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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1626 5点 古書店アゼリアの死体- 若竹七海 2011/11/02 19:04
湘南の架空の街・葉崎を舞台にしたコージー・ミステリの第2弾。
ロマンス小説専門の古書店を中心に、名門一家のゴタゴタと街中の人々の人間関係が絡む殺人事件だが、前作ほど謎解きの魅力が感じられず。
ゴシック・ロマン小説に関する作者のウンチクは微笑ましいものがあるが、ここは”ミステリー専門古書店”にしてほしかった。
まあでも、地方都市の昔ながらの古書店の雰囲気は好きだな。明日は「神田古本まつり」にでも行ってくるか。

No.1625 7点 エージェント6- トム・ロブ・スミス 2011/11/01 18:46
元KGB捜査官レオ・デミドフを主人公にした謀略冒険小説、三部作の完結編。
本書では、第1作の「チャイルド44」からの一貫したテーマといえる”国家への忠誠と家族の再生との葛藤”に決着をつける内容となっていますが、ソ連の国内外情勢に巻き込まれ翻弄され続けた末の、レオとその家族に用意された終幕は予定調和から大きく外れたもので驚きました。
物語構成のバランスの悪さや、タイトルがあまり内容に則していないなど、いくつか気になる点がありますが、いつまでも心に残りそうなラスト・シーンで難点を払拭してくれる。

No.1624 7点 海を見る人- 小林泰三 2011/10/31 17:56
冒険ファンタジー&恋愛小説作品集。ただし、それぞれの作品世界は、物理的数学的裏付けがある不思議な異世界で、ハードSF短編集でもあります。

このSF作品集がミステリの書評サイトに登録されている意義は、唯一つ、編中の「独裁者の掟」にあって、物語全体に凝らされたミステリ的な技巧が実に鮮やかで強烈。他の作品の”ワンダー”に対してコレは”サプライズ”狙いです。
あと、ハードSFとしては「門」が印象に残った。相対性原理と量子力学に折り合いをつける”量子テレポート”の設定など、時事ネタの”ニュー・トリノの光速超え”を思い起こさせる(笑)。
「時計の中のレンズ」や「天獄と地国」など、その作品世界をイメージすること自体が難しいものもありますが、理系脳の方にはかなり楽しめると思います。

No.1623 7点 ハンマーを持つ人狼- ホイット・マスタスン 2011/10/30 13:06
婦人警官ものの先駆と言える米国'60年代の警察小説。タイトルで損をしているように思うが、本書はかなり密度の濃い正統派の警察小説でした。
”ハンマーを手に女性を襲う凶悪な通り魔を捕まえるための婦人警官のおとり捜査”という粗筋紹介は間違いではないものの、ほんの前振りでしかなく、婦人警官クロヴァーと部長刑事モンティーのコンビの捜査は次々と事件の様相が変化していき、先の展開が読めない面白さがある。動機をミスリードさせるテクニックと伏線も巧みで、たぶん本格ミステリ読みの読者も唸る仕掛けじゃないかな。

作者ホイット・マスタスンは二人の作家の合作ペンネームで、警察小説を書く前は、ウェイド・ミラー名義で「罪ある傍観者」などの私立探偵ものを発表していた。ハードボイルド小説好きには、そちらの名前の方が馴染みがあるかも知れない。

No.1622 4点 空想探偵と密室メイカー- 天祢涼 2011/10/29 16:44
特殊能力というか特異体質をもつ主人公という点では前2作と同様ですが、今回の女子大生の”空想力”は物語の構成上あまり意味がないような気が・・・・。
それはともかく、細かな多くの伏線が後の多重解決に繋がるところはよく考えられていると思えるものの、ところどころで作者の文章表現にひっかかりを覚え、登場人物にも感情移入できないため素直に楽しむことができなかった。
まえがきに「刑事コロンボ」へのオマージュを匂わす記述があるが、最後は”二枚のドガの絵”を意識したものだろうか。

No.1621 6点 納骨堂の多すぎた死体- エリス・ピーターズ 2011/10/28 18:43
”修道士カドフェル”シリーズで有名なエリス・ピーターズの現代ミステリ、フェルス一家シリーズの4作目。当シリーズの中ではMWA賞受賞の「死と陽気な女」が代表作なんでしょうが、都合により(笑)ここでは本作ということで。

本書はフェリス一家が休暇で訪れた村での事件。200年ぶりに開ける納骨堂から現れた二つの死体と、同時に消えた領主の遺骨の謎が重層的に絡まり、意外な犯人像の設定といい、なかなかの本格編です。加えて、探偵役で州警察の警部である父ジョージ・フェルスと息子ドミニックのホンワカした関係も面白い。
当シリーズまだ未訳が10作もあるらしいのですが、ドミニック少年の成長物語という側面もあるようなので、是非とも続けて邦訳してもらいたいものです。12世紀英国の歴史ミステリよりこちらのほうが本格ミステリとしてとっつきやすい。

No.1620 7点 ビブリア古書堂の事件手帖- 三上延 2011/10/27 18:28
北鎌倉の駅近くにひっそりと営業する昔ながらの古書店。そこの極度に内気で美人の店主・栞子さんの安楽椅子探偵もの4作が収められたビブリオ・ミステリ。

語り手であるアルバイト店員「俺」の亡き祖母の秘密が、漱石全集の「それから」と綺麗にリンクする第一話。新潮文庫にあって他の文庫にない特徴から解かれる”日常の謎”の第二話など、古書にまつわる蘊蓄を絡めながら、秘めた恋、淡い恋、爽やかな夫婦愛など、男女のさまざまな人間模様を描き出していて、読み心地のいい連作短編集でした。
最終話の内容から続編は期待できなさそうなのが残念です。(と、思っていたら早くも続編が・・・笑)

No.1619 5点 書斎の死体- アガサ・クリスティー 2011/10/26 18:52
”書斎の死体=伝統的でオーソドックスな設定”の探偵小説ということで、クリスティの序文にあるように、”ありふれた設定”のミステリをいかに斬新なものにするかが本書の狙いのようですが、それほど斬新さは感じられません。確かに、見知らぬ女性の死体が発見される場所は「火曜クラブ」後半パートの舞台でもあるバントリー大佐邸の書斎ながら、お屋敷モノのミステリとはならず、村からも離れてホテルが舞台になる展開が意外と言えるかもしれませんが。

それよりも、本書は軽妙なユーモアぶりがいいです。発端のバントリー夫人がメイドから死体発見を知らされるシーンや、マープルにいつもの推理法(村の類似事件から連想する)をいきなり求めたりするシーンなど笑えます。さらには、9歳の子供の、「ぼく、セイヤーズやディクスン・カー、アガサ・クリスティのサインを持っている」なんてメタな台詞までも飛び出すしまつ。作者のお遊びが顕著な作品です。

No.1618 6点 名探偵に薔薇を- 城平京 2011/10/25 18:56
童話の見立て殺人を仕掛けに使った第一部「メルヘン小人地獄」も悪くありませんが、これはあくまでも第二部「毒杯パズル」への前振りです。
「毒杯パズル」における、真相が二転三転した末に明らかになる名探偵の存在意義というテーマは、”後期クイーン問題”に通じるものがあります。あの人物の特異な犯行動機については、確かにアイデアに前例があるものの、上述のテーマと絡めたところに新しさがあると思うので、この作品の瑕疵とは言えないと思う。

No.1617 6点 幸運な死体- クレイグ・ライス 2011/10/24 17:57
酔いどれ弁護士マローン&ジャスタス夫妻シリーズの8作目。
今作の主役(ヒロイン)は、暗黒街のボスの情婦アンナ・マリー。ボス殺しの疑いで逮捕されながら、死刑執行直前で冤罪とわかり釈放されたアンナの真犯人捜しにマローンが手助けするというストーリー。
死刑になったはずのアンナ・マリーがあちこちに現れて幽霊さわぎになるドタバタはライスならではの可笑しさです。ヘレンの暴走運転とか、フラナガン警部の転職話ネタという恒例の繰り返しギャグを織り込みながらも、中年弁護士マローンのアンナへの一途な恋心が本書の肝で、ユーモアとペーソスの配分が絶妙です。

No.1616 6点 名探偵なんか怖くない- 西村京太郎 2011/10/23 18:01
懐かしの「名探偵パロディ」シリーズ、4部作の1作目。30年以上前の作品なのに意外と書評がついていると思っていたら数年前に復刊されていたんですね。
今読むとパロディとしてはチープ感がちょっと痛いものの、意外な展開をみせるプロットは面白かった。
代表作のネタバレをしているのは気になりませんが、英仏米日を代表する4人の”実在する架空の名探偵”を無断借用して登場させているのには、素人なりに法的な問題がないのか当時から不思議でしたが・・・・西村氏にとっては「著作権なんか怖くない」ということでしょうか。

No.1615 6点 サイロの死体- ロナルド・A・ノックス 2011/10/22 17:16
マイルズ・ブリードン夫妻が登場するシリーズの3作目。
探偵役が保険会社の調査員というのは(当時としては)新しいと思いますが、ミステリのスタイルとしてはお屋敷もののガチガチのクラシック・ミステリです。
邸内に建つサイロ(牛などの食糧を収納する塔型貯蔵庫)内で死体で発見された招待客の事件は、途中の展開がやや平板で中だるみ感がありますが、手掛かり索引まで用意された終盤のブリードンの解法は意外とロジカルで、皮肉が効いた真相も面白い。「陸橋殺人事件」を読んだ時の悪印象が若干緩和されました(笑)。

No.1614 6点 名探偵は密航中- 若竹七海 2011/10/21 19:14
時代は昭和5年、舞台は横浜から英国に向かう豪華客船上。ノスタルジー漂うホンワカした雰囲気の中で次々と事件が起こるオムニバス形式の連作ミステリです。
作品ごとに主人公が入れ替り、男爵家ご令嬢、英国夫人の飼猫、いたずら小僧など魅力的なキャラクターが小気味いいストーリーを盛りたてています。作者持ち味の毒気も控えめなので後味も悪くない。
生化学博士が幽霊談義に合理的な説明を付けようとする「幽霊船出現」が編中の異色作で面白かった。

No.1613 5点 ハネムーンの死体- リチャード・シャタック 2011/10/20 18:50
結婚式を挙げたホテルの部屋で発見された死体を巡って、新婚カップルと友人たちがテンヤワンヤの騒動を繰り広げるドタバタ・ミステリ。いちおう謎解き本格ミステリの要素があるのですが、やはり死体移動のトラブルを笑って楽しむのがメインになってしまいます。

作者と同年代に人気を博した同じく米国女流作家であるクレイグ・ライスを想起させる作風ですが、ライスと比べると主人公たちにそれほど印象に残る個性は無く、ドタバタ劇が中心なので、すぐに内容を忘れてしまいそう。

No.1612 5点 浮気妻は名探偵- 梶龍雄 2011/10/19 18:58
ミステリー好きの人妻エリ子と愛人の警部補が謎解きをしていく連作短編集。「女はベットで推理する」につづくシリーズの第2弾です。
この設定どこかで読んだようなと考えていたら、嵯峨島昭(宇能鴻一郎)の美食探偵コンビにそっくりだと気がついた。
当時の出版社の意向でしょうが、各編ともお色気満点の描写が挿入され、通俗ぶりと女性の変な言い回しのセリフに腰が引けるのですが、その分ちょっとしたトリックがあると妙に嬉しくなりました(笑)。第1話の「多すぎる凶器」など”読者への挑戦”付きの消去法推理で、作者はやはり本格推理にこだわっています。

No.1611 6点 図書館の死体- ジェフ・アボット 2011/10/18 18:46
テキサス州の田舎町ミラボーの若い図書館長、「ぼく」ことジョーディ・ポティートを探偵役に据えた本格ミステリ。
アルツハイマーの母親の看護のため都会での仕事を捨てて故郷に帰ってきた主人公という設定ですが、そういったシリアスな側面は抑え気味で、ユーモアや皮肉を交えたジョーディの語り口はライトで読みやすいです。
被害者の残した”容疑者リスト”に基づく素人探偵の調査過程で一旦情報を整理してくれているなど、読者に対する配慮も怠りないのですが、その人物を犯人と特定するには材料が乏しいように思います。
レギュラーとなる登場人物はなかなか魅力的ですし、感動的なラストもよかったので、2作目以降に期待しよう。

No.1610 5点 はやく名探偵になりたい- 東川篤哉 2011/10/17 20:19
烏賊川市シリーズの探偵・助手コンビによる初の短編集。
比較的長めの3編は、ハズシ気味のギャグのなかにさりげなく伏線をばらまくという長編同様のわりと正攻法のパズラーで、「七つのビールケースの問題」がまずまずですが、他はイマイチの出来。
残る短めの2編は変化球で、そのうちの「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」を髣髴とさせる倒叙形式の密室もの「藤枝邸の完全なる密室」のオチがよかった。
「宝石泥棒と母の悲しみ」は仕掛け自体は面白いものの、ただそれだけという感じ。

No.1609 7点 グラーグ57- トム・ロブ・スミス 2011/10/16 21:10
旧ソ連を舞台にした冒険・警察小説、「チャイルド44」の続編。
この主人公レオ・デミドフ、かなり悲運がつきまとう運命にあるようで、フルシチョフ体制に変わったとたん今度はスターリン批判の余波で再び過酷なミッションを強いられることに-----まあ、ソ連版”ダイ・ハード”ですね。
史実をもとにした前作と違って、やや荒唐無稽というかリアリティという点で疑問符がつきますが、モスクワの下水道の追跡劇、オホーツク海での囚人護送船内の死闘、強制労働収容所のシーンなど、冒険活劇小説としては楽しめました。

No.1608 6点 人間の尊厳と八〇〇メートル- 深水黎一郎 2011/10/15 18:13
バラエティ豊かというか、ミステリの範疇に入らない作品もあったりで、いままで書いたのを全て揃えましたという印象の初短編集。
目玉作品はもちろん協会賞の表題作。初対面の男との”賭け”というダール風の物語の結末は、意外性充分な上に伏線すべてが美しい。(えっ、なに、最近同じようなネタの短編を読んだ?部位が違うでしょ、部位が)。
カタカナを排し漢字にこだわった文体の「北欧二題」は、一話目の”日常の謎”風エピソードが秀逸。好みだけで言えば表題作よりこちらがよかった。
他の作品は、悪くはないけれど斬新なアイデアという点では、前2作と比べると普通かなと。

No.1607 6点 探偵術マニュアル- ジェデダイア・ベリー 2011/10/14 18:28
大手〈探偵社〉に務める裏方の記録員アンウィンは、ある日突如探偵への昇格を命じられ、マニュアル本と眠り病の女性助手とともに奇々怪々な事件の迷宮へと足を踏み入れる。-------これは粗筋紹介からは想像がつかないトンデモ本、不条理小説でした。
いってみれば「不思議の国のアリス」(=読んだことないけど)の世界観で「木曜日の男」(=読んだけどよく分からなかった)風のテイストという読後感。文章は読みやすいのに、夢と現実が交錯するファンタジー風のプロットが難解で、読む者を迷宮に誘います。
個人的な嗜好からは外れた作風ですが、今年の問題作の一つに数えられるのは間違いないでしょう。

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