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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1706 7点 真夏の妖雪- 小林久三 2012/03/23 22:08
幕末、明治、大正時代の史実に取材した歴史・時代ミステリの短編集。
赤痢騒ぎのさなか、明治天皇行幸下の陸軍大演習予定地の村での密室殺人を扱った「血の絆」がよかった。この時代と設定ならではの意外な動機に説得力がある。
表題作の「真夏の妖雪」も力作。殺された岡っ引きが懐中に雪を抱いていた理由はやや肩透かしの感があるが、老岡っ引きの執念の捜査と、凝らされた陰謀の構図は読み応え十分。
そのほか、関東大震災に絡む謀略を描いた「焼跡の兄妹」や、大正の大疑獄・シーメンス事件が題材の「海軍某重大事件」など、作者の立ち位置はいずれも”反権力”で、「暗黒告知」と同じ路線の”社会派歴史ミステリ”とでも呼称すべき作品集となっています。

No.1705 5点 未亡記事- 佐野洋 2012/03/22 20:26
地方新聞社を舞台にした初期の本格ミステリ。
タイトルは”実際は死んでいない人の死亡記事”というぐらいの意味です。

長編ながら正味3時間ほどで読めるお手軽さはいいが、やはり物足りない感は否めない。
いわゆる「顔のない死体」をメインにしながら、ひとヒネリした展開ですが、今やこのパターンで意外性を捻出するのはむずかしいのではと思います。ただ、事件の前の”政治部長の妻”から新聞社への虚偽電話の真意は面白い。

No.1704 5点 殺人者は道化師- 梶龍雄 2012/03/21 22:04
軽井沢の別荘に住む謎の女性・リラ夫人の探偵譚7編収録。
読者サービス的な官能シーンが適度に挿入されていますが、どの作品も骨格はきっちり本格ミステリしてます。探偵助手で奔走するボーイッシュな少女の言動がいかにもカジタツ風で、その点は馴れが必要です。
このような”裏の顔”をもった探偵役というのは当時の国内ミステリでは珍しいと思うのですが、枚数の関係もあって設定があまり活かされていないのはもったいない感じがします。
個々に見てみると、とくに飛び抜けた傑作と言うのはないが、アリバイ奪取トリックの「女優エリカの悪夢」がベストかな。密室状況からの宝石消失トリック「消失の闇」もまずまず。どちらもさりげない伏線が効果的に使われています。

No.1703 6点 赤い森の結婚殺人- 本岡類 2012/03/20 18:35
信州にある高原のペンション”銀の森”のオーナーが素人探偵を務める本格ミステリ。「白い森の幽霊殺人」に続くシリーズの2作目です。
驚天動地の大仕掛けがあるわけではないが、いくつかの物理的トリックを織り込んだ全体のプロットは一定水準をクリアしていると思う。樫尾刑事から情報が入る毎に、何度も仮説を組み立てては崩していく探偵役のオーナー里中の推理過程が丁寧に描かれているのも好印象。
結婚披露宴会場のゴンドラからの花嫁消失トリックの仕組みはだいたいの予想がついたが、焼死体の手首の役割は意外だった。ただ、いきなりの軌道修正でそこまでやれるものだろうかという疑問はある。

No.1702 6点 Sの悲劇- 中町信 2012/03/19 18:58
現在のところ作者唯一の短編集。ユーモアで味付けするとか個性的なキャラクターの探偵役を登場させるなどの余分な一般受けの要素が全くない、愚直なまでにトリックにこだわった本格パズラーが7編収録されています。

表題作「Sの悲劇」は、無理のないダイイングメッセージはいいが、伏線があからさまで犯人当てとしては安易。
「死の時刻表」は、容疑者3人の中から真犯人を特定する手掛かりがユニークな良作。
「裸の密室」は、作者の長編で多用するようなプロローグが巧妙なミスリードになっている上に、密室トリックが暴かれるキッカケも面白い。これが個人的ベスト。
「カブトムシは殺される」これも密室状況を解明する手掛かりが秀逸。「サンチョパンサは笑う」の写真による偽アリバイは平凡。「312号室の女」のアリバイ工作はある長編の原型らしいが、内容を憶えてないので楽しめた。「動く密室」は、自動車教習所ならではのアリバイ工作と錯誤による密室。両トリックともよく考えられており、これが準ベスト。

No.1701 5点 私だけが知っている 第1集- アンソロジー(出版社編) 2012/03/18 17:57
昭和30年代にNHKで放映されたドラマ形式の推理クイズ番組「私だけが知っている」のシナリオ・アンソロジー。
鮎川哲也、土屋隆夫、笹沢左保、島田一男など、当時の”新進気鋭”の推理作家が脚本を書いており興味深く読んだ。夏樹静子はまだ慶応大学在学中か卒業したばかりで、本名の五十嵐静子名義になっている。

史料的な意味合いもあるので、記念すべき第1話「三等寝台事件」など、謎解き物としては不出来の初期作品も収録されてますが、プロ作家が担当した数作は楽しめたものもある。
鮎川の吹雪の山荘もの「七人の乗客」、笹沢の足跡トリックの変形「見えない道」、土屋のリンゴ1個から真相が割れる「死の扉」の3作が印象に残った。また巻末に、NGなしの生放送ゆえの失敗談も載っていて、そっちも面白い。
映像で伏線や手掛かりを提示するドラマ形式という番組の性質上、シナリオだけでは限界があるので、イラストや見取図を載せる工夫もあってよかった。

No.1700 3点 愚者は怖れず- マイケル・ギルバート 2012/03/17 17:45
シリーズ探偵のヘイズルリック警視も端役で登場しますが、本書は謎解きの要素はあまりなく、ジャンルでいえば”社会派スリラー”というのが適切でしょうか。

終戦間もないロンドンが舞台で、男子中学の校長・ウェザロールが、食品の闇市場を牛耳る犯罪組織に脅迫を受けながらも立ち向かっていくというストーリーですが、正直言って面白さが判らなかった。
プロットが充分に整理されておらず、意味を読みとれない文章が時々出て来る翻訳のせいもあって読みずらい。また、頑固で正義感の強い主人公ウェザロールの心情描写がほとんどないので感情移入もできない。

No.1699 6点 いわゆる天使の文化祭- 似鳥鶏 2012/03/16 21:56
高校生・葉山君と卒業生・伊神先輩が探偵役を務める学園ミステリ、シリーズの第4弾。

日常の謎を長編でやるのは難しい面もあると思うのですが、なるほど今回はそうきましたか。途中で何となく違和感があったものの終盤まで見抜けなかった。読み直してみるとなかなか巧妙な仕掛けになっていました。
ただ、いろいろ詰め込み過ぎてプロットがゴチャゴチャしており、スッキリ騙されたという感じにはならなかった。たとえば化学準備室のエピソードはいらなかったのではと思う。

No.1698 6点 ホット・ロック- ドナルド・E・ウェストレイク 2012/03/14 22:26
不運な泥棒ドートマンダーの初登場作品。
リチャード・スターク名義の”悪党パーカー”と同様に、犯罪プランナーを主人公とした金品強奪もののクライム・ミステリながら、こちらはスラップスティックな味付けが特徴です。

シリーズの後の作品群は、ドートマンダーを悲惨で笑える窮地に立たせるドタバタ劇が興味の中心なんですが、第1作の本書は意外と強奪方法のハウダニットにも力点が置かれていてテイストがだいぶ違います。
目的の”ブツ”エメラルドの所在が、展示場から警察ビル、精神病院、銀行など次々と変転するたびに、繰り出す強奪計画が段々と過激になっていくのが笑える。一種の連作短編の趣もあります。
小悪党の仲間、相棒のケルプ、運転役のスタン・マーチのレギュラー陣は、まだ持ち味全開じゃあないのが少々残念。

No.1697 4点 歪笑小説- 東野圭吾 2012/03/12 21:59
出版社や小説家先生の生態をネタにしたユーモア連作集。
本書の原稿に目を通した時の、版元・集英社担当者のリアクションを想像して読むのも面白いかも。

ただ、これまでの「〇笑小説」シリーズと比べると、ブラックさや過激さが減退していて、変に編集者や若手作家に対して気を使っているように思えるのは気のせい? 
今の東野圭吾なら何を書いても許されると思うんですが(笑)。

No.1696 7点 ふくろうの叫び- パトリシア・ハイスミス 2012/03/11 16:53
”パラノイアの女王”と称されるハイスミス中期の心理サスペンス。短編のような研ぎ澄まされたキレ味は感じなかったが、その分思ったより読みやすい。
主人公のロバートをはじめ、いずれも精神状態が不安定な男女4人が織りなす恋愛トラブルが悲劇に発展していくという話ですが、読者の不安感を煽るように登場人物たちが徐々に壊れていく様の描き方が巧妙です。とくに離婚したばかりの元妻ニッキーのロバートに対する悪意・嫌がらせの連打は作者の真骨頂でしょう。
女性の家を覗き見するロバートという冒頭のシーンを読んだ時には、終盤になってこの人物に感情移入することになろうとは思わなかった。

No.1695 5点 ブンデスの星、ふたたび- 井上尚登 2012/03/09 18:12
プロ・サッカーチーム”ビッグカイト相模原”のホペイロ(用具係)坂上君が、選手やスタッフがらみの日常の謎を解く、シリーズの第3弾。

今回は、提示される謎が今まで以上に魅力に欠ける印象で、真相も分かり易いものが多くミステリ的には低調です。スタッフ仲間のドタバタ劇では、洗濯係の光恵さんのキャラが相変わらず強烈ですが、一方でマンネリ感も否めず。と、思っていたら、撫子さんのケータイ紛失事件の最終話は、連作ミステリならではの”意外な犯人像”の設定で◎でした。

No.1694 5点 迷宮の暗殺者- デイヴィッド・アンブローズ 2012/03/07 18:00
これはジャンル分類が困難な”トンデモ本”でした。
秘密工作員チャーリーを主人公とする暗殺ものと、脳神経科の女医スーザンが巻き込まれる陰謀もののパートが交互に同時進行で描かれ、途中まではなかなか読ませるのですが、二つのストーリーが統合される中盤でぶっ飛びの展開に突入します。ここで読むのを放棄する人が多数いそうです。

まあ、本書冒頭のエピグラフが、荘子の”胡蝶の夢”とジェームズ・ボンドですからね。ある程度変な話だと覚悟はしてましたが、ここまで”おバカ”をやってくれるとは・・・・・脱帽です。

No.1693 6点 奇面館の殺人- 綾辻行人 2012/03/05 23:10
久々の「館」シリーズの本書は、初期作を思わせるゲーム性が前面に出ていて懐かしい感じがした。「十角館」から四半世紀、齢50を過ぎた今でも、このようなモノを書いてくれたことに感謝。

季節外れの”吹雪の山荘”、仮面を付けた登場人物たち、首なし死体などなど、繰り出されるガシェットはいい。終盤の名探偵・鹿谷による重層的な推理の開陳もスリリングでよかった。
ただ、動きの少ない中盤の展開はじりじりさせ、招待客たちが名前でなく仮面の種類で紹介されるので分かりずらい面もあった。登場人物表があれば助かったのですが(笑)。
エピローグは蛇足の感。最後のジャック・フットレルの命日というのは何のつながりもないように思える。

No.1692 6点 タイタニック号の殺人- マックス・アラン・コリンズ 2012/03/02 22:48
豪華客船タイタニック号の最初で最後の航海に乗り合わせた”思考機械”の生みの親、米国の推理作家ジャック・フットレルが、メイ夫人とともに船上の密室殺人に挑む歴史ミステリ。20世紀に起きた大惨事を背景に、実在の作家が探偵役を務めるという、通称”大惨事シリーズ”の第1作です。

謎解きミステリとしては推理味が薄くあまり面白いと思わないが、作者の狙いは、登場人物すべてを実在の乗員乗客とするなど史実をベースにしたリアルな物語の構築にあるのでしょう。
沈没事故から生み出された幾つかの有名なエピソードがさりげなく挿入されているので、事前の知識があるとより楽しめます。たとえば、フットレルが船室で読んでいる実在の小説『愚行』の内容(=タイタン号という客船が氷山に衝突するストーリー)とか、殺害現場の客室番号に則り、事件を”C13号客室の問題”と称する遊び心などが微笑ましい。

大惨事シリーズは、第2作が飛行船ヒンデンブルク号事故と”聖者”サイモン・テンプラーの作者レスリー・チャータリスとの組み合わせですが、それ以降邦訳が止まっているのが惜しい。このあとの作品には、ヴァン・ダインやアガサ・クリスティなども登場するらしい。

No.1691 6点 聴き屋の芸術学部祭- 市井豊 2012/02/29 22:47
”聴き屋”体質の大学生「ぼく」が謎解く4つのミステリ。
殺人事件のフーダニット、日常の謎、安楽椅子探偵っぽいものと、それぞれ趣向を変えたミステリが収録されています。コミカルなエピソードに紛れ込ませる形で伏線を巧妙に張ったうえのロジカルな解法が基本になっていて、それが作者の持ち味のようです。第2話の「からくりツィスカの余命」だけは、ロジックよりトリックがキモになっていて、逆に個人的には編中で一番よかったのですが。
芸術学部の個性豊かな学生が多く登場するのだけれど、なかでも極度のネガティブ思考の持ち主である”先輩”が面白い。彼女のキャラで+1点加点しました(笑)。

No.1690 7点 犯罪- フェルディナント・フォン・シーラッハ 2012/02/27 22:43
刑事弁護士の「私」が関わった様々な犯罪者たちを描いたドイツ製の連作ミステリ短編集。

狂言廻しの「私」が淡々と語る犯罪と、その主人公である犯罪者たちの人生は実に多様で、物語のテイストもそれぞれ異なり、11編続けて読んでも飽きることがなかった。ノワール、グロテスクな話、奇妙な味、トリッキィな騙り、不条理な愛、ハートウォーミングな感動物語など、あらゆるタイプのミステリを取り揃えた感じ。
なかには、”日本のミステリや劇画からヒントを得ているのでは?”と妄想させる作品があった。アレとアレは、どうしても「ゴルゴ13」と「殺しの双曲線」を連想してしまう(笑)。
個人的な好みで、ベスト3は「ハリネズミ」「正当防衛」「エチオピアの男」を選ぶが、再読したらガラリと変わるかも。

No.1689 6点 憧れの少年探偵団- 秋梨惟喬 2012/02/26 12:14
乱歩の”少年もの探偵団”にあこがれる男女5人の小学生による連作ミステリ。
日常の謎が中心のお気楽なジュヴナイル小説と思いきや、密室殺人をはじめ凶悪事件が大半というのがやや意外でした。
第1話はクリスマス・イヴの密室殺人。この聖夜だから可能なトリックがなかなか。怪人二十面相=〇〇説とか、事件と関係ないウンチクも楽しい。ただ、小学生が名探偵であることを悩むというのは無理があるでしょう。
第5話の、町のケーブルカーから女性が消失する謎も単純ながら盲点を突いたトリックでした。
好みで言えば、手掛かり・伏線が巧妙だと思った第4話の「不愉快な誘拐」がベストかな。物語のホンワカした雰囲気もジュヴナイルらしくていいです。

No.1688 7点 真鍮の評決- マイクル・コナリー 2012/02/23 23:12
”人はみな嘘をつく。”
”警官は嘘をつく、証人は嘘をつく、依頼人は嘘をつく。陪審員ですら嘘をつく・・・・・・裁判は嘘のコンテストだ。”

リンカーン弁護士シリーズの第2弾は、ミッキー・ハラーとハリー・ボッシュ刑事との初共演という話題作です。
同僚弁護士が殺害されたことによって、ハリウッド映画界の大物の弁護を引き継ぐことになったハラー。上巻は、米国の司法システムを一通りなぞるようなスローテンポな展開だが、ボッシュの策略を見抜くハラーという形で二人が対峙してから面白くなる。
ハラーのいう「魔法の銃弾」(=一発逆転の決定的証拠)は推測できたのだが、そこからは意表をつく展開の連打。この反則気味の構図の反転、怒涛の展開がかなり読ませます。騙しの技巧が全開なうえ、今作はハラーと彼を取り巻く人々の造形もよく書き込まれており、これはリーガル・サスペンスの傑作でしょう。
エピローグに置かれたもうひとつの”サプライズ”は、初期のボッシュ・シリーズできっちりその伏線が敷かれており、思わずニヤリとさせてくれる。

No.1687 6点 鮫島の貌 新宿鮫短編集 - 大沢在昌 2012/02/19 17:55
新宿鮫シリーズ初の短編集。長編での流れがあるので、短編はどうしても外伝的エピソードになりますねぇ。
鮫島視点の物語と、上司の桃井、恋人の晶、"バーテン”などの第三者視点の話を交互に置き、”鮫島の貌”を浮き彫りにしていく構成になっています。

もともとの掲載誌の関係で、漫画(アニメ)の主人公とのコラボといった軽めのものもありますが、「雷鳴」「再会」「水仙」なんかは、鮫島の刑事としての鋭い感性が発揮された”ミステリ趣向”充分の好編でしょう。
あと、名前のせいで医者になるのをあきらめたという鑑識の藪の真実が、”こち亀”の両さんに暴かれる「幼な馴染み」が楽しい。「狼花」の後日譚である「霊園の男」など、シリーズ・ファンでないと話が見えてこない作品もありましたが。

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