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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.2154 6点 俳優強盗と嘘つき娘- リチャード・スターク 2014/10/08 22:11
強盗仲間のパーカーと組んだ大仕事でドジを踏み、背中に銃弾を受けたグロフィールドは、メキシコシティのホテルで療養していた。そこへ、彼の部屋に窓から若い娘が忍び込んで来くるや、続いて拳銃を持った三人組が乗り込んできた---------。

悪党パーカー・シリーズの名脇役・アラン・グロフィールドを主役にしたスピン・オフ作品、俳優強盗シリーズの1作目。
本書は「悪党パーカー/カジノ島壊滅作戦」の後日談となっており、その「カジノ島」のラストがそのまま今作のオープニングにつながっている。といっても2つのシリーズはかなり雰囲気が異なり、陰性のパーカーによるノワールなケイパーものの犯罪小説に対して、こちらは陽性で軽妙な巻き込まれ型冒険スリラーといえるでしょう。毎回女性との絡みがあり、グロフィールドはアルセーヌ・ルパンの現代版といったところ。
今回は、南米某国の独裁者暗殺計画に巻き込まれるというプロットで、監禁からの脱出や銃撃・活劇シーンがスリリングではあるものの、テーマの割にはコンパクトにまとまりすぎているのが少々物足りない感じがする。そのスマートさがウェストレイクのスタイルでもあるのですが。

No.2153 5点 ガラスの檻- 飛鳥高 2014/10/06 22:09
独自のノウハウで成長を続ける中堅サッシ会社の専務・岩井は、大手企業との合併話を進めていたが、その独自技術の特許を持つ取締役工場長の安原を取り込むため、ヤクザ者を使ってある謀略を図る。しかしながら、その男が撲殺死体で発見され、続いて第2の殺人が------。

”産業推理”と銘打たれた長編ミステリ。
作者の飛鳥高は大手ゼネコンの技術部門に勤務する兼業作家だったので、企業合併を背景にした重役や下請会社社長、組合幹部などの動向描写は堂に入っており、これまでの作品と比べて筆の運びも滑らかな印象を受けた。
ただ、謎解きミステリとしてみると特に取り上げるほどのトリックが施されておらず、確執というか人間関係の絡みのみで処理されているだけなのが辛いところ。いちおうフーダニットの興味は終盤まで持たせているものの、社会派風の動機を含めて真相は平凡なものと言わざるを得ません。

No.2152 6点 罪なき者を捜せ- ロイ・ヴィカーズ 2014/10/04 23:29
”迷宮課”の捜査員が登場しないノン・シリーズの5編が収められた中短編集。倒叙形式となっているものは1編だけですが、事件関係者の心理状況を細心かつ重厚に描く作風は”迷宮課”シリーズとあまり変わらない。フーダニットにしろ倒叙型であっても、いずれも犯人のささいな失策や偶然の手掛かりで決着するところも”迷宮課”と共通している。

冒頭の「二重像」は、EQMM短編コンテストの第一席入選作品。ヴィカーズの代表作のひとつで、クイーン編のアンソロジー「黄金の13/現代編」にも収録されている。いわゆる”ダブル”ネタということで、この数年前に出版されたヘレン・マクロイ某作を連想させるものの、ネタの使い方はある意味真逆になっている。予想できる真相ながら緊張感を最後まで途切れさせないところはさすが。
表題作の中編「罪なき者を捜せ」は、容疑者三人の中から無実の一人を特定させるというユニークな設定は買うものの、ややアイデア倒れな感じを受ける。
「女神の台座」は、編中唯一の倒叙ミステリで、プロット的には男女の三角関係に起因する殺人ということで新味がないですが、人間ドラマの部分では最も印象に残った作品。やはりヴィカーズは倒叙形式があっているのかもしれない。

No.2151 4点 大癋見警部の事件簿- 深水黎一郎 2014/10/01 20:18
「エコール・ド・パリ殺人事件」以降の芸術探偵シリーズでは脇役だった大べし見警部と、捜査一課の面々を探偵役にしたバカミス連作短編集。

ドーヴァー警部を思わせるやる気のない大べし見警部と、部下の刑事たちとのドタバタが楽しいが、ミステリ的には使われているトリックやアイデアがくだらなさすぎる。普通のミステリでは使えないネタを、この際だから投下しておこう、という感じかな。まあこの短編集は、気軽に読めばいいのかもしれませんが。
ノックスの十戒、密室、叙述トリック、ダイイング・メッセージ、レッドヘリング、後期クイーン問題、見立て殺人など、本格ミステリのガシェットやお約束をネタにしているところは「名探偵の掟」を連想させますが、東野作品と違って、作者の本格ミステリへの想いやメッセージのようなものはあまり覗えない。ひたすらハチャメチャに徹しているけれども、ユーモア・センスも「言霊たちの夜」の作者とは思えない低調ぶりでした。
ただ、「ちなみに瞬一郎本人は、このシリーズへの登場を頑なに拒んでいる.....」という一文は笑えた。

No.2150 6点 アリントン邸の怪事件- マイケル・イネス 2014/09/29 23:31
警視総監の職を退き、田舎で暮らすアプルビイは、ご近所の元科学者・アリントンの邸の夕食に招かれた。その深夜、由緒ある屋敷や城跡を夜間照明で飾る電気仕掛けの余興に立ち会ったとき、管制室の片隅に変死体を見つける-------。

物語の比較的早い段階で死体の発見があるものの、その感電死が事故か事件かが判然としないまま展開します。アプルビイと妻ジュディスの諧謔精神がにじみ出たユーモラスなやり取りが救いですが、アリントン・パークと呼ばれる敷地を舞台に、教区牧師をはじめとする村人が集う慈善目的の催しの場面描写が長く続くのが冗長と感じるかもしれません。それは第2の死体が見つかっても同様です。しかし、そういったモヤモヤ感は終章近くで一掃されます。
この仕掛けは確かにすごいです。nukkamさんが書かれているように正に”チェスタトン的”で、個人的には「知恵」のアレと「不信」のアレの合わせ技という感じを受けました。トリックの実現可能性についてもチェスタトン的ではありますがw
コンパクトな分量でプロットも比較的すっきりしているので、本書はイネスの文学趣味や薀蓄が苦手な人でも手を出しやすいんじゃないかな。

No.2149 5点 侵入者 自称小説家- 折原一 2014/09/28 11:29
プロ作家になれない”自称小説家”の塚田は、ひょんなことから近所の柿谷家で起きた一家4人殺害事件の真相究明を遺族から依頼される。やがて、以前にルポを書いた板橋区の資産家殺害事件と奇妙な共通点があることに気付き、あるアイデアを実行することに-------。

三面記事の事件を元ネタにした「〇〇者」シリーズの最新作。今回は世田谷一家殺害事件をヒントにしている。
自称小説家の塚田視点の語りを中心に、過去の板橋区資産家夫婦殺人事件のノンフィクションのパート、今回の事件を小説化したパートなど、例によって多重構造のプロットが使用されていますが、全体の3分の2を占める第1部は、同じ情報の繰り返しが目立ち冗長に感じた。もう少しスピーディな展開が可能だったのではと思う。
”遺族をキャストにした再現劇”の第2部も、現実と劇の脚本の内容が交互に描写される構成になっていますが、それが意図したサスペンスを醸成しているかは微妙です。作者の手筋を知っていると、この真相ではそれほどサプライズを感じないのでは。

No.2148 6点 湖畔の殺人- フランセス&リチャード・ロックリッジ 2014/09/24 22:11
ウェイガンド警部は、旧知のノース夫妻に招かれ、ニューヨーク郊外にある湖畔の保養地に休暇を過ごしにやってきた。ところが、何組かの滞在者を交えた夜のパーティが終わったあと、湖畔の茂みの中に若い女性の殺害死体を発見する。さらに翌朝には、べつの女性が黒焦げの焼死体で見つかり--------。

作者のロックリッジ夫妻をモデルにしたともいわれる素人探偵コンビ、ノース夫妻シリーズの第2長編。
ノース夫妻は、元々はコメディ・タッチのホームドラマの主人公として創造された経歴(?)なので、もっと軽妙なユーモア・ミステリかと思っていましたが、意外や意外、二人の女性の連続殺人を扱った本格的なフーダニット・ミステリでした。終章近くには”読者への挑戦”じみた作者のコメントまで出てきます。また、ウェイガンド警部がニューヨークに帰り、動機を持つ滞在者たちの裏付け捜査をする中盤以降の展開は警察小説としての味わいもあり、終盤のカーチェイスによる盛り上げ方も上手く(50年以上前の出版で訳文が古いのが難点ながら)、まずまずの出来で楽しめました。
なお、のちに別シリーズの主人公となる州警察のヘイムリッチ警部(本書中の表記は「ハイムリッヒ警部」)も登場しますが、終盤は目立たない存在になっています。また、ノース夫妻もほとんど探偵活動をしておらず、本書の主役はウェイガンド警部ですね。

No.2147 5点 どこの家にも怖いものはいる- 三津田信三 2014/09/22 21:42
ホラーミステリ作家の「僕」三津田は、某出版社の若い編集者・三間坂と知り合う。以前から三津田の小説のファンだったという三間坂と仕事を離れて会ううちに、ある怪異譚が綴られた2冊のテキストを提供され、それらに共通点があることに気付く-------。

初期の”作家三部作”と同じように作家・三津田信三を主人公としたホラーミステリですが、三津田が直接怪異現象に巻き込まれるといった内容ではなく、日記や手記、私家本などの形式で語られる5つの怪異譚を繫ぐ謎を解明する構成となっていて、テイストは「のぞきめ」の系統に近い。
一種のミッシングリンクものと言えなくもありませんが(繋がりにちょっとした意外性があるものの)、さほどその謎解きに力点が置かれているわけではないのが少々物足りないです。
怪異譚も第三者の体験話という構成なので、初期作品のような恐怖の臨場感はさほど味わえませんでした。

No.2146 6点 クライム・クラブへようこそ- 事典・ガイド 2014/09/20 11:54
映画、ジャズ、海外ミステリなど、粋で多彩な趣味を持ち、”歩くサブカルチャー”と称された植草甚一氏の評論・エッセイをまとめた「植草甚一スクラップブック」の18巻目。

植草氏は、江戸川乱歩の肝いりでスタートした早川ポケミス”世界ミステリシリーズ”の最初期の作品選定に関わり、早川の編集と喧嘩別れするや、今度は東京創元社で創元推理文庫発刊の礎となった「世界推理小説全集(全80巻)」の監修を担当している。いわば、現在の2大翻訳ミステリ出版社である早川と創元の黎明期の影の功労者といっても過言ではないでしょう。
本書は、その後’50年代末に監修した東京創元社の二つの叢書「現代推理小説全集(全15巻)」と「クライム・クラブ(全29巻)」の全作品に付された自らの解説をそのまま収録したものです。
「クライム・クラブ」などの、”幻のミステリー叢書”については、雑誌「ミステリーズ!」に連載の評論家・川出正樹氏の「ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション」でも全作品取り上げられ、作品紹介・解題も今ではそちらのほうが詳細で正確ですが、植草氏の功績はやはり作品選定の斬新さ、先取性にあります。
これまでの名探偵が登場するトリック重視の型にはまったミステリではなく、斬新で変化球型のプロットを用いた新人作家や、日本では無名の作家の旬な作品を多く入れた点は評価すべきでしょう。
両叢書の収録作では、「二人の妻を持つ男」「藁(わら)の女」「殺人交叉点」など、文庫化されて評価が定まった名作がある一方で、埋もれてしまって簡単に読めなくなった作品も多い。個人的には「飛ばなかった男」「殺人の朝」「消えた犠牲」「名探偵ナポレオン」などは復刊・文庫化してもらいたいものです。

No.2145 5点 運河の追跡- アンドリュウ・ガーヴ 2014/09/18 21:47
美人モデルで一歳の娘の母親でもあるクレアは、冷酷で傲慢な性格の夫アーノルドを愛せなくなり、ある事件を契機に離婚を決意する。しかし、アーノルドは同意せず、娘を拉致し何処かに隔離してしまう。クレアは仕事仲間のカメラマン・キャメロンと共に捜索の旅に出るが-------。

デビュー作の「ヒルダよ眠れ」以降、出す作品が次々と邦訳され60~70年代に日本でも人気作家だったガーヴの、最盛期に書かれた中で唯一未訳だった作品。
単行本で200ページあまりのコンパクトな作品ですが、前半は巻き込まれ型サスペンス、後半が冒険スリラーとなっていて、本書もガーヴの典型的なプロットになっています。
ただ、構成として敵役が早々に逮捕されてしまったのはどうだったか。そのため、ミッドランド(英国中部地域)の運河を舞台にした男女2人の捜索行という後半部が(土地勘がないこともあり)読んでいて意外と単調に感じました。娘の所在を絞り込むヒントとなる手紙の文面にある趣向を施していたり、ラストの活劇などはガーヴらしいのですが。

No.2144 5点 御子柴くんの甘味と捜査- 若竹七海 2014/09/16 17:25
短編集「プレゼント」でシリーズ探偵の葉村晶と共演した小林警部補の部下、御子柴刑事を主人公とする連作短編集。
あとがきによると、編集部から彼を20年ぶりに再登場させる原稿依頼があったとき、作者は「小林警部補? 誰それ」状態だったらしいので、読者が憶えているわけがありませんw

長野県警から警視庁に出向し、捜査共助課で長野と東京が絡んだ事件の調整役を務める御子柴刑事が、甘党の捜査一課主任からちょっかいを掛けられながら、5つの事件に関わるといった構成になっています。
スイーツとミステリの組み合わせは、またか!の感があり、「哀愁のくるみ餅事件」「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」など各話タイトルも、某小市民シリーズを連想してしまいますが、コージー風のキャラクターのわりに、警察が扱うだけに事件はわりと殺伐としています。謎解きの妙味よりも捜査小説としての展開の面白さを狙った連作ミステリでした。

No.2143 7点 逃げる幻- ヘレン・マクロイ 2014/09/14 21:40
米海軍情報局のダンバー大尉は、スコットランドのハイランド地方に向かう軍用機内で、偶然乗り合わせた当地の伯爵からある相談を受ける。それは、伯爵の領地内に住むストックトン家の息子ジョニーの不可解な行動に関するもので--------。

開けた荒野の真ん中から突如少年が消えるという”人間消失”の謎や、後半には”密室殺人”も起こりますが、2つの不可能状況の真相は大したことはなく、作者もそのハウダニットに重点を置いてはいません。少年が家出を繰り返す”ホワイ”が終始”謎の中核”となっており、それが、精神科医でもある「私」ダンバー大尉の本来の目的とどう関係するのかが本書の読みどころでしょう。読後にふり返ってみると、伏線が結構あからさまなのでかえって驚きましたw
シリーズ前作「小鬼の市」の冒険スリラー風とはガラッと雰囲気が変わって、荒涼としたハイランド地方が舞台のためか、今作はゴシック・サスペンスの趣がありますが、その一方で、戦争の影(ヨーロッパ戦線の終結直後です)が重要なファクターである点や、ベイジル・ウィリング博士の登場の仕方とタイミングなど、2作は対になっている感じもします。姉妹編というほど明確ではないので、「小鬼の市」の従妹編といったところでしょうか。

No.2142 6点 黒龍荘の惨劇- 岡田秀文 2014/09/11 21:50
地方官吏の杉山は、十年前に共に書生として伊藤博文邸に住み込み某事件に関わった月輪龍太郎に再会する。月輪は探偵業を始めており、現在は山縣有朋公の影の側近といわれた漆原の邸・通称”黒龍荘”で発生した殺人事件に関わっていた--------。

明治時代を背景にした本格ミステリ、「伊藤博文邸の怪事件」に続くシリーズの第2弾。
わらべ唄に見立てた連続殺人、しかも畳掛けるように首なし死体が次々現れるという、王道というか、ベタ過ぎる館ミステリの様相で複数の殺人事件が展開される。
終盤は、まるで「そして誰もいなくなった」状態で、残りページが少なくなって、いったいどうやって収拾を図るのだろうと思っていたら、なんとも悪魔的な構図の反転が待っていました。
前作と比べると歴史ミステリの要素が減退しており、梶龍雄や三津田信三の先行作とのアイデアの類似性も気になるものの、本格編としての仕掛けの強烈さでは本作の方が一枚上かもしれない。

No.2141 6点 火の鈴- 小林久三 2014/09/09 21:21
初期の傑作短編集。昭和50年から51年にかけて雑誌『野生時代』に発表された割と長めの短編が4作品収録されている。

表題作の「火の鈴」は、映画製作会社の若手助監督である「私」が、ある”幻の脚本家”を追い求めるうちに二十数年前に故郷・古河で起きた殺人事件の真相に行きつく話。田舎の映画館の知られざる慣例をアリバイトリックに利用するという点が元映画人の作者らしい。斜陽化した映画界の暗いトーンで作品全体が覆われた文芸的にも秀でた作品。
「火の壁」も映画界が舞台で、犯人のある偽装工作が映画製作の小道具を利用しているところは「火の鈴」と共通している。
「火の穽」は、ポオの「黒猫」を思わせる心理サスペンスですが、真相が予想できる点で編中ではイマイチの出来か。
「火の坂道」は、高台の家から毎朝乳母車を曳いて坂道をおりる若い母親の話。アリバイ工作というか犯行手段の異様さで非常に印象に残る傑作。真相が主人公の過去に跳ね返ってくるところも巧い。
本来の想いが叶わず屈折した心情を抱えた男性主人公という設定が多いのは、なんとなく森村誠一の初期作品を想起させるところがありました。

No.2140 5点 松谷警部と三鷹の石- 平石貴樹 2014/09/07 18:05
三鷹と八王子で発見された男女の変死体は、当初は無理心中とみられたが、事件の背後関係を調べていくうちに、4年前に河口湖で起きた元カーリング選手の殺害事件との関連が浮かびあがる-------。

”マッタリ警部”こと警視庁の松谷警部と、明晰な推理力をもつ女性巡査・白石のコンビによるシリーズの第2弾。今回の素材となるスポーツ競技はカーリングで、タイトルの”石”はカーリングのストーンのこと。
前作同様に、多くの事件関係者への聞き込み捜査を中心とした動機探し&アリバイ確認という地味な展開で終始していて、テイストはほとんど昭和の本格ミステリですw  終章で明らかになる犯人像はなかなか印象的なのですが、作者のウリである犯人特定のロジックという点では今回はイマイチな出来かなと思いました。
カーリング用語と事件の構図をダブルミーニングにした英語版タイトル”Double Takeout”は洒落ていますし、「だれポオ」の更科ニッキの近況が語られる幕間があったりで、往年のファンに対するサービスは怠りがないのですが。

No.2139 6点 散歩する霊柩車(光文社文庫版)- 樹下太郎 2014/09/05 21:36
初期短編集。作者がサラリーマン小説に軸足を移す以前の、昭和30年代に発表されたミステリ作品が8編収録されている。

個人的ベストは(世評的にも同じだと思うが)表題作の「散歩する霊柩車」。
妻の遺体を乗せた霊柩車で不倫相手の三人の男のもとに次々と回っていく男の話で、トリッキイな仕掛けとオチの切れ味が抜群にいい。伏線も過不足なく、編中で唯一現在でも評価できる作品だと思う。
「夜空に船が浮かぶとき」は、冒頭の謎が魅力的ですが、ミッシングリンクものとしては真相が常識的で尻すぼみの感がある。
ともに”悪女もの”のサスペンス「ねじれた吸殻」「悪魔の掌の上で」も出来自体は悪くはないけれど、いまいち突き抜けたものがない印象を受けた。あとの後半収録作は、いずれも若い男女が主人公格で、漂うロマンチシズムがウールリッチを思わせるところがあるが、ミステリ(クライム小説)としては平凡な内容だった。
あと付け加えると、この作者はタイトルの付け方がうまい。上記以外でも「泪ぐむ埴輪」「雪空に花火を」など、読者を引きつける魅力的なタイトルだと思う。

No.2138 6点 さよなら神様- 麻耶雄嵩 2014/09/03 20:51
久遠小学校5年生の”俺”桑町が、身辺で起きた殺人事件の犯人を全知全能の”神様”こと同級生の鈴木太郎に尋ねると、”神様”は一言だけ宣う、「犯人は〇〇だよ」--------。

ジュヴナイル小説なのにそのブラック過ぎる結末で話題になった「神様ゲーム」に続くシリーズ第2弾で、今回は連作短編集。
最終話を除いて、各話とも冒頭で神様によって犯人の名前がいきなり開陳される構成になっているため、フーダニットの興趣を排した、ホワイダニット(動機の謎)やハウダニット(アリバイ崩し)を主軸にした内容となっている。
正直なとこと前半の3編は、麻耶作品としては驚くような出来ではなく凡庸かなと思いますが、第4話「バレンタイン昔語り」でギアチェンジ、仕掛けが炸裂する。アレ系の騙りは「またか」と思いますが、それとは別に構成自体をミスリードに使った騙しの手際のほうは見事です。
全知全能の神様の存在を前提にした企みによる最終話までの流れ、ヒネクレた収束の仕方はいかにも麻耶作品らしいです。

No.2137 6点 闇の夢殿殺人事件- 風見潤 2014/09/02 17:55
奈良の学会に出席していた天文考古学が専門の大学講師・神堂は、指導教官の娘でもある恋人の奈々から、失踪した友人の姉を捜してほしいと頼まれる。友人の姉は、聖徳太子の生まれ変わりを教祖とする新興宗教と関わっていた--------。

神堂賢太郎&早瀬奈々の素人探偵コンビが、写真の暗号、アリバイ工作、密室トリック、ならびに新興宗教の秘密に挑む本格編で、「殺意のわらべ唄」に続くシリーズ第2弾。
若い男女探偵による”奈良殺人案内”という趣があって、プロット的には火曜サスペンス劇場風なのですが、コンパクトな長編のなかに、多彩で細かなトリックが散りばめられているので割と楽しめました。
アリバイ・トリックが綱渡り的など、いろいろ小さな難点がありますが、法隆寺の夢殿を模した教団の祈祷所の密室の謎は(オリジナリティはあまりないにしても)まずまずの出来では。
(しかし、この男女探偵は、深谷忠記の黒江壮&美緒コンビと造形イメージがかなりカブってますねw)。

No.2136 5点 思考機械(未書籍化作品集)- ジャック・フットレル 2014/08/31 19:00
”思考機械”こと、ヴァン・ドゥーゼン教授ものの書籍化されていない作品を集めたもの。これまた宮澤洋司さんの「翻訳道楽」編。(おっさんさんから情報をいただいてから3年も経ってしまいましたw)

収録作は、①紐の切れ端 ②オペラ桟敷席の謎 ③オルガン弾きの謎 ④専用個室の謎 ⑤廃屋の謎 の5編で、初出は不詳ですが、おそらく新聞掲載のものと思われます。
個人的ベストは、初期の不可能トリックものをちょっと想起させる②ですが、情報の後出しが多いのが難点。(偶然にもコレはミステリマガジンの先月号にも転載されていました)。頭脳派のはずのヴァン・ドゥーゼン教授が、暗闇の地下室で冒険する⑤も異色作として捨てがたい。本来なら、こういった冒険は記者のハッチ・ハッチンソンの役回りなんですけどね。
ただ5作品いずれも枚数が少なめなので物語性が弱く、謎解きものとしても物足りないものが多かったのが残念なところです。

なお、渕上痩平氏のブログ「古典海外ミステリ探訪記」にも数か月前に、思考機械ものの初訳作品が3編訳載されておりました。「隅の老人」の完全版も出たことですし、次は「思考機械」の全作品邦訳版を期待したいものです。

No.2135 3点 波上館の犯罪- 倉阪鬼一郎 2014/08/30 18:33
とある半島の近海に浮かぶ小島に建つ白亜の洋館。波に浮かんでいるように見える”波上館”で、館主の芸術家が謎の窒息死を迎えた後、残された家族・使用人がドミノ倒しのように殺されていく--------。

”わたしは犯人、探偵、被害者、記述者、そして波------” といったような、謎めいたフレーズが冒頭に置かれたゴシック小説風の作品。
毎年恒例のバカミス・シリーズの一冊、かと思って読んでいたらテイストがちょっと違う。
あとがきによると”交響曲シリーズ”とあるが、そんなシリーズは聞いたことがない、だまされた気分だw それでも、泡坂妻夫の「しあわせの書」にインスパイアされたような例のお遊びは入っていますが......(だから今回は一段組なのか)。
物語の中味のほうは、率直にいって「つまらない」のひとことです。倉阪さん病んでないですか?と、ちょっと心配になる。

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