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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
明治開化 安吾捕物帖
坂口安吾 出版月: 1958年01月 平均: 5.25点 書評数: 4件

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春歩堂
1958年01月

春歩堂
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1972年01月

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2008年06月

沖積舎
2015年08月

No.4 4点 クリスティ再読 2020/05/17 14:12
銭形平次やったところだから、本作も捕物帳と銘打って続くのがおなぐさみ。本作は江戸時代じゃなくて明治も西南戦争後の小康状態の時期が舞台。まあ、安吾の狙いとしては明治維新を敗戦と同じ「転形期」と重ね合わせて「堕落せよ!」との持論をブツようなことなんだけど....
そこで「捕物帳」ということになる。剣客泉山虎之介、戯作者花廼家因果、勝海舟、それに真打の洋行帰りの紳士探偵結城新十郎の推理合戦、と道具立てはガチのパズラーみたいに見えるけど、実はこれがユルユル。この緩さ加減を作者が「捕物帖のことですから決して厳密な推理小説ではありませんが...」とか「読者への口上」で弁解している。実際、推理らしいことをするのは勝海舟と新十郎くらいで、どっちも名探偵というほどの個性もなし。どっちの推理もよくて五十歩百歩、海舟の推理が噴飯もののことも多いし、新十郎の推理も「意外で面白い真相」というほどのこともない。しいて言えば「血を見る真珠」に少々ロジックあり、という程度。というわけで、パズラー風の面白味があるか、というと期待しちゃ、いけない。
で「捕物帳」としてはどうか?というと、江戸風俗とか明治風俗も別にちゃんと描けているというほどでもない。「捕物帳は季の文学」という説もあるが、季節感もポエジーもとくにない。キャラクターも戦後無頼派安吾らしさの方が強く出たキャラで、明治人といわれて納得いくようなキャラではない。そもそも安吾が幕末・明治の人々と生活に強く共感するとかそういうタマじゃないよ。本作が「捕物帳」と名乗るのは捕物帳に失礼な部類。
まあそうは言っても、後半はパズラー仕立てが窮屈になったのか、伝奇ロマン風の舞台設定になって、それしか興味がなくなる。南海の真珠漁に赴く「血を見る真珠」、妻妾同居のトラブルに悩む「時計館の秘密」、おどろおどろしい旧家の当主監禁の真相の「覆面屋敷」とか、キャラの濃い人々がエゴをむき出しにする、事件になる前提の話の部分を楽しむべし。
というわけ。ミステリ・捕物帳・社会風刺小説のどれとしても中途半端。さらに連載が続いて、全23話だそうだが、角川文庫の8話だけで評者は勘弁してほしい....

(余談だが、評者が城昌幸の「若さま侍」をヒイキするのは、ベランメエが板についている、というのもある。綺堂も城も江戸っ子なんだよね。捕物帳は江戸っ子作家じゃないと、本当の味はでないのかも。そうしてみると新しいあたりでは未読だが「宝引の辰」あたりがイイのか?)

No.3 4点 E-BANKER 2015/07/18 19:33
昭和25年から27年まで「小説新潮」誌に連載された作品をまとめたもの。
明治20年頃の東京を舞台に、勝海舟(?)そして結城新十郎を探偵役に据えた作品集。
(坂口安吾っていろいろなもの書いてたのね・・・)

①「舞踏会殺人事件」=「舞踏会」という明治時代っぽい舞台設定で起こる毒殺事件。衆人環視のなかでそこまでの小細工ができるのかという疑問はあるけど、まずまずの佳作。
②「密室大犯罪」=タイトルどおり密室殺人がテーマなのだが、この「密室」が実にユルイ・・・。この密室トリックも??
③「ああ無情」=何人もの男たちに言い寄られる美しい娘。その娘が巻き込まれる殺人事件なのだが、肝心のアリバイトリックが今ひとつ理解不能。真犯人の指摘もかなり唐突。
④「万引一家」=なかなか不穏なタイトルだが、実際万引がやめられない家族に引き起こされる事件。目の前に見えている光景を逆から見れば全く異なる・・・ということなのだが。
⑤「血を見る真珠」=これはなかなか良作。船長殺害事件と真珠盗難事件の二つをどのように関連付けて見るかで大きく推理は異なってくる。
⑥「石の下」=囲碁の定石として登場するのがタイトルにもなっている「石の下」。囲碁の対局中に突然死亡した棋士をめぐる事件。
⑦「時計館の秘密」=何だか綾辻行人の作品みたいなタイトルだが、別に「館」ものというわけではない。混乱の時代を背景にした悲しい男女の物語がベース。
⑧「覆面屋敷」=うーん。あまり頭に残らず・・・

以上8編。
私だけなのかもしれないが、実に読みにくい作品だった。
作者との相性が悪いのかというと、「不連続殺人事件」はまずまず面白く拝読したわけで、そういうことでもないと思うのだが・・・
作品のスタイル、進行としてはどれも一緒なのだが、勝海舟のダミー推理、新十郎の推理部分がどれも短すぎて、最初のドラマ部分が多すぎ。

正直、まだ頭の中が混沌としている状況なので、余裕があれば読み直したい。
(でも無理か・・・・)

No.2 6点 ボナンザ 2014/04/07 22:57
基本的に同じような構成だが、飽きない。
山田風太郎の明治ものと併せて必読。

No.1 7点 kanamori 2012/02/04 11:09
角川文庫版で8編は読んでいましたが、シリーズ全20編を通読したくなり、ちくま文庫の坂口安吾全集の中の「明治開化 安吾捕物帖(上・下)」を読んでみました。上下巻で900ページ以上あり読み疲れました。 

「安吾捕物帖」にしても学陽書房の別題「勝海舟捕物帖」にしても、このタイトルは誤解を招きそう。安吾は前口上を述べるだけで小説には登場しないし、勝海舟は安楽椅子探偵を務めますが、ダミー推理で名探偵を引き立てるだけの役割なので主人公ではありません。
また、時代設定は明治20年前後なので、同心や岡っ引きがでてくるわけでもなく、現代の感覚では”捕物帖”というのも違和感がありますね。本来は、”名探偵・結城新十郎の事件簿”とかにすべきでしょうが、それだとインパクトに欠けるかな。

”気楽に推理を楽しんで・・”と、前口上で作者が書いているとおり、最初の数作品はゲーム性の強い犯人当て探偵小説でした。
多めの登場人物で複雑な人間関係のものが多く、短編にもかかわらず結構読むのに苦労しました。「舞踏会殺人事件」や「ああ無情」が印象に残りましたが、いずれもロジック面は弱いです。
ところが、読み進めるにつれて明らかに作風が変化しており、徐々にゲーム性より物語性を重視したものになっているのが興味深い。
南洋の真珠採り漁船上の惨劇「血を見る真珠」や、幕末動乱によるある夫婦の数奇な運命を描いた「時計館の秘密」などが顕著で、パズラーとしてはアレですが読み応えはありました。
そのぶん、シリーズ・キャラクターの探偵集団、新十郎、ライヴァルの虎ノ介、戯作者・因果、勝海舟などの登場場面が最後の謎解きだけという作品が多くなり、探偵小説としては物足りないかもしれない。


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坂口安吾
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