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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.51 5点 吸血鬼飼育法- 都筑道夫 2016/07/28 20:37
渋谷に”faa”(ファースト・エイド・エージェンシー)という事務所を構える”なんでも屋”のトラブルシューター、片岡直次郎を主人公にした4編収録の連作中編集(初出時のタイトルは『一匹狼』)。

片岡直次郎が、のちに物部太郎の相棒として登場する「七十五羽の烏」以下の長編パズラー3部作とはだいぶテイストが違っていて、腕っぷしで難題を解決するハードボイルドというか、アクション・スリラー風の内容のものが多い。
警察に包囲された強盗殺人犯の脱出を引き受ける第1話や、強姦願望の男からの依頼を受ける第4話は、悪事にもためらいなく手を出しながら、当初の依頼内容から外れて、ストーリーがどんどん予想外な方向に展開してゆくプロットが面白いです。アクション・シーンで飛び出す”007”ばりのアイデアも凝っていて、「なめくじに聞いてみろ」ほどではないですが、それに近い味わいがあります。
ライフル男に女性とともにエレベーターに閉じ込められる第3話のみ”巻き込まれ”タイプのアクション・スリラーになっていますが、これは平凡な出来で読みどころが見当たらない。
吸血鬼の系譜だと信じる女性からの依頼で、夫の代役として新婚旅行に同伴することになる第2話が、編中ではもっとも謎解きミステリらしい構成になっていますが、真相に意外性はあるものの、ロジックや推理の要素は希薄でした。

No.50 4点 泡姫シルビアの探偵あそび- 都筑道夫 2016/03/22 21:17
吉原「仮面舞踏会」のソープランド嬢・シルビア姐さんが、身辺で起きたトラブルや事件の謎を解いていく連作ミステリの第2弾。

再読ですが、記憶していた内容とちょっと違っていました。
ほとんどが、シルビア姐さんの同僚ソープ嬢が関わるトラブルを巡る様々な人間模様を描くことに重点が置かれ、謎解きミステリの興趣は前作と比べてかなり弱いです。また、ソープランドの特殊システム、裏話的なエピソードで横道にそれるのも(人情話はホロリとさせるところがありますけど)、ミステリを期待して手にした人には冗長に感じると思います。
提示される謎自体も日常的なものが大半なんですが、ロジカルな推理というより、直感にたよる謎解きが目立ち、読者が推理に参加できるものが少ないのが不満で、ミステリとしての採点はこれぐらいになりますね。
ちなみに、本シリーズは改題が多くて、1作目が「トルコ嬢シルビアの華麗な推理」から「泡姫シルビアの~」に変更(この辺の事情は本書1話目にさりげなく説明がある)、2作目の本作も文庫化に際して「ベッドディテクティヴ」と改題されています。

No.49 6点 脅迫者によろしく- 都筑道夫 2015/06/26 22:54
私立探偵・西連寺剛シリーズの第2短編集。”おれ”こと西連寺は、ボクサー上がりの硬骨漢ながら弱者に対する優しさもある。自宅マンションを探偵事務所にして、主に人探しを専門に請け負う。

本格パズラーから捕物帳、SFファンタジー、ホラー、時代伝奇、クライム・コメディまで、作者が色々なジャンルで創出してきたシリーズ・キャラクターのなかでは、この主人公は常識人で個性は抑え目に感じられる。やや通俗に流れるところがあるものの、内容はわりとシリアスで、正統派のハードボイルドを志向しています。
収録作はハードボイルドの定番である失踪人捜しが中心ですが、小学生が貯金箱を持って依頼に来たり、スナックで隣り合った女が謎めいたメッセージを残して失踪するなど、事件の発端がそれぞれ工夫があり、自然とストーリーに入り込めるようになっているのが良。謎解きの伏線という点では不十分なものが多いものの、結末の意外性はそれなりに担保されています。
6編のなかでは、古い詩集の挿絵画家の行方を追う「表紙のとれた詩集」が、長編にしてもいいぐらいの中身の濃い作品。ラストに現れるある人物の裏の顔には戦慄を覚える。また、「子豚の銀行」と「髭を忘れたサンタクロース」は、子供の健気さと真相の残酷さの対比で、哀切感をより際立たせることに成功していると思う。

No.48 5点 ロスト・エンジェル・シティ- 都筑道夫 2014/07/10 20:26
人類が太陽系第三惑星を脱出し新しい地球に移住して数十世紀、予防精神医療の発達により殺人は大幅に減少した。さらに潜在的殺人者は、テレパシストによって予め察知され、”おれ”こと星野が所属する警視庁”殺人課”によって密かに処分されることになっていた-------。

ハードボイルド風のSFミステリ連作、「未来警察殺人課」シリーズの第2弾。
各話とも細かなSFガシェットを色々と散りばめながら、アクションあり、謎解きあり、お色気シーンありで、読者サービスが盛りだくさんのエンタテインメント作品になっています。ロサンジェルス、モナコ、京都、ハワイなど、前の地球の名称に倣った都市が存在し、星野刑事が名所巡りをするトラベルミステリという感じも受けます。個々に見ていくと出来栄えが微妙なものもありますが、謎解きモノとしては「空白に賭ける」と「殺人ガイドKYOTO」の2編はラストのひねりが面白い。
ただ、展開が早くめまぐるしいのは短編だからやむを得ないのですが、説明不足で拙速に感じる部分があります。SF設定を十分に活かすうえでも長編版を読んでみたかった気がします。

No.47 6点 幽鬼伝- 都筑道夫 2014/03/08 18:01
捕物帳スタイルの連作伝奇時代小説。岡っ引き、もと同心の隠居老人、霊感をもつ盲目の少女という主人公格の3人が、天草四郎の末裔と名乗る妖術師が仕掛ける様々な怪異事件と対峙する-------。

各編とも、当時の江戸風俗・情景と季節感にあふれ、江戸情緒に浸れる描写は「なめくじ長屋捕物さわぎ」同様で、このあたりは作者の真骨頂といえます。
首にかけた鉄製の数珠を武器とする岡っ引き”念仏の弥八”が事件を隠居所に持ち込み、もと同心の稲生外記と同居の妾・涙(るい)が、頭脳と霊感予知力で手助けをするのがフォーマットで、地蔵の頭の代わりの生首や、密室状況の風呂場の惨殺死体などの発端の怪異や不可能現象も「なめくじ長屋」シリーズを思わせる部分があるのですが、なにせ本書は”伝奇小説”、合理的な解釈は期待できませんw 最終話では、死体を操る妖術が乱舞するモンスター・ホラーの様相を呈します。
謎解きの面白さはないですが、伝奇時代小説の異色作として楽しめました。

No.46 6点 キリオン・スレイの再訪と直感- 都筑道夫 2013/07/21 18:06
前衛詩人で居候の米国人、キリオン・スレイが探偵役を務めるシリーズの第3短編集。

収録作品のネタは、ミッシングリンク(パターン探し)、ダイイングメッセージ、名探偵の存在を前提とした奸計など、どことなくクイーンを意識したプロットが多い印象をうけた。
ただ冒頭に提示される謎はいずれも不可思議で惹きつけるものがあるものの、真相が腰砕け気味になっている作品が目につく。
また『野生時代』に連載されていたものは、シリーズの従来作品と比べて枚数がやや多めなため、犯人の動機や事件背景などに筆を費やし物語に厚みを感じる反面、その分ロジック展開にキレがないようにも感じる。
そのなかでは、「下足札が死につながる」がホワイ&ハウダニット両面で感心できた作品。

No.45 6点 新 顎十郎捕物帳2- 都筑道夫 2012/12/29 20:43
ふだんは大名屋敷の中元部屋で酒を飲んでブラブラ遊んでいるが、手下のひょろ松が事件を持ちこむと快刀乱麻で謎を解く、久生十蘭が生み出した北町奉行所の”顎十郎”こと、仙波阿古十郎の捕物帖パスティーシュ第2弾。

衆人環視の密室状況下での人死にで敵役・藤波友衛が疑われる「三味線堀」や、座敷牢という密室での殺人を扱った「貧乏神」などの不可能興味で読ませるものから、花嫁衣装を着た幽霊「亀屋たばこ入」、ドッペルゲンガーの殺人「離魂病」などの怪奇趣向のものまで、江戸時代のウンチク話を交えた名調子が楽しい。
贋作と言うより都筑道夫の捕物帖のテイストが強く、途中で顎十郎が砂絵のセンセーとダブッて見えてきました(笑)。なお、個人的ベストはプロットが最後まで凝っていて完成度が高い「貧乏神」。

No.44 6点 キリオン・スレイの復活と死- 都筑道夫 2012/10/13 13:10
自称・前衛詩人の変なアメリカ人、キリオン・スレイが探偵役の連作シリーズ第2弾。
ミステリ的には不可解で魅力的な謎の提示に対して、解決が肩透かし気味なものも散見されますが、スタイリッシュで都会的雰囲気が読み心地がいいですし、覚えたての日本語の慣用句を誤使用するスレイのとぼけたユーモア部分も面白いです。
収録作の中では、警察監視下のバーのトイレが現場の三重密室もの「密室大安売り」がハウダニットものの良作。伏線の出し方が巧妙です。
「なるほど犯人はおれだ」は、殺人現場の証拠物件からキリオン・スレイを犯人と指摘する大学生によるダミー推理のほうがロジカルなような(笑)。

No.43 6点 怪奇小説という題名の怪奇小説- 都筑道夫 2011/02/13 18:55
推薦・解説の「道尾秀介」という文字が著者名より何倍も大きく帯に刷られた復刊文庫本が、先月まで書店の平台に山積みだったという幻想的な怪奇ミステリ。
短編では相当数のホラーを書いていますが、長編は意外と少ない。本書はいかにも作者らしいトリッキーでメタな構成で、「三重露出」の怪奇小説版のような感じを受けた。ちょっと理屈っぽい語り口は、最初はあまり恐怖感を煽る感じではなかったですが、主人公の作家・都筑道夫の幼い頃のエピソードあたりから迷宮に引き込まれた。

No.42 5点 南部殺し唄- 都筑道夫 2011/01/05 18:53
滝沢紅子シリーズ、長編の第4弾。
シリーズ最終作となった本書は、メゾン多摩由良団地の集団探偵ものではなく、岩手県の旧家を巡る殺人事件に紅子と春江が巻き込まれるという本格編。
横溝風というか、旧家土蔵の密室殺人などの設定はどこか物部太郎シリーズを思わせますが、ロジックは例によって軽めでした。

No.41 5点 毎日が13日の金曜日- 都筑道夫 2010/12/19 17:40
「殺人現場へ二十八歩」に続く”ホテル・ディック”シリーズの第2弾。
ホテル専属警備員の元刑事・田辺を主人公にした連作短編集で、活動型の「退職刑事」という雰囲気がありますが、ミステリとしても、ハードボイルドとしても軽めでした。
ホテル周辺の浅草風俗などの蘊蓄と語り口を楽しむタイプのミステリ。

No.40 5点 泡姫シルビアの華麗な推理- 都筑道夫 2010/11/08 21:33
吉原のソープランド「仮面舞踏会」の泡姫シルビアが安楽椅子探偵を務める連作短編集の第1弾。
旧タイトルは「トルコ嬢シルビア~」だが、さすがにこれは今ではマズイので改題となったのでしょう。
文字どうり個室でのベット・ディテクティヴ(マット・ディテクティヴか?)で、密室の謎、ダイイング・メッセージ、隠し場所トリックなどに挑んでいます。初登場の「仮面をぬぐシルビア」と「密室をひらくシルビア」がよかった。

No.39 7点 新 顎十郎捕物帳- 都筑道夫 2010/11/06 20:13
久生十蘭の傑作捕物帖シリーズのパスティーシュ連作短編集。
もともと、発端の不可解な謎の提示など、氏の「なめくじ長屋」は本家「顎十郎」の影響を受けていると思うので、雰囲気創りは手慣れた感じです。脇役キャラのライバル藤波友衛とか全く違和感を感じません。
ロジカルさに関しては本家を上回っていて、「からくり土左衛門」や「幽霊旗本」などが作者らしい佳品。

No.38 6点 雪崩連太郎幻視行- 都筑道夫 2010/10/03 17:52
トラベル・ライター雪崩連太郎シリーズの第1連作短編集。
地方の不思議な事象や怪奇現象を取材中に、事件に遭遇するというのが基本パターン。
事件の謎は一応解決されるのだが、最後にどこか割り切れない部分が残るという不思議な味わいがありました。怪奇小説と本格ミステリを融合したユニークな短編集。

No.37 4点 前後不覚殺人事件- 都筑道夫 2010/09/30 18:06
滝沢紅子シリーズの長編ミステリ第3弾。
メゾン多摩由良団地周辺を舞台にした集団探偵ものの軽本格ですが、今作は主人公格の紅子が不在で、残りの民雄、春江らのメンバーが四重密室殺人に挑みます。
メンバーのロンド形式で事件が語られていきますが、チャーリー・チャンやディー判事など、脱線ぎみのマニアックな海外ミステリなどの蘊蓄のみが印象に残る作品でした。

No.36 6点 暗殺教程- 都筑道夫 2010/08/15 14:47
ジェームス・ボンドの世界をそのまま持ってきたような娯楽スパイ・アクション小説。
日本の秘密警察員・吹雪俊介が、謎の国際陰謀組織と対峙するチープ感ただようB級アクションものですが、使われる小道具のアイデアやしゃれた会話が満載で楽しめた。

No.35 4点 宇宙大密室- 都筑道夫 2010/08/12 18:16
初期のSFミステリ系短編集。
表題作の「宇宙大密室」だけは、囚人用惑星を舞台にしたハウダニット&フーダニット・パズラーの佳作。
しかしながら、残りはSF寄りのコント小説とかお伽話を題材にしたSFパロディが大半で、ちょっと期待外れの内容でした。

No.34 6点 朱漆の壁に血がしたたる- 都筑道夫 2010/07/03 21:52
ものぐさ探偵・物部太郎シリーズの第3作。
マンネリ感もあると思いますが、ロジック重視が弊害のようになって、ストーリーがあまり魅力あるものに感じられなかった。
氏の作品はロジックよりプロットを重視した作品のほうが、嗜好に合うようです。

No.33 6点 最長不倒距離- 都筑道夫 2010/07/03 21:45
ものぐさ探偵・物部太郎シリーズの第2作。
冒頭で、核となる不可解な事象をフラッシュバック方式で提示して、読者を引き込む手法は巧い。
ロジック好きにはある程度評価されると思いますが、個人的には”ロジックよりプロット”かな。

No.32 7点 七十五羽の烏- 都筑道夫 2010/07/03 21:31
ものぐさ探偵・物部太郎シリーズの第1作。
「黄色い部屋はいかに改装されたか」にて自身が提唱した”トリックよりロジック”を忠実に実践した、純粋にロジック中心の本格ミステリ。
色々な不可解な謎や伏線が最後にキッチリ回収される様はさすがですが、物語としては味気ない気もする。

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kanamoriさん
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