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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
三十三時間
旧題『33時間』
伴野朗 出版月: 1978年04月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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朝日新聞社
1978年04月

講談社
1981年10月

集英社
1988年01月

集英社
2016年10月

No.2 6点 2019/01/08 07:17
 広島への原爆投下から二日後の昭和二十年八月八日、上海北郊の大場鎮飛行場に深い霧を突いて、重爆撃機「飛竜」が降り立った。極秘の飛行便は日本陸軍の逸材・山並慎吾大佐と、共産党・国民党双方に強力なパイプを持つ淅江財閥宋一族の長老・宋幹卿を乗せていた。
 同時に大陸の関東軍情報部は、日本を裏切り国民党に寝返った暗殺のプロ・劉景明が上海に現れたとの情報を掴む。だが、敗勢著しい戦況に加え、時代の激動が関東軍を襲うのだった。
 ポツダム宣言に続くソ連の侵攻。その中で山並大佐は暗殺され、劉を追う軍属山城もまた殺される。そして日本は終戦を迎えた。
 山並の薫陶を受けた若手将校沢木少佐は同僚を殺害された剣崎曹長・堀伍長と協力し、宋老人と中国大陸から集められた戦勝品(マル支物資)が、東シナ海の無人島・江玠島に隠されていることを突き止める。老人と物資を保護すれば、まだ日本の為に何かが出来るかもしれない。
 だが江玠島を守る竜田中隊は、未だ終戦を知らないのだ。彼らに一刻も早くそれを告げ、抵抗を終わらせなければならない。
 そして大佐を手に掛けた劉景明は秘密結社・青幇〈チンバン〉を味方に付け、宋老人の殺害と中隊の殲滅・物資の奪取を狙っている。沢井は守備隊を救出するために、江玠島へ向かう特使船を派遣するのだった。
 雇われドイツ人船長ダッチマンに集められたのは、海のものとも山のものとも知れぬ船員たち。そこに剣崎・堀ら関東軍の憲兵たちが乗り込む。救出のタイムリミットは三十三時間――。
 昭和53年発表。初期の作品で、第一部は生島治郎「黄土の奔流」でおなじみの上海租界が舞台。ただし時代はぐっと下ります。のっけから歴史事実目白押しなのと中国発音のカタカナルビでちょっと怯みますが文章は平易。サービスや緩急の付いたエンターテイメントに徹しているのでどんどん読めます。むしろ都合良く進みすぎて軽いくらいですね。
 黒澤映画の七人の侍形式で船長+船員5人、関東軍4人の総勢9名。このメンツで江玠島を目指すのですが、無線機は破壊されるわエンジンには砂糖がブチ込まれるわ、喧嘩はあるわ殺人は起きるわと賑やか。密室やダイイングメッセージもありますが、別評にもあるようにたいしたもんではありません。
 この人の作品は基本予定調和で大きく読者の予想を越えてはこないのですが、エンタメ路線は崩さないので安心できます。キャラがやや類型的なのは残念ですが。
 一線級の作品とは比較になりませんが、軽い娯楽作品としては並以上の満足感が得られるでしょうね。乱歩賞受賞の「五十万年の死角」もそうですが「あれ割といいよな」という感じです。

 付記:前半第一部にロッキード事件のフィクサー・児玉誉士夫が出てきます。別にストーリーにも絡まず名前がちょろっと出るだけですが。そういやその頃の作品だったなあ。

No.1 6点 kanamori 2015/08/28 18:39
昭和20年8月16日の朝、上海の港から日本軍の特務員4人を乗せたオンボロ機帆船が、終戦を知らない守備隊を全滅から救うため、東シナ海に浮かぶ孤島に向かった。しかし、荒れ狂う海に加え、船内では何者かによる妨害工作で次々と不測の事態が起こる---------。

タイトルにある33時間のデッドラインを設定した戦争冒険サスペンスです。
乗員のなかに紛れ込んだ敵側の工作員はだれか?というフーダニットの興味を持たせつつ、少人数の特務員たちがトラブルに見舞われながらミッションの遂行を目指すという、基本プロットはアリステア・マクリーンの一連の冒険小説を彷彿とさせます。
密室状況での殺人や、被害者の残した謎のダイイングメッセージが出てくるのが、冒険小説にもかかわらず「本格ミステリ・フラッシュバック」に採りあげられた理由だと思いますが、その辺は大したことがありません。本書の構成でユニークなところは、三人称視点だったのが、物語が本格的に動き出す第2部になって、臨時の船員である”俺”の一人称視点に切り替わることです。主人公の”俺”は謎解きをする探偵役でありながら、その正体、目的が不明という重層的に設定された謎が魅力的な作品です。その分、冒険小説としてはちょっと中途半端というか、食い足りない感もあるのですが。


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伴野朗
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