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[ クライム/倒叙 ]
フィデリティ・ダヴの大仕事
ロイ・ヴィカーズ 出版月: 2011年12月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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国書刊行会
2011年12月

No.2 6点 2019/02/14 06:29
 「迷宮課事件簿」で名高いヴィカーズの淑女怪盗もの短編をまとめたもので、ダヴ初登場の「顔が命」から、最終話「グレート・カブール・ダイヤモンド」まで全12篇収録。1924年刊行とかなり古い作品。関東大震災の翌年で、日本では江戸川乱歩がデビューしてまもなく。岡本綺堂の活動最盛期くらいにあたります。
 主人公フィデリティ・ダヴは推定年齢21歳前後の美貌の女性。明るい金髪にすみれ色の瞳で、常に灰色の服を身にまとい、清教徒的な警句を口にするのが癖。「天使のような顔」「鈴を振るような声」などと描写されますが、実は犯罪プランナー。彼女の信奉者である俳優、科学者、機械技師などの集団〈フィデリティとその一味(ダヴ・ギャング)〉たちを駆使し、因業な金持ちから頂くものをしっかりと頂きます(そのついでに私的な慈善活動も少々)。
 ハウダニットではありますが不可能犯罪系は半数以下で、相手の心理に付け込んでいいように振り回し、法律的にぐうの音も出なくさせる方向に持っていくケースがかなり多い。まずガツンと一発殴ってから、次に合法的に取り戻すか損害を少なくする手を打たせます。敵役があくどく描かれているので目立ちませんが、コメディ仕立ての一~三話以降、四話目からはかなりエグいやっつけられ方も。
 集中から選ぶならまず、クレーンで地上40mにまで持ち上げられた乗用車内から、二万ポンド相当のエメラルドのネックレスを消失させる「宙吊り(サスペンス)」。エグ系からは「貴顕淑商」か「ヨーロッパで一番ケチな男」ですかね。とくに前者はかわいそう。都筑道夫氏が持ち上げているところから「幻の名作」扱いする向きもありますが、その種の作品ではありません。しっかり作って上品に仕上げているとはいえ、基本ダヴ様を崇めるキャラ萌え短編集です。

 「あまり傷ついているように見えないわね」と、彼女は化粧室の三面鏡の前で思った。「たぶんそれは私が決して泣かないからだわ。でもどんなときでも私は泣かない。私は――戦うのよ」

 彼女が唯一己の心情を露にするシーンです。

No.1 6点 kanamori 2012/01/31 18:23
淑女怪盗フィデリティ・ダヴ登場の連作短編集。
悪徳資本家や金融業者らを標的に、金銭、宝石、美術品などをいかにして盗むかという”ハウダニット”が読みどころに違いないのですが、堅牢な警備を出し抜く意外な手段といった趣向はあまりなく、詐欺的手法を駆使して、時には担当刑事まで利用するといったコンゲーム小説の趣が強いのが書かれた時代的にユニークだと思う。

各編とも20ページ余りと短めのため、変装名人の元俳優とか、物理トリック担当の科学者など、ダヴの部下たちのキャラがいまいち描けていないのですが、読み進める毎にレーソン警部補と同様にダヴの萌えキャラに魅せられていきます(笑)。ちなみに、レーソン警部は後の「迷宮課」のチーフと同じ人物らしい。
収録作では、食品会社まるごと盗む作品や、田舎の風景を盗む異色作が”大仕事”らしくていいのですが、コンゲームの騙しのテクニックとして秀逸な「本物の名作」や「一四00パーセント」なんかも印象に残った。


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