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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2394 5点 飛鳥高探偵小説選Ⅱ- 飛鳥高 2016/06/30 21:06
主として昭和20年代から30年代に、雑誌「宝石」を中心に作品を発表した兼業作家・飛鳥高の作品集。2巻目の本書は、長編の「死を運ぶトラック」を目玉に、昭和30年代後半に発表された短編10編が収録されています。初期作の「犯罪の場」のようなトリッキィなものはなく、通俗的で社会性を持った作品が多い。

「死を運ぶトラック」は、昭和34年発表の長編第2作。「幻の女」タイプのアリバイ奪取の趣向が前作に続いて再び使われていたり、殺害トリックの解明が伏線なく唐突になされていて、謎解きミステリとしてはあまり高い評価はできませんが、松本清張ばりの社会派要素を背景にした一人の刑事による捜査小説として読めばそれなりに面白い。もう一人の主人公である元やくざのトラック運転手の存在が、最後に意外な形で効いてくるのも良。抒情性とアイロニーという作者の持ち味がよく出ている作品。
短編では、盗みに入ったアパートの部屋で死体を発見した泥棒が、現場の状況からロジカルに犯人像を推理する「鼠はにっこりこ」が良い。途中までの展開は、ローレンス・ブロックの泥棒バーニイ・シリーズを連想させる軽妙さがありますが、結末の後味の悪さは好みの分かれるところかも。
そのほかでは「大人の城」「猫とオートバイ」が印象に残った。ともに、ちょっとした不良少年を主人公にしたクライム・ストーリーで、この時期の作風を代表するような作品といえそうです。

No.2393 6点 闇と静謐- マックス・アフォード 2016/06/28 18:24
BBC放送局の開局記念式典に招待されたジェフリーとリード首席警部は、ラジオドラマ「暗闇にご用心!」の生放送中に、照明を消したスタジオ内で新進女優が急死する事件に遭遇する。スタジオは鍵がかかっており、殺人だとすれば中にいた6人の俳優スタッフが容疑者となるのだが---------。

素人探偵ジェフリー・ブラックバーンが登場するシリーズの第3弾。
2部構成になっており、前半部の第1巻は死亡した女優メアリ・マーロウの過去と、彼女の死因を巡る考察で終始しており、ややテンポの悪さを感じるものの、犯行方法が判明することによって起きる構図の逆転(解説では”容疑者のダイナミックな転換”)という最後の引きで一気に盛り上がります。物語中盤でのこのような形の反転は、あまりお目にかかれない趣向だと思います。
後半に入り、”誤った推理”によって犯人像が二転三転するプロットになり、個人的には「ギリシャ棺の秘密」を想起したのですが、本書には国名シリーズのほとんどの作品と重なる要素がある、と指摘した大山誠一郎氏の解説を読んで”目から鱗”。クイーン作品との類似点を一つ一つ採り上げ、鮮やかに分析したこの解説は圧巻で読み応え十分です。邦訳第1作の「魔法人形」が出たときには、作者をディクスン・カーに例えていたのですが、もはや”豪州のエラリー・クイーン”と称する方がいいように思いますw
殺人方法やアリバイ工作にはツッコミどころがあり、クイーンの国名シリーズと比べてロジックの緻密さに物足りなさを感じますが、邦訳3作の中ではまずまずと言える出来栄えかなと思います。

No.2392 6点 殺人交響曲- 蒼社廉三 2016/06/24 18:56
日下三蔵編”ミステリ珍本全集”の第11回配本は、戦記ミステリ「戦艦金剛」で知られる蒼社廉三。本書には「殺人交響曲」「紅の殺意」の長編2本に、単行本初収録になる中編ヴァージョンの「戦艦金剛」、ほか4篇の短編が収録されています。

表題作の「殺人交響曲」は、楽団のバイオリン奏者が轢き逃げ事故を装い殺され、その現場で拾った謎の楽譜3枚を巡って、4組の男女がアレコレ暗躍するといった音楽ミステリ。人間関係がかなり錯綜しており、その人物相関図を整理するだけで大変。また、明確な主人公が置かれておらず、どの人物に焦点を絞って読めばいいのか分からないことが、リーダビリティを下げているように思います。後半になって、ようやく連続殺人が起こり、本格ミステリらしくなるのですが、全般的に通俗スリラー色の強い作品でした。
中編版の「戦艦金剛」は、長編版ではやや冗長に感じられた戦局情報が最低限に抑えられており、戦艦の砲塔内での密室殺人を中核に置いた端正な本格ミステリになっています。
短編は意外なことに全てSF小説。「地球が冷える」と「地球よ停まれ」は、暗黒星や彗星の接近による人類の終末危機、「大氷河時代」はタイムスリップもの、「宇宙人の失敗」は宇宙人侵略ものと、いずれもテーマ自体は定番で新味はないのですが、素朴な味わいがあってそれなりに楽しめました。
なお、「紅の殺意」は別途改めて寸評したいと思います。

No.2391 7点 ルーフォック・オルメスの冒険- カミ 2016/06/22 18:18
フランス製のシャーロック・ホームズ・パロディ。名探偵ルーフォック・オルメスが、奇想天外な34もの怪事件を、あれよあれよと謎解いていくユーモア連作短編集で、74年ぶりの新訳完全版です。各話とも10ページほどの掌編で、演劇シナリオ風になっていることもあって、カッパえびせん並みにサクサクと読めます。

ギロチン台やボートが空を飛び、運河の水の中を自転車が走る。巨大な赤ん坊が人を襲い、人体の中から骸骨だけが盗まれる------ありえない奇想とナンセンス・ギャグに溢れた、これぞバカミスの聖典と呼ぶにふさわしい作品集です。これらの数々の奇想の連打で連想してしまうのは、われらの島田荘司センセーです。これまで島荘が信者から”本格ミステリ界の神(カミ)”と崇め奉られているのが個人的にはピンとこなかったのですが、なるほどダブルミーニングだったのですねw 
当シリーズで感心したのは、ありえない馬鹿馬鹿しい設定にも関わらず、それを前提にしたそれなりにロジカルな推理が展開されるところで、とくに第2部に入り、宿敵〈怪人スペクトラ〉との知的闘争編はミステリ的にも面白い作品が多い(ような気がする)。なかでも、怪人の脱獄トリックを扱った「トンガリ塔の謎」と、おバカすぎるトリックが炸裂する「血まみれの細菌たち」がお気に入り。で、一番笑えたのは「死刑台のタンゴ」かな。
「機械探偵クルク・ロボット」と同様に、そのまま日本語にすると分かりずらいギャグを、大胆にアレンジした翻訳の高野氏の功績も素晴らしい。また、氏が本書のナンセンス・ギャグの本質を、古典落語の滑稽噺(「頭山」や「粗忽長屋」)の近似だと見たのは慧眼だと思いますね。

No.2390 6点 家庭用事件- 似鳥鶏 2016/06/20 23:29
市立高校に通う”僕”こと葉山君が関わった”日常の謎”を、伊神先輩が快刀乱麻を断つ推理で謎解いていく〈市立高校シリーズ〉(と、称するらしい)の連作短編集。

1話目の「不正指令電磁的なんとか」では、パソコン内のワープロ文書が、プリントアウトされたとたん内容文言が入れ替わる、という摩訶不思議な謎が提示されるが、真相が明かさせると特殊知識に依存しただけのトリックという感もあります。次の「的を外れる矢のごとく」は、学校内の弓道場から的枠が盗まれた事件の犯人探し。動機の隠蔽とさりげない伏線が巧いと思うものの、編中ではあまり印象に残らない。
「家庭用事件」では、葉山君と妹の亜理紗が暮らすマンションの部屋が原因不明の停電に見舞われる。これは小品ながら、意外な真相を導き出す伊神先輩のロジック展開にキレがある。
「お届け先には不思議を添えて」は、宅配便で出したダンボールの中身が入れ替わるという不可能興味が強烈で、複数の仮説とロジックが展開される編中で最もパズラー志向が強い作品。ただ、アンソロジー『放課後探偵団』で読んだときには犯人の意外性もありましたが、この連作の中に入ると「またか!」となってしまいますねw

で、最終話「優しくないし健気でもない」が、他の作品とまったく手触りの異なる問題作。これは先入感なしに読むのがベターだと思いますが、熱烈なシリーズ愛好者ほど受ける衝撃が大きい、とだけ書いておきます。

No.2389 6点 灯火が消える前に- エリザベス・フェラーズ 2016/06/18 22:55
戦時下、灯火管制が敷かれたロンドン。刺繍作家のセシリーが主催するホームパーティに招かれたアリスは、初対面のセシリーの友人たちの間のギクシャクした雰囲気が気になっていた。やがて、いつまでたっても姿を現さない招待客の一人、劇作家のリッターが、間借りしている最上階のフラットで撲殺死体で発見される-------。

論創社から出たエリザベス・フェラーズ今年2冊目のノンシリーズ作品。
先に出版された「カクテルパーティー」と比較すると、ホームパーティでの殺人で幕を開けるところは似ているといえるのですが、錯綜した謎解きプロットの「カクテルパーティー」に対して、本作の構成は非常にシンプル。
目撃者の証言と凶器の指紋によって、被害者のリッターと一時不倫関係にあったジャネットが早々に逮捕され、裁判で死刑が宣告される。本書の大部分は、ジャネットの犯行に納得がいかないアリスが、パーティ参加者の男女を訪ね歩き、リッターとジャネットの”実像”を浮き彫りにしようとする数章で占められています。この巡礼スタイルでの関係者との問答パートが、地味でやや退屈に感じる部分もあるのですが、終章近くになって、アリスと夫のオリバーの推理のディスカッションから、盲点を突く真相に至る流れでようやく盛り上がります。戦時下ならではのトリックという点では、「爬虫類館の殺人」を連想する読者も多いのではないでしょうか。

No.2388 5点 本郷菊坂狙撃殺人- 梶龍雄 2016/06/16 18:20
本郷の菊坂通りにあるホテル4階の一室で自殺をしようとしていた登志子は、窓から狙撃事件を目撃する。ライフルの本来の標的は現場近くにいた少年だったのではと推測した彼女は、その少年が暮らす名倉邸にメイドとして潜り込むが、少年の飼い犬が轢殺される事件につづき、邸の主人がライフルで射殺される---------。

お屋敷ものの本格ミステリという定型の枠組みのなかで、本作はちょっと思い切った試みがなされていて、そのアイデア自体は面白いと思います。エラリー・クイーンの某作を連想する読者がいるかもしれません。ただ、肝となる隠されたモチーフが、たいていの日本の読者は知識として持っていないと思われるので、こんなに多くの伏線がありましたよと解決編で説明されても、素直に感心できないのが残念なところです。また、”それ”を利用して密室からのライフル銃を取り出すトリックは、さすがに無理があり、万事都合よすぎるように感じてしまいます。
探偵役が自殺志願の若い女性という設定が変わっていますが、単に奇をてらっただけではなく、ラストでちゃんと意味を持たせているのはさすがと思わせます。ヒロインと刑事との関係がもう少し書き込まれていれば、ラストシーンがより映えたのではとも思いましたが。

No.2387 7点 呪われた穴- ニコラス・ブレイク 2016/06/13 18:56
ドーセット州の村で、複数の住人たちの秘密を暴く匿名の手紙が配達され自殺者まで出ていた。その村にある館に息子たちが住んでいる資本家アーチバルド・ブリック卿は、探偵のナイジェルを雇い事件の真相解明を依頼するが、ナイジェルが調査を進めているさなか、石切場の穴底でブリック卿が変死体で発見される----------。

これは傑作。英国の片田舎を舞台にした匿名の中傷の手紙を発端とするミステリといえば、アガサ・クリスティ「動く指」、ジョイス・ポーター「ドーヴァー③誤算」wなどが思い浮かび、さほど新味はありません。脅迫の手紙を受け取った当人や関係者をナイジェルが一人一人訪ね、手紙の犯人を特定しようとする第1部は地味な展開なのですが、そこからブルック家の兄弟と、近隣のリトル・マナ荘に住むシャンメール姉妹の複雑な関係や、過去からの因縁という事件の背景が徐々に見えてくる構成が見事です。なによりも、車椅子の姉セランディンをはじめ主要人物の造形がしっかりと書き込まれているのが本書の強みです。
第2部に入り、本格的に殺人事件のフーダニットが謎解きの中核になるわけですが、犯人の工作以外に、複数の第三者の善意と悪意による行為が巧妙なミスディレクションになっており、かなりあからさまな手掛かりがありながらも、真相は見抜けにくくなっています。
ナイジェルが事件を再構成しながら推理を開陳するシーンに併せて、村の容疑者たち各々の密かな行動がカットインで描写され悲劇に至るという、終幕の演出もドラマチックで効果絶大です。

No.2386 5点 咸臨丸風雲録 福沢諭吉の推理- 海渡英祐 2016/06/10 18:42
万延元年、遣米使節団の隋行艦・咸臨丸は、勝麟太郎を艦長格に据え、太平洋を横断・サンフランシスコを目指し品川港を出航した。軍艦奉行・木村摂津守の従者として乗船した諭吉だったが、荒天や濃霧による船内の混乱がつづくなか、出航前に殺された水夫の幽霊が出没する騒動まで起きて--------。

乱歩賞を受賞した「伯林 一八八八年」の森林太郎(鴎外)や清水次郎長など、歴史上の著名人を探偵役にした歴史ミステリを十八番とする作者ですが、本書も、若き日の福沢諭吉を探偵役に、勝海舟やジョン万次郎など多くの歴史上の人物が登場する幕末の船上ミステリになっています。
巻末の参考文献一覧を見ると、士官の航海日誌やアドバイザーとして乗船したアメリカ人ブルック大尉の日記、その他多くの研究書が参考文献としてあがっており、史実に基づく歴史小説としてはなかなかの労作だとは思います。
ただ、その史実の枠組みが足かせになって、謎解きミステリの要素が弱く、人間消失トリックを扱ったメインの謎も小粒と言わざるを得ません。船酔いのため勝海舟が終始艦長室にひきこもっていたという有名なエピソードが、意外なところで効いてくるのは上手いとは思いますが、主人公の諭吉をはじめ著名人のキャラクターが通り一遍であまり魅力を感じません。
ということで、歴史小説として6点、ミステリとしては4点、間をとってこの点数にしておきます。

No.2385 5点 ガラスの城- 松本清張 2016/06/07 21:08
伊豆半島への社員旅行の夜、三上田鶴子は、敏腕課長の杉岡が旅館近くで女子社員のだれかを抱擁している光景を目撃する。その夜から杉岡は行方不明となり、数日後バラバラ死体となって発見される。田鶴子は独自に調査を始め推理を手記にしたためていくが、別の女性社員も事件を探索していることに気付く--------。

清張の長編ミステリは、漠然と抱くイメージと違って、意外なほど女性を主人公にした作品が多い。本書や「霧の旗」「黒い樹海」など女性誌に連載された関係で読者層を意識したと思われるもの以外にも、「球形の荒野」「黒の回廊」など、かなり多くの作品で女性が探偵役や主人公となっています。
本書も、女性が素人探偵となって独自の調査を行うプロットという点では同じなのですが、2部構成のそれぞれで別々の女性が手記の語り手になっているのがユニークです。会社の派閥・出世競争や不倫というテーマ自体は、2時間ドラマのようなチープ感は否めないものの、ヒロインと呼ぶには華のないオールドミスによる社内の人間関係の”観察者”ぶりが面白いです。
また、社内温泉旅行の殺人と手記形式ということで、どうしても”中町ミステリ”を連想せざるを得ないのですがw そういった仕掛けの部分は(中町信や折原一ならもう少し巧く書いたと思いますが)清張作品としては頑張っていると思います。

No.2384 6点 市長、お電話です- 草上仁 2016/05/31 18:15
SF系の短編集。いずれも人類が宇宙に飛び出し、様々な異星人たちと普通に交流がある未来世界を背景にした5つの短編が収録されていますが、作品間のつながりはありません。

「国境を越えて」は、大統領特別技術顧問の大科学者が、生まれて初めて他の惑星へ旅行しようと計画するが、膨大な技術知識が異星人に流出するのを恐れた政府が阻止しようとする話。これは風刺が効いているが、落としどころが何となく予想できてしまうかな。
「ポルノグラフィック」は、被子植物の形態をした異星人から、地球人が猥褻なポルノ雑誌をばら撒いているという苦情を受けるが、それらしきものが見当たらない。巧みな伏線による爆笑オチが見事に決まっている。
「転送室の殺人」は、航行中の宇宙船内を舞台にした意外とまともな密室ミステリ。装置の機能説明が充分でないのはアンフェアな感じを受けるものの、ある手掛かりから真相にいたるロジックが明快なSFミステリの佳作。
「豆電球」は、光るエンドウ豆を育てる異星人のもとに、電気エネルギーの代替として利用することを目論む企業がやって来る。これも「ポルノグラフィック」と同じテーマが隠されていて、異星人に対する印象がラストでがらりと変わる。これが編中の個人的ベスト作品。
表題作「市長、お電話です」は、移住用巨大宇宙船(一つの街のようになっている)を舞台に、忘れられてしまった”電話”という音声伝達システムが、硬直した行政を動かすという風刺的でハートウォーミングな話。

No.2383 5点 厚かましいアリバイ- C・デイリー・キング 2016/05/29 13:40
エジプト考古学者の未亡人ヴィクトリアが主催する音楽会に参加するため、彼女の邸宅を訪れたロード警視と友人のポンズ博士らは、休憩中に古代エジプトの短剣で刺殺された未亡人の死体を発見する。さらに、邸に併設された密室状況のエジプト博物館で第2の殺人が--------。

マイケル・ロード警視シリーズの第5弾。オベリスト三部作につづく通称〈ABC三部作〉の2作目にあたる本書は、洪水で孤立した高台の邸宅を舞台に、古代エジプト文明のペダントリーを散りばめたコテコテの館ミステリです。ツタンカーメンの墓の発掘以降、「カブト虫」(ヴァン・ダイン)、「エジプト十字架」(クイーン)と、1930年代の米国で古代エジプト文明をネタにした3作の本格ミステリが書かれているのは興味深いですね。
内容の方は、密室殺人あり、完璧なアリバイあり、ダイイングメッセージあり、邸の見取り図や登場人物のアリバイ一覧分析まで備え、本格ミステリのガジェットが盛りだくさんで興味を持たせるのですが........。解決編が近づくにつれて、読む方のテンションが段々に下がってきましたw
密室トリックの肩透かしはある程度は許容できるにしても、タイトルにあるメインの「アリバイ工作」が現代の読者には、そのシステムが分かりようがないのが致命的で、関係者を集めた真犯人を指摘するシーンでは一応ヒネリを入れてはいるものの、真相にあまりカタルシスを感じないのが残念なところです。

No.2382 6点 死者と栄光への挽歌- 結城昌治 2016/05/24 22:28
売れない画家の菊池睦男のもとに、34年前に南方の島で戦死したはずの父親が、一週間前に交通事故死したという知らせが入る。事故死した男は「菊地一郎」名義の古い診断書を持っていたが名前が微妙に違う。釈然としない睦男は男の正体を調べ始めたところ、当時を知る父親の戦友の一人が不審死する-------。

太平洋戦争の実態(とりわけ軍隊と戦犯)を主題にした作者の作品では、直木賞を受賞した「軍旗はためく下に」とか「虫たちの墓」という非ミステリ小説がありますが、本書は同じテーマを内包しつつ、”菊地一郎と名乗る人物はだれか”、”父親だとしたら、なぜ身元を隠していたのか”という謎を中核に置いた本格推理小説として成立しています。
主人公の睦男が、戦友会のメンバーを一人一人訪ねて回る”巡礼スタイル”は「軍旗はためく下に」と共通する構成ですが、同時に私立探偵小説を思わせるところがあり、途中から主人公がシリーズ探偵の真木に見えてきましたw  また、証言の中の矛盾点に着目し、些細な手掛りから一気に真相に至る28章の謎解きは、初期の本格モノ並みに読ませます。
主人公と別れた妻をはじめとした周りの人物との会話に軽妙なところがあり、シリアスで重いテーマのわりには読後感は意外と悪くないです。

No.2381 6点 手荷物にご用心- サイモン・ブレット 2016/05/20 18:52
パージェター夫人は、数か月前に夫を亡くした友人のジョイスを慰安するため、ふたりでギリシャへのパック旅行に参加した。空港でジョイスから預かった荷物の正体が気になりつつ、翌朝、現地の島にあるヴィラで目を覚ました夫人は、隣のベッドで死体となったジョイスを見つける-------。

未亡人のパージェター夫人が素人探偵を務めるシリーズの3作目。
今回一番インパクトがあったのは、ジョイス・ドーヴァーという友人の名前ですが、とくにパロディ的な趣向はありません。なにしろジョイスは早々に殺されるのですから、これはシャレにならないw
犯罪組織の大物だった亡き夫の昔の”仕事仲間”が次々と登場して、夫人の探偵行為をサポートするお決まりのプロットですが、その一人が経営する犯罪者相手の旅行会社で漏れ聞こえてくる客とのやり取りが笑えます。また、パック旅行の俗物的な観光客に対するシニカルな視線もシリーズに共通する要素ですね。
ポケミス200ページ足らずのコンパクトな仕上がりで、本格モノというよりスリラー要素が強い作品ですが、観光だけが生活の糧で血縁関係のある人々だけで構成されたギリシャの小村という舞台が効果的で、ダブルミーイングによるミスリードと、それによる”どんでん返し”が決まっています。

No.2380 6点 はんざい漫才- 愛川晶 2016/05/17 19:08
寄席「神楽坂倶楽部」の席亭(支配人)代理を任された素人のアラサーヒロイン・希美子を中心に、演芸場で起きる様々なトラブルと人間模様を描く、”神楽坂謎ばなし”シリーズの3作目。

今回選ばれたジャンルは漫才と音曲で、2つの中編で構成されていてます。
1話目の「はんざい漫才」では、赤穂浪士の火事装束に西部劇のテンガロンハットという奇妙な姿をした泥棒が出没し、ある漫才コンビのネタ「タイムマシン」との類似に気付いた警察が希美子のもとにやってくる。
これはトリックはいいと思うのですが、ちょっとプロットがごちゃごちゃしていて、ストレートにその面白さが伝わってこないような気がします。
2話目の「お化け違い」では、落語協会の会長が神楽坂で怪談噺を演じることになったのだが、希美子の父親との過去の因縁が原因で、大きなトラブルに発展する。謎解きミステリとしての妙味は乏しいですが、単に薀蓄や思い出話と思われた様々なエピソードが、全て1つに纏まる伏線回収の手際がお見事。また、”神田紅梅亭”の馬春師匠や弟子の馬伝(福の助)、谷原秋桜子名義の小梅(立花直海)や美波など、作者の別のシリーズのキャラクターたちが多く出演する趣向も楽しい。(なお、本書の「あとがき」で、谷原秋桜子が愛川晶の別名義であることがカミングアウトされています)。

No.2379 6点 緯度殺人事件- ルーファス・キング 2016/05/16 19:04
ヴァルクール警部補は、バミューダー諸島を出航する貨客船内に、ニューヨークで発生した殺人事件の容疑者が紛れ込んでいると睨み同船に乗り込む。しかし、無線通信士が殺され、陸上と連絡を断たれたことで容疑者の情報が入手できないうえに、あらたに殺人が発生する---------。

バミューダー諸島からアメリカ東海岸沖を北上しカナダに向かう貨客船内が、物語の冒頭から最終章の解決編まで全編にわたり舞台になっている”船上ミステリ”です。陸上と通信を断たれた海上の密室、乗客も11名という小型の貨客船ということが、よりクローズド・サークル物のサスペンスを増しています。
また、各章のタイトルが、船の現在地を示す”北緯と西経”の数値で表されているのもユニークで、そのことが後半になってから効いてきます。
ただ、謎解きミステリとしては、ちょっとモヤモヤ感が残ります。以前読んだ「不変の神の事件」は、けっこう面白かった憶えがあります(内容を忘れているので、どこが面白かったか不明ですw)が、本書の出来はそれにはやや及ばないかなと。船客のうち、重要人物であるプール夫人の過去に関係する”ある人物”を巡る謎や、奇妙な盗難の続発など、途中まではそれなりに惹きつけるものがありますが、解決がいやにあっさりなので、想像で補わなければならない部分があるような。関係者を一堂に集めた丁寧な謎解き説明が欲しかった。

No.2378 6点 フランス革命殺人事件- 磯部立彦 2016/05/10 18:43
国王ルイ16世が断頭台の露と消えた革命勃発4年目のフランス。王妃マリー・アントワネットと隔離され、タンプル城跡の獄舎に幽閉されていた8歳の王太子シャルルの周辺で、猟奇的な殺人が連続して発生する。一方、褐色の肌をもつ青年貴族ラウルは、王太子を救い出すべく画策するが--------。

フランス革命を背景にした謎解きミステリ。
作者・磯部立彦は、本書にある著者プロフィールでは正体不明の覆面作家となっていますが、のちに男女二人の合作ペンネームと判明しています。フランス革命という18世紀末の未曾有の動乱期を舞台に、史実にフィクションを交え、伝奇的要素とロマンを散りばめながら、フーダニット・ミステリに仕上げた本作は、アマチュア作家のデビュー作品としては、なかなかの出来栄えだと思います。サド侯爵や”三銃士”と名乗る小悪党の男女3人組による王族の誘拐計画とか、王妃の首飾りを巡る陰謀など、サブストーリーも充実しており飽きさせません。
惜しいのは、短い章割りで次々と場面転換を繰り返すため、説明が不十分と思える点があるところです。じっくりと書き込めば、歴史伝奇小説の傑作になっていたかも。
また、歴史モノの面白さに隠れた形になっていますが、謎解きミステリとしても、この”意外な犯人像”は特筆に値します。現場の死体状況が巧いミスディレクションになっているのです。

No.2377 6点 倒叙の四季 破られたトリック- 深水黎一郎 2016/05/08 15:29
”芸術探偵”シリーズの名脇役、海埜警部補を探偵役に据えた倒叙形式の連作ミステリ。
春、夏、秋、冬と4部構成になっていますが、そのことが何らかの仕掛けに”直接的”に関係することはありませんので、ご安心くださいw

いずれの犯人も、完全犯罪の指南書”裏ファイル”を参考に緻密な計画を立てるという設定はまあ目新しいのですが、首吊り自殺に偽装する「春は縊殺」、溺死事故を装う「夏は溺殺」、居直り強盗殺人に偽装する「秋は刺殺」、練炭自殺に偽装する「冬は氷密室で中毒殺」ともに、なんというか、堅実な仕上がりではあるものの、倒叙ミステリとして、あまりにもオーソドックスな内容です。探偵役と犯人側のキャラクターが地味で、対決シーンも割と地味な扱い。また1話目は、はたしてあの証拠で犯人が特定できるかな、という疑問もあります。
倒叙ミステリの面白さは、予想外のところから犯行が発覚する”犯人の意外なミステイク”にもあると思いますが、その点でもある程度予想できるものが多かったかな。
書下ろしの最終話「冬は氷密室で中毒殺」と2つのエピローグでは、シリーズ通読者をニヤリとさせる仕掛けと、ちょっとしたサプライズがありますが、クセモノの作者に期待するところが大きいぶん、全体的に少々物足りなさを感じました。

No.2376 7点 二人のウィリング- ヘレン・マクロイ 2016/05/08 11:33
ある夜、「私はウィリング博士だ」と名乗る男を街角で見かけた精神科医のウィリングは、タクシーで走り去る男の後を追って、パーティ開催中の邸宅に乗り込む。しかし、その男は「鳴く鳥がいなかった」という謎の言葉を残し、ウィリングの目の前で毒殺死する---------。

ベイジル・ウィリング博士の名を騙る怪しげな人物、目の前で起きる殺人、謎のダイイングメッセージ、いわくありげな夜のパーティと、魅力的な謎の連打で一気に物語に引き込む発端の意外性は申し分ありません。
ウィリングが、パーティに参加していた4組の男女を一人一人訪ね廻る中盤は、やや展開がスローテンポなため、中だるみ感があります。事件の構図そのものが謎の核心であり、それを隠蔽したまま、少しづつ手掛かりを捲いていく形なので、モヤモヤした印象を与えるのはやむを得ないところでしょう。
正統なパズラーを期待している読者には、終盤のスリラー風の展開に不満があるかもしれませんが、それでも、この悪魔的な真相は強烈です。普通なら他のジャンルの小説で使うようなネタを、本格ミステリの仕掛けとして落とし込む作者のアイデア・センスを評価したいです。
ネタバレぎみの余談ですが、本書を読んで、パトリック・クェンティンのパズル・シリーズ初期の探偵役だったドイツ系の精神科医レンツ博士が、戦後の作品から消えた事情を連想しました。そういう時代だったのですね。

No.2375 5点 女たちの復讐- 梶龍雄 2016/05/06 21:11
目覚めると全裸で椅子に縛り付けられ、目の前には拳銃を構えた女が立っていた。探偵事務所の所長ながら、殺し屋という裏の顔を持つ真藤は、殺っていない殺人の犯人として、被害者の娘姉妹によって廃ビルの一室に監禁されたのだ。真藤は、冤罪を雪ぐべく必死に”安楽椅子探偵”を試みるが-------。

発端とラストは、ミッキー・スピレインを思わせる通俗ハードボイルドのような展開ですが、そのあいだの本筋の部分は、2年半前の熱海の別荘で発生した殺人を巡る意外と真っ当なフーダニット本格になっています。
また、探偵役が身動きが取れないため、やむなく安楽椅子探偵をやらざるをえないという第1部の設定もユニークで(第2部で探偵は現場に赴いていますが)、梶作品のなかではちょっとした異色作といえるでしょう。
作風は全体的にB級感は拭えない(表紙の煽情的なイラストが一層B級ミステリらしさに拍車をかけている)ものの、謎解き面では死体消失の”ホワイ”からの、アリバイ・トリックを暴く推理プロセスは盲点を突く形で光るものがありますし、終盤に突如出てくる暗号には、なんというか、作者のサービス精神を感じますw

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