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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1906 5点 口笛探偵局- 仁木悦子 2013/03/31 10:58
学習雑誌などに連載されたジュニア・ミステリ集の2巻目。
前巻と比べると殺人事件を扱った本格的な謎解きモノが多くなっている印象がある。なかでは、クイーンや鮎哲の某有名作を連想させるアリバイトリックを使った「なぞの黒ん坊人形」はなかなかの良作。
表題作の中編「口笛たんてい局」は、4人組の小学生探偵団が立て続けに3つの事件に遭遇し、3度とも悪漢グループに監禁される、というお約束満載の冒険譚で楽しい作品。
謎解きモノ冒険モノともに、ほのぼのとした後味の良い読後感が共通していますが、なかには「やさしい少女たち」のような異色作があるので油断できない。

No.1905 6点 跡形なく沈む- D・M・ディヴァイン 2013/03/26 23:16
スコットランドの小都市を舞台に、ある人物の秘密を抱えた女性が移り住んできたことを契機に、殺人事件に続いて女性の失踪事件が発生する.....といった粗筋のディヴァインの生前最後に発表された作品です。

自治区役所の議員・職員を中心に登場人物が大人数で男女の関係が幾層にも絡まっていますが、主人公格の元婚約者男女をはじめ、脇役までの人物描写の書き分けはさすが円熟期の巧さを感じます。
物語の最初のうちは本筋が掴みずらかったのですが、主人公のひとりジュディスの一家が物語の中軸とわかってスッキリしました。ある女性の失踪事件以降やや中だるみを感じる部分もありますが、ミスリードを交えた終盤の展開が結構スリリングに仕上がっています。フーダニットとしてはやや恣意的で弱いかなと思いますが、読み応えのある作品でした。

No.1904 5点 透明な暗殺- 佐野洋 2013/03/24 17:29
公選法違反や繰上げ当選といった選挙ネタを扱った初期の中短編集。

「透明な暗殺」と「三人目の椅子」のふたつの中編は、二転三転するプロットはそれなりに面白いと思うものの、真犯人の立ち位置、ある女性と三流新聞の記者の役割、隠された裏の構図など、全体の構成がよく似ており、おおよその着地点は推測できるもので意外性という点では物足りない。
無人島のヌーディスト写真を巡る奸計「裸人の島」は凡作レベル。

No.1903 6点 牝狼- ボアロー&ナルスジャック 2013/03/22 20:26
第二次大戦時のドイツ占領下リヨン、捕虜収容所から脱獄した「私」は事故死した囚人仲間に成りすまし、ある姉妹のマンションに匿われることになるが....というあらすじです。

タイトルから想像できるように、作者が初期の頃に十八番とした悪女ものの心理サスペンスです。
事故死した友人の文通相手であるエレエヌと霊媒師もどきの妹アニュス、死んだ友人の姉ジュリアの、三人の女性の三様の思惑が絡んだ心理劇が読ませます。
なぜジュリアが主人公を偽者と告発しないのかという謎を中途半端に決着させたのはもったいないですが、悪夢的で余韻を残すエンディングは作者の持ち味がよく出ているように思います。

No.1902 4点 あなたが名探偵- アンソロジー(出版社編) 2013/03/19 21:44
解決部分を袋とじにした”読者への挑戦”もののミステリ・アンソロジー。
同じタイトルの東京創元社版ではなく、’70年代に出版された叢書「現代推理小説体系」の月報に掲載されたものをまとめた講談社文庫版です。

鮎川哲也、西村京太郎、佐野洋、森村誠一、陳舜臣、夏樹静子、斎藤栄など、昭和を代表する錚々たる本格派作家17名による19作品が収められていますが、内容を一言でいうと”お粗末”。現代の感覚からは、犯人を特定する条件が不十分と思えるものが数多く含まれています。(合格点を与えられるのは鮎川哲也、西村京太郎と都筑道夫ぐらいかな)。
ただ、仁木悦子の「横丁の名探偵」も推理クイズとしては平凡ですが、ご隠居が八っつあん熊さんらを相手に安楽椅子探偵を務める”落語でミステリ”という形式はユニークで面白い。

No.1901 6点 修道女フィデルマの探求- ピーター・トレメイン 2013/03/18 13:08
7世紀の古代アイルランドを背景にした歴史ミステリ連作短編集の第3弾。

5編とも犯人当てを主軸とした端正な謎解きモノで、主人公フィデルマが訪れた修道院で愛憎劇がらみの殺人事件に遭遇するといった同じようなプロットが続くのが難点ですが、いくつか印象に残るものがありました。
個人的なベストは、複数の民族が留学して集う修道院の学問所内の密室殺人を扱った「ウルフスタンへの頌歌」で、密室トリック自体は平凡ですが、設定を活かした伏線と犯人特定のロジック展開が巧いと思います。
次点は離島にある僧院を舞台にした「不吉なる僧院」で、真相は分かりやすいものの、序盤の謎が魅力的です。

No.1900 6点 福家警部補の報告- 大倉崇裕 2013/03/16 10:18
刑事コロンボ、古畑任三郎の系譜をつぐ倒叙形式ミステリの連作短編集の第3弾。

日常はドジで小ボケをかます小柄な女性警部補が、証拠ともいえない些細な違和感から抜群の推理力を発揮して犯人に肉薄していくといったギャップが面白く、シリーズ3作目にしてマンネリ感なく、逆にキャラクターが馴染んできて楽しめました。欲を言えば、犯人を落とす”決め手”にもう少し意外性があればと思います。
あと、各編とも犯人の人物像も工夫されていて、とくに2話目の東映ヤクザ映画の主人公のような(高倉健を連想させる)犯人像というのも異色ですが、ただ、このような偽装工作と人物像はアンマッチな気がしました。

No.1899 5点 妖女ドレッテ- ワルター・ハーリヒ 2013/03/14 12:07
冷酷な荘園主の後妻ドレッテを慕う使用人ロルフ。主人の殺害計画を立てるが、何者かがその計画どうりに密室状況の書斎で荘園主を射殺しロルフとドレッテが疑われる、といった話です。

戦前にドイツで発表された本格ミステリというのが珍しいです。
ただ、あらすじ紹介を読むとガチ本格ですが、密室の仕掛けは(早々に解明されメインの謎ではないとはいえ)残念レベルのトリックで、物語も通俗的で犯罪心理小説風な展開と共に時代性を感じてしまいます。
序盤の敗戦国ドイツの退廃的な雰囲気・描写はいいと思うが、ドレッテの人物造形がいまいち伝わってこない。

No.1898 5点 灰色の手帳- 仁木悦子 2013/03/12 23:36
学習雑誌などに掲載されたジュニア・ミステリ作品集の1巻目。

いずれも子供を探偵役に据え、中学生向けには手がかりを提示したロジカルな犯人当ての謎解きミステリ、小学生向けには悪漢グループを相手にした冒険ものというふうに内容に工夫を凝らしていて好感がもてます。
読み応え充分の長編「消えたおじさん」が目玉作品だと思いますが、ほかにも中学生時代の仁木兄妹が探偵役の「みどりの香炉」、童話でミステリという「ころちゃんのゆでたまご」などが楽しい。

No.1897 5点 首のない女- クレイトン・ロースン 2013/03/10 22:55
奇術店から大道具の”首のない女”を強引に持ち去った謎の娘を追うため、サーカス一座を訪れたマーリニと「私」は、主宰者の不審死などに続いて女性の首なし死体に遭遇する、といった奇術師探偵グレート・マーリニ登場のシリーズ第3弾。

これまでのような不可能トリックといった趣向はないものの、重要な会話の途中に横やりが入り、話が別方向に逸れて読者を焦らすような展開は、やはりカーを思わせるところがあります。怪しい人物が無駄に多く、プロットがごちゃごちゃしているため読み進めるのに辛抱が必要ですが、終盤の首なし死体に関する考察や、犯人特定のロジックはまずまずかなと思います。
なお、スチュアート・タウンと名乗る探偵小説作家が登場しますが、これは「虚空から現れた死」を書いたときのロースンの別名義でもありますね。

No.1896 5点 ふざけた死体(ホトケ)ども- 海渡英祐 2013/03/07 14:05
かつての宰相と同姓同名で性格まで似ている吉田茂警部補が、部下の佐藤部長刑事らと毎回奇妙な死体状況の事件の謎を解いていく連作短編集の第2弾。

「チャイナ・オレンジの秘密」ばりの奇妙な死体状況が多かった前作と比べると、今回提示されたWHYの謎の魅力はやや減退ぎみ。シチュエーションもほとんどがアパートやマンションの一室を事件現場とするもので、読み進めるにつれマンネリを感じてしまう。それでも、最初の「ケーキの好きな死体」は、死体工作の謎解きのロジック展開がなかなか秀逸な作品でした。

No.1895 6点 手斧が首を切りにきた- フレドリック・ブラウン 2013/03/05 18:14
マザーグースの一節から採った題名はサイコ・サスペンスを思わせますが、物語の展開は青春クライム小説といった感じです。
根が善良な性格のためギャングになりきれない青年ジョーと、純朴な少女エリーのボーイ・ミーツ・ガール風の現在進行形の物語の合間に、ジョーのトラウマの原因となった子供時代の”ロウソクと手斧”の悪夢体験のエピソードなどが、ラジオの実況中継風、映画や舞台の台本風に挿入されるという凝った構成が才人ブラウンらしいです。
最初のほうにある程度暗示されているため予想の範囲内とはいえ、かなり後味が悪いエンディングは極端に好みが分かれそうですが、昨今のイヤミス・ブームには合っているかもしれません。

No.1894 6点 歌麿殺贋事件- 高橋克彦 2013/03/03 11:42
浮世絵三部作の2作目「北斎殺人事件」から登場する美術研究家・塔馬双太郎を探偵役に据えた連作短編集。美術雑誌編集者の「わたし」をワトソン役にして、歌麿が絡む贋作疑惑・詐欺商法など6つの事件を解決していく。

作者の造詣の深い分野だけに、美術雑誌社や評論家を誤誘導し浮世絵好事家の裏の裏を突く悪徳業者の多様な騙しのテクニックがリアルっぽくて興味深い。後半の数編は、塔馬が悪徳業者を逆に嵌めるコンゲーム風の面白さがあります。
なかでは、プロの美術評論家との虚々実々の真贋対決と意表を突くトリックが冴える「歌麿真贋勝負」と、塔馬が”写楽=歌麿説”を開陳する「歌麿の秘画」が印象に残りました。

No.1893 6点 山師タラント- F・W・クロフツ 2013/03/01 20:32
前半に犯罪行為を描き、後半がフレンチの捜査過程になるといった、クロフツが中期以降に多用した倒叙ものかと思っていたら本書はちょっと違いました。

野心家タラントを中心にした詐欺まがいの医薬品販売事業を巡る群像劇風の前半部は結構面白いです。いわば”ゼロアワー”もので、犯人を明示せず事件の直前で終わることで、フーダニットものになっています。また、終盤の数章は裁判シーンに費やすというクロフツの作品では珍しい構成になっています。
ただ、そのためフレンチ首席警部の捜査編は、すでに読者が知っている事件背景を後追いするだけのものになっていて少々退屈に感じました。また、結末のどんでん返しが唐突であっけないです。

No.1892 6点 定吉七番(セブン)の復活- 東郷隆 2013/02/26 20:26
スイス・ユングフラウの氷河に消えた殺人許可書を持つ丁稚、”なにわの007”こと定吉七番が、四半世紀の時を経て平成ニッポンに復活するという、スパイアクション・シリーズの第6弾。

関西の独自カルチャーや大阪ルールといった地域限定の小ネタとギャグを連発しつつ、現代を風刺したパロディ趣向も健在で、四半世紀ぶりというブランクを感じさせません。いやテンションは旧作以上でしょう。
新潟出身の国会議員マキコと復活した闇将軍、テーマパーク好きの某国将軍様の長男など、危ないキャラクターたちが集結する終盤のハチャメチャな展開が楽しい。これは、旧作5作の復刊もあるかもw

No.1891 5点 ハニーよ銃をとれ- G・G・フィックリング 2013/02/24 12:06
長時間のキスで女性を窒息死させるwという”接吻窒息魔”による殺人が連続する中、引退した映画監督から妻と娘の護衛を依頼されたハニーは、映画監督宅の年越しパーティに赴くが・・・といった、美貌の私立探偵ハニー・ウェスト・シリーズ第2弾。

前作と多少の舞台設定の違いがあっても、お色気シーンとハニー危機一髪の場面を繰り返す、お決まりの軽ハードボイルドです。二作目にして早くも飽きてきました(笑)。
最後に関係者を一堂に集めての謎解きがあり、”意外すぎる犯人”が指摘されますが、たしかに伏線がいくつか張られていたとはいえ、かなり無茶な設定です。

No.1890 7点 落日の門- 連城三紀彦 2013/02/21 11:28
二・二六事件を背景に、首謀者の青年将校とその妻、同志、暗殺対象の大臣の娘などが織り成す騙し絵風の5つの物語。

”前夜”を描いた第1話「落日の門」は、この連作反転ミステリにおける登場人物関係図のような感じですが、2話目以降の後日譚で怒涛の連城マジックが連発されます。
なかでも、一夜限りの娼婦と無名の客との逢瀬に隠された真相を、小説家が作中作で推理する「残菊」、処刑直前に首謀者の妻が夫の愛人に対して採った行為の真意「夕かげろう」の2作の騙りが秀逸です。
二人の人物の立ち位置が大逆転する「家路」は、作品世界が非現実的すぎて無理があると思うのですが、連城ファンなら十分納得できるかも。

No.1889 6点 ケープコッドの悲劇- P・A・テイラー 2013/02/17 23:54
避暑地ケープコッドを舞台にした米国黄金期の本格ミステリ。大手実業家ポーター家の雑用係で60歳になる老人アゼイ・メイヨを探偵役に据えたシリーズの第1作です。

本書は、有名作家の死体を貸小屋で発見することになった近所のコテージの女主人”わたし”の視点で語られていき、会話文が主体なこともあって確かにコージー・ミステリの雰囲気がありますね。
探偵役が個性的で、警察を使って関係者を呼び寄せるために自動車を盗んだり、証言を拒む人物を脅したりと、アゼイじいさんの突拍子もない探偵活動には面喰いました。また関係者を一堂に集めた終盤の謎解きでは、過去の多くの職業の体験が推理の拠り所となっていて男版ミス・マープルといった感じもします。ただ、論理的な謎解きとは言えないところがあって、そこはちょっと気になりますが。

No.1888 7点 立春大吉 大坪砂男全集1- 大坪砂男 2013/02/15 11:49
高木彬光や山田風太郎らとともに、江戸川乱歩から”戦後派五人男”と称された鬼才・大坪砂男の初の文庫版全集。全4巻(予定)の1巻目の本書は”本格推理編”です。

戦後の混乱による男女間の悲劇を心情描写を中心に語る抒情的文体と、密室殺人・足跡のない殺人や実現性の薄い機械的殺人トリックといったコテコテの本格趣向が融合した作風が作者の持ち味のようで、そういった作品に印象に残るものが多かった。
「立春大吉」「涅槃雪」が篇中の代表作かなと思いますが、旧家三代の女性が時を経て、同日同時刻に庭の古井戸で変死するという魅力的な謎の「三月十三日午前二時」が結構好み。シリーズ探偵役・緒方三郎が往復書簡形式で謎解きをする構成も良。
高野山の寺で龍が昇天し、骨壷が鳴り中から赤子が出てくるといった奇想が連打される「大師誕生」は、バカミス度合いが小島正樹を連想させるw
その他では、作者がダメだししながら物語が進行するメタ構成の実験作「黒子」、ブラウン神父ものの贋作「胡蝶の行方」なんかも印象に残りました。とくに後者の”ホワイ”が秀逸です。

No.1887 7点 特捜部Q 檻の中の女- ユッシ・エーズラ・オールスン 2013/02/13 11:31
デンマーク発の人気警察小説、未解決の重大事件を専門に扱う「特捜部Q」シリーズの第1作。北欧ミステリ(主に警察小説)の多彩さ、クオリティの高さを再認識させられた傑作です。

主役コンビの設定、キャラクターが面白い。
コペンハーゲン警察のはみ出し刑事、カール・マーク警部補が命じられた新設の部署は署内の薄暗い地下室。そして部下は雑用係のシリア人アサドたった一人。コーランとお祈り用ジュータンを常に携帯するアサドの奇人ぶりや二人の掛け合いが軽妙です。
その一方で、二人の捜査過程の合間にカットバックで挿入される、拉致監禁された女性国会議員の陰惨な状況描写は緊迫感にあふれており、タイムリミット・サスペンス的興味でグイグイ引っ張られる。この硬軟交えた構成が巧みで、かなりボリュームがあるにもかかわらず一気に読めました。
マーク警部補の部下二人が死傷した過去の未解決事件や、アサドの怪しげな過去など、興味をつなぐサイド・ストーリーも盛りだくさんで、シリーズ次作以降が楽しみです。

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