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[ 警察小説 ]
燃える導火線
ウェイド・パリス警視
ベン・ベンスン 出版月: 1962年01月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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東京創元新社
1962年01月

東京創元新社
1962年01月

No.2 7点 人並由真 2019/05/23 03:34
(ネタバレなし)
 その年の9月下旬。アメリカのマサチューセッツ州のケープ・ゴッドで、工事現場から25本分のダイナマイトが盗まれる。同じ犯人と思われる人物はこれと前後して土地の「ヤーマスガゼット新聞社」に匿名の電話をかけて、無軌道な観光客に蹂躙されているこの土地(ケープ・ゴッド岬の周辺)に、義憤ゆえの爆破テロを決行すると宣言してきた。マサチューセッツ州州警察の若手刑事部長、ウェイド・パリス警視は、所轄であるヤーマス駐屯署の署長フランク・キャフーンたちと連携して捜査に当たるが、そんな彼は爆発物盗難事件の周辺で何者かにより命を奪われた大学副教授アーサー・グインドックの殺害事件に遭遇する。パリスはそのまま殺人事件と爆破予告事件を並行して追うが、謎の爆破魔が告げたクライシスの期限は少しずつ迫りつつあった。

 1954年のアメリカ作品。50代の若さで早死にし、創作者としての短い活動期間の間に19編の著作を遺しながら、日本ではわずか5作品しか翻訳されてないベン・ベンスン。邦訳のある作品はみんなマサチューセッツ州州警察の若手刑事部長ウェイド・パリス警視を主人公とするもので、未訳の処女長編も同じキャラクターが主役のはずである。
 評者は翻訳されたその5作品の中では、だいぶ以前に一番原書での刊行時機の早い『あでやかな標的』を読了。これがエラく大好き(以前にオールタイム翻訳ミステリのマイベスト10の一つに選んだこともある)で、残り少ない翻訳作品はゆっくりチビチビ読もうと思っていたのだが、先日たまたま部屋の中からこれが出てきて、結局、気の向くままに今回すぐ読んでしまった。
 幸いなことに本書は、すでに読んでいる『あでやかな標的』に続く順番で原書が刊行された、ウェイド・パリス警視ものの一冊だったようである。
 つーことはこの作中のパリスは、あの『あでやかな~』のラストの直後の彼なのか……といささか感無量な思いにも陥る。(『あでやかな~』のネタバレになるかもしれないから、これ以上は言いませんが。)
  
 それで本作『燃える導火線』だが、やっぱりいいなあ……このシリーズ。創元文庫版220ページ強の紙幅の中に名前の出る登場人物は50人前後とかなり多いが、メインキャラとサブキャラの配置が明確な上にストーリーの流れもハイテンポで頗るリーダビリティは高い。一方で『あでやかな』同様に地味で真面目なところが却って魅力の青年警視パリスのキャラクターは今回もすんごく人間臭くて魅力的だ。殺人事件の関係者である、妖艶な30代半ばの大物女優オリーヴ・ドネア。その彼女にハンサムな若い警視だと翻弄されかけるパリスは一瞬だけ心を惑わしそうになるが、そんなオリーヴは「朝鮮戦争に出征する直前、私に最後に愛の告白の手紙を書いていったのよ」と在りし日、一人の若者がその生涯の最後を自分に傾けて戦死してしまったことを自慢する。パリスはオリーヴに、ではあなたはその戦場に行く若者に別れと無事を祈る返事を書いてあげたのかと問い、相手がそういう気配りをまったくしていなかったことにいっぺんに失望する。こんなやりとりで語られるパリスの、実に普通の人間らしい誠実さと、さらに今回の事件のメインキャラの一人であるオリーヴの、あまりにいびつなしかし一方でその情けないところがどこか切ないキャラクター描写がすごくいい。オレが50年代の往年の、そして21世紀のミステリの、小説の部分に求めるもののひとつはこういう感じの描写なのだ。
 ミステリ的には、殺人事件、爆破事件、そしてさらに別の案件……を並行的に組み合わせた、ごく素朴なモジュラー式の警察捜査小説としての立体感もさながら、それらそれぞれで、犯人と事件の真相の意外性(……かな)、タイムリミットサスペンスと生命の危機に瀕する捜査陣の職業的な矜持など、別々の味わいの妙味を見せている辺りもステキである。読了後に「地獄の読書録」を確認すると小林信彦は本書を「パリスものでは下位の方」と評しているけれど、コレで下位なら残る未読の邦訳3冊も相応に面白いのであろうな。んー(まあ最終的にはいつもながら、自分の目と心で確かめることではあるのだが)。

 ……あー、パリスものの未訳作品、今からでもどっかからか出ないかな。論創さんか、はたまたウワサの山口雅也センセが陣頭指揮の原書房の新規の叢書とかで、ヒラリー・ウォーあたりと併せて発掘してくれないだろうか。

No.1 6点 kanamori 2012/01/16 22:17
マサチューセッツ州警察のウエイド・パリス警視シリーズ。
刺激的なタイトルとダイナマイト爆弾による脅迫という粗筋紹介から、派手なタイムリミット・サスペンスを想像してしまいますが、そこはベン・ベンスンのこと、パリス警視を中心とした地道な捜査活動を忠実に描く地味めの警察小説です。
並行して女優の別荘の敷地で死体が発見され、爆弾予告そっちのけで、こっちの事件がストーリーの中核になってしまうのかと思わせるプロットはなかなか巧いです。
高圧的な女優オリーヴと娘の軋轢や、捜査側の面々のやり取りなど、登場人物の造形は’50年代の作品にしては深みがあり意外と現代的で、その辺がこの作者の持ち味だと感じた。


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