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[ ハードボイルド ]
のっぽのドロレス
私立探偵エド・ヌーン
マイクル・アヴァロン 出版月: 1964年07月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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早川書房
1964年07月

No.2 7点 人並由真 2019/05/19 03:45
(ネタバレなし)
 「おれ」ことニューヨークに事務所を構える不景気な私立探偵エド・ヌーンは、191㎝の身長の大女ドロレス(ドロレス・エーンズリイ)の依頼を受ける。その内容は同じサーカスの芸人で婚約者でもある、彼女以上の長身のロデオ乗りハリー・ハンターの行方を探してほしいというものだった。だがヌーンが調査を開始するや否や、知り合いの警察内の情報屋を通じて当のハリーが死体で発見されたという事実が判明する。ヌーンはドロレスのいるホテルに赴くが、そこで彼はまた死体に遭遇。ドロレスは借りていた部屋から姿を消し、ヌーンは殺人事件の容疑者となるが。

 1953年のアメリカ作品。50年代のアメリカ軽ハードボイルド(および準正統派ハードボイルド)は、ホームズのライヴァル時代に匹敵するくらいにきら星のごとくレギュラー探偵キャラクター(主に私立探偵)が登場した。
 そんな中で他の探偵キャラに抜きん出て人気を博すために重要だった要素のひとつはわかりやすいキーワードだったろう。「元私立探偵のルンペン」「アル中」「妻を寝取られ」からカート・キャノンが、「赤毛」「コニャック」「マイアミ」からマイケル・シェーンが、「銀髪」「刀傷」「元海兵隊」からシェル・スコット……そのほかもろもろが世代人に連想されるのは、「正体不明」「紐の結び目」から隅の老人が、「盲目」「指先の感覚」「超人的な記憶力の従僕」からマックス・カラドスがすぐ思い起こされるのと一緒だね。そういう意味じゃエド・ヌーンは当時の私立探偵キャラとしては特に目だった記号的なキーワードも備えておらず、地味すぎる。50年代軽ハードボイルド界のマーティン・ヒューイットか。
 そういう訳で<(原書でも翻訳でも)読んだ人の評判はいい>というウワサを聞きながらこれまで手を出さなかったエド・ヌーンものだが、このたび蔵書を引っかき回していたらシリーズ第1作である本作が出てきたので、購入してからからウン十年目にして初めて読んでみる。

 ……いや、なかなか面白いではないの。正直前半は50年代軽ハードボイルドの定石を良くも悪くも踏んでいるような展開だが、中盤でミステリ的な大技(中技かもしれん)を見せると同時に、正統派ハードボイルドの心意気にぐっと近づき(まあその辺は実はこの時点では、主人公ヌーンよりも別のキャラの描写に感じられたのだが)、加えて後半、筋立てのベクトルが明確になってからはさらに物語に加速感が増してくる。
 ちなみに多分これは本作と「ソッチ」の作品の双方を読んでわかることだからネタバレにならないとは思うけど、その中盤のキモとなるミステリ的な趣向はのちに70年代後半に開幕するアメリカの某人気ミステリシリーズに影響を与えているような気がする。同じシリーズ第1作目でこれは……というには暗合が過ぎると思うので。
 
 なお後半のツイストに関しては、kanamoriさんのレビューでバラされてしまった(kanamoriさんは曖昧に書かれたおつもりのようですが、アレではちょっと……)のがいささか残念。まあ素で読んでもわかったかもしれない、児童向けクイズなみの判じ物ではありましたが(それでも警戒される人は、kanamoriさんのレビューを読まない方がいいです)。
 それで本作のラストはミステリ的にどうのこうののネタバレはしませんが、予想外にやせ我慢・ハードボイルドの精神に富んでいてスキ。

 改めて言うけど最後まで一冊読んでも主人公ヌーン自身には、記号的なポイントとなるキャラクター性って希薄なんだよな。ただしヌーンが私立探偵主人公として魅力がないかというと決してそんなことはない。ちゃんと良い意味でのセオリーとしていろいろやるべきことはやっているし、譲れない職業倫理の線引きも心得てもいる。ただまあ、あの供給過剰時代にあって、この(表面的な意味での)キャラの薄さはやっぱり弱かったと思うねえ。セックス描写というかエッチ描写&お色気シーンも一応は用意されているものの、カーター・ブラウンみたいなニヤリとさせるコミカルさはなく全般的にどっかお上品だし。そういう意味では中途半端な面もなくはない。
 ただしそんな一方で、職人ミステリ作家らしいサービス感も随所に提示してるし、日本で翻訳が二冊で終ったのは今さらながらにもったいなかった。
 いや今までまったく応援の旗を振りもしないで、そんなことを言えた義理じゃないんだけど(汗)。

No.1 5点 kanamori 2012/06/03 20:13
”忘れられた軽ハードボイルドを読もう”シリーズ。
いまどき、このタイトルに反応するのはコアな宮部みゆきファンぐらいかもしれません(笑)。

私立探偵小説は少なからず主人公の個性で読ませる所があると思うのですが、本書の私立探偵エド・ヌーンは、同じ50年代に活躍した探偵たちと比べるとやや魅力が乏しく、どちらかと言うとプロットで読ませるタイプのようです。
ミステリとしての肝は、ダイヤの原石の隠し場所を示唆する”なぞなぞ風の詩”の謎解きですが、これは判ってしまった。”ニューヨークで、身長191センチのドロレスより高い女性”といえばアレでしょう。
トビラの登場人物表を身長の高い順に並べるなど、作者の遊び心が楽しい作品。


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