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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1286 5点 街でいちばんの探偵- 司城志朗 2010/12/01 17:45
「本格私立探偵小説」とあり、たしかに私立探偵が主人公の小説ですが、ハードボイルドではありませんでした。
謎めいた女性依頼人、調査先での死体発見、暴力団との絡みなどプロットがこのジャンルの定番ながら、二転三転するところはそれなりに読ませます。腕っぷしだけは自信がある重戦車のような探偵のキャラクターもなかなか面白かった。

No.1285 6点 死を呼ぶペルシュロン- ジョン・フランクリン・バーディン 2010/11/30 18:57
精神科医が巻き込まれる悪夢のような物語。
ハイビスカスの花を髪に挿した患者の青年、殺された女優のマンションに馬を届けさせる小人たち、記憶を喪失し別人名義で病院で目覚める主人公の精神科医など、序盤のたたみかける展開はスリリングで多くの謎に満ちています。
語り手が精神科医であることや、アイデンティティの喪失を取り入れていることで、後の「青尾蠅」などのサイコ系のサスペンスを想起させますが、デビュー作である本書は全ての謎が合理的に解決されるフーダニットになっています。構成に甘いところがあり中盤だれるものの、一応伏線も張られており、この時代の本格ミステリとしては及第点でしょう。

No.1284 4点 烈日- 今野敏 2010/11/29 20:10
東京湾臨海署安積班シリーズの最新短編集。
シリーズ・キャラクターに依存した類型的な刑事ドラマになっており、ミステリ部分は完全な付けたしという感じです。
「チョウさん」という呼びかけが「ハンチョウ」に変わっていたり、新顔の女性刑事が加わるところなど、テレビドラマ化の悪影響がもろに出ている気がする。

No.1283 8点 真実の行方- ウィリアム・ディール 2010/11/28 17:28
リーガル&サイコ・サスペンスの傑作。
カトリック教会の大司教惨殺事件の容疑者として逮捕された19歳の青年エアロンを巡る迷宮の物語。
元恋人の女性検事と法廷で対峙することになるヤメ検弁護士マーティンの人物造形が見事で物語に厚みを感じさせます。
事件時の記憶を喪失しているというエアロンの供述や、大司教の裏の顔が判明することで、事件の様相が二転三転し非常にスリリングな展開。サイコものでお馴染みのネタを用意しながら、それを逆手に取ったような”最後の一撃”が実に強烈でした。
「フーリガン」のウィリアム・ディールがこういったタイプのミステリを書いていたとは思わなかった。

No.1282 6点 小鳥を愛した容疑者- 大倉崇裕 2010/11/27 18:21
拘留された容疑者のペットを保護する部署に配属になった元捜査一課の鬼刑事と、元動物園勤務でペットおたくの女性巡査コンビによる連作ミステリ。
期待以上に面白かった。天然でボケをかます女性巡査が編を重ねる毎にキャラが立ってくる。ユルミスには違いないが、動物の生態をきっかけにした謎解きのロジックは、水準レベルに達しているように思います。
最終話を読むと、あの女性警部補シリーズと物語世界を共有しているようで、今後二人の共演作品が読めるかもしれません。

No.1281 6点 リアルでクールな殺し屋- チェスター・ハイムズ 2010/11/26 18:46
元祖”あぶない刑事”、墓掘りジョーンズ&棺桶エドがハーレムで暴発するノワールな警察小説。
シリーズ上のコンビの役割分担がだいぶ見えてきた。棺桶エドは常に貧乏くじを引く。硫酸を顔にぶっかけられたり(第1作)、誤射による停職処分&実の娘がギャングに監禁され、そして最後にぶちきれる。墓掘りがなだめ役で、捜査を先導するパターンになっている。本書は、いつものユニークな脇役キャラやブラックユーモアに欠けるように思いますが、最後にドンデン返しを用意しており、フーダニット・ミステリとしてもキッチリ構成されています。

ところで、「ミステリマガジン」今月号の特集”相棒”ですが、”相棒”といえば、杉下右京&亀山薫、じゃなくて、墓掘り&棺桶コンビでしょうに(笑)。翻訳ミステリの老舗の専門誌が、日本の刑事ドラマをメインに取り上げるのはいかがなものか。

No.1280 5点 脳波の誘い- 佐野洋 2010/11/25 18:00
最初期の長編ミステリ。
テレパシーで他人を誘導し自殺させるという老研究者が出てきて、おおっこれは「読者よ欺かるるなかれ」に挑戦した不可能犯罪トリックものか、と一瞬思わせますが、そこは常識人の佐野洋のこと、単なる偽装自殺疑惑事件になってしまいます。
とはいっても、意外な犯人像を設定したまずまずの本格ミステリになっていて、読んでガッカリ感はありませんでしたが。

No.1279 6点 黄昏にマックの店で- ロス・トーマス 2010/11/24 17:48
このシリーズ、2作目以降はクライム小説寄りになっていたように思いますが、今作は再びCIA相手ということで、スパイ謀略系の様相です。もともとワシントンの二代目「マックの店」をCIAに出させた金で開いた経緯があるので、第1作の続編という位置づけの作品でしょうか。
今回、パディロ&マコークルの2人組は、CIAの裏事情を書いた回想録を巡って、虚々実々のコンゲームを繰り広げますが、相変わらず敵も味方も会話が洒落ていて楽しめます。これでプロットがもう少し整理されて分かり易ければ文句がないのですが。

No.1278 6点 舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵- 歌野晶午 2010/11/23 21:16
舞田ひとみ中学生編。
ひとみに事件と謎を持ち込んでくる語り手のエミリら、女子中学生3人組のキャラクターがよくて、ミステリ部分よりその言動や生態が面白かったので前作より高評価。
パズラーとしてはいずれもユルメですが、激やせ外国人講師の謎「幽霊は先生」が個人的ベスト。
これ以降、17歳高校生編だけでなく、20歳女子大生編、23歳OL編、26歳奥様編.....と続編を希望します(笑)。

No.1277 7点 青い虚空- ジェフリー・ディーヴァー 2010/11/22 20:31
「ソウル・コレクター」や今年出たキャサリン・ダンス主役の新作と同様、ネット犯罪がテーマの単発作品。
犯人の名前は早々に明かされており、天才ハッカーと犯人との電脳空間での追跡劇を読まされるだけのサスペンスかと思っていると....さすが、ディーヴァー。次々とお家芸のドンデン返しが連発されます。
物語としての深みは若干欠けるように思いますが、娯楽ものサスペンスとしては充分に楽しめた。

No.1276 8点 エラリー・クイーン論- 評論・エッセイ 2010/11/21 21:09
ファンクラブ会長の評論集だけあって、マニアックでディープ、かつロジカルな考察がぎっしり詰まっている。国名シリーズを読んだのが随分前なので、多少ついていけない所もありましたが。

主な論点は2つ。前半は、作家クイーンのミステリの特異性について述べている。
クリステイ、ディクスン・カーら「意外な真相」志向の作家と違って、クイーンは「意外な推理」を志向しているという考察はあまり目新しいとは思わないが、”読者への挑戦”は必ずしも犯人当てを求めているのではないという考察は面白い。
2つめの論点は、いわゆる「後期クイーン問題」。その中の「名探偵の存在を前提とした犯人が偽の手掛かりを用意した場合、作中探偵は真の解決に至れるか」という命題のほうを俎上にあげている。
笠井潔、小森健太朗両氏の説に真っ向から対峙した反論は、少々くどいけれど知的興奮を掻き立てざるを得ないロジックだ。結論の、”本格ミステリによる対人ゲーム”という主張には斬新さを感じました。

本書の性質上、クイーンの作品を中心に多くのネタバレ(ずばり犯人の名前まで)があるので、ある程度読み通しておく必要があります。というか、読んでないと「後期クイーン問題」の考察の面白さが分からないと思います。特に「ギリシャ棺の謎」を直前に再読しておくと本書の面白さが倍増するはず。

No.1275 7点 最高の悪運- ドナルド・E・ウェストレイク 2010/11/21 20:10
不運な泥棒ドートマンダー、シリーズ第9作はオールキャストのお祭り騒ぎで爆笑を誘います。
大邸宅の主人に奪われた記念の指輪を奪還するため、仲間を集めて何度も忍び込むのですが、肝心の指輪ではなく、仲間が次々と邸宅の金品を手に入れていきます。回を重ねる毎に仲間がどんどん増えていく様が繰り返しギャグ風で無性に面白い。
準レギュラーが揃う構成はひょとして「悪党パーカー/殺戮の月」のパロデイかもしれません。

No.1274 5点 新・新本格もどき- 霧舎巧 2010/11/20 18:54
パスティーシュ連作短編集の第2弾。今回は新本格第二世代の作家・作品をもどいています。
最初の数作は、いきなり前作を踏まえたシチュエーション、人物設定になっていて若干不親切な創り。前作の状況を憶えてないと判りずらい。
最後のオチが綺麗に決まった「すべてがXになる」と、ノックスの十戒を悉く破っていく趣向の「覆面作家は二人もいらない」が印象に残りましたが、パロデイとしての出来は前作よりだいぶ落ちる感じがしました。

No.1273 6点 漂う殺人鬼- ピーター・ラヴゼイ 2010/11/20 18:35
ダイヤモンド警視シリーズの8作目は、シリアルキラーもの。
海水浴場で殺された女性の職業が判明し、残された手記が出て来るところから一気に面白くなる。ミッシング・リングの真相は目新しいものとは言えないけれど、現代風にアレンジされていて、ミステリとしては上出来でしょう。
意外だったのは、前作のステラの事件の翳が控えめなこと。そのかわり、ヘン・マリン主任警部という後にスピンオフし主役を務めることになる強烈女性キャラが出てきますが。

No.1272 4点 最後の証人- 柚月裕子 2010/11/19 18:08
法廷ミステリ。
タイトルから、クリスティや小泉喜美子の有名作品を連想せざるをえないこともありますが、小説技巧があまり上手でないため仕掛けが早々に判ってしまいました。それだけがこの小説の読みどころではありませんが、登場人物がいずれも類型的に思えて、二時間ドラマの脚本を読むようでした。どうも、「このミス大賞」出身作家の作品とはどれも相性が良くないようです。

No.1271 6点 探偵の帰郷- スティーヴン・グリーンリーフ 2010/11/19 17:39
遺産である農場の処分のため、兄弟が住むアイオワ州の故郷に30年ぶりに帰ってきたジョン・タナー。
私立探偵タナーのハードボイルドは、プロット重視でロスマクの亜流という評価がついてまわるようですが、4作目の本書は自前の作品という感じがします。
文字どおり「探偵の帰郷もの」テーマらしく、甥の殺害事件を柱にしながら、自身の過去、肉親との関係などタナーの揺れ動く心情を絡めた内省的ハードボイルドで完成度は高いと思います。

No.1270 5点 災園- 三津田信三 2010/11/18 18:09
こども視点のホラーミステリ、<家>シリーズの3作目。
引っ越し先の家で過去に纏わる怪異に遭遇するというのがシリーズのパターンですが、今回は同じ施設で生活する少年少女のちびっこ探偵団的様相もあり、どちらかというとミステリ寄りの作品でした。
序盤で語られる主人公の6歳の女の子が持つ特殊能力が、物語上活かされていないのは拍子抜けの感。

No.1269 8点 縞模様の霊柩車- ロス・マクドナルド 2010/11/17 18:08
”家庭の悲劇”をテーマにしているのは同じですが、円熟期の傑作といわれる3作の中では、徒に複雑な人間関係を設定していないぶん、本書のプロットが一番すっきりしているように思います。強引なドンデン狙いのトリックがないのも好印象。ただ、若者たちが乗りまわす霊柩車のエピソードを挿入した意味と、それをタイトルにした理由がいまいち判らないのですが。
メキシコの地を効果的に使っているのは、マーガレット・ミラーの作品を連想せます。メキシコの教会でのラストシーンは作者の作品の中でも印象に残る名場面でしょう。

No.1268 4点 新世界崩壊- 倉阪鬼一郎 2010/11/16 18:00
バカミス。「この館の正体は何でしょう?」シリーズの第3弾。
さすがに、同じような趣向を続けられるとインパクトは落ちますね。泡坂風の活字のお遊びも、作者の労力の割に面白味に欠けるのは前作同様でした。
ニューヨークからロンドンへの瞬間移動のメタな仕掛けが、小森健太朗のあれに匹敵するおバカさで、これは笑撃的でした。

No.1267 5点 燃える接吻- ミッキー・スピレイン 2010/11/15 18:23
私立探偵マイク・ハマー登場の第6作。
初っ端から、女性に対するサディスティックな拷問シーンで幕が開き、例によって暴力と銃声にあふれ、最後はやはり「裁くのは俺だ!」になっています。シリーズ第一期の集大成というか、過去の作品で読んだようなシーンが続くのは気のせい?
本書の後、しばらくハマーは姿を消すが、10年後に帰ってきた彼はまるで別人。そういう意味では、本書がタフガイ探偵の最後の雄姿かもしれません。

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