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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1446 6点 ショパンの手稿譜- リレー長編 2011/02/18 17:40
ジェフリー・ディーヴァーほか15名の作家によるリレー・ミステリ長編。
黄金時代の英国ディテクションクラブ・メンバーによる「漂う提督」を始めとして、このような企画は本格ミステリが定番で、本書のように国際謀略サスペンスというのは珍しい。
もともと小説としての完成度を期待するのは野暮で、リレー・ミステリの楽しみは、前段担当の作家がばらまいた伏線を、後ろを受けもつ作家がうまく回収できるか、という点にあると思う。各自が自身の思惑でプロットを発展させるため、ある人物の造形が作家によって善悪にぶれたり、主役級で登場させた人物を後ろの作家が簡単に「殺して」しまったりで、図らずも先が読めない意外な展開になっているのが面白い。
終盤になるほど担当する作家は大変だと思うが、なんとかまとめ上げたうえに、ラストに二度のどんでん返しを持ってくるなど、やはりディーヴァーの技量が抜きんでている。

No.1445 5点 瀬戸内海殺人事件- 草野唯雄 2011/02/17 17:50
章題がすべて「奇妙な・・」で統一されている如く、どこか奇妙な構成の初期本格ミステリ。
アリバイ崩しを主題とした探偵役・男女コンビによるユーモア風味の旅情ミステリの展開から、終盤いきなり”読者への挑戦”が挿入され、あれ?そんなミステリだっけ、と戸惑うこと必至です。
文章や語り口のセンスがいまいちですが、この仕掛け自体は面白いと思った。

No.1444 6点 午前零時のフーガ- レジナルド・ヒル 2011/02/16 17:51
ダルジール警視シリーズ、40年以上続いているシリーズの最新22作目。
本格的に職場復帰することになったダルジール。出勤途上に曜日を勘違いしていることに気づいてからの長~い日曜日の一日が始まります。
今回のテーマは”生れ変り”。まさに遁走曲のごとく、同一場面が多視点で繰り返し描写され、物語がなかなか進行しないのでじりじりさせる側面がありますが、各章の始めに挿入された何者かのモノローグが意味深で、それが最終章で判明するもう一つの”生れ変り”につながる構成が秀逸でした。

No.1443 6点 花の棺- 山村美紗 2011/02/15 17:54
米国副大統領の令嬢、名探偵キャサリン・ターナー初登場作品。
メイン・トリックは、雪中の鍵のかかった和室で華道の家元が殺される二重の密室なわけですが、”日本人には密室でも外国人にとっては密室ではない”みたいなハッタリが面白かった記憶があります。外国人を探偵役に据える必然性も感じさせます。今考えてみれば、警察の現場鑑識を舐めきってますが(笑)。
パズル的なキャンピング・カーのアリバイも、ここらでもう一つ見せ場が必要という必然性しかありませんが、リアリズムや必然性を犠牲にしても、トリックに拘った本書はやはり面白かった。

No.1442 7点 イリーガル・エイリアン- ロバート・J・ソウヤー 2011/02/14 17:53
異星人を殺人事件の被告としたSF法廷ミステリ。
”未知との遭遇”風の異星人との友好的なファースト・コンタクトの場面、ウェルカム・レセプションにスピルバーグが出席してたりで妙に可笑しい。そのため、法廷場面になってもあまり緊迫感を感じないが、詳しく描写されるトソク族の生態が真相に繋がる伏線になっているなど、ミステリとしてもよく出来ていると思う。

No.1441 6点 怪奇小説という題名の怪奇小説- 都筑道夫 2011/02/13 18:55
推薦・解説の「道尾秀介」という文字が著者名より何倍も大きく帯に刷られた復刊文庫本が、先月まで書店の平台に山積みだったという幻想的な怪奇ミステリ。
短編では相当数のホラーを書いていますが、長編は意外と少ない。本書はいかにも作者らしいトリッキーでメタな構成で、「三重露出」の怪奇小説版のような感じを受けた。ちょっと理屈っぽい語り口は、最初はあまり恐怖感を煽る感じではなかったですが、主人公の作家・都筑道夫の幼い頃のエピソードあたりから迷宮に引き込まれた。

No.1440 8点 ウッドストック行最終バス- コリン・デクスター 2011/02/13 17:57
モース主任警部シリーズの1作目。
大団円まで推理の過程を明かさない過去の名探偵と違って、仮説を構築しては修正を繰り返し、それらを随時部下のルイスに開陳していくモースの謎解きは新鮮でした。本書の中盤での、北オックスフォードの人口1万人から幾つかの犯人の条件を当てはめて、最終的に赤い車の持ち主を1人に絞り込むやり取りが、まさに”机上の空論”的ロジックで笑えます。
「警部さん、とうとうクリスチャン・ネームを教えてくれませんでしたね」。この犯人のセリフで終わるエピローグが印象に残る。

No.1439 5点 紅の幻影- 斎藤栄 2011/02/12 15:03
小説家志望の「私」が、大衆小説大家の邸宅に通い、”勝海舟二人説”に基づく歴史ミステリを執筆中に殺人事件に巻き込まれる。
私小説風に綴られるこの第一部「紅の幻影」は良かったのだけど、現実の事件に変転する第二部が物足りない。
作中作が遺稿のカタチで現実の事件に繋がる構成自体は、当時としては斬新なプロットだと思いますが、ただそれだけという感じで、後続の折原一作品などと比較すると、もうひとヒネリ欲しいと思ってしまう。

No.1438 4点 引き潮の魔女- ジョン・ディクスン・カー 2011/02/12 14:34
首都警察シリーズ三部作の3作目。最初の「火よ燃えろ!」はスコットランド・ヤード創設まもないヴィクトリア朝時代が舞台背景でしたが、本書は20世紀初頭で、あまり歴史ミステリという感じを受けなかった。
カーの歴史ミステリの定番である活劇&ロマンスの要素はなく、海水浴場の砂浜に囲まれた脱衣場内の死体という”足跡のない殺人”を扱った不可能トリックもので、フェル博士登場でも違和感がないが、トリックは残念レベルです、探偵役のトウィッグ警部は個性に乏しく、これは平凡な作品と言わざるを得ません。

No.1437 7点 リア王密室に死す- 梶龍雄 2011/02/11 18:25
戦後まもない京都を舞台に、最後の旧制三高生たちが巻き込まれる密室殺人事件を扱った青春ミステリ。旧制高校シリーズの1作目です。
作者の青春ものは、本格ミステリの趣向が弱いと言われますが、本書は両方の要素のバランスがよくとれている佳作だと思います。密室トリックの真相を示唆する伏線が絶妙で、もうひとつの隠されたトリックもこの時代ならではのものという点を評価したい。
第二部で、主人公・武志が三十数年後に知ることになる、奈智子(またもや思慕の対象が年上の女性ですが)の運命と彼女が残したものはなかなか感動的でした。

No.1436 6点 ブラウン神父の醜聞- G・K・チェスタトン 2011/02/11 17:54
ブラウン神父シリーズの第5短編集。
この最後の短編集も、パラドックスや立ち位置の逆転というお得意のモチーフが健在。「ブラウン神父の醜聞」や「ブルー氏の追跡」などはその典型で、ともに先入観(人は見かけによらぬもの)を逆手に取ったもの。
収録作の中では、「見えない人」パターンの人間消失トリックを扱った「古書の呪い」が印象に残った。

No.1435 7点 善の決算- 日影丈吉 2011/02/10 20:38
シリーズ探偵役のひとり、春日検事の事件簿を中核とした中短編集(弥生書房版)。
短編だと幻想的なミステリが多い作者の作品ですが、この春日検事シリーズは、叙情性のある作風は変わらないものの、本格パズラー志向が強い傑作が揃っています。

表題作の中編「善の決算」は、密室状況のアトリエで洋画家が弓矢で殺害された事件。3人の容疑者に対する犯行可能性の論考が緻密なうえトリックも意表をつきます。
同じく中編の「枯野」は、新興宗教の教祖と女子高生信者の二重死の謎。ホワイダニットの展開から、予想外の真相に至る。
「眠り草は何を夢みる」は、連作ミステリとしては通常ありえないようなラストの処理に驚かされます。

春日検事シリーズは、本書収録作以外にも書かれていますが、一部は全集でしか読めない現状は不幸としか言いようがない。

No.1434 6点 ブラウン神父の秘密- G・K・チェスタトン 2011/02/10 19:56
ブラウン神父シリーズの第4短編集。隠退してスペインに住むフランボウらに、神父が語る8編の探偵譚が収録されています。
逆説的ロジックを具現化させる必要上、人物の入れ替りや一人二役トリックを使った作品が多いのですが、いずれも設定に工夫があり飽きさせません。
なかでは、プロットにヒネリがあり動機が特異な「ヴォードリーの失踪」が個人的ベスト。「マーン城の喪主」が準ベスト。

No.1433 4点 やぶへび- 大沢在昌 2011/02/09 17:46
金のために偽装結婚した相手・中国人妻のトラブルに巻き込まれ、泥沼に嵌っていく男を主人公にしたクライム小説。
久々の書き下ろしで多少の期待がありましたが、近年の低調ぶり・マンネリから脱皮するものではありませんでした。終盤のこのような展開を何度読んだことやら。
序盤の”初対面の妻”とのやり取りなどユーモラスなところもあるので、いっそのこと「走らなあかん夜明けまで」タイプのドタバタ劇に徹した方がよかったように思う。

No.1432 7点 ブラウン神父の不信- G・K・チェスタトン 2011/02/08 18:12
ブラウン神父シリーズの第3短編集。収録作の知名度では「童心」にも引けを取らないラインナップです。
各種アンソロジーに取り上げられることの多い安楽椅子探偵もの「犬のお告げ」、島荘的な豪快トリックの「ムーン・クレサントの奇蹟」、ディクスン・カーが書きそうな不可能トリック「天の矢」、クリスティの某作を連想させるトリックが印象深い「ギデオン・ワイズの亡霊」など傑作ぞろい。
個人的お気に入りは「翼ある剣」で、作者お得意のメイン・トリックに加え、死体の隠し方がなんともブラックな味わいがある。

No.1431 5点 巡査の休日- 佐々木譲 2011/02/07 17:40
北海道警シリーズの4作目。
前作で小島百合巡査が逮捕したストーカー事件の犯人が逃走し、津久井らが追うというのがメイン・プロットで、それに複数の事件が並行して展開するモジュラー形式になっています。
いずれの事件もこれまでのシリーズ作品と比べると小粒なので、やや牽引力に欠ける印象。刑事群像劇を読ませるには、キャラクター造形に長けているとは言い難い作風なので、シリーズ愛読者でないと楽しめないのではと思う。

No.1430 6点 傾いたローソク- E・S・ガードナー 2011/02/06 23:52
交通事故の示談から土地売買契約に関わるトラブルと繋がり、今回は民事裁判か?と思わせる序盤の展開でしたが、停泊中のヨット船内の殺人という本筋になってからは結構本格編でした。
傾いたローソク、潮の干満、昇降口の足跡などのデータに基づくペリイ・メイスンの繰り出すロジックは、理屈っぽいですが、発想の転換が面白く、よく考えられているように思います。

No.1429 6点 戦場の夜想曲- 田中芳樹 2011/02/06 12:54
初期のSF・冒険小説系短編集。
第1短編集「流星航路」と同様に、宇宙空間を舞台に「銀英伝」のワンシーンを切り取ったようなSF小説と、近未来の冒険・謀略ものの2つのタイプの作品が混在した短編集でした。
前者では、人類終末テーマの「長い夜の見張り」、後者では、山田正紀ばりの襲撃小説「ブルースカイ・ドリーム」がよかったが、ミステリ的なアイデアでは前作に一歩譲る感じがする。

No.1428 6点 喉切り隊長- ジョン・ディクスン・カー 2011/02/05 18:49
ナポレオン統治下のフランス軍に捕えられた英国人スパイ・アランの諜報&探偵活動を描いた歴史ミステリ。
次々と兵士の首を切裂く謎の暗殺者の正体は(黒幕を含めて)ある程度予測がつくので、フーダニット・ミステリとしての魅力に欠けますが、実在の悪魔的人物である警務大臣ジョセフ・フーシェの造形が興味深い。
フーシェとナポレオン皇帝との関係、主人公アランとの駆け引き等、スパイ謀略ものの歴史ミステリとして楽しめた。

No.1427 6点 真赤な子犬- 日影丈吉 2011/02/05 13:46
昭和30年代に出版されたとは思えない、軽妙で垢ぬけした本格ミステリでした。
まず、個性的な登場人物が揃っています。国務大臣である父親と歌手の娘のコンビもいい味を出していますが、大臣の影武者にさせられる探偵小説マニアの守衛のおじさんがいい。この時代にセイヤーズを読みながら、終盤に意外な役割をします。
ふたつの事件、社長の墜落死と足跡のない殺人は、バカミス的な真相かと思っていたら、割とまともだったのは残念。

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kanamoriさん
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