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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2460件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2380 6点 はんざい漫才- 愛川晶 2016/05/17 19:08
寄席「神楽坂倶楽部」の席亭(支配人)代理を任された素人のアラサーヒロイン・希美子を中心に、演芸場で起きる様々なトラブルと人間模様を描く、”神楽坂謎ばなし”シリーズの3作目。

今回選ばれたジャンルは漫才と音曲で、2つの中編で構成されていてます。
1話目の「はんざい漫才」では、赤穂浪士の火事装束に西部劇のテンガロンハットという奇妙な姿をした泥棒が出没し、ある漫才コンビのネタ「タイムマシン」との類似に気付いた警察が希美子のもとにやってくる。
これはトリックはいいと思うのですが、ちょっとプロットがごちゃごちゃしていて、ストレートにその面白さが伝わってこないような気がします。
2話目の「お化け違い」では、落語協会の会長が神楽坂で怪談噺を演じることになったのだが、希美子の父親との過去の因縁が原因で、大きなトラブルに発展する。謎解きミステリとしての妙味は乏しいですが、単に薀蓄や思い出話と思われた様々なエピソードが、全て1つに纏まる伏線回収の手際がお見事。また、”神田紅梅亭”の馬春師匠や弟子の馬伝(福の助)、谷原秋桜子名義の小梅(立花直海)や美波など、作者の別のシリーズのキャラクターたちが多く出演する趣向も楽しい。(なお、本書の「あとがき」で、谷原秋桜子が愛川晶の別名義であることがカミングアウトされています)。

No.2379 6点 緯度殺人事件- ルーファス・キング 2016/05/16 19:04
ヴァルクール警部補は、バミューダー諸島を出航する貨客船内に、ニューヨークで発生した殺人事件の容疑者が紛れ込んでいると睨み同船に乗り込む。しかし、無線通信士が殺され、陸上と連絡を断たれたことで容疑者の情報が入手できないうえに、あらたに殺人が発生する---------。

バミューダー諸島からアメリカ東海岸沖を北上しカナダに向かう貨客船内が、物語の冒頭から最終章の解決編まで全編にわたり舞台になっている”船上ミステリ”です。陸上と通信を断たれた海上の密室、乗客も11名という小型の貨客船ということが、よりクローズド・サークル物のサスペンスを増しています。
また、各章のタイトルが、船の現在地を示す”北緯と西経”の数値で表されているのもユニークで、そのことが後半になってから効いてきます。
ただ、謎解きミステリとしては、ちょっとモヤモヤ感が残ります。以前読んだ「不変の神の事件」は、けっこう面白かった憶えがあります(内容を忘れているので、どこが面白かったか不明ですw)が、本書の出来はそれにはやや及ばないかなと。船客のうち、重要人物であるプール夫人の過去に関係する”ある人物”を巡る謎や、奇妙な盗難の続発など、途中まではそれなりに惹きつけるものがありますが、解決がいやにあっさりなので、想像で補わなければならない部分があるような。関係者を一堂に集めた丁寧な謎解き説明が欲しかった。

No.2378 6点 フランス革命殺人事件- 磯部立彦 2016/05/10 18:43
国王ルイ16世が断頭台の露と消えた革命勃発4年目のフランス。王妃マリー・アントワネットと隔離され、タンプル城跡の獄舎に幽閉されていた8歳の王太子シャルルの周辺で、猟奇的な殺人が連続して発生する。一方、褐色の肌をもつ青年貴族ラウルは、王太子を救い出すべく画策するが--------。

フランス革命を背景にした謎解きミステリ。
作者・磯部立彦は、本書にある著者プロフィールでは正体不明の覆面作家となっていますが、のちに男女二人の合作ペンネームと判明しています。フランス革命という18世紀末の未曾有の動乱期を舞台に、史実にフィクションを交え、伝奇的要素とロマンを散りばめながら、フーダニット・ミステリに仕上げた本作は、アマチュア作家のデビュー作品としては、なかなかの出来栄えだと思います。サド侯爵や”三銃士”と名乗る小悪党の男女3人組による王族の誘拐計画とか、王妃の首飾りを巡る陰謀など、サブストーリーも充実しており飽きさせません。
惜しいのは、短い章割りで次々と場面転換を繰り返すため、説明が不十分と思える点があるところです。じっくりと書き込めば、歴史伝奇小説の傑作になっていたかも。
また、歴史モノの面白さに隠れた形になっていますが、謎解きミステリとしても、この”意外な犯人像”は特筆に値します。現場の死体状況が巧いミスディレクションになっているのです。

No.2377 6点 倒叙の四季 破られたトリック- 深水黎一郎 2016/05/08 15:29
”芸術探偵”シリーズの名脇役、海埜警部補を探偵役に据えた倒叙形式の連作ミステリ。
春、夏、秋、冬と4部構成になっていますが、そのことが何らかの仕掛けに”直接的”に関係することはありませんので、ご安心くださいw

いずれの犯人も、完全犯罪の指南書”裏ファイル”を参考に緻密な計画を立てるという設定はまあ目新しいのですが、首吊り自殺に偽装する「春は縊殺」、溺死事故を装う「夏は溺殺」、居直り強盗殺人に偽装する「秋は刺殺」、練炭自殺に偽装する「冬は氷密室で中毒殺」ともに、なんというか、堅実な仕上がりではあるものの、倒叙ミステリとして、あまりにもオーソドックスな内容です。探偵役と犯人側のキャラクターが地味で、対決シーンも割と地味な扱い。また1話目は、はたしてあの証拠で犯人が特定できるかな、という疑問もあります。
倒叙ミステリの面白さは、予想外のところから犯行が発覚する”犯人の意外なミステイク”にもあると思いますが、その点でもある程度予想できるものが多かったかな。
書下ろしの最終話「冬は氷密室で中毒殺」と2つのエピローグでは、シリーズ通読者をニヤリとさせる仕掛けと、ちょっとしたサプライズがありますが、クセモノの作者に期待するところが大きいぶん、全体的に少々物足りなさを感じました。

No.2376 7点 二人のウィリング- ヘレン・マクロイ 2016/05/08 11:33
ある夜、「私はウィリング博士だ」と名乗る男を街角で見かけた精神科医のウィリングは、タクシーで走り去る男の後を追って、パーティ開催中の邸宅に乗り込む。しかし、その男は「鳴く鳥がいなかった」という謎の言葉を残し、ウィリングの目の前で毒殺死する---------。

ベイジル・ウィリング博士の名を騙る怪しげな人物、目の前で起きる殺人、謎のダイイングメッセージ、いわくありげな夜のパーティと、魅力的な謎の連打で一気に物語に引き込む発端の意外性は申し分ありません。
ウィリングが、パーティに参加していた4組の男女を一人一人訪ね廻る中盤は、やや展開がスローテンポなため、中だるみ感があります。事件の構図そのものが謎の核心であり、それを隠蔽したまま、少しづつ手掛かりを捲いていく形なので、モヤモヤした印象を与えるのはやむを得ないところでしょう。
正統なパズラーを期待している読者には、終盤のスリラー風の展開に不満があるかもしれませんが、それでも、この悪魔的な真相は強烈です。普通なら他のジャンルの小説で使うようなネタを、本格ミステリの仕掛けとして落とし込む作者のアイデア・センスを評価したいです。
ネタバレぎみの余談ですが、本書を読んで、パトリック・クェンティンのパズル・シリーズ初期の探偵役だったドイツ系の精神科医レンツ博士が、戦後の作品から消えた事情を連想しました。そういう時代だったのですね。

No.2375 5点 女たちの復讐- 梶龍雄 2016/05/06 21:11
目覚めると全裸で椅子に縛り付けられ、目の前には拳銃を構えた女が立っていた。探偵事務所の所長ながら、殺し屋という裏の顔を持つ真藤は、殺っていない殺人の犯人として、被害者の娘姉妹によって廃ビルの一室に監禁されたのだ。真藤は、冤罪を雪ぐべく必死に”安楽椅子探偵”を試みるが-------。

発端とラストは、ミッキー・スピレインを思わせる通俗ハードボイルドのような展開ですが、そのあいだの本筋の部分は、2年半前の熱海の別荘で発生した殺人を巡る意外と真っ当なフーダニット本格になっています。
また、探偵役が身動きが取れないため、やむなく安楽椅子探偵をやらざるをえないという第1部の設定もユニークで(第2部で探偵は現場に赴いていますが)、梶作品のなかではちょっとした異色作といえるでしょう。
作風は全体的にB級感は拭えない(表紙の煽情的なイラストが一層B級ミステリらしさに拍車をかけている)ものの、謎解き面では死体消失の”ホワイ”からの、アリバイ・トリックを暴く推理プロセスは盲点を突く形で光るものがありますし、終盤に突如出てくる暗号には、なんというか、作者のサービス精神を感じますw

No.2374 6点 土蛍- 近藤史恵 2016/05/06 21:09
南町奉行所の定町廻り同心・玉島千蔭は、人気女形役者・巴之丞が所属する中村座の奈落で、役者が首を吊ったと知らせを受ける。現場の状況に不審を抱き、調査を進める千蔭の前に明らかになってきたのは、芝居の世界に横たわる漆黒の”闇”だった(表題作)-------。

猿若町捕物帳シリーズの第5弾(連作短編集としては3作目)。
主人公の堅物同心・玉島千蔭をはじめ、花魁の梅が枝、女形役者・巴之丞らレギュラー・キャラクターが、各編で存在感を見せる4編からなる短編集。シリーズ第1作が出たのが2001年なので、もう十数年経つことになりますが、捕物帳としての読み心地の良さは全く変わっていません。今作はホワイダニットものの謎解きミステリとしてもよく出来ていると思います。
長屋の差配人殺しが意外な展開をみせる「むじな菊」、髷を切る通り魔の動機を追及する「だんまり」もいいですが、ベストはやはり表題作の「土蛍」で決まり。芝居小屋の変死事件の真相よりも、梅が枝の身請け話から炙り出される”女の情念”にぞっとさせられる。
最後の「はずれくじ」は小品ながらも、ちょっとした叙述の騙りが”どんでん返し”を生むキレのある佳作でした。

No.2373 6点 錆びた炎- 小林久三 2016/05/03 11:24
都内有数の総合病院から血友病で入院していた5歳の子供が誘拐される。その少年の病状は常に輸血を必要とし、出血に際しては生命の危険を伴うものだった。やがて、犯人は少年の家族ではなく、世田谷に住む院長の種村に身代金を要求してくる--------。

昭和52年に刊行された誘拐ものサスペンスの力作。
血友病を生死にかかわる重篤な病状に描き、タイムリミットを設けてサスペンスを盛り上げる作品という記憶があったのだけど、平成11年に再版された本書を読むと、72時間の制限は犯人側が設定しており、そのためデッドラインの緊迫感はやや薄められている印象を受けました。映画化された際に、医学界などから血友病の扱いに誤りがあり偏見を与えかねないというクレームがあったらしいので、改稿されたのでしょうか。
とはいえ、都内の地下鉄網を利用した身代金受け渡しを巡る攻防はなかなか読み応えがあり、犯人側の連絡手段のアイデアも面白いです。
ペルシャ猫を入れた鳥かごを持つ女性に関するトリックには無理を感じ、また後出しの情報が多いのも気になりますが、事件全体の構図を誤導し最終的に意外な真相に結びつけています。

No.2372 5点 天使の棲む部屋 問題物件2- 大倉崇裕 2016/04/29 10:16
不動産販売会社で問題物件のクレーム処理を担当する若宮恵美子は、またもや社長派の幹部から怪しげな物件の調査を押し付けられ、謎めいた殺人事件に巻き込まれる。いつも危機一髪のところに現れるのは、破天荒な名探偵・犬頭光太郎なのだが--------。

「問題物件」シリーズの2作目。「天使の棲む部屋」「水の出る部屋」「鳩の集まる部屋」「終(つい)の部屋」の4つの中編からなる連作ミステリ。
各編とも提示される謎はそこそこ魅力的ですし、真相もそれなりに意外性があり、本格ミステリとしては標準レベルだとは思いますが、”何でもあり”のような規格外の名探偵・犬頭光太郎のキャラクターと”その正体”が個人的には受け入れがたく、読後の印象は微妙です(あくまでも好みの問題ですが)。また、現社長との派閥争いの犠牲者で難病を抱える前社長の御曹司・雅弘の存在があまり機能していないように思えます。
収録作のなかでは、表題作「天使の棲む部屋」を個人的ベストに推します。お屋敷モノ、”死の部屋”テーマという定番の設定ながら、手掛かり・伏線を丁寧に回収しながらの消去法推理が鮮やか。名探偵・犬頭の見せ場シーンが”真相解明後”というのがアレですけど。

No.2371 7点 パラークシの記憶- マイクル・コーニイ 2016/04/27 18:16
厳寒の長い冬が再び到来しようとする不穏な時代、村長の甥ハーディは、海辺の村で、伝説の女性ブラウンアイズに似た少女チャームに出会う。罪の記憶が遺伝することを恐れるこの惑星の人々は、いままで殺人を犯すことがなかったが、二人は海岸で背中を刺された男の死体を発見する--------。

名作「ハローサマー、グッドバイ」の続編。地球タイプの惑星に住む人々が、厳寒の冬の到来に対峙するという設定は前作と同じで、同時に今作もボーイ・ミーツ・ガール風の物語ではあるものの、前作の主人公ドローヴとブラウンアイズのエピソードがもはや伝説となっている数百年後の世界が舞台となっています。また、記憶遺伝子を引継ぎ、夢見で先祖代々の過去の記憶を呼び起こすことが可能という設定や、地球人が入植していながら”原住民”には不介入という状況が前作とは大いに異なる点です。
SFミステリとして読むと、”起こるはずのない殺人”が中核の謎ということになるのですが、フーダニットはともかく、特殊設定を活かしたホワイダニットの面で一応評価できるものの、そこに作者の力点があるとは思えません。本書のキモはやはりSF的なセンス・オブ・ワンダーにあります。
終盤の展開は、”SF史上有数の大どんでん返し”と言われた前作の終幕を踏襲しながら、より真相に踏み込んだ形ですので、前作のラスト1行を読んで「ええ、どういうこと?」「イミフ」という読者も腑に落ちることになります。謎の動物ロリンの真の役割や、この惑星の人々の存在理由が明かされるくだりは衝撃的でした。

No.2370 6点 ノッキンオン・ロックドドア- 青崎有吾 2016/04/24 18:59
不可能(ハウダニット)事件を専門とする御殿場倒理と、不可解(ホワイダニット)事件が得意な片無氷雨。探偵事務所の相棒かつライバルでもある2人の探偵が、7つの難事件に挑む連作ミステリ。

これはなかなか面白かった。2人の探偵がそれぞれの得意分野から謎解きのアプローチを試みるという設定がユニークですし、表面上ハウダニットが主眼の事件と思われたものが、実はホワイダニットがキモだったり、その逆のパターンがあったりで、設定を上手く活かしていて、プロットもよく練られていると感じた。
また、探偵事務所のアルバイト女子高生で”癒し系キャラ”の薬子ちゃんをはじめ、レギュラーキャラによる作風はライトノベル風ではあるものの、オリジナリティを感じるトリックや逆転の発想によるロジック展開など、各編ともパズラーとしてのクオリティーが高いと思う。
特に、密室トリックものの”How”より”Why”が強烈な表題作「ノッキンオン・ロックドドア」、髪切断の”Why”が意表をつく「髪の短くなった死体」、伏線と論理のアクロバットが光る毒殺トリックもの「限りなく確実な毒殺」の3編が印象に残った。また、「九マイルは遠すぎる」に挑戦したような安楽椅子探偵もの「十円玉が少なすぎる」は、読者の世代によって難易度に差がありそうですが、オチがしゃれています。

No.2369 4点 殺しのメッセージ- 梶龍雄 2016/04/20 18:58
推理力に秀でた和服美人の長女・静江、スポーツ万能で行動派の次女・輝美、お色気と観察眼がウリの三女・艶美の、狭山家三姉妹が4つの事件に挑む「探偵姉妹トリオ」シリーズの第2短編集。

シリーズ前作「女名刺殺人事件」でも似たようなことを書きましたが、三姉妹をわかりやすく類型的にキャラクター分けをしてるにも拘らず、あまりキャラクター小説的な面白さが感じられません。同じ様な設定の赤川次郎「三姉妹探偵団」と比べると、そのリーダビリティの差は歴然としています。裏表紙の著者プロフィール欄には「女性像の描き方には特筆すべきものを持つ実力派作家」とありますが、少なくとも本書を始めとした後期作品に関しては、ちょっと異論がありますw
各編ともノベルズ版で60ページ前後の長めの短編といった分量ですが、本格ミステリとしても、その分量に見合った謎解きの濃さがなく、どの作品も、お約束のように濡れ場シーンが挿入されているなど、水増し感は否めません。強いてベストを選ぶとすれば、第1話「アダルトな殺人」になるのですが、仕掛けの部分の基本的アイデアが、海外有名古典作品からのイタダキという不満があります(作中でその作品名を挙げ、ネタバラシをしています)。最後の「おちた女」は、伏線や”気付き”の部分が面白いが、アンフェアと思える部分が気になった。

No.2368 6点 緋の堕胎- 戸川昌子 2016/04/18 21:06
作者の持ち味である淫靡な官能描写や幻想風味が横溢する6作品を収録した短編集。巻末の初出一覧によると、発表年は昭和39年から54年で、割と長い期間の中から選ばれています。印象に残ったのは次の4作品。

表題作の「緋の堕胎」は、堕胎専門の医院を舞台にした犯罪小説。違法な金儲けに走る医者と新興宗教にはまる妻、そして情緒不安定な若い助手、3人の微妙な人間関係がある告発を契機に崩壊していく。中絶手術後のアレの処置などの具体的で胸糞悪い描写は、イヤミスをはるかに超越してますね。
「嗤う衝立」は、病院の相部屋で繰り広げられる痴態描写はポルノ小説まがいですが、最後に待っているのは脱力必至のオチ。
「黄色い吸血鬼」は、内容を覚えていたので初読時ほどのインパクトを感じませんでしたが、幻想と淫靡なエロスという点で最も作者の持ち味が出ていて、代表作といえるかも。
「塩の羊」は、フランスのサン・ギャロン島を舞台にしたミステリアスな作品。失踪人捜しの推理小説かと思えば、変態的な官能小説へ、さらにはレストランの女主人と修道僧の因縁を描く幻想的なゴシック小説になったりで、着地点が見えない不思議な味わいがある。個人的にはコレが一番好みかな。
ただ、どの作品も感受性豊かな中高校生にはとても読ませられません。トラウマになること間違いなし。

No.2367 6点 紅鱒館の惨劇- アンソロジー(国内編集者) 2016/04/15 21:20
昭和20年~30年代に発表された”幻の本格派作家”のシリーズ探偵ものを収録した鮎川哲也編アンソロジー、『殺意のトリック』『殺人設計図』に続く第3巻です。大阪圭吉「寒の夜晴れ」や天城一「ポツダム犯罪」などの有名作もありますが、ここではマイナーな初読の作品について寸評します。

表題作の岡村雄輔「紅鱒館の惨劇」は、シリーズ探偵・秋水魚太郎が初登場するヴァン・ダイン風の館ミステリ中編で、犯人のユニークな偽装工作や6つの疑問点からの推理がそれなりに面白い。水上幻一郎「火山観測所殺人事件」も典型的なコード型本格ですが、舞台設定があまり活かされていない感じがする。
九鬼紫郎「豹郎都へ行く」は、とぼけた探偵の不可解な行為から隠れた構図が暴かれるというプロットは、泡坂妻夫の亜シリーズを思わせる。これは連作で読んでみたい気もする。
香住春吾「間貫子の死」は、ユーモラスな語り口と”村の慣習”に起因する派手な殺人方法との対比が印象的で、編中で最もインパクトがあった。本作が犯人当てゲームのテキストだったというのがなんともw
坪田宏の「歯」は、機械的トリックが複雑で分かりずらく、重要情報の後出しも減点要素ですが、しっかりした文章力と精緻な描写は好印象。最後の千代有三「エロスの悲歌」は、思い切り意外な犯人を設定しているものの、それまでの錯綜した愛憎関係の話が浮いてしまっているように思う。
なお、現在では岡村雄輔や水上幻一郎、千代有三、坪田宏ら、収録作家のほとんどが論創社の”探偵小説選”シリーズで個人作品集が出ています。その論創ミステリ叢書が100巻に達しようとする時代が来るとは、さすがに鮎川センセーも想像していなかったでしょうね。

No.2366 6点 愚者たちの棺- コリン・ワトスン 2016/04/12 21:54
キャロブリート氏の葬儀は、町の名士にしては少ない参列者だけで寂しく執り行われた。その数か月後、今度は隣に住む新聞社の社主マーカス・グウィルが、送電用鉄塔の下で感電死体で発見される。地元警察のパーブライト警部は、殺人事件と判断し関係者である町の名士たちの聴取に乗り出すが--------。

イギリス東部にある架空の港町フラックスボローを舞台にするパーブライト警部シリーズの第1作。
コリン・ワトスンの作家としての活動期間(1958年~82年)がほぼ重なっているためか、内容紹介や解説ではD.M.ディヴァインの名前がよく引き合いに出てきますが、作風は全く異なり、本書を読む限りでは本格ミステリというより、軽いユーモアが入った警察小説というほうが個人的にしっくりきます。一癖も二癖もある個性的な登場人物たちの会話に含蓄があり、控えめながらシニカルでブラックなユーモアが漂うところは、いかにも英国ミステリらしい味わい。なかでも、ラストのチャブ警察署長の奥方のひと言に”らしさ”が凝縮されていますねw
厳格な意味では”本格”と言いずらいとはいえ、謎解きミステリとしての伏線の妙味と、真相の意外性はそれなりに兼ね備えており、解説の森英俊氏の「読み進めるほどに癖になる」という言葉を信じ、次の邦訳を期待することにしましょう。

No.2365 5点 イブの時代- 多岐川恭 2016/04/10 16:18
200年間の冷凍冬眠から目覚めた時雄は、未来社会のポリス・チーフから、ヌード・ダンサー”乳色のイブ”が殺された事件の捜査を指示される。この22世紀の世界では、殺人はほとんど発生せず、捜査技術が劣化していたため、元検事の時雄を捜査にあたらせるため冬眠から覚醒させたという事情があった--------。

ぶっちゃけ謎解きミステリとして読むと、ちょっと微妙な出来と言わざるを得ません。
主人公が目覚めた200年後の世界は、貧富の差やつらい労働がなくなっており、はだか同然の姿をした男女が、毎日自由恋愛を楽しむユートピアのような社会ですが、作者の筆は、その未来社会のシステムを描くSF小説と、フリーセックスを描く官能小説(といっても淫靡な感じはなく、あっけらかんとしたセックス描写ですが)のほうに力点がおかれ、途中、謎解きミステリの要素がどこかへ行ってしまっているのです。
ミステリとしては、スタッフが見守るテレビ・スタジオという衆人環視状況下の殺人の謎が中核になるのですが、この真相は読者には分かりようがありません。ハウダニットの興味は持たないほうがいいですw  ただ、「ほとんどの犯罪者が自首を選択する」というこの世界の特殊設定があるなかで、なぜ犯人が名乗り出ないのか?という”ホワイ”の部分はそれなりに面白いといえるかな。

No.2364 6点 カクテルパーティー- エリザベス・フェラーズ 2016/04/08 19:58
ロンドン郊外の村で骨董店を営むライナム家で、女店主ファニーの義弟キットの婚約を祝うパーティが開かれていた。ところが、ファニーが料理したロブスター・パイを口にした招待客たちは、その苦い味に顔をしかめ食べるのを止めたが、一人食べ続けた男性が帰宅したのちヒ素中毒で亡くなる--------。

エリザベス・フェラーズ中期のサスペンス本格。
だれもが顔見知りで穏やかな村に、キットの婚約者ローラという異分子が現れることで、小さなコミュニティーの安寧が壊れ、やがて悲劇が起きる......と書くと割とありがちなストーリーかもしれませんが、重層的に提示される謎が効いていて、なかなか面白く読めました。
犯人はだれか?という謎はもちろんですが、ある”偶然”によって誤った毒殺だった可能性があるために”本来の被害者”がはっきりしないうえに、明確な探偵役を置かない三人称多視点によって、主要登場人物それぞれの思惑で仮説が披露される多重推理風の展開になっているため、誰が最終的に謎を解くのかも分からないのです。最後の最後の”どんでん返し”で、探偵役と真犯人が判るというこの構成は見事だと思います。また、クリスティがよく使用するようなミスディレクションも要所で効いていて、とくに隣人のコリンの行為やローラの終盤の言動には見事に騙されました。
結末の処理にはnukkamさんと同じ感想を持ちましたが、解説で”新本格”について触れているように1955年発表の本作も、”もはや黄金期ではない”本格ミステリということでしょうか。

No.2363 7点 恩讐の鎮魂曲- 中山七里 2016/04/06 20:10
客船の沈没事故の際に、女性から救命具を暴力で奪った男が裁判にかけられるが、刑法の”緊急避難”が適用され男は無罪となった。一方、特別養護老人ホーム内で、医療少年院時代の恩師・稲見が介護士を撲殺した容疑で逮捕されたことを知った弁護士の御子柴は、父とも慕う元教官を救うべく強引に弁護に名乗りでるが、稲見は罪の償いをしたいと言い出す--------。

少年期に猟奇殺人を犯し、医療少年院に収監されていた過去を持つ弁護士・御子柴礼司を主人公とするシリーズの3作目。前作のアノ結末からは、続編が出ることが想像できなかったのですが、今作もリーダビリティ抜群で文字どおりの一気読みでした。
どんでん返しを期待するミステリという側面だけをみると、シリーズ前2作と比べ、今回は仕掛けがやや小粒かなと思います。隠された人間関係をつなげる”手掛かり”が都合よく次々と手に入る展開も気になるところです。
しかし、”贖罪”というシリーズを通した重いテーマを内包する人間ドラマ部分が非常に読み応えがありました。自分の信念を曲げない頑固者の被告・稲見を相手に、苦悩し、必死に奔走しながら、持てるカードを全て使って弁護に立つ、人間臭さをみせた今回の御子柴が魅力的で、”悪辣弁護士”といわれたころの面影はありません。ラストの手紙には(ちょっと反則技のようなあざとさがありますが)素直に感動させられました。

No.2362 6点 屠所の羊- A・A・フェア 2016/04/04 18:48
わけありの失業者「ぼく」こと、ドナルド・ラムは、大女のバーサ・クールが所長を務める探偵事務所に、めでたく雇われることになった。ラム君の初仕事は、贈賄事件の渦中にあり行方をくらました依頼人の夫を見つけ出して、離婚訴訟の召喚状を手渡すことだったが--------。

バーサ・クール&ドナルド・ラムの凸凹コンビ・シリーズの1作目。
ラム君の一人称語りという構成はネロ・ウルフシリーズのアーチー・グッドウィンを連想させますが、(本書を読む限りでは)ユーモアやワイズラックの味わいはさほどなく、キャラクターの魅力ではなくてプロット勝負という感じを受けます。
ホテルの部屋で起きた殺人事件の真相究明というのがメインではあるものの、ラム君がギャング組織に拉致され情報提供を強要されるというスリラー風の展開があったり、監視をすり抜けホテルの部屋に現れる被害者という不可能トリック風の謎があったり、最後は、ペリイ・メイスンばりの法網の穴をすりぬける法廷劇まであり、いろいろと盛りだくさん。読んでいるあいだは楽しめました。
ただ、振り返ってみると得心がいかないところもあります。ラム君の一世一代の法廷パフォーマンスが本書の一番の見どころではあるのですが、そういう遠回しの方法が必要だったのか、という疑問です。一応そうせざるを得なかったという説明はあるものの、いまいち納得がいかずモヤモヤ感が残りました。まあ、普通に謎解きを披露するだけだと、本書の持ち味がなくなるわけですが。

No.2361 6点 飛鳥高探偵小説選Ⅰ- 飛鳥高 2016/04/02 09:06
昭和22年の宝石誌デビューから30年代前半までに雑誌に発表された中短編8篇と、長編第1作の「疑惑の夜」、その他エッセイ等が収録されています。

短編に関しては、河出文庫の本格ミステリ・コレクション「飛鳥高名作選 犯罪の場」で、めぼしい作品は大方出尽くしていると思っていたのですが、6篇の単行本初収録作品が案外と楽しめました。
その短編のなかでは、ディクスン・カーばりの怪奇現象と不可能トリックものの「白馬の怪」をベストに推す。白い馬が徐々に消えてゆくトリックはバカミスぽいですが、物語の背景描写や雰囲気作りがいいです。
浅間山のふもとに暮らす一家の中で発生した惨劇を描いた「火の山」は、読みごたえのある力作の中編。ただ、終盤が駆け足ぎみなのが残念な点で、これは十分長編で書けるのではと思えた。他の短編も含めて、不可能トリックを扱ったトリッキィなものが多いのですが、文章だけでは現場状況が分かりずらいものが多く、見取り図があればよかったかなと思う。
長編の「疑惑の夜」は、江戸川乱歩賞を仁木悦子「猫は知っていた」や土屋隆夫「天狗の面」と争った作者の長編デビュー作。「細い赤い糸」が「喪服のランデヴー」ならば、本作は部分的なプロットが「幻の女」を思わせるところがあり、ウールリッチの影響大と感じさせるところがあるものの、密室、人間消失のトリックなど、作者の長編の中では比較的本格ミステリ志向の強い作品です。

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