皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.2106 | 5点 | パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から- 似鳥鶏 | 2014/06/22 12:51 |
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俺が経営する喫茶店”プリエール”のパティシエとして働く弟の智のもとに、県警本部は秘書室の直ちゃんを送り込み難事件の相談を持ち掛ける。弟の智は鋭敏な推理力をもつ元県警のエリート警部で------。
4つの中編からなる連作本格ミステリ集。 タイトルからは東川篤哉風の軽妙な内容をイメージさせ、また似鳥氏だからそういった作風のモノを期待していましたが、最終話などは意外とヘビィな真相になっていました。 シリーズの設定自体は新味を覚えず、やや食傷気味なのですが、トリック面ではなかなか面白かった。各話ともアリバイ偽装がメインとなっていて、トリックは既存作品のヴァリエーションでありながらも作者の工夫が感じられます。なかでは第3話「星空と死者と桃のタルト」が個人的ベスト。 |
No.2105 | 5点 | 亡命者- ロバート・L・フィッシュ | 2014/06/18 21:17 |
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戦時中ナチス収容所で残虐のかぎりをつくしたエリック・レスラー大佐は、亡命先のブラジルでナチス復建を目指す組織の首謀者となっていた。一方、ハンス・ブッシュと名乗る米国の老人が、ある計画を持って組織に接触を図ろうとするのだが-------。
「シュロック・ホームズ」や殺人同盟シリーズなどのパロディ&ユーモア・ミステリの名手、フィッシュがMWA新人賞を受賞したデビュー長編。ですが、本書は復讐をテーマにしたシリアスな謀略スリラーになっていて、一般に知られている作者の軽妙な作風からは想像できないテイストに驚きました。 リオ・デ・ジャネイロ郊外の観光地である巨大キリスト像で有名なコルドバードの丘や、パン・デ・アスカール山のロープウェイなど、舞台背景の描写は緻密で興味深いものの、物語の展開が散漫であまりサスペンスを感じさせないのが残念。 ブラジルとナチス復興計画といえば、ヒトラーのクローンというトンデモ・ネタを扱ったアイラ・レヴィンの某作を思い浮かべますが、それと比べると話の展開がジミすぎる。シリーズ主人公であるはずのダ・シルヴァ警部の役割も中途半端なものになっている。 |
No.2104 | 5点 | 愛してるっていわせたい アイドルは名探偵3- 井上ほのか | 2014/06/14 13:40 |
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美少女アイドル女優の真名子と恋人の克樹は、日舞の演技指導で知り合った名門宗家のお嬢様から、彼女の許婚者が変死した一年前の事件の真相究明を依頼される。その事件は、次の家元に内定した許婚者が披露パーティの席上で不可能状況のなか毒殺されたというもので-------。
「アイドルは名探偵」シリーズの第3弾。ラブコメと本格謎解きミステリーを組み合わせた、ジュニア向け講談社X文庫の人気シリーズの一冊(らしい)。 カード・マジックの演技者が観客に思い通りのカードを引かせるテクニックにも似て、ある感情を有する被害者の心理を利用した毒殺トリックがよくできている。ただ、謎解きミステリとしては、ほぼこのネタ一本勝負なので物足りなさがあります。 ラブコメ部分では、煮え切らない克樹に「愛してる」と言わせるために、最後に真名子の採った策略が笑わせる。こちらのハウダニットは少々邪道ではありますが。 |
No.2103 | 6点 | アシモフのミステリ世界- アイザック・アシモフ | 2014/06/11 21:47 |
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地球外環境学者アース博士が宇宙空間で起きた難事件を自室を一歩も出ず解決する連作ミステリ4編ほか、SFミステリを中心に13編収録された作品集。
ウェンデル・アース博士シリーズは、安楽椅子探偵もののSFミステリという構成がユニーク。ただ、博士は最後の解決シーンのみに登場するだけなので、やや存在感が薄く人物の魅力が十分に発揮できていないきらいがある。当シリーズのなかでは、アンソロジーにも採られている倒叙モノ「歌う鐘」がよく出来ていて、宇宙時代ならではの手掛かりが印象的です。 そのほか、作者十代のデビュー短編「真空漂流」と20年後に書いたその続編の「記念日」、SF要素がないが犯人特定の詰め手が”黒後家蜘蛛の会”の某作を思い起こさせる「その名はバイルシュタイン」などが面白い。 ちょっと気になったのは、地球外惑星の特殊環境による生活習慣によって犯人が失策を犯すというような、謎解きの詰め筋が同じパターンのものが目立つところです。 |
No.2102 | 6点 | ミステリマガジン700 国内編- アンソロジー(国内編集者) | 2014/06/08 21:31 |
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早川書房「ミステリマガジン」創刊700号記念の文庫アンソロジー、国内編。
翻訳ミステリ専門だったEQMMに最初に載った国内ミステリ・結城昌治の「寒中水泳」から、最近一部で話題の近未来警察小説、月村了衛「機龍警察・輪廻」まで、(田村隆一の”ミステリー詩”を含めて)20編収録されている。半数の10作品が個人短編集や他のアンソロジーで既読だったのは残念ですが、ほとんど内容を忘れていたので今回再読しました。 「寒中水泳」は第1回EQMM短編コンテストの入選作で結城昌治のデヴュー作。ユーモアは控えめで割と正統なフーダニットなのが意外だが、乾いたシニカルな文体は後の作品と変わらない。 EQMMの初代編集長でもあった都筑道夫の「温泉宿」は、ややインパクトに欠ける怪談話。同じホラーであれば三津田信三の「怪奇写真作家」のほうが完成度が高い。 鮎川哲也「クイーンの色紙」は、推理作家・鮎川哲也が関わったF・ダネイのサイン色紙消失事件を、三番館のバーテンが謎解くという読者サービス溢れる作品で、ある自虐ネタが伏線になっているところが可笑しい。同じく消失トリックを扱った若竹七海「船上にて」もラストにニヤリとさせてくれる趣向が楽しい。 初読の米澤穂信「川越にやってください」は、枚数制限の関係もあってか、やっつけ仕事ぽい内容で残念でした。 そのほか、皆川博子と日影丈吉の幻想小説、原りょうの私立探偵・沢崎シリーズ短編第1作、小泉喜美子「暗いクラブで逢おう」、田中小実昌「幻の女」、片岡義男「ドノヴァン、早く帰ってきて」などの普通小説に近いものなど、ジャンルの多彩さはいかにもミスマガ的でしたが、本音のところは、日下三蔵氏の編集なら、もっと思いっきりマニアックな作品選定でもよかったのではと思う。 |
No.2101 | 7点 | ミステリマガジン700 海外編- アンソロジー(国内編集者) | 2014/06/04 21:34 |
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早川書房の「ミステリマガジン」創刊700号記念アンソロジー。前身の日本版「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン(EQMM)」時代から通算して60年近く翻訳ミステリを訳載してきた中から、杉江松恋氏が選定した海外編の本書は、フレドリック・ブラウン、パトリシア・ハイスミス、クリスチアナ・ブランド、ボアロ&ナルスジャック、エドワード・ホック、ルース・レンデル、ピーター・ラヴゼイなど、ビックネームが揃う豪華なラインナップになっている。しかも16編全てが”本邦初書籍化作品”というのがポイント高し。
収録作をジャンル毎に見ると、〈心理サスペンス〉ではハイスミス「憎悪の殺人」とレンデル「子守り」が本書の双璧だろう。ジョイス・キャロル・オーツ「フルーツセラー」の何とも言えない後味の悪さも特筆に値する。 〈歴史ミステリ〉では、『名探偵群像』に未収録のシオドア・マシスン「名探偵ガリレオ」が読めたのが個人的に一番うれしい。落下実験中にピサの斜塔で起きた密室殺人という設定が魅力的です。 タイタニック号と”思考機械”のジャック・フットレルが登場するラヴゼイ「十号船室の問題」はやや期待外れか。 〈本格〉では、レオポルド警部もののホック「二十五年目のクラス会」と、ダルジール&パスコーが登場するレジナルド・ヒル「犬のゲーム」は、ともにお馴染みのシリーズ・キャラクターのプライベートな捜査と推理が楽しめる。 〈クライム・奇妙な味〉タイプでは、ロバート・アーサーの「マニング氏の金のなる木」がO・ヘンリーを思わせる好編。このようなタイプの作品を書いていたとは思わなかった。 ボア&ナル「すばらしき誘拐」とブランド「拝啓、編集長様」は、ともに皮肉の効いたブラックなオチが印象に残る作品。 その他、シャーロット・アームストロング、ジャック・フィニイ、ジェラルド・カーシュなど、ひとつひとつ取り上げたらキリがない、翻訳短編好きには堪らない良質のアンソロジーでした。 |
No.2100 | 5点 | 白馬岳の失踪- 長井彬 | 2014/06/01 21:32 |
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山岳ミステリばかりを6編収録した短編集。「北アルプス殺人組曲」などの作者の長編の山岳ミステリは、謎解きモノとして面白かった覚えがあるのですが、短編だとトリックや物語の底が見えやすくなってしまい、イマイチな出来のものが多かった。
表題作の「白馬岳の失踪」と「遠見二人山行」は、新聞社の編集委員・曽我を探偵役とした謎解きモノ。前者は凡作だが、「遠見二人山行」は、構成上の仕掛けと人物トリックが効果的な(編中で唯一の)秀作。小道具である山岳日記の使い方も巧い。 「悪女の谷」は、森村誠一の「密閉山脈」のトリックを小粒にしたようなアリバイ工作だが、真相はミエミエなのが痛い。 残りの作品は、山岳の情景描写は秀でているものの、偶発的な遭難事故を装った殺人という同趣向の話がつづき、謎解きの趣向が弱いものばかりなのが残念でした。 |
No.2099 | 5点 | 黒い霊気- ジョン・スラデック | 2014/05/29 18:23 |
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英国にやってきたサッカレイ・フィンは、降霊会で評判になっている心霊論者の集まり〈霊気マンダラ協会〉に興味を抱き入会するが、そこで、超常現象のような不可思議な殺人事件に立て続けに遭遇することに-------。
素人探偵サッカレイ・フィン長編での初登場作品。 エジプトの護符の呪いや降霊現象などのオカルト的な道具立てがありますが、名探偵フィンの能天気で夢想家のような言動が軽妙で、怪奇的な雰囲気はありません。 いくつかの不可思議現象が提示されるなかで、やはりスラデックといえばトイレ密室でしょうw ただ、「見えないグリーン」のトイレ密室では、たけし軍団の罰ゲームを思わせるバカ・トリック(=ほめ言葉)がユニークでしたが、本書のトイレからの人間消失の真相はかなりの肩透かし。もう一つの空中浮揚の仕掛けも何となく想像ができるもので、2作目の「見えないグリーン」と比べるとトリック面での出来は落ちると言わざるを得ませんね。 唯一面白かったのは、切り裂きジャックの意外極まる正体をフィンがホームズとなって解き明かす夢想シーンですが、これは本筋の物語と全く関係ないエピソードでした。 |
No.2098 | 6点 | 長い長い眠り- 結城昌治 | 2014/05/26 23:04 |
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明治神宮外苑近くの林の中で発見された中年男の死体は、ズボンを脱がされ、つけ髭などで変装していた。四谷署の捜査でようやく身元が判明するも、被害者の周りには怪しい容疑者が何人もいて-------。
ひげの郷原部長刑事シリーズの2作目。 多数の容疑者たちの怪しげな行動に翻弄される郷原部長、その容疑者の中のひとりが最後に意外な役割をするという基本的なプロットは前作とよく似ている。 時代背景や出てくる小道具などは時代を感じさせるものの、書かれた時代の割にはスタイリッシュで軽妙な語りは古びていない。正面切ったユーモアやギャグではなく、真面目な顔をして冗談を言うような仄かな可笑しみが本シリーズの特徴といえるだろう。 トリックは大したことがないのに、犯人の工作に第三者による予想外の行為や勘違いが介入して謎が複雑になるといった構成や、郷原部長の立ち位置などはむしろ先駆的な感じを受ける。 |
No.2097 | 6点 | ボックス21- アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム | 2014/05/24 22:43 |
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ストックホルム市のアパートで、鞭打たれ意識を失った若い娼婦が発見され病院に搬送される。だが、病院で目覚めた女は、医師ら5人を人質にプラスチック爆弾を抱え地下の遺体安置所に立てこもる。女の要求は、グレーンス警部の旧友であるベングト刑事を呼び出すことだった--------。
犯罪ジャーナリストと元服役囚という異色コンビ作家による北欧警察小説、エーヴェルト・グレーンス警部シリーズの2作目。 スウェーデン社会が抱える病理を毎回素材にしていて、今作はリトアニア少女の人身売買と強制売春を扱っています。ただ、昨年話題になった第5作「三秒間の死角」では、人物造形の魅力とハラハラドキドキのエンタテイメント要素が融合していたのに対して、本書は前者に重点が置かれ、事件のサスペンス性に乏しい感じを受けた。 上記あらすじの事件は物語の中盤で表向き終結しており、グレーンス警部のある不審な行為に対する部下スヴェン刑事の追及と懊悩など、深みのある人物造形は十分に読み応えはあるのですが、ミステリとしてはやや物足りない。(オビの”衝撃の結末”は煽り過ぎで、たいていの読者は予想がつくと思う) |
No.2096 | 4点 | 夢魔殺人事件- 島田一男 | 2014/05/21 23:09 |
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昭和20年代の作品を中心にしたノン・シリーズの短編集。
巻末の初出誌一覧を見ると、「宝石」誌を除いて、あまり聞いたこともない掲載雑誌ばかりなので、たぶんに落穂拾い的な作品集かなと思いましたが、実際読んでみるとその通りでしたw 表題作の「夢魔殺人事件」は、天体観測のため伊豆沖の孤島に赴いた科学者が、毎夜見る不思議な夢の内容を東京の妻に伝える手紙文で構成されている。設定は面白いが、それがオチに充分活かされていない感じがする。 唯一の昭和30年代の作品「作並」が編中の個人的ベスト。鄙びた温泉宿を舞台に、盲目の女按摩師の執念が凄まじい。 そのほか、幻想的で奇妙な味タイプの「妖かしの川」と「朧夜の幻想」も印象に残った作品ですが、総体的に、男女関係絡みの割とありがちなクライム・ストーリーが多かったのが残念でした。 |
No.2095 | 6点 | リッジウェイ家の女- リチャード・ニーリィ | 2014/05/20 00:00 |
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裕福な未亡人ダリアンは、画廊で彼女の絵を見て声をかけてきた退役軍人のクリスと再婚し新しい生活を始める。そこに疎遠になっていた一人娘ジェニファーが恋人を伴い帰ってきた。ところが、ダリアンの資産運用を巡ってある人物の正体に疑惑が生じ、男女4人の同居生活に暗い影が------。
ロス・マクドナルドの名作を思わせるタイトルですが、本書の原題は”The Ridgway Women"で「女」は複数形です。 裕福な未亡人ながら前夫の死に関わる暗い過去を持つダリアンと、その事件が原因で彼女と疎遠になっていた一人娘ジェニファーの、ふたりの女性の視点を章ごとに変えて物語が展開します。ただしロス・マク風の”家庭の悲劇”的要素は味付け程度で、(ネタバレになるので詳しく書けませんが)メインのテーマ(ネタ)は全く別モノです。 「騙りの魔術師」らしくラスト近くで二度にわたり構図のひっくり返しを演出しているのですが、結局のところ、着地点は序盤の段階で何となく想像していたものでした。まあ、サプライズではあるのですが.....。 過激な異常心理モノではないので、ニーリイが苦手な人でも取っつきやすい反面、ファンは物足りないかもしれません。 |
No.2094 | 4点 | 女はベッドで推理する- 梶龍雄 | 2014/05/19 00:00 |
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浮気妻探偵エリ子と独身警部補・黒沢の不倫コンビによる連作ミステリ第1弾。安楽椅子探偵とは別の意味合いのベッド・ディテクティブ・ミステリですw
ノベルズ版200ページ余りに9編も収録されており、各話が短くあっという間に読み終わってしまう。謎解きの伏線ともなっていないお色気・濡れ場シーンも漏れなく入れてきているので、ミステリの解決部分が非常にあっけなく感じる。 使われているトリックも初期作品の使い回しのようなものが散見されるし、2作目の「浮気妻は名探偵」のほうが、もう少しミステリ部分に歯ごたえがあったような気がする。 そういったなかでは、裸の女性が走っていたという児童の目撃証言から真相を導き出す「女とパンティ」がまずまずの出来かな。 |
No.2093 | 5点 | 狂った殺人- フィリップ・マクドナルド | 2014/05/18 00:00 |
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英国の新興田園都市で、”ブッチャー”と名乗る切り裂き魔による連続殺人が起き、地元警察や新聞社に犯行声明の手紙が届く。ロンドン警視庁のパイク警視は、地元警察と共に捜査にあたるも、さらに第3、第4の犠牲者が------。
ゲスリン大佐はケガの療養中のため、パイク警視が主役の探偵役を務める、いわばシリーズのスピン・オフ的な作品。 本書の犯人は殺人鬼を装っているのではなく、タイトル通りの狂人であることを読者はあらかじめ知らされているので、ミッシングリンクなどのミステリ趣向はない。本格ミステリとはいえず、純然たるサイコ・スリラーで、かつ捜査小説の側面も強い。 警察をあざ笑う犯行予告状や、パイク警視に対する地元警察の敵愾心・不信感が相まって終盤までは緊迫感はありますが、最後に”意外な犯人”を特定したプロセスが曖昧なのでラストがすっきりしない。 本格黄金時代真っ只中の30年代初めに、このような都市型スリラーを書いた先駆性は評価できるものの、ディクスン・カーが10傑に入れるほどの出来とは思えなかった。 |
No.2092 | 5点 | ル・ジタン- 斎藤純 | 2014/05/16 20:47 |
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日本推理作家協会賞(短編賞)受賞の表題作を含む5編からなる短編集。
音楽を基本的モチーフにして、バイク、ギター、テニス、絵画などの作者の趣味的な小道具を物語に取り入れたものが多いが、ミステリ的には薄味で、なかには普通小説的な作品もありました。 表題作「ル・ジタン」は、CDジャケットの撮影のためパリを訪れた主人公のカメラマンと女性歌手が、盲目のジプシーが持つギターに絡むトラブルに巻き込まれる話。音楽カフェ「ル・ジタン」を中心にしたパリの雰囲気や起伏に富むプロットが読ませる。ハードボイルド風の語りが、ラストの余韻をより引き立てていると感じた。 ただ、他の作品にそれほど印象に残るものが見当たらなかったのが残念。強いて挙げれば準ベストは、ナチス隠匿絵画を巡る謀略サスペンスの「赤いユトリロ」かな。 何年か前に「銀輪の覇者」という冒険小説が”このミス”にもランクインしていたと思うが、このところ作者の名前を見かけない。どうしているのだろうか? |
No.2091 | 4点 | 終わりのない事件- L・A・G・ストロング | 2014/05/14 21:15 |
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ロンドン警視庁の主任警部エリス・マッケイは、デヴォン州の小村に、ある目的をもってやってきた。地元警察の旧知の警部から情報を得て、村に住む特定の3人の人物に注目し、彼らを訪ねることにしたが-------。
どうも雲をつかむような話で、本筋の事件はいったい何なのか判らないまま物語が展開する。 悪徳出版社の代表者を巡る疑惑、続発する女性の失踪、身元不明の水死体の発見など、色々と捜査対象が出現するのだが、エリス警部の訪問目的が中盤まで読者に明かされないため、モヤモヤ感が募るばかりで、いっこうに面白くならない。 有名作曲家でもあるエリス警部が、教会主催のコンサートの手助けをするサイド・ストーリーの場面では本を投げ出したくなった。 エリスと地元警察の面々とのやり取りなど、キャラクター的には悪くないのだけど、謎解きミステリとしてはかなり不満の残る作品。ジャンルとしては、本格というより警察小説+明るめのスリラーという感じで、マイケル・ギルバードの作風に近い印象を受けた。 |
No.2090 | 6点 | テンペスタ 天然がぶり寄り娘と正義の七日間- 深水黎一郎 | 2014/05/11 23:00 |
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東京で美術の非常勤講師をつとめる賢一は、田舎に住む弟夫婦から一人娘ミドリを一週間預かってほしいと頼まれる。しぶしぶ引き受けた賢一だったが、ミドリは天衣無縫の”嵐を呼ぶ美少女”で-------。
作者のこだわりである言語と芸術(本書は美術)の小ネタを入れながら、東京見物などのふたりの共同生活を通して、終盤までは、独身の30代男が生意気で毒舌全開の正義感の強い小学生に振り回される話で終始する。 物語の背景には連続児童誘拐事件というものもあるが大したことなく、ミステリの要素はほとんどないと言っていいだろう。 かといって「言霊たちの夜」のような爆笑狙いのユーモアに徹した小説とも言えず、正直なところ途中で飽きて少々ダレてしまった。が、最後の急展開からの流れで物語の様相が一気に変わり、結末はベタではあるものの、序盤の展開からは予想できない感動を得られた。 ルネサンス期ヴェネチアの絵画「テンペスタ」に対するミドリの解釈などは暗示的なものを感じる。 |
No.2089 | 6点 | 罪深き村の犯罪- ロジェ・ラブリュス | 2014/05/09 18:25 |
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ここ数十年、犯罪とは縁がなかった平和な村で、突如として村の有力者が絞殺死体で発見される。マルセイユで事件の新聞記事を読んだ保険調査員の「私」は、その生まれ故郷である閉鎖的な小村に帰り、フレシュ警視の捜査に協力するが-------。
”探偵の帰郷”もののヴィレッジ・ミステリ。 主人公ロジェの里帰りを待っていたのは、さらに日曜日ごとに発生する連続殺人。農場経営者に対する労働争議や、狩猟協会のいざこざ、男好きのする女性を巡る愛憎関係など、動機を持つ容疑者にはことかかないが決め手に欠ける状況の中、最後に明らかになる犯人像にはちょっと驚かされる。犯人の行動原理が特殊で意外性がある。 しかも読み返してみると、本筋と関係なさそうなところに堂々と手掛かりが提示されているのでヤラレタ感が強い。 フランス・ミステリといえば、登場人物の心情をねちっこく繊細に描写するイメージがあるが、本書に登場する村人たちは個性的に描きながらも、過度に濃くないので、フランスものが苦手な人も抵抗なく読める謎解きミステリになっていると思う。 ただ、主人公の”青春の終わり”を告げるエピローグが、それほど胸に迫ってくる書き方ではなかったのが、やや残念に思った。 |
No.2088 | 5点 | 風ヶ丘五十円玉祭りの謎- 青崎有吾 | 2014/05/06 14:57 |
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風ヶ丘高校の校舎内に住み着くオタク高校生探偵・裏染天馬が”日常の謎”に挑む連作短編集。
殺人事件を扱った既刊の長編のようなクイーン流のスキのないロジックを展開して謎解くという趣向は弱い。全体的に論理が雑で恣意的なものが目立つし、犯人がなぜそのような持って回った行為をしたのか納得がいかないものも多かった。 レギュラーとその周辺人物のやり取りは学園もののラブコメを思わせるところもあって、シリーズのファンが気軽に読んで楽しめればいいのではという感じを受けました。 収録作のなかでは、お祭りの屋台の釣り銭が全て50円玉という謎を扱った表題作と、裏染の妹と仙堂刑事の娘の中学生コンビによる番外編「その花瓶にご注意を」がまずまずかなと思う。 次の長編「図書館の殺人」に期待しよう。 |
No.2087 | 7点 | ハローサマー、グッドバイ- マイクル・コーニイ | 2014/05/05 00:00 |
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政府高官の息子”ぼく”ことドローヴは、夏休暇を過ごすため両親と共に港町パラークシを訪れ、運命の少女・ブラウンアイズと念願の再会をはたす。戦争の影が町を覆う中で、青春を謳歌し愛を深め合うが、ある機密計画が二人を分かつことに-------。
”本書は恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、もっとほかの多くのもの”という作者による”前書き”にある通り、色々な要素がはいった物語となっている(もちろんミステリ要素も)。地球以外の惑星を舞台にしているが、作中の異星人は人間と変わることなく、中盤過ぎまでは(多少の異世界要素はあるものの)、少年少女たちのリリカルな恋愛&青春冒険小説として普通に展開される。 ところが、終盤に入って物語の裏の様相が明らかにされるや、一気に壮大なSF展開に変転する。伏線らしき暗示が多数あるので、ある程度予想はつくが、それでもドローヴとブラウンアイズをはじめ住民たちが受ける運命は衝撃的であった。 そして、「SF史上有数の大どんでん返し」と言われる噂のラスト。一読して意味が読み取れなかったのだけど、なんと第1章の〇〇のエピソードがここで.....という見事な仕掛けに感服です。 |