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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2460件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2140 5点 松谷警部と三鷹の石- 平石貴樹 2014/09/07 18:05
三鷹と八王子で発見された男女の変死体は、当初は無理心中とみられたが、事件の背後関係を調べていくうちに、4年前に河口湖で起きた元カーリング選手の殺害事件との関連が浮かびあがる-------。

”マッタリ警部”こと警視庁の松谷警部と、明晰な推理力をもつ女性巡査・白石のコンビによるシリーズの第2弾。今回の素材となるスポーツ競技はカーリングで、タイトルの”石”はカーリングのストーンのこと。
前作同様に、多くの事件関係者への聞き込み捜査を中心とした動機探し&アリバイ確認という地味な展開で終始していて、テイストはほとんど昭和の本格ミステリですw  終章で明らかになる犯人像はなかなか印象的なのですが、作者のウリである犯人特定のロジックという点では今回はイマイチな出来かなと思いました。
カーリング用語と事件の構図をダブルミーニングにした英語版タイトル”Double Takeout”は洒落ていますし、「だれポオ」の更科ニッキの近況が語られる幕間があったりで、往年のファンに対するサービスは怠りがないのですが。

No.2139 6点 散歩する霊柩車(光文社文庫版)- 樹下太郎 2014/09/05 21:36
初期短編集。作者がサラリーマン小説に軸足を移す以前の、昭和30年代に発表されたミステリ作品が8編収録されている。

個人的ベストは(世評的にも同じだと思うが)表題作の「散歩する霊柩車」。
妻の遺体を乗せた霊柩車で不倫相手の三人の男のもとに次々と回っていく男の話で、トリッキイな仕掛けとオチの切れ味が抜群にいい。伏線も過不足なく、編中で唯一現在でも評価できる作品だと思う。
「夜空に船が浮かぶとき」は、冒頭の謎が魅力的ですが、ミッシングリンクものとしては真相が常識的で尻すぼみの感がある。
ともに”悪女もの”のサスペンス「ねじれた吸殻」「悪魔の掌の上で」も出来自体は悪くはないけれど、いまいち突き抜けたものがない印象を受けた。あとの後半収録作は、いずれも若い男女が主人公格で、漂うロマンチシズムがウールリッチを思わせるところがあるが、ミステリ(クライム小説)としては平凡な内容だった。
あと付け加えると、この作者はタイトルの付け方がうまい。上記以外でも「泪ぐむ埴輪」「雪空に花火を」など、読者を引きつける魅力的なタイトルだと思う。

No.2138 6点 さよなら神様- 麻耶雄嵩 2014/09/03 20:51
久遠小学校5年生の”俺”桑町が、身辺で起きた殺人事件の犯人を全知全能の”神様”こと同級生の鈴木太郎に尋ねると、”神様”は一言だけ宣う、「犯人は〇〇だよ」--------。

ジュヴナイル小説なのにそのブラック過ぎる結末で話題になった「神様ゲーム」に続くシリーズ第2弾で、今回は連作短編集。
最終話を除いて、各話とも冒頭で神様によって犯人の名前がいきなり開陳される構成になっているため、フーダニットの興趣を排した、ホワイダニット(動機の謎)やハウダニット(アリバイ崩し)を主軸にした内容となっている。
正直なとこと前半の3編は、麻耶作品としては驚くような出来ではなく凡庸かなと思いますが、第4話「バレンタイン昔語り」でギアチェンジ、仕掛けが炸裂する。アレ系の騙りは「またか」と思いますが、それとは別に構成自体をミスリードに使った騙しの手際のほうは見事です。
全知全能の神様の存在を前提にした企みによる最終話までの流れ、ヒネクレた収束の仕方はいかにも麻耶作品らしいです。

No.2137 6点 闇の夢殿殺人事件- 風見潤 2014/09/02 17:55
奈良の学会に出席していた天文考古学が専門の大学講師・神堂は、指導教官の娘でもある恋人の奈々から、失踪した友人の姉を捜してほしいと頼まれる。友人の姉は、聖徳太子の生まれ変わりを教祖とする新興宗教と関わっていた--------。

神堂賢太郎&早瀬奈々の素人探偵コンビが、写真の暗号、アリバイ工作、密室トリック、ならびに新興宗教の秘密に挑む本格編で、「殺意のわらべ唄」に続くシリーズ第2弾。
若い男女探偵による”奈良殺人案内”という趣があって、プロット的には火曜サスペンス劇場風なのですが、コンパクトな長編のなかに、多彩で細かなトリックが散りばめられているので割と楽しめました。
アリバイ・トリックが綱渡り的など、いろいろ小さな難点がありますが、法隆寺の夢殿を模した教団の祈祷所の密室の謎は(オリジナリティはあまりないにしても)まずまずの出来では。
(しかし、この男女探偵は、深谷忠記の黒江壮&美緒コンビと造形イメージがかなりカブってますねw)。

No.2136 5点 思考機械(未書籍化作品集)- ジャック・フットレル 2014/08/31 19:00
”思考機械”こと、ヴァン・ドゥーゼン教授ものの書籍化されていない作品を集めたもの。これまた宮澤洋司さんの「翻訳道楽」編。(おっさんさんから情報をいただいてから3年も経ってしまいましたw)

収録作は、①紐の切れ端 ②オペラ桟敷席の謎 ③オルガン弾きの謎 ④専用個室の謎 ⑤廃屋の謎 の5編で、初出は不詳ですが、おそらく新聞掲載のものと思われます。
個人的ベストは、初期の不可能トリックものをちょっと想起させる②ですが、情報の後出しが多いのが難点。(偶然にもコレはミステリマガジンの先月号にも転載されていました)。頭脳派のはずのヴァン・ドゥーゼン教授が、暗闇の地下室で冒険する⑤も異色作として捨てがたい。本来なら、こういった冒険は記者のハッチ・ハッチンソンの役回りなんですけどね。
ただ5作品いずれも枚数が少なめなので物語性が弱く、謎解きものとしても物足りないものが多かったのが残念なところです。

なお、渕上痩平氏のブログ「古典海外ミステリ探訪記」にも数か月前に、思考機械ものの初訳作品が3編訳載されておりました。「隅の老人」の完全版も出たことですし、次は「思考機械」の全作品邦訳版を期待したいものです。

No.2135 3点 波上館の犯罪- 倉阪鬼一郎 2014/08/30 18:33
とある半島の近海に浮かぶ小島に建つ白亜の洋館。波に浮かんでいるように見える”波上館”で、館主の芸術家が謎の窒息死を迎えた後、残された家族・使用人がドミノ倒しのように殺されていく--------。

”わたしは犯人、探偵、被害者、記述者、そして波------” といったような、謎めいたフレーズが冒頭に置かれたゴシック小説風の作品。
毎年恒例のバカミス・シリーズの一冊、かと思って読んでいたらテイストがちょっと違う。
あとがきによると”交響曲シリーズ”とあるが、そんなシリーズは聞いたことがない、だまされた気分だw それでも、泡坂妻夫の「しあわせの書」にインスパイアされたような例のお遊びは入っていますが......(だから今回は一段組なのか)。
物語の中味のほうは、率直にいって「つまらない」のひとことです。倉阪さん病んでないですか?と、ちょっと心配になる。

No.2134 6点 プードルの身代金- パトリシア・ハイスミス 2014/08/28 20:40
レイノルズ夫妻の愛犬が公園で行方不明になり、身代金千ドルを要求する手紙が届く。警察に相談しにきた夫婦の話を、たまたま傍で聞いていた若い警官クラレンスは、職務をはなれて事件に関わるが--------。

本書は、愛犬プードルの持ち主レイノルズ夫妻の視点を主軸にした誘拐サスペンスではなく、誘拐犯の元建設作業員ロワジンスキー視点のクライム・ノヴェルでもない。善意で事件を解決しようとする若い警官クラレンスが巻き込まれた悪夢のようなトラブルの顛末を描いている。
銀行の人事部の仕事を嫌い、何となく警官になった普通の青年が主人公なだけに、終盤の展開は読むほうにとってもかなり精神的なダメージを受ける。気軽に他人にお薦めするのを躊躇うような結末が控えていました。
ハイスミスの長編を読むのは4冊目になりますが、胸糞の悪い読後感でいえば本書が一番。でも、これはあまり高い点数を付けたくない。

No.2133 6点 蜂に魅かれた容疑者- 大倉崇裕 2014/08/25 18:44
新興宗教団体「ギヤマンの鐘」に対する捜査の責任者・鬼頭管理官が襲撃を受け、警察病院に入院する事態になる。同じころ、スズメバチが人を襲う事件が続発、こちらの捜査は警視庁総務部の須藤にお鉢が回ってきた--------。

事件関係者のペットの世話を担当する警視庁の動植物係・須藤警部補と、動植物オタクの不思議ちゃん・薄圭子巡査のコンビによるシリーズの第2弾で、今回は長編。
天然でボケをかます女性巡査に振り回される元捜査一課の鬼刑事という設定のコミカルなテイストは前作同様ながら、終盤にいたり事件が急展開を見せ緊迫した内容になる。新興宗教団体とスズメバチの関係は予想できるものの、これは意外な方向から一撃を喰らった感じだ。
薄巡査が”裏の構図”に気付くキッカケがちょっと強引なロジックと思えなくもないが、そこそこ楽しめる出来でした。

No.2132 6点 サンセット77- ロイ・ハギンズ 2014/08/24 00:00
私立探偵ベイリーは、実業家キャリスターの依頼を受け身辺警護のためにホノルルに向かう豪華ヨットに同乗する。家族ら5人だけの船内には異様な緊張感が高まり、やがてライフル弾で頭を撃ち抜かれたキャリスターの死体が発見される(第1話)--------。

ロサンゼルス市サンセット通り77番地に事務所を構える私立探偵、スチュアート・ベイリーを主人公とする連作中編集。
「サンセット77」は、私立探偵モノとして「ハワイアン・アイ」と共に’60年代に日本でもテレビ放映された人気シリーズだったようですが、本書の小説版はネットで仕入れた情報とはやや雰囲気が違う。TV版では、相棒のスペンサーや駐車係のクーキーなど、仲間のレギュラーキャラクターが物語を彩っていたのに対し、この小説版ではベイリー単独の探偵譚となっていて、若いころのマーロウ物を通俗的にした感じを受けました。
内容的にはminiさんも書かれてますが、密室トリックや凶器の消失トリックなど、3話とも本格ミステリ顔負けのトリックが施されている点が面白いです(動機や必然性が弱く、実現可能性などを度外視したところもありますがw)。
なお、個人的ベストは太平洋上の豪華ヨットという舞台装置がハードボイルド小説としては異色な第1話「死は雲雀に乗って」。

No.2131 6点 破門- 黒川博行 2014/08/22 19:00
映画製作の出資金を持ち逃げされたヤクザの桑原と堅気の二宮は、詐欺師を追ってマカオへ飛ぶ。標的の身柄を押さえたのもつかの間、詐欺師を裏で操る男が本家筋の組幹部と分かり、事態は組同士の修羅場に発展する---------。

腐れ縁の桑原と二宮のコンビによる”疫病神”シリーズの第5弾。本年上期の直木賞受賞作品。
ヤクザ社会を背景にしたクライム小説ですが暗さは一切なく、例によって2人のドツキ漫才さながらの関西弁のやり取りで、物語は軽快なテンポで展開されていく。リーダビリティは抜群で面白かった。
しかし、マカオのカジノのシーンはあれだけ詳しく書く必要があったのでしょうか?取材費で黒川さんが楽しんだだけのようなw

余談ですが、現在の直木賞選考委員10名のメンツを知ってちょっと驚いた。ミステリ畑出身者が過半数を占めている(しかも推理作家協会の理事長経験者が3名)。さらには委員の東野圭吾、宮部みゆき、桐野夏生、高村薫各氏は黒川さんよりたぶん作家デビューは後でしょう。これは直木賞は必然だわ。というか、「国境」か「悪果」でとっくに獲っていておかしくない、むしろ遅いぐらい。

No.2130 6点 血のなかのペンギン- デイヴィッド・アリグザンダー 2014/08/19 20:21
探偵事務所に雇われたばかりの帰還兵の”おれ”ことテリー・ルックの初仕事は、浮気調査のためにホテルの隣部屋である女性を見張ること。ところが、飲んでホテルの自分の部屋に帰ると全裸女性の死体が椅子に座って待っていた---------という発端の、アリグザンダーのデビュー長編。

アリバイを証明してくれるはずのバーの店主ら全員の否定証言、戦争の後遺症で精神が不安定ということもあり、窮地に追い込まれるテリーどうする?という前半は、よくある巻き込まれ型のサスペンスですが、本当の主人公トミー・トゥートーズという風変わりな老富豪が登場する後半からが面白い。
豪邸の敷地内に何匹もペンギンを飼っていたり、社会の落伍者たちが屯するニューヨークの浮浪者街にリンカーンで乗り付け、高級酒をふるまったりする変人トゥートーズのキャラクターが魅力的だ。解説では、「ネロ・ウルフを連想させる」とあるが、飲んだくれの落伍者たちを使って容疑者の動向を探らせるところなど砂絵のセンセーを思わせるw
大活躍?をするペンギンのクレオ嬢のその後も気になるところですが、シリーズ第2作が邦訳されていないのが残念。

No.2129 5点 魔法使いと刑事たちの夏- 東川篤哉 2014/08/17 23:13
家政婦の魔法使い少女と被虐趣味の若手刑事による倒叙形式の連作ミステリ、シリーズ第2弾。

魔法と本格ミステリという組み合わせが、ストーリーを面白くするという点で、それほど効果を上げているとは思えませんが、倒叙ミステリの肝である、最終的に犯人を追いつめる”詰め手の意外性”にこだわった内容は前作より優れていると感じました。(前作を読んだ印象がほとんど残っていませんがw)
個人的ベストは、犯人の余計な工作がかなり皮肉な結果につながる第1話「魔法使いとすり替えられた写真」。
準ベストは、鮎哲の倒叙短編ネタの逆ヴァージョンというか、”ある現象”が起こらなかったことによってアリバイが崩れる「魔法使いと妻に捧げる犯罪」ですが、4編とも何気ないエピソードが決定的な手掛かりにつながる伏線の張り具合が巧みです。

No.2128 7点 魔力- トニイ・ヒラーマン 2014/08/16 22:29
ナヴァホ族警察本部のリープホーン警部補は、保留地で発生した3つの殺人事件が相互に関連があるのではと疑っていた。一方、ジム・チー巡査が暮らすトレーラーハウスに夜間何者かによってショットガンが撃ち込まれる事件が起きる---------。

これまで別々のシリーズで主人公だったナヴァホ族出身の2人の警察官、リープホーン警部補とジム・チー巡査が本書で初めて顔を合わすことになる。
インディアン保留地という特異な舞台背景がシリーズの特徴となっていて、大自然の描写に加えて、呪術信仰などの異文化情報が興味深いのですが、謎解きミステリの要素として、それらを巧くプロットに組み込んでいる点が素晴らしい。
本書でいえば、ミッシングリンクの欠けたピースや、犯人の施したトリックは、こういう背景があって成立するもので、単なる珍しい異文化小説ではなく謎解きの伏線にもなっている。
リープホーン警部補の抱える家庭の問題や、チー巡査のプライベートのその後も気になるところで、シリーズ続編も読んでみたい気になりました。

No.2127 6点 殺人回廊- 梶龍雄 2014/08/14 22:26
太平洋戦争末期の昭和20年2月、東京目白の新田公爵邸の周辺に不審な男たちが出没するという通報を受けた警視庁の堀川刑事は、邸内で張込みを始める。やがて男たちの正体がスパイ容疑の次男を内偵中の”特高”と判明するが、雪中の離れの別館で三男が変死体で発見される-------。

作者が亡くなる直前に書下ろしで出版された遺作長編。
時代設定は初期作品を思わせる戦争を背景にしたものですが、学生を主人公とした青春ミステリではなく、名家の秘密が絡む殺人事件の真相に平凡な刑事が迫るといった本格ミステリになっている。
特高刑事たちの監視の目と、雪に囲まれた別館という二重の密室の謎解きはそう大したものではないものの、時局を反映した異様な殺人動機に見るべきものがあります。
ただ、名家女主人の刀自と令嬢・智加子の、ふたりの女性の存在感が突出しているため、途中で真相はぼんやりと見えてしまいましたが。

No.2126 7点 伝奇集- ホルへ・ルイス・ボルヘス 2014/08/12 00:01
ラテンアメリカ文学の”知の巨人”、アルゼンチン作家ホルヘ・フランシスコ・イシドロ・ルイス・ボルヘスの処女短編集。
古今東西の伝説、神話、宗教、文学、哲学などをモチーフにして、その博識を縦横無尽に駆使して詰め込んだ思索的、幻想的な物語が大半を占めています。

収録作のなかでは「円環の廃墟」や「バベルの図書館」「記憶の人、フネス」「南部」などが代表作と言われているらしいのですが、本格ミステリ読みにとっては、なんといっても「八岐の園」と「死とコンパス」が注目作品でしょう。
「死とコンパス」は、後期クイーン的問題に絡めて言及されることが多い作品で、ミッシングリンク・テーマと偽の手掛かり、名探偵という装置の在り様など、20ページ程の短編ながら、色々と興味を惹く問題を孕んだ作品。法月綸太郎氏が絶賛するのも何となく分かるような気がします。
ボルヘスは、共著で「ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件」という連作ミステリを書いているぐらいで、元々探偵小説に強い関心を持っていたことはよく知られており、一つの問題提起としてクイーンに先んじてコレを書いたとしたら大いに評価されるのも当然なのかもしれない。

No.2125 6点 死の快走船(戎光祥出版・ミステリ珍本全集)- 大阪圭吉 2014/08/10 15:38
日下三蔵編”ミステリ珍本全集”の4巻目。戦前に出版された大阪圭吉の全5冊の短編集の中から、創元推理文庫2巻と論創社の探偵小説選の収録作を除き、単行本未収録作品8編を加えた全38編が収録されています。

編中で唯一既読だった表題作「死の快走船」は、被害者の残した言葉によるミスディレクションと、事件の隠された構図の意外性で読ませる佳作。ただ、”戦前を代表する本格探偵小説作家”という呼称に値するパズラーと言えるのはコレぐらいで、ほかの本格モノに関しては落ち穂拾い的なものとなっている。あとは、ミステリ要素があってもトリックより日常の謎風のプロット重視で、軽妙洒脱な語りとオチで読ませる作品が多かった。(某ホームズ譚のヴァリエーションといえる作品が目立つ)
また、『ほがらか夫人』収録の11編は、ほとんどが人情話モノの非ミステリで、戦時下という時局を反映して、”お国のため”とか”兵隊さんのため”という国威高揚的な話になっているのがなんとも.....。そんななかでも、「トンナイ湖畔の若者」は、樺太の村に住むアイヌの青年が見た日露戦争という割と長めの異色作で、作者の実力が覗える力作だと思う。
ほとんどの収録作がミステリとしては物足りないが、本書は出版されただけで意義があるw (よって採点に1点加算しました)。

No.2124 7点 暗殺者の復讐- マーク・グリーニー 2014/08/06 22:34
ロシア・マフィアのボスへの復讐を果たしたグレイマンに、今度はCIAと繋がる民間殺人組織の追及の手が迫る。しかし、その組織の一員で独行工作員の”デッドアイ”が、何故かグレイマンに支援を持ち掛ける-------。

CIAの”目撃しだい射殺”指令ターゲットとなり、逃亡を続ける凄腕の暗殺者”グレイマン”こと、コートランド・ジェントリーを主役とするシリーズの4作目。
マンネリどころか巻を重ねるごとに面白さが増してくる。
ハイテク機器を使いグレイマンを追う民間殺人組織チームや、イスラエルの特務機関モサドの女性工作員に加え、グレイマンと同じCIAの特殊任務プロジェクトを受けた暗殺者”デッドアイ”という三者の思惑が北ヨーロッパを舞台に複雑に絡むストーリーはまさに波瀾万丈で、600ページという長さを感じさせない面白さ。とりわけ、”もう一人のグレイマン”こと暗殺者”デッドアイ”が最終ターゲットに迫る最終盤での死闘はシリーズでも屈指の名場面と言えるだろう。
エピローグを見ると、どうやら本丸への反撃の兆しが伺えるので次作を正座して待ちたいw

No.2123 6点 戦艦金剛- 蒼社廉三 2014/08/03 16:38
昭和17年10月、ソロモン諸島沖を南下してガダルカナル島に向かう戦艦金剛の艦内で、何者かによって反戦ビラがまかれる。さらに、ガ島の米軍飛行場を砲撃した直後、密室状況の砲塔内で上曹が射殺される事件が起きる-------。
「本格ミステリ・フラッシュバック」からのセレクト。
戦時中の戦艦(クローズドサークル)内での不可能殺人という設定が非常にユニークです。
嫌われ者だった被害者の須貝上曹を巡って、乗組員の何人もが動機を持ち、その過去の因縁話を絡めた人間ドラマが丁寧に描かれています。てっきり探偵役だろうと思っていた人物が途中意外な形で退場したり、戦闘真っ只中の劇的なラストシーンで真相が提示されるなど、プロットも工夫が凝らされていると思います。犯行方法と犯人につながる伏線もさりげなく張られています。
ただ、作者は戦記作家も目指していたためか、とりたてて本筋に関係しない戦況や軍部の作戦に関する分析が多く挿入されているのが難点で、純粋に本格ミステリとして読んでいくと興をそがれる側面がありました。

No.2122 6点 五枚目のエース- スチュアート・パーマー 2014/08/01 23:04
ショーガール殺しの罪で死刑の執行が迫るアンディ・ローワンから、パイパー警部宛てに警部を相続人にする旨の連絡が入る。直感的にローワンの冤罪を確信したミス・ウィザーズは、旧友の警部を巻き込み、関係者を引っかき回して次々と容疑者を集めるのだが、新たに殺人事件が発生し-------。

元小学校教師のオールドミス、ヒルデガード(ヒルディ)・ウィザーズ・シリーズの11作目。
死刑執行という”デッドライン”が設定されていますが、それほどサスペンスは強調されておらず、むしろパイパー警部とヒルディの軽妙なやり取りや、ヒルディの飼い犬タレーランのトボケた行動など、コメディ要素のほうが目立ちます。死刑囚ローワンの妻・ナタリーの招待状でもって、関係者を一堂に集めた最終盤はさすがに盛り上がりますが。
生前に被害者と関係があった3名の容疑者の存在感がいまいち薄いのが残念なところですが、デッドラインものの定型にヒネリを加えた真相はまずまずと言えるのでは。

No.2121 7点 帝都探偵 謎解け乙女- 伽古屋圭市 2014/07/30 23:07
”シャロック・ホウムス”に憧れ、名探偵になることを宣言した女学生の令嬢と、彼女の願いを叶えるべくワトソン役を務めるお抱え俥夫の「俺」が、大正時代の帝都・東京市を舞台に5つの事件に挑む連作ミステリ。

これはなかなかの掘り出し物の一冊。
死者からの手紙や、密室から消失した等身大の西郷隆盛像、未来から来た男、密室状況からの人間消失など、次々と舞い込む事件の謎解きも魅力的ながら、陰の名探偵「俺」の推理を、弁舌鮮やかに自分のものとして披露するツンデレお嬢様のキャラクターがたまらない。
しかも、この軽妙なストーリーが、終章近くで何度も反転する作者の仕掛けには驚かされた。たしかに、あれこれ伏線も張られている。なかにはシャーロッキアンでも気付かないようなものもありますがw
”どんでん返し”じゃなくて、これは”ちゃぶ台返し”だろ!という感想もありそうですが、個人的には大いに評価したい。

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