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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.946 7点 超音速漂流- ネルソン・デミル&トマス・ブロック 2010/08/05 20:43
「東西ミステリーベスト100」海外編の111位は、この航空パニック小説の傑作。
ミサイルの誤射で亜宇宙をさまようことになった航空機の必至のサバイバル・サスペンスで、脳障害を起こし襲ってくる乗客たち、事故を隠蔽しようとする軍部など、次々と主人公を襲う難題が並みのパニック小説にない捻ったプロットで楽しめた。
初読は20年以上前ですが、復刊本を見て驚いた。真の作者はネルソン・デミルだったとは。

No.945 8点 パンドラ抹殺文書- マイケル・バー=ゾウハー 2010/08/05 20:22
国際謀略サスペンスの傑作。
ル・カレなどの重厚でシリアスなエスピオナージュではありませんが、読者の予想を裏切る鮮やかなどんでん返しが作者の持ち味で、本書のサプライズ・エンディングはその最たるものだと思います。
まるで、良質の本格ミステリを読んでいっぱい食らわされた感覚だ。

No.944 6点 フレンチ警視最初の事件- F・W・クロフツ 2010/08/05 18:29
だいぶ後期の作品で、斬新なアリバイ・トリックなどを期待して読むとがっかりするかもしれませんが、その分ストーリー・テリングの巧さで充分楽しめた。
倒叙形式とは若干意味合いが違うが、前半は小悪党の詐欺行為常習の青年を主人公にして、横領教唆や大富豪の娘への接近などのクライム・サスペンス風。ところが殺人事件が発生後のプロットが従来と異なり、今回フレンチは最後に青年の無実を証明する側にまわるというユニークさ。プロットの妙味で読ませるまずまずの作品だと思います。

No.943 8点 ジャンピング・ジェニイ- アントニイ・バークリー 2010/08/05 17:52
迷探偵シェリンガム・シリーズのサイコー・ケッサク。
ある意味「アンチ・名探偵」テーマを極めています。探偵役が証拠を偽造したり、関係者に偽証を強いたりして、事件を解決しないように持って行ってますから。
スラップスティック・コメデイ風味が強く出過ぎていて、正統派の本格ミステリを求める読者には、失望を与えかねないプロットではありますが、最後のオチまでバークリーらしさが出ている代表作の一つと言えると思います。

No.942 6点 死人はスキーをしない- パトリシア・モイーズ 2010/08/05 17:52
スコットランド・ヤード犯罪捜査課ティベット警部シリーズの第1作。
シリーズの特徴は、ティベット夫婦がヨーロッパの風光明媚な観光地で殺人事件に遭遇というパターンが多用されている所。だいたい同時期にデビューしたディヴァインなんかと比べると、モイーズはコージー風で華やかさがあるので一般受けするでしょう。
しかし、本作がそうですが、読者を騙してやろうという本格マインドが希薄な感じもします。

No.941 5点 「そして誰もいなくなった」殺人事件- ジャックマール&セネカル 2010/08/05 17:52
パリの劇場を舞台にした本格ミステリ。「11人目の小さなインディアン」の改題文庫化作品。
クリスティの名作に準じて、俳優たちが一人また一人と殺されていくサスペンスかと思ったら、開演前の楽屋にまとめて10人の死体の登場という豪快さは、さすがフランス・ミステリ。
正統派の本格編の様相はありますが、仕掛けはフェアとは言い難く、正直なところB級感が漂っていました。

No.940 7点 被害者を捜せ!- パット・マガー 2010/08/04 23:39
初期の作品では、いずれも一味違った趣向のミステリを書いている著者の、本書はデビュー作で、集団安楽椅子探偵ものの”被害者当て”ミステリ。
異国の地の海兵隊員たちが、母国で発生した殺人事件の新聞記事に欠けている被害者名を特定するため、主人公の回想をもとに推理合戦をする。ロジックを楽しむタイプのミステリではありませんが、ユニークな趣向が印象にのこる作品。

No.939 7点 地獄の読書録- 事典・ガイド 2010/08/04 23:24
翻訳ミステリを中心としたノンストップ読書ガイド。
タイトルは言うまでもなく、フランシス・コッポラの戦争映画のもじりで、著者は小林信彦氏。
主に1960年代の10年間に邦訳された海外ミステリを、次から次へと紹介してくれてます。今では絶版となったものが多数ありますが、古書店巡りの絶好の指標本だった。
ジャンルは、始めのうち本格ミステリ、軽ハードボイルドが中心だったが、徐々にスパイ小説、心理サスペンスが増えてきて、ブームの変遷が分かるのも面白い。

No.938 4点 血統(ペディグリー)- 門井慶喜 2010/08/04 23:08
ミステリとして読むと、ちょっと微妙な出来で期待はずれでした。
主人公は、祖父と父親が高名な画家の家系の三代目で、ペットの肖像画家を生業にする男性。犬のブリーダーと関わるうちにある災難に出くわすというストーリーで、一種の再生の物語でもありますが、このうだうだした主人公に感情移入するのは難しい。

No.937 7点 検死審問 インクエスト- パーシヴァル・ワイルド 2010/08/03 21:58
だいぶ前に新潮文庫版「検屍裁判」で読んだときには、評判のわりにあまり面白いと思いませんでした。その後、第2弾の「検死審問ふたたび」を読んで、予想以上にいい出来だったので、この復刊版で本書を再読しました。
やはりこの種のジャンルのミステリは翻訳に相当左右されますね、これはユーモア・ミステリの傑作でしょう。
証言する関係者たちの話がしばしば脱線するところが笑いのツボで、しかもその中にいくつもの伏線が埋められているのが巧妙です。審問の評決もなかなか見事な締めくくりでした。

No.936 4点 くたばれ健康法!- アラン・グリーン 2010/08/03 21:19
密室殺人を扱ったユーモア・ミステリということで、「衣裳戸棚の女」を想起したが、たしかに密室を構成するある要素がバカミス的で共通するかもしれません。
しかし、本書のユーモアは日本の読者にはどうかなと思いますし、中盤の展開があまりにも退屈に感じてしまいました。

No.935 7点 兄の殺人者- D・M・ディヴァイン 2010/08/03 21:03
とてもデビュー作とは思えない完成度の高い本格ミステリ。
殺された兄と主人公で探偵役の弟、ふたりそれぞれの人間関係が序盤から丁寧に描写されていて、単なる本格パズラーとして読むと冗長と感じる部分にもキッチリ伏線を張ってあり、なかなか巧妙なプロットになっています。
アリバイに古典的アイテムが使われている点は時代を感じますが、心情描写などによるミスディレクションに優れており、現代ミステリと比べて遜色ない内容だと思います。

No.934 6点 エヴァ・ライカーの記憶- ドナルド・A・スタンウッド 2010/08/03 18:55
50年前のタイタニック号沈没事故を主題にした壮大な謀略サスペンス。
「東西ミステリーベスト100」には海外部門だけ、ランク外の101位から200位の作品がリストアップされていて、本書はその101位に入っています。先年30年ぶりに復刊されました。
前半は、タイタニック引揚げのルポを依頼された主人公が幾つかの謎と謀略に気付く探求の物語で、若干冗長な感じもありますが、後半、沈没事故の生き残りエヴァを巡る謎ときが延々と続き、本格ミステリ趣向充分です。
多少、B級めいた面もありますが、総合エンタテイメント小説としてまずまずの出来だと思います。

No.933 5点 この国。- 石持浅海 2010/08/03 18:28
一党独裁国家の治安警察・番匠中佐を狂言回しにした連作ミステリ。
ちょっと前に出た「撹乱者」を、逆に体制側から描いたような謀略系の作品集ですが、特殊なパラレル世界をいかしきっていない中途半端なミステリという印象です。

No.932 5点 ママ、手紙を書く- ジェームズ・ヤッフェ 2010/08/03 18:13
あの”ブロンクスのママ”シリーズが長編で復活!!と喜び勇んで読みましたが、初期の連作短編集ほどのカタルシスは得られずちょっと残念。
パズラーの標準作ではありますが、ミステリ部分以外のほんわかした温かみのある雰囲気が減少ぎみ、息子デイヴの妻シャーリイをシリーズから退場させたのは失敗だと思います。

No.931 7点 ママは何でも知っている- ジェームズ・ヤッフェ 2010/08/03 17:52
”ブロンクスのママ”シリーズの連作短編集。
刑事の息子が週末に母親のもとを訪れて、未解決事件の話をすると、ママが経験に裏打ちされた予想外のロジックで真相を突きとめる・・・都筑道夫の「退職刑事」に影響を与えたと思われる安楽椅子探偵ものの名作ですね。
息子の妻で大学で心理学を学んだシャーリイと無学のママとの、嫁姑の微妙なライバル関係が隠し味的な可笑しみを醸し出していて、非常に読み心地のいい連作ミステリだった。

No.930 6点 不可能犯罪課の事件簿- ジェームズ・ヤッフェ 2010/08/02 21:11
DIC(不可能犯罪課)ポール・ドーンものの連作ミステリ6編を含む未発表作品集。
ある日、エラリー・クイーン責任編集のEQMMに15歳の少年からミステリの原稿が送られてきた。その不可能トリックものの短編がヤッフェのデビュー作で、DICシリーズの第1作です。
シリーズ初期作はいずれもバラエテイに富む密室トリックながら、オリジナリティと物語性が弱いのが欠点ですが、安楽椅子探偵の形式で古代ローマ時代の謎を解く歴史ミステリ「皇帝のキノコの秘密」は、真相解明後の二段落ちの構成が優れていて余韻が残る作品。とてもティーンエイジャーの作家が書いたミステリとは思えない。
ノンシリーズ短編では、「家族の一人」がヒッチコック風サスペンスの佳作でした。

また、収録作品以上に(?)素晴らしいのは、全作にエラリー・クイーンのコメントが載っていること。「ブロンクスのママ」シリーズ全作品に関するコメントも載っているのが嬉しい。

No.929 6点 ひげのある男たち- 結城昌治 2010/08/02 20:49
四谷署のひげの郷原部長シリーズ第1作。
著者初期のスマートなユーモア本格ミステリで、あやしい容疑者がみんな髭のある男たちというシチュエーションの面白味で読ませますが、本格ミステリとしての出来はいまいち。
なお、郷原部長刑事は別の軽ハードボイルド・シリーズにも登場しますが、そこでもやはり引き立て役です。

No.928 6点 殺しへの招待- 天藤真 2010/08/02 20:37
謎の殺人予告状を扱ったサスペンスですが、作者の持ち味の牧歌的で軽妙なテイストが発揮されていて、発信人はどの妻かというサスペンスはあまり感じられない。むしろ、予告をうけた5人の男たちのそれぞれの対応がシニカルなユーモアを醸し出しています。終盤の展開はある程度見え易くなっていると思いますが、緻密でよく考えられたプロットは今読んでも充分面白い。

No.927 6点 五十万年の死角- 伴野朗 2010/08/02 20:14
当時の乱歩賞作品では珍しい冒険・謀略もののサスペンス小説。
太平洋戦争下の北京を舞台に、消えた北京原人の化石を巡って、日本軍属通訳の主人公を始め、国民党、共産党、日本の特務機関などがスリリングな活劇を繰り広げる。
結末に大きなサプライズはないが、発表当時の国内ミステリにあまりない作風で楽しめた覚えがあります。

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