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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1686 6点 王子を守る者- レジナルド・ヒル 2012/02/17 23:44
先月亡くなったレジナルド・ヒルのノン・シリーズ長編。(1982年刊)
タイトルは何かの象徴かと思っていましたが、小説の内容そのまんまでした。

もとロンドン警視庁の王室警護班で以前アーサー王子の警固を担当していたマクハーグ警部は、いくつかの運命のいたずらによって、ある組織から命を狙われる王子と再び関わることになる......。
男女の恋愛を絡めた謀略系の冒険サスペンスで、どちらかというとパトリック・ルエル名義の作風の方に近い異色作と言えるでしょう。
”ロミオとジュリエット”のようなアーサー王子と米国の富豪の孫娘との関係や、秘密結社フリーメイソンが関わった謀略などはちょっとベタ過ぎるかなと思いますが、残り40ページを切ってからの山荘の活劇は緊迫感があってよかった。
マクハーグ警部の口調が、ディック・フランシスの主人公を思わせて気になったのですが、訳者が同じ菊池光氏でした。

No.1685 5点 草津・冬景色の女客- 中町信 2012/02/15 18:06
推理作家・氏家周一郎シリーズ。
妻の早苗が所属するヨガ教室の合宿バス・ツアー途上、草津温泉で所属員が次々殺されていくというお馴染みのストーリー展開。殺人事件が連続して起こっても今回もツアーは中止にならず普通に継続しますし、被害者の一人が謎めいたダイイング・メッセージを残すのもいつもどおりです(笑)。
プロローグの死体発見シーンの叙述が絶妙のミスリードになっているのですが、ある人物の内面描写が真相と矛盾しており、そこはアンフェアじゃないかな。

No.1684 2点 装飾庭園殺人事件- ジェフ・ニコルスン 2012/02/13 23:53
内容紹介欄に”伝説のメタ・ミステリー”とあったので、ある程度の脱力感を覚悟していたのですが、許容範囲を超える真相でした(笑)。ミステリのプロパー作家が書いたものだったら最低点にしていたかも。
作者はミステリを書いたつもりはないと言うかもしれないが、発端の不審死から始まって、多くの関係者たちの脱線気味の語りによる真相解明へのプロセス、最後は一同を集めた謎解き披露と、いちおう本格ミステリの体裁をとっていて、このオチはないでしょう。

No.1683 6点 南神威島- 西村京太郎 2012/02/10 22:31
最初期の短編集(講談社文庫版)。本書の初版は’70年に自費出版されたものらしい。その5年前に乱歩賞を取った作家が....と思うけれど、乱歩賞作家といっても当時はそんなものなのかな。
自身の作風を色々模索している感じで、結果的にバラエティに富んだ作品が揃っている。共通するのは文芸寄りということで、作家名を伏せれば西村京太郎の作品とは誰も思わないだろう。

収録作の中では、南九州の離島に赴任した医師が遭遇する悪夢のような出来事、表題作の「南神威島」が一番印象に残った。これは閉鎖集団もの伝奇ミステリの傑作でしょう。
あと、「青の炎」を思わせる青春ノワール風の「幻想の夏」、大都会の孤独とやるせないラストの「手を拍く猿」、貧乏詩人の不条理な殺人動機「カードの城」など、人間の内面にせまる緊密度の高い作品ぞろいです。

No.1682 6点 破壊者- ミネット・ウォルターズ 2012/02/09 18:50
ウォルターズ8作目の邦訳作品。発端は陰惨な溺死体の発見ですが、いつもほどの重苦しい雰囲気はなくて、分量はあっても文章が平明なので比較的スムーズに読めた。

いつもの多視点ではあるものの、主に捜査陣側の視点で語られていて、鑑識の報告書や関係者の証言内容がそのまま列記された章もあり警察小説の趣がある。ドーセット州警察とは別方向から事件にかかわる地元巡査ニック・イングラムが魅力のある人物で、その不器用なロマンスも物語のアクセントとなっていて良。
容疑者は早々に被害者の夫と、愛人の売れない俳優の二人に絞られているが、捜査が進む毎にその一人の人物造形が揺らいで正体がつかみきれない所が面白い。
ただ、「〇〇(真犯人)のような人間のすることは、理屈では理解できないんだよ」という終盤のニックの台詞に象徴されるように、読者が論理的に謎解きに挑むタイプのミステリではないです。

No.1681 7点 明治開化 安吾捕物帖- 坂口安吾 2012/02/04 11:09
角川文庫版で8編は読んでいましたが、シリーズ全20編を通読したくなり、ちくま文庫の坂口安吾全集の中の「明治開化 安吾捕物帖(上・下)」を読んでみました。上下巻で900ページ以上あり読み疲れました。 

「安吾捕物帖」にしても学陽書房の別題「勝海舟捕物帖」にしても、このタイトルは誤解を招きそう。安吾は前口上を述べるだけで小説には登場しないし、勝海舟は安楽椅子探偵を務めますが、ダミー推理で名探偵を引き立てるだけの役割なので主人公ではありません。
また、時代設定は明治20年前後なので、同心や岡っ引きがでてくるわけでもなく、現代の感覚では”捕物帖”というのも違和感がありますね。本来は、”名探偵・結城新十郎の事件簿”とかにすべきでしょうが、それだとインパクトに欠けるかな。

”気楽に推理を楽しんで・・”と、前口上で作者が書いているとおり、最初の数作品はゲーム性の強い犯人当て探偵小説でした。
多めの登場人物で複雑な人間関係のものが多く、短編にもかかわらず結構読むのに苦労しました。「舞踏会殺人事件」や「ああ無情」が印象に残りましたが、いずれもロジック面は弱いです。
ところが、読み進めるにつれて明らかに作風が変化しており、徐々にゲーム性より物語性を重視したものになっているのが興味深い。
南洋の真珠採り漁船上の惨劇「血を見る真珠」や、幕末動乱によるある夫婦の数奇な運命を描いた「時計館の秘密」などが顕著で、パズラーとしてはアレですが読み応えはありました。
そのぶん、シリーズ・キャラクターの探偵集団、新十郎、ライヴァルの虎ノ介、戯作者・因果、勝海舟などの登場場面が最後の謎解きだけという作品が多くなり、探偵小説としては物足りないかもしれない。

No.1680 6点 フィデリティ・ダヴの大仕事- ロイ・ヴィカーズ 2012/01/31 18:23
淑女怪盗フィデリティ・ダヴ登場の連作短編集。
悪徳資本家や金融業者らを標的に、金銭、宝石、美術品などをいかにして盗むかという”ハウダニット”が読みどころに違いないのですが、堅牢な警備を出し抜く意外な手段といった趣向はあまりなく、詐欺的手法を駆使して、時には担当刑事まで利用するといったコンゲーム小説の趣が強いのが書かれた時代的にユニークだと思う。

各編とも20ページ余りと短めのため、変装名人の元俳優とか、物理トリック担当の科学者など、ダヴの部下たちのキャラがいまいち描けていないのですが、読み進める毎にレーソン警部補と同様にダヴの萌えキャラに魅せられていきます(笑)。ちなみに、レーソン警部は後の「迷宮課」のチーフと同じ人物らしい。
収録作では、食品会社まるごと盗む作品や、田舎の風景を盗む異色作が”大仕事”らしくていいのですが、コンゲームの騙しのテクニックとして秀逸な「本物の名作」や「一四00パーセント」なんかも印象に残った。

No.1679 6点 ユリゴコロ- 沼田まほかる 2012/01/28 20:32
読み始めと読み終わった時とで、これほど印象が変わる小説も珍しい。
タイトルも誤解を招きかねないが、描かれているのは”男と女”の恋愛であったり家族愛だったりします。

主人公が実家の押入れで見つけた4冊のノート、”病的殺人者の告白”がそのまま綴られた前半部は、そのノワールな内容とあわせて、誰が書いたのか?という謎でグイグイ読み進められた。
後半、手記の書き手が明らかになって、現在の物語が中心となると、テーマを読み誤っていたことに気付かされるが、やや物語の牽引力が弱まってしまった感もある。
ミステリとしては、カンのいい読者だと”多分そういう関係だろう”と察しがつく仕掛けですが、それがこの小説のキモではないのだろう。

No.1678 6点 奥様は失踪中- サイモン・ブレット 2012/01/26 18:47
引っ越してきたばかりの高級住宅地で、先住夫婦の行方不明が発覚したことから、またもやパージェター夫人が素人探偵に乗り出す、というシリーズの第2弾です。
前作は高級ホテルを舞台にした上流階級の老人たち相手でしたが、今作は6世帯が集まった住宅地で中産階級の奥様族を皮肉たっぷりのユーモアで描いています。小さな共同体のなかの限られた容疑者が皆秘密を抱えている設定とか、細かい伏線の張り具合なども前作同様で楽しめるのですが、解決がややあっけないかな。

このシリーズのユニークな点は、素人探偵の夫人には特殊技術をもつ協力者たちがいることでしょう。この、亡き夫・パージェター氏に恩義を感じている昔の仕事仲間(今は”かたぎ”の人もいれば、塀の中の人もいる、笑)は、作者にとっても便利な存在だけに、都合良すぎて受け入れられない読者がいるかも。

No.1677 5点 猫柳十一弦の後悔- 北山猛邦 2012/01/23 18:37
タイトルをみて連作短編集かと思ってましたが、孤島ものの長編ミステリでした。
「そして誰も~」風の見立て連続殺人で使われたアリバイ・トリックはそれなりに面白かったのですが、殺人の動機がもう無茶苦茶で一気に萎えてしまった。なんで殺人を選択する。他に手段がいくらでもあるでしょうに。
”不可能犯罪定数”や、それに関連するミッシング・リンクの要素は「物理の北山」らしいものの、いまいちピンとこなかった。作者の短編は割と好きだが、長編はどうも合わない。

No.1676 7点 変わらざるもの- フィリップ・カー 2012/01/21 21:56
あの”ベルリン三部作”の私立探偵ベルンハルト・グンターが15年ぶりに、スケールアップしてミュンヘンで復活!

単なる失踪人探しが、元ナチスの戦争犯罪人と依頼女性の夫の過去などが絡み、物語の様相が変な方向にずれていく、この展開には意表をつかれた。隠された企みもミステリ趣向充分。
グンターは今回も悲惨な目に合いながら減らず口も健在で、まさに”変わらざるもの”です。
私立探偵小説、警察小説、スパイ冒険小説と、これまでの3作は、同じ主人公を使いながら、それぞれ異なるタイプの小説になってましたが、本書も例にもれず、あるジャンルの要素(=これはネタバレになる)を取り入ており成功していると思う。
解説によると、シリーズは既に8作目まで書かれているらしい。すみやかに順次邦訳を期待したいが、本書のエンディングだと次作の物語設定が想像つかない。

(追記)2012.1.24
今年のMWA(エドガー)賞の候補作5冊の中に、フィリップ・カーのグンター・シリーズ第7作がノミネートされた。受賞に至ればシリーズの邦訳も進むと思うが、今年は日本人作家の強力なライヴァルがいるからなぁ・・・・(笑)。

No.1675 4点 千葉千波の怪奇日記 化けて出る- 高田崇史 2012/01/19 22:31
千波くんシリーズ連作短編の第5弾。
サブタイトルは「千葉千波の怪奇日記」だけど、実際は従兄の”ぴいくん”が大学生活で見聞きした怪奇事件をまったりと語る構成で、パズル好きの天才高校生・千波くんは解決編に登場するだけですけどね。
各編ともミステリ部分は微妙というかイマイチ(4点)。
でも、居酒屋仲間の女子大生2人、とくに海月ちゃんのとぼけたキャラが笑えるので加点(+1点)。
ただ、従来の割と難易度が高いパズルじゃなく、今回はとんちクイズみたいになったのは減点(-1点)。

No.1674 5点 仮面劇場の殺人- ジョン・ディクスン・カー 2012/01/18 23:07
フェル博士の探偵譚では最後から2番目の作品。
序盤で英国からアメリカに向かう客船上での狙撃事件はあるものの、メインの殺人が起こるまでが長い。その間の人間関係の説明がモタモタしていて、意味深な会話が佳境に入りそうなタイミングで横やりが入って話題をそらすという(晩年の作品に共通する)テクニックに”イラッ!”とさせられます。
劇場2階のボックス席という準密室状況の殺人トリック(というより、アリバイ・トリック?)はこの時期の作品ですからこんなものでしょう。劇場ミステリが好みなので、まあ楽しめました。

No.1673 5点 幻の指定席- 山村美紗 2012/01/17 18:34
トリックメーカーといわれていた初期(’70年代半ば)の作品集。この短編集は傑作ぞろいという思いがあったのだけど、再読してみるとそれほどでもなかった。

表題作は倒叙形式で、新幹線の予約システムの特殊処理という意外な陥穽によってアリバイトリックが崩れていく話。こういった専門的知識をネタにした作品が他にも2編あるが、いずれも時代を経て陳腐化してしまったように思える。
一方では、グリーン車2両の乗客全員を人質にした身代金強奪サスペンス「新幹線ジャック」が今でも面白く読めた。西村京太郎ならこのアイデアで長編一本書くのではと思うほど中身が濃いコンゲーム風サスペンスで、犯人グループ視点の描写が全くないのがミソだろう。
驚いたのは「危険な忘れ物」。メインのネタが、最近読んだ乾くるみ氏の某短編と見事に被っている。

No.1672 6点 燃える導火線- ベン・ベンスン 2012/01/16 22:17
マサチューセッツ州警察のウエイド・パリス警視シリーズ。
刺激的なタイトルとダイナマイト爆弾による脅迫という粗筋紹介から、派手なタイムリミット・サスペンスを想像してしまいますが、そこはベン・ベンスンのこと、パリス警視を中心とした地道な捜査活動を忠実に描く地味めの警察小説です。
並行して女優の別荘の敷地で死体が発見され、爆弾予告そっちのけで、こっちの事件がストーリーの中核になってしまうのかと思わせるプロットはなかなか巧いです。
高圧的な女優オリーヴと娘の軋轢や、捜査側の面々のやり取りなど、登場人物の造形は’50年代の作品にしては深みがあり意外と現代的で、その辺がこの作者の持ち味だと感じた。

No.1671 5点 謎解きはディナーのあとで 2- 東川篤哉 2012/01/15 13:05
令嬢刑事&毒舌・暴言執事シリーズの第2弾。
本書も本格ミステリとしての骨格はきっちりとキープしていると思いますが、ギャグが大人しくなっている気がしないでもない。”分かる人だけ分かれればいい”風の読者限定ギャグが抑えぎみなのはメジャーになったから?

ミステリの趣向的には、第1話の”●●のアリバイ工作”がオチを含めて面白い。第2話の、消えた帽子という一つの事象から推理を次々と展開していく強引なロジックも好みです。

No.1670 7点 解錠師- スティーヴ・ハミルトン 2012/01/13 18:59
「ぼく」こと若い天才金庫破り・マイクルの独白で構成されたクライム・サスペンス。原題は”The Lock Artist"。

なぜ言葉を発せない少年が金庫破りになったのかという経緯の’90年代のパートと、プロの解錠師としての仕事内容を綴った2000年のパートが交互に語られるため、最初のうちは少々混乱し物語に乗れなかったのだけど、終盤の客船を標的にするあたりから緊張感が増し惹きつけられた。
犯罪小説としての面白さはもちろんあるが、運命の少女アメリアとの恋愛・青春小説でもあり、封印された不幸な過去をも解錠する少年の再生の物語としても秀逸だと思う。

No.1669 4点 嫉妬事件- 乾くるみ 2012/01/09 22:49
アンチじゃなくウンチミステリだとか、脱力系というより脱糞系ミステリだという評判?の話題作。
率直な感想をいうと「読むんじゃなかった」。

大学のミステリ研の部室に突如出現した”ブツ”の謎を巡って、部員らがアレコレと推理を述べ合う展開は、「麦酒の家~」などの西澤保彦作品を連想させる”日常の謎”系ミステリ(ウ●コが部室の本棚に置かれてあるのが”日常”といえるのか見解が分かれる所かもしれませんが、笑)ですが、この真相は酷すぎでしょう。
それでも4点なのは、併録の犯人当て短編「三つの質疑」が面白かったから。こっちもバカミスではありますが。

No.1668 5点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅲ〉- エドワード・D・ホック 2012/01/08 18:13
オカルト探偵サイモン・アークものの第3短編集。
50年代に書かれたものから2編、80年代から6編の作品が選ばれていますが、作風や設定にまったく変化なし。出版社の編集者である「わたし」を伴って、世界各国の悪魔や怪異現象をを調査しているうちに、不可解な殺人事件に遭遇するというパターン。
「焼け死んだ魔女」のまさに今日的すぎる真相もいいけれど、厳重に警備されたドイツの古城からのナチス戦犯の消失や、ガラス張りのエレベーターからのロック歌手の消失など、やはり不可能トリックを扱ったものが印象に残りますね。後者のトリックの真相はダメ出し相当ですけども。

No.1667 7点 開かせていただき光栄です- 皆川博子 2012/01/05 23:04
読む前は、いつもの耽美的でドロドロした物語かと思ってましたが、ユーモア混じりの軽妙な語り口なので、馴染みの薄い18世紀後期のロンドンを舞台とした日本人も出てこない物語で、なおかつ当時のロンドンの雰囲気が細部にわたって書き込まれているにもかかわらず、とっつきにくいことはなくスラスラ読めた。日本人作家、しかも80歳を超えた女性が書いたとは思えない筆力と若々しい感性に脱帽です。
ダニエル医師と5人の弟子の個性的な面々が主役といえますが、実在の人物である盲目の治安判事・ジョン・フィールディング卿とボウ・ストリート・ランナーズも魅力的な探偵役です。ブルース・アレグザンダーが描いたジョン卿(「グッドホープ邸の殺人」等)と読み比べてみるのも一興かも。

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kanamoriさん
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