皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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kanamoriさん |
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| 平均点: 5.88点 | 書評数: 2474件 |
| No.2334 | 5点 | 悪夢はめぐる- ヴァージル・マーカム | 2016/01/25 18:14 |
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| 刑務所長の”わたし”のもとに、全ての囚人に会わせてほしいという女性が現れたあと、ひとりの死刑囚が謎めいた言葉を残して死ぬ。さらに、郵送されてきた古い手紙の束を読んだ”わたし”は、刑務所長の職を投げ出し、財宝探しの冒険行に旅立つことに-------。
なんだこれは? 頭の中を整理するために”あらすじ”を書いてみたものの、我ながらまったく要領を得ないプロットです。主人公の行動原理がはっきりと説明されないまま、あれよあれよと脈絡もなく物語が展開していくので、ラスト近くまではモヤモヤ感が増すばかり。 ”あの「死の相続」を超える米国黄金時代の最大の怪作”という触れ込みですが、まあ怪作には違いないにしても、個人的にはそれほどスゴイとは思えなかった。とくに、主人公がニューヨークの裏社会に潜入し、ギャングから情報を得ようとする前半部の、だらだらしたストーリー展開が非常に退屈に感じる。 後半になると、これまでの話の流れを完全に断ち切って、なぜか幻想的な雰囲気が漂う湖畔の村を舞台にした謎解きミステリになります。まったくジャンルが異なる2つの小説を強引にくっつけた感じで、”密室状況の小屋のなかの溺死体”という魅力的な謎がでてくるものの、その真相もいささか拍子抜けの感は否めない。 ラストに立ち現れる構図は美しく印象的なだけに、あれやこれや色々と勿体ないと思えた作品。 |
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| No.2333 | 8点 | 戦場のコックたち- 深緑野分 | 2016/01/23 12:25 |
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| 特技兵(コック)としてノルマンディ上陸作戦に参加した19歳の新兵ティムは、個性的なコック仲間とともに、戦場や基地で次々と奇妙な事件に遭遇する。その謎を解くのは、いつも沈着冷静なリーダーのエドだったが--------。
2013年に”ミステリーズ!新人賞”佳作入選作「オーブランの少女」を表題にした短編集でデビューした作者による、連作形式の初の長編作品です。昨年の”このミス”国内2位、直木賞候補(惜しくも落選)、さらには本屋大賞の候補と、デビュー2作目にして早くもブレイクした感がありますね。 よく言われているように、戦場という非日常の世界を背景にした”日常の謎”というのが本書のウリです。ミステリ部分だけを取り上げて見れば、さほど傑出しているとは思いませんが、それでも伏線を効かせた、戦場ならではの”ホワイ”が非常に魅力的な作品です。 誇り高き料理人だった祖母のレシピを崇める主人公の「僕」こと、ティムの語り口は、いかにも創元の”日常の謎”らしいライトなものなので、戦況が激化し仲間たちが退場してゆくシリアスな戦争小説には、最初は合わないように思えたのですが、終幕が近づくにつれ、これが効いてきます。青春小説としても素晴らしいです。 |
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| No.2332 | 6点 | 白魔- ロジャー・スカーレット | 2016/01/22 18:16 |
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| クインシー夫人の屋敷に住み込む間借り人の一人、アーサーの部屋に何者かが押し入り、大量の血がまかれる怪事件が起きる。ボストン警察のケイン警視が調査を担当するが、今度はアーサー自身が殺害され、さらに第2の殺人が発生する---------。
女性2人のコンビ作家ロジャー・スカーレットは、著書の5作全てが”館ミステリ”ということで知られていますが、本作は、色々な人物が間借りし集団住宅のように使用している屋敷が舞台なので、館ミステリというよりは、ヘレン・マクロイ「読後焼却のこと」や、エリザベス・フェラーズ「私が見たと蝿がいう」、ステーマン「殺人者は21番地に住む」などと同タイプの、”下宿モノ”と言った方が適切だと思います。 本書の構成上で眼を引くのは、(nukkamさんも指摘されてますように)物語が半分も行かない段階で、関係者を一堂に集めたケイン警視による謎解き披露、犯人の特定がありながら、その上でフーダニットの興味を最後まで持続させていることですね。(その意味するところは、さほど大したことではありませんが) 容疑者の間借り人たちのうち、視力障害の人物以外はキャラクター的に印象に残らないのと、邦題の「白魔」のもとになった白いペルシャ猫の手掛かりがアレなのが難点ですが、フーダニットに関わるミスリードが効果的な、まずまず楽しめた作品です。 |
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| No.2331 | 5点 | 海妖丸事件- 岡田秀文 | 2016/01/21 22:16 |
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| 横浜港から上海に向かう豪華客船に乗り合わせた探偵・月輪と地方官吏の杉山の腐れ縁コンビだったが、出航直前に届いた不穏な予告状のとおり、船上の仮面舞踏会の夜に殺人事件に遭遇。さらに、宝石の盗難や脅迫事件につづき、第2の殺人までが起きる--------。
探偵・月輪シリーズの3作目。明治時代を背景にした船上ミステリーで、他の船客はオフリミットな一等客室というクローズド・サークルものになっています。 設定自体は大好物ではありますが、前2作と比べると仕掛けの部分が地味で、やや面白さが減退している印象。まあ、前作の「黒龍荘の惨劇」が強烈すぎたというのもありますが。 初っ端に井上馨という大物の特別出演があるものの、明治モノの要素がますます希薄になっているのもマイナス要因です。メインの〇〇トリック自体は、その時代ならではという点で、”明治”の意味はありますが、これはこれで危なっかしい綱渡り的トリックです。あと、豪華客船とくれば伯爵夫人に宝石盗難、というのも定番すぎて既視感がありますね。 なんだか文句ばかり並べた感じですが、ラストの演出はしゃれています。 |
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| No.2330 | 7点 | 雪の墓標- マーガレット・ミラー | 2016/01/20 18:26 |
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| 不倫相手の男を殺害したとして医師の妻ヴァージニアが逮捕される。当時彼女は記憶をなくすほどの泥酔状態で、事実関係が把握できない状況下、ヴァージニアの母親に雇われた弁護士ミーチャムのもとに、自分が犯人だという男が名乗り出てくる--------。
”東京創元社によるハヤカワ文庫補完計画”w の一環として昨年に新訳復刊された「まるで天使のような」の話題に隠れて、それほど評判に上がらなかった印象があるのですが、論創社から出た本書も良作です。 逮捕されたヴァージニアの弁護のため、現地の空港におりたった母親と付き添いの娘、そして弁護士のミーチャム。 三人の会話のやり取りだけで、キャラクターや設定、状況を読者に知らしめる冒頭のシーンから物語に引き込まれ、巧いです。どこか「まる天」の私立探偵に似たところもある弁護士ミーチャムが、たどり着いた真相には胸に迫るものがありますが、クリスマスを背景にした物語だけあって、”もう一つの愛”で終わる結末で読後感は悪くはないです。 ニューロチック・スリラーと呼ばれた「鉄の門」「狙った獣」などの暗い異常心理サスペンスは苦手。かといって「ミランダ殺し」のようなコメディ・タッチの軽いものは物足りない、という読者には、(ちょうど、その中間にあたるような作風の)謎解きプロットにヒネリがあり、ある程度のサプライズも味わえる本書や「まる天」をお薦めします。 |
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| No.2329 | 6点 | 片桐大三郎とXYZの悲劇- 倉知淳 | 2016/01/19 18:16 |
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| 聴力を失ったことで引退した元時代劇俳優の大御所・片桐大三郎は、タブレット端末を使って”耳”の役割を務める新人事務員の”のの子”を従え、今日も趣味の探偵捜査に乗り出す-------。
ドルリイ・レーン悲劇四部作をモチーフにした連作本格ミステリ。 通勤ラッシュの山手線車両内でニコチンによる毒殺事件が起きる第1話、マンドリンならぬ、ウクレレで撲殺された画家の事件の第2話。いずれも真相にいたる片桐の推理のロジックには、やや説得力に欠け、納得がいかないところがありますが、クイーンの「X」「Y」の趣向をなぞった設定が愉しい連作です。また、探偵役である片桐をはじめ芸能事務所の面々のキャラクター作りに注力している点も好感が持てます。 幼児の誘拐を扱った第3話は、構図の逆転や意外すぎる凶器にインパクトがあるものの、かなり後味が悪いのが好みの分かれるところですね。「Z」との関連性もよくわからず、これだけ浮いている感じがします。 連作の最後を締めくくる”最後の季節”を読むと、なるほど作者がやりたかったのはコレか、というのがよく分かります。ただ、レーン四部作を下敷きにすることに加え、各話を冬春夏秋の四季モノ連作にすることで、第4話におけるミスディレクションの強化を図っているのですが、そのことが同じ原理のトリックを使った東川篤哉氏の某連作を連想させるために、逆に仕掛けの部分に気付く読者がいるのでは、と思わなくもありません。 |
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| No.2328 | 6点 | 寂しすぎるレディ- ドミニック・ルーレ | 2016/01/19 00:20 |
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| 作曲家を志望し田舎からパリに出てきた青年アントワーヌは、雑誌の交際欄で恋人を求める広告を目にし、謎めいた女性レアと出会う。二人は急速に親しくなり、やがて愛し合うが、時々暗い顔を見せるレアには何か秘密があることに気付く--------。
1979年度のフランス推理小説大賞を受賞した心理サスペンス。 最初の章で、アントワーヌが獄中で書いた弁護士宛ての手紙文が開示されているので、物語の後半で何か事件が起こったのだなと推測できますが、主人公と情緒不安定な女性レアとの恋愛模様が中心の前半は、レアの境遇やある行為の説明があやふやなまま物語が進行します。 ミステリの主題としては、"いったい何が起きているのか?" ということになるのですが、ほとんどの読者は、リリーという幼女が登場した段階で、隠された構図が判ってしまうと思います。作者もその陰謀部分を隠すことにさほど重きを置いていないのではと思えるほどです。 抒情的でやるせない深く印象に残るラストシーンを読むと、本書は恋愛を煙幕にしたミステリなどではなく、ミステリ部分を小道具にした恋愛小説なのでは?と深読みしてしまう。 |
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| No.2327 | 4点 | 消えたなでしこ- 西村京太郎 | 2016/01/17 15:17 |
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| 女子サッカー日本代表メンバー22名が、オリンピック直前に誘拐された。身代金は100億円。十津川警部は、誘拐を免れた”なでしこジャパンの10番”澤穂希選手に捜査協力を依頼、事件解決に向け動き出す--------。
十津川警部と澤穂希、夢のツートップが遂に実現! というキャッチコピーがすごいですねw 権利の問題とかは大丈夫なんでしょうか。 この”集団誘拐モノ”は作者十八番の題材で、過去の標的には、読売巨人軍の選手たち、東京都民1000万人、さらには日本国民1億2000万人全員なんていうのもあるようです(一億総活躍ならぬ、一億総被害者です)。こういうタイプの事件は、いままで十津川警部より、左文字探偵が担当する場合が多かったのですね。 女子ワールドカップの”なでしこ”優勝をうけてすぐさま連載・出版されたのは、さすがです。読者が読みたいものをいち早く察知し、物するサービス精神は、大作家になっても不変。次は五郎丸選手あたりが狙い目かなw サービス精神といえば、年配の読者のためか各ページ、一行の文字数を少なめにし、非常に読みやすいのもいいですね。内容に関しては、これから読む人の興を削ぐので敢えて触れませんがw あっという間に読み終えるリーダビリティの高さはあります。 |
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| No.2326 | 8点 | 血の咆哮- ウィリアム・ケント・クルーガー | 2016/01/16 11:29 |
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| ミネソタ州の北部森林地帯で家族と暮らす元保安官のオコナーは、心臓の病で倒れた旧知の老インディアン・メルーから、いまだ会ったことのない息子を探してほしいと頼まれる。その息子は、大鉱山会社を起こした伝説の人物で、今はカナダのスペリオル湖に浮かぶ島で、世捨て人のように暮らしていることが判る---------。
元保安官コーコラン・オコナーを主人公とするシリーズの一冊。 本作では、シリーズ初めてオコナーの一人称小説になっており、主人公の人物像や家族に対する心情が細やかに語られるので、シリーズ7作目ですが、最高傑作といわれる本作から読むのもアリかなと思います。 しかし、今作の本当の主役はオジブア族の90歳の呪い師ヘンリー・メルーです。 二人が夜の湖畔に座り、メルーによって70年以上前の過去が語られる第2部が、大自然を舞台にした冒険小説、かつ恋愛小説として出色の出来栄え。虐げられたひとりのインディアン少年の成長の物語でもあります。 第3部の、カナダ森林地帯を背景にしたオコナー達の活劇シーンにも見せ場はありますが、やはりメルーの存在感の前にちょっと霞んでしまっていますね。 エドガー賞を受賞した非シリーズもの「ありふれた祈り」(昨年の”このミス”3位)も感銘をうけましたが、アメリカ文学っぽいのはちょっと....という人には、エンタテイメント性も高い本書をお薦めします。 |
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| No.2325 | 6点 | 大道将棋殺人事件- 山村正夫 | 2016/01/14 18:02 |
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| 大道将棋を生業とする”詰め将棋屋”の風早仙吉が、放浪先の地方で出くわした数々の事件の謎を解いていく連作本格ミステリ。
プロ棋士としての将来を嘱望されながらも、奇策・ハメ手を得意とする棋風を嫌われ、師匠のもとを飛び出してテキ屋稼業に身を持ち崩したアウトローの主人公というのが、本格ミステリの探偵役としては非常にユニークで、魅力的です。ノワールな雰囲気があるところは、ちょっとだけ木枯し紋次郎を思わせますね。 これで、本格ミステリの部分も秀でていれば文句はないのですが、いずれも使い古された古典的なトリックが多用されていて、総体的にトリックに斬新さが見られないのが残念なところです。 そんななかで印象に残ったのは、寺のお堂での偽装無理心中を扱った「国東心中」。密室状況の心中なのに凶器が見当たらないという設定が、某国内古典名作を連想させるじゃないですか。 謎解きミステリとしては5点相当ですが、物語の雰囲気が好みなのでこの評価にしておきます。 |
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| No.2324 | 7点 | 彼女のいない飛行機- ミシェル・ビュッシ | 2016/01/13 20:24 |
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| 1980年冬、イスタンブール発パリ行きのエアバスがスイス国境近くの雪山に墜落、炎上する。旅客らの生存は絶望と思われたが、捜索隊が雪の上に産衣で包まれた赤ん坊を発見。しかし、旅客機には該当する赤ん坊が2人機乗しており、遺された両家の祖父母はともに自分の孫娘だと主張する事態に--------。
なかなか面白く読んだ。翻訳が絶妙でフランス産のミステリにしては非常に読みやすい。ただ、600ページを超えるヴォリュームはさすがに長大すぎで、内容的にも、もう少しコンパクトに出来るのではと思います。 リリーと名付けられた”奇跡の子”は、大富豪カルヴィル家の孫リズ=ローズなのか、それとも屋台販売で生計をたてるヴィトラル家の孫エミリーなのか、という謎を中軸に置いて、富豪側に雇われた私立探偵の18年にわたる調査記録と、18年後の現代(といっても1998年ですが)に於けるエミリーの”兄”を主人公にした追求パートが交互に描かれます。 私立探偵の記録が、読者を焦らすようなもったいぶった書き方で、なかなか核心に触れないのがイラっときますが、複数の殺人事件の真犯人に関わる仕掛けの部分には意表を突かれました。また、”事故当時は分からないものが、18年後に事故当日の新聞を見て初めて真相が判る”という謎々の設定とその解答がおしゃれです。 |
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| No.2323 | 6点 | 江ノ島西浦写真館- 三上延 | 2016/01/12 20:30 |
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| 江ノ島の路地裏にある古い写真館。店主だった祖母が亡くなり、閉館の整理のため久しぶりに写真館を訪れた孫娘の桂木繭は、遺品の中に「未渡しの写真」を見つける------閉館する写真館に残された複数の写真にまつわる秘密を解いていく連作ミステリ。
たしかに”古書”を”古い写真”に置き換えた「ビブリア古書堂」風の日常の謎ミステリという側面もありますが、写真家を目指していながら、自らの過失によって大切な人物が離れていってしまい挫折したという、ヒロインの抱える過去のトラウマが作品全体を暗いトーンで覆っているので、味わいは若干違う感じを受けます。それが、いいか悪いかは読者の嗜好によると思いますが。 ミステリ部分の面白さという点では、各話ともモヤモヤしたものが残り、謎が解けたときのカタルシス感は希薄です。ただ、エピローグの思わぬ方向から来るサプライズが効いていて、最後はきれいにまとめています。 今では「ビブリア古書堂」のイメージが強すぎて、他にどういったものを書いても違和感を持たれてしまうということもあるかもしれませんね。 |
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| No.2322 | 6点 | 出口のない農場- サイモン・ベケット | 2016/01/11 14:16 |
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| ある秘密を抱えて逃亡中の英国青年ショーンは、フランス片田舎の森の中で、仕掛けられた狩猟用の罠で大怪我を負い意識を失う。彼が目覚めた居場所は、父親と2人の娘が社会と隔絶して暮らす不穏な雰囲気に満ちた農場だった---------。
法人類学者デイヴィッド・ハンターシリーズで知られる作者による単発ものサスペンス。昨年出版された新・3大〈農場ミステリ〉の一冊ですw(ちなみに残りの2冊は「悪魔の羽根」と「薔薇の輪」)。 本作は”監禁もののサスペンス”とも紹介されていますが、けっして強制されたものではなく、父親の農場主は当初ショーンを追い出そうとします。逃亡者という主人公側の事情で農場に隠れとどまるわけですが、やがて農場主一家のほうにも何やら隠された秘密があることが分かってきて....という展開です。 強権的な父親、幼子を抱えた長女と消えた夫、ショーンに色目を使う次女。主人公を含め主要な登場人物だれもが秘密を抱え、思わせぶりな謎を小出しにして物語を引っ張っていきますが、じらされた末に明かされる真相は、まあだいたい予想の範疇でした。(ある家畜が出てきた段階でイヤな予感がしていたw )それでも陰惨な真相のわりに、ラストのエピソードがあって読後感はそう悪くはないです。 |
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| No.2321 | 5点 | 泥棒たちの昼休み- 結城昌治 | 2016/01/10 11:22 |
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| 刑務所内の木工作業場に毎日昼休みに集まる囚人たち。それぞれが、自らの悔恨の過去を回想し、仲間たちにその経緯を語り始める---------軽めのクライム小説8編を収めた連作短編集。
本書は、連載中に作者が亡くなったため連作短編集としては未完です(遺品の愛用ワープロの中に9話目の冒頭部分が書かれた”原稿”が残っていたそうです)。とはいえ、各話は独立しており、読了するのにとくに問題はありません。 タイトルは「泥棒たち」となっているものの、根っからのプロの犯罪者はわりと少なく、ごく普通の生活を送っていた男たちが、魔がさして横領や詐欺に手を染め、塀の中に転落する様が多く語られます。犯行のきっかけは、やはりバクチと女が多いです。(そのへんは皆さんも充分に気をつけてくださいね)。 ミステリとしての出来栄えという点では、各話ともヒネリやオチにあまり見るべきところがなく、予想していたクライム・コメディのような方向にも向かわないので、作者の初期短編と比べると物足りないですが、語り口は相変わらず職人芸の域です。 |
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| No.2320 | 6点 | レモン色の戦慄- ジョン・D・マクドナルド | 2016/01/08 18:38 |
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| フロリダの海に浮かべたハウスボートを住居とする”揉め事処理屋”または”取戻し屋”の、トラヴィス・マッギーを主人公にしたシリーズの16作目。’60~’70年代に21冊も書かれた当時の人気シリーズの後期作品です。
このシリーズを初めて読みましたが、作風はまさに、”ザ・ペイパーバック・スリラー”という感じ。 トラヴィス・マッギー(通称トラヴ)は、海と賭博を愛するプレイボーイで、無免許の私立探偵として、トラヴルに巻き込まれた女性のために体を張る、というのがシリーズの定番のプロットのようですが、本作では、依頼女性のミリガンは謎の大金をトラヴに預けたまま早々に死んでしまいます。過分な保管料を貰っていたトラヴは、ミリガンの不審死の真相を探るため、相棒のマイヤーとともにハウスボートで現地へ赴く------というのがあらすじ。 事件背景は中盤まででほぼ明らかになるものの、その後も謎の連続殺人あり、お約束のラブシーンあり、スリリングな活劇あり、さらにはトラヴの船が爆破されるなど見どころが満載で、読者サービス精神に溢れています。この辺が人気を博した要因の一つかと思いますが、キャラクター的にはあまり深みがないため、読み終わると後には何も残らず、という感もありますね。 |
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| No.2319 | 7点 | 真実の10メートル手前- 米澤穂信 | 2016/01/06 18:34 |
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| 『王とサーカス』のフリー記者・太刀洗万智を探偵役に据えた連作短編集。”真実を暴き、それを報道することの意味”が連作に通底するテーマになっていることから、ベルーフシリーズともいわれているらしい。
太刀洗の鋭い洞察力による快刀乱麻を断つ推理がいずれも魅力的ですが、同時にテーマを見据えた主人公の行為・言動が重く心に残ります。 最初に置かれた表題作「真実の10メートル手前」は、太刀洗の新聞記者時代の話で、編中で唯一、彼女の一人称で語られる。録音で残されたわずかな会話から”真相”を導き出すという趣向はケメルマンの「九マイル~」を思わせるが、結末は暗くて苦い。ミステリとしての仕掛けの部分で一番面白いと思ったのは、高校生の心中事件の裏側を暴く「恋累心中」。嫌われ者の老人の孤独死を扱った「名を刻む死」は、意外な真相もさることながら、”彼”に対する太刀洗のラストの言動が印象深い。アンソロジー『蝦蟇倉市事件』で既読だった「ナイフを失われた~」は、『さよなら妖精』とリンクする後日譚のような話ですが、改稿された今回の作品もいまいち面白さが分からなかった。最後の「綱渡りの成功例」は、あんなことが”罪悪”か?という疑問があるものの、些細な一点から隠された秘密を暴くロジックの切れ味が素晴らしい。 |
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| No.2318 | 6点 | ネロ・ウルフの事件簿 ようこそ、死のパーティへ- レックス・スタウト | 2016/01/04 18:35 |
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| 巨漢の美食探偵ネロ・ウルフ登場の中編集。『黒い蘭』につづく論創海外ミステリ叢書の第2弾で、今回も各話100ページ前後の中篇が3作品収録されています。
グルメ目的と蘭の展覧会以外は原則外出しないというシリーズのお約束どおり、ウルフは終始安楽椅子探偵で、もっぱら語り手の”ぼく”こと助手のアーチーが探偵活動を行うという、3作品ともこのシリーズでは非常にスタンダードなプロットといえます。また、いずれも容疑者を5~6人に限定したフーダニットになっており、終盤に関係者一同をウルフの探偵事務所に集めて犯人を指摘するという構成も同じです。それでも読んでいてマンネリを感じないのは、アーチーのウィットに富む一人語りや、ウルフとの掛け合いが毎回愉快なのと、容疑者たちの人物造形が上手く(とくにスタウトは、存在感のある魅力的な女性を描くのが巧い)、彼らとの駆け引きにコンゲーム的な面白さがあるからでしょう。 収録作のなかでは、現場にあったはずの拳銃が消えたり現れたりする「翼の生えた銃」が個人的ベスト、犯人特定のロジックにキレがあります。哀切な余韻を残すラストシーンが印象的な表題作も捨てがたい。 |
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| No.2317 | 4点 | 老子収集狂事件- 藤野恵美 | 2015/12/26 15:52 |
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| 江角市のタウン誌「え~すみか」のアルバイト編集員・真島が遭遇する”日常の謎”を、チャイナドレス姿の謎の美女・胡蝶先生が謎解いていく連作ミステリ。「猫入りチョコレート事件」に続くシリーズの第2弾(というか、完結編)です。
表題作をはじめ、「見えないスクリーン」「金曜日ナビは故障した」「五匹の子猫」「そして江角市の鐘が鳴る」と、前作と同様に収録5編のタイトルすべてが、有名な海外ミステリのダジャレです。解説の法月氏が”パロディ”と表現していますが、内容的には元ネタを想起させる趣向はとくに見当たらず、単にタイトルのダジャレありきに留まっているのは残念な点で、そのためシチュエーション・コメディとしての側面が目立ち、謎解きミステリとしてはユルメなのはやはり高評価しずらいですね。 なお、最終話の「老子収集狂事件」でシリーズを通した数々の謎の真相が明かされるので、先に前作を読んでおいたほうが楽しめると思います。 |
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| No.2316 | 7点 | ネメシス 復讐の女神- ジョー・ネスボ | 2015/09/12 00:02 |
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| オスロ市内で発生した銀行強盗のさなか窓口係の女性が強盗犯に射殺される。ハリー・ホーレ警部は、担当部と合同でその事件を捜査していたが、今度はホーレのかつての愛人アンナがマンションで自殺を装った死体となって発見され、匿名の”目撃者”からホーレ宛に謎めいたメールが届く--------。
日本人が知っておくべき”新・三大ハリー刑事”のひとりw オスロ警察のハリー・ホーレ警部シリーズの第4作。 連続銀行強盗事件と元愛人の変死というホーレ警部が関わるメインの事件が2つあり、その捜査が並行して描かれていくうえに、前作「コマドリの賭け」で部下の女性刑事が殉死した未解決事件も絡んでくるので、プロットはかなり複雑、錯綜しています。この人物はどっちの関係者だったかなと人物関係を整理するだけでも大変です。さらには、アンナ、アウネ、アルネなど(男女の区別さえつかない)ノルウェーの同じような人名が何人も登場するのですから、上巻は読み進めるのにかなりの時間を要しました。 しかし、事件の構図が一変する下巻の途中からは圧巻の面白さ。「スノーマン」を読んだとき感じたジェットコースター級のリーダビリティには及ばないかなと思っていたら、第5部あたりからの、あれもこれも構図をひっくり返す怒涛の展開には心底びっくり。この辺の仕掛けは、マイクル・コナリーのハリー・ボッシュ刑事シリーズを連想させます。2つの事件のキーパーソンともいえるロマ(ジプシー)出身の伝説の銀行強盗ラスコルの存在感が際立っていて、刑務所の面会室でホーレに吐くあるセリフが、真相を知ると非常に暗示的に感じられます。 |
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| No.2315 | 4点 | RPGスクール- 早坂吝 | 2015/09/06 18:56 |
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| ”俺”こと剣先が通う高校に超能力体験学習のためにやってきた女性超能力者イマワが、足跡のない運動場で死体となって発見される。すると学校が外部と遮断され、スピーカーから"魔王"と名乗る声がバトルゲームの開始を宣言、生徒たちの前に次々とモンスターが現れる---------。
RPGに関する作者の趣味嗜好が全面的に出てきたものでしょうが、前2作とはかなりテイストが異なり、個人的には微妙な出来栄えと感じました。 クローズド・サークル内の足跡のない殺人という本格ミステリど真ん中の設定で幕を開けるものの、以降は、仮想現実空間のバトルゲームと魔王の正体探しが延々と続く展開で、個人的な嗜好からは大きく外れたものになってしまった。 終盤の"壊れた眼鏡"を巡る中身の濃いロジック展開による消去法推理は、それなりに読み応えはあるのですが、超能力の範囲がいまいち把握できないこともあり、なるほどと素直に納得出来ないものでした。 超能力、バトルゲーム、ロジカルなパズラーという異質な要素を一つの作品に詰め込んだ結果として、中途半端な内容になってしまったという印象を持ちました。 |
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