興味深い小道具や雑学は出て来るが、物語との絡め方としてはそんな使い方でいいの? と言うものばかりである。 |
No.33 | 6点 | 鳥居の赤兵衛- 泡坂妻夫 | 2022/09/14 13:22 |
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一つのアイデアで押し通す話ばかりだったこのシリーズだが、本書には二の矢を射る作例が幾つか見られ意表を突かれた。やはりこのくらいの展開はあった方が読み応えがある。
その一方で、あっけなく終わる短い話も、息抜きとして悪くないな~と言う心境になって来た私である。 |
No.32 | 6点 | 朱房の鷹- 泡坂妻夫 | 2022/07/26 16:57 |
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表題作、将軍様関連のものに粗相してしまった下手人を探偵役が御目こぼしする話。身分制度に起因する不条理の中でも最たるもの。久生十蘭にも都筑道夫にもあるプロットで、それを意識して引き継いだようにも思える。
「角平市松」には味わうべきポイントがまるで見当たらず困った。こだわりが強く世渡り下手な職人像は寧ろありきたりに感じたし、殺人事件も余計なエピソードって気がする。 「天狗飛び」の高所に札を貼る話は作者の持ちネタか、読むのは三度目。 |
No.31 | 5点 | 凧をみる武士- 泡坂妻夫 | 2022/07/02 15:39 |
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「雛の宵宮」のような身代わりを、何の因果も含めず押し付けるのは、結果往来とはいえ如何なものか辰親分。
「幽霊大夫」は、大夫の意図や情夫との因縁が関係者の口からあっさり割れてしまうのが、説明的で物足りない。“謎解き” ではなく “事情通探し” になっている。 |
No.30 | 7点 | 自来也小町- 泡坂妻夫 | 2022/05/27 15:46 |
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前巻よりはミステリ度が上がったか。とはいえどれも小ネタで、現代ものなら短編に仕立てるのも苦しかろう。このシリーズは、そこを江戸情緒の演出で如何に包むかと言う挑戦なのだろう。人情話的な要素も上手く絡めて、収録作いずれも失望はしなかった(が、大傑作も無かったな)。 |
No.29 | 6点 | 鬼女の鱗- 泡坂妻夫 | 2022/04/16 12:24 |
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泡坂妻夫の時代物は、以前読んだ時にまるで楽しめなかったので途中で止めてしまった。此度再び手に取ってそれなりの味わいを感じられたのは “これは同作者の現代ミステリとは別物” と割り切ったおかげか。とはいえ「江戸桜小紋」の真相が亜愛一郎シリーズみたいで一番良かった、と思ってしまうあたり修行が足りんな~。 |
No.28 | 6点 | 生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術- 泡坂妻夫 | 2020/11/29 15:04 |
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〈生者と死者のテスト〉について。描写が曖昧だけれど、六人の名前を書くところは隠しておらず、“その中の誰が死者かを当てる”ことが主眼? 隠して書いたら、作中の説明では透視出来ないよね。でも当てるだけなら6分の1の確率だ。場の雰囲気でその程度でも驚く、と言うこと? 良く判らない。
また、自動書記の内容が同じ文字列のアナグラムなのは何を狙った演出なのか? |
No.27 | 5点 | 弓形の月- 泡坂妻夫 | 2020/07/31 12:20 |
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ミステリをとろとろ煮込んで、半分煮崩れたところでハイどうぞ。スープは珍味だけど具の歯応えは無くなっちゃった。両方の美味さを具有するタイミングで火を止めるのは難しいんだろうなぁ。
真吹三津雄の血縁つながりでの関係者と、劇団つながりでの関係者が、同じマンションに住んでいて互いにそれと知らずに知り合いになっている。これはどうも御都合主義的。現実には有り得るその手の偶然も、フィクションだと私は気になる。 本作に限らないが、泡坂作品は隙あらば和服の販促小説になるので苦笑。 |
No.26 | 9点 | 奇術探偵 曾我佳城全集- 泡坂妻夫 | 2020/06/11 12:24 |
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なにしろ20年に亘って書き継がれたシリーズなので、こうしてまとまると、ミステリ作家としての泡坂妻夫の全盛期と低迷期が一望に収まってしまうのが罪なところ。
“奇術は楽しんで見るのが一番いいんです。もっと上手な見方は、その場の雰囲気をもっと楽しくするように、奇術師に協力する” 判っちゃいるけどやめられない、ネタバレしつつ揚げ足取り。 「消える銃弾」道具まで作って、明らかに計画的犯行。なのにその道具の後始末は御粗末。持ち出して処分出来なくなった突発的事由、なんてのがあれば良かったのでは。 「花火と銃声」解決編がちょっと説明不足。①壁の中の銃弾を見付けるのに警察は金属探知機を必要とした。事件当時には更にカレンダーが掛けられていた。それを犯人が自力で発見出来たのか? ②事前に被害者から聞き出しておいたなら、弾痕の位置・カレンダー両方について告げるほうが自然な気がする。その場合、佳城は推理で“(カレンダーは犯人が)予想しなかったもの”と述べているが、その蓋然性は高くないと思う。③犯人は前回の殺人について、死体を秘かに処分する、という方法でとりあえず隠蔽に成功している。今回その手は使えなかったのか? 「だるまさんがころした」「浮気な鍵」で紹介される錠のマジックや“夢のエキスプレス”は、ただ単に“そういう仕掛けがある道具”ということではないのか。凄いのは作った人であって、所有者がそれを持っているおかげでマジシャンとして評価される、と言う価値観は良く判らない。 |
No.25 | 6点 | 砂時計- 泡坂妻夫 | 2020/06/02 12:09 |
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職人モノの一編になかなか鮮やかなミステリ的仕掛けが施されていて、そうすると他の作品にも同系統のものを期待してしまうのが人情ではないか。しかし他の職人モノはあくまで職人モノであり肩透かしを食らった。ならば問題の一編を職人モノの末尾に配しミステリ短編との橋渡しにすべきで、途中に割り込む形の芸能モノ2編は最初に置こう(最後に置くと、ミステリ要素の無さがやはり肩透かしだから)。
と言う感じに収録順にも配慮してくれると印象がまた違うと思う。ミステリも職人モノも泡坂妻夫作品として同じ扱いで読んで欲しい、みたいな編集意図を感じるがなかなかそうもいかないのよ。 |
No.24 | 5点 | 蚊取湖殺人事件- 泡坂妻夫 | 2020/05/27 11:38 |
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実現可能性の低そうなトリックや極端な偶然について、巧みな話術で読者を丸め込んでまぁアリかな~と言う気分にさせる、とはこの作者がよくやる手。しかし本書、ミステリの短編は4作とも、ネタとしては悪くないのだがその話術の効果が弱くて、結果としてなんだかぼやけた話になってしまった。
奇術・職人モノはオマケってことでまぁいいや。 |
No.23 | 7点 | 斜光- 泡坂妻夫 | 2019/12/05 12:40 |
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泡坂妻夫の描くエロスはあまり好きではない。基本的な趣味の違いでこれはどうしようもない。
本作は良く出来たプロットだし(しかし姿を消した原因が判らないってことはないだろう)、御都合主義的偶然が運命的な天の配剤のように読めるのは人物造形の確かさ故だろうか。それでも濡れ場になるとフッと冷静になってしまう自分がいる。 |
No.22 | 6点 | ダイヤル7をまわす時- 泡坂妻夫 | 2019/09/30 10:48 |
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ミステリ要素のアイデアより小説としての語り口の巧みさで読ませる作品集。こういうものはファンこそ高く評価しなくちゃならないのだろうが、地味な短編ばかり集めたんだなぁと言う読後感。構図の逆転が一番鮮やかに見える「青泉さん」が良かった。
「芍薬に孔雀」のカムフラージュは(どのカードが重要かは明白なのだから)無意味。と言うより、そのまま放置すれば〝意味不明だが殺人とは無関係”と判断される可能性もあったのに、カムフラージュすることで〝あのカードは犯人がわざわざカムフラージュするほど重要だ”とメッセージを送ってしまっている。 |
No.21 | 5点 | 泡坂妻夫引退公演- 泡坂妻夫 | 2019/05/20 10:35 |
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私は泡坂妻夫の現代ミステリのみ愛しているので、否応なしに氏の全ジャンルを縦断して読まされるこの本は有難迷惑なのである。ファンらしからぬことを言うなら"コスト・パフォーマンスの悪い本”。
ミステリ度低めな短編が多く話そのものにはあまり乗れなかった分、泡坂妻夫の文章の心地良さを再確認は出来たけれど、だからと言って今まで避けて来た時代物や職人物の本に手を伸ばそうと言う気にはならなかった。幾つかの現代ミステリの中では、『煙の殺意』あたりに収録されてもおかしくない「荼吉尼天」が収穫か。 |
No.20 | 7点 | 奇跡の男- 泡坂妻夫 | 2018/11/05 10:45 |
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洒脱な語り口に適度な作り物っぽさを漂わせた泡坂節を堪能出来る短編集なのだが、大ネタの表題作が冒頭に配置されているのでそれ以降が相対的に地味に感じられてしまう点が痛し痒し。五百円硬貨の裏表について誤認があるけれど、作者が故人だからもう修正はされないのだろうか? |