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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2460件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2440 6点 吉原面番所手控- 戸田義長 2026/02/07 09:17
大遊廓・吉原の治安を担当する面番所に、40年勤め上げた元同心の木島が、かつて遊廓で遭遇した幾つかの難事件を、死の床で語りはじめる。いずれも木島の手柄とされていたが、謎を解いたのは、実は花魁の夕顔だった。

東京創元社出身の時代ミステリ作家三人衆と言えば、伊吹亞門、羽生飛鳥、戸田義長となるのでしょう。(前の二人は実在した人物を主人公としたものが多いので時代ミステリと言うより、歴史ミステリになるのかな)、戸田は今のところ文庫オリジナルの出版が大半なためなのか、あまり評判を聞かないような気がする。
作風は正に「本格ミステリ✕時代小説」で、不可能犯罪(密室モノが多し)やダイイングメッセージなどコテコテのトリッキーなものが多い連作短編集です。なかにはコラコラ!と、つっこみが入りそうな作品もありましたが、本作は一人の少女(禿)が遊女から花魁まで登っていく人生を縦糸としているので、物語性もあります。時代小説と本格ミステリが、うまく融合しているように思います。

No.2439 6点 アンジェリック- ギヨーム・ミュッソ 2026/02/04 09:25
心臓の病で入院中の元刑事タイユフェールがシューベルトの音色で目を覚ますと、病室にはチェロを演奏する見知らぬ少女が立って居るという、なんともシュールなシーンから始まる本作は、いかにもフランスミステリらしいエスプリの利いた作品です、一気に物語に引きこまれます。
その17才の医学生ルイーズの用件は、アパルトルマン6階の自宅から母親が転落死した真相を洗い直して欲しいというものです。おお、これは退職刑事によるベットディテクティヴかと思いましたが、実際はこのコンビによる実地の探偵活動が、始まります。
本作の構成が変わっているのは、同じアパルトルマンの上の階に住んでいた画家の男が同時期に亡くなっているという情報を探偵コンビが得た段階で、物語が中断し、第二部で別の人物の視点で、墜落事件の真相や別の犯罪が語られていくのです。
第三部で再びコンビの探偵活動に戻りますが、読者にとっては、既に知らされている事実を読まされることになるわけで、その辺は工夫が必要だったかなと思います。第三部には一応別のサプライズが、用意されてはいますが。
いずれにしても、なかなか面白い作品で、年末ランキングなどであまり取り上げられていなかったのが不思議です。本当は深く突っ込んで評したい点もありますが、管理人さんが「ネタバレは禁止していない」と宣言しているとはいえ、実態はやや違うので、クレームがあってもすぐ抹消出来るよう、下記に、それに関わるフレーズだけ書いておきます。
と言う訳で以下はネタばらしです。


①まるで天使のようなアンジェリックは反語?
②パトリシア・ハイスミスの某作とは、「なりすまし」テーマのプロットは勿論のこと、共に主人公の名前がタイトルになっている(邦題)点など、共通点がある。

No.2438 7点 群狼- C・J・ボックス 2026/02/01 09:39
ワイオミング州の猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とした冒険スリラー、シリーズ新刊の19作目です。
2004年に講談社文庫から出た第1作「沈黙の森」(本国2001年発表)から始まり、2020年に創元推理文庫に移籍して通算13作目の「発火点」に至る。出版社を変えながら、四半世紀近くに渡って翻訳出版されている人気シリーズです。
本国では25作目まで出ている様なので、ほぼ年1作のペースで書かれているという計算になる。
シリーズが長く読まれているのは、次の三つの柱(テーマ)を融合・組み合わせながら目先を変え、毎回魅力的なエンターテイメントに仕上げているからでしょう。

①ワイオミングの大自然を背景にした冒険小説の味わい。
②邪悪な人物・集団を相手にした謀略系スリラーの味わい。
③妻メアリーベスと三人の娘との交わりを描く家族小説の味わい。最近は三姉妹の成長小説の要素が強い。

さて、前置きが長くなりましたが、本作「群狼」のことを少し書いておきます。
端的に言えば、本作はほぼ上記②のテーマのスリラーです。
ジョーの盟友で、重要なサブキャラクターである、不穏な過去を持つ鷹匠ネイト(凄腕のお助けマン)が、いつも通りの活躍をします。
狩猟のルール違反をしている人物の捜査から、ジョーが行き着いた謎めいた家族の存在、そして、その件とは別に、男女四人組の凶悪な暗殺者チームの暗躍がカットバックのように進行する。
ジリジリした展開で、「いったい何が起こっているのか」風の物語は、シリーズ初読の読者には付いていくのが少し難しい面もありますが、終盤に一気に隠されていた構図が判明する瞬間はインパクトがあり、最近の作品の中では秀作だと思います。
ついでに、読んだ範囲で、シリーズのベスト3を挙げておきます。まずは今月復刊予定の記念すべき第一作「沈黙の森」、中期の傑作「狼の領域」、創元推理文庫版での第一作で、冒険小説の傑作とも言える「発火点」の3冊です。

No.2437 6点 まぼろしの女 蛇目の佐吉捕り物帖- 織守きょうや 2026/01/29 09:16
「相生町の親分」と慕われていた亡父の跡を継いだばかりの、駆け出しの岡っ引き佐吉が、知りあいの町医者・秋高の知恵を借りて、5つの難事件に対峙する連作短編集。
あまり捕物帖とは縁がなさそうな作家だと思いつつ読んでいましたが、伝統的な人情ものの捕り物帳の味を出しながら、謎解き部分もしっかりした作品集でした。
帯でアピールされているように「本格ミステリ✕捕物帖」で、なかなかトリッキィな作品もあります。
各篇のタイトルが、表題作はじめ「三つの早桶」「消えた花婿」「夜、歩く」「弔いを終えて」と、ディクソン・カーやクリスティなどの海外古典ミステリのオマージュになっているのも愉しい。
収録作のなかでは、やはり表題作の「まぼろしの女」がベストかな。大川に傷だらけの死体であがった女の身元が何故か判らない話、現代なら割りとありがちなネタながら、江戸時代なら意外性を発揮出来る。伏線も丁寧な良作です。
謎解きが終わって、はいこれで終わり、とはせず各篇とも余韻があるのが良い。

No.2436 6点 虎口- フェリックス・フランシス 2026/01/26 14:25
新・競馬シリーズが本作で8作目だそうな。いつの間にそんなに書かれていたのかと、少し驚きました。
主人公(探偵役)が競馬に関して門外漢なため、競馬のシステムをはじめ、裏方や調教師の日常の仕事内容と厩舎の様々な事情をこと細かく説明されていく、その序盤の展開は冗長と感じるところもありました。
もっとも、競馬そのものが好きで競馬シリーズを読み続けているという読者は、多分そう多くなく、主人公の不屈の精神なり苦難や障害を乗り越えていく過程のスリラー部分が魅力的だから、旧競馬シリーズが40年以上読まれ続けて来たのでしょう。
本作は、そういった要素は意外と少なく、放火と殺人事件を巡るフーダニット&ホワイダニットの謎解きがメインです。さらに事件の裏にある闇の部分は、父ディック・フランシスなら恐らく書かないであろう、まさに「現代ミステリ」的要素です。前作「覚悟」は旧シリーズの人気キャラクターを引き継いだものだったので、あまり感じませんでしたが、今作はフェリックスの個性が現れているように思います。

二世作家と言えば、ジョン・ル・カレの息子ニック・ハーカウェイがジョージ・スマイリーの復活作を書いているし、次はジョー・ヒルが「ミザリー」の続編でも書くのかなw

No.2435 6点 刹那の夏- 七河迦南 2026/01/24 15:07
いちおうノンシリーズの短編集。5篇収録されている。
「七海学園」シリーズとのリンク(共通する登場人物がいるらしい)との評を見かけましたが、そのシリーズを読んだのはずいぶん前で内容を覚えていないし、本書のあとに出たシリーズの最新作も読んでいないので、その件は全く分かりません。
表題作の長めの作品「刹那の夏」が、不満点もあるが、編中の個人的ベスト。都会から田舎の港町に移住した少年の甘酸っぱく淡い青春物語の美しさに魅了される。ところが一転後半になると、とんでもない展開の本格ミステリに変調した。あまりの強引さや、死体の扱いには前半の雰囲気も台無しにしているようにも感じた。謎解き部分にのみ焦点を当てた読み方をすれば気にならないのかもしれないが。
「魔法のエプロン」は叙述の技巧が冴えた好篇。タイトルがなんとも。
残りの作品も含めて全体的に暗い雰囲気の作品が多いので、読者を選ぶ作品集と言えるかもしれない。あと、これは作者の趣味なのか、言葉遊び(アナグラムや回文)が頻繁に出てくるのは、個人的には煩わしさしか感じなかった。

No.2434 6点 六つ首村- 折原一 2026/01/21 16:51
簡単に言えばタイトル通りの作品です。(簡単すぎて何の説明にもなっていない)

詳しくは的確に評されているメルカトルさんの書評をどうぞ、

部屋に引きこもったままの屋敷の当主、天井裏を徘徊する男、文字どおりの覆面作家、謎の通り魔など、折原ワールドではお馴染みの怪しげな人々が、30年前に大惨劇が起きた北関東の村に集結する。終盤の再現ドラマもそうですが、作者の過去作のガシェットが全部盛りです。好意的に言えば集大成のような作品です。
白兼家を巡る人物の関係が複雑過ぎて整理が大変。500ぺージを越える大作を読み終えるまで、頭のなかで、とっちらかったままだった、人物相関図が必要かも。(あ、それを載せるとネタばらしになるのか)

No.2433 7点 ハウスメイド- フリーダ・マクファデン 2026/01/21 14:21
裕福な家庭にハウスメイドとして雇われた女性が、やがてその家庭の秘密を知ることになり、ある事件に巻き込まれる、という粗筋紹介を読んで、年配者の大半の人が想起するのは、はいそうです、松本清張原案の昭和のテレビドラマ「家政婦は見た!」(市原悦子主演のほう)と言うことになるでしょう。
しかし実際読むと、かなり異なる。
まず主役の造形で、本作のミリーは前科はあるも美人の若い女性、市原悦子とは大きく違いますw 見た目だけではなく、最終的な立ち位置があんな風になる訳ですから。
ありがちなストーリーで、ある程度は先が読めるものの、やはり最後の処理には驚かされた。
これは読まれている理由がよく分かる、エンタメ小説の会心作でした。

No.2432 6点 我輩はカモじゃない- スチュアート・カミンスキー 2026/01/17 18:16
私立探偵トビー・ピータース・シリーズの3作目。
トビーは主にハリウッド映画界で、スターが巻き込まれた厄介ごとを解決する、探偵と言うより、トラブル・シューターです。
シリーズの特徴は、40年代に実在した有名人を毎回登場させていることでしょう。今作ではマフィアから強迫されているマルクス兄弟が依頼人。今作のタイトルは兄弟が主演した映画から借りています。
情報収集のために、出所して療養中のアル・カポネにトビーが会う場面から小説は開幕します。
シカゴに舞台を移しての、トビーの窮地の場面で助太刀する、謎の英国紳士のジェームズ・ボンドばりのアクション・シーンが見せ所と言えます。

No.2431 7点 夜と霧の誘拐- 笠井潔 2026/01/17 11:16
矢吹駆シリーズ。また「哲学者の密室」以降は鈍器本シリーズともいわれているらしい。この最新作は650ぺージほどで比較的おとなしめ、片手で持てるので鈍器としての使い勝手もいい
感覚的に第一作から半世紀近く過ぎているかと思っていましたが、作中に「三年前のラルース家の事件」という記述が出てきて、頭がクラクラしました。読み手側の時間の流れる速度と、作中の時間のギャップの大きさが凄いですね。

「キングの身代金」オマージュな誘拐事件から始まり、ナディア主役の身代金受け渡しを巡るスリリングな展開、並行して起きる別個の殺人事件と、畳み掛ける前半の展開はリーダビリテイがあります。
途中で一度、目次に戻って各章題を眺めていたら、中盤でカケルが提示する「意外な構図」が閃いて来ました。まあ私の場合は本質直観ではなく「本質山勘」なのですが、
エド・マクベインのアイデアを謎解きミステリに取り入れて、このような良質なパズラーを書き上げた点は素直に称賛したい。
あと1つ、翻訳ミステリがらみのウンチクを披露しておくと、ナディアがマルティン・ベック・シリーズを読んでいることが判る、年代的にも整合性はある。

No.2430 6点 ユーモアミステリ傑作選- アンソロジー(国内編集者) 2026/01/15 18:56
風見潤編のアンソロジー、おなじ頃に様々なテーマのアンソロジーが講談社文庫から出ていて、一部のマニアにはたまらない探求本といえそう。
ユーモアといっても色々あって、軽妙洒脱な語り口の本格ミステリから、ブラックユーモア、お色気ハードボイルド、ドタバタ喜劇、パロディ、クライム・コメディなど、9編いずれもそれなりに楽しめる。収録作については、以下に簡単に書いておきます。

グルーバーは人間百科事典もの「ソングライターの死」、これは後にジョニー&サムものの長編に転用されたようだ。
ブリテン「クリスティを読んだ少年」は、「読んだ男」シリーズの一篇。
フィッシュはお馴染みシュロック・ホームズもの「エリート・タイプの怪事件」
スラデック「見えざる手によって」は、サッカレイ・フィンが密室殺人に挑む。
ジョイス・ポーターは「ホンコンおばさん、正義を行使す」
アーサー・ポージス「イギリス寒村の謎」は名探偵セロリ・グリーン登場、国名シリーズのパロディですが、オチが分かりにくい。(これは山口雅也のアンソロジーにも収録)
プラザー「ストリップ戦術」は、私立探偵シェル・スコットと恋人がドタバタ騒動を起こす、お色気ハードボイルド。
ウェストレイクの「殺人の条件」は、完璧な計画の妻殺しのはずが、思わぬ事態に展開していくクライム・コメディ。これは笑える。
ジョシュ・パークター「サム、シーザーを埋葬す」は、ちびっ子探偵ネロ・ウルフ&アーチィが愛犬の轢き逃げ事件を追いかけるが、、これはアイデアが秀逸といえるかな。

後発のアンソロジーや短編集で読めるものもあるけど、これでしか読めない作品が結構あるのでポイント高し。

No.2429 5点 うたかたの娘- 綿原芹 2026/01/15 09:13
昨年の横溝正史ミステリ&ホラー大賞の受賞作。
よく知りませんが、もともとあった二つの新人賞を数年前に統合させた賞です。名前から、閉ざされた因習の村で猟奇的な事件が起こり、背後には謎の集団が、、みたいなホラーミステリ系を対象としている様に思いましたが、募集要項を見ると、対象は広義のミステリと、広義のホラーと並記されていました。
ところが、巻末の選評を見ると今回最終候補に残ったのは全てホラー小説で、ミステリがないのです。選考委員の一人は「ミステリを読みたい」と露骨に不満を表明する始末です。主宰のKADOKAWAとしては恩義のある横溝の名を冠した賞を存続させたいと苦肉の策で合併したんでしょうが、なんか裏目にでた感がありますね、

それで肝心の受賞作ですが、評判はいいようですが、私の嗜好には合わなかった。若狭地方を発祥とする人魚伝説をモチーフとしたオムニバス形式の連作長編で、3話目の水族館の怪異現象がインパクトがあった、ただ全体を通してメッセージ性が前面に出ているのがどうも苦手、
昨年は、ちょっとホラーミステリにはまっていたので、阿泉来堂の一連のシリーズや「鬼神の檻」「羊殺しの巫女たち」のようなもの期待していたこともある。

No.2428 6点 名探偵登場 5- アンソロジー(国内編集者) 2026/01/11 18:21
前巻からなんと5年ぶりの初期ポケミス名物シリーズの5巻目

聖者サイモン・テンプラー、トラント警部、マローン弁護士、奇術師グレート・マーリニ、リュウ・アーチャーなどの有名探偵の登場作よりも、名探偵が登場しない、ロバート・アーサーのオー・ヘンリー風の「大金」(別題「マニング氏の金の木」)や、バカミス・トリックが炸裂するフレドリック・ブラウン「スミス氏、顧客を守る」が面白い、そのシーンを想像すると笑える

次の最終第6巻はハードボイルド系の名探偵らしい
リチャード・デミングが「このミス」の1位を取るご時世でもあるし埋もれた佳作があるかも

アンソロジー「名探偵登場」は1956年初めから半年間で1巻から4巻までほぼ続けて刊行されました。この年の夏には日本版EQMMの創刊も予定されていて、この二つに関わったのがマニアックな若い編集者・田中潤司です、
田中は名探偵登場の作品選定・編集をしながら、EQMMの掲載作品の選定や発刊準備をしていたが、創刊の直前に退職したのです。(理由は諸説あり)
この「名探偵登場」の5巻の刊行が大きく遅れたのはおそらくそのためです。
急遽EQMMの編集長として都筑道夫が招聘されましたが、その時点で創刊号から3号までの作品選定は終わっており、都筑が担当したのはフレドリック・ダネイのコメントの翻訳だけだったようです。(都筑のエッセイ風半自叙伝「推理作家の出来るまで」を参照)

No.2427 5点 ホワイトハートの殺人- クリス・チブナル 2026/01/09 16:16
牡鹿の枝角を頭に乗せて裸で椅子に縛られた死体っていう猟奇的な発端は、今人気のクレイヴンのワシントン・ポーシリーズを連想させますが、読み進めると単に虚仮威しのように感じます。タイトルは本格ミステリ風でもオーソドックスな警察小説といえます
生まれ故郷に戻った女性刑事ニコラと新人刑事のコンビが田舎のパブをめぐる複雑な人間関係を紐解いていきます
英国のパブを中心にしたミステリだと米国人作家マーサ・グライムズの一連のシリーズがありましたが、比べると主人公の個性がいまいちですね

No.2426 5点 十四年目の復讐- 中町信 2018/03/17 17:30
作者後期のレギュラーな探偵役である和南城夫妻と、「浅草殺人案内」の寿司屋の鬼ちゃん親子という、二組4人の探偵役が共演する豪華?版で、本作は講談社ノベルスで450ページを超える大作です。

複数の密室殺人と、ダイイングメッセージのダブルミーニングによるミスディレクションなどを織り交ぜつつ、バッタバッタと事件関係者が殺されていく例によって中町ミステリのテンプレートどおりの作品に仕上がっています。
ただ、二組の探偵役が別々に調査活動を行い、コンビの会話で事件の整理をしたり、推理を開陳するパートは、情報内容が重複しており、読者は二度同じ情報を読まされている感があります。二組の探偵役を登場させた設定を上手く活かせきれておらず、そのあたりはやはり冗長に感じられました。

No.2425 5点 太閤殿下の定吉七番 - 東郷隆 2018/02/03 21:41
大阪で見つかった太閤秀吉の黄金の隠し財宝が忽然と消えた。東京の秘密組織”NATTO”の関与を疑う大阪商工会議所は、殺人許可書を持つ秘密諜報部員・丁稚の定吉を捜索に送り込むが-----。

”なにわの007”こと、定吉七シリーズの第5弾。
時事ネタを材料にしたパロディと、社会風刺のギャグの部分は、さすがに今読むとピンとこないというか、意味不明なところも多いのですが、松竹新喜劇風のユーモアが愉しいシリーズです。また普通だとドタバタ喜劇で押し通してしまうところを、よく読むと活劇シーンなどは意外と真面目になっていることが分かりますね。

同系統のパロディ・ミステリ「オヨヨ大統領」シリーズが今月復刊されるらしい。定吉七番シリーズもどうかな?(こっちはちょっと難しいか)

No.2424 6点 32台のキャディラック- ジョー・ゴアズ 2018/01/27 15:45
信用詐欺で盗まれた大量の高級車を回収してほしい。保険会社からの依頼を受けたカーニーは、サンフランシスコのジプシー社会の中の詐欺師一族に目を付けるが------だいたいこんな調子で始まるDKA(ダン・カーニー探偵事務所)シリーズ、前作から10年ぶりぐらいの久々の長編4作目です。

怪しげなジプシーの占い師夫婦や多肢多彩な詐欺師たちと、DKA調査員との駆け引きが軽妙で面白いのですが、ハードボイルド風の捜査小説という感じはあまりなくて、クライム・ノヴェルの側面が強いのは好みの分かれるところでしょう。実は、本書はドナルド・E・ウエストレイクとのコラボ企画で、終盤に人気キャラクター泥棒ド-トマンダーと小悪党仲間たちが特別出演するのです。全体的にポップでライトな作風になっているのは、そのことに配慮した結果かもしれませんね。

No.2423 6点 潮もかなひぬ- 赤瀬川隼 2017/03/04 14:21
熱田津に、船乗りせむと月待てば、潮もかなひぬ、今は漕ぎ出でな (額田王)

万葉集に隠されているといわれる秘密・暗合を謎とくという趣向の歴史ミステリ。
有名な女流歌人・額田王(ぬかたのおおきみ)の歌などはむしろ例外で、特殊な万葉仮名で書かれた歌の多くは解読されていないものも多数あるらしい。この難題に、全く門外漢のスポーツ・ライターが挑むというところが面白い。

政治的に無色な万葉集のアマチュア研究家が戦時中に特高に拘束されたというエピソードが前提にあって、万葉集と治安維持法との関連?謎(ホワイ)が興味を引きます。ただ、本書が発表されたのは今から30年も前のこと。最大のサプライズで、ロゼッタ・ストーンのような役割をするあるもののは今では一般に広く知られる情報となってしまっているのが、まあ仕方がないのですが、ミステリとすれば残念ではありますね。

No.2422 6点 ハイキャッスル屋敷の死- レオ・ブルース 2016/09/24 10:21
パブリック・スクールの歴史教師で素人探偵のキャロラス・ディーン登場の、シリーズ第5作(1958年発表)。
レオ・ブルースは、ポスト黄金時代のニコラス・ブレイクやマイケル・イネスとほぼ同時代の作家ですが、文学性や教養主義がミステリを薄味にしていると感じることもある”英国新本格派”とは一味違って、(邦訳された作品だけで見ると)純粋に本格パズラーに傾注した作風が好ましいです。作品個別のクオリティは別にして、クリスチアナ・ブランドに対する”黄金時代最後の末裔”(© 森事典)という称号は、レオ・ブルースにも通じるのではと思います(ちょっと持ち上げ過ぎかも?)。とくに本作は、お屋敷モノ、探偵役の聞き込み調査、関係者を一堂に集めた謎解き披露の大団円と、黄金時代の本格ミステリのオマージュ風味が強く感じられます。
”燻製のニシン”を初めとした加工食品の製造販売の成功で財を成した成り上がり貴族の広大な屋敷が舞台なだけに、まかれたレッドヘリングの数が半端ないですw  ただ、これまでの作品を読んで作者の手筋に通じていると、今回の事件の構図はやや判りやすいかなと思います。また、ルパート少年などレギュラー陣の登場が少ないのでユーモアは控えめですが、多くの使用人など端役の登場人物が個性的に描かれていて作者の持ち味はでています。
あと、レオ・ブルースの作風の特徴と本作を詳細に分析した真田啓介氏による巻末解説が素晴らしいです。何となくぼんやりと考えていた点を全て指摘されていてスッキリしました。

No.2421 5点 裁く眼- 我孫子武丸 2016/09/21 18:54
漫画家を目指すも芽が出ず、露天の似顔絵描きをしていた袴田鉄雄の元に、突如テレビ局から、ある裁判の法廷画を描くという仕事が舞い込む。その裁判は、男性2人を謀殺した容疑で逮捕された女の事件だったが、被告女性を描いた法廷画がテレビで流れた直後、袴田は何者かに襲われる。さらに--------。

法廷画家という主人公の設定がユニークな謎解きミステリです。
テレビのワイドショーで扱う事件の法廷場面をスケッチするために、袴田は毎日裁判所に通うわけですが、物語の半分を過ぎても、美貌の女性被告・佐藤美里亜が起こしたとされる事件の詳細や、傍聴席に座る袴田の前で進行する裁判の様子も、ほとんど触れられません。連続謀殺事件を巡る”法廷ミステリ”だと思っていたので、これはちょっと意外でした。(終盤近くになって、ようやく証拠のねつ造を巡る弁護士と検察の法廷バトルがあって、一応法廷ミステリぽくはなるのですが)。
少しネタバレをすると、本作の中核の謎は、法廷画家を連続して標的にした法廷外の事件の”ホワイ”にあるわけですが、本格ミステリを読み慣れた人には、ある伏線が浮いているため、真相の方向性だけは分かりやすいかなと思います。ただ、浮世離れした社会不適合者のような主人公を支える姪で女子中学生の蘭花ちゃんをはじめ、近所の交番詰めの巡査など、脇を固めるサブキャラクターがなかなかイイ味を出していて、物語の読み心地はそう悪くはありません。続編もありそう。

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