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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1814 6点 革服の男- エドワード・D・ホック 2012/10/14 18:44
光文社文庫の”英米短編ミステリー名人選集”シリーズの5巻目。
今でこそ創元推理文庫から続々と出ているホックですが、早川の怪盗ニックぐらいしか簡単に読めない時期があり、そういう時期に出た本書は当時ファンに喜ばれたに違いありません。
ホック入門に最適な「ホックと13人の仲間たち」に倣ったような、多くのシリーズ探偵ものを中心に編まれていますが、サム医師もので、”パリ万博綺譚”を元ネタにした魅力的な謎の表題作や、オカルト探偵サイモン・アークものなど、いくつか後発の創元文庫と被るのは止むを得ないでしょう。
「不可能夫人」のギデオン・パロ卿(フェル博士+ポアロのパロディ?)、「七人の露帝」の暗号解読専門家ジェフリー・ランド、「ジプシーの勝ち目」のジプシー探偵ミハイ・ヴラドなど、マイナーなシリーズ探偵ものが入っているのは嬉しい。

No.1813 6点 キリオン・スレイの復活と死- 都筑道夫 2012/10/13 13:10
自称・前衛詩人の変なアメリカ人、キリオン・スレイが探偵役の連作シリーズ第2弾。
ミステリ的には不可解で魅力的な謎の提示に対して、解決が肩透かし気味なものも散見されますが、スタイリッシュで都会的雰囲気が読み心地がいいですし、覚えたての日本語の慣用句を誤使用するスレイのとぼけたユーモア部分も面白いです。
収録作の中では、警察監視下のバーのトイレが現場の三重密室もの「密室大安売り」がハウダニットものの良作。伏線の出し方が巧妙です。
「なるほど犯人はおれだ」は、殺人現場の証拠物件からキリオン・スレイを犯人と指摘する大学生によるダミー推理のほうがロジカルなような(笑)。

No.1812 6点 旅人の首- ニコラス・ブレイク 2012/10/12 18:20
私立探偵ナイジェル・ストレンジウェイズ登場のシリーズ9作目。今まで読んだ作品ではそんな感じを受けませんでしたが、ニコラス・ブレイクがセイヤーズから強い影響を受けたといわれるのが分かるような作品です。
”数ヶ月前に歓待を受けた平和な村を探偵役が再び訪れ、今度は身元不明の死体の事件に関わる”という、物語の幕開けは「ナイン・テイラーズ」を意識しているように思えます。ナイジェルの心情描写もいつも以上に深みがあり、最後はある理由で悩める探偵になっています。
事件の中心人物である著名な詩人シートンの存在感も作品の深みに寄与していて、これは作者の本職が影響しているのかもしれません。首なし死体が出てきますが猟奇的雰囲気はなく、むしろ叙情的な物語になっているのが不思議です。

No.1811 5点 天空の少年探偵団- 秋梨惟喬 2012/10/10 18:08
桃霞少年探偵団シリーズの2作目。今回は連作短編ではなく、山奥に建ち老人たちが集う屋敷”天空館”を舞台にした長編です。
塔の上の展望台という不可能状況の密室殺人トリックは、島荘の「流氷館」、森博嗣の「三ツ星館」、東川篤哉のアレなどに連なるタイプの〇〇トリックで、この種の仕掛けはあまり好みではありません。伏線は巧みに張られてはいるのですが・・・・。
”犯人”の動機を含め事件の構図はちょっとユニークですが、その相手が小学6年生の少年少女というところにやはり無理があるように思います。

No.1810 8点 世界をおれのポケットに- ハドリー・チェイス 2012/10/08 17:50
特殊合金製の現金輸送装甲車で運ばれる百万ドル強奪計画を描いたクライム・サスペンスの古典的名作。
ギャングの頭目、キザ男のチンピラ、老金庫破り、元ボクサーに謎めいた女を加えた、男女5人組の犯行グループの面々が魅力的です。多視点描写のため、中盤までは誰を主人公に据えているかも分からないのだけど、チェイスらしい”容赦のない展開”によって徐々に明らかになります。
計画・実行・犯行後と物語が進むにつれて、犯行に対する温度差が生まれ、それぞれの個性が書き分けられてゆくところが巧いと思う。同類の襲撃小説・悪党パーカー・シリーズと一番違う点は恋愛を上手く犯行に絡ませている所だろうか。ぶった切りのようなラスト・シーンが非常に印象に残る作品。

No.1809 6点 ついてくるもの- 三津田信三 2012/10/06 18:45
ホラー短編6作収録の作品集、それだけだと営業的に苦しいので刀城言耶シリーズ1編付けました、といった感じの短編集です。
ただ、その唯一のミステリ作品「椅人の如き座るもの」は、密室状況下の人間消失を扱っているのですが、かなりトホホな真相。タイトルそのマンマじゃん、とツッこんでおきます。
一方で、ホラーのほうは秀逸な作品が揃っていて、こちらは楽しめた。雛人形の呪いで一家が陰惨な結末を迎える表題作の「ついてくるもの」、小学生五人組が禁断の森に入り込み遭遇する怪異「八幡藪知らず」、一軒家に共同入居するうちの一人の様子に異変が...「ルームシェアの怪」が、読後ゾクゾクした作品個人的ベスト3。

No.1808 7点 巡礼者パズル- パトリック・クェンティン 2012/10/04 18:32
”パズル・シリーズ”最後の6作目。といってもダルース夫妻は(ちょい役で登場の「わが子は殺人者」を含め)この後も3作品に登場しますが。
前作「悪魔パズル」が本格ミステリ要素の少ないスリラー寄りだったので今回も同様路線かと思っていましたが、いい意味で予想を裏切る出来です。
闘牛やカーニバルなど異国情緒豊かなメキシコを舞台にし、複数の男女の愛憎劇を主軸にした緊張感のあるミステリ趣向十分の謎解きモノでした。主要人物はダルース夫妻を含め6人で、シリーズ初期作と比べると、パズルのピースが少ないシンプルな構成ながら、一癖も二癖もある4人の男女の中で犯人候補が三転四転する多重解決的な展開が面白い。
しかし、パトQ作品が新訳を含め年3作も出る時代が来るとは思わなかった。ダルース夫妻シリーズの残りもそのうち出るみたいだから、この勢いでスタッジ名義のウェストレイク医師シリーズも訳出してもらいたいものです。

No.1807 5点 天才は善人を殺す- 梶龍雄 2012/10/02 17:23
キャッシュカード紛失で大金を詐取され自殺したと思われる父親の事件を究明するため、主人公・芝端敬一ら大学生4人組は探偵活動に乗り出すが、といったストーリー。
事件の性質がはっきりしないまま物語が進行する中盤まではモヤモヤ感があって面白味に欠ける。カード犯罪と銀行のコンピュータ(天才)というテーマも扱いが中途半端です。ただ、密室殺人、電話トリック、操りの構図など、後半以降に次々と繰り出されるトリックはなかなか面白いと思います。
チェスタトンの逆説にたとえて、女子銀行員のなにげない行為と大金を引きだした意外な犯人を結びつけるくだりも秀逸です。

No.1806 6点 狂気の影- ヒュー・ペンティコースト 2012/09/30 12:31
機関銃を持った精神異常者が8人の男女を森の中の別荘に監禁するという、裏表紙の内容紹介を読むとサイコ・サスペンスをイメージしてしまうのですが、これは特殊設定のクローズド・サークルものの謎解きミステリでした。
閉鎖空間で登場人物たちが過去の事件の真相を追及するという私的裁判風プロットで、西村京太郎「七人の証人」、岡嶋二人「そして扉~」などに似た味わいもあります。休暇で森を訪れ事件に巻き込まれる探偵役ジョン・スミス博士はやや地味な存在ながら、一人ひとりの心の内を読み解くいかにも精神科医らしい推理方法で真相も納得がいくものです。

作者は、100冊以上のいろんなタイプの長編を書き(創造したシリーズ探偵も10人以上)量産作家のためか、解説のタイトルも「二流の人」と一般的な評価はいまいちのようですが、本書はB級感のない佳作だと思います。また、短編のほうが得意のようで、日本版EQMMに訳出されていたという”シャーロック叔父さん”シリーズがちょっと気になります。

No.1805 4点 南紀周遊殺人旅行- 中町信 2012/09/26 22:04
推理作家・氏家周一郎&早苗夫婦が参加したバスツアーで旅行メンバーが連続して殺されるシリーズの第5弾。
本書には、叙述の技巧で読者をミスリードする初期作品のような趣向はなく、ダイイング・メッセージの謎解きを中核としたごく平凡なフーダニット・ミステリでした。 殺人現場のサインペンのキャップという小道具からのロジック展開が読ませるぐらいで、真の動機を誤誘導するための偽の手掛かりなど、徒に事件を複雑にしているのは感心できません。
原稿の執筆が進まず、会社を辞め専業作家になったことを後悔する氏家というリアルな自虐ネタは面白いのですが。

No.1804 6点 死の舞踏- ヘレン・マクロイ 2012/09/25 22:09
ヘレン・マクロイのデビュー長編にして、シリーズ探偵の精神分析医ベイジル・ウィリングの初登場作品。
ニューヨークの路肩の雪の中から発見された熱射病の死体という、発端の不可思議な謎の真相は肩透かし気味で、物語中盤の展開もやや起伏に欠ける感もあるのですが、傑作「家蠅とカナリヤ」で披露したウィリング博士の心理分析的探偵手法(=”心理的な指紋”の追及)の片鱗が本書でもみられるところが面白いです。
miniさんも書かれていますが、重要な手掛かりが原文表記でないと意味をなさないというハンデがあるのですが、動機に1930年代の作品とは思えない現代的なテーマを内包している点など、さすがマクロイと思わせます。

No.1803 6点 疑惑の夜- 飛鳥高 2012/09/24 22:07
戦後すぐに短編でデビューした作者が10年後に初めて書いた長編ミステリ。仁木悦子「猫は知っていた」が受賞した第3回江戸川乱歩賞の最終候補作を改題したものらしい。

あらすじは、主人公の男女が謎の脅迫者を追及・対峙するというスリラーなんですが、ある理由で主人公が工作したアリバイの証人たちが皆”そんな憶えがない”と否定される「幻の女」パターンの不可解な謎が魅力的で最後まで引っ張ります。密室状況下の殺人や人間消失、最後に明かされる〇〇トリックと、本格ミステリの要素を複数詰め込んでおり、古臭い文章に我慢できればそれなりに楽しめます。

No.1802 5点 消えたエリザベス- リリアン・デ・ラ・トーレ 2012/09/22 13:55
18世紀の英国で実際に起きた迷宮入り事件を、当時の膨大な証拠・証言などの資料をもとに再構成し、作者が謎解くという歴史ミステリの路傍標的作品。
18歳の女中エリザベス・キャニングの失踪監禁事件は、日本の読者には全く馴染みがないのですが、ジョセフィン・テイもこの事件をモデルにグラント警部ものの「フランチャイズ事件」を書いているほどで、英国ではかなりセンセーショナルな事件だったようです。
本書は、史実をありのまま正確に伝えようとしたため、歴史研究論文を読まされている感じを受ける。特にエリザベス側と被告のジプシーの老婆側の関係者の証言が延々と繰返される裁判場面の数章は正直しんどかった。真相(作者の結論)はミステリ的な驚きもあるものの、全体的に物語性に欠けた。作者を探偵役にせずに、登場人物の一人たとえば本書で脇役になっているヘンリー・フィールディング(盲目の治安判事ジョン卿の兄)を探偵役にするなどのエンタメ志向だともっと楽しめたかもしれない。

(追記 2012.9.24)
たまたま論創社のホームページをのぞいてみたら、刊行予定にデ・ラ・トーレの「サミュエル・ジョンソン博士傑作集」が挙がっているではないか。同じ18世紀英国が舞台ながら、こちらは「クイーンの定員」にも選ばれた、”ホームズ&ワトソン”スタイルの連作ミステリだから期待できるかな。

No.1801 5点 ベートーヴェンな憂鬱症- 森雅裕 2012/09/18 20:13
東野圭吾「放課後」と乱歩賞を同時受賞した「モーツァルトは子守唄を歌わない」の探偵役、ベートーヴェンとチェルニーの師弟コンビが再登場する連作短編集。

コミカルな表紙絵とは裏腹に、後半の作品になるにつれて、老境のベートーヴェンの哀切な実情を描くことに力点が置かれ、ややミステリから離れた内容になっているのは好みの分かれるところかもしれません。
個人的には、小生意気で毒舌家の少年チェルニーとの出会いの物語でもある「ピアニストを台所に入れるな」と、皮肉屋のベートーヴェンが恋に悩む「マリアの涙は何故苦い」の前半の2編が好みでした。

No.1800 6点 第五の墓- ジョナサン・ラティマー 2012/09/17 22:58
怪しげな新興宗教団体”ソロモンの葡萄園”に囚われた女性の救出という本筋があるのですが、ホテルで見かけた女性にちょっかいを出すは、ギャングの親分に睨まれ銃撃戦を始めたりで、私立探偵の”おれ”こと、クレーヴェンの行動は行き当たりばったりです。それらが結果的に核心の人物との接触につながるのですから、やはりご都合主義的プロットといわれてもしょうがありません。
また、結末は面白いのですが、ただ”意外性のみありき”でかなり無茶です(笑)。
ビル・クレインを主人公にしたシリーズと比べると、語り口のシニカルなユーモアは抑えめで、展開にちょっとハメット風ハードボイルドを思わせるところもあるのですが、やはりB級感は否めないです。

No.1799 6点 泡坂妻夫引退公演- 泡坂妻夫 2012/09/16 22:05
雑誌に掲載されたままだった短編を、シリーズ・キャラクターや類似テーマ別に分類・編集した、箱入り2冊セットの単行本未収録作品集。

亜智一郎やヨギ・ガンジーのお馴染みのシリーズもののほか、紋章上絵師の「わたし」が関わる家紋にまつわる因縁話の連作シリーズ、奇術道具専門店シリーズなど、作者のプロフィールを具現化したような多彩な作品が揃っているので、(作品の出来はともかく)往年のファンのひとりとして楽しく読めました。
なかでも、江戸城の雲見番・亜智一郎シリーズ7編のトボケタ雰囲気が相変わらず面白い。もし最終話が書かれていたら、幕末動乱が背景になるだろうから、タイトルは「亜智一郎の遁走」とでもなったのだろうか。
あと、どの分類にも入らない作品では、ホラー系やSFコントのほか、中編の本格ミステリ風戯曲「交霊会の夜」が印象に残った。

No.1798 6点 エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件- ジョン・ディクスン・カー 2012/09/15 17:51
チャールズⅡ世統治下の17世紀ロンドンを時代背景にしたカーの歴史ミステリ第1作。
実際の歴史的事件である治安判事の殺害事件を膨大な研究資料をもとに再現し、ミステリ作家の視点で真相を導き出すという構成なので、後に多く書かれた”チャンバラとロマンス”の歴史ミステリ群と随分テイストが違います。(「時の娘」やデ・ラ・トーレの「消えたエリザベス」などの先駆となる作品と言われているようです)。
そのため、政治的また宗教的対立関係を中心に当時の英国事情がこと細かく描かれており、馴染みのない日本の読者には敷居が高い感じもあるのですが、現在の感覚ではありえない裁判の実態などが興味深く読めました。

No.1797 6点 疑わしきは罰せよ- 和久峻三 2012/09/12 22:11
”赤かぶ検事”こと柊茂(ひいらぎ・しげる)検事が活躍する連作短編集。シリーズはなんと100作以上出ているらしいのですが、本書はその記念すべき第1作です。

シイタケ栽培用のビニールハウスで中毒死(第1話の表題作)など、飛騨高山という舞台を活かした話がなかなか味があっていいです。娘の弁護士との父娘法廷対決(第4話)なんていうシチュエーションも地方都市ならではでしょう。検事に転勤はつきものとはいえ、大都市に異動になってからのシリーズは、楽しめなくなったような気がします。

No.1796 5点 ブラックサンデー- トマス・ハリス 2012/09/11 22:55
パレスチナ・ゲリラ“黒い九月”による、アメフト・スーパーボール競技場の爆破計画を描いた緊迫のサスペンス。
情報をつかんだイスラエル情報機関”モサド”と米国FBIは、アメリカ大統領をはじめ大観衆が集まった会場を無差別テロから守るため必死の情報戦を展開するが・・・・というストーリー。

本書は、「羊たちの沈黙」などハンニバル・レクター博士シリーズで有名なトマス・ハリスのデビュー作。あらすじ紹介を読むと派手な謀略サスペンスという感じなんですが、実際はかなり地味な展開です。中近東の情勢なり計画の実行に関する考察などがリアルかつ丁寧に描かれた情報小説の様相で、エンタメ小説としての盛り上がりという点では少々物足りなく感じました。
たまたま読了日が重なりましたが、「9.11」以降に読むこのタイプの小説は素直に楽しめないということもありますね。

No.1795 6点 カラット探偵事務所の事件簿2- 乾くるみ 2012/09/10 22:23
資産家の三男坊で道楽で”謎解き専門”の探偵事務所を開いた探偵・古谷と、高校の同級生だった「俺」こと助手・井上のコンビによる連作ミステリ、シリーズの第2弾。

同じ方向を向いたネタで、真相に脱力必至の「小麦色の誘惑」と「昇降機の密室」をはじめとして、緩い謎解きが並んでいて、個々の作品の出来は4点評価ぐらいかなと思っていましたが、最終話で2点プラスです。読み流していると、キモの部分を読み誤る可能性があるという点で「イニ・ラブ」に似た味わいがあります(シリーズ前作の最後のエピソードが前提になりますが)。「つきまとう男」というタイトルの意味と、最後の2行でヤラレタ感あり。

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